農中総研 調査と情報
2011.7 (第25号)
農漁業者の経営再建を可能とする金融支援策を 鈴木利徳 2
● 農林水産業 ●
中国の畜産業の動向と飼料需要の見通し 清水徹朗 4
認定農業者の動向と課題 藤野信之 6
東日本大震災による水利施設の被害状況と課題 小針美和 8 宮城県の「水産業復興特区」構想に思う 出村雅晴 10
● 農漁協・森組 ●
水産物の地域ブランド化と地域団体商標 鴻巣 正 12
● 経済・金融 ●
東日本大震災と日本経済 南 武志 14
本質的な解決には遠い欧州財政問題
―債務返済能力を棚上げにしたギリシャ追加支援―
山口勝義 16
東北地方太平洋沖地震を経験して
農林中央金庫 仙台支店長 竹田正雄 18
当社の定期刊行物に掲載された論文を紹介するコーナー 20
都市農業の役割 農夫 井上秀一 22
ISSN 1882-2460
本誌において個人名による掲載文のうち意見にわたる部分は,筆者の個人見解である。
■ あぜみち ■
■ レポート ■
■ 視 点 ■
■ 寄 稿 ■
■ 最近の調査研究から ■
産関係は総額2,153億円の予算を獲得し、不十 分ながらも漁業再建に向けて再スタートをき るために必要な資金を確保することができた。
金融面では、①「漁業関係資金無利子化事 業」 (融資枠380億円) :漁業近代化資金・日本 政策金融公庫資金の貸付金利を実質無利子化 するもの、②「漁業者等緊急保証対策事業」 (保 証枠630億円) :漁船建造資金や漁協の復旧資 金等について、無担保・無保証人融資を推進 するための保証を支援するもの、③その他に も保証保険機関の代位弁済経費の助成、④漁 協が経営再建のために借り入れる資金を実質 無利子化する助成などが盛り込まれている。
農業においても多岐にわたる事業が認めら れたが、農業経営復旧等のための金融支援と しては、①「農業経営復旧対策利子助成金等 交付事業」 (融資枠400億円) :被災農家が借り 入れる日本政策金融公庫等の災害復旧関係資 金を一定期間 (最長18年間) 実質無利子化する もの、②「農業経営復旧対策特別保証事業」
(7億円) :被災農業者の借入について農業信 用基金協会が実質無担保・無保証人での債務 保証ができるよう、(独)農林漁業信用基金の 保証割合を引き上げるための交付金、および 農業近代化資金等の保証料負担を軽減できる ようにするための交付金、③「被害農家営農 資金利子補給等補助金」 (4億円) :被災農業 者が必要とする運転資金 (天災融資資金) を実 質無利子化するものなどが措置された。
このような予算措置によって、農漁業者へ の金融支援として、償還期限の延長、据置期 間の延長、無利子、無担保、無保証人などの
1はじめに
東日本大震災以後、被災地の復旧・復興に 向けた必死の取組みが各方面でなされている が、ここでは農漁業者の経営再建に向けて金 融面でどのような対策・対応がとられている か、その現状と課題を整理してみたい。
2
実施されている金融支援策
(1) 被災農漁業者の既往借入金の負担軽減と つなぎ資金対応
まず、震災後いち早く金融庁は金融機関に 対し、預金通帳や印鑑を紛失した場合であっ ても、預金者本人であることを確認して払戻 しに応じること、被災者の借入金の返済猶予 等やつなぎ資金等の借入申込みについてでき る限り対応することなどの要請を行った。
このような情勢のなかで4月12日に農林中 央金庫は「東日本大震災にかかるJAバンクと JFマリンバンクの利子補給等の実施につい て」をプレスリリースし、被災農漁業者の既 往借入金の期限延長とともに、緊急つなぎ資 金の金利負担を軽減 (無利子化) する旨公表し た。4月28日には「復興支援プログラムの創 設について」をプレスリリースし、生産者・
生産者団体への低利融資 (4年程度、融資枠 1兆円) を行うこと等を公表した。
(2) 農漁業者の経営再開への金融支援
―第一次補正予算―
5月2日には第一次補正予算が成立し、農 林水産業の復旧に向けて当面必要とされるで あろう資金面の手当てがなされた。とくに、水
常務取締役 鈴木利徳
農漁業者の経営再建を可能とする金融支援策を
も機械・施設・漁船も失った状況のなかで借 金だけが残った。農漁業経営を再開するため には資金が必要だが、新しく借り入れするだ けの経営余力がないといういわゆる二重債務 問題である。第二に、被災後数か月を経過し 少しずつ生活の自立度合いを高めていかなけ ればならないなかで、生活資金の確保が課題 となっている。仮に、経営再開に着手したと しても収入を得るまでには施設園芸であれば 半年以上、養殖漁業であれば1〜3年という 長い期間を要し、その間の生活費を工面しな くてはならない。第三に、仮設住宅から出る ことになる数年後には、住宅資金等も手当て しなくてはならない。
被災者はこのような二重債務問題、生活資 金の確保、住宅資金の手当てといういわば三 重苦ともいえる資金面での課題に直面してい る。
4
おわりに
第一次補正予算で相応の金融支援策を確保 できたとはいえ、未曾有の大震災で被災した 農漁業者が経営を再建していくためにはまだ まだ不十分である。三重苦ともいえるこの資 金問題を克服するために、我々は金融機関が かかえる被災見合いの債権を買い取る再生フ ァンドの活用、既往債務の超長期負債整理資 金への借り換え、法人組織に対しては出資に よる支援スキームの検討などさらなる思いき った対策に知恵をしぼり、第二次補正予算等 に反映していくことが求められている。被災 者がマイナスからの出発ではなく、せめてゼ ロからの出発ができる金融支援策が渇望され ている。
(すずき としのり)
メニューがある程度そろったことは評価でき よう。
3
農漁業者が直面する課題
(1) 被災地の農漁業者の実状
では、被災地の農漁業者の実状はどうかと いうと、厳しい現実が浮き彫りとなる。現地 調査での見聞や新聞情報からいくつかの事例 を見てみよう。
岩手県陸前高田市では、5年前に父親から ワカメとカキの養殖業を受け継ぎ、将来は地 域の漁業者のリーダー的な存在になると期待 されていた一人の漁業者 (52歳) が廃業を決意 し、建設会社に職を求めた。昨年2月のチリ 大地震による津波で壊れた養殖施設を250万 円を借り入れて修復した矢先に、今回の震災 に襲われた。養殖を再開するには少なくとも 500万円ほど必要だが、再開しても来年のワカ メの収穫まで収入を得る見通しが立たない。
家族4人の日々の生活を支えるためには養殖 を廃業し、新しい職を求めざるを得なかった という。
宮城県石巻市で最も若い酪農家 (42歳) は震 災で87頭いた搾乳牛の半分以上を失い、畜舎 新設のために借りていたローンが5,000万円超 ほど残ったという。また、気仙沼市で施設イ チゴに取り組んでいた若い農業者 (27歳) は、
昨年3月に建てたハウスが破壊され、残ったの はハウス建設などにかかった2,000万円の借金 であるという。この若い2人の農業者は旧債 務を抱えながらも再起する手立てを模索して いるという。
(2) 三重苦ともいえる資金面の課題
東日本大震災で被災した農漁業者の多くは
共通した課題に直面している。第一に、住宅
それぞれ10.1%、21.0%増加し、家禽肉の消費 量は農村部4.2kg、都市部10.5kgで、10年間で 1.7倍、2.1倍に増加している。
また、卵の1人当たり消費量 (09年20.3kg) は 10年 間 で19.8 % 増 加 し、 牛 乳 の 消 費 量 (09年 29.9kg) は10年間で4.2倍になっている。中国の 人口はこの10年間で7.1%増加しているため、
畜産物需要量全体の増加率はさらに大きい。
3
成長する中国の畜産業
こうした畜産物需要の増加に対応して、中 国の畜産業も大きく成長している。09年にお ける中国の肉類生産量は7,650万トン (日本の23 倍) であり、10年前 (99年) に比べて28.6%増加 した。生産量のうち豚肉が最大で64%を占め ており、家禽肉は21%で、牛肉は8%のみであ るが、増加率は家禽肉が最大であり、家禽肉 の生産量は10年間で42.4%増加した。
また、卵の生産量は2,741万トン (日本の11 倍) で10年間で28.4%増加し、牛乳の生産量は 3,735万トン (日本の5倍) で10年間で4.6倍にな っている (第1図) 。
なお、豚肉の生産地域は、四川省が最大 (474 万トン) で9.7%を占め、湖南省、河南省、山東 省の上位4省で32.7%を占めている。また、
家禽肉は山東省が最大 (229万トン) で14.4%を 占め、広東省、江蘇省、広西省の上位4省で 38.9%を占めている。牛乳は、内蒙古が25.7%、
黒龍江省が15.0%を占めている。
4
小さい畜産物貿易の割合
中国の畜産業は主に国内向け販売を目的と しており、輸出量は少なく、畜産物輸入量の
1注目される中国のトウモロコシ輸入
国際穀物価格が再び上昇している。2008年 にトウモロコシ価格が1ブッシェル7.5ドル
(シカゴ相場) まで高騰して大きな問題になっ たが、リーマンショック以降下落に転じ、09 年9月には3.0ドルまで低下した。しかし、そ の後再び上昇し、今年 (11年) 6月には一時7.9 ドルの値をつけた。
こうしたなかで関心が高まっているのが、
13億6千万人の人口を有し世界最大の穀物消 費国である中国の動向である。中国は2000年 頃より大豆の輸入量を急増させており、09年 の大豆輸入量は4,255万トンとなり、中国の大 豆輸入量は世界の大豆貿易量の5割を占める に至っている。中国国内でも大豆を1,498万ト ン生産しているが、中国の大豆自給率は26%
に低下している。
しかし、中国は穀物 (米、小麦、トウモロコ シ) については、一部、輸出や輸入を行ってい るものの、これまで基本的には国内自給を維 持してきた。その中国が、昨年 (10年) 、トウ モロコシを157万トン輸入した。輸入量が需要 量全体に占める割合はまだ1%程度にすぎな いが、中国がトウモロコシを100万トン以上輸 入したのは15年ぶりのことであり、今後、中 国がトウモロコシの輸入量をさらに増大させ るのではないかと注目されている。
2
増大する畜産物消費量
中国では、経済成長に伴う所得上昇によっ て畜産物消費量が増加している。中国の肉類 消費量 (09年、1人当たり、家禽肉を除く) は農 村 部15.3kg、 都 市 部24.2kgで あ り、10年 間 で
基礎研究部 副部長 清水徹朗
中国の畜産業の動向と飼料需要の見通し
飼料需要が増大しており、飼料用として最も 多く使用されるトウモロコシの生産量 (09年 16,397万トン) は、10年間で28.0%増加した。ま た、中国が大量に輸入している大豆は主に油 脂用であるが、搾油したあとの大豆かすは畜 産の飼料として利用している。また、中国は 乾燥キャッサバを主にタイから飼料用に輸入 しており (07年467万トン、08年200万トン) 、米 国からのD DGSの輸入量も急増している。
(注)中国には農家による零細な畜産経営も多く あるが、大規模な畜産経営が徐々に増加しつ つあり (養豚では大規模経営の生産割合が4割を 占める) 、この傾向はさらに進む見込みであ る。日本の畜産において60年代以降起きたこ とが、現在中国で起きているといえよう。小 規模な畜産農家は自家飼料を使うことが多い が、大規模畜産では配合飼料 (購入飼料) に依 存する割合が高く、大規模畜産の拡大や家禽 生産の増大に伴って配合飼料需要が急増して おり、一部の配合飼料原料では輸入量が増え ている。
ただし、トウモロコシについては、09年ま では東北地方 (黒龍江省、吉林省) や河南省など の国内産を100%使用しており輸入はほとんど なかったが、昨年 (10年) は100万トンを超える 輸入に至った。中国では、トウモロコシは、
飼料向けが62%、工業原料向け (でんぷん、ア ルコール用) が26%であり、工業原料向け需要 も増大しているため、今後、中国のトウモロ コシ輸入量はさらに増加するとの見方が強ま っている。その一方で、大量輸入に至った大 豆の「反省」もあるため、中国がトウモロコ シの大量輸入に至ることはないであろうとの 見解もあり、中国のトウモロコシ輸入を巡る 今後の動向が注目される。
(しみず てつろう)
割合も小さい。
豚肉についてみると、輸入量は53万トン、
輸出量は18万トン (09年) であり、近年輸入量 が増加しつつあるとはいえ、輸入量は生産量 の1%程度である。家禽肉については、輸入 量97万トン、輸出量30万トンで、中国は日本 に鶏肉加工品を14万トン輸出しているものの、
中国全体では輸出量より輸入量のほうが多い。
また、牛肉は19万トン輸入している。このよ うに、中国は肉類の純輸入国であるが、輸入 量が供給量全体に占める割合は小さい。
牛 乳・ 乳 製 品 の 輸 入 量 は312万 ト ン (08年、
生乳換算) で、輸入量は急増しているが (10年間 で3.4倍) 、輸入量は生産量の8.4%である。
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飼料需要の動向と今後の見通し
中国では、畜産業が大きく成長するなかで
(注) D D G S(D i s t i l l e r ' s D r i e d G r a i n s w i t h Solubles)とは、トウモロコシ等の穀物からアル コールを生成した後に残る蒸留粕であり、たんぱ く質や脂肪などが豊富なため配合飼料の原料とし て使用される。米国ではバイオエタノール生産の 拡大でDDGSが大量に生成されている。
8,000
6,000
4,000
2,000
0
(万トン)
第1図
中国の畜産物生産量
96年 99 02 05 08
資料 「中国農業発展報告」
その他 牛肉
牛乳 家禽肉
豚肉 卵
調整の堅持は引き続き必須の条件であろう。
2
認定農業者の認定動向
(1) 経営体数との対比
日本全体の認定農業者数は24.9万で、うち 法人が1.4万を占める (10年3月末、農林水産省) 。
農業経営体全体に対する認定農業者の割合 を全国農業地域別に見てみると、北海道では 70.5%とその大宗が認定農業者であるのに対 し都府県では13.1%にとどまり、都府県にお いては「担い手」の多くが集落営農によって 占められていることを示している (都府県の集 落営農参加農家数割合は32.6%) 。
地域別に認定農業者の割合をみると、東海
(9.9%) 、近畿 (7.2%) 、中国 (5.6%) で10%を切 っているのが特徴的である。集落営農参加農 家数割合は、それぞれ32.6%、46.6%、32.8%
となっている。
また、経営耕地2ha以上の農業経営体数に 対する認定農業者の比率をみると、北海道で は83.3%、都府県でも73.5%と似た数値となっ ている。しかしながら、地域別には東北 (51.4
%) 、北陸 (53.7%) と米の主産地で低い。これ は、稲作における生産構造の特徴 (産出額に占 める主業農家割合が低い) のなかで、東北では 販売農家1戸当たりの経営耕地面積が2.01ha と広いこと、北陸では集落営農の発展も反映 しているものと考えられる。
(2) 営農類型別の動向
認定農業者の営農類型別の特徴を全国・地 域内の構成比でみると、単一経営
(注2)が46.7%と 最も多く (そのなかでは花き・園芸が22.3%と最
1はじめに
認定農業者制度は、1993年に制定された農 業経営基盤強化促進法 (以下「経基法」) により、
旧農用地利用増進法における農業規模拡大計 画の認定制度を拡充して登場した。具体的に は、農業者が作成する農業経営にかかる規模 拡大、生産方式・経営管理の合理化等の農業 経営を改善するための計画 (農業経営改善計画)
を、市町村の基本構想に照らして市町村が認 定する制度として創設された。市町村の基本 構想 (10年計画) は、都道府県ごとの基本方針
(10年計画) のもとに策定される。
認定農業者制度は、農林水産省が、92年の いわゆる「新政策」 (新しい食料・農業・農村 政策の方向) において、他産業並みの年間労働 時間と生涯所得を実現する「効率的かつ安定 的な経営体」が生産の大宗を担うような農業 構造の確立を農業政策の目標として提示する なかで生まれた。
認定農業者には、スーパーL資金等の低利 融資制度、農地流動化対策
(注1)、担い手を支援す るための基盤整備事業等の各種施策の対象と なるなどのメリットがある。
これに対し、11年3月には、民主党政府の 行政刷新会議による「規制仕分け」において、
認定農業者制度が取り上げられ、「より意欲の ある農家にとって有益な制度となるよう見直 しを行う」と判定された。
この背景には、現在の認定農業者制度が実 質的に生産調整参加を条件としていることに 不都合を感じる向きが存在するものとも考え られる。しかし、10年産米価格の大幅下落に みられるように米価は低下傾向にあり、生産
主席研究員 藤野信之
認定農業者の動向と課題
それと正反対なのが畜産・酪農であり、年 齢が低くなるほど構成割合が高くなり、高齢 化率も稲作の3分の1程度にとどまっている
(第1表) 。
準単一複合経営においても、稲作を主体と した経営が多いことから、稲作単一と同様に、
年齢が高くなるほど割合が高くなり、高年齢 化も進んでいる。
認定農業者の年齢構成を地域別に見てみる と、もっとも高齢化の進んでいるのは北陸で、
高齢化率も18.9%と高い。反対に、49歳以下 の構成比 (35.9%) が高いのは北海道で、高齢化 率も10.5%にとどまっている。
認定農業者の年齢構成の過去10年間の時系 列変化をみると、49歳以下の構成比が60%程 度から30%程度へと半減する一方、60歳以上 の構成比が10%程度から30%程度へと3倍増 し、高齢化率も13.3%に達している。
3
今後の課題と展望
認定農業者制度は、発足以来20年近くを経 て、年齢構成が日本農業全体の趨勢と同様に、
高齢化しつつある。今後、集落営農との棲分 けも進めながら、新規参入支援制度や経営継 承制度の充実等によって的確な世代交代を図 っていく必要があろう。
(ふじの のぶゆき)
多 ) 、 次 い で 準 単 一 複 合 経 営
(注3)(38.6 %) 、 複 合 経営 (14.7%) と続く。
しかし、北海道では 複 合 経 営 (39.4 %) の 方 が多く、東北では準単 一 複 合 経 営 (49.6 %) の 方が多い。東北の準単 一 複 合 経 営 で は、「 稲 作 + 露 地 野 菜 」 (10.4
%) 、「 稲 作 + そ の 他 」
(10.3%) 、「その他」 (11.4%) が、複合経営 (16.3
%) に次いで多くなっている。一方で、北陸で は稲作単一経営が51.8%と、もともと地域に おける稲作単一経営体数割合自体が91.1%と 高いことを反映して、高い値となっている。
大都市周辺の関東 (露地野菜13.9%、施設野菜 9.5%) 、東海 (施設野菜15.4%、露地野菜8.5%) や、
中四国 (施設野菜12.6%、露地野菜4.9%) では野 菜の単一経営が多くなっている。
個別の営農類型で一番多いのは、 「稲作を主 とした準単一複合経営」であり、全国で24.5%、
次いで東北 (49.6%) 、北陸 (36.1%) と続く。
(3) 年齢構成別の動向
認定農業者の年齢構成を営農類型別に見て みると、稲作単一経営においては、年齢が高 くなるほど構成割合が高くなり、高齢化も進 んでいる。
(注1)経基法は、農地の貸借において「利用権設定」
という、農地法第3条の許可無しで、契約期間終 了時に契約が解除されるという「貸しやすい」仕 組みにより農地の流動化を促進した役割でも評価 されよう。
(注2「単一経営」とは、農産物販売金額) 1位の販売 金額が総販売金額の80%以上を占める経営。
(注3)「準単一複合経営」とは、農産物販売金額1位 の販売金額が、総販売金額の60〜80%を占める経 営。
準単一複合経営 複合経営
合 計 小 計 稲作 花き・園芸 畜産・酪農 その他
第1表 年齢別・営農類型別の認定農業者割合(2009年)
年 齢 29歳以下
5.4 29.3 13.7 6.1 54.6 33.6 11.8 100.0
6.2 28.9 9.8 6.1 50.9 34.0 15.0 100.0
7.6 24.7 8.7 6.0 47.0 37.4 15.6 100.0
9.7 22.1 7.9 5.7 45.4 39.5 15.0 100.0
12.0 21.0 6.0 4.7 43.7 42.1 14.2 100.0
13.9 20.2 4.6 4.5 43.2 43.1 13.7 100.0
9.9 22.8 7.5 5.5 45.7 39.5 14.8 100.0 30〜39 40〜49 50〜59 60〜64 65歳以上 計 営農類型
(単位 %)
単一経営
資料 農林水産省「農業経営改善計画の営農類型別認定状況(2009.3末現在)」
(注) 法人、共同申請を除く。
津波による農地の流失や冠水によるものとみ られる。
次に、農業用施設等をみると、最も被害額 が大きいのは福島県の1,203億円で、同県の農 地被害額を上回っている。同県では、沿岸部 のみでなく、中通り地方を中心に、内陸部で も強い揺れによる土砂崩れ、農業用ダムの決 壊、用排水施設の損壊が発生したためとみら れる。ついで被害が大きいのは宮城県の1,079 億円で、特に沿岸部の排水機場が壊滅的な被 害を受けた。また、茨城県や千葉県、栃木県 では、かつて湖沼だった土地や埋立地に敷設 された施設やパイプラインが液状化現象によ って破損したケースが多かった。
この被害額には、国の災害復旧事業で補助 対象とならない農地・農業施設40万円未満、
農業集落排水施設200万円未満の微細な被害 については集計されていない。また、長野県・
新潟県のように、東日 本大震災の翌日に起き た長野県北部地震でよ り大きな農業関連被害 が生じた県もある。
さらに、農地や水利 施設については実際の 農作業を通じて排水機 能等の被害が明らかに なることを考えると、
それらを含めれば農業 被害の実態はより大き
1はじめに
東日本大震災は、水田農業の基盤である農 地や水利施設にも大きな被害をもたらした。
本稿では、主に水利施設に着目し、現時点で 判明している被害状況や今後の課題について 整理してみたい。
2
農林水産省が公表している被害状況 農林水産省が公表している「農地・農業用 施設等の被害状況」によると、5月17日現在 の被害額は7,137億円となっている。内訳をみ ると、農地の被害が3,957億円、農業用施設等 が2,804億円、農村生活関連施設 (主に集落排水 施設) が376億円となっている (第1表) 。県別 にみると、農地の被害が最も大きいのは宮城 県で、2,748億円と全国の7割を占める。つい で福島県の935億円、岩手県の218億円となっ ており、農地の被害の多くは沿岸部における
主事研究員 小針美和
東日本大震災による水利施設の被害状況と課題
全国 岩手県 宮城県 福島県 茨城県 栃木県 千葉県 長野県 新潟県
2,804 33 1,079 1,203 255 90 130 1 3
376 9 15 224 93 6 15 4 9
23,600 1,838 15,002 5,923 531 - 227 - -
20,151 1,172 12,685 5,588 525 - 105 - -
2.6 1.2 11.0 4.0 0.3 - 0.2 - - 3,957
218 2,748 935 40 6 7 0.3 1 7,137
261 3,842 2,363 388 102 152 5 13
第1表 東日本大震災による農地・農業用施設等の被害状況 (2011年5月17日現在)
うち農地 農業用 施設
農村生活 関連施設
うち田
津波被災 面積割合
資料 農林水産省HPから筆者作成
(注) 被害額が5億円以上の県。
津波で流 失・冠 水 した農 地
面積 農地・農業
用 施 設 等 の被害額
(単位 億円,ha,%)
課題となろう。
4
おわりに
東北の被災地も本格的な梅雨のシーズンに 突入しており、夏には台風の襲来も危惧され る。用排水施設が機能していない地域では、
応急ポンプによる措置等を行ってはいるもの の、その能力にも限界があり、ひとたび大雨 が降るとため池や用排水路が氾濫する危険性 をはらんでいる。また、老朽化した施設では、
震災によって耐震強度が弱まっている可能性 もある。
平成23年度第一次補正予算では、これらの 水利施設の修復に必要な費用への助成も措置 されている。しかし、一部には、貯水池や農 業用ダムの損壊箇所の修復が完了しておら ず、住民からの不安の声が高まっている地域 もみられる。農業用水の水利施設は、単にコ メを作るための用水を供給するのみでなく、
同時に周辺地域における治水機能を果たして いることも多い。台風や長雨による二次災害 の発生を防止するためにも、危険箇所への速 やかな手当がのぞまれる。
(こばり みわ)
いことも想定される。
3
一部の施設損壊が流域の水田に与える影響 とくに用排水施設は水系全体としてつなが っているため、一部の施設損壊の影響が広範 囲に及ぶケースもあることに留意する必要が ある。
例えば、仙台平野の沿岸部では、排水機場 の損壊や用水路へのがれきの堆積によって、
農業用水のみならず生活用水等も含めて排水 がままならない状況にある。そのため、上流 の水田では、農地そのものは被害を受けてお らず水稲の作付けも可能な状態にあるものの、
下流に水稲生産に必要な用水を排出すると下 流で氾濫する可能性があるため、約660haの 水田で作付けを自粛せざるをえない状況とな っている。また、福島県中通り地方の矢吹原 土地改良区管内では、管内の受益水田に用水 を供給する上流の幹線用水路が損壊したた め、受益水田のほとんどすべてにあたる約 3,000haの水田で水稲作付けができない状況と なっている。
今回の震災で、農地が浸水により被害を受 けた場合には、農家支援として、がれき撤去 な ど の 作 業 に 当 た っ た 生 産 者 に10a当 た り 35,000円の支援金が支給される。しかし、上 記のように作付けを自粛した農家は対象外と なるなど、用水を手当てできないために作付 けできない農家に対する国としての補償スキ ームがないという問題がある。そのため、地 域では、地力増進作物等の作付けへの助成単 価の上乗せや、とも補償の活用等、独自の支 援策を検討しているが、今後、こうした災害 時においての制度的な対応を検討することも
地下用水路の損壊による被害(福島県矢吹町)
2
「水産業復興特区」の意味するもの 定置漁業は、まさに地先の漁業資源を漁獲 するものであり、地元漁業者優先という原則 の変更はとうてい受け入れられるものではな い。区画漁業権についても、地元漁業者等現 行漁業法が適格性を認める者の優先順位を変 更する理由はなく、いずれの場合も免許申請 がなかった場合に一般企業の参入を認めるか どうかの問題ではなかろうか。
今回の特区問題は「特定
4 4区画漁業権」を対 象としたものといえよう。しかし、現行漁業 法のもとでも、当該免許を受けた漁協の組合 員となって承諾を得、漁場行使料を負担する ことによって、一般企業が養殖漁業を営むこ とができる。とすれば、「水産業復興特区」の
1「水産業復興特区」の内容
「水産業復興特区」構想の端緒は、宮城県知 事による政府復興構想会議 (2011.5.10) での提 案である。提案書では、「養殖業等の沿岸漁業 への民間による参入や資本の導入などが促進 されるよう、水産業復興特区を創設する」と し、具体的な内容として、①区画漁業権の免 許の適格性 (漁業法第14条) 、②区画漁業権の 免許の優先順位 (同17条) 、③定置漁業権の免 許の優先順位 (同16条) のほか、各種土地利用 規制などを列挙した。
しかし、漁業者を対象とした県の説明会の 模様を報道する新聞記事を読む限り、こうし た内容が正確に伝わっていない。「県側は、地 元漁業者が参加していない企業には漁業権を 付与しないとした」、「地元の漁業者が議決権 の過半数を占める漁業会社▽地元の漁業者7 人以上が参加する漁業会社−−なども第1位 とする」、「漁業法によって漁協が第1位とな っている」といった報道
(注1)から類推すると、「構 想」案が対象とする漁業権は「特定
4 4区画漁業 権」であると思われ、また参入を認めようと している民間企業は、もともと漁業法が後順 位で認めている「適格性を有する者」としか 読み取れないからである。
漁協が優先順位を有する漁業権は共同漁業 権、定置漁業権、特定
4 4区画漁業権であり、区 画漁業権に関する免許の優先順位は、漁業者 または漁業従事者が第1順位である (第1表) 。 また、「区画漁業権の免許の適格性」の見直し は、地域漁業者とは無関係の企業の参入を認 めることになりかねない。こうした点につい て、十分な説明がなされているのかどうか、
懸念されるところである。
専任研究員 出村雅晴
宮城県の「水産業復興特区」構想に思う
定置漁業権
第1表 漁業権の種類と内容
免許の 優先順位
(第1順位)
説明(対象漁業種類など)
大型定置網、北海道のサケ定置漁 漁協等 業など
特定区画
漁業権 漁協等
(区画漁業権のうち特定のもの)
ひび建養殖業、藻類養殖業、真珠 養殖業を除く垂下式養殖業、小割 り式養殖業、地まき式貝類養殖業 区画漁業権
第1種
漁業者また は漁業従事 者 カキ、ノリ、真珠養殖、小割り 式魚類養殖など
共同漁業権 第1種
適格性が認 められるの は漁協等の み
アワビ、アサリなどの採貝、コ ンブやワカメなどの採藻漁業 第2種 小型定置網や固定式の刺し
網などによる漁業
第3種 地びき網、無動力船による 船びき網漁業など
第4種 三重県等の寄魚漁業などの 特殊な漁業
第5種 河川・湖沼等の内水面や封 鎖性海面における漁業 第2種 網仕切り式魚類養殖、築提
式クルマエビ養殖など 第3種 地まき式貝類養殖など
資料 筆者作成
も、これでは特区をめぐってギクシャクした 信頼関係を再構築するどころの話ではないだ ろう。
3
今後の注目点
宮城県がまとめた「震災復興計画」の原案 では、「水産業復興特区」の創設は「検討すべ き課題」にとどめたとの報
(注3)
道もあるが、最終 的な決定は8月中に予定されている。
政府の復興構想会議は6月末までに第1次 提言をまとめるとしているが、5月29日に公 表された「論点整理」で賛否両論併記となっ た
(注4)
、この問題の帰趨が注目される。
この場合、特に議論される「水産業復興特 区」の内容に注目したい。5月31日付日本経 済新聞社説は、「現在の漁業法を見直さない限 り、漁業権の開放も幅広く民間資金を集める こともできない。特区制度としてとりあえず 開放を可能にして、そこから後は、各地域が 漁業者らと議論してどうするかを決めればい い」としている
(注5)。「とりあえず開放」し、後は
「各地域が漁業者らと議論してどうするかを決 めればいい」と言うが、これを実質的に担保 する仕組みが漁協を第1順位とする現行の漁 業法ではないのだろうか。漁業者を組合員と する漁協が、進出を希望する会社等の事業計 画等に納得できる場合には、漁場行使を認め ることで対応できる。
さらに言えば、宮城県の場合は「民間資本 を漁業に呼び込むため」を目的としているの に対し、同社説では「漁業権の開放」と「民 間資金を集めること」を特区の目的としてお り、同一視できるものではない。漁業権など への理解が不十分なのか、規制改革会議での 議論の蒸し返しなのかわからないが、後者で あれば震災復興に便乗した主張といわざるを 得ない。 (内容は11年6月20日現在)
(でむら まさはる)
意味合いは、漁協の承諾、漁場行使料の支払 いを無くすことにあるといえるのではないか。
さらに言えば、同一漁場で営まれる多くの漁 業種類間で生ずる各種問題を調整する点で漁 協の関与 (承諾) は不可欠であり、結果として 特区の目的は漁場行使料の負担問題に帰結す る。
漁場行使料は、漁業者 (漁協組合員) も負担 しており、この負担を無くすことが民間資本 参入促進にどれだけ効果があるのか疑問も残 る。仮に、この負担が民間資本参入のネック になるとしても、地域漁業の振興に寄与する ものであれば、漁場行使料負担問題について 地域の漁業者や漁協と十分話し合うことでの 解決が可能であろう。
しかるに、である。5月25日に気仙沼市で 開催した漁業者対象の説明会で、「県側は、地 元漁業者が参加していない企業には漁業権を 付与しないとしたうえで『特区を利用するの も、会社をつくるのも皆さんだ』と強調」し たが、 「構想実現に賛成する意見は出なかった」
と報道されて
(同注1)いる。そうしたなかで、同27日 の県庁で行われた衆議院震災復興特別委員会 メンバーとの意見交換会の場で知事が「漁業 参入に関心を持つ企業と協議を始めたことを 明らかにした」とされる
(注2)。いかに知事が「漁 業の主役はあくまでも地元漁業者」といって
(注1)Yahoo!ニュース毎日新聞11年5月26日配信記 事「東日本大震災:水産業復興特区、漁業権など 詳細説明 漁協は「反対」変えず/宮城」
(注2)Yahoo!ニュース毎日新聞11年5月28日配信記 事「東日本大震災:水産特区、県が企業と協議開 始 養殖など沿岸漁業で/宮城」
(注3)Yahoo!ニュース毎日新聞11年6月2日配信記 事「東日本大震災:県復興計画原案、全戸に太陽 光発電 漁港、農地を大規模化/宮城」
(注4)11年5月29日付第7回東日本大震災復興構想 会議参考資料「これまでの審議過程において出さ れた主な意見〜『復興構想7原則』と『5つの論点』」
(注5)11年5月31日付日本経済新聞社説「復興会議 は特区制度の具体策を早急に」
(2) 地域団体商標制度の創設
地域団体商標とは、「地域名」と「商品名」
から構成される商標をいう。地域ブランドを 適切に管理する観点から、05年に地域団体商 標制度が創設され、06年4月から商標登録が 開始されている。
水産物の地域団体商標は、103件 (11年2月 現在) が出願されており、全体の11%を占め る。地域別では、近畿地区が最も多く、都道 府県別では神奈川県の出願が多い。
地域団体商標の出願者は、法人格を有する 組合である。水産物の場合、漁協や漁業協同 組合連合会、水産加工業協同組合の割合が高 い。出願者別では、漁協が最も多く (50件) 、 次いで水産加工業協同組合等 (17件) である。
漁業協同組合連合会や内水面漁協による商標 出願もある (第1図) 。
1
はじめに
漁村には、地域固有の水産物や風土が育む 豊かな地域資源が存在する。こうした地域資 源から生み出される地域ブランドを活用し、
漁村の活性化につなげていくことが重要にな っている。
一方で、ブランドの普及に伴い模倣品や類 似品が流通し、苦心して築き上げてきた地域 ブランドが保護されないという状況がある。
地域ブランドを、商標法で保護するため、2005 年に地域団体商標制度が創設されている。
さらに、産地の販売力強化や六次産業化に 対応し、知的財産戦略が重要な課題となって おり、本稿では、水産業における地域団体商 標の役割について考えてみたい。
2
水産物の地域団体商標
(1) 水産物の地域ブランド化
水産物には、古くから高級魚や名産品とし て流通するものが各地に存在した。80年代ご ろから輸入水産物が急増するようになり、2000 年代に入り、地域振興策と相まって、水産物 のブランド化をはかる取組みが積極的に進め られた。
地域ブランドは、その地域に存在する自然 や歴史、食文化や観光資源などと結びついて、
地域固有の産物の柱となっている。水産物の 地域ブランド化は、漁業者や漁協、自治体、
さらに商工会や観光協会等と連携し、地域の 価値を創出する六次産業化の取組みの一つで もある。地域ブランドは、水産物のブランド 化の手段として適合性の高い方式といえる。
専任研究員 鴻巣 正
水産物の地域ブランド化と地域団体商標
第1図 地域団体商標の出願先別構成割合 (11年2月現在)
その他
漁協
漁業協同組合連合会 水産加工業協同組合等
内水面漁協・連合会
資料 特許庁「都道府県別地域団体商標出願一覧」から筆者作成
強化するため、商標タグの装着や産地証明書 を発行する取組みも始まっており、水産物の トレーサビリティーの整備など総合的な対策 が必要である。
(2) 水産業の知的財産戦略
農林水産省は、知的財産戦略を重要な施策 と位置付け、10年3月に新たな知的財産戦略 を公表した。地域団体商標は、水産業におけ る知的財産の一つを構成するものである。
漁業や養殖業、水産加工、水産物流通には、
長年培われてきた技術やノウハウの蓄積があ る。ユッケの食中毒問題を契機に、生肉の安 全性がクローズアップされたが、活魚や鮮魚 のような品質の高い水産物を、安価に供給す るフードシステムを有する国は多くない。多 くの知的財産を集約することにより、消費者 が安心できる供給が可能になる。水産業にお いても、知的財産の保護とその活用戦略につ いて足元から見直すことが不可欠である。
4
おわりに
水産物は、漁場や漁具・漁法、鮮度保持技 術、加工方法等に地域固有の特徴があり、本 来、地域性の強い産物である。地域ブランド は、その地域でしか生み出しえない価値とい える。こうしたブランドの確立や保護には、
地域に根差した協同組合の役割が大きく、地 域団体商標を有効に活用していく視点が必要 である。
水産物の地域ブランドは、漁獲から鮮度保 持、品質管理など多くの知的財産の集積の賜 物である。地域ブランドの有する知的財産を 見直し、価値を顕在化する戦略の構築が望ま れる。
(こうのす ただし)
(3) 地域団体商標登録の特徴と活用
水産物の地域団体商標では、知名度の高い 地域ブランドの登録が先行している。例え ば大間まぐろ (大間漁協) 、越前がに (福井県漁 連) 、広島かき (広島県漁連) 、関あじ・関さば
(大分県漁協) などである。
また、水産加工品では、小田原かまぼこ (小 田原蒲鉾水産加工業協同組合) 、焼津鰹節 (焼津 鰹節水産加工業協同組合) 、宇和島じゃこ天 (宇 和島蒲鉾協同組合) などが登録している。制度 の浸透はこれからで、全国的には地域ブラン ドのほんの一部が登録されたにすぎない。
地域団体商標を活用した販売戦略として は、一定範囲の周知度を得た段階で早期に商 標の権利取得ができるため、知名度向上に役 立つ。これによって地域固有の産物を生み出 す可能性が広がっている。
3
水産業の知的財産保護
(1) 地域ブランドの保護
地域ブランド化は、地域性という付加価値 を加え、国内水産物の差別化をはかる手段と して有効である。しかし、地域ブランドの普 及とともに、模倣品や類似品が多く流通する 状況が生じた。
地域ブランドの浸透に伴い、その保護は大 きな課題であった。地域団体商標登録の直接 的な効果は、商標権侵害に対する権利行使で ある。模倣品等により、商標権が侵害された 場合、侵害した商品や広告物等の廃棄、除却 請求、損害賠償の請求等を行うことができる。
地域団体商標制度により、地域ブランドを 商標面から保護する仕組みが整備され、一つ の前進となっている。しかし水産物の場合、
流通が複雑で、ブランド管理や流通管理が非
常にむずかしいという面がある。流通管理を
部品の生産本格化には多少時間がかかる見込 みであるほか、夏場の15%の節電目標設定な どが、生産活動に対してどの程度抑制的に働 くのかなどといった不透明要因も多い。
また、最近では世界経済動向に対する慎重 論も浮上している。欧米など先進国・地域で は総じて低調さが残ったままである。米国で はサブプライム問題の後遺症が住宅市場に重 く圧し掛かっており、失業率は高止まり状態 で、インフレ率も極めて低い水準にとどまっ ている。欧州についても、ドイツなどコア国 の景気は底堅いが、財政危機に直面している 周縁国は芳しくない。反面、新興国・資源国 経済は総じて堅調であるが、資源高や景気過 熱などからインフレ圧力が強まっており、金 融引締め策が断続的に打たれている。これま での累積的な引締め策の効果が浸透すれば、
景気がスローダウンするリスクもあるだろう。
しかし、世界経済見通しとしては、当面は 新興国が世界経済を牽引する、といった構図 は継続すると想定している。そのため、日本 の輸出環境は比較的良好さを保っていると考 えられることから、部品調達や電力不足など の供給制約さえ克服できれば、再び輸出が景 気押上げに貢献し始めると予想する。
次に、大震災からの復旧・復興需要につい てであるが、少なくとも公共事業や住宅再建 などについては後ズレするリスクが浮上して いる。復興に際してのグランドデザインは目 下、策定作業中であるが、それが実現に向け て動き出すには時間がかかるだろう。また、
住宅再建についても、二重ローンの問題が障 害となることが十分予想される。さらに、政
1大震災発生で国内景気は再び悪化
3月11日に起きた東日本大震災は、広範囲 にわたって甚大な被害を発生させた。大震災 発生直前までの日本経済は、欧米など海外経 済の持ち直し傾向が再び強まってきたことか ら、輸出・生産に牽引される格好で、2010年 夏から続いてきた足踏み状態からの脱却を模 索している最中であった。
しかし、大震災の発生により、東北・北関 東エリアに集積していた生産拠点の多くが被 災し、操業停止を余儀なくされた。その結果、
国内ばかりか海外の完成品メーカーでは部品 調達難に陥り、生産活動や輸出が大きく落ち 込んだ。さらに、大震災そのものの衝撃に加 え、原発事故や電力不足に伴う計画停電実施 などにより、需要水準も大きく悪化した。そ の結果、3月の主要な経済指標は軒並み大幅 悪化となったほか、1〜3月期の実質経済成 長率も前期比年率△3.5%と、2四半期連続の マイナス成長に陥った。
2
本格的な復興重要な11年度下期以降 今回の景気悪化は、サプライチェーンの大 掛かりな障害発生など供給ショックによる面 が強く、震災後も海外からの需要は比較的根 強いものの、生産・輸出ができない、もしく は大震災や原発事故によってマインドが委縮 したために起きているといえる。それゆえ、
時間経過とともに復旧が進み、生産活動が再 開され、かつ復興需要が強まっていく過程で、
引き続き海外経済も底堅く推移しているので あれば、国内景気は想定よりも早く持ち直し が進む可能性もある。とはいえ、一部の基幹
主任研究員 南 武志
東日本大震災と日本経済
きると見込んでいる。ただし、全般的に地震 前の想定に比べれば下振れたままでの推移と なるのは否めない (第1図) 。
3
復興財源を巡る議論が浮上
今回の大震災が東日本太平洋沿岸部を中心 に甚大な被害を及ぼしたこともあり、復興の ための大型補正予算案の編成に注目が集まっ ている。とはいえ、わが国の財政状況の厳し さを考慮すれば、どのように財源を調達する かは非常に悩ましい問題であろう。当座のと ころは復興債という名の国債増発で対応する しかないのが実情であろうが、有識者などか らなる政府の復興構想会議では復興債の償還 財源として時限的な増税措置、具体的には3 年間ほどの消費税率の引上げを検討している。
国民の多くが被災地の復興について協力を 惜しまない意向であることもあり、世論調査 などからは増税に対して一定の理解を示して いることが見て取れる。しかし、一般的に景 気悪化時に増税すれば、景気が一段と悪化し、
結果的に十分な税収を確保できず、財政状況 が一段と悪化するリスクもあることから、慎 重な議論が必要であろう。
(みなみ たけし)
局混迷により、大型補正予算の編成も先送り される可能性がある。被災地域の再生計画の 大枠が固まらないと、民間投資もなかなか出 にくいと思われる。
以上の点などを総合的に判断すると、11年 度の経済成長率は前年度比ゼロ%と、10年度
(同2.3%) から大きくブレーキがかかるのは必 至であろう (第1表) 。四半期別にみると、4
〜6月期まではマイナス成長が残るが、7〜
9月期からはプラスに転じ、年度下期以降は 本格的な復興需要による高めの成長が実現で
第1表 2011〜12年度 日本経済見通し
2012
(予測)
2011
(予測)
名目GDP 実質GDP 民間需要
民間最終消費支出 民間住宅
民間企業設備
民間在庫品増加(寄与度)
2010年度
(実績)
公的需要
輸出 輸入
政府最終消費支出 公的固定資本形成
国内需要寄与度 民間需要寄与度 公的需要寄与度 海外需要寄与度
GDPデフレーター(前年比)
1.7 0.6 4.7 9.2 14.4 3.0 90.1 0.10 1.58 107.5 2.2
0.5 4.8
△2.5 8.0 1.7 84.3 0.08 1.30 101.3 0.7
△0.7 5.0 9.0 15.9 3.3 85.7 0.09 1.15 84.4 国内企業物価 (前年比)
全国消費者物価 (前年比)
完全失業率
鉱工業生産 (前年比)
経常収支(季節調整値)
為替レート
無担保コールレート(O/N)
新発10年物国債利回り 通関輸入原油価格
名目GDP比率
0.4 2.3 1.9 0.8
△0.2 4.3 0.5 0.0 2.3
△10.0 17.0 11.0 1.4 1.4 0.0 0.9
△1.9
1.8 2.6 1.9 0.7 14.1 4.6 0.0 2.9
△0.5 21.4 8.1 7.1 2.1 1.4 0.7 0.4
△0.8
△1.3 0.0 0.5
△0.5 4.5
△0.2 0.3 3.3 3.0 3.9
△3.3 3.0 1.1 0.4 0.8
△0.8
△1.3
(注) 1 全国消費者物価は生鮮食品を除く総合。断り書きのない場合、
前年度比。
2 無担保コールレートは年度末の水準。
3 季節調整後の四半期統計をベースにしているため統計上の誤 差が発生する場合もある。
資料 内閣府、農林中金総合研究所
(注) 2000年連鎖価格表示。
第1図 震災後の経済見通し(実質GDPの経路)
570
560
550
540
530
2010年 2011 2012
(兆円)
1〜3月 4〜6 7〜9
10〜 12
1〜3 4〜6 7〜9 7〜9
10〜 12
1〜3 4〜6
10〜 12 震災前の見通し(3月10日時点)
震災後の見通し
(6月9日時点)
実績値
(予測)
済能力自体が危惧される段階に至っている。
そうした状況は、11年1〜2月に実施され たIMF等によるギリシャ債務の持続可能性分 析に既に現れている。そこでは、自然体の仮 定を置いたベースケースにおいてさえも、国 内総生産 (GDP) 比政府債務残高は10年の約140
%が12年に約160%に達した後、ようやく緩や かに減少に転じるという極めて厳しい状況と なっている。また、経済成長率鈍化、金利上 昇等のより厳しい前提下でのストレスケース では、それが増加し続けていく可能性が示さ れている
(注2)。
この債務残高の水準は、ユーロ圏が設定し ている60%以内という基準をはるかに超える 高い水準である。そして、上記の債務残高の 推移は、ギリシャが流動性の問題にとどまら ず、債務返済能力を喪失し国債の債務再編を 迫られる瀬戸際に立たされている事実を意味 している。
日本が連休中の5月6日、独誌シュピーゲ ルの電子版が、ギリシャがユーロ圏離脱を検 討していると報道し、市場に混乱が広がった。
同日夜に、ドイツなど主要国の財務相等がル クセンブルクで秘密の危機対策会議を持つと いうことで、その情報は一層現実感を伴って いた。
その後、ユーロ圏財務相会合のユンケル議 長は、いったんは否定していた会議実施の事 実を認めた。しかし、同時に、そこでの議論 の対象はギリシャの財政改革の進捗状況等で あり、償還期限延長等の国債の債務再編
(注1)や、
ましてユーロ圏離脱ではなかった点を強調し た。
1
焦点は流動性から債務返済能力へ
確かに、離脱がもたらす結果は、自国通貨 の暴落とそれに伴う外貨建て債務額の急膨 張、金融システムの機能停止と経済の疲弊等 であり、ギリシャ自身が本気でこれを選択す るとは考え難い。しかし一方で、同国の債務 再編については、その可能性は否定できない。
2010年5月、ギリシャの財政問題に対し、
欧州連合 (EU) および国際通貨基金 (IMF) によ る金融支援が合意された。これは、国債市場 での資金調達に支障がある同国に対する資金 繰り、つまり流動性対策としての支援であっ た。しかし、これにより時間の猶予を与えら れたにもかかわらず、その後ギリシャでは財 政改革は順調には進まず、今ではその債務返
主席研究員 山口勝義
本質的な解決には遠い欧州財政問題
─債務返済能力を棚上げにしたギリシャ追加支援─
160 140 120 100 80 60 40 20 0
(%)
第1図
GDP比政府債務残高推移
(実績)ドイツ アイルランド
ギリシャ ポルトガル
2007年 2008 2009 2010
資料 以下により筆者作成
・Eurostat(2011/4)Provision of deficit and debt data for 2010 - first notification
ることを意味している。そして、こうした状 況が、前述の債務の持続可能性分析の結果に 反映しているわけである。
3
追加支援対応とその限界
以上の債務返済能力の問題とは別に、7月 の国債償還に関連して、ギリシャの流動性の 問題が再度クローズアップされ、足元、市場 は混乱の度を深めている。
仮に、同国が国債償還に際し、債務不履行 に該当する債務再編に至った場合には、他の 被支援国への同様の再編の波及が懸念される ほか、ギリシャ国債の減価や担保不適格化等 を通じて、負の影響の拡大と深刻化が予想さ れる。このため、ユーロ圏では、こうした事 態を回避するため、急遽、IMFとともにギリ シャに対する追加の流動性支援策の取りまと めを進めている。
ここでは、当面の問題の緊急性もあり、債 務返済能力の議論は棚上げにされている。し かし、ギリシャが債務返済能力自体が問われ る瀬戸際に至っているにもかかわらず、その 観点を欠いた支援にとどまることに対しては、
市場は本質的な問題の先送りとして、いずれ 批判的な目を向けるであろう。
これまで、政治面、財政面での一体化とい う困難ではあるが、財政問題終息にとっては 極めて重要な取組みを回避してきたユーロ圏。
しかし、市場に迫られ、これらに正面から向 き合わざるを得ない時期が近づいているので はないだろうか。 (11年6月20日現在)
(やまぐち かつよし)
2
様々な困難な環境
さて、改めてギリシャが財政問題を終息さ せるために必要な条件を挙げれば、「①財政改 革の進捗、②競争力回復を通じた経済成長の 実現」であると考えられる。ここでは、一連 の財政改革の進捗を通じ競争力を回復するこ とで、経済成長を実現することが期待されて いる (①⇒②) 。また、調達金利を上回る経済 成長率を維持することが債務残高の削減に大 きな効果を持つことから、逆に、経済成長が 財政改革を促進することとなる (②⇒①) 。つ まり、財政問題の終息には、財政改革と経済 成長が相互に寄与し合う好循環 (①⇔②) に入 ることが重要な前提と考えられるわけである。
しかしながら、ギリシャでは既得権益や硬 直的な組織等が財政改革の障害となっており、
高止まりした労働コスト等、競争力の脆弱性 からの脱却は容易ではない。輸出産品にも乏 しい。マクロ経済環境についても、緊縮財政、
欧州中央銀行 (ECB) の金融引締め、それに伴 うユーロ高等、大変厳しいものがある。中長 期金利も上昇を続けている。経済を支える銀 行の体力にも不安感が強い。
現実に、同国では財政改革は遅延しており、
経済成長率も計画値を下回り始めている。こ れは財政問題の終息から遠ざかる兆候であり、
債務返済能力を喪失する方向に動き出してい
(注1)債務再編とは、償還期限延長のほか、金利の 引下げ、償還元本の削減等の条件緩和を言う。
(注2)詳細は、拙稿「否定できないギリシャ国債の 債務再編の可能性」(『金融市場』2011年5月号)を 参照。なお、IMF等による分析結果は、主として 次による。
・ IMF (2011/03) Greece: Third Review Under the Stand-By Arrangement