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(1)

合成道しるべフェロモンを用いたアルゼンチンアリ の防除と侵入の早期発見に関する研究

A study of Argentine ant control and early detection of the invasion by using an artificially synthesized trail pheromone

2020.3

東京農工大学大学院連合農学研究科 生物生産科学専攻

生物制御科学大講座

西末 浩司

(2)

目次

序論 ... 1

第1章 合成道しるべフェロモンによるアルゼンチンアリの行列攪乱効果 ... 10

緒言 ... 10

材料と方法 ... 12

結果 ... 15

考察 ... 18

第2章 合成道しるべフェロモン製剤を用いた採餌活動抑制による アルゼンチンアリの防除試験 ... 20

緒言 ... 20

材料と方法 ... 22

試験地 ... 22

合成道しるべフェロモン製剤 ... 22

活動性の評価 ... 23

結果 ... 28

考察 ... 30

第3章 合成道しるべフェロモンを用いたアルゼンチンアリの簡易同定法の開発と その日本在来アリへの影響評価 ... 35

(3)

緒言 ... 35

材料と方法 ... 37

実験に用いられたアリ ... 37

合成道しるべフェロモン製剤とその適用方法 ... 37

行動解析 ... 38

統計解析 ... 40

結果 ... 42

解析1 ... 42

解析2 ... 43

解析3 ... 43

考察 ... 48

総合考察 ... 53

摘要 ... 61

謝辞 ... 65

引用文献 ... 66

(4)

序論

人類の活動による環境への悪影響は、その活発化に伴い近年ますます増大している。そ の中でも重要な問題の一つに、外来生物の侵入による影響がある(Vitousek and D’Antonio

1996)。人類は古くから意図的か否かにかかわらず、多くの外来生物を本来の生息地とは異

なる新天地へと導いてきた。その多くが新たな環境に適応できずに定着に失敗したと予測

される一方、新たな土地の環境に適応し侵入・定着に成功する種も存在する。その中には、

天敵の不在などの要因で爆発的に繁殖し、在来種に対して絶滅も含む大きな影響を与えて

いる種が存在し、中には生態系だけではなく人間にも大きな被害を及ぼすものもある。外

来種の問題が顕在化するにしたがって様々な対策が講じられるようになって来ているが、

必ずしも成果は上がっていない。

このような侵略的外来生物の中でも、昆虫に分類されるものは特に重要である。昆虫は

一般にライフサイクルが短いものが多く、旺盛な繁殖力を持つものも多い。また、サイズ

は一般的に小型で、気づかれずに人間の移動に便乗しやすいという特徴もある。さらに昆

虫の中でもアリは節足動物を中心に多くの小型の動物を捕食し、重要な生態的地位を占め

るとされ、重要な侵略的外来生物と認識される種が多数存在し、侵略的外来アリの侵入に

よって、在来のアリが駆逐され、節足動物を中心に大きな影響があることが報告されてい る(Holway et al. 2002)(補足図1)。また、農業への被害や不快害虫としての被害も無視でき

ない。さらに対症療法的な大規模な殺虫剤の散布も生態系や人間の健康への影響が懸念さ

(5)

れる(Tingle et al. 2003)。国際自然保護連合(IUCN)によって定められた世界の侵略的外来

種ワースト100 (100 of the World's Worst Invasive Alien Species)では、100種のうち5種

がアリである。アルゼンチンアリ(Linepithema humile (Mayr, 1868))は、ヒアリ(Solenopsis

invicta Buren, 1972)などと並び、この5種のうちの1種であり、侵略的外来アリの代表的

な種とされる(Holway et al. 2002)。日本においてもアルゼンチンアリは日本生態学会が定

めた日本の侵略的外来種ワースト100の1種に指定され、特定外来生物被害防止法におけ

る指定第一次指定種にもなっている。

アルゼンチンアリは、ワーカーの体長が約2.5 mmと比較的小さなアリである(Ipser and

Gardner 2004)。その小さなアルゼンチンアリが侵入地における繁殖を可能にし、環境へ大

きな影響を与えるようになった理由の一つに、一般的なアリにはない特徴をアルゼンチン アリが有していることがある。

日本在来の多くのアリは、単女王制または少数の多女王制であるが、アルゼンチンアリ

は1つのコロニーに非常に多くの女王が存在する多女王制である。ワーカー1000頭あたり

産卵可能な女王が10頭以上存在することもあり(Keller et al. 1989)、巨大なコロニーでは

女王の数もそれだけ多くなる。それぞれの女王が1日あたり最大60個ほどの卵を産み(Abril

et al. 2008)、約2ヶ月で成虫になるため、次々とワーカーが生産され繁殖力が非常に強い(補

足図 2)。このため短期間で個体数を増やすことが可能となり、他種のアリとの競争が有利

になる(Holway et al. 1998; Holway 1999)。

(6)

アルゼンチンアリの新女王やオスアリは翅を有するものの結婚飛行は行わず、交尾はも っぱら巣内で行われる(Markin 1970; Passera et al. 1988; Ipser and Gardner 2004)。その ためアルゼンチンアリ自身による分散は飛翔に頼らず、ワーカーやブルード(卵、幼虫、蛹) を伴う行列を利用した歩行による分巣(budding)を頻繁に行うことで実現している(Ingram

and Gordon 2003)。そのため、殺虫剤散布による一時的な防除を一部で行っても、周囲か

らの流入により、速やかに個体数が回復してしまう(Silverman and Brightwell 2008)。

一般的なアリでは、例え同種のアリであっても、別の巣の個体には敵対行動や逃避行動 を示すことが多い(Hölldobler et al. 1990)。しかしながら、アルゼンチンアリは別の巣のワ ーカー同士が相互に移動し合う融合コロニー性(unicoloniality)を示し、そのような敵対し ない多数の巣からなるスーパーコロニー(supercolony)を形成する。それによって分巣で巣 が分かれてもそれぞれの巣の個体間で敵対行動が見られず協力的ですらある(Holway et al.

2002)。時にスーパーコロニーの大きさは数百kmから数千kmに及び、ヨーロッパ・北米・

日本といった大陸間をまたぐ非常に巨大なスーパーコロニーが出現していることも報告さ れている(Tsutsui et al. 2000; Giraud et al. 2002; Sunamura et al. 2009a)。これにより種 内競争がなくなることで、非常に高い個体群密度が生じることになり、他種のアリや主な 餌となる節足動物に大きな影響を与えている(Holway et al. 1998; Holway 1999)。

またアルゼンチンアリは長大な行列を形成することが知られ、時にベルト状の行列が数

十mの長さにわたって形成されることがある(Ipser and Gardner 2004)。この行列はアブ

(7)

ラムシやカイガラムシの甘露の収集や狩りといった採餌活動、分巣・移動といった分布拡 大などの重要な活動において大きな役割を担っていると考えられる。

アルゼンチンアリは世界規模で各地に侵入している。海外では北米、ヨーロッパ、ハワ イ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなどに侵入が確認されている(Suarez

et al. 2001; Wetterer et al. 2009)。日本国内では、1993年に広島県廿日市市で侵入が確認

されたのを皮切りに(杉山 2000)、広島県広島市、大竹市、呉市、府中町、山口県岩国市、

柳井市、兵庫県神戸市、愛知県田原市、神奈川県横浜市、大阪府大阪市、岐阜県各務原市、

京都府京都市伏見区、東京都大田区などで新たに侵入が確認されている(Inoue et al. 2013)。

長年アジアへの侵入は確認されていなかったにも関わらず、近年になって確認されるよう になった(Suarez et al. 2001; Wetterer et al. 2009)。その理由ははっきりとはわかっていな いが、物流の変化と活発化や地球温暖化などによる気候変動が関わっている可能性があり、

今後さらに侵入地が拡大していく恐れがある。そのため効果的な防除手段の必要性がさら に高まっている。

アルゼンチンアリが各地に侵入し、防除が試みられているにかかわらず根絶できていな

いのはいくつか理由が考えられる。アリは一般的に地中や物の隙間などに巣を作るため、

殺虫剤を散布しても巣内部に浸透しづらく全体には効果を及ぼしにくい。アリの防除によ く用いられるベイト剤(毒餌剤)は毒餌を最初に摂食した個体だけではなく、餌交換により女 王やブルードを含む他の個体にも受け渡され、巣の内部にも効果がある。しかしながら先

(8)

述の通りアルゼンチンアリは多女王制で繁殖力が強く(Keller et al. 1989)、巣の一部が排除 されても致命的になることが少ない。またアルゼンチンアリは行列により分巣や移動を頻

繁に行うため、局所的に防除しても周囲からの流入や旺盛な繁殖力で個体数が容易に回復 してしまう(Silverman and Brightwell 2008)。従来の殺虫剤やベイト剤は、殺虫成分自体 はよく効くものの、上記の理由などから効果的な防除手段として用いるのには、侵入初期 であったり小規模な島であったりして生息域が限定的な場合に限られ(Harris et al. 2002;

Inoue et al. 2015; Sakamoto et al. 2019)、厳しい制約がある。そのため、アルゼンチンア

リの侵入地における根絶には、侵入初期に発見し即時的な対応をすることが必要となる。

何度か触れているように、アルゼンチンアリの生態や難防除性には、行列が非常に重要

な要素となっている。一般的にアリにとって、行列を形成し維持するのに道しるべフェロ モンが重要な役割を果たしていることがわかっている(Hölldobler et al. 1990)。アリの道し るべフェロモンは一般的に種特異的であるとされるが、アルゼンチンアリの道しるべフェ

ロモンについては比較的研究が進んでいる。まず、アルゼンチンアリのワーカー腹部の抽 出物には道しるべフェロモンとしての活性があることが行動実験から確かめられた(Van

Vorhis Key et al. 1981)。その抽出物を化学分析すると(Z)-9-hexadecenalが含まれているこ

とが示された(Cavill et al. 1979, 1980)。合成(Z)-9-hexadecenalにも行列形成の活性がある

ことが行動実験から見いだされ、アルゼンチンアリの道しるべフェロモンの主成分の一つ であると同定された(Van Vorhis Key and Baker 1982)。

(9)

この(Z)-9-hexadecenal であるが、イネの害虫であるニカメイガ(Chilo suppressalis

(Walker, 1863))の性フェロモンの一成分でもある。この(Z)-9-hexadecenalを含む合成性フ

ェロモン製剤を用いて、高濃度の合成性フェロモンを蒸散させることでメスによるオスの 誘引を妨害するという、交信攪乱法(mating disruption)という防除手法が既に実用化され

ている(Tatsuki 1990, 田付 2009)。交信攪乱法に用いられている(Z)-9-hexadecenalは、商

業的に化学合成されたものであり、製剤として長期間安定的に蒸散させる技術も既に確立 されている。

本研究では、アルゼンチンアリの生態に重要な行列とその道しるべフェロモンに着目し、

それを利用することで新規の防除手法の開発を目指し、さらに道しるべフェロモンの種特

異性を生かし、アルゼンチンアリの防除全体への新たな一助となるべく以下のことを検証 した。

第1章では、高濃度の合成(Z)-9-hexadecenalが、行列の形成や維持の阻害をすることが

出来るか確認するために、板目紙に線上に塗布した合成(Z)-9-hexadecenalに天然のアルゼ

ンチンアリの行列が誘導あるいは攪乱されるかを、濃度を変えながら検証した。

第 2 章では、合成道しるべフェロモン製剤を用いて、高濃度の合成道しるべフェロモン

を蒸散させ行列の攪乱を引き起こし、採餌活動を抑制することで、個体群密度を抑えると

いうアイディアが、現実的に有効であるか検証するために、実際に侵入地の圃場を利用し て、長期間に渡って砂糖水に集まるワーカーの数をモニタリングすることで検証した。

(10)

第 3 章 で は 、 道 し る べ フ ェ ロ モ ン が 一 般 に 種 特 異 的 で あ る と さ れ る こ と や 、

(Z)-9-hexadecenalに対するアルゼンチンアリの行列の反応が顕著であることを利用して、

既存の同定手法によらない簡便なアルゼンチンアリの同定手法を開発することで、侵入の

早期発見の一助となることを目指し、日本在来のアリの行列との反応を比較検討した。ま たそれにより、(Z)-9-hexadecenalの合成道しるべフェロモン製剤が日本在来アリに影響を

及ぼしていないことを確かめた。

(11)

補足図1. アルゼンチンアリは多くの昆虫に影響を与える。Aでは大量のアブラムシが発生

しアルゼンチンアリが甘露を得ている。またBではアブラムシの天敵のナナホシテントウ

を攻撃している。このようにアルゼンチンアリは侵入地でアブラムシ類やカイガラムシ類

と日和見的共生関係を結ぶ。Cは羽化直後のモンシロチョウがアルゼンチンアリに捕食され

ている。Dではスズメバチ類がアルゼンチンアリに攻撃を受けている。アルゼンチンアリ の侵入地ではこのように節足動物が捕食されているのがよく観察される。2005年 4 月から 10月にかけて、いずれも山口県岩国市黒磯町にて撮影。

(12)

補足図2. アルゼンチンアリの巣の表面を曝いたところ。表面に近いのも関わらず大量のブ

ルード(白いところが卵、幼虫、蛹)がいることが観察された。2006年7月山口県岩国市黒

磯町にて撮影。

(13)

第 1 章

合成道しるべフェロモンによるアルゼンチンアリの行列攪乱効果

緒言

殺虫剤散布やベイト剤といった既存の手段を用いたアルゼンチンアリの防除は、侵入が 定着したあとでは非常に難しい(Silverman and Brightwell 2008)。局所的に防除しても、

行列を利用した周囲からの流入・分巣によって速やかに個体数が回復してしまうことが要 因の一つである(Silverman and Brightwell 2008)。また、大規模な殺虫剤散布やベイト剤 の大量使用は、アルゼンチンアリ以外への生物や人間の健康に対する悪影響も懸念される

(Tingle et al. 2003; Plentovich et al. 2010)。本研究ではニカメイガの合成性フェロモン製

剤を用いた交信攪乱法による防除に示唆を得て、種特異的とされる道しるべフェロモンを

利用し、高濃度の合成(Z)-9-hexadecenalによる行列の攪乱による防除が行えないか検討し

た。本章ではそのために前提条件として以下のことを確かめた。

アルゼンチンアリにおいて、合成道しるべフェロモンによって行列を攪乱し、それによ

って防除を行うために必要なこととして、以下の 2 点を確認する必要がある。第一に、合

成(Z)-9-hexadecenalが日本侵入個体群に対しても道しるべフェロモンとしての活性を示す

ことを確かめる必要がある。先行研究における(Z)-9-hexadecenalの道しるべフェロモンと

しての活性の報告は、本章の研究開始時点では全て海外の個体群に対するものであった (Cavill et al. 1979, 1980; Van Vorhis Key et al. 1981; Van Vorhis Key and Baker 1982)。

(14)

同種であれば同じ道しるべフェロモン成分を用いている可能性が高いが、念のために日本

国 内 に 侵 入 し た 個 体 群 で も 活 性 が あ る こ と を 確 認 す る べ き で あ る 。 第 二 に 、 合 成

(Z)-9-hexadecenalの道しるべフェロモンとしての活性には至適濃度が存在し、高濃度にお

いては逆に行列を攪乱する効果があることを確認する必要がある。先行研究における合成

(Z)-9-hexadecenalに対するアルゼンチンアリの反応に関する知見は、主に適切な濃度にお

ける、行列の形成・誘導・維持といったものが中心である(Van Vorhis Key et al. 1981; Van

Vorhis Key and Baker 1982)。そのため、高濃度の合成(Z)-9-hexadecenalが存在している

条件下でのアルゼンチンアリの行列の動態といった知見は得られていなかった。合成

(Z)-9-hexadecenal を交信攪乱法と同様の手法で防除に利用するためには、高濃度の合成

(Z)-9-hexadecenalが存在する条件で本当に攪乱されるのか、される場合防除に利用できそ

うなほど効果が強いものであるかを確かめる必要がある。それらの検証のため、本章では、

合成(Z)-9-hexadecenalを線状に塗布した紙に対して、アルゼンチンアリの野外での行列が

どのような反応を示すか、濃度を変えながらその変化を調査する実験を行った。

(15)

材料と方法

板目紙に鉛筆で20 cmの直線を2本引き、その片方の上にマイクロシリンジを用いてヘ

キサンに溶かした合成(Z)-9-hexadecenal(信越化学工業;ガスクロマトグラフ[カラム

DB-WAX]による純度>98%、異性体純度Z体>99%)を6段階の濃度(0.5 ng/20 cm、5 ng/20

cm、50 ng/20 cm、500 ng/20 cm、5000 ng/20 cm、50000 ng/20 cm)で塗布した後、1分間

放置してヘキサンを蒸発させた(図1)。この板目紙を合成(Z)-9-hexadecenalを塗った直線の

先端部分が行列の真上に位置するよう、行列から約2 mm浮かせ、板目紙を地面と45°の

角 度 で 固 定 し 、 ア ル ゼ ン チ ン ア リ が 元 の 行 列 の 先 に も 板 目 紙 に 塗 っ た 合 成

(Z)-9-hexadecenalの直線にも、どちらにも移動できるようにした。その後、板目紙に上る

ア ル ゼ ン チ ン ア リ の 行 動 を 120 秒 間 ビ デ オ カ メ ラ で 撮 影 し た(図 1)。 実 験 は 合 成

(Z)-9-hexadecenal濃度0.5 ng/20 cm、5 ng/20 cm、50 ng/20 cm、500 ng/20 cm、5000 ng/20

cm、50000 ng/20 cmの順に行われ、各濃度につき、板目紙を新しいものに交換して連続し

て6回の反復をとった。板目紙を交換する際、地面の行列が乱れていないかどうか確認し、

乱れが認められた場合には乱れがなくなるまで十分な時間をおいてから新しい板目紙を設 置した。統計解析に用いる数値データは撮影した映像を再生することによって得た。

合成(Z)-9-hexadecenalに誘導されたアルゼンチンアリ個体数の評価の指標として、10秒

毎にビデオの映像を停止し、合成(Z)-9-hexadecenal を塗った直線からの距離(d)について、

0 cm≦d<1 cm、1 cm≦d<2 cm、2 cm≦dの3段階に分けた上で、板目紙上にいるアルゼ

(16)

ンチンアリの個体数を直線からの距離ごとに記録した。各濃度、直線からの各距離につい

て、12 (120秒÷10秒)×6 (反復)= 72データを得た。濃度(6段階)×直線からの距離(3段階)=

全18のデータ群間で、ボンフェローニ法(Bonferroni's test)による多重比較を行った。アル

ゼンチンアリが合成(Z)-9-hexadecenalを道しるべフェロモンと認識してたどっている場合

は、線のすぐ近く(0 cm≦d<1 cm)にいる個体数が線から離れた範囲(1 cm≦d<2 cm、2 cm

≦d)にいる個体数より多くなることが期待される。

一連の実験は2004年10月に、山口県岩国市において、建物内に形成された行列を用い

て行われた。

(17)

図 1. 合成(Z)-9-hexadecenal に対するアルゼンチンアリの反応性を調べた実験の模式図。

鉛筆で板目紙に20 cmの直線2本を引き、片方には所定量の合成(Z)-9-hexadecenalを塗布

した。その板目紙をアルゼンチンアリの自然に形成された行列の2 mm上に地面となす角

45°になるように設置した。板目紙全体が映るようにビデオカメラにて設置後 120秒間撮

影した。

20cm 45°

合成 ( Z )-9-hexadecenal を塗布

天然の行列 板目紙

無処理

(18)

結果

5 ng/20 cm、50 ng/20 cm、500 ng/20 cmの合成(Z)-9-hexadecenalを処理した板目紙を

用いた実験では、多数のアルゼンチンアリが合成(Z)-9-hexadecenalを処理した直線に沿っ

て行列を形成して歩行する様子を明瞭に観察できた。統計解析の結果はこの観察に合致し、

濃度5 ng/20 cm、50 ng/20 cm、500 ng/20 cmの直線については0 cm≦d<1 cmの範囲に

て確認された個体数が1 cm≦d<2 cm、2 cm≦dのそれよりも有意に多かった(p < 0.05; 図

2)。これに対し、濃度0.5 ng/20 cm、5000 ng/20 cm、50000 ng/20 cmの線については0 cm

≦d<1 cmの範囲にて確認された個体数と1 cm≦d<2 cm、2 cm≦dのそれとの間に有為

差 は な か っ た(p > 0.05)。 な お 、 板 目 紙 に 鉛 筆 で 描 か れ た 2 本 の 線 の う ち 、 合 成

(Z)-9-hexadecenalを処理しなかった方の線を辿るアルゼンチンアリは観察されなかった。

合成(Z)-9-hexadecenalを塗った線を辿るアルゼンチンアリ個体数は500 ng/20 cmまでは

合成(Z)-9-hexadecenal濃度依存的に増加した(図2)。0.5 ng/20 cmの合成(Z)-9-hexadecenal

を処理した板目紙を用いた実験では線を辿ることはせず、板目紙に上るアルゼンチンアリ

の個体も少なかったが、5 ng/20 cm、50 ng/20 cmと合成(Z)-9-hexadecenalの濃度が高ま

るにつれ、板目紙に上り直線を辿る個体数は増加していった。ところが、500 ng/20 cmを 超えると、濃度依存的に線を辿る個体数は減少していった。統計解析の結果はこの観察に 合 致 し 、0 cm≦d<1 cm の 範 囲 に て確 認 された ア ルゼ ン チ ン ア リ個体 数 は、 合 成

(Z)-9-hexadecenal 濃度 50 ng/20 cm>5 ng/20 cm>500 ng/20 cm>5000 ng/20 cm、

(19)

0.5ng/20cm>50000ng/20cmとなり、5000ng/20cm、0.5ng/20cm以外の全ての濃度間で有

為差がみられた(p < 0.05)。

注目すべきことに、合成(Z)-9-hexadecenal濃度が500 ng/20 cm、5000 ng/20 cmの実験

では、板目紙上の線をジグザグにたどるアルゼンチンアリが多数観察された。また、板目

紙直下の地面においても、ジグザグに歩く個体や、頻繁に立ち止まりながら歩く個体、本

来の行列から離れ迷ったように歩く個体が見られるなど、実験に使用した天然の行列が攪

乱を受けている様子が観察された。濃度50000 ng/20 cmでは、板目紙直下だけではなく、

板目紙周辺で地面の行列が攪乱されアルゼンチンアリがあちこちに散らばり崩壊状態とな り、板目紙に上る個体はほとんど確認されなかった。

(20)

図 2. 合成(Z)-9-hexadecenal に対するアルゼンチンアリの用量反応関係。所定量の合成

(Z)-9-hexadecenalを塗布した板目紙に上ったアルゼンチンアリの、その位置ごとに個体数

(平均 + SD)を示している。合成(Z)-9-hexadecenalを塗布した直線からの距離(d)3段階(黒

色:0 cm≦d<1 cm、灰色:1 cm≦d<2 cm、白色:2 cm≦d)に分けて示してある。

0.5 5 50 500 5000 50000

20

10 30

0

合成(Z)-9-hexadecenalの濃度(ng/20 cm) ア

ル ゼ ン チ ン ア リ の 個 体 数

** **

**

* p<0.05

(21)

考察

本章で行われた研究により、アルゼンチンアリの日本侵入個体群においても、合成

(Z)-9-hexadecenalが道しるべフェロモンとしての活性を持っていることが確認された。ま

た、合成(Z)-9-hexadecenalの濃度が5 ng/20 cm、50 ng/20 cm、500 ng/20 cmにおいては

アルゼンチンアリの行列が誘導されたが、それ以上の濃度では逆に攪乱されることが確認

された。これは先行研究において、腹部抽出物を高濃度に塗布した場合、離れた場所にジ グザグに行列を形成するというデータとも矛盾しない(Van Vorhis Key et al. 1981)。今回の 実験では、道しるべフェロモン主成分の合成物のみでも同様の現象が起こることが確認さ れ、さらに高濃度ではより強い攪乱効果があることがわかった。

また、50000 ng/20 cmの実験で観察されたように、極端な高濃度の条件では、行列攪乱

効果は非常に強く、また合成(Z)-9-hexadecenalを塗布した直線だけではなく周辺の行列に

も大きな影響を与えていたことから、塗布した部分に直接的な接触がなくとも行列の攪乱

は起こり、合成(Z)-9-hexadecenalの蒸散によって行列攪乱効果が空間的な広がりを持つこ

とが示唆された。また、実験を行う上で50000 ng/20 cmの板目紙を除去してから、行列が

回復するのにもかなり時間がかかった。この状況下では、採餌活動、移動や分巣といった

行動が効率的に行うことが出来るとは考えにくい。このため、特定の条件下では合成道し るべフェロモンを用いた防除の可能性が示唆された。

また、著者らの別の実験では、ニカメイガの交信攪乱法で実際に使用されているフェロ

(22)

モン製剤と同じ約20 cm のチューブ型ディスペンサー(図 3-A)に、合成(Z)-9-hexadecenal

を封入したものを用いて、野外に形成された天然のアルゼンチンアリの行列に対して、行

動の変化を評価した(Tanaka et al. 2009)。その研究によると、行列に対して10 cmの距離

の地面にこの合成道しるべフェロモン製剤を設置すると、本章の研究と同様に行列が攪乱

されることが確認された。アルゼンチンアリが攪乱されて元の行列から逸脱した範囲は、

行列に沿う方向に46~465 cmの長さの範囲、元の行列から16~117 cmの幅の範囲となり、

その行列攪乱効果は合成道しるべフェロモン製剤に直接触れない範囲にも及んだ。

本章の研究結果と、この結果を併せて考えると、合成道しるべフェロモン製剤用いて合

成(Z)-9-hexadecenalを高濃度に蒸散させると、室内だけではなく野外においても、設置地

点から離れた位置にも行列攪乱効果があることから、このチューブ型ディスペンサーの製

剤を用いることで、アルゼンチンアリの行列を攪乱し、防除を行える可能性があることが 示唆された。

(23)

第 2 章

合成道しるべフェロモン製剤を用いた採餌活動抑制による アルゼンチンアリの防除試験

緒言

アルゼンチンアリの防除に関する試みは世界各地で行われているが、侵入が定着した後

に根絶を達成した例は非常に少ない。数少ない例外では、小規模な島において大規模にベ イト剤を使用した例などがある(Harris et al. 2002)。対症療法的な殺虫剤散布などでは一時 的に個体数を減らすことが出来ても、すぐに周辺部よりアルゼンチンアリが流入し個体数 が回復してしまうだけではなく(Silverman and Brightwell 2008)、大規模な殺虫剤の散布 は他の動物や人間のへの影響が懸念される(Tingle et al. 2003)。そのため、新たな防除手段 の開発が望まれている。

第1章の結果から、合成(Z)-9-hexadecenalを高濃度に蒸散させることで、アルゼンチン

アリの行列の形成や維持を妨害し、防除に応用できる可能性が示唆された。また、著者ら

の第 1 章の研究と平行して行った研究では、チューブ型ディスペンサーの合成道しるべフ

ェロモン製剤を侵入地の圃場に高密度に設置したところ、短期においてはアルゼンチンア リの採餌活動が大幅に抑制されることがわかった(Tanaka et al. 2009)。これは、合成道し るべフェロモン製剤の設置によって、行列形成が妨害されたことで、採餌活動にワーカー を動員することが難しくなったためだと考えられる。

(24)

それらの結果から、同様の合成道しるべフェロモン製剤の設置を長期間連続して行うこ

とで、採餌活動が抑制され餌不足によって個体群密度を抑制出来る可能性が示唆された。

それを確かめるためには、合成道しるべフェロモン製剤を長期間設置しても馴化などが起

こらず、行列攪乱効果や採餌活動抑制効果が維持されることを確認し、継続的に調査する ことで個体群密度の変化も推定する必要がある。

そこで本章の研究では、侵入地の圃場において合成道しるべフェロモン製剤を長期間(1

シーズン、日本においてアルゼンチンアリの活動が活発な4 月から 11 月)にわたって設置

し、餌に集まるワーカーの数の変化を測定することで採餌活動抑制効果の継続を確認した。

また、合成道しるべフェロモン製剤を交換する際を利用し、製剤がない状態で餌に集まる ワーカー数を継続的に測定することで、個体群密度の変化の推定も行った。

(25)

材料と方法

 試験地

実験は2005年4月から11月にかけて山口県岩国市黒磯町において、2軒の民家の家庭

菜園を所有者の承諾を得て実験圃場として扱い行われた。2つの実験圃場はアルゼンチンア

リの侵入地のほぼ中央部に位置しており、そこではアルゼンチンアリが高密度で生息し、

在来アリは駆逐されほとんど確認されなかった。また、合成道しるべフェロモン成分の拡

散の影響を考慮し、2つの実験圃場は150 m以上離して設定された。それぞれの実験圃場

に10 m×10 mの試験区を1つずつ設定した。一方の試験区を処理区、他方を無処理区と

した。アルゼンチンアリの採餌活動の範囲は61 mを超えることがあるとされ(Markin and

McCoy 1968; Ripa et al. 1999; Vega and Rust 2003)、試験区のサイズは採餌活動範囲より

十分小さいと考えられた。

 合成道しるべフェロモン製剤

本実験では、一定の割合で合成(Z)-9-hexadecenalが蒸散される合成道しるべフェロモン

製剤を用いた(図3-A、信越化学工業、東京)。本製剤は鱗翅目の交信攪乱法において世界で

広く用いられているチューブタイプのものと同様である。チューブの主要構成材料はポリ

エチレンで、1本の大きさは1.5 mm×20 cmであり(図3-A)、1本あたり75-80 mgの合成

(Z)-9-hexadecenal(信越化学工業;ガスクロマトグラフ[カラムDB-WAX]による純度>98%、

異性体純度Z体>99%)を含んでおり、1カ月でその55-75%が蒸散されるように設計されて

(26)

いた。鱗翅目の交信攪乱法では、このタイプの合成フェロモン製剤の交信攪乱効果は約 2

ヶ月間持続するとされていたが、予備的な試験の中でアルゼンチンアリの行列攪乱効果に

関しては合成道しるべフェロモン製剤は2ヶ月後には効果が弱くなることが判明したため、

実験期間中、月に 1 回程度の頻度で新しいものと交換することとした。処理区には試験区

を覆うように1 m間隔で格子状にポールを地面に立て(100 m2に121本)、全てのポールに

ついて地上約40 cmの位置に合成道しるべフェロモン製剤を固定した(図3-B,C)。設置密度

については前年までの先行研究結果から決定された。また、合成道しるべフェロモン製剤

をより低い位置に設置した場合、設置地点近傍では効果が強くなることが予想されたが、

地面からの付着物による製剤の劣化を遅らせることや、ある程度広範囲にフェロモン成分 を拡散させることを企図し、設置の高さが決定された。

 活動性の評価

月 1 回の合成道しるべフェロモン製剤を交換するタイミングで、各試験区内におけるア

ルゼンチンアリの採餌活動性を砂糖水へのワーカーの動員数によって評価した(図4)。砂糖

水の設置は、各試験区の中央部に2 m間隔で格子状に9つの設置場所を設定し、それぞれ

に約1 mlの50%砂糖水を円状に塗った直径15 cmの紙皿を置くという設定で行った。各紙

皿に集まったワーカーの個体数の計測は紙皿を設置してから40分後に行った。処理区にお

ける合成道しるべフェロモン製剤の設置状況に注目し、その状態を 3 つに分けた。古い合

成道しるべフェロモン製剤(前の月に設置したもの)の撤去前をフェーズ1、古い合成道しる

(27)

べフェロモン製剤を撤去してから新しい合成道しるべフェロモン製剤の設置する前までを

フェーズ2、新しい合成道しるべフェロモン製剤の設置後をフェーズ3、とそれぞれ区分し

名付けた。月1回の調査ごとに、各フェーズにつき1~5(2.4 ± 1.0)回の砂糖水カウントを

行った。その際に紙皿と砂糖水は試行毎に交換した。合成道しるべフェロモン製剤が存在

しないフェーズ2と、存在するフェーズ1、フェーズ3における動員の違いを合成道しるべ

フェロモン製剤による採餌抑制効果の指標として利用した。また合成道しるべフェロモン

製剤撤去中であるフェーズ 2 における砂糖水への動員数を、試験区内の生息密度を間接的

に評価する指標とみなした。砂糖水に集まるワーカーのカウントの反復試行は40分以上の

インターバルをはさんで行った。フェーズが切り替わって最初のカウントは、合成道しる

べフェロモン製剤の撤去または設置から30分以上経過してから行った。処理区と無処理区

における計測はほぼ同じ時刻で行われたが、雨天時には行われなかった。フェーズ 2 の期

間は通常は24時間未満であったが、気象条件により48時間未満となることもあった。月1

回の調査の具体的な期日は以下の通りである。2005年4月20日、21日(1回目)、5月20

日~21日(2回目)、6月17日~18日(3回目)、7月22日~7月24日(4回目)、8月24日~9

月1日(5回目)、10月2日~10月4日(6回目)、11月4日~5日(7回目)。

採餌活動が合成道しるべフェロモン製剤の処理に影響を受けるかどうか、また処理区間 で違いが見られるかどうか検証するために、一般化線形混合モデル(generalized linear

mixed model; GLMM)における尤度比検定を統計解析ソフトウェア R(R Development

(28)

Core Team 2007)で行った。毎月の調査について、ポアソンの誤差分布、ラプラス近似、お

よび対数関数のリンク関数でモデルを構築した。応答変数は紙皿上のワーカーの数である。

固定要因として、合成道しるべフェロモン製剤の有無と試験区を組み入れ、ランダム要因 として砂糖水の位置と計測の試行を組み入れた。

(29)

図3. フェロモン製剤の模型と圃場処理の様子。フェロモン製剤は1本あたり約20㎝の長

さのチューブ構造をしており、針金のように比較的自由に曲げることができる(A)。圃場で は地面にポールを立て、地上約40 cmのところにこのフェロモン製剤をとりつけた(B、青

色矢印)。フェロモン製剤は100 m 1 mおきに設置した(C)。

(30)

図4. 紙皿に塗った砂糖水と甘露飴に集まるアルゼンチンアリのワーカーの様子。撮影時に

は長時間のモニタリング中であったため、餌の食い尽くしを考慮し甘露飴も併用したが、

本実験では比較的短時間で餌を交換するモニタリングであったため、甘露飴は用いず砂糖 水のみを用いた。

(31)

結果

4月から11月にかけての7回の調査全てにおいて、合成道しるべフェロモン製剤の存在

する条件下ではアルゼンチンアリの採餌活動性が抑制されていた(p ≦ 0.001)。処理区では、

合成道しるべフェロモン製剤を設置すると採餌活動性が顕著に低下し、撤去すると採餌活

動性が顕著に増加した(図5)。処理区における合成道しるべフェロモン製剤設置中の採餌活

動性(フェーズ1とフェーズ3)の平均値は、撤去中(フェーズ2)の0.33 ± 0.30 倍だった(無

処理区では0.96 ± 0.67 倍)。

しかしながら、7回目(11月)の調査以外、試験区の違いは採餌活動性の分散に寄与してい なかった。7回の調査全てにおいて合成道しるべフェロモン製剤が存在しない時の採餌活動

性の平均値は処理区の方が無処理区よりも高かった(1.84 ± 0.97 倍)。

(32)

図5. 合成道しるべフェロモン製剤処理区および無処理区におけるアルゼンチンアリの採餌

活動性。上が無処理区、下が処理区における砂糖水に集まった個体数(平均 + SD)を表わす。

横軸は調査を行った月、縦軸は砂糖水を塗布した紙皿へ集まったアルゼンチンアリの個体

数の平均値を表わす。3つのバーが接しているが、それぞれ左から、先月の合成道しるべフ

ェロモン製剤を撤去する前(フェーズ1)、合成道しるべフェロモン製剤撤去中(フェーズ2)、

新しい合成道しるべフェロモン製剤を設置した直後(フェーズ3)。4月にはフェーズ1を、

11月にはフェーズ3を実施していない。

300 200 100 0 300 200 100 0 個体数(1皿あたり)

4 5 6 7 8 10 11 (月)

処理区 無処理区

:処理中

:無処理 300

200 100 0 300 200 100 0 個体数(1皿あたり)

4 5 6 7 8 10 11 (月)

処理区 無処理区

:処理中

:無処理

■:フェロモン製剤あり

□:フェロモン製剤なし

(33)

考察

合成道しるべフェロモン製剤の処理によってアルゼンチンアリの採餌活動が長期間にわ

たって抑制された。これは行列の撹乱によるものと推定される。1年間のうちの活動シーズ

ンに、実験圃場に合成道しるべフェロモン製剤を処理し続けても馴化などは見られず、行 列撹乱や採餌活動抑制効果は長期間持続することが示された。

しかしながら、合成道しるべフェロモン製剤が存在しない時の採餌活動性は常に処理区

が無処理区を上回り、合成道しるべフェロモン製剤の長期処理による個体群密度の抑制を

示唆する結果は得られなかった。無処理区より処理区の方が合成道しるべフェロモン製剤

が存在しない条件下で採餌活動性が高かったのは、処理区では飢餓状態であったり、試験

開始前の個体群密度をそのまま反映していたりする可能性も考えられる。しかしながら全

体を通してみても合成道しるべフェロモン製剤によって個体数が減ったとは言いがたい結

果であった。個体群密度抑制効果が見られなかった理由としては以下のようなことが考え られる。

第一に、鱗翅目の交信攪乱法による防除に用いられる合成性フェロモンが生殖行動に直 接かかわるもので繁殖力に直結するのに対して(小川・ウィツガル 2005)、合成道しるべフ ェロモンは生殖行動に直接的には強い影響を及ぼしてはいないと考えられるため、即時に 個体数を減らす効果が小さかったと推測される。

第二に、処理区の範囲が生息域全体に対して狭く、周囲からの個体流入を十分に抑制出

(34)

来なかったことが考えられる。鱗翅目の交信攪乱法における知見として、個体群密度が高 すぎる場合や処理範囲が狭い場合、効果が小さくなるといった性質がある(小川・ウィツガ

ル 2005)。本章の研究においても、個体群密度が非常に高くなる 8 月には採餌活動抑制効

果が小さくなる傾向が見られた(図5-処理区)。

第三に、合成道しるべフェロモン製剤によって行列は攪乱されるものの完全に行列が消

滅しない場合が観察されたことや、ワーカーが行列を形成せずに各個体単独でもある程度

餌の探索活動を行うことが挙げられる。そのため、合成道しるべフェロモン製剤により長

距離移動による離れた餌資源に対する採餌活動を抑制する効果は期待できるが、短距離に

おける採餌活動抑制効果は比較的小さいと考えられる。試験地の地面には、植物や人間の

遺棄物が存在していたため、巣のごく近くでも一定の餌資源は確保出来た可能性がある。

また、(Z)-9-hexadecenal以外の道しるべフェロモンの副成分によって、アルゼンチンアリ

が行列をある程度維持していた可能性がある。

第四に、試験地ではアルゼンチンアリの侵入から年月が経っており、競合する在来アリ

が駆逐されほとんど生息していないことが挙げられる。本章の研究を通じ、在来のアリの

中でシロップに集まったのが観察出来たのはサクラアリ(Paratrechina sakurae (Ito,

1914))だけであり、その頻度も非常に低かった。そのためアルゼンチンアリと競合関係にあ

る生物がいないために、生息地に存在する餌資源を先んじて獲得する生物が存在せず、時

間がかかっても行列に頼らない各個体の個別の探索や採餌活動で、最終的に餌資源を獲得

(35)

出来たと考えられる。

以上のような理由から、侵入から年月が経ち、そのステージが進み生息域が広大で個体

数が増大している侵入地のごく狭い試験区のみに、合成道しるべフェロモン製剤の処理を

行っても、有効な防除は難しいと考えられる。それに対する考えられる対策としては、以 下のようなものが考えられる。

第一に考えられるのは、合成道しるべフェロモン製剤の改良である。本章の研究後に判

明したこととして、アルゼンチンアリの道しるべフェロモンの新成分についての知見があ る(Choe et al. 2012)。Choe et al. (2012)は、アルゼンチンアリが自ら形成した行列の跡か

ら検出されたdolichodialとiridomyrmecinに道しるべフェロモンとしての活性があり、驚

く べ き こ と に(Z)-9-hexadecenal が 検 出 さ れ な か っ た こ と を 報 告 し た 。 し か し

(Z)-9-hexadecenalは比較的飛散しやすく、アルゼンチンアリのワーカーの腹部抽出物から

は検出され、行列の形成や維持にも活性があることから、(Z)-9-hexadecenalの存在も重要

であると考えられる。また、dolichodial と iridomyrmecin と(Z)-9-hexadecenal を混合す

ることで道しるべフェロモンとしての活性が増すことも同研究で報告されている。このこ

とから、これらの成分を適切な割合で含んだ合成道しるべフェロモン製剤を開発すれば、

より大きな効果が得られる可能性もある。しかしながら、dolichodialやiridomyrmecinは

工業的・商業的な化学合成方法や長期間安定的に利用可能な手法が確立されていない。こ のため将来的には有望な手法であるが、現時点では直ちに実現できそうにはない。

(36)

第二に、既存の防除手法との組み合わせが考えられる。例えば、既存のアリの防除の中

では有効とされているベイト剤による防除と組み合わせる手法が考えられる。ベイト剤に

より個体数を抑制することで合成道しるべフェロモン製剤の効果を増し、合成道しるべフ

ェロモン製剤により行列を攪乱することで、遠隔地にある他の餌を得ることを妨害するこ

とや周囲からの流入による個体数の回復をある程度抑制するといった相乗効果が得られる

可能性がある。実際にこの仮説を基にして、著者らは、本章の研究と同じ地区の圃場を利

用 し て 、 合 成 道 し る べ フ ェ ロ モ ン 製 剤 と ベ イ ト 剤 の 併 用 に よ る 防 除 研 究 を 行 っ た

(Sunamura et al. 2011)。その結果、合成道しるべフェロモン製剤に加えてベイト剤を地面

に設置し定期的に交換するといった、合成道しるべフェロモン製剤・ベイト剤併用試験区

では合成道しるべフェロモン製剤単独処理試験区やベイト剤単独処理試験区と比較して良

好な個体群密度抑制効果が得られた。このことから、合成道しるべフェロモン製剤とベイ ト剤の併用は有効な防除手段になり得る。

第三に、侵入初期など個体数や生息域が限られる条件における防除への利用が考えられ

る。本章の研究で合成道しるべフェロモン製剤が単独では有効な防除手法にはならなかっ

た理由に、侵入が定着してから年月の経ったことによって生息地が広大になったことや個

体群密度が非常に高くなったことなどが考えられる。しかし侵入初期であれば、個体群密

度がそこまで高くなく、また生息範囲も限られていること、さらに日本在来アリが周囲に

存在していることなどから、アルゼンチンアリの周囲から流入による回復といった問題な

(37)

どは小さくなる。よって、侵入初期であれば合成道しるべフェロモン製剤を用いた防除が

有効である可能性がある。そこで、同研究グループの一人が発見した神奈川県横浜市の個 体群(砂村ら 2007)に対して、同研究グループによって合成道しるべフェロモン製剤とベイ ト剤の併用による防除試験が行われ、その経過は良好であった(鈴木 2010)。このことから、

合成道しるべフェロモン製剤を用いた防除を含め、アルゼンチンアリの根本的な防除には 侵入の早期発見が重要であることが示唆された。

(38)

第 3 章

合成道しるべフェロモンを用いたアルゼンチンアリの簡易同定法の 開発とその日本在来アリへの影響評価

緒言

アルゼンチンアリは、重要な侵略的外来種であり、世界的な問題となっている(Holway et

al. 2002)。侵入地においてアルゼンチンアリの駆除が試みられているが、殺虫剤の散布やベ

イト剤の設置などで部分的に駆除しても、大規模な行列を通じて周囲のコロニーからの個 体流入がすぐに起こってしまうため(Silverman and Brightwell 2008)、完全に定着した後 のアルゼンチンアリの根絶に成功した例は一部の例外(Harris et al. 2002)を除いてほとん ど存在しない。それどころか、アルゼンチンアリへの対症療法的な殺虫剤の大量散布やベ イト剤の大量使用は、生態系や人間の健康に悪影響を与えることが示唆されている(Tingle

et al. 2003)。

筆者らは、化学合成された(Z)-9-hexadecenalを含む合成道しるべフェロモン製剤を用い

た防除手法を研究してきた。神奈川県横浜市の侵入初期の個体群に対して、合成道しるべ フェロモン製剤とベイト剤を併用した防除試験の結果は、良好であった(鈴木 2010)。この ように、過去の防除の試みにおいて、根絶またはそれに準ずる状態にすることに成功した

事例は、侵入初期であったり小規模な島であったりといった生息域が広域に広がっていな いケースに限られている(Harris et al. 2002; Inoue et al. 2015; Sakamoto et al. 2019)。こ

(39)

のことから、アルゼンチンアリの根本的な防除を行うには、侵入してから早期の生息域が 狭い間に発見することが非常に重要であることが示唆される。

アルゼンチンアリの侵入を早期に発見するためには、侵入したアリと在来のアリを識別

できる人を増やす必要がある。現在では疑わしいアリが発見されると、専門家に対してサ

ンプルが送付された後に、精密な同定作業が行われている。しかしながら正確な同定が行

える専門家の数に対して、サンプルの数が多くなりがちであり、専門家や専門機関ひいて

はそれを支える社会に対するコストになっている。そのため、侵入の早期発見のためには

非専門家でも扱える簡便な同定ツールの開発が必要であると考えられる。また、現在の同

定方法では、発見から同定までにある程度の時差が生まれる。簡便な同定ツールの開発は その時差を小さく出来る可能性がある。

そこで本章の研究では、道しるべフェロモンが種特異的であるとされることに着目し、

アリの行列に対して合成道しるべフェロモン製剤を近づけ反応の違いを検出することで迅

速かつ簡便に利用可能な、新たなアルゼンチンアリ同定法、“行列攪乱同定法”を開発した。

また、合成道しるべフェロモン製剤を用いた防除を試みる上で、合成道しるべフェロモン 製剤が日本在来アリに直接的な影響を及ぼしていないことを併せて評価した。

(40)

材料と方法

 実験に用いられたアリ

本章の研究では、アルゼンチンアリと日本在来のアリ12種類の行列を実験に用いた。ア

ルゼンチンア リはスーパーコロニーのグ ループの一つであるジャ パニーズ・メイン

(Japanese main)に属する山口県岩国市および神奈川県横浜市の個体群ものを用いた。アル

ゼンチンアリの行列に関しては、行列の規模ごとに 3 つの行列を実験に用いた。小規模行

列は1分間に約4頭のワーカーが、中規模行列は1分間に約120頭のワーカーが、大規模

行列は約 260 頭のワーカーが行列を通過した。中規模・大規模行列は山口県岩国市のもの

を用いた。小規模行列に関しては、侵入定着から時間の経った山口県岩国市では個体数が

多すぎて観察が難しかったため、侵入初期で比較的個体数が少ない神奈川県横浜市のもの を用いた。

日本在来のアリは、アルゼンチンアリと比較的誤認しやすい種、一般によく見られる普

通種、系統的に比較的近縁な種の中から選ばれた。日本在来アリに関しては、1種につき1

つの行列を実験に用いた。

実験に用いたアリの一覧を表1に示した。

 合成道しるべフェロモン製剤とその適用方法

本章の研究で用いられた合成道しるべフェロモン製剤は第 2 章で用いられたものと同種

のものである(図 3-A)。また対照群の実験に用いるために全く同じ材質・剤型で、合成

(41)

(Z)-9-hexadecenalを全く含まない空の製剤を用意した。実験は、残留する合成フェロモン

物質の影響を考慮して、まず対照群として空の製剤で実験を行い、終了後に同一の行列に

対して合成道しるべフェロモン製剤で実験を行った。これらの製剤をアリの行列から約 10

cmの距離の位置に並行に設置した。実験の様子は製剤設置前5分、製剤設置後5分の合計

10分間、動画撮影によって記録された。実験者の動作が行列に与える影響を考慮して、製

剤設置前後5秒は解析の対象外とした。

全ての撮影は2010年8月から9月にかけて行われた。

 行動解析

実験で得られた動画を以下のように解析した。

1. 行列規模の変化

行列規模の指標として、通過するワーカー数の変化を計測した。

フェロモン設置地点の中心に一番近い地点の幅 2 cmを通過するワーカーの数を、30秒

間隔で30秒間測定した。製剤設置前30秒間を9回、製剤設置後30秒間を9回測定した。

2. 行列内にいるワーカー数と行列外にいるワーカー数の変化

行列が製剤によってどれだけ拡散されるかの指標として、行列内と行列外のワーカーの 数の変化を計測した。

撮影した範囲の関係上、観測範囲を20 cm四方とした。行列中心より両側1 cmの2 cm

幅を「行列内」とした。観測範囲の20 cm四方のうち「行列内」以外の場所(「行列内」の

(42)

外9 cmずつの外側)を「行列外」とした。

30 秒間隔で動画を停止して、「行列内」「行列外」それぞれの領域にいるワーカーの数を

計測した。製剤設置前の30秒ごとに10回、製剤設置後の30秒ごとに10回を計測した。

実験の性質上、撮影開始時点で最初から行列外にいた個体はカウントしなかった。

3. 行列の一定範囲を歩行するのに要した時間

範囲内にいるワーカーの移動速度の指標として、ワーカーが一定範囲を通過するのに要 した時間を計測した。

撮影した範囲の関係上、観測範囲を20 cm四方とした。20 cmの範囲を通過する時間を

計測した。行列中心より両側1 cmの幅2 cmの行列内を歩いているワーカーが、観測範囲

の左端および右端を通過してから、反対側の幅20 cmの端に到達するまでの時間を計測し

た。

十分に個体数がいる場合、片側開始10頭、反対側開始10頭、計20頭のデータをそれぞ

れの実験ごとに計測した。十分に個体がいない場合は、可能な限り多く計測した。

アルゼンチンアリのように高密度な行列の場合は、計測に使用したワーカーがスタート してから、5秒以上経過したものから次のワーカーを選んだ。

製剤設置 5 秒前までにワーカーが反対側に到達しなかった場合は除外した。U ターンし

て、スタートと同じ側の端に達したワーカーや横に逸れたワーカーも除外した。歩行速度 に影響与える可能性から、明らかに何かを運んでいるワーカーも除外した。

(43)

 統計解析

種類ごとにフェロモンの有無で影響があるかについて検定を行った。解析 1、2、3 につ

いて、アルゼンチンアリについては 3 つの行列をそれぞれに、日本在来アリについてはそ

れぞれの種ごとに一般化線形モデル(generalized linear models ; GLM)で解析を行った。

解析 1 では、ポアソン分布で、通過するワーカー数を応答変数とし、製剤中の合成フェ

ロモンの有無と製剤の設置前後を説明変数とした。2つの説明変数の交互作用を考慮して検

定を行った。

解析 2 では、ポアソン分布で、行列内にいるワーカー数を応答変数とし、製剤中の合成

フェロモンの有無と製剤の設置前後を説明変数とした。2つの説明変数の交互作用を考慮し

て検定を行った。行列内と行列外にいるワーカーの合計数をオフセット項として適用した。

また、行列内・行列外のワーカー数が共に0の場合NAとして扱った。

解析 3 では、ガンマ分布で、ワーカーが通過するのに要した時間を応答変数とし、製剤

中の合成フェロモンの有無と製剤の設置前後を説明変数とした。2つの説明変数の交互作用

を考慮して検定を行った。

本章の全ての解析は統計解析ソフトウェアR (R Development Core Team 2019)で行った。

(44)

表1. 実験に用いたアリ

種名 実験地 実験日

Argentine Ant

アルゼンチンアリ

(Linepithema humile (Mayr, 1868))

神奈川県横浜市 山口県岩国市

2010/09/4, 15,16 Japanese

Ants

トビイロシワアリ

(Tetramorium tsushimae Emery, 1925)

東京都文京区 2010/08/26

トビイロケアリ

(Lasius japonicus Santschi, 1941)

東京都文京区 2010/08/27

アミメアリ

(Pristomyrmex punctatus (Smith, 1860))

東京都文京区 2010/08/27

シリアゲアリの一種 (Crematogaster sp)

東京都文京区 2010/08/27

ヒメアリ

(Monomorium intrudens Smith, 1874)

東京都文京区 2010/08/27

クロヤマアリ

(Formica japonica Motschoulsky, 1866)

東京都八王子市 2010/08/28

トゲアリ

(Polyrhachis lamellidens Smith, 1874)

東京都八王子市 2010/08/28

クロオオアリ

(Camponotus japonicus Mayr, 1866)

東京都八王子市 2010/08/29

キイロシリアゲアリ

(Crematogaster osakensis Forel, 1900)

東京都文京区 2010/08/31

サクラアリ

(Paratrechina sakurae (Ito, 1914))

神奈川県横浜市 2010/09/02

クロクサアリ

(Lasius fuji Radchenko, 2005)

東京都八王子市 2010/09/03

ルリアリ

(Ochetellus glaber (Mayr, 1862))

神奈川県横浜市 2010/09/04

(45)

結果

視覚的な観察では、合成道しるべフェロモン製剤設置前後で、アルゼンチンアリでは全

ての行列で行動の変化が観察された一方、日本在来アリでは顕著な変化は観察されなかっ た。

 解析1

行列を通過するワーカーの数に関し、合成道しるべフェロモンの影響を評価した(図6)。

アルゼンチンアリの中規模行列及び大規模行列では、ワーカーの通過数に関して、合成

道しるべフェロモンを封入した製剤の設置前後で、有意差が検出された(中規模行列、p <

0.001; 大規模行列、 p < 0.001)。また合成道しるべフェロモン製剤の設置後に、通過ワー

カー数は大きく減少した。小規模行列では通過ワーカー数は減少傾向だったものの、有意

差は検出されなかった(p = 0.16)。

日本在来アリでは、以下の種を除いて有意差は検出されなかった。クロクサアリ(Lasius

fuji Radchenko, 2005)は合成道しるべフェロモン製剤設置後に有意差が検出され、通過ワ

ーカー数が減少幅は僅かではあ るが有意に減少した(p < 0.001)。トビイロシワアリ

(Tetramorium tsushimae Emery, 1925)とルリアリ(Ochetellus glaber (Mayr, 1862))は有

意差が検出され、通過ワーカー数が増加した(トビイロシワアリ、p < 0.001; ルリアリ、p <

0.01)。

(46)

 解析2

「行列内」「行列外」にいるワーカー数に関し、合成道しるべフェロモンの影響を評価し

た(図7)。

アルゼンチンアリの中規模行列及び大規模行列では、「行列内」「行列外」の合計数で補

正した行列内のワーカー数に関して、合成道しるべフェロモンを封入した製剤の設置前後

で、有意差が検出された(中規模行列、p < 0.001; 大規模行列、p < 0.001)。また、「行列内」

のワーカー数の合計数に対する比は、大きく減少した。小規模行列ではワーカー数の比は

減少傾向だったものの有意差は検出されなかった(p = 0.58)。

日本在来アリでは、全ての種で有意差が検出されなかった。その p 値はシリアゲアリの

一種(Crematogaster sp; p = 0.60)を除いて非常に大きく1に近かった(0.86から1)。日本在

来アリでは行列外にワーカーが存在することはほとんどなかった。

 解析3

ワーカーが観測範囲を通過するのに要した時間に関し、合成道しるべフェロモンの影響

を評価した(図8)。

アルゼンチンアリの中規模行列及び大規模行列では、ワーカーが通過するのに要した時 間に関して、合成道しるべフェロモンを封入した製剤の設置前後で、有意差が検出された(中 規模行列、p < 0.001; 大規模行列、 p < 0.001)。また合成道しるべフェロモン製剤の設置

後に、ワーカーが通過するのに要した時間は大きく増加した。小規模行列では通過時間は

(47)

増加傾向だったものの有意差は検出されなかった(p = 0.42)。

日本在来アリでは、ルリアリを除いてワーカーが通過するのに要した時間に有意差は検 出されなかった。ルリアリでは有意差が検出され(p < 0.001)、僅かに通過時間が増加した。

(48)

図6. 解析1: 合成道しるべフェロモンに対する行列上を歩行するアリの数への影響。各種・

各規模の行列に対して、製剤処理の前後のアリの数の平均を標準偏差SDと共に示す。それ

ぞれのp値は製剤内のフェロモンの有無と製剤処理の前後の交互作用を考慮して算出され ている。

フェロモン

-

+

p < 0.001

0 5 10 15 20

before after

処理

トビイロシワアリ

p = 0.72

0 5 10 15 20 25

before after

処理

トビイロケアリ

p = 0.76

0 10 20 30 40

before after

処理

アミメアリ

p = 0.33

-2.5 0.0 2.5 5.0 7.5

before after 処理

シリアゲアリsp

p = 0.24

0 10 20 30

before after

処理

ヒメアリ

p = 0.54

0 2 4 6 8

before after

処理

クロヤマアリ

p = 0.72

0 10 20 30

before after

処理

トゲアリ

p = 0.46

0.0 2.5 5.0 7.5

before after 処理

クロオオアリ

p = 0.54

0 5 10 15 20 25

before after

処理

キイロシリアゲアリ

p = 0.59

0 10 20 30 40

before after

処理

サクラアリ

p < 0.001

0 20 40 60

before after

処理

クロクサアリ

p = 0.0032

0 5 10 15 20

before after 処理

ルリアリ

p = 0.16

-4 -2 0 2 4 6 8

before after

処理

小規模行列 アルゼンチンアリ

p < 0.001

0 25 50 75

before after

処理

中規模行列 アルゼンチンアリ

p < 0.001

0 50 100 150

before after 処理

大規模行列 アルゼンチンアリ

参照

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