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2.2 農業政策
チリの農業は銅をはじめとする鉱業部門に依存している同国輸出品目の多様化に大きな役割を担ってい る。チリ政府の農産品に対する輸入関税率は一部の品目を除き一律 6%と設定されており、自由貿易協定 を結んでいる相手国に対してはより低い関税率を定めている。チリにとっての重要度の高い品目である小 麦、小麦粉及び砂糖にはプライスバンド制度が設定されていたが、WTOの裁定に従い、2014年に廃止と なった15(2.2.4を参照)。政府が行っている積極的な経済連携政策を通じてチリ産の農林水産品もワイン 及び果実以外に、近年では豚肉及び鶏肉等の輸出も増加し、多様化が進んでいる。
こういった背景を踏まえ、チリ国内の作付状況も変化を遂げており、従来の根菜類及び豆類に取って替 わり、輸出競争力のあるぶどうや林業に使われる樹種等が増えている。
WTO によれば、チリは中小規模の生産者に向けた国内支持を行っている一方で、生産に応じた支援策 は特に設けられていない。さらに、近年、農業に向けられた政府の予算額が増加傾向にあるが、その内容 は灌漑、中間財購入、生産性向上及び職業訓練の分野に向けられている。それに加え、インフラ整備、研 究開発及び監査機能の強化に対する予算も近年増えているとWTOが指摘している。
図 6 チリ農林水産関連予算の推移(百万ペソ)
出所)DIPRES(農業予算に SUBPESCA 及び SERNAPESCA の予算を合算)
チリ農業政策は農業省及び同省の傘下にある5つの機関が中心的な役割を担っている。これらの5機関 は農牧開発局(INDAP)、農牧庁(SAG)、森林公社(CONAF)、国家灌漑委員会(CNR)及び農業政策 調査庁(ODEPA)である。
INDAPは1993年に創設され、その目的は小規模生産者の経済、社会及び技術的な発展の促進である。
具体的には、小規模生産者の生産性向上及び融資へのアクセス、市場へのアクセス等の支援を行う。SAG は 1967 年に設立され、チリ国内の動植物検疫に関する監視・監督を行っている。チリ国内の動植物に影 響を与え得る外的病害虫等の監視を行うとともに、チリ国内で生産される農産品の衛生証明書を発行して
いる。CONAFは1973 年に設立され、チリ国内森林資源の保全、適切な管理及び活用が目的である。主
な活動範囲は国立公園や保全地域の管理、森林放火の予防及び森林法の運用、監督である。CNRは1975 年に設立され、灌漑面積の拡大及び改善が設立目的である。現在では、右目的以外に灌漑及び排水インフ ラに係る民間プロジェクトの促進及び灌漑地域の発展が活動範囲となっている。ODEPAは 1993 年に設 立され、その所掌範囲は国の分野別政策及び技術支援プログラムの調整に貢献すること、対外貿易交渉を
15 (ODEPA 2011)
0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000
2010 2011 2012 2013 2014 2015
ODEPA CNR
SERNAPESCA SUBPESCA 農業次官官房 CONAF SAG INDAP
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支える情報を提供すること、農林水産分野における調査の実施、及び幅広く情報を提供することである。
水産業については、チリでは経済振興観光省管轄の漁業次官官房(SUBPESCA)が管轄している。同 次官官房は 1976 年に設立され、養殖を含む水産業に関する政策を策定し、1978 年に設立された漁業庁
(SERNAPESCA)は同政策に関する技術・環境衛生面の規定及びその監督を担っている。
2015年の農業関連予算(農業省予算に経済振興観光省傘下のSUBPESCA及びSERNAPESCAの予算 を合算したもの)ではINDAPは全体の42.9%、SAGは18.9%、CONAFは12.6%、農業次官官房(本省)
は10.7%、SUBPESCA(6.8%)、SERNAPESCA(5.1%)、CNRは1.9%及びODEPAは1.0%をそれぞれ 占めた。
なお、農家の規模に関する定義は一つではないことに留意する必要がある。INDAP が行っている支援 策の対象となる「小規模生産者」の定義は、農業省が定義しているものとは必ずしも一致しない。また、
同定義を用いた作付面積の割合及び統計データは統計局(INE)が収集していない。そのため、具体的な 人数を把握することは困難である。なお、FAOの報告書によれば、2007年にINDAPの支援対象者とな った小規模生産者は118,762人に及んだ16。参考までにINDAP及び農業省の定義を表記する。
表 39 小規模生産者の定義
INDAPの定義 農業省の定義
小規模生産者
(Pequeño Productor Agrícola) 小規模農業又は家族農業
(Pequeña Agricultura o Agricultura Familiar)
・基礎的な灌漑を有する栽培面積は 12 ヘクタール 未満(その所有形態は問わない)であること
・自給を行う生産者及び零細企業を指す、その年間売り上げは 2,400UF 以 下の者を指す
小規模農業事業者又は農林業分野中小企業
(Pequeño Empresario Agrícola o PYME del Sector Silvoagropecuario)
・総資産(動産・不動産・金融商品・現金等)は 3,500UF17を下回っていること
・年間売り上げは 2,400UF - 25,000 UF は小規模企業 ・年間売り上げは 25,000UF - 100,000 UF は中規模企業
・農業活動が主たる収入源であること
農林業分野大企業
(Grandes Empresas Silvoagropecuarias)
・年間売り上げは 100,000 UF 以上の生産者、企業及び輸出業者 出所)INDAP 及び農業省
次項ではピニェラ政権(2010-2014年)及びバチェレ第2期目(2015-2018年)の具体的な農業政策に ついて詳述する。
ピニェラ政権の農業政策 2.2.1
ピニェラ政権は2010年に、農業分野における「5大戦略」と「25の約束」を発表した18。これらの政 策が目指すチリの農業像は「持続可能な農食林業大国」であり、具体的には①生産規模に関わらず全ての 生産者に起業、生産活動及び成長する機会を平等に付与すること、②現在および将来のチリ人にとって天 然資源の持続可能な使用及び古来の伝統を保存しながら、農業活動は生活水準の向上、貧困の克服及び農 村部の総合開発に寄与すること、③全ての消費者がチリ産の無害且つ高品質な食品にアクセスでき、世界 的な食料需要の高まりからチリの気候、天然資源、公的機関及び生産者を活し、世界に寄与することであ
16 (FAO 2013)
17 UF(Unidad de Fomento)は物価変動を調整した不動産・家賃等に用いられる価値表示制度。2014年12月9日現在
1UF=24,627.1ペソである。
18 (Ministerio de Agricultura 2013)
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るとしている。ピニェラ政権農業政策のキーワードは「競争力強化」及び「イノベーション」である。
ピニェラ政権の掲げた5大戦略は以下の通り:
農林食品分野のイノベーション及び競争力強化 流通チェーン、透明性のある市場
発展のための維持可能な環境の確保 農業省の近代化
21世紀に向けた農村社会の整備
農林食品分野のイノベーション及び競争力強化
第1の戦略であるイノベーション及び競争力強化は、ピニェラ政権が就任当時から農業分野に限らず掲 げてきた大きな戦略的な柱である。そのためにピニェラ大統領は経済振興観光省の政策に競争力強化の方 針を与え「競争力強化アジェンダ」を発表した。また同政権は2012年を「起業年」、その翌年を「イノベ ーション年」として据え、全分野における競争力強化に取り組んだ。このような横断的な政策の一環とし て、農業省は 2011 年に「農業競争力強化テーブル」を開催し、各生産分野の課題を吸い上げ、これらに 対す対応策の策定と実施を行なった。
イノベーション及び競争力分野の具体的な政策として、農業省は①家族農業および零細企業の振興、② 起業並びに企業活動の促進、及び③農業発展のエンジンとしてのイノベーションを挙げている。
チリ農業省の定義では家族農業は生産者規模の最小単位であり、自給を行う生産者及び零細企業を指す、
その年間売り上げは2,400UF以下の者を指す。ピニェラ政権はこれまで零細生産者向けに行われた支援に 条件を付けることにより、生産者の持続可能な競争力強化を促した。具体的には技術指導の受講と引き換 えに投資支援を行うというものである。これまで、融資を受けた生産者の内、農牧開発局(INDAP)からの 技術指導を受けた割合は57%(74,514人)にとどまっていたが、2013年にはその割合は72%(138,301人)
まで増加した。また、INDAPの技術指導のための政府予算も2009 年対比で 75%増加した。対象となっ た市町村も2009年の261から22増えて283を数えた。特に先住民に対する技術指導も強化され、2012 年には全先住民世帯の50.5%に当たる5万世帯が技術指導を受けた。
また、生産者の立場からより大きな生産チェーンへの統合を促すため、生産性の高い生産者向けに「技 術指導及び生産連携サービス(SAT)」が継続されたが、より効果的な成果を出すために、対象者の選別が 行われ、ある程度均質な生産体制を有している生産者向けへの支援が行われた。具体的には継続的な技術 指導のみならず、その実施過程及び品質のモニタリングが行われた。その結果、2011-2012期でINDAP のSATプログラムに参加した生産者の生産性はぶどうでは31%、コメでは21%、牛肉では20%の増加を みた。
起業及び企業活動の促進について、チリ経済開発公社(CORFO)が行っている融資の保証事業の条件 を緩和し、その利用を促進した。2010年に短期及び長期事業を促すための条件が修正され、企業の規模に 応じてその保証金額が最大18,000UFまで拡大された。さらに長期事業融資額の80%まで保証が可能とな り、60カ月以上の事業の場合、2年間の据え置き期間が設けられた。また、これらの保証内容は輸出事業 融資にも適用され、為替リスク保険も対象となった。その結果CORFO の保証を受けた融資件数は2013 年に87,484件に及び2010年の20倍に及んだ19。
イノベーションについて、ピニェラ政権は農業に限らず、国内のR&D投資に対する税制優遇を強化し た。農業分野では「技術コンソーシアム」と言われる民間企業の集合体に対するCORFOからの支援金制 度に該当しない企業向けの新制度「技術共同体(Asociaciones Tecnológicas)」が創設された。また、チリ
19 農業分野以外の保証も含まれる。
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政府はCORFOを通じて国際的な研究機関の招致政策「国際的な優秀機構(Centers of Excellence)」を積 極的に行っており、農業分野ではオランダのワーグニンゲン、バイオ技術ではドイツのフラウンホーファ ー研究機構がチリにイノベーション拠点を置いた。また、農業イノベーション基金(FIA)及び農牧調査研究 所(INIA)の役割が変更され、FIAはニーズを抱えている中小生産者のイノベーションに対する支援が明 確化された。
流通チェーン、透明性のある市場
第2の戦略である流通チェーン、透明性のある市場に関する具体的な政策として、農業省は①生産チェ ーンへの統合、②透明性のある市場、及び③市場開放の深化を挙げている。
生産チェーンへの統合はINDAPの「生産連携プログラム」が中心になり、流通業者及び加工業者と生 産者の連携を促進した。具体的には流通業者及び加工業者が自分たちのニーズに合致した技術指導を生産 者に対して施すプログラムが始められた。2009年に1,125の連携プログラムが実施された一方、2013年 にその数は8千件に達し、2014年には 1万件に及ぶと農業省が見積もっている。こうした生産連携プロ グラムでは、生産者は商品供給力の向上が図られ、流通及び加工業者はニーズに合った品質の商品を得る ことが出来るというメリットがある。
また、生産チェーンの統合を促すもう一つの重要な柱は取引の契約化である。取引の契約化を促すため、
農業省は農業分野に特化した売買契約情報に関する任意登録制度を定める法案を提案した。取引の契約化 は双方にとって法的な保障を与えるとともに、こうした契約の長期化が図られることにより、生産チェー ン内の協力関係が生まれ、イノベーション事業への共同投資の可能性が増えることを農業省が示唆してい る。
市場の透明化は国内農産品と輸入農産品の公平な競争を保障するために必要であり、ピニェラ政権は特 に輸出国側で様々な補助を受けている輸入農産品に対する監視体制を強化した。具体的には「輸入品価格 の歪みの有無を調査する国家委員会(CNDP)」の役割を強化した。また、セーフガードの有効期間を 2 年から4年に延長した。実際には2011年に農業省の通報を受け、CNDPがアルゼンチン産小麦の輸入に 関する調査を行った結果、不当な競争が認められ、10.8%の追加関税が課されることになった。その他に 農業政策調査庁(ODEPA)の迅速な情報発信を促すため、タブレットの活用が始められ、マウレ州及び ビオビオ州での調査活動が強化された。
市場開放の深化については、チリは既に 23 の自由貿易協定を有しており、世界的な農業輸出国の地位 を確たるものにするため、政府は各協定の有効活用に積極的に取り組んでいる。具体的には農業省と外務 省の連携が必要であり、新たな市場への輸出を可能にするための交渉と必要な措置の実施が行われている。
ピニェラ政権では37の市場に98の農産品が衛生条件をクリアして輸出が可能となった。
ピニェラ政権はさらに有望な輸出品の特定を行うため、生産者団体との連携を行う「国際貿易委員会 (Comité de Comercio Internacional)」を設立した。同委員会は外務省の国際経済関係総局(DIRECON)、
農業省、SAG及びODEPAで構成され、各農産品の生産者団体の参加が定期的に行われている。民間セク
ターが要請した品目を委員会が特定及び分析し、輸出を可能にするための検疫障壁を取り除く作業に取り 組む。ピニェラ政権はまた、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)及び太平洋同盟といった広域自由貿易 圏構想にも積極的に関わった。
発展のための維持可能な環境の確保
第3の戦略である持続可能な環境の確保に関する具体的な政策として、農業省は①水資源の課題、②土 壌の保全、③森林の保全、及び④再生可能エネルギーを挙げている。
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水資源の重要性を鑑みてピニェラ政権は、公共事業省(MOP)が所轄する「水資源国家戦略2012-2025」 の一環で、農業省とは「灌漑国家戦略」を策定した。具体的な政策としては2020年までに16のダムの建 設を掲げた。これにより、ダム貯水能力は36%増えることになる。また、灌漑事業向けの予算も増加した。
その結果、ピニェラ政権の4年間で合計770キロメートルに及ぶ用水路の改修が行われ、灌漑面積は6.6 万ヘクタール増加した。また、水の有効活用を行うための技術改良として、オンタイムで水位を確認でき るシステムが導入された。また灌漑事業を所掌とする国家灌漑委員会(CNR)と農業省はチリの灌漑政策 である「灌漑促進法」の改正を行い、特に中規模灌漑事業に対する支援が盛り込まれることになった。
土壌の保全について、チリで深刻になりつつある土壌劣化に関する対策が含まれている。ピニェラ政権 は 2010 年に「農地の持続可能な環境のためのインセンティブ制度」の法制化を行なった。土壌劣化の進 行状況について把握するため、天然資源情報センター(CIREN)の下で「チリにおける土壌劣化の現状と 今後の見通し」プログラムが実施され、土壌劣化の進んでいる地域の特定と地図の作成が行われた。これ らの情報を元に農業省は土壌劣化対策のための予算を深刻な地域に優先的に充てた。土壌の生産能力を改 善する農法の導入プログラムが実施され、その対象は66,601農家、合計で63万ヘクタールに及んだ。ま た、植林促進法案である DL701 法の修正案が議会に提出され、これにより土壌劣化の可能性のある林業 に適した地域での植物の植林が促されることになるとしている。
森林の保全では原生林の保全のための資金供与や DL701 法修正案のような植林地域の保全対策が含ま れている。特に原生林の保全を規定する原生林法の修正が行われ、保全目的の予算が4年で45%増加し、
保全対策が行われた面積は33,546ヘクタールに及んだ。またDL701法の下では新たに植林された面積は 年間で約2万ヘクタール増えた。また、森林火災の対策予算も増加され、人員の増加とともに、通信手段 及び機器のデジタル化も進められた。森林火災を起こした者に対する罰則も強化された。
再生可能エネルギーの対策はピニェラ政権の「エネルギー国家戦略 2012-2030」の一環として、自家 発電が促されている。チリ経済振興観光省が行った調査ではチリの農業分野が近年抱えている大きな課題 の一つはエネルギー問題であり、生産者の競争力が削がれる原因の一つとなっているとされている。エネ ルギー問題に対応するため、農業省はエネルギー省及び再生可能エネルギーセンターと連携し、農業活動 から出る産物を元にした再生可能エネルギーの促進政策が策定された。具体的にはCNR の実施している 再生可能エネルギー支援プロジェクトに小型の水力発電事業や、ソーラーパネル等の再生エネルギーを活 用した灌漑施設プロジェクト等が対象とされた。また、農業イノベーション基金(FIA)を通じて林業に おける再生可能エネルギーに対する支援策も開始し、森林公社(CONAF)は発電用の木材エネルギーの 経済的可能性について調査を始めている。
農業省の近代化
第4の戦略である農業省の近代化に関する具体的な政策として、農業省は①適切な機構及び適正な公共 政策、②効率的な政府、③省庁地方事務所の脱中央集権化、及び④市民参加の促進を挙げている。
機構及び公共政策の適正化について、ピニェラ政権は農業省の近代化を大きな目標として掲げた。具体 的には現在の農業省を「農業食料水産林業省(Ministerio de Agricultura, Alimentos, Pesca y Recursos Forestales)」へと名称を変え、より総合的な役割を担わせることである20。水産及び林業分野を含む生産 品及び食品の全生産チェーンを新農業省に管轄させ、全ての生産過程を網羅することにより、食品の無害 化が保障されることが最大の目的である。新農業省に関する法案は2013年12月に議会に提出された。ま た、無害化政策の大きな柱を担うにチリ食品無害性品質庁(ACHIPIA)が農業省に創設された。ACHIPIA の役割については2.3.4で詳述する。
20 現在では漁業庁(SERNAPESCA)は経済振興観光省の管轄内であり、食品の安全基準に関する規定は保健省の所轄であ る。
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効率的な政府について、農業省と関連機関の協力体制が強化され、これまでなかった各機関からの農業 省への定期的な報告体制が確立された。また、農業省からは各州にある省庁地方事務所(SEREMI)に対 する政策指針の伝達体制も整備された。また、省内の情報共有も促され、予算執行の状況を確認できるオ ンラインシステムも設置された。またイノベーション、R&D 及び技術移転の分野で整合性のある政策を 行うため、省内の4つの技術研究機関(FIA、INIA、INFOR及びCIREN)を調整するイノベーション・
ユニットが創設された。
省庁地方事務所(SEREMI)の脱中央集権化政策では、各州のニーズにあった政策実施を可能にするよ うな政策が行われた。具体的には同政策を実施するために各 SEREMI の所長の評価が行われ、脱中央集 権化を実施できる適任者の任用が行われた。また、中央政府の指示系統モデルが州レベルでも再現され、
各州のニーズに合致する農業関連プログラムを実施するための資金の確保が所長の新たな任務となった。
これらの資金は内務省の地方開発次官官房が用意している「地方開発基金(FNDR)」から、農業分野に充 てるように働きかけなければならない。さらに、農牧庁(SAG)では、地方事務所の人事権は各事務所に 移譲され、3 つの広域委員会(北部、中部および南部)が創設され、各地域にもっとも適した政策実施に 関する調整が行われている。
市民参加の促進について、農業省内に「市民対応情報提供総合システム(SIAC)」が創設され、市民か らの問い合わせ、苦情及び意見等は農業省及び各関係機関の担当者に共有される省内ネットワークが整備 された。また、市民への情報提供の一環として、農業省は年次報告書を作成し公表している。
21 世紀に向けた農村社会の整備
第5の戦略である21世紀に向けた農村社会の整備に関する具体的な政策として、農業省は①農村社会 の機会とニーズ、及び②農村開発に関する国家政策を挙げている。
農村社会の機会とニーズでは、農業省は農業活動分野のみならず、農村社会全体のニーズについての対 応策を含めている。具体的には2010年2月にチリ中南部で発生した巨大地震の農村における被害状況を 調査するため、農業省は住宅都市計画省(MINVU)と連携し地方事務所及びINDAPを活用した。調査の結 果、住宅のニーズが高い農村地域ではMINVUがINDAPと協力して被害地域の復興のための対策を実施 した。また、農業省は通信次官官房と連携し、農村地域への電話回線及びインターネットの普及活動に協 力した。その他に、INDAP は教育省と連携し、僻地の子供が学校に通学する際の課題点についての調査 を行った。教育分野では農業省は自前の予算と教育省の指導の下で、優秀な成績で農業学校を卒業した学 生に対する海外トレーニング奨学プログラムを創設した。2012年には20名がニュージーランドで酪農分 野でのトレーニングを受け、2013年にはプログラムは豪州にも拡大され、灌漑及び果実栽培に関するトレ ーニングを含め、合計で34名が参加した。また、国有資産省と連携し、農業省はINDAPを通じて、土地 所有の正規化を促すプログラムを実施した。
農村開発に関する国家政策の政策について、農業省が総合的な農村開発を扱う機関の不在及び長期的な 政策の欠落を補うため、2011 年から他省庁と連携しながら「農村地開発に関する国家政策(Política Nacional de Desarrollo Rural Territorial)」の構想を作成した。同政策では農業省の他に住宅都市計画省、
環境省、公共事業省及び地方開発次官官房が参加し、農村開発に重要な項目を5つ特定した。それらは① 競争力、②環境、③生活水準、④文化および⑤ガバナビリティである。その他に、チリの農村開発につい て考える場を設け、有識者との意見交換及び一般市民向けのセミナーが開催された。
「2010-2014 年」農業政策の進捗状況
農業省が2013年9月に発表した報告書では、ピニェラ政権4年間の農業分野での実績について記され
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ている21。「5大戦略」及び「25の約束」の中で示された127の具体的な行動の内、ピニェラ政権は104 を2013年8月時点で既に履行しており、15は政権内に履行する見込みであるとしている。4年間の農業 分野における約束の履行率は94%に達する計算である。履行が果たされなかった行動は、農業省の組織変 更、代替可能エネルギーの競争力強化及びイノベーションに関するプロジェクト数の増加、2010 年 2 月 27日のチリ南部大地震からのインフラ復興、違法な引水に対する罰則強化の法制化、林業法DL701の修 正等である。
21 (Gobierno de Chile 2013)
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第 2 バチェレ政権の農業政策 2.2.2
2013年12月の大統領選で勝利したバチェレ元大統領(2006―2010年)は4年ぶりに大統領に帰り咲 き、ピニェラ中道右派政権からの政権交代を果たした。バチェレ政権2期目の選挙公約を見てみると、最 大の公約として掲げているのは教育改革であり、その財源確保のためには税制改革を提唱している。これ らの二大公約の他に、チリの選挙制度を大幅に修正する憲法改正も掲げ、選挙の結果勝利を果たした。
また、バチェレ大統領が掲げている公約の中には、先住民に対する歴史的な土地の返還といった、これ までの成長モデルを修正する政策も含まれており、農業分野でも小規模生産者に焦点が当てられ、包摂的 な発展に関する政策が目立つ。競争力強化及びイノベーションがキーワードであったピニェラ政権と比較 すると、第2バチェレ政権では小規模生産者及び包摂的な発展がキーワードであると言える。
表 40 バチェレ政権 2 期目の主要な選挙公約
教育改革 税制改革
(2014 年 9 月 10 日議会で可決) 憲法改正
託児所・保育所の増設 GDP 比 3%の税収増 多数二人制の改革
高等教育(6 年間)の無償化 法人税率の引き上げ 先住民の認知
公立大学の新設 再投資に対する優遇制度の廃止
出所)Michelle Bachelet (2013)
下表はバチェレ政権1期目、ピニェラ政権及びバチェレ政権2期目の農業政策の比較である。主要な項 目を比較すると、政権交代が行われてもチリは伝統的に一貫した政権運営を行っており、それは農業政策 の分野でも同様であるようにみえる。
表 41 歴代政権の農業政策の推移
2006-2010 2010-2014 2014-2018
バチェレ 1 期目 ピニェラ政権 バチェレ 2 期目
農業政策の 5 柱 農業政策の 5 柱 (重点分野)
・農産食品分野でのチリの能力強化 ・農林食品分野のイノベーション及び 競争力強化
・家族農業の生産性強化 ・農産品の品質向上
・全体的な開発の推進 ・流通チェーン、透明性のある市場 ・労働面の強化 ・水利用の整理
・新たな国際情勢に対応するための農牧 林業に関わる公的制度の改革と近代化
・発展のための維持可能な環境の確保 ・農業保険の利用促進 ・市場の確保及び開拓
・チリのエネルギーの多様性確保と拡大 ・農業省の近代化 ・農業省の指導力強化 ・林業の促進
・自然再生資源の持続的利用と生物多様 性の保全
・21 世紀に向けた農村社会の整備 ・関連機関の強化 ・病害虫との闘い 出所)八丁 信正 (2007) 「チリの農業政策ー展望と課題ー」、農業省 (2013) "Visión, Logros y Desafíos 2010-2014", Minagri webpage
しかし、2 期目のバチェレ政権の農業政策は発展した農業分野に小規模生産者及び先住民などの包摂を 促進し、特に家族農業に焦点を当てている。また、人材開発、特定の分野でみられる不均衡な成長、小規 模生産者が抱える融資及びリスク回避メカニズム、より良い生産技術、水資源及び市場への平等な機会へ の困難なアクセスといった課題に取り組むとしている22。バチェレ政権は10の重点分野を設定している。
22 (Michelle Bachelet 2013)
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家族農業の生産性強化
家族農業(AFC)の生産性強化について、生産者の生産性、競争力及び市場へのアクセスの向上に資する
政策を実施する。具体的には投資、人材開発、研究開発及びイノベーションの移転に重点が置かれる。重 要な分野ごとの戦略が策定され、競争力の向上を実現するためのボトルネックとなっている課題を特定す ることが掲げられている。実施されるプログラムでは生産者の組織化及び組合化が促され、「技術移転グル ープ」及び協同組合が強化され、技術指導に対する優先的なアクセスが確保される。
また、土地所有の正規化を促すため、「土地所有正規化プラン」の適用範囲が拡大される。人材開発の分 野ではINDAP及び労働社会福祉省内の研修・雇用庁(SENCE)を通じて、農業学校、専門学校及び大学 との提携を模索することが盛り込まれている。また、INDAP の融資を超過債務している小規模生産者に 対して、対象者の状況を勘案しながら救済策を講じることが明記されている。
労働面の強化
労働面の強化について、労働現場での衛生及び安全要件を順守するための監視プランを策定し、違反者 に対する罰則を適用する。また、季節労働者の保護を目的に「農業における季節労働及び季節労働者に関 する法令」を策定し、議会に提出する。
農業保険の利用促進
農業保険の利用促進では、中小生産者の加入を促し、4年間で保険のカバー率を50%増加することを目 標にする。
農業省の指導力強化
農業省の指導力強化では、一次生産者から消費者までの生産チェーンの関係者の参加を含めた、官民協 働プログラムを復活させることが明記されており、分野別の視点から脱し、クラスター及び生産チェーン
(畑から食卓までのチェーン)からの視点を持つことを掲げている。
関連機関の強化
関連機関の強化では、食品の無害化政策の管轄機関として食品無害性品質庁(ACHIPIA)の役割を強化 することが明記されている。
農産品の品質向上
品質向上の面では、生産者及び生産者ネットワークに対して品質向上及び差別化のための支援を行う。
これら二項目をチリ農業の競争力強化の柱として据え、差別化に資する認証の取得を促進する。INIA の 行う研究活動やプロジェクトを、健康食品生産のための機能食材の特定、取得及びその活用の研究へと焦 点を移すことが掲げられている。品質向上を行うためには、農業省内の研究・イノベーション機関の整理 と強化が必要であると説明されている。
水利用の整理
水資源の利用について、バチェレ政権2期目では、水法の修正を行い、水は公用目的の国家資源として 位置付けることを掲げている。また、用水路、深井戸及び灌漑施設の改善が行われ、そのための予算が増 加される見込みである。干ばつに対応するために、短・中・長期的な政策を策定する「水資源大統領代理」
を任命する。大型な灌漑事業について、各地におけるダムの建設プログラムを進め、灌漑面積の増加を促
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すことが説明されている。さらに、法律第 18.450 号で定められている灌漑事業への予算を増加し、地方 行政機関及び生産者団体などとの共同プログラムを拡大する。特に小規模生産者が土壌改良及び課外施設 に投資するための支援金を用意することが盛り込まれている。
市場の確保及び開拓
市場の確保及び開拓では融資費用およびリスクを軽減することにより、商品の流通を改善させることが 掲げられている。そのためには輸出促進基金の適用を拡大する。輸出促進の面では、主要国にある農務ア タッシェの役割の再定義と再配置が行われ、海外市場へのアクセスを深化させるためにPROCHILEの強 化が行われる。また、農業向けの為替リスク軽減、及び基本財価格の変動リスク軽減に関する金融商品を 開発する。また、畜産業に対する融資商品の近代化も検討されると謳っている。さらに、食品及び林業分 野で消費者または生産者に不利益をもたらす取引を監視する組織をODEPA内に創設する。また、チリの 生産者と輸出業者に対する海外からのダンピング及び補助金関連の非難に対応するための「市場保護基金」
を創設することも盛り込まれている。
林業の促進
林業分野では植林を促進するDL71法の2年間の延長を行うとともに、同法に中小生産者が参加できる ための修正案を策定する。林業に特化した「林業研究、開発及び技術移転プログラム」を実施する。また、
中小企業の製品差別化と付加価値化を促すための戦略を策定することが掲げられている。
病害虫との闘い
病害虫への対策として、輸出を脅かす病害虫の発生に対する緊急プログラムを創設し、また、農牧庁
(SAG)の技術力を強化することも具体的な政策の一つとなっている。
上記の重点分野以外に、バチェレ政権 2 期目では、2009 年に法制化された「植物新品種法(通称「モ ンサント法」)の再検討が公約の中に明記されている。同法は世界知的所有権機関(WIPO)の「植物の新 品種の保護に関する国際条約(UPOV 条約)」に準ずる内容となっており、植物の新品種を開発した者の 知的財産権が認められるものである。生産性及び競争力の向上、または技術開発の促進を目的に1期目の バチェレ政権が同法の法制化に取り組んだが、モンサント社に代表される民間企業による新品種の独占が 進むという市民社会からの反対の声を受け、2 期目のバチェレ政権は同法の見直しを行うことを謳ってい る。
その他の政策(漁業分野)
チリの漁業(養殖を含む)は経済振興観光省傘下の漁業次官官房(SUBPESCA)の管轄となっている。
そのため、農業省で述べられている政策には漁業が含まれていない。SUBPESCA が発表している
2014-2018年の政策では「陸からの1海里には海草、底生資源及び小規模養殖業があり、チリ小規模漁業
の将来がここにある」と記されており、小規模漁業者に焦点があてられている。具体的にはSUBPESCA は小規模養殖業の法律の制定、小規模漁業団体が漁獲を行っている海域の一定の所有権の付与が挙げられ ている。その他に、底生資源漁業の維持可能な発展のための法的枠組みの制定も記されており、海草資源 の回復のための支援も挙げられている。
「2014-2018 年」農業政策の進捗状況
バチェレ政権は2014年3月に発足し、同年6 月には政権就任後100日目には履行すると公約した50 の約束の進捗状況について発表した。農業分野では3つの約束を掲げた。それらは以下のとおりである:
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INDAPの融資を超過債務している小規模生産者に対して、対象者の状況を勘案しながら救
済策を講じる。
旱魃に対応するために、短・中・長期的な政策を策定する「水資源大統領代理」を任命する。
小規模漁業促進基金の予算を倍増し、インフラ、職業訓練、資源増加及び流通化を支援する。
INDAPの債務者に対して、INDAP代表の行政通達を通じて「債務不履行者」に該当する者の債務が 2014年4月10日付で帳消しになった。INDAPはさらに、5年以内の債務履歴を有する者で返済が困 難な約7千の小規模生産者に対してケースごとの返済計画プログラムを行うことを発表した。
「水資源大統領代理」について、バチェレ大統領は2014年3月28日にReinaldo Ruiz Valdésを任 命した。Valdés大統領代理は2008年から2010年の間農業省次官、その前はODEPAの局長を務めた 人物である。
小規模漁業促進基金は経済振興観光省の漁業次官官房(SUBPESCA)が管轄している基金であり、
漁業団体の自主的なプロジェクトに対して政府が資金的な支援を行うためのものである。バチェレ大統 領は2014年4月11日に同基金の予算を倍増することを発表した。
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農産品の品質向上に向けた施策 2.2.3
バチェレ政権の「農産品の品質向上」とは具体的には食品の無害性の保証を意味している。チリ政府の 大きな目標は「畑から食卓まで安全な食品を保証する」ことであり、種々な政策はこの目標に向かってい る。バチェレ政権下の農業省が行っている主な政策は以下の通り:
灌漑政策(農地の拡大)
地方市場の活性化(農村開発)
食品の無害性(品質向上)
食品の付加価値化(品質向上)
チリ政府は「Potencia Alimentaria(農産品立国)」をめざし、2009年に「食品無害性国家政策(Política Nacional de Inocuidad de los Alimentos)」を発表した。これにより、農業省内にチリ食品無害性品質庁
(ACHIPIA)が設置され、同庁はチリの食品の無害性と品質向上を所掌とした。ACHIPIAはEUの欧州 食品安全庁(EFSA)をモデルに作られ、具体的には以下の3機関と連携している:
保健省(MINSAL):国内に流通する食品の安全性を監督
経済振興観光省内の漁業庁(SERNAPESCA):輸出用の水産物の安全性を監督 農業省内の農牧庁(SAG):輸出用の農産品の安全性を監督
これらの 3 機関に加え、農業省、外務省の国際経済関係総局(DIRECON)及び大統領府の代表者が ACHIPIAの諮問委員会(agencia consultiva)を構成し、チリ国内外の食品の品質を保証している。また、
チリ政府は国際的な食品の規格を決めるコーデックス委員会への積極的な参加を 2009 年の政策でも定め ている。具体的な行動としては、ACHIPIA はチリ国内関係者から意見を吸い上げ、それをコーデックス 委員会に反映させることを目指している。これは結果的にはチリ農産品の国際競争力強化につながる。
また、保健省は省令No.187(Resolucion Exenta)を通じて、食品加工者の製造工程に関する衛生管理法 を導入している(実質的には HACCP の基準に準じている)。これによりチリ国内の加工者は国際的に共 通する基準を保障できるようになっている。農業省はこれを支援し、HACCPに関する人材育成や説明会 等を行い、その普及に努めた。現在ではHACCPの民間認証機関がチリに多数存在し、企業の中で国際標 準であるHACCPを自主的に取得する動きがある。
さらに、ACHIPIA では無害化のみならず、品質改善についても焦点を当てることを期待されている。
具体的には安全上問題とされない品質であっても、商業の観点から重要とされる品質の保証についても
ACHIPIAが調整機関として他機関と連携することが考えられている。このアプローチについては例えば、
SAG では有機食品に関する規定を定めている事例があり、または保健省の HACCP 基準といったような 品質保証の規定を全フードバリューチェーンを通して見ることのできる機関としてACHIPIAに権限が与 えられるよう議論が進んでいる。
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プライスバンド制度の廃止と今後の小麦政策
232.2.4
1986年から続いていた小麦や小麦粉のプライスバンド制度は、2007年にWTOの農業協定に違反して いると判断され、2014年には廃止された。
プライスバンド制度は国内の価格安定を図る目的で導入され、最高価格と最低価格を設定し、輸入価格 がその価格帯を下回るときは差額分の特定関税を課し、上回るときは関税を免除することによって、国内 に入る価格を一定に保つ仕組みである。植物油、砂糖、小麦及び小麦粉について適用された。ただし、導 入時から最低価格は国際価格を大きく上回って設定され、実質上、国内小麦農家の保護のための輸入障壁 となっていた。また、小麦についてはセーフガードもたびたび発動されたことから、主要輸出国であるア ルゼンチンがプライスバンドが可変輸入課徴金にあたるという点およびセーフガードについてWTOに申 し立て、2001年にパネルが設置された。WTO裁定に従い、チリは2003年に価格帯を大幅に引き下げ(小 麦:最低価格128米ドル/トン,最高価格148米ドル/トン)、これを2007年まで固定とし、その後2014 年まで漸減させ、その後は廃止を含めて検討するとした。アルゼンチンはこの措置を不服として、2005 年に再度WTOに提訴、2007年にはチリの措置が不適切とする裁定が出された。2008年にチリは議会で 新たなプライスバンド法案を議論したが、否決され、現行法が 2014 年に期限切れを迎えることから、そ のまま廃止となった。
この間、2007年以降、国際的な小麦価格は高騰し、チリの定めた価格帯を大きく上回る状況となった。
このため、特定関税は課されない状況が続いている。小麦はチリの主食であり、農産物栽培面積の多くを 占める品目であるが、アルゼンチンに比べて経営規模が小さく、6 割程度の自給率であったため、農業保 護的施策が少ないチリで、プライスバンドを通じて比較的手厚い保護が与えられてきた。生産量、生産面 積ともに減少傾向ではあるものの、現在は国際価格の高騰によって下げ止まりの様相をみせている。プラ イスバンド制度の廃止は、現状の国際相場が続けば、農業生産には影響を与えないものと考えられる。さ らに、近年のアルゼンチン側からの小麦の輸出制限にも影響され、現在では小麦の最大の輸入相手国は米 国となっており、チリは同国とのFTAの枠組みの中でプライスバンド制度を2015年1月1日から廃止す ることを約束しており、実質的な自由貿易へと移行しているといえる。
出所)ODEPA 及び COTRISA
23 宮石幸雄, 2013, 「カントリーレポート:チリ」http://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/project/cr_24_03.html
0 250 500 750 1,000 1,250 1,500 1,750 2,000
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
(千トン) (千Ha)
生産面積(左軸) 生産量(右軸)
100120 140160 180200 220240 260280 300320 340360 380400
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(米ドル/Ton)
最高価格(FOB) 最低価格(FOB) 輸入価格(CIF)
図 7 小麦生産の推移 図 8 プライスバンドと輸入価格の推移
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表 42 チリの小麦及び小麦粉の輸入推移
小麦 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
輸入額 (百万米ドル)
米国 7 6 47 142 150 53 116 142 60 241
カナダ 26 21 33 45 55 80 35 60 39 70
アルゼンチン 11 10 97 97 80 31 6 23 178 15
ウルグアイ 0 0 0 0 17 0 0 0 6 2
その他 1 0 0 2 7 3 0 0 1 0
合計 45 37 177 286 310 167 157 226 283 327
輸入量 (千トン)
米国 40 30 296 518 400 223 470 417 178 704
カナダ 120 105 172 151 123 321 142 164 117 191 アルゼンチン 62 57 561 411 221 134 20 75 597 41
ウルグアイ 0 0 0 0 37 0 0 0 17 4
その他 6 0 0 9 12 10 0 0 2 0
合計 228 191 1,029 1,088 792 688 633 656 911 940
小麦粉 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
輸入額 (百万米ドル)
アルゼンチン 3 3 4 9 8 4 3 0 3 1
ペルー 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
イタリア 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
その他 1 0 0 2 3 2 0 1 0 0
合計 4 3 4 11 11 6 3 1 3 2
輸入量 (千トン)
イタリア 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
アルゼンチン 5 3 3 5 1 0 0 0 1 0
ペルー 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
その他 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0
合計 6 3 3 5 2 0 1 0 1 0
出所)ITC
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地理的表示(GI)制度
242.2.5
産業財産法に地理的表示及び原産地名称に関する章が設けられており、「第 IX 章:地理的表示及び原 産地名称」の 94 ~104 条に規定されている。チリ産業財産庁(INAPI)が管轄している。チリの地理的 表示は以下の3点を目的とする。①該当地域の生産者の組織化の奨励及び促進、②該当商品の国内市場及 び国際市場に対するアクセスの促進、③広告宣伝、並びに地域、国内及び国際レベルで販売する商品の改 善。
INAPI自身も地理的表示と原産地名称は基本的には同じものであると説明しているが、地理的表示につ
いては、商品の特性に影響を与える要因は自然条件とし、世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連 の側面に関する協定(TRIPS協定)で定められた定義が採用されており、原産地名称では、商品の特性に 影響を与える要因として自然要因に加えて人的要因(ノウハウや経験等)があると明記し、世界知的所有 権機関(WIPO)の原産地呼称の保護及び国際登録に関するリスボン協定における定義が用いられている。
法的な保護効力について一部ワイン及びスピリッツに限定されている項目があるものの、地理的表示の 対象となる商品について制限する規定はない。地理的表示の登録第一号は第1州ピカ市産のレモンであり、
その後スペイン産の菓子等の海外の商品の登録がある。現在では5つのチリ産商品が地理的表示として登 録されている。
原産地呼称については、農業省が1995年に省令第464号において、ワインに関する原産地呼称法を定 めた。同法では産地、品種の種類及び収穫年等に関する表示の規定が記載されている25。ワイン以外の原 産地呼称では、キューバ産葉巻(Habanos)やメキシコ産テキーラ等の外国産商品も登録されており、チ リ産商品として民芸品の他に、伝統的な製塩法を用いて作られるカウイル・ビイェルカ産の塩が登録され ている。
なお、チリにおいては、外国の地理的表示及び原産地呼称は、産業財産権法に従い、認可申請が可能で あり、登録できる。ただし、登録本国において保護されているか、使用されている場合に限られる。なお、
登録後に、本国において保護又は使用されなくなった場合は、当該保護が失効する。
表 43 チリ産の原産地呼称及び地理的表示一覧 地理的表示
Limón de Pica 第 1 州ピカ市産のレモン
Langosta de Juan Fernandez フアン・フェルナンデス諸島産の大エビ Atún de Isla de Pascua イースター島産のキハダマグロ Cangrejo Dorado de Juan Fernandez フアン・フェルナンデス諸島産のカニ Dulces de la Ligua 第 5 州リグア市産の菓子
原産地呼称
Sal de Cahuil Boyeruca Lo Valdivia 第 6 及び第 7 州にまたがるカウイル・ボイェルカ地方産の塩 Alfareria de Pomaire 首都州メリピリャ市ポマイレ地方産の陶芸品
Alfarería de Quinchamalí 第 8 州キンチャマリ地方産の陶芸品 Chamantos y Mantas Corrales de Doñihue 第 6 州ドニゥエ地方産の織物 出所)INAPI
24 社団法人日本国際知的財産保護協会, 2012, 諸外国の地理的表示保護制度及び同保護を巡る国際的動向に関する調 査研究 http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken_kouhyou/h23_report_01.pdf
25 (Ministerio de Agricultura 1995)
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表 44 ワインの原産地呼称一覧
出所)農業省
WINE REGION SUB-REGION ZONE
COPIAPO VALLEY HUASCO VALLEY
LA SERENA Costa
VICUÑA Andes
PAIGUANO Andes
OVALLE Costa
MONTE PATRIA Andes
PUNITAQUI Entre Cordilleras RIO HURTADO Andes
SALAMANCA Andes
ILLAPEL Andes
ZAPALLAR Costa
QUILLOTA Costa
HIJUELAS Entre Cordilleras PANQUEHUE Entre Cordilleras CATEMU Entre Cordilleras LLAILLAY Entre Cordilleras SAN FELIPE Entre Cordilleras SANTA MARIA Andes
CALLE LARGA Andes SAN ESTEBAN Andes
CASABLANCA VALLEY CASABLANCA Costa
SAN JUAN Costa
SANTO DOMINGO Costa
CARTAGENA Costa
ALGARROBO Costa
MARGA MARGA Costa
SANTIAGO Andes
PIRQUE Andes
PUENTE ALTO Andes
BUIN Andes
ISLA DE MAIPO Entre Cordilleras TALAGANTE Entre Cordilleras MELIPILLA Entre Cordilleras ALHUE Entre Cordilleras MARIA PINTO Entre Cordilleras COLINA Entre Cordilleras CALERA DE TANGO Entre Cordilleras TIL TIL Entre Cordilleras LAMPA Entre Cordilleras RANCAGUA Entre Cordilleras
REQUINOA Andes
RENGO Andes
PEUMO Entre Cordilleras
MACHALI Andes
COLTAUCO Entre Cordilleras SAN FERNANDO Andes
CHIMBARONGO Andes
NANCAGUA Entre Cordilleras SANTA CRUZ Entre Cordilleras PALMILLA Entre Cordilleras PERALILLO Entre Cordilleras
LOLOL Costa
MARCHIGUE Entre Cordilleras
LITUECHE Costa
LA ESTRELLA Entre Cordilleras
PAREDONES Costa
PUMANQUE Costa
RAUCO Entre Cordilleras
ROMERAL Andes
VICHUQUEN Costa
MOLINA Andes
SAGRADA FAMILIA Entre Cordilleras TALCA Entre Cordilleras PENCAHUE Entre Cordilleras SAN CLEMENTE Andes
SAN RAFAEL Entre Cordilleras
EMPEDRADO Costa
CUREPTO Costa
SAN JAVIER Entre Cordilleras VILLA ALEGRE Entre Cordilleras PARRAL Entre Cordilleras LINARES Entre Cordilleras
COLBUN Andes
LONGAVI Entre Cordilleras RETIRO Entre Cordilleras TUTUVEN VALLEY CAUQUENES Entre Cordilleras CHILLAN Entre Cordilleras QUILLON Entre Cordilleras PORTEZUELO Costa
COELEMU Costa
YUMBEL Entre Cordilleras MULCHEN Entre Cordilleras
MALLECO VALLEY TRAIGUEN Entre Cordilleras
CAUTIN VALLEY OSORNO VALLEY
AREA ATACAMA REGION
ELQUI VALLEY
LIMARI NALLEY
CHOAPA VALLEY COQUIMBO REGION
LEYDA
MAIPO VALLEY
CACHAPOAL VALLEY
COLCHAGUA VALLEY RAPEL VALLEY
TENO VALLEY LONTUE VALLEY
CLARO VALLEY CURICO VALLEY
LONCOMILLA VALLEY MAULE VALLEY
CENTRAL VALLEY REGION ACONCAGUA REGION
ITATA VALLEY
BIO BIO VALLEY
AUSTRAL REGION SOUTH REGION
SAN ANTONIO VALLEY ACONCAGUA VALLEY
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2.3 貿易政策
FTA/EPA 政策の動向 2.3.1
1990年の民政移管以降、チリは積極的な経済連携協定の締結に取り組み、現在ではそのネットワークは 23本、計61か国に及ぶ。これは世界GDPの90%の国と地域に有利な条件で輸出が行えることを意味し ている。
表 45 チリの経済協定一覧(2014 年 8 月現在)
経済連携協定/自由貿易協定 調印済み協定 部分的到達協定
発効年月 国 発効年月 国 調印年月 国 発効年月 国
1997年7月 カナダ 2007年9月 日本 2012年9月 香港 2007年8月 インド
1999年7月 メキシコ 2008年3月 パナマ 2013年10月 タイ 2008年6月 キューバ
2002年2月 中米5カ国 2009年3月 ペルー
2003年2月 EU 2009年3月 豪州
2004年1月 米国 2009年5月 コロンビア 経済補完協定(ACE) 交渉中 2004年4月 韓国 2010年1月 エクアドル 発効年月 国 TPP
2004年12月 EFTA 2011年3月 トルコ 1993年4月 ボリビア 太平洋同盟
2006年10月 中国 2012年4月 マレーシア 1993年7月 ベネズエラ インドネシア 2006年11月 P4 2014年1月 ベトナム 1996年10月 メルコスール
出所)DIRECON
チリのこうした対外開放政策は政権が代わっても堅持されており、コンセンサスの取れている政策であ ると言える。ピニェラ政権ではアジア諸国への接近が積極的に行われ、同政権中ではベトナム、マレーシ ア、中国(投資部門)、香港及びタイとの自由貿易協定が署名され、インドとは部分的到達協定から自由貿 易協定への拡大交渉が始められた。ピニェラ政権はまた、広域な自由貿易圏構想に関する交渉にも積極的 に関わり、同政権内では太平洋同盟及び環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉が進められた。こう して、ピニェラ政権の貿易政策の特徴はアジアでのプレゼンス強化であったということが出来る。
ピニェラ政権と比べ、第2バチェレ政権はアジア重視の姿勢を保ちつつ、近隣諸国、とくにメルコスー ルとの関係を重視していると言われている。アジア重視の姿勢としては、2015 年 1 月時点ではチリ政府 はインドネシアとの自由貿易協定の交渉を行い、今後フィリピンとの交渉に関心を示している。また、ア ジア各国との二国間協定のみならず、バチェレ政権はASEAN全体との関係強化も模索している。バチェ レ政権はさらに、アジア太平洋の特別大使としてエドゥアルド・フレイ元大統領を任命し、同地域におけ るチリのプレゼンス向上及び中国等からの投資誘致に大きな役割を果たすことを期待されている。また、
チリ政府は、既結の貿易協定では十分に活用がされていない分野があるとチリ政府が見ており、特にSPS 及びTBT等の非関税障壁の分野で、今後貿易協定の有効活用のための交渉を行うことを目指している。
他方、近隣諸国との関係強化においては、外務省の国際経済関係総局(DIRECON)は現政権ではラテ ンアメリカ諸国に焦点を置くことを掲げており、アジア太平洋とメルコスールの統合にチリが主要な役割 を果たすことを目指している。太平洋同盟及びメルコスールとの関係については後述するとして、チリ政 府はアジア及び中南米以外で関心を示している地域としては、ユーロアジアと言われるロシア及び旧ソ連 諸国、その他に GCC の中東諸国及び南アフリカが挙げられる。特にロシアは果実、ワイン及び食肉等の 農林水産分野で有望な輸出貿易相手国になることを期待している。
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