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はじめに —本調査研究の概要—

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Academic year: 2022

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はじめに  —本調査研究の概要—

1  本調査研究の目的

  今日では個人の健康診断データは、デジタル情報として包括的かつ経年的に 多容量を取り扱うことが可能になってきているが、特に中小企業では健康診断 の有効活用を行う体制の構築は困難であること多いことが予想される。本研究 を通じ、有効な健康診断ツールを開発提供することで、中小企業における産業 保健推進のモデルを構築することができると思われる。さらに中小企業におい て産業保健サービスを向上させることは、良質な労働リソースなど社会基盤の 維持につながり、国民生活の質の向上をもたらす事も期待される。本研究は、

国内中小企業における健康診断の活用実態を調査し、中小企業に提供可能な健 康診断統合電子カルテあるいはツールを開発し、より実効的な産業保健サービ スの定着と産業保健活動の充実を図る事を目的とする。

  本研究では、企業外健診機関と、その機関と産業医契約をしている中小事業 所を中心に次の開発研究と調査とを行う事を計画している。(3年計画の2年目) 2  研究の方法・内容

(1)事業所における健康診断システム活用に関する実態調査:本研究の基礎情 報の確保及び産業保健サービスの重要な手法である保健指導の中小企業におけ る実施の促進を図る方策の開発の基礎資料を得るため、企業外健診機関におけ る健康診断及び保健指導の実態等について質問票による調査を行った。

(2)保健指導マニュアルの製作と汎用性・低コスト性を重視した産業保健電子 カルテおよびツール(パーソナルヘルスレコード:PHR)・システムの開発:⑴に おける調査結果から、健診機関は保健指導について安衛法に基づく保健指導は 十分には実施されておらず、保健指導実施のためのマニュアルがない、などの 環境整備の課題など、健診事後措置に関するいくつかの課題が明らかになった。

この結果を踏まえ、平成26年度では労働者を対象とした健診結果に基づく保健 指導マニュアルの作成を試みた。このマニュアルは、後述の産業保健電子カル テシステムとの連動を想定していて、健診の事後措置としての保健指導を経時 的に記録することを包含している。

(2)

  また、電子カルテのパイロット版としては、汎用性を重視し、FileMaker Pro を使用することとした。特に中小企業における嘱託産業医が従業員個々の就業 判定・健診事後措置を行うにあたり容易に扱えることを目的とした。(1)の調 査結果より、汎用性の高いスタンドアローンのソフトウエア使用をベースにし ながら、PHRおよび産業保健版電子カルテのプロトタイプをデザインし制作 した。このツールは、特に中小企業における嘱託産業医が従業員個々の就業判 定・健診事後措置を行うにあたり容易に扱えることが前提であり、また健康診 断情報が経年的にかつ多重的にデジタルデータとしてリンク参照できるものを 構築した。(本年度までの成果)

(3)開発電子カルテおよびツール・システムを用いた介入実証実験:企業外健 診機関の協力の下、従業員数が数百名以下の中小企業のうち10社程度を対象に 健康診断データ管理と事後措置体制に開発ツールを組み込む介入実証実験を行 う。(次年度の計画)

  本報告書は以上の内容のうち、研究 2 年目の結果を中間報告としてまとめた ものである。

3  研究班構成員等 分担研究者

大神  明 (主任研究者)

産業医科大学・産業生態科学研究所・

作業関連疾患予防学

教授

喜多村紘子 産業医科大学・産業生態科学研究所・

作業関連疾患予防学

助教

只野  祐 (公社)全国労働衛生団体連合会 専務理事

小林祐一 産業医科大学・産業生態科学研究所・

産業保健経営学

非常勤講師

櫻木園子 一般財団法人京都工場保健会 医療次長

永田智久 産業医科大学・産業生態科学研究所・

産業保健経営学

助教

塩田直樹 産業医科大学・小児科学 非常勤助教

中尾  智 産業医科大学・産業生態科学研究所・

産業保健管理学

非常勤助教

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研究協力者

 佐々木敏雄  (バイオコミュニケーション株式会社  企画室長)

 安藤  肇  (産業医科大学  産業生態科学研究所  作業関連疾患予防学  修練医)

 全国労働衛生機関団体連合会  (全衛連):保健指導手引作成委員会 大神  明 産業医科大学産業生態科学研究所作業関連疾患予防学  教授 加藤京子 (公財)東京都予防医学協会健康増進部  健康増進課長 澤田典子 (一財)京都工場保健会総務部  参与

鳥羽山睦子 (社福)聖隷福祉事業団  保健事業部  保健看護管理部長 只野  祐 (公社)全国労働衛生団体連合会  専務理事

委員長  福田崇典 (社福)聖隷福祉事業団  常務理事・保健事業部長

  石井義侑  (全国労働衛生機関団体連合会、  産業医科大学  産業衛生教授)

4  調査研究活動経過(今年度分)

第1回  研究班会議  平成26年9月26日開催 第2回  研究班会議  平成27年2月26日開催

全衛連:保健指導手引作成委員会(手引原案の制作・取りまとめ) 第1回  委員会  平成26年12月10日開催

第2回  委員会  平成27年2月26日開催 5  今後の活動計画

(4)

3年目(研究最終年)となる平成27年度は、次の事項を実施する計画である。

① 平成 26 年度の研究にて制作したツールを活用した嘱託産業医活動の実証実 験の実施。

② 平成 26 年度の研究にて暫定的に制作した「保健指導の手引」の分担研究者 による実証改訂作業。

(5)

厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

総括研究報告書

中小企業用産業保健電子カルテの開発とそれによる効果的・効率 的な産業保健手法に関する検討

総括研究者:産業医科大学  産業生態科学研究所 

作業関連疾患予防学  大神  明

【はじめに】

  厚生労働省科学研究費補助金によ り、労働安全衛生総合研究事業として

「中小企業用産業保健電子カルテの 開発とそれによる効果的・効率的な産 業保健手法に関する検討」を平成 25 年度より開始した。

  労働安全衛生法に規定された健康 診断では、事業場における健康診断は、

事業者の責任の下に、法律によって個 人健康情報を管理することとなって いる。本研究では、この労働安全衛生 法における健康診断の目的を踏まえ つつ、いわゆる「電子カルテ」に匹敵す るデジタル情報管理システムを、産業 保健スタッフのワークフローから作 成しようとする試みである。健康診断 は一口に言っても,現状では多くの概 念が混在していることは昨年度の報 告書の中でも指摘したとおりである、

すなわち、疾病の早期発見を主体とし た「がん検診」、「特定保健指導」「人

間ドック」、などの概念と、労働安全 衛生法が目的とする個人に対する健 康管理と職場環境の包括的な健康管 理の概念とを同一に取り扱うことは 容易ではない。

  この研究の骨子は、中小企業による デジタル技術を基盤としたデータ活 用システムの開発であるが、以上のよ うな状況を鑑み、最終的にはライフス パンにわたる健康情報を個人健康記 録(Personal Health Record: PHR)

として活用することを想定している。

一方で中小企業の状況を見てみても、

少子高齢化、非正規雇用の拡大、終身 雇用制の衰退、情報のIT化、などの 社会情勢もあり、その情報により個人 が自分自身の健康を管理するという 点で、健康診断による情報が十分に活 用されているとは言いがたい。今日で は個人の健康診断データは、技術的革 新と高度情報化の中で、デジタル情報 として包括的かつ経年的に多容量を

(6)

取り扱うことが可能になってきてい るが、特に中小企業では健康診断の有 効活用に対する十分な体制の構築は 困難であること多いことが予想され る。中小企業の産業保健の課題として、

1)経営基盤の脆弱性、2)労働者の 高齢化、3)安全衛生に関する知識を 有する人材不足、4)個人健康記録の 保管管理・プライバシー保護の困難、

5)配置転換などの適切な就業措置の 困難、等の点が指摘されている。(産 業 医 学 レ ビ ュ ー   8 月 号 p105−35  2008)中小企業向け産業保健版電子カ ルテの設計にあたってはこれら中小 企業特有の課題を考慮しながら、それ に応じたシステムの構築が必要と思 われる。

【現在までの経緯】

  この厚生労働省科学研究において は平成 26 年度までに以下の事項を行 ってきた。

(Ⅰ)事業所における健康診断システ ム活用に関する実態調査および企業 外健診機関の健康診断及び保健指導 の実態調査の実施と、その結果に基づ く保健指導マニュアルの製作。

  平成 25 年度に国内において職域の 健康診断を実施している健診機関537 機関を対象とする郵送によるアンケ ート調査を行い、190健診機関(35.4%)

から回答を得た。調査結果から、健診

機関は保健指導について安衛法に基 づく保健指導は十分には実施されて おらず、保健指導実施のためのマニュ アルがない、などの環境整備の課題な ど、健診事後措置に関するいくつかの 課題が明らかになった。この結果を踏 まえ、平成 26 年度では労働者を対象 とした健診結果に基づく保健指導マ ニュアルの作成を試みた。このマニュ アルは、(Ⅱ)の産業保健電子カルテシ ステムとの連動を想定していて、健診 の事後措置としての保健指導を経時 的に記録することを包含している。

(Ⅱ)汎用性・低コスト性を重視した 産業保健電子カルテおよびツール(パ ーソナルヘルスレコード:PHR)・シ ステムの開発

電子カルテのパイロット版としては、

汎用性を重視し、FileMaker Proを使 用することとした。特に中小企業にお ける嘱託産業医が従業員個々の就業 判定・健診事後措置を行うにあたり容 易に扱えることを目的とした。実際に 取り扱う情報の種類は、3種類の情報 ユニットを考案した。「健診データユ ニット」として、一般健診データ、雇 い入れ健診データ、(特殊健診データ)、 二次健診結果データ、主治医意見デー タが格納されるユニットを想定した。

このユニットには主として健診機関 からの情報が入り、ストレスチェック 結果データも格納されると思われる。

(7)

「勤務情報ユニット」は事業場の情報 を格納するユニットであり、職制情報、

勤怠情報、作業状況情報・作業環境評 価データなどが格納される。「産業保 健スタッフユニット」は、産業保健ス タッフによる情報を格納するユニッ トであり、面談報告書、産業医意見書、

巡視記録、就業判定結果等が含まれる。

本研究における最小モデルにおいて は、社員マスタ(社員番号・氏名・所

属等の基本情報)、健康診断結果、面 談記録(個別面談の記録)、文書(紹 介状等)、就業上の措置履歴等を初期 段階では取り扱うこととした。これら の情報の種類別にテーブルおよびフ ァイルを分割し、リレーショナル・デ ータベース(RDB)構造とした。また、

データベースを産業保健スタッフと 事業所間との間のネットワークとし て活用するシステムの構築を試みた。

【iPHRのいくつかの型】

 

この産業保健電子カルテを汎用的に iPHR (industrial Personal Health

Record)と称し、設計および運用の概

念を構築することを試みた。

前述のようにこのiPHRの設計にあた っては、低コストと簡便性がキーワー ドとなるが、実際には以下のような運 用型が想定される。

1)  産業医および産業保健スタッ フが主導でデータベースを構 築するタイプ「産業保健スタッ フ主導型」(図1)

このタイプは上述のファイル メーカーや個人用サーバーな どを用いた比較的ミニマムな タイプのシステムである。

契約している事業所と嘱託産

業医との間にネットを介した 専用線を設置し、事業所から健 診データと勤怠データをこの サーバーにアップロードし、産 業医および産業保健スタッフ は秘密保持契約などに明示さ れた手段によるセキュリティ を担保した上で、事業所との相 互運用を図るものである。この タイプでは、産業保健スタッフ が直接ファイルメーカーなど のソフトウエアをカスタマイ ズすることが可能であり、また、

市販のソフトウエアと既存の インターネット環境とを併用 することにより、簡便性と低コ ストを実現容易である。

(8)

図1:産業医が主導でデータベースを構築するタイプのiPHR

2)  健診機関が主体となってデー タベースを構築するタイプ「健 診機関主導型」(図2)

このタイプは主に健診機関に データベースサーバーを設置 する、あるいは健診機関がデー タベースを管理する、という形 態である。現況では、健診機関

には多数の事業所が健診契約 を結んでおり、またそれに付随 して産業医契約を結んでいる。

健診機関が契約している嘱託 産業医と事業所との業務の基 幹施設となることにより、産業 保健サービスの充実を図るこ とが可能になると思われる。

図2:健診機関が主体となってデータベースを構築するタイプのiPHR

iPHR 

事業場 

業保健スタッフ 

健診依頼 結果報告 

健診データ 事業場データ 勤怠データ 

面談報告 巡視報告 就業措置意見書 

メンテナンス 技術者 

嘱託契約 データ取扱契約

業保健活動 

iPHR

  健診機関 

業保健スタッフ 

事業場 

嘱託契約 データ取扱契約 

タ取

  面談報告

巡視報告

就業措置意見書  健診データ 事業場データ 勤怠データ  健診依頼

結果報告  保健 活動 

(9)

3)  外部団体がデータベースを構 築し、事業所、健診機関、産業 保健スタッフをつなぐタイプ

「外部委託型」

このタイプは、外部団体(業者)

がデータベース(サーバー)を 所持し、産業保健スタッフ、健 診機関、事業所とそれぞれ契約 を交わし、産業保健活動を支援 する形態をとる。

図3:外部団体がデータベースを構築し、事業所、健診機関、産業保健スタッフ

をつなぐタイプのiPHR

以上の各対応を想定し、それぞれに適 応したアプリケーションを使用する。

このアプリケーションは各使用形態 によりデザインは可変性を持つが、基 本構造として、①健康情報ユニット

(健診データなど)、②企業情報ユニ ット(勤怠データ、作業環境評価デー タなど)、③産業保健ユニット(面談 記録、就業措置などの情報)の各ユニ

ット構造を持ち、それをデジタルベー スに経年で格納し、インターネット等 の手段を通じて随時性・遠隔性に富む ことを想定している。また、このアプ リケーションとデータシステムを通 じて、労働安全衛生法に謳われた健康 診断とその事後措置に至るプロセス を利便性と有効性の高いものにする ことを目的とする。

事業場 

健診機関  業保健スタッフ 

iPHR

 

データ管 事業者 

健診依頼 結果報告 

健診データ 事業場データ 勤怠データ 

面談報告 巡視報告 就業措置意見書 

結果報告  嘱託契約 データ取扱契約

業保健活動 

(10)

図4:iPHRによるワークフローの概念図 図4にこのシステムを用いたデータ活 用の流れの概念図を示す。

このシステムの運用におけるステー クホールダーとして、事業場(人事・

総務担当者/衛生管理者など)、産業保 健スタッフ(産業医/保健師など)、健

診機関の3者を想定している。さらに、

各都道府県産業保健推進センター、一 般病院、外部情報管理業者なども運用 の担い手として想定されるべきであ る。

【データベース構築とそれに連動す る事後措置体系】

  本研究では、主に健診機関主導で行 う保健指導のあり方についても検討 を行った。保健指導は、保健師や産業 医などの産業保健スタッフにより実 施されているものの、その内容につい

ては一定のマニュアルは特定保健指 導以外にはなく、各種の保健指導のマ ニュアルを、健診データに基づく指導 体系として整備作成することは、経年 にわたる個人保健情報上重要なこと であると思われる。

また、本研究にて設計されたシステム

事業所と嘱託契約( 業医契約。保健師契約etc. 

iPHR 契約(データに関する取扱契約) 

PCにソフトウエアをインストール 

データ入力1(基本情報、健診データ、菌体データetc. 

フォロー(面談者抽出)入力 

業保健活動(面談・巡視など) 

データ入力2(面談記録、巡視記録、意見書、紹介 など)  

データ入力3(就業措置判定) 

iPHR 

iPHR 

iPHR 

iPHR 

(11)

の結果は、最終的には健診受診者の健 康管理に向上あるいは健康維持に寄 与することが求められる。健康診断の 事後措置としての保健指導を客観的 に健診結果のみならず、勤怠や経年の 産業保健情報を考慮して選択し、的確 な指導を行っていくことが求められ ている。また、少子高齢化による労働 人口の減少は必然的に高齢者の就業 年齢を押し上げることになり、若年者 においては生活習慣予防を、高齢者に おいては疾病を抱えながらの就労が 求められることになると考えられる。

ゆえに、保健指導の重要性とその妥当 性と正確性が求められると思われる。

iPHRによる総合判断により、事後措 置が選択され、それに応じて保健指導 の内容が決定されると思われる。マニ ュ ア ル に 応 じ た 保 健 指 導 の 記 録 が iPHRに残されることにより、経年的 な健康管理の状況を客観的に把握す ることが可能になると思われる。

図5:保健指導マニュアルのワークフローの概念図

iPHR の運

 

事後措置の

定  

保健指導の選択  

マニュアルに従った保健指導の実施  

保健指導の iPHR への記録  

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【研究最終年度に向けた展望】

    研究最終年度においては、今年度 開発された電子カルテおよびツール を企業外健診機関の協力の下、「産業 医主導型」のiPHRを中心に健康診断 データ管理と事後措置体制に組み込 む介入実証実験を行う。同時に、「健 診機関主導型」および「外部主導型」

の実証実験との比較検討を行う。

  短期間での検証実験とはなるが、効 果を評価する指標として、健康診断の 受診率、疾病休業率、健康状況調査、

従業員満足度調査、簡易ストレス調査 によるメンタルヘルス状況調査など のシステム評価、労働災害件数、ヒヤ リハット事例の把握などのアウトカ ム評価、の項目を多角的に調査し、ツ ールの妥当性・重要性について比較検 討を行う。

(13)

図 1 :産業医が主導でデータベースを構築するタイプの iPHR  2)  健診機関が主体となってデー タベースを構築するタイプ「健 診機関主導型」 (図 2)  このタイプは主に健診機関に データベースサーバーを設置 する、あるいは健診機関がデー タベースを管理する、という形 態である。現況では、健診機関 には多数の事業所が健診契約を結んでおり、またそれに付随 して産業医契約を結んでいる。健診機関が契約している嘱託産業医と事業所との業務の基幹施設となることにより、産業保健サービスの充実を図ることが可能にな

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