声をあげる
〜文部科学省、東京都への提案、要望
山崎 吉朗 1.声をあげないと始まらない 昨年(2015 年)の秋、文部科学省(以下、文科省)幹部と文科省の多言語教育政策に ついて話していた時の事です。学習指導要領や大学入試を巡る話題には英語教育の 事しか出てこないといつもの話をしていたら、幹部の方から、文科省には外からの声が 聞こえて来ない。多言語教育を求める声がないので学会などのレベルで何か要望書を 出して欲しいと言われました。 我々関係者としては、様々な論文や学会で問題点を指摘し、研究集会やシンポジウ ムを開き、いろいろな角度から多言語教育推進を訴えているつもりでした。文科省側が 常に意識して情報収集に努めているわけではありません。当然、我々の訴えは内輪だ けの範囲に留まり文科省側には届かず、「外からの声が聞こえて来ない」となる訳です。 そこに気づいていませんでした。立場を変えてみれば、当然のことだったのかもしれま せん。批判するだけでは世の中動きません。そこで、英語以外の外国語教育関係者に 呼びかけ、できるだけ多くの要望書を文科省に出す運動を始めました。我が JACTFL も早々に要望書を作成しました。 JACTFL の要望書は、JACTFL 会員親族の方の口利きや、文科省幹部の取り計らい のおかげで、昨年の10 月 13 日、筑波大学の臼山利信教授と共に文科省の関係者1に 直接手渡しました。30 分程度、多言語・複言語教育推進の要望について説明し、文科 省側からの回答を聞くことが出来ました。英語以外の外国語教育に対して好意的な回 答もあり、少なくとも一部の幹部の理解を少しは得ることが出来たのではないかと考えて います。これだけの行動で外国語教育政策が変わると思うほど楽天家ではありません 1 主な出席者:内閣官房 浅田和伸 内閣審議官、 内閣官房 教育再生実行会議担当室 後藤教 至室長補佐、文部科学省高等教育局大学振興課 橋田裕大学入試室長、文部科学省高等教育局 大学 振 興 課大 学 入試 室 塩屋仁史入試第一係長、文部科学省高等教育局初等中等教育企画課 今井裕一教育制度改革室長、文部科学省初等中等教育教育 外国語教育推進室長 圓入由美が、これまでの我々の発想にはなかった文科省幹部への直接の訴えを実現出来たこと は、少なくとも学校教育における多様な外国語教育の実施という目標に向かって具体 的な一歩を踏み出せたと自負しています。 各言語への呼びかけでは、やはり一番切実なフランス語の動きは早く、第一外国語の 私学の集まりである「中高フランス語教育連絡協議会2」の要望書についても、同日直 接手渡す事が出来ました。また、学会レベルでは、日本フランス語教育学会3からの要 望書も後日提出しました。さらに、フランス語を第一外国語で学習した経済界関係者か らの要望書も提出する方向で現在準備中です。フランス語が先行していますが、他の 言語に関しても多様な外国語教育の普及への思いは同じです。 一方、2015 年 3 月 8 日に JACTFL と上智大学国際言語情報研究所が共催した第 3 回シンポ ジウム4では、東京都教育庁教育監の高野敬三氏に東京都の多言語教育政 策についてご説明頂きました。この政策を JACTFL としても推進・協力すべく、3 月 25 日付けで、東京都に「東京都長期ビジョンに関する提案書(JACTFL)」を送りました。そ の後数ヶ月動きはありませんでしたが、10 月 15 日には東京都教育庁で都立高校での 英語以外の外国語教員募集の説明を受け、「東京都公立学校時間講師の登録制度」5 について各言語関係者に伝え ました。東京都の多言語教育政策は今 後も注目されま す。JACTFL のシンポジウムでは、毎年進捗状況の報告をして頂く予定にしています。 以下、実際に提出した文科省への3つの要望書(「初等・中等教育における英語以外 の外国語教育に関する要望書 (JACTFL )」、「要望書 (中高フランス語教育連絡協 議会)」、「新しい大学入試制度に関する要望書 (日本フランス語教育学会)」)、東京 都への提案書(「東京都長期ビジョンに関する提案書 (JACTFL)」)をそのまま掲載し ます。さらに、東京都の依頼で流したお知らせ(「英語以外の各言語関係者への「東京 都公立学校時間講師の登録制度」登録の呼びかけ 」)をご参考までに転載します。 2. 文科省への要望書 2 フランス語を第一外国語として開講している私立の中学高等学校のネットワーク組織。同協議会に はカリタス女子中学高等学校、白百合学園中学高等学校、聖ドミニコ学園中学高等学校、雙葉中学 高等学校、暁星中学高等学校の 5 校が入っている。 3 http://sjdf.org/ 4 「外国語教育の未来を拓く:グローバル時代を生き抜くための外国語教育―いまこそ外国語教育 の多様化を進めよう―」というテーマで実施し、全国から 200 名を超える外国語教育関係者が参加し た。 5 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/jinji/hijyoukin.htm
2.1 初等・中等教育における英語以外の外国語教育に関する要望書 (JACTFL) 平成 27 年 10 月 13 日 文部科学大臣 馳 浩 殿 初等中等教育局長 小松 親次郎 殿 高等教育局長 常盤 豊 殿 大学振興課長 塩見 みづ枝 殿 高校教育改革PTリーダー 今井 裕一 殿 国際教育課長 小林 万里子 殿 大学入試室長 橋田 裕 殿 外国語教育推進室長 圓入 由美 殿 内閣官房教育再生実行会議担当室長 浅田 和伸 殿 一般社団法人日本外国語教育推進機構 (JACTFL) 理事長 一般財団法人日本私学教育研究所 主任研究員 山崎 吉朗 初等・中等教育における英語以外の外国語教育に関する要望書 現在、日本に目を向けても経済問題、環境問題、防衛・外交問題、少子高齢化問題 などなど社会的な課題が山積しております。また世界に目を向けても、自らの利害のみ を追求した結果、地域戦争・紛争、環境問題、人口問題、エネルギー資源問題、水不 足問題、食料問題、人権問題、貧困の問題など、グローバルイシューが山積みでありま す。今まさに、国内外で生じている問題を創造的に果敢に挑み解決していける力を育 むことに資する教育が求められている所以です。
わたくしは、日本の多様な外国語教育を推進していくことで、また英語を含めた多様 な外国語教育を通して、国内外の難題に果敢に挑み続ける力、すなわち、創造的問題 解決能力を高めることができると信じております。 問 題 意 識 ① 昨今、外国語をめぐり日本国内において 、グロ ーバル化=英語化、外国語=英語 という単純で短絡的な価値観が社会に横行していることに対して非常に危惧してお ります。世界には約 200 の国・地域が存在し、6000 とも 8000 とも数えられる言語が 使われ、その数以上の多様な文化が広がっており、世界は多様な価値観に満ちあ ふれております。 ② 文部科学省における外国語教育に関する中教審の論議は、英語だけに絞られて おり、世界の多元的な価値観に触れ、理解するための多様な言語教育の可能性を 完全に見落としております。中教審での英語以外の外国語に関する発言はわずか 2 回であり、教育再生実行会議では英語以外の外国語に関する言及がほとんどな い状況はきわめて遺憾というほかにございません。 ③ ごく少数派ではございますが、日本には中学・高校で第一外国語を英語ではなく、 フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語などを選択できる学校が存在しております。 わたくしは、特に、現在高校でこうした英語以外の外国語を第一外国語として学習 している生徒の将来を非常に懸念しております。 ④ 大学入試が英語一辺倒になれば、現在のところ、かろうじて保証されている英語以 外の第一外国語はすべて廃止せざるを得ません。現在実施されている大学入試セ ンター試験では英語以外の4言語を英語の代わりに受験科目として使え 、英語以 外の外国語教育を受けた受験生に対する制度的な保証がごじあます。しかしなが ら、中教審などの外国語教育の議論を注視しておりますが、新しいテストではそれ がどうなるかが不透明で、その論議は一向になされておりません。万が一、フランス 語などの英語以外の第一外国語が廃止になった場合、フランス語などを受験外国 語とする高校生の国立大学等の進学への道が閉ざされてしまいます。 ⑤ 第二外国語についても、日本言語政策学会では英語以外の外国語の学習指導要 領(案)を独自に作成し、第二外国語の必修化を求める価値ある提言を行っていま
すが、そ うした提言に対する反応も乏しく、中央教育審議会等で英語以外の外国 語教育に関する議論がなされていない状態が続いております。新学習指導要領で は、多様な外国語教育の可能性が少しでも論議されるか、また英語中心主義がさら に強化されるのではないかといった不安の声が、全国の英語以外の外国語教育に 携わる中学・高等学校の先生方から数多くわたくしのところに寄せられております。 要 望 す る こ と ① 英語以外の外国語(第一外国語、第二外国語)について、地球上の多種多様で 複雑な価値観の違いや利害の対立を乗り越えて自律的、創造的に動き、活躍で きるグローバル人材を育成していくためにも、国(政府・教育再生実行会議、文部 科学省中央教育審議会など)として真剣に論議してほしいということでございます。 わたくし自身フランス語教育を専門にする一人の教育者であり、研究者ですが、 たとえフランス語圏に限定して考えても、複雑極まりない世界の厳しい現実に対応 する外国語教育は、英語教育だけでは不可能であると確信いたします。 ② 中央教育審議会に、多言語・多文化(多元的な価値観)の大切さを理解している 委員を入れてほしいということでございます。あるいはせめて陪席として意見を表 明するような場をいただけないかと考えております。本要望者である山崎の他、例 えば、元慶應義塾大学教授・前日本フランス語教育学会会長の古石篤子氏(フラ ンス語)、元日本独文学会ドイツ語教育部会長の慶應義塾大学教授の境一三氏 (ドイツ語)、元関西大学教授の杉谷眞佐子氏(ドイツ語)、現日本フランス語教育 学会会長・京都大学教授の西山教行氏(フランス語)、大阪大学名誉教授の大谷 泰照氏(英語)、同じく前日本言語政策学会会長・大阪大学名誉教授の森住衛氏 (英語)、筑波大学教授の臼山利信氏(ロ シア語)などが候補として挙げられます が、良識ある外国語教育の専門家は数多く存在します。 現 状 ① 繰り返しになりますが、新学習指導要領、高大接続、大学入試改革、外部試験の 導入に関する文部科学省内での論議は、事実上、すべて英語をめぐるものでござ います。学習指導要領を審議している教育課程特別部会の論点整理(案)の「外
国語」の 41 頁に、「なお、新興国をはじめとする非英語圏の国々とのつながりも重 要性を一層増しており、英語以外の外国語についても、引き続き専門的な検討を 行うことが求められる。」とわずかに記されているものの、実際には検討に着手する 段階にも至っておりません。 ② 現在、大学入試制度改革の目玉として検討されている高等学校での二つの試験、 すなわち、「高等学校基礎学力テスト(仮称)と「大学入学希望者学力評価テスト (仮称)」においては、今のところ、英語以外の外国語の扱いについてはこれまで 全く論議されておりません。 ③ 高等学校基礎学力テスト(仮称)では、すでに「英語、数学、国語」と明記されてお り、このままでいくと「英語」のみの試験になってしまいます。繰り返し強調させてい ただきますが、英語以外の外国語を第一外国語として選択している高校生の扱い が非常に危惧されます。それが単なる学力テストとしての実施で大学入試と関係 ないということであれば問題はございません。希望者受験とは言え、調査書への記 入が義務づけされた場合、英語以外の外国語選択者(第一外国語)がどのよ うに 扱われるのかが問題となるのです。彼らこそ、世界中で生じている不毛な地 域紛 争や宗教対立など、利害の対立によ って引き起こされた複雑で多様な価値観や 原理で動いている現実世界に立ち向かうポテンシャルを持った、希望の人材にな る可能性があるということを指摘しておきたいと存じます。 ④ 大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の扱いはさらに深刻な問題を孕んでおり ます。現在、大学入試センター試験で外国語科目として受験できる4つの言語(フ ランス語、ドイツ語、中国語、韓国語)は従来どおり維持されるのか、国立大学及 び私立大学での英語以外の外国語の入試は現在と同じように維持されるのか、こ れまでに一度も論議されておりません。これは、第一外国語で英語以外の外国語 を学習している生徒達の大学進学や将来のキャリアに直結する重大な問題なの です。「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の科目を減らす論議が進む中で、 受験者数が少ないという理由で4言語(フランス語、ドイツ語、中国語、韓国語)の 外国語科目が廃止されるのではないかという大きな不安が教育現場にございます。 ⑤ 小学校における英語教育が導入されましたが、初等教育段階でも中等教育段階 と同様の英語中心主義に完全に陥ってしまっております。ごく少数派ですが、神
奈川県のカリタス小学校のように、英語とフランス語の複言語教育を導入している 学校もございます。こうした学校が特別な存在でない社会が、グロ ーバル時代に 求められているのではないでしょうか。 多様性=社会の活力・社会の安全弁、多様な外国語教育=調整が困難なグロ ーバ ル社会でたくましく生きる力、複雑な利害対立に怯まない力を育成する源泉、という豊 かな発想が今求められているのではないでしょうか。 最後に、子供たちの英語力の育成・伸長は当然のことながら、その子供たちが将来関 わっていく、多様な価値観が溢れかえ っているグロ ーバル社会 に対して柔軟にそ して 果敢に対応いくための、多様な外国語教育の推進を国として進めてくださいますよう、 心からお願い申し上げる次第です。そのためのお手伝いでしたら、労を惜しまず、死力 を尽くして貢献させていただくことをお約束申し上げます。 2.2 要望書 (中高フランス語教育連絡協議会) 平成 27 年 10 月 13 日 文部科学大臣 馳 浩 殿 初等中等教育局長 小松 親次郎 殿 高等教育局長 常盤 豊 殿 大学振興課長 塩見 みづ枝 殿
高校教育改革PTリーダー 今井 裕一 殿 国際教育課長 小林 万里子 殿 大学入試室長 橋田 裕 殿 外国語教育推進室長 圓入 由美 殿 内閣官房教育再生実行会議担当室長 浅田 和伸 殿 中高フランス語教育連絡協議会 代表 暁星中学高等学校 フランス語科主任 光藤 賢 要 望 書 私どもはフランス語を第一外国語及び第二外国語として選択している生徒たちを指 導している教員で構成された中高フランス語教育連絡協議会(加盟校はカリタス女子 中学高等学校、聖ドミニコ学園中学高等学校、雙葉中学高等学校、白百合学園中学 高等学校、暁星中学高等学校)と申します。当協議会は「日仏高等学校ネットワーク・コ リブリ」の設立母体であり、第一外国語としてのフランス語を設置している公立高等学校 (埼玉県立伊奈学園総合高等学校、岩手県立不来方高等学校)と大学入試等に関し て情報交換を行っております。 最近の新聞報道などを通じ、中学高等学校におけるフランス語教育の将来について、 大いなる危機感を抱いています。私どもの学校は、創立以来、英語とフランス語 の教育 を行ってきています。真の国際人を目指すには複数の外国語の教育が必要だと創立 当時から考えていたからです。二つの外国語を習得できる環境をこれからも維持すべ きと私たちは考えています。 ところが、学習指導要領についても、高等学校基礎学力テスト(仮称)についても、ま たセンター試験に代わる大学入学希望者学力評価テスト(仮称)についても、論じられ るのは英語ばかりです。また、先日発表された高大接 続システム改革会議「中間まとめ」 (2)では、「改革の方向性 ア 教育課程の見直し」の六点目になってようやく「外国語 科」という文言が出てきますが、その内容は英語に関するものばかりです。 現行の学習指導要領において、英語以外の外国語が「学校設定科目」として位置づ
けられた事実は私どもを震撼させました。と申しますのも、学校設定科目には 20 単位と いう上限が規則として定められており、英語以外の外国語を第一外国語として履修した 場合、その外国語だけで上限を超過してしまうため、第一外国語としてのフランス語の 命運が、事実上絶た れてしまうことを意味したからです。学則を変更して「併設型中高 一貫校」の申請をすれば、第一外国語としてのフランス語を存続させることができるとい うことがわかるまで、私どもが味わった心痛は多大なものでした。 大学入試に関してもいろいろ論議されていますが、現行のセンター試験で受験可能 な科目として取り扱われています英語以外の言語に関しては、どこにも触れられていま せん。ここに私どもの最大の不安や危惧があります。 現在、私どもの中高フランス語教育連絡協議会加盟校の中学生 2051 名、高校生 282 名がフランス語の学習をしています。うち、155 名の生徒たちが第一外国語として のフランス語を選択し、フランス語で大学を受験する道を選び、 志望大学の合格を目指 して日々必死に努力をしています。フランス語での大学受験が不可能になるということ は、勉学意欲に富む若者の将来を絶つことに他なりません。それは我が国にとってもマ イナスとなることでしょう。 これまで中学高校でフランス語を第一外国語として学び、大 学受験もフランス語を選択し、大学卒業後もフランス語を生かし、実社会の各分野で活 躍している卒業生がたくさんいるという事実が、そのことを裏付けています。 たしかに、現在の世界情勢を考え ますと、英語中心であり、日本の若者を国際舞台 へ送り出すには、英語力が重要であることは誰もが認める事実です。しかし、その国際 舞台で活躍している諸外国の多くの若者たちが、少なくとも二つの外国語を習得してい ることもまた見逃せない事実であり、日本の若者も英語ともう一つの言語を身に着ける べきだと考えます。また、特に新興国においては、国際語としてのフランス語の需要が 高まりつつあることも注目に値します。実際、世界中の多種多様な文化圏に属しながら も民主主義や人権といった普遍的な価値観とフランス語とを共有する多くの国々が賛 同し、フランコフォニー国際機関 OIF(Organisation Internationale de la Francophonie ) が創設され、現在では、加盟国、準加盟国、オブザーバーを含め、70 数カ国が参加し ています。
以上のことから、私ども中高フランス語教育連絡協議会は、日 本の若者を真の国 際人とするために以下のことを要望いたします。
一 、 大 学入学 希望 者学力 評価テ ス ト(仮 称) に おけ る多 言語選 択( 最低で も 現行の フランス語、ドイツ語、中国語、韓国語の4言語)の実施。 一、 高等学校基礎学力テスト(仮称)における多言語選択の検討。 一、 新しい入試制度を審議する際の多言語への配慮。 英語を身につけながら、多言語を学んでいる生徒が未来を拓けるよう、よろしくお取り 計らいくださいますよう要望いたします。 カリタス女子中学高等学校 学校長 齋藤 哲郎 フランス語科主任 鷲頭 弘子 聖ドミニコ学園中学高等学校 学校長 髙橋 幸子 フランス語科主任 小原 裕美 雙葉中学高等学校 学校長 和田 紀代子 フランス語科主任 鳥居 くらら 白百合学園中学高等学校 学校長 斉藤 えい フランス語科主任 伊賀山 かおる 暁星中学高等学校 学 校 長 勝 部 純 明 フランス語科主任 光藤 賢 2.3 新しい大学入試制度に関する要望書 (日本フランス語教育学会) 2015年11月25日 文部科学大臣 馳 浩 殿 初等中等教育局長 小松 親次郎 殿 高等教育局長 常盤 豊 殿 大学振興課長 塩見 みづ枝 殿 高校教育改革PTリーダー 今井 裕一 殿
国際教育課長 小林 万里子 殿 大学入試室長 橋田 裕 殿 外国語教育推進室長 圓入 由美 殿 日本フランス語教育学会 会長:西山 教行 日本フランス語教育学会 初中等教育委員会 委員長:松田 雪絵 新しい大学入試制度に関する要望書 新しい大学入試制度において、英語以外の外国語を入試科目として維持していただ きたく、下記のように要望いたします。 1.要望の趣旨 現行の大学入試センター試験には、英語以外にもフランス語やドイツ語、中国 語、韓国語が入試科目として設けられています。しかしながら、昨年12月の中央 教育審議会の答申においても、今年9月に公表された高大接続システム改革会 議「中間まとめ」においても、言及されているのは英語ばかりです。英語以外の外 国語については一切触れられていません。全国には、英語以外の外国語を第一 外国語として学び、その外国語を受験にも利用している高校生が存在します。こ のよ うな生徒の指導に当たっている中等教育の教員は、新しい大学入試制度に おいて、英語以外の外国語の扱いがどうなるのか情報が全く得られず、大きな不 安を抱えています。 2.要望の内容 (1)新しい大学入試制度においても、外国語の入試科目を英語に限定せず、さまざ まな学びをしてきた生徒達に対応できるように、複数の外国語を入試科目 に設置して下さい。最低でも現行と同じフランス語、ドイツ語、中国語、韓 国語は維持し、可能であれば、段階的に他の言語にも可能性を広げて下 さい。
(2)上記で述べたような英語以外の外国語での入試が可能になるように、新学習指 導要領においても、英語以外の外国語の学習にご配慮をお願いします。 そして、中等教育において、英語以外にももっと多様な言語を学べる環境 を整えてください。 3 . 要 望 の 理 由 グローバル化がますます進むなか、国際共通語とされる英語は、コミュニケー ションの道具として有用かつ必須であることは誰もが認める事実です。しかし、グロ ーバル化の進む時代であるからこそ、英語以外の外国語教育が重要になってくる と私達は考えます。 (1)最近の国際情勢では環境汚染やイスラム国の台頭、難民問題など、国境 を越えてさまざまな問題が起きています。そのような問題の解決をするに は、さまざまな言語や文化、宗教、価値観などの事情に詳しい人材の育成 が必要です。 (2)国内外でさまざまな背景知識を持つ人と共存、協働することが求められる 時代です。多感な中等教育段階までに英語以外の外国語に出会うこと で、「外国語=英語」、「国際的=アメリカ的」といった狭い世界観にとらわ れず、多様な文化や価値観を受けとめ、相手の母語や文化を尊重し、相 手と好ましい関係を築ける生徒を 育成できます。 cf.中 教 審 答 申 ( H26.12.22) p.9 グ ロ ー バ ル 化 の 進 展 の 中 で 、 言 語 や 文 化 が 異 な る 人 々 と 主 体 的 に 協 働 し て い く た め に は 、( 中 略 ) ま た 、 英 語 の み な ら ず 、 我 が 国 の 伝 統 文 化 に 関 す る 深 い 理 解 、 異 文 化 へ の 理 解 や 躊 躇 せ ず 交 流 す る 態 度 な ど が 求 め ら れ る こ と に も 留 意 が 必 要 で あ る 。 (3)情報化が進み、世界各地の情報を簡単に手に入れることが可能な今の時 代は、いかに正しい情報を得て、それをいかに利用するかが重要です。 しかし、日本語や英語の情報だけに頼ることには危うさが伴います。少な くとも母語の日本語と英語に加えてもう1つの言語で情報を得ることがで きれば、より多角的な視点を持って国内外の出来事を考える生徒が育成 できます。 cf.新 し い 大 学 入 試 で 評 価 す る と 決 定 し た 「 思 考 力 」 や 「 判 断 力 」
を 身 に つ け る に は 、 最 初 の 段 階 で 正 し い 情 報 を い か に 得 る か が 重 要 に な っ て き ま す 。 (4)グローバル化が進み、日本人の海外勤務が増えていますが、それに伴い、 子供達の生育環境もますます多様化しています。必ずしも英語が使われ るわけでなく、英語教育を十分に受けられる環境にない地域で育つ生徒も います。多様な背景を持つ生徒に対応するためにも、外国語の入試科目 に複数の選択肢を設ける必要があります。 cf.高 大 接 続 シ ス テ ム 改 革 会 議 中 間 ま と め ( H27.9.18 ) p.38 ウ 多 様 な 背 景 を 持 つ 受 験 者 の 選 抜 (5)英語以外の言語学習は、実は英語学習にも良い影響を 及ぼします。もう1 言語学ぶことで、ことばへの認識が深まり、母語も含め、3言語が補完しあ い、言語能力が向上するのです。実際、英語に苦手意識を持つ生徒がフラ ンス語を学んだことで、英語の成績が伸びたというケースを高校の現場では よく目にしています。 (6)外国語学習が英語の1言語だけという国は、世界の中でも少数派です。近 隣の韓国でも、中学や高校で第二外国語(英語以外の言語)を設置してい ますし、ヨーロッパでも中等教育で「母語+2言語」の習得を目標にしていま す。一方、日本では、ほとんどの学生が英語以外の外 国語を学び始めるの は大学です。それも第2外国語の習得は必ずしも必修ではありませんから、 全員ではありません。そして、大学で英語以外の言語を始めたとしても、大 学の4年間だけで世界で通用するよ うな高度な語学力を身につけるのは困 難です。グローバル化で他国との競争がますます激しくなる時代であるのに、 英語ができる人材しか育てない日本は、今まで以上に語学の面で他国に大 きな遅れを取ることになります。 (7)国が主導で準備される全国規模の入試で何を入試科目に設けるかは、国 のメッセージにもなります。外国語科目を英語だけに限定すると、「英語さえ できればいい」というメッセージを国が発していると受け取られかねません。 大学入試希望者の多様性を踏まえた入試を望みます。
3. 東京都への提案書 3.1 東京都長期ビジョンに関する提案書 (JACTFL) 平成 27(2015)年 3 月 25 日 東京都教育庁 教育監 高野 敬三 殿 一般社団法人日本外国語教育推進機構(JACTFL)
理事長 山崎吉朗 拝啓 時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、 厚く御礼申し上げます。 この度は、3 月 8 日に JACTFL と上智大学国際言語情報研究所が共催しました第 3 回シンポジウム「外国語教育の未来を拓く:グローバル時代を生き抜くための外国語教 育―いまこそ外国語教育の多様化を進めよう―」に多大なるご協力をいただき深く感謝 申し上げます。特に高野教育監には、午前のシンポジウムにパネリストとしてご発表い ただき誠にありがとうございました。おかげさまで、定員を超える 219 名の参加者を得て、 充実した内容のシンポ ジウムを実施することができました。小中高校の教育現場の教 員・管理職の方々をはじめ、大学関係者、地方自治体の教育行政者、メディア、企業の 方々等、多様な参加者間で全日活発な討議を重ねることができました。午後の全体会 には、5 か国の大使館・文化交流機関の代表者にもご参加いただき、多言語教育の推 進に対する積極的な支援の意も表明され ました。参加者へのアンケート結果からも概 ね好評をいただくことができました。これもひとえにご協力いただいたおかげと重ねて御 礼申し上げます。 さて、今後の貴教育庁による多言語教育の推進策の遂行につきましては、私どもも大 きな期待を抱いております。今回のシンポジウムでの討議を踏まえ、主催者として添付 の提案書を作成いたしましたので、ご高覧いただけたら幸甚に存じます。 末筆ながら貴教育庁のますますのご発展をお祈り申し上げます。 敬具 平成 27(2015)年 3 月 25 日 東京都教育庁 教育監 高野 敬三 殿 東京都長期ビジョンに関する提案書 都市戦略6・政策指針18における英語以外の外国語学習の環境整備
団 体:一般社団法人日本外国語教育推進機構( JACTFL) 理事長:山崎 吉朗
提案書
平成 26 年 12 月 25 日付けで公開(最終更新)された「東京都長期ビジョン〜『世界 一の都市・東京』の実現を目指して」にある、都市戦略6「世界をリードするグローバル 都市の実現」政策指針 18「東京、そして日本を支える人材の育成」の推進・実現に向け て、一般社団法人日本外国語教育推進機構(JACTFL)は、以下のように考えます。 1. 「確かな学力と豊かな国際感覚を身につけ、強く生き抜く力を持った若者たちのグ ローバル社会での活躍を実現すべく、グローバル人材を育成する教育環境を整備 する」ことを大いに歓迎し、それに賛同の意を表します。 2. 中でも特に、「英語以外の外国語学習を拡充するために、選択科目の実施校の拡 大や異文化交流等を行う外国語部活動の設置を推進するなど、多様な言語を学べ る環境を充実し、国際社会で活躍する資質を高めていく」ことが政策指針の目標と して掲げられていることを高く評価し、その目標達成のためにできる限りの協力をし たいと考えます。 3. 若い世代への多言語教育の推進の意義については、諸説あるところですが、まず は 21 世紀のグローバル社会を生き抜く個々の学習者の資質、能力、人格形成の みならず、卒業後の人生の可能性を広げるものとして意義深 いものがあります。ま た東京が今後多言語・多文化共生社会に発展していく礎として、その一員としての 市民性の涵養にも意義が大きいと考え ます。そして何よりも、「人の心に語りかけ、 心を動かす真のコミュニケーションは、国際共通語としての英語ではなく、互いの母 語によるものである」ということを忘れてはならないと思います。 以上のような観点にもとづき、JACTFL は、 2020 年のオリンピック・パラリンピックの 開催及び東京の持続的発展のための多言語教育の推進策の第一歩として、 「東京都多言語教育推進協議会(仮称)」(別紙参照)の設置をご提案申し上げます。
「東京都多言語教育推進協議会(仮称)」について
1.目的: 英語以外の外国語学習を拡充するために、選択科目の実施校の拡大や異 文化交流等を行う外国語部活動の設置を推進するなど、多様な言語を学べる環境を充 実させるための具体的な方策を検討する。 2.検討課題 ➢ 授業のあり方・運営に関わること ・教員(講師)の確保:派遣、研修、(中長期的には)養成、採用 ・カリキュラム・シラバスの開発・支援 ・教材の紹介・作成、ICT/遠隔教育などの活用 ➢ 教室外活動に関わること ・国際交流・異文化体験支援:蓄積されている知見・ノウハウの活用、人 材の活用(留学生、在日外国人など)、プログラムデザイン ・各種ボランティア活動(語学や観光ボランティア等)の支援 ➢ 連携・ネットワーク構築に関わること ・学校間連携:小・中・高・大の縦の連携、横の連携(公・私立間、関東近県 の学校との連携など)、連合体の結成、情報交流など ・各国大使館・文化交流機関などとの連携 *東京韓国教育院、中国駐日大使館、東京ドイツ文化センター、セルバンテス文化センター 東京、 アンスティチュ・フランセ、カナダケベック州政府在日事務所からは、講師派遣や教師研修、 教材作成・支援、ボランティア向け講座の実施等に協力する意向がすでに表明されてい ます。3. JACTFL の協力 JACTFL は平成 24 年に、あらゆる言語や教育段階の垣根を超えて、外国語教育関 係者が連携・協力して、グローバル社会に対応する多言語教育を推進することを目的と して設立されました。主に学校教育における多様な外国語教育の普及のための情報提 供 、 シ ン ポ ジ ウ ム の 開 催 、 研 究 会 誌 の 発 行 な ど を 行 っ て い ま す 。 (http://www.jactfl.or.jp/ご参照) JACTFL は、その活動やネットワークを通して、上記の協議会の検討課題に対して、 各種の提案、関係者の紹介、仲介およ び情報提供等を中心に、積極的、具体的に協 力できることを確信しております。 以上 3.2 英語以外の各言語関係者への「東京都公立学校時間講師の登録制度」登録の呼 びかけ <お願い> 下記に詳細を書きますが、英語以外の各言語の関係者に「東京都公立学校時間講 師の登録制度」を活用し、そこに登録するよう、呼びかけてほしいという旨の依頼を受け ました。 時間講師の登録制度に関するHPです。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/jinji/hijyoukin.htm ただ普通免許状の科目として、中・仏・独・韓・西・露・伊を入力できるような設定に まだなっておりませんので、「そ の他連絡事項等」の欄に、例えば「フランス語」と記入 することになります。 <理由説明> 10 月 15 日に、筑波大学教授の臼山利信先生と関東国際高等学校副校長の黒澤 眞爾先生と一緒に東京都教育庁指導部を訪ね、高橋祐介課長代理(国際教育事業担 当)と田中万智主任(国際教育事業担当)と都立高校における英語以外の外国語教育 の普及に関する協議をしました。 現在、東京都には186校の都立高校があり、そのうちの53校で英語以外の外国 語教育が行われています。 言語は、中・仏・独・韓・西・露・伊の7つです。 2020 年の東京五輪を控え、昨年、12 月に東京都から「東京都長期ビジョン~「世 界一の都市・東京」の実現を目指して~」という東京の将来を見据えた政策目標が策定 され、公表されました。その 259 頁の「3 国際社会の第一線で活躍するグローバルリー ダーを育成」の中で、 「都立高校において、英語以外の外国語(中・仏・独・韓・西・露・伊)選択科目の実施 拡大や異文化交流等を行う外国語部活動を推進するなど、多様な言語が学べる環境 を充実し、国際社会で活躍する資質を高めていく。」 と明記され、国際教育の一環として、都教育長指導部指導企画が事業推進母体と して、本年度から実務の担当者である高橋課長補佐、田中主任を中心に活動が始まっ ております。 都の政策の中に、こうした形で2外教育の推進が明記されたというのは、わたし達 の知る限りありませんし、ある意味で、外国語教育政策の歴史に刻まれる出来事だと認 識しております。英語のほかに、フランス語やロシア語(少し)ができると言われる舛添 都知事のリーダーシップによるところが大きいかもしれません。 まだ初年度ですので、大きな動きとはなって おりませんが、これか地道に着実に英
語以外の外国語教育を拡大していく予定とのことです。来年度から、まだ英語以外の 外国語教育を導入していない一部の都立高校で、新規に英語以外の外国語科目が開 設される見込みです。そのための教員の確保ということで、各言語の関係者に「東京都 公立学校時間講師の登録制度」を活用し、そこに登録するよう、呼びかけてほしいとい う旨の依頼を受けました。時間講師の登録制度に関するHPです。 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/jinji/hijyoukin. htm ただ、普通免許状の科目として、中・仏・独・韓・西・露・伊を入力できるような設定にま だなっておりませんので、「その他連絡事項等」の欄に、例えば「フランス語」と記入すること になります。 いずれにしましても、朗報であることは間違いありませんので、お知り合いの「英 語 以 外 の 外 国 語 」の免許をお持ちの方々に、「東京都公立学校時間講師の登録」に関する情 報を広く周知していただけますと幸いです。 4 声をあげよう! 2007年 3月に発 行した 、筆者 の所属 している 一 般財団法 人日本私 学教育 研究所 (当時は財団法人日本私学教育研究所)の調査資料集 No243「中高における英語以外 の外国語教育」の刊行のことばで、当時の本研究所所長故 山岸駿介氏が次の様に書 いています。 「英語以外の外国語に関心のない人だと、手にとってみることさえしないしないかもしれません。 大学でさえ英語以外の外国語を履修する学生がどんどん減り、教える教員も減らされているとい
う時期に、中学、高校において、「英語以外の語学教育」をどうするか、何を教育すればいいの か・・・語学教育の重要な方向を見つけ、力をつけようという、ドン・キホーテのような報告書だか らです。」 現在は、さらにその状況はひどくなり、英語以外の外国語は ほとんど見向きもされな い時代になったと言えるかもしれません。そんな中で、このような要望書を作成すること とは、前所長のことばを借りれば、「ドン・キホーテのような」となるでしょう。しかし、そ れ でも何もしなければ何も動きません。たとえ 、ドン・キホーテであってもともかく道を切り 開いていきたいと思っています。前所長も次のようなことばで刊行のことばを結んでいま す。 「教養書でもあると同時に、本書に刺激されて、「英語以外の外国語」の教育を取り入れ、中学 生、高校生の関心をその方向に向けさせてくれるかもしれない実践の書になることも期待できま す。 この一冊の本が、私立学校だけでなく、全国の中学、高校に、いい影響を及ぼしてほしい。心 からそう願っています。」 いつか実を結ぶと信じ 、種まく人であり続けていきたいと考え ていま す。日本における多 言語教育の普及という大きな目的を共有できる様々な団体や志ある多くの個人の協力を期 待したいと思います。 (JACTFL 理事長・一般財団法人日本私学教育研究所)