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なぜ「多剤処方」は続くのか ―医師-患者間に作用する認知バイアスの研究―

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(1)

なぜ「多剤処方」は続くのか

―医師-患者間に作用する認知バイアスの研究―

第89回日本社会学会大会

2016年10月8日 福祉・保健・医療(2)

九州大学伊都キャンパス

県立広島大学 澤田千恵

casano@pu-hiroshima.ac.jp

本研究はJSPS科研25590117の助成を受けたものです。

(2)

1.背景

2014年、2016年の診療報酬改定

抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬

は3種類以上でおよそ50%の減算。

・精神科医らの反対。

冨高辰一郎氏:多剤になる要因

「目の前の患者に薬が効かないというリスク

を最大限回避したい」 「これは本能に根ざした

判断であり、知性による合理的な判断とは言え

ない」

(3)

2.目的

精神科医は、なぜ薬をたくさん出すのか?

「無知」「金儲け」「人殺し」・・・諸説あるが、いまひとつ説

得力に欠ける。

そもそも、多剤処方がダメな理由を挙げても、

精神科医はなかなか納得しない。「知性によ

る合理的な判断」(冨高)を阻むもの、それは

いったい何か?

(4)

3.達成課題

多剤処方は精神医療における「専門家文化」

として引き継がれているからではないか。

その文化を成り立たせている認知バイアスを

明らかにする。

(5)

4.1 方法

精神科患者の治療経験の中にも主治医の教

えが伝達されている。

分析データとして報告者が2012年以降実施し

ている聞き取り調査で得たデータを用いる。

元患者や医師へのインタビュー調査。

薬物療法に対する認識が変わった人たちを

対象者としている。

(6)

4.2 元患者へのインタビュー調査

≪調査対象者≫は以下の条件すべてにあては

まる人たち。

①精神科での一定期間の薬物治療経験

②治療での難治化

③断薬を実行した人。また、そのことで回復した

と捉えている人

④処方歴(カルテ、レセプト記録、お薬手帳など

過去の治療を裏付ける文書)の所持

(7)

4.3 元患者へのインタビュー調査

≪募集方法≫

・被害当事者会の会員を中心に、聞き取り調査を依頼。スノー

ボール・サンプリング方式も採用。

≪倫理的配慮≫

・所属大学の研究倫理委員会の承認を得た。協力者には文書

と口頭で説明。自発的な協力の意思を確認し、同意書を交わ

した。

≪調査の実施方法≫

・半構造化面接。①受診したきっかけや理由。②初診の診断

名と処方、医師からの説明。③初診から半年後、以降、受診1

年ごとの体調の変化と処方内容。④精神科での治療を受ける

以前や受けてから、また、服薬を中止して以降の精神科や薬

物療法に対する意識の変化。⑤現在の状態と元主治医や国・

学会等に伝えたいこと。

(8)

5.1 多剤処方(Polypharmacy)の定義

• 向精神薬:抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、

睡眠薬、気分安定薬。

• 副作用止め:下剤、降圧剤、胃薬、抗パーキ

ンソン薬等。

同じ種類の薬を複数用いる。

異なった種類の薬を複数用いる。

副作用止めの薬や糖尿病・高脂血症など別

の疾患の薬を同時に処方する。

(9)

5.2 抗精神病薬の処方量の変化

 八木剛平「薬に頼らない精神科治療」より

1952年 フランスでクロルプロマジン発売

1955年 日本でクロルプロマジン

(コントミン、ウィンタミン)

発売

1963年頃 クロルプロマジン(CP)換算で100~200㎎

1970年代 2種類併用が増加。CP換算200㎎~300㎎

1980年代 3種類併用が増加。

20世紀の終わりごろ CP換算1500㎎~2000㎎

(厚労省の研究班で国立病院を調査したデータ)

 リスペリドン(商品名:リスパダール):日本では1996年6月導

入。日本での最初の非定型抗精神病薬(第二世代薬)

 オランザピン(商品名:ジプレキサ)2001年に導入。

 スイッチングがうまくいかず、多剤併用大量処方になる患者

が出てきた、と言われるが・・・

(10)

5.3 1970年代~ 「薬づけ」批判

「朝日新聞 東京版 朝刊」1970年4月25日

「精神病患者に“薬づけ”の恐怖

鎮静させ扱いやすく

心ない使用 生命の危険も

横浜舞岡病院長が学会報告

精神分裂病患者に多量に投与されている強力な精

神安定剤などの「向精神薬」は、患者の心臓に激し

い副作用を及ぼし、死に至らしめる危険がある―と

いう研究報告が、徳島市で開かれている日本精神

神経学会で24日発表された。研究者は横浜市戸塚

区・横浜舞岡病院の田口孝源院長(43)。この薬は

興奮を静めるには絶大なきき目があるため、看護師

の手間をはぶくなど、病院管理の立場から必要以

上に使われる恐れがあるとして、これまでも良心的

な医師から警告が出されていた。しかし、この心配

を裏付ける具体例が学会で発表されたのは、わが

国では初めてである。」

(11)

6.1 多剤処方の具体例①

Xさん(不眠) 2005年 初診から7年目(中毒死)

• パキシル20mg

2錠 抗うつ薬(SSRI)

• テトラミド10mg 6錠 抗うつ薬(四環系)

• セルシン5mg 3錠 抗不安薬

• デパス1mg 6錠 抗不安薬

• レキソタン5mg 2錠 抗不安薬

• メンドン7.5mg

2Cap 抗不安薬

• ベンザリン10mg 2錠 睡眠薬

• ハルシオン0.25mg 2錠 睡眠薬

• マイスリー5mg 1錠 睡眠薬

• ラボナ50mg 2錠 睡眠薬

• ベゲタミンA

3錠 睡眠薬

• ラボナ50mg 2錠 (不眠時頓服)

抗うつ薬2種類 抗不安薬4種類 睡眠薬6種類 1日33錠

(12)

6.2 多剤処方の具体例②

Yさん(不眠・興奮) 2013年 初診から1年2ヵ月目(突然死)

• エビリファイ6mg

1錠 非定型抗精神病薬

• エビリファイ12mg

1錠 非定型抗精神病薬

• コントミン50mg

1錠 定型抗精神病薬

• テグレトール200mg

2錠 気分安定薬(抗てんかん薬)

• リーマス200mg

2錠 気分安定薬

• フルニトラゼパム2mg 1錠 睡眠薬

• ニトラゼパム5mg

2錠 睡眠薬

• ルネスタ2mg

1錠 睡眠薬

• レンドルミン0.25mg

1錠 不眠時頓用

• センシノド12mg

1錠 下剤

• アルセチン10mg

1錠 高脂血症治療薬

• アムロジン2.5mg

2錠 血管拡張剤

• ジャヌビア50mg

1錠 糖尿病治療薬

抗精神病薬2種類 気分安定薬2種類 睡眠薬4種類 副作用止め1種類 内科疾患薬3種類 1日17錠

(13)

6.3 多剤処方の具体例③

Aさん(不眠、イライラ) 2007年 初診から4年目

• アモキサン50mg 3Cap 抗うつ薬(三環系)

• アモキサン25mg 3Cap 抗うつ薬(三環系)

• トレドミン25mg

4錠

抗うつ薬(SNRI)

• レスリン25mg 1錠

抗うつ薬(鎮静系)

• コントミン12.5mg 1錠

定型抗精神病薬

• レキソタン1mg

3錠

抗不安薬

• サイレース2mg 1錠

睡眠薬

• ドラール20mg

1錠

睡眠薬

• プルセニド12mg 3錠

下剤

• プリンペラン5mg 2錠

吐き気止め

抗うつ薬3種類 抗精神病薬1種類 抗不安薬1種類 睡眠薬2種類 副作用止め2種類 1日22錠

(14)

6.4 多剤処方の具体例④

Bさん(不眠) 2011年 初診から13年目

• トレドミン15㎎ 4錠 抗うつ薬(SNRI) • ルジオミール10㎎ 2錠 抗うつ薬(四環系) • ルボックス75mg 2錠 抗うつ薬(SNRI) • ドグマチール50㎎ 3錠 抗うつ薬(定型抗精神病薬・胃薬) • セロクエル25㎎ 1錠 非定型抗精神病薬 • デパス0.5mg 3錠 抗不安薬 • ソラナックス0.4mg 2錠 抗不安薬 • メイラックス1㎎ 1錠 抗不安薬 • アモバン7.5 1錠 睡眠薬 • レンドルミン0.25㎎ 1錠 睡眠薬 • マイスリー10㎎ 1錠 睡眠薬 • サイレース2㎎ 1錠 睡眠薬 • ベゲタミンB 2錠 睡眠薬 • セルベックス50㎎ 2Cap 胃薬 • ガスモチン5mg 2錠 胃薬 • マグミット330㎎ 3錠 下剤 • デパス0.5㎎(頓用) 2錠 抗不安薬 抗うつ薬4種類 抗精神病薬1種類 抗不安薬3種類 睡眠薬5種類 副作用止め3種類 1日33錠

(15)

6.5 多剤処方の具体例⑤

Gさん(うつ) 2005年 初診から5年目

• ルボックス25mg

5錠 抗うつ薬(SSRI)

• パキシル10mg

4錠 抗うつ薬(SSRI)

• ウィンタミン12.5mg 3錠 定型抗精神病薬

• ウィンタミン25mg

2錠 定型抗精神病薬

• デパケンR200mg

2錠 気分安定薬(抗てんかん薬)

• セルシン2mg

3錠 抗不安薬

• デパス0.5mg

2錠 抗不安薬

• アモバン10mg

1錠 睡眠薬

• ベゲタミンA

1錠 睡眠薬

• ベゲタミンB

1錠 睡眠薬

• ロヒプノール2mg 1錠 睡眠薬

• プリンペラン5mg

3錠 吐き気止め

• ガスモチン5mg

3錠 胃薬

• アローゼン0.5g

1包 下剤

抗うつ薬2種類 抗精神病薬2種類 気分安定薬1種類 抗不安薬2種類 睡眠薬4種類 副作用止め3種類 1日32錠

(16)

6.6 収集した事例の特徴

 基本的に、外来処方による被害。

 診療所が多いが、大学病院、単科精神科病院による

処方も含まれている。

・外来処方の場合、病院薬剤師のチェックが及ばない。

チーム医療の範囲外となる。

・「医師―患者」二者関係であり、モニタリングや環境調

整が行われない。

・医師は診察内での患者の様子から状態を判断する

ため、患者の訴えに対応した薬を次々と出し、薬物に依

存した診療となっていく。

(17)

7.どのように多剤になるのか

 具合の悪さ、不快な症状を訴えると薬が追加される

【Gさん:多剤処方の具体例⑤】

「徐々に、徐々に増えてったんです。で、私もいけなかったのが、本当

に治したかったんですよ。この病院に変えて、私は本当に治すんだっ

て思って。で、まあ、あの、すごくこと細かに自分の症状を説明するっ

ていうのをやってきたんですよね」

【Aさん:多剤処方の具体例③】

・妻の病気により幼児2名の育児、家事と仕事の両立で寝つきが悪く

なりイライラする。

「不快な症状があれば、訴えれば薬が出てくる。・・・ちょっとイライラ

が強いって言うとイライラを抑える薬を出す。薬の影響で便秘が強い

んだったら、その薬を出す。胃のイライラを抑える薬もムカムカを抑え

る薬も出そうかみたいな感じですね」

(18)

Aさんの処方量の変化

①「不眠とイライラ」 レスリン、トレドミン(抗う つ薬2剤)+エリスパン (抗不安薬)+ハルシオン (睡眠薬)※エリスパンは 非常に眠気の強い抗うつ 薬。 日中、強烈な眠気で仕事 にならず、1週間足らずで 休職となる。 イミプラミン換算:1日に200mg MAX300mg ジアゼパム換算:外来MAX15 mg ②「出かけるのが しんどいので寝て るかゲームしてる かしかできない」 アモキサン追加で 抗うつ薬3剤に。 休職がプレッ シャーになる。 ③「消えたい」 入院。 口渇、便秘、 体重増加、リ ストカット。 ④急性腹膜炎 で入院。退院 後、家財道具と 家族がいなくな る。離婚。抗う つ薬の量増加。 コントミンでさら に増強。 ⑤職場復帰。 半年後、欠勤。 薬剤性パーキ ンソン。 ⑥生活費が 底をつく。死 を覚悟。 ⑦実家に連れ 戻される。2回 衝動的家出。大 怪我で入院。生 活保護受給。 ⑧食欲不振。 水溶性の下痢。 貧血。激しい 頭痛。希死念 慮。過量服薬 自殺の実行。 ⑨助けてくれた女性と同居生活 開始。性機能障害を自覚し、処 方変更を求める。医師や薬剤 師の対応への不信から薬につ いて調べる。診断や処方の問 題点を認識。

(19)

【Eさん】

「具合が悪いと言うと、薬が増えたので。知識もないので、飲んだんですよね」 DVシェルター入所 約1か月後 DVシェルター入所 シェルター退所後 シェルターの紹介で、 提携医のところへ通院開始 所持薬(保健所で心理相談を受け、心療内科を紹介された) ドグマチール3錠 抗うつ薬 ソラナックス3錠 抗不安薬 リズミック2錠 血圧をあげる薬 レンドルミン 不眠時頓用 正露丸3錠 頓用 所持薬 リズミック10mg 2錠 2回 朝・寝る前 血圧をあげる薬 ザンタック150 2錠 2回 朝・寝る前 胃薬 ※生理が止まってしまったため、向精神薬は服用を中止していた。 シェルター内での処方 リスパダール1mg 1錠 不安時 マイスリー5mg 2錠 不眠時 初診 ドグマチール50mg 3錠 抗うつ薬 デジレル25mg 1錠 抗うつ薬 ソラナックス0.4mg 3錠 抗不安薬 マイスリー5mg 1錠 睡眠薬 レンドルミン0.25 mg 1錠 睡眠薬 リズミック10mg 2錠 血圧の薬 通院3か月後 体重が43kg→38kg 貧血が酷くて倒れた。血圧も低い。教育方 針をめぐって夫ともめた。離婚届を出すぞと 言われた。私は子供のために落ち着いた 生活がしたい。生活費をくれない。 ジェイゾロフト(SSRI)50mg追加 3週間後 保育園に連れて行くのが負担。子供も行きたがらない。 だんなが病気に理解がないから、ご飯ができていなかっ たら怒鳴ったりするし、ご飯食べないだけで怒られる。こ のまま死んじゃおうかな。夫に突き飛ばされたりする。夫 は会社を勝手に休む。夫と一緒にいるのが苦痛。逃げ 場もない。夫が暴れる。しばらく別居という体制もとれる のか? ジプレキサ(非定型抗精神病薬) 2.5mg追加

(20)

8.なぜ患者は大量の薬を飲むのか

医師への信頼 自分は病気なのだから、医師の指示通り治 療すれば治る。疑うとかえってよくならない。 医師が処方する薬は安全 治るためには症状を逐一報告すべし 医師は患者の訴え(情報)が増えればサー ビスとして薬を処方する【症状対応型診療】 副作用があっても我慢すべし 副作用があることが、むしろ薬の効果を保 証する。薬が効き始めるには時間がかかる 薬は多いほど効く、薬をたくさん出される と安心、たくさん飲んだら早く良くなる 薬を飲まないと治らない 【生物医学バイアス】 薬をやめたら悪化し、再起不能となる 【廃人化バイアス】 自分は病気だと思っている 身体的不調の解釈の問題。生活問題の身 体化が精神疾患と解釈されている 薬の耐性・依存形成 服薬するにつれて耐性がつき、依存が形成 される。離脱も起きるため、減薬したくない。 これらの認識は受診前にはなかったものであり、診療での精神科医とのやりとりを通じて獲得されている。

(21)

9.医師は多剤処方をどうとらえているか

―a医師(精神科医歴30年)の語りから―

見て真似る多剤処方 「先輩先生たちの処方」から、「ちょっとずつの作用をミックス して、そういうふうにやるというのをなんとなく見て覚えた」 薬物療法ありき (損失回避) 薬物療法なしで良くなった例を知らない。薬を使わないこと は「清水の舞台から飛び降りるくらいじゃないとできない」 廃人化バイアス 古典的で重篤な精神病のイメージ。「統合失調症とか、ある いはほかの疾患でも興奮した状態を放置するとか、たとえ ば、やわな対応をするとだんだんと精神が荒廃していって 崩れてしまう」 疾患の複雑化言説 ストレス社会である現代においては精神疾患は複雑化して おり、単剤では対応できない難治例が増加。 生物医学バイアス 脳の疾患・障害。薬物療法をスタンダードとする考え。

(22)

10.インタビュー協力者(元患者・医師)に共通する

薬物療法に対する認識の変化

以前 以後 薬を飲まないと治らない、悪化する 薬によって難治化・複雑化している 眠れないこと、気分の落ち込み、イライ ラなどは精神病である 精神病というより人生の悩み、危機 助け(福祉的サポート)が必要な状態 薬の副作用は我慢しなければならない たとえ便秘のような副作用症状であっても、体 に害を及ぼしている証拠。副作用を我慢してま で飲む必要はない 眠れないこと、気分の落ち込み、イライ ラなどは脳の機能障害であり、薬はそれ を調整・改善してくれる 薬は対症療法に過ぎず、脳の神経伝達物質を 人工的にいじることで、かえって生体のバラン スを崩す。きわめて侵襲度が高い。脳に不可逆 的なダメージを与える 病気の悪化 服薬による薬剤性の症状の増加 心身の不快な症状は医師に委ねるべき セルフ・ケア、自然治癒力が大事 向精神薬には効果がある 向精神薬は脳機能に障害をもたらし、服薬に よって問題行動が生じる

(23)

11.インタビューした元患者とa医師の違い

元患者 A医師

精神科医は薬に対する知識が無知で不

勉強か、世間知らず。あるいは、患者のこ

となどどうでもよく、たとえ死んでもかまわ

ないと考えている。

「あっ、こんなに社会のこと知らないんだなと思いました。 ・・・医者が。うん。診察室にずっといるので、うん。たとえば、家庭生活で のこと。あの、地域の生活でのこと。いわゆる、その、就職生活でのこと、 そういった相談に対して、お医者さん自身がイメージがわかないみたい で、あの、話にもならなかったから、こっちから話をしなかったっていう。 いや、そこまでとは思わなかった。もうちょっとこう、社会的な認識とか、 その、一般企業で働くとかっていうことは、どういうことなのかってことも、 ちょっと中に入って知ってるもんだと思ったので。・・・期待した自分が、バ カだったという話(笑)」(Dさん) 「今、こうやって被害を受けて振り返ると、精神科っていうのは、本当に人 を殺すためのものだなって、よくわかった。本当になくしていかないといけ ないと思う。科学でもないし、でっちあげとお金儲けだけで、こんだけお金 を吸い取って、人を駄目にして殺して、絶対これはなくさないといけないと 思う」(Bさん)

精神科医は患者の最

悪の事態を防ぐために、

副作用があったとしても

「心を鬼」にして強制的

に治療を行っている。

「精神科医は副作用よりも、本人の訴え よりも、なによりもなによりも薬で救ってあ げなければ、しかも早く救ってあげなけれ ばこの人は後々とっても大変なことにな ると。・・・だから人権なんてなんとも思っ ていないでもなんでもなくて本当に良いこ と、正しいことをして、拘束することも隔離 することも、お薬で鎮静することも飲まな い人には注射をすることも全部これが正 しい道だって思ってる。」

(24)

今後の課題

• 元患者、精神科医の聞き取りを増やしていく。

• 医者以外の専門職の聞き取りも行う。

• 医師の指導の下に断薬した患者の聞き取り

を行い、自己判断・自力で断薬した人たちと

の違いを検討する。

(25)

参考文献

①冨高辰一郎,2012,「多剤併用療法と気分障害診断の拡がり」『精神科治療学

特集―精神科医の多剤併用・大量処方を考えるⅠ』27(1),63-69.

②Groopman,Jerome.& Hatzband,Pamela,2011,Your Medical Mind:How to

decide what is right for you,The Penguine Press,a member of Penguine

Group(USA)Inc.(=2013,堀内志奈訳『決められない患者たち』医学書院.)

③池原毅和,2011,『精神障害法』三省堂.

②より

多くの患者が、ある薬を飲むことや医療処置を受けることに「気が

進む」あるいは「すすまない」ということを自分の治療方針の選択理

由に挙げる。・・・ある特定の治療法の何に、あるいは何もしないと

いう選択の何に「気が進んだ」り、「すすまなかった」りするのだろ

う?治療に関するこうした見方、考え方は何に由来するのだろう

か?こころの内外にあるどんな力が患者に働いて、そのひとの見

方を形作るのだろう?(9-10)

(26)

可用性バイアス

• 誰がどういう選択をしたかという話は、私たち全てが自分自身

あるいは自分の住む世界をどう理解するかに強力な影響を与

える。こうした心情の形成は、親が話してくれる物語を聞いたり、

寝る前に童話を読んでくれたりする子供時代にすでに始まる。

さらに大きくなるにつれ、同僚や友人、知り合いの経験談も耳

にするようになってくる。また、本や雑誌、映画、テレビそしてイ

ンターネットでも様々な話を見聞きする。・・・こうした個々の話

が私たちの思考に与える強い影響力のことを、認知心理学者

は「可用性バイアス」と呼ぶ。ある種の物語や「クチコミ」は、そ

れがドラマチックで珍しい話であればいっそう、私たちの心に

しっかりと刷り込まれる。そうした記憶は思い出すのも容易な

ので、不安な状況下で難しい決断に頭を悩ませるときにもすぐ

に「使用可能」なのだ。(19-20)

(27)

• 「医師として、私たちは30年以上患者を診てきた

が、・・・自分の家族や友人、あるいは知人が治療

を受けた経緯あるいはあの教会の女性のように副

作用に苦しむ様についてひとびとが語るのを数え

きれない耳にしてきた。(治療せずに長生きした、

友人と同じ薬をリクエストしてきた・・・)こうした他人

の話には安心感を与えるものもあれば、逆に不安

感をあおるものもあるが、いずれにしてもそのひと

の志向に与える影響は大きい。ありありと感じられ

るそれぞれの話は、起こるかもしれない未来の姿

を映した鏡のようなものとなる。おそらく可用性バイ

アスは、患者が治療の選択をするとき最初にどう

判断するかに最も強く、普遍的に影響している力

だ」(20)

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