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原著論文 円形触知点記号の大きさの弁別 視覚障害者と晴眼者の比較 *1 *2 渡辺哲也山崎隆大 Size Discriminability of Circular Tactile Point Symbols -Comparison between Blind and Sighted People-

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円形触知点記号の大きさの弁別―視覚障害者と晴眼者の比較―

渡辺

哲也

*1

山崎

隆大

*2

Size Discriminability of Circular Tactile Point Symbols

Comparison between Blind and Sighted People-

Tetsuya Watanabe

*1

and Takahiro Yamazaki

*2

Abstract - To find highly discriminable combinations of circular tactile point symbols on swell paper, we presented pairs

of tactile circular point symbols with diameters varying between 1.0 mm and 5.0 mm in 0.5 mm steps to 12 blind and 12 sighted participants in a paired comparison experiment. The participants were asked which dot was larger or if both were the same size. The difference thresholds for the size of the circles increased as the diameter of the reference stimulus increased. They were found to range from 0.5 mm to 0.7 mm. These values are lower than the values obtained in previous research. Possible reasons for this difference were the difference in diameter steps and the removal of the data of the participants with great ambiguity. A two-way ANOVA test between the participant groups did not show a significant main effect; the blind participants did not surpass the sighted in terms of the difference threshold. The threshold values obtained in this experiment were utilized in the design of a tactile star wheel for the blind.

Keywords : Tactile dot symbol, Size discrimination, Blind persons, Swell paper, Tactile star wheel

1. はじめに 視覚障害者向けの触図は,背景から凸状に浮き出て触 知可能な面記号,線記号,点記号で構成される[1](面記号, 線記号では凹状のものもある).このうち点記号は情報の 位置と種類を表す.情報の種類は点記号の形状や大きさ の違いで表現する.これらの差異を触知で弁別可能とす るため,点記号は数mm 程度の大きさをもつ.形状には 円形,三角形,四角形,十時形,V 字形,などの種類があ り,「点」とはいうものの,小さな円形とは限らない.こ のため本稿では,表記は長くなるが「円形触知点記号」 という語を使うこととした. 視覚障害者と晴眼者を対象に円形触知点記号の大きさ の弁別閾を求め,両者の間で弁別閾に違いがあるかどう かを調べることが本研究の目的である.触知点記号の大 きさの弁別閾を明らかにする必要性は,特別支援教育, 及び視覚障害リハビリテーションの分野の実践において 生じてきた.私たちは,任意の月日・日時・方角の星空を 視覚障害者が知ることができる触星図自動作成システム を開発してきた[2].その星図の中で星を円形の触知点記 号で表しており,星の等級の違いを円の直径の違いで表 そうとした.触覚で十分に弁別できる円形触知点記号の 直径差を求めるため,田口らが実験を行ったところ,弁 別閾は約1~2 mm の範囲にあることが分かった[3].この 知見にもとづいて矢島らは,触る星座早見盤において 1 等級以上の星を直径4 mm の白抜きの円形,2 等級の星を 直径4 mm の塗りつぶしの円形,3 等級から 5 等級の星を 直径2 mm の塗りつぶしの円形の触知点記号で表した[4] この早見盤を視覚障害者向け総合イベントで展示したと ころ,盲学校の児童から星の点が大きいと感じる,つま りもっと小さくしてほしいという意見をいただいた.田 口らの実験の参加者は晴眼者であることと,視覚障害者 は晴眼者よりも触圧感度と空間分解能が鋭いという報告 があることから[5],[6],視覚障害者では晴眼者よりも円形 触知点記号の大きさ弁別閾が小さい可能性がある.もし そうならば,大きい方の触知点記号を小さくでき,先述 の盲学校児童の要望に応えることができる.そこで,視 覚障害者を対象とした実験によって円形触知点記号の大 きさ弁別閾を明らかにし,晴眼者と視覚障害者の間で弁 別閾を比較してみることとした. 円形触知点記号を大きさだけで弁別するための数値の 指針となる資料を探したが,触図に関する研究・実践の 集大成である書籍“Tactile Graphics”[7]や北米点字委員会

(Braille Authority of North America)による触図ガイドラ

イン[8]にはそのような記述は見つからなかった.国内の 特殊教育分野の研究では,円の大きさの弁別を盲児に行 わせた実験があった[9].そこでは,直径3 cm の円を標準 刺激とし,これと直径3.1~4.0 cm の円との弁別をさせて いる.しかし星図で使う点記号の大きさは数mm 程度で あり,これに比べるとこの実験の円は大きすぎるため, 直接的な資料としては使えない.数mm 程度の点記号の 大きさの変化が弁別や知覚に与える影響を調べた研究と しては,凸点と凸バーの識別容易性に関する研究[10],凸 点を格子状に並べたドットパターンの粗さ感覚に関する 研究[11],点字の読み取りやすさに関する研究[12]などがあ *1: 新潟大学 工学部 *2: 株式会社 ケイエステック

*1: Faculty of Engineering, Niigata University *2: KS-Tech Co., Ltd.

原著論文

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る.しかし,円形触知点記号の大きさの弁別そのものを 調べようとした研究は見当たらなかった.そこで視覚障 害者と晴眼者の両方を対象として円形触知点記号の大き さ弁別実験を行うこととした. 上述の通り,本研究開始の直接的な動機は触る星座早 見盤作成時の基礎データを得るためだが,円形触知点記 号は触図を構成する基本的な要素であることから,他の 触図である触地図,触知グラフ,教科書の中の図の触図 訳においても,本研究から得られる知見は活用可能であ る.また本研究のデータは,視覚障害者と晴眼者で触知 覚能力は異なるのかという学術的な関心に応えるデータ の一つになり得る. なお本稿は,電子情報通信学会福祉情報工学研究会で 報告した実験[13]の参加者を約2 倍に増やし,データ解析 と考察を中心に原稿全体を書き直したものである. 2. 点記号の大きさ弁別実験 2.1 参加者 実験には,晴眼者 12 人と全盲の視覚障害者 12 人に参 加してもらった.晴眼者の年齢幅は20 歳から 24 歳,平 均年齢 22 .8 歳,性別は男性 9 人,女性 3 人であった.視 覚障害者の年齢幅はこれより広く 21 歳~72 歳,ただし 20 歳代が最も多く 7 人,30 歳代 1 人,40 歳代 1 人,50 歳代2 人,70 歳代 1 人であった.視覚障害者の性別は男 性5 人,女性 7 人であった.視覚障害者は全員点字を触 読できる.点字の学習開始年齢は9 人が小学校/小学部 入学時頃(5~6 歳),2 人は中学校/中学部入学時頃(12 ~13 歳),1 人は中途失明者で 30 歳代半ばであった.こ の中途失明者1 人と,中学校/中学部入学時頃に点字を 習い始めた2 人のうち 1 人は点字を日常的に使用してい なかったが,そのほかの10 人は点字を日常的に使用して いた. 本実験は新潟大学工学部倫理委員会の審査を受け,新 潟大学工学部長の許可のもとで実施した(受付番号: 15065). 2.2 刺激 実験用の刺激は立体コピーで作成した.立体コピーと は触図を作成する方法の一つである. 熱発泡性のマイク ロカプセルが塗布された紙(カプセルペーパ/立体コ ピー用紙)を現像機に通して熱を加えることで,黒く印 刷された部分が膨張するという仕組みである.カプセル ペーパにはZychem 社の ZY-TEX2 Swell Paper を使用し, 現像機にはQuantum Technology 社の PIAF を使用した.

提示する刺激は,縦70 mm×横 100 mm の立体コピー 用紙片上に作成した二つの円形触知点記号である(図1). その直径は1.0 mm~5.0 mm の範囲で刻み幅 0.5 mm で変 化させたので9 種類となる.円の内側は塗りつぶしてあ る.田口らの実験では刻み幅を1.0 mm としていたが[3] これを 0.5 mm に縮めることで弁別閾をより精確に推定 する.刺激対の数は,左側の点記号(これを標準刺激と する)の直径9 種類×右側の点記号(これを比較刺激と する)の直径9 種類の合計 81 種類である.この中には, 同じ直径の点記号が二つ並んだ刺激対が9 種類含まれて いる.刺激の左側に指の待機スペースを設けた.待機ス ペースは15 mm×15mm の中抜きの四角形である.参加 者は,各試行の開始前はこのスペースに指を置いて待機 する. 2.3 手順 実験は室内で行った.参加者はテーブルに面した椅子 に座り,テーブルの上に置かれた刺激を実験者の指示に 従って触った.刺激と手順は晴眼者と視覚障害者で同じ だが,晴眼者にはアイマスクを着用してもらった. 1 試行の流れは以下の通りである.参加者には,利き手 の人差し指を標準刺激の左側にある待機スペースに置い てもらう.その後,利き手の人差し指の腹で刺激対を左 から順に触ってもらう.右から左への触り戻りを許可し, 点径の違いが分かるまで触察してもらった.その後,大 きいと感じた方を「右」または「左」と口頭で回答しても らった.大きさが似通っていて区別がつかない場合は, 「同じ」と回答してもらった. 10 回の練習試行を行った後に,本試行に入った.刺激 対 81 種類を 1 セットとし,これを 5 セット行ったので, 参加者は合計405 試行に取り組んだことになる.刺激対 は各セット内でランダムな順で提示した.各セット間に は約10 分の休憩を設けた. 3. 実験結果 3.1 回答率の変化 標準刺激が一定のときに,比較刺激の直径が変化する につれて回答者の回答が徐々に変化する様子の典型的な 例を図2 (a)に示す.直径 3.0 mm の標準刺激に対して比 較刺激が1.0~2.0 mm のときは,標準刺激の方が大きい と回答する割合が100%であるが,比較刺激が 2.5 mm に なるとその割合が下がり,その分,比較刺激と標準刺激 が同じ大きさであると回答する割合が上がった.両者が 図1 二つの触知点記号からなる刺激

Fig. 1 A pair of tactile point symbols used as stimuli. ヒューマンインタフェース学会論文誌

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同じ大きさであると回答する割合は,比較刺激が3.0 mm のとき100%になった.比較刺激の直径が 3.5 mm になる と,両者が同じ大きさであると回答する割合が下がり, その分,比較刺激の方が大きいと回答する割合が上がっ た.比較刺激が4.0 mm 以上まで大きくなると,比較刺激 の方が大きいと回答する割合が100%を占めた.このよう に,標準刺激と比較刺激の直径の差異に応じて参加者の 各回答の割合は連続的に変化した. 3.2 弁別閾

図 2 (a) を 使 っ て 主 観 的 等 価 点 ( point of subjective equality : PSE)と弁別閾の求め方を説明する.標準刺激が 2.5 mm と 3.0 mm の間で,「標準刺激が大きい」(すなわ ち比較刺激が小さい)とそれ以外(「同じ大きさである」 及び「比較刺激が大きい」)の回答割合が50%となる点が 存在すると考えられる(図2(a)で下向き矢印を描いた点). 50%はチャンスレベルであり,ここでは比較刺激の方が 小さいか,あるいは同じ大きさ以上であるかの区別がで きていないと言える.ここが下弁別の点である.同様に, 標準刺激が3.5 mm と 4.0 mm の間で,「比較刺激が大き い」とそれ以外(「同じ大きさである」及び「標準刺激が 大きい」)の回答割合が50%となる点が存在すると考えら れる(同).ここが上弁別の点である[14].これらの点を上 限・下限とする範囲は,比較刺激と標準刺激を同じ大き さであると感じる範囲であり,その中間地点がPSE とさ れる[15] 私たちが求めたい弁別閾は,大きさの違いを十分に区 別するのに必要な点記号の直径の差異である.前の段落 で用いた上弁別と下弁別の点において参加者は両者の大 きさの区別をできていないので,この値を用いるのは目 的に適っていない.そこで2 件法の考え方を適用し[15] 両者の弁別が全くできていない点(上弁別と下弁別の点) と「比較刺激が大きい」または「標準刺激が大きい」の回 答割合が100%(完全に弁別できている)の点の中間地点, すなわち「比較刺激が大きい」または「標準刺激が大き い」の回答割合が75%である 2 点を本稿での上弁別と下 弁別の点とした.そして両点とPSE との間の範囲を上弁 別閾,及び下弁別閾とし,両者の平均値を任意の標準刺 激における弁別閾とした. 標準刺激の直径が1.0 mm,5.0 mm のときは,それより 小さい/大きい刺激を提示していないため,PSE は求ま らない.標準刺激が4.5 mm のとき,比較刺激が 5.0 mm であっても比較刺激の方が大きいとする回答割合が少な く,PSE が求まらないことが視覚障害者 7 人と晴眼者 5 人において生じた(図2 (b) 左側).このため,これらの 標準刺激は分析の対象外とした.視覚障害者の1 人では, 図2 (b) 左側のような回答が,標準刺激が 1.5 mm と 4.0 mm のときにも生じた.更に,標準刺激が 3.5 mm のとき 比較刺激 4.0 mm 以上において回答の傾向に一様性が見 られなかった(図2 (b) 右側).このため,この参加者の データは分析から除いた.なお,この参加者の年代は20 歳代,点字利用歴は約20 年,日常的に点字を利用してお り,弁別閾が求まらなかった理由として触知覚の低下は 考えづらく,慎重に判断したためではないかと推測する. 各標準刺激における視覚障害者11 人と晴眼者 12 人の 弁別閾の平均値を示したのが図3 である.標準刺激の直 径が大きくなるにつれて弁別閾の平均値も大きくなる様 子が見られた.弁別閾の平均値の範囲は0.5 mm から 0.7 図3 触知点記号の大きさの弁別閾

Fig. 3 Difference thresholds of the sizes of the circular tactile point symbols. 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 視覚障害者 p < 0.05 晴眼者 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 50% 75% || || 100 80 60 40 20 0 5 4 3 2 1 0 (a) PSE と弁別閾の求め方 (a) Calculating PSE and difference thresholds.

1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 100 80 60 40 20 0 100 80 60 40 20 0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 (b) PSE と弁別閾が求らない回答例 (b) Responses from which PSE and difference thresholds cannot be calculated.

図2 比較刺激の変化に伴う回答率の変化

Fig. 2 Response rate change according to the change in the diameter of the comparative stimuli.

円形触知点記号の大きさの弁別-視覚障害者と晴眼者の比較-

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mm であった.図 3 を見る限り,視覚障害者の方が弁別 閾が小さいという傾向は見られなかった. 参加者の種別(視覚障害者と晴眼者)と円形触知点記 号の直径を要因とする2 要因の分散分析を行ったところ, 触知点記号の直径の変化による有意な主効果が見られた (F(5, 105) = 3.69,p < 0.05)が,参加者の種別(視覚障害 者と晴眼者)の主効果と交互作用は有意ではなかった(そ れぞれ F(1, 21) = 0.02,F(5, 105) = 0.38).触知点記号の直 径の変化による主効果の多重比較として HSD 検定を用 いたところ,標準刺激の大きさが1.5 mm と 3.5 mm の間, 及び1.5 mm と 4.0 mm の間に有意な差が見られた(p < 0.05). 3.3 ウェーバ則 標準刺激が大きくなるにつれて弁別閾が大きくなる傾 向は,刺激の弁別閾は基準となる刺激の強度に比例する というウェーバ則に従っていると考えられる[15].そこで, 視覚障害者と晴眼者のウェーバ比(弁別閾/標準刺激) を求めた.その結果を図4 に示す.ウェーバ比が一定で あるのがウェーバ則であるが,図4 を見ると標準刺激が 小さいほどウェーバ比が大きくなっており,ウェーバ則 に従っているとは言えない.これは,円形触知記号が小 さいときに大きさの弁別が難しかったことを示している. 4. 考察 4.1 視覚障害者と晴眼者の相違 分散分析の結果,参加者の種別(視覚障害者と晴眼者) の主効果は見られなかった.つまり,円形触知点記号の 大きさの弁別閾は視覚障害者と晴眼者の間で有意な違い は見られなかった.これは,晴眼の参加者の平均年齢が 22.8 歳と若かったことが理由であると考えられる.指先 に押し当てた溝の向きを判断させて触覚の空間分解能を 調べた研究では, 若年晴眼者と視覚障害者の分解能の値 が近いと報告されている[5].日常的に触覚を用いて情報 を取得する習慣(必要性)のある視覚障害者は高齢となっ ても触知覚機能が衰えないが(実際,今回の実験結果に おいて,50 歳代と 70 歳代の視覚障害者 3 人の弁別閾は, 視覚障害者の中でも小さい方から1,2,4 番目の値であっ た),そのような習慣のない晴眼高齢者では触知覚機能の 低下が見られていることから[16],晴眼の高齢者も対象と して今回と同じ実験を行えば,年齢の効果も含めた視覚 障害者と晴眼者との差異が見られると予測される. 4.2 先行研究との相違 田口らの研究の参加者も平均年齢22.9 歳の晴眼若年者 であったが,その実験結果では標準刺激が 2.0 mm,3.0 mm,4.0 mm のときの弁別閾は 0.96 mm(上弁別閾),1.45 mm,1.70 mm(上下の弁別閾の平均)であり[3],今回の実 験で得た弁別閾の1.5 倍から 2.5 倍と大きい値だった.こ の差異を生じた主な理由は,田口らが弁別閾の算出に 使ったのは比較刺激の方が小さい,あるいは大きいとい う回答割合が90%のときの比較刺激の値であるのに対し て,今回は75%のときの値を使ったという違いである(図 2 を参照).田口らが回答割合 90%を用いた理由は,「十 分に区別できる」点を「ほとんどの回答が比較刺激の方 が小さい,あるいは大きい」となる点に設定したためで ある.弁別閾の算出に用いる回答割合を変えれば弁別閾 の値が変化するのは自明である.そこで弁別閾の算出に 用いる回答割合を本実験と等しくするため,田口らのグ ラフから75%となる比較刺激の値を読み取って弁別閾を 求め直してみたところ,標準刺激が1.0 mm,2.0 mm,3.0 mm,4.0 mm のときの弁別閾はそれぞれ 0.93 mm,0.85 mm,0.93 mm,1.25 mm となり,やはりまだ大きい.これ らの値を比較しやすいように表1 にまとめた. 田口らの研究と本研究の間で実験方法を比べると,実 験刺激に用いた立体コピー用紙と現像機,刺激作成の手 順,3 件法での回答方法,教示内容(回答の基準)は同じ である.このことから,田口らのデータと本研究のデー タを比較することは妥当だと言える.一方で異なる点は, 点記号の直径の範囲と刻み幅,提示回数(田口らは同じ 刺激対を3 回ずつ提示,本実験では 5 回提示),大きさの 差に関する確信度の回答の有無(田口らは確信度を回答 してもらっているが,本実験では確信度を尋ねていない), 実験データの選択の有無である.これらの相違のうち, 表1 若年晴眼者の弁別閾

Table 1 Difference thresholds by young sighted participants. 各標準刺激に対する弁別閾 [mm] 標準刺激の直径 [mm] 1.0 2.0 3.0 4.0 田口ら回答率90%[3] 1.5 0.96 1.45 1.70 田口ら回答率75%[3] 0.93 0.85 0.93 1.25 本実験回答率75% - 0.58 0.61 0.74 図4 ウェーバ比

Fig. 4 Weber ratio.

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 0.4 0.3 0.2 0.1 0 視覚障害者 晴眼者 ヒューマンインタフェース学会論文誌 ( 672 ) 104 ( 104 ) 104

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弁別閾の値の変化を生じる可能性があるのは,点記号の 直径の刻み幅の違いと実験データの選択の有無ではない かと考えた. 田口らの研究では直径の刻み幅は 1.0 mm だったのに 対して,本実験では0.5 mm である.刻み幅 1.0 mm の間 の回答率の変化は直線になるが,刻み幅が0.5 mm に縮ま れば,1.0 mm の間の回答率の変化を詳細に表せるように なり,その結果,弁別閾の値が変化する(図5 を参照). ただしこの変化は弁別閾を小さくするだけでなく,大き くする可能性もある. 次に実験データの選択の有無の効果を考える.田口ら は参加者 10 人分のデータをすべて合算して回答率の変 化(本研究の図2 に相当)を作成した.これに対して本 研究では,参加者ごとに回答率の変化と弁別閾を求めた. この結果,触知点記号の大小の判断に迷いがあり二つの 刺激の大きさを同じと判断する割合が多い人のデータは 弁別閾が求まらなかったため,データ分析から除かれた (3.2 弁別閾で説明).このような極端な値のデータを合 算すると,ある値近辺にまとまる大部分のデータの実態 が見えづらくなるため,そのようなデータを分析から除 くことが妥当である.この操作により,本研究では先行 研究より弁別閾が小さくなった可能性がある. 4.3 触知点記号の高さの問題 識別しやすい凸記号の調査では,直径が1 mm から 2 mm と小さく,高さが 0.3 mm と低い凸記号は分かりにく いとされる家電製品協会の報告がある[17].また,刺激の 作成に用いた立体コピーでは,円形触知点記号の直径が 1.0 mm だと発泡時の高さが 0.25 mm,直径が 1.5 mm だ と高さが0.41 mm になったという RNIB(Royal National Institute of the Blind:英国王立盲人協会)の報告がある[18]

これらより,円形触知点記号が小さいときは立体コピー の発泡の高さが低く,形状や大きさが触知では分かりに くかったため,ウェーバ比(標準刺激に対する弁別閾の 比率)が大きくなったのではないかと考えた.そこで, 三次元形状測定機(KEYENCE,VR-3000)を用いて,各 直径の標準刺激の触知点記号 20 サンプル分の高さを測 定し,その平均値を求めた.その結果を図6 に示す.標 準刺激が 1.0 mm~2.0 mm において点の高さが 0.3 mm より低くなっていることが分かる.この値はRNIB の報 告 よ り も 低 い 値 だ が ,RNIB で は マ イ ク ロ メ ー タ (Mitsutoyo micrometer)を用いたのに対して,本研究で はレーザ計測器を用いて計測しており,本研究での計測 値の信頼性は高い.立体コピーでは,発泡の際に与える 熱量によって発泡時の高さが変化するので[19],これが計 測値の違いの要因と考えられる.いずれにせよ,本実験 で刺激として用いた円形触知点記号のうち直径 2.0 mm 以下のものは高さが 0.3 mm 以下と低かったことが形状 の知覚しにくさにつながり,このためウェーバ比(弁別 閾/標準刺激)が大きくなったものと考えられる.円形 触知点記号の高さが低くなっても,普段から触読を行う 視覚障害者には影響は出ないが,普段触読をしない晴眼 者では読み取りが困難になる,という参加者群間の違い が出る可能性が推察されるが,両群の弁別閾とウェーバ 比を比べる限り,そのような差異は出ていない.また, 今回の実験結果は,点の直径のみを変化できていないた め心理物理実験の汎用的なデータとして用いるには適さ ない.他方で実用的な観点から見ると,立体コピーを使 う以上,小さな直径の場合は十分な高さが得られない問 題は必ず生じ,この立体コピーの発泡特性を含んだデー タであるので,視覚障害教育やリハビリテーションなど 実用的な立場の人はこのデータを直接活用できる. 4.4 触知点記号の直径の計測 円形触知点記号の高さが直径に応じて変化したのと同 様に,直径そのものも発泡の結果として印刷時の直径か ら変化している可能性がある.そこで高さの計測時と同 じ三次元形状測定機を用いて,触知点記号の直径を計測 した.このときは標準刺激だけでなく比較刺激も含め, 各直径10 サンプルずつを計測した.大部分の円形触知点 記号の断面は台形で,その角が丸みを帯びているため, 図6 触知点記号の高さ

Fig. 6 Measured heights of circular tactile point symbols. 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 0.6 0.5 0.3 0.2 0 0.4 0.1 1.0 2.0 3.0 75% 100 80 60 40 20 0 0.5 mmの場合 1.0 mmの場合 図5 直径変化の刻み幅の変化が弁別閾に与える影響

Fig. 5 Effect of difference in diameter steps on difference threshold.

円形触知点記号の大きさの弁別-視覚障害者と晴眼者の比較-

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計測する高さにより直径は変わる.今回は台形の上部の 角の丸みが終わり下部に向かって比較的直線的に直径が 増大し始めた辺り,最も高いところの8 割程度の位置を 測った(図7 左側).印刷時直径 5.0 mm の記号の断面は 上部も丸みを帯びており,曲線から直線に移行する位置 をつかみづらかったが,このときも7~8 割程度の高さを 目安に直径を測ることとした(図7 右側).測定の結果, 印刷時の直径1.0 mm から 4.5 mm の円形触知点記号では, 印刷時と発泡後の間の直径の差は,0.1 mm 未満となった (図8).ただし,印刷時の直径 5.0 mm の点記号だけは, 発泡後の直径は印刷時より0.29 mm 小さい値となった. 図7 右側のような形状の場合,どの位置を測るのが妥当 かは判然としない問題が残るが,仮に図8 の計測値が妥 当だとすれば,実験参加者に提示された刺激は5.0 mm よ りもむしろ4.5 mm に近い値であり,直径 4.5 mm の標準 刺激と比べて大きいとする回答割合が少なかった理由と なり得るだろう(3.2 弁別閾の 3 段落目,及び図 2 (b)). 4.5 実験結果の応用 今回の結果を用いると,触る星座早見盤上で星の等級 の違いを表現していた円形触知点記号の寸法を小さくで きる可能性がある.以前の触る星座早見盤では,弁別閾 を2 mm としたので,直径 2 mm と 4 mm の円形触知点記 号(4 mm のものは中抜きと塗りつぶしの 2 種類)を用い ていた[4].今回の実験結果を用いると,各標準刺激の弁別 閾の平均値に標準偏差を足しても 1.0 mm を超えていな いので,直径が1.0 mm 違えば異なる寸法の円形触知点記 号同士を弁別できると言える.そこで,3 等星を直径 2.0 mm,2 等星を 3.0 mm,1 等星を 4.0 mm の円形触知点記 号で表した触る星座早見盤を作成した(図9).この触る 星座早見盤は,盲学校・視覚特別支援学校,及び盲児の 通う一般校からの要望に応じて提供し,授業で活用され ている. 5. おわりに 本研究では,円の直径を様々に変化させた円形触知点 記号の一対比較を視覚障害者と晴眼者の参加者に行って もらい,その回答結果から弁別閾を求めた.その結果, 研究開始前に予測した視覚障害者の方が晴眼者より弁別 閾が小さいという現象は見られなかった.一方で,弁別 閾は0.5 mm から 0.7 mm の範囲となり,先行研究より小 さい値を得た.弁別閾が変化したのは,直径変化の刻み 幅を細かくしたことと,個人ごとに弁別閾を求めこれを 求められなかった参加者のデータを除外したことの影響 だと考えている.今回求めた弁別閾は,各種の触図にお ける触知点記号の寸法決定時の指標にすることができる. 謝辞 実験に参加して頂いた方々に深く感謝いたします. 参考文献 [1] 日本点字図書館: 点訳のための触図入門; 日本点字図書館, 東京 (1988). [2] 田口寛樹, 山口俊光, 渡辺哲也: 触星図自動作成システム の開発; ヒューマンインタフェースシンポジウム 2011 論 文集, pp.929-932 (2011). [3] 田口寛樹, 山口俊光, 渡辺哲也: 立体コピー上の触知点 図9 新しい寸法の円形触知点記号で表したオリオン座. 1 等星の直径は 4 mm,2 等星は 3 mm,3 等星は 2 mm で ある.足下の点は,点字で「オリオン」と書いたもの. Fig. 9 Orion expressed with the newly sized circular tactile point symbols: stars were 4 mm in diameter for the first magnitude, 3 mm for the second, and 2 mm for the third. The dots around Orion’s right leg are “Orion” written in Japanese Braille.

図7 触知点記号の直径の測定例(断面図と測定位置)

Fig. 7 Examples of measuring circular tactile point symbols (cross sections and measured locations).

1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.0 4.0 2.5 1.5 0 3.5 1.0 4.5 2.0 3.0 0.5 図8 触知点記号の直径

Fig. 8 Measured diameters of circular tactile point symbols.

ヒューマンインタフェース学会論文誌

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記号の大きさ弁別に関する研究; 電子情報通信学会技術 研究報告, Vol.112, No.426, pp.7-12 (2013).

[4] M. Yajima, T. Yamaguchi, and T. Watanabe: Tactile Star Wheel for Visually Impaired Observers; Proc. of the Conference Universal Learning Design, No.4, pp.21-24 (2014).

[5] 土井幸輝, 植松美幸, 藤本浩志, 和田勉, 佐川賢, 篠原正

美: 視覚障害者を対象とした触知記号の識別容易性評価;

第33 回感覚代行シンポジウム論文集, pp.101-104 (2007).

[6] M. Wong, V. Gnanakumaran, and D. Goldreich: Tactile Acuity Enhancement in Blindness: Evidence for Experience-Dependent Mechanisms; J. Neuroscience, Vol.31, No.19, pp.7028-7037 (2011).

[7] P.K. Edman: Tactile graphics; AFB Press, New York (1992). [8] Braille Authority of North America and Canadian Braille

Authority: Guidelines and Standards for Tactile Graphics, 2010; Braille Authority of North America (2010).

[9] 佐藤泰正, 穴山徹: 触覚弁別力検査の試み; 特殊教育学研 究, Vol.10, No.3, pp.12-26 (1973). [10] 豊田航, 土井幸輝, 藤本浩志: 年齢及び触知経験が異なる 視覚障害者の指先触知における推奨寸法の提案を目的と した凸バーと凸点の識別容易性の評価; バイオメカニズ ム, Vol.22, pp.105-117 (2014).

[11] C.E. Conner, S.S. Hsiao, J.R. Phillips, and K.O. Johnson: Tactile Roughness; Neural Codes That Account for Psychophysical Magnitude Estimates; J. Neuroscience, Vol.10, No.12, pp.3823-3836 (1990). [12] 渡辺哲也, 大内進: 触読しやすい立体コピー点字のパター ンに関する研究―原図の点径及び点間隔の条件について ―; 国 立 特 殊 教 育 総 合 研 究 所 研 究 紀 要 , Vol.30, pp.1-9 (2003). [13] 山崎隆大, 渡辺哲也: 立体コピー上の触知点記号の大きさ 弁別に関する研究 ―盲人と晴眼者の比較―; 電子情報通 信学会技術研究報告, Vol.114, No.512, pp.73-77 (2015). [14] 大山正, 今井省吾, 和気典二: 新編感覚・知覚心理学ハン ドブック, 精神物理学的測定法, pp.19-41, 誠信書房, 東京, (1994). [15] G. A. Gescheider 著,宮岡徹監訳: 古典的な心理物理学的測 定法 心理物理学 方法・理論・応用; 弁別感度, pp.2-7, 弁 別閾, pp.37-44, 北大路書房 京都 (2002).

[16] G.E. Legge,C. Madison,V.N. Vaughn,A.M.Y. Cheong and

J.C. Miller: Retention of High Tactile Acuity throughout the Lifespan in Blindness; Perception & Psychophysics, Vol.70, No.8, pp.1471-1488 (2008).

[17] 家電製品協会: 凸記号モニター調査報告書; 家電製品協会, 東京 (2000).

[18] H. Cryer, C. Jones, and D. Gunn: Producing Braille on Swell Paper: A Study of Braille Legibility; Research Report 11, RNIB Centre for Accessible Information, Birmingham, UK (2011). [19] T. Hashimoto and T. Watanabe: Expansion Characteristic of

Tactile Symbols on Swell Paper: Effects of Heat Setting, Position and Area of Tactile Symbols; Proc. of ICCHP 2016, Part 2, pp.69-76 (2016). 著者紹介 渡辺 哲也 (正会員) 1993 年北海道大学大学院工学研究科生体工 学専攻修了.水産庁水産工学研究所,障害者 職業総合センター,国立特別支援教育総合 研究所を経て,現在,新潟大学工学部工学科 教授.音声,触覚,情報通信技術を用いた視 覚障害者支援技術の研究開発に従事.博士 (工学).電子情報通信学会,ヒューマンイ ンタフェース学会,日本バーチャルリアリ ティ学会,視覚障害リハビリテーション協 会などの会員. 山崎 隆大 2015 年新潟大学大学院自然科学研究科博士 前期課程修了.同年,株式会社パナソニック システムネットワークス開発研究所入社, 現在は株式会社ケイエステックに勤務.大 学院ではヒトの触知覚に関する研究に従事. 円形触知点記号の大きさの弁別-視覚障害者と晴眼者の比較- ( 年 月 日受付, 月 日再受付) (C)NPO法人ヒューマンインタフェース学会 ( 675 ) 107 ( 107 ) 107

(8)

ヒューマンインタフェース学会論文誌

( 676 )

108 ( 108 )

図 2  (a) を 使 っ て 主 観 的 等 価 点 ( point  of  subjective
Table 1 Difference thresholds by young sighted participants.
Fig. 6 Measured heights of circular tactile point symbols.
Fig. 7 Examples of measuring circular tactile point symbols  (cross sections and measured locations)

参照

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