Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiet 二y for the Soience of De$ign食
は
世
に
つ
れ
、世
は
食
に
つ
れ
一
食
べ物
の
成 り
立 ち
に
ま る
こ と
触
れ る
Food
Change
with
the
Times
,the
Times
Change
with
Food
石 田
紀 佳
フ リー
ラ ン ス キュ レー
ター
ISHIDA
Norika
FREELANCE
GURATOR
1 .
は じめ に
「
伝
統を見 直そ う」、
「本 物を食べ よ う」 と、
良 識 者は叫ぶ。
過 ぎ去
っ た昔
が良
く て、
ま るで今 は破 滅 に 向 か う途 中。
し か し、
伝 統と は、
本 物と は何だ ろ う。
昭 和
40
年代
のお堅い料
理本
に は、
カ レー
ライスや八 ンバー
グ が 家 庭 料理 に なっ た ら 日本は お し ま い だ と書
い てあ る。
とこ ろがこれらはいまで は定番
のマ マの味
だ。
食
の変化
の受 容
の程度
は、
民 族集
団 や 個 人 に よっ て違いが あ る。
し か し遅かれ 早かれ、
素 材、
道 具、
調 理 方 法、
そ して食 に まつわ る 迷 信に近い嗜 好 や 禁 忌、
す な わ ち 食 文 化 は 変 わっ て い く。
2 ,
炊
き干
しへ の道
たと えば
、
現 在
の 日本
人 がご飯といえ ばこれだ、
と思っ てい る状 態・
・
…『
お む す び がで き る 炊 き 上 が り……
に す る炊き方は思 い のほ か新
しい。
鍋
釜の蓋
を閉じ て加熱
して、
食べ るとき に は 米 粒 に 水 が 充 分 に 含 ま れ な が ら も、
余分 な水が鍋釜 に残らない。
わた したち が(
大 半は電 気炊飯 器
が)
、
い と も たや すくやって いるこ の飯 炊 き は 「炊 き 干し 」 と い う洗 練さ れ た技術であ る。
ほ か に日 本で の 米の調 理 法には、
粥 を 炊くような 「湯
取り」、
そ し て赤 飯 など〈
成熟
し た ひ とつ の型
と して の白 米
の飯 炊 き と
そ の道 具 〉
/lr 升で白 米 を計る。
米の保 存は密 封 性のある桐 製の米 櫃。
2
米粒を痛め ず に研ぐことの できる 木 桶 (写 真 は さわら製 )
。
3
: 竹笊 (篠 竹)で水 を 切 り な が ら、
吸 水させ る。
よく絞った 布 巾 を か けてお く。
釜
透明 な 米 が 水 を 適度に吸っ て、
不 透 明 な 白い洗い米 と な る。
51
陶 製の 鍋 でガス 火 に か け る。
沸騰まで の時 間を10
分く ら いに もっていく の がコツ。10
分 程 度で十 分に煮立っ たら、
火 をと めて
30
分ぐ らいそのま ま に す る。 [61湿 らせ た 木 しゃも じで
、
飯 櫃に うつす。
Z
布 巾 を か け
、
余分 な水分を と ばす。
しば ら くお くと きは木 の蓋を す る。
の 餅 米 を 「蒸 す 」 方 法 が あ る。
いず れ も 「炊 き 干 し 」 以 前 か ら の技 術とさ れ る。
ジャ ポニ カ という (ウ ル チ 種でも ) 粘 性の強い コ メを
精 米
し、
「炊 き 干 し 」 する ことによっ て、
典 型 的 な 「ご飯
」 がで き る。
その ご飯のため に各 電 機メー
カー
がし のぎ をけずっ て、
炊 飯 器の開 発を して きた。
筆 者 は一
昨 年、
日 用 品の店で 「飯 炊 き 土 鍋 」 (注 )の展示 販 売 に 携 わ り、
そのと き に 「土 鍋で炊 き 干 し 」 する こと が、
懐 古
趣 味 的であ りな がら実は それほど 古く はない のだと知っ た。伝
統工芸 と 現 在 よ ば れるものが 成 立 する の は江 戸時代 中 期
こ ろだ が、
江 戸 時 代はおろか、
昭和の高 度 成長期の こ ろ に も な か っ た。
か ま ど分 厚い土 鍋で の飯 炊 きは
、
つまるとこ ろ土でつ くっ た竃
を家
庭の台 所にもっ て く る大 発明 である。
ひ ら た く い えば ガスコ ン ロ と セッ トにした簡 易 竃。
陶 製 だ と よ り竃ら しいが、
蓄熱
が で きる鍋であ れ ば、
陶 だ けでな く鉄 鋳 物で も、
銅の打ち物
で も、
竃で炊いた よ う な乙飯 が 炊 ける。
電 気炊 飯器
も内
釜 を重
くす る な ど 「竃 風 」 をうたっ ている も の も あ り、
熱 加 減をコ ンピュー
タ 制 御 しつ つ 上 手 に 「炊 き 干 し 」 を してく れる。
こ こ でわかるの は、
「竃 炊 き 」 が 理 想になっ て い る と い う こ と。
しか し食 文 化の歴 史 を 振 り 返っ て み ると、
すべて の日本
人18
デ サ イ ン 字 厨 窯 巧 集 号Speclal
lssueo「JapaneseSocletytorthe
SCienCe
of
Design Vol
.
2D.
2 No.
ア8 2013Japanese Society for the Science of Design
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Japanese Sooiet 二y for t二he Soienoe of Designが蓄 熱のでき る
竃
で米の飯を炊い て い た時代
は な い。
だい た い 地 方の民 衆は米 を 主食
に し て い な い し、
竃
よ りも囲炉裡
で調
理 を して い た (北 国では と く に室内
暖 房を兼ね た 囲 炉裡 が 主 流で あっ た)
。竃
は、
都 市 部
の町人
か、
地方
では商 家
や豪 商
な ど だ け が持て た調理器 具であ る。瀬 川
清
子 氏による と、
今
では東 京都 杉
並 区になっ て い る武 蔵 野 の 村 人の主 食 は、
昭 和初 期
であっ て も ヒエや キ ビ、
ソバ、
麦 を 囲 炉 裡の鍋で炊いた も の。
国民 の ほ と んどが 炊き 干 し の ご飯 を 食べ る よ うになっ た の は、
第
二次世
界 大戦
以降
だ。
イネの品 種 改 良、
農 作 業や精 米の機械 化
に と も なっ て、
米の生 産 量 が 増 え、
炊 き 干 しが でき る 調 理 器 具 がゆきわたっ てから である。
真っ 自な炊き干し の 飯 が食べ ら れ る という
、
悲 願にも 似 た あ こがれ を 民衆
が獲 得
したの は、
少
な くみつもっ ても 水 田 稲 作 を するよう に な っ て2000
年
以上たっ て か ら と い うわ け だ。
3 .
稲作
が
は ら む 問 題を知
る一
粒の米 に は、一
朝一
夕に はでき ない味が 凝結
さ れ て い る。
大 陸 か ら 水 田 耕 作 が 伝 播 し、
地 球 規模
で みれ ばもっ とも北
で育
つイ ネをつ く り あ げて き た 歴 史。
田植え か ら稲 刈 りま で の方 法 とそ れに とも なう年 中行 事
、
道具
、
味
の嗜 好。
稲 作 がつ くっ た 自然 環 境、
た と えば 千枚
田 の 景観や そ こ に生 育 する動 植 物 な ど。
栄 養として も 人 間に とっ て必 要な ア ミ ノ
酸
バ ラ ン スがい い ら しい。
食 物ア レ ルギ
ー
をおこす率
も低
い。
米
さえ食
べて いれ ば、
というのは一
理 あ り、一
種の スー
パー
フー
ドなのだ。2005
年か ら6
年 間、
筆者
は 三畝ほどの水田稲 作 を 手 作 業で 試 みた。初
の経 験
であ り、
山
の水 源 を 利 用 するた め、
近 隣の方 の協力 な し に は で き な かっ た。
田植えや 稲 刈 り な ど一
斉 作 業で は知 人に集 まっ てもらっ た。
水 田 は 畑 作 よ りも 共 同 作 業 性 が高
い。
耕
耘機
や田植 え、
稲 刈 り 機 を 使 え ば、
ひ と りでもでき る が、
過 去においては集 約 的 労 働 は 欠 か せ な かっ た。
稲 作によっ て、
集 団 協 調 的 な 民 族 性 がつ く ら れ た、
といっ ても 過 言では な い。
米 という穀 物 自 体 は 人の生 命 を 養 う ものだ が、一
握 りの支 配 者 層のた め に 年 貢 を強いられた民 衆がいたことや、
この集 団 行 動に縛られてき た 閉 鎖 性 な ど負
の面 も あ る。
優 れ た 食 物 なだけに、
人 間が絡んで生じ る 短所も大きい。
ほ かにも、
人 が 長 く食べ て きたものに は、
羊
や 豚 な どの動物 性
で あ れ、
麦 や 芋 な どの植 物 性であ れ、
塩 な どの鉱 物であ れ、一
筋
縄ではいかない文 化 的 背 景がある。
食を 知 る、
という の は そ の 陰 陽 あいまざ
っ た 背 景 も 知 ることであ る。
4 .
食
の成
り立
ちを 直 接
に体 感 す
る日
本
では 余るほ ど 米 がつ く ら れ る よう になっ た。
いな が ら に し て古 今 東西 の新1
日の食 を 選 択で き る。
和 洋中
、
エ ス ニ ッ ク、
自然 食、
菜 食、
ロー
フー
ドなど、
さ まざま な食法 が あ る。 選択 肢 が 多い分 だ け わ けがわか らない。
い っ たい私
たちは これ から 何 を ど う やっ て食べ て い くの だ ろ う か。個 人 的 な 希 望と して は自分の 五感を研 ぎす ま し て
、
目 の前で 出 会 う ものを 純 粋 に 味 わいたい。
しか し、
目の前
以外
の地 球
上 の情 報 が (バイアスが あ るに しても )、
いやお う な く 入っ て く る。
純 粋 さ は、
知 ら ぬ が 仏では ない。
飢 えている 人が まだまだ いるという 不 均 衡 や、
人 類が は びこ っ た結 果に 生 じ た他の生物
へ の圧 迫 につ い て 知ら ないふ り はで きない。
自らが 蒔いた 生 存 の た め の種が、
自
ら を脅
か す の も の に育っ て しまっ た よ う だ。
食
の安
全性
を恐れる 風潮
は年
々 強 く な り、
そ れ を 煽っ て一
儲藻
醗
1
∴二
:
∴
1
監
Japanese Society for the Science of Design
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Japane $e So¢iety for the S¢ien ¢e of De$ign
け す る 輩 も 少 な く ない
。
た と え 販 売者
も購
入者
も悪気
が ないに しても、
自 分 や 我 が 子の 口 に 入 るものだけを安全
にす ると いう の では、
解 決には ならない。
それに安 全と い う概 念
は と て も曖 昧だ。
では ど う す れ ばい いのだろ うか
。
答え は簡 単
で は な い が、
直
接 に食の成 り 立 ち を 体 感 する こと、
できるだ けは じ まりに近
い ところか ら 手 を 染 める こと を、
暮ら し に 取 り 入 れ た い。 そ う す れ ば 想 像 力 も確 か な ものに な り、
ひとつの食
べ物
が やっ て き た 道の りを 現 実 的 に憶 測 するきっ か けにな りう る。
しか し大 義 名 分 を 掲 げて押 し付 けてする の では
意 味
が ない。
とく に 子 供 に 対 しては、
こうでな くて は い けない と か、
民族
の 誇 り とい っ た 観 念はなく し て、
そ れ こ そ純粋
に も の と む きあい たい。
お も しろがっ て遊ぶだ け なのだ。 どろ ん こ の団 子 づ く り のよ う に、
天然に手 を入れて、
形 づく る こ と を日 常に と りいれ る。
(民 族の誇 り につ い ては、
誤 解 も あるか もしれな い の で、
補 足 す ると、
食べ物 を 含 む 文 化の多 様 性は、
民族 主 義で は な く て、
「生 物
」 と しての 誇 り を もつ ことで生 きて いくの で はない か、
と筆 者 は 考 えて い る。
発 展 的 な 議 論の場 も 持 ち たい。
)
現 代 の よ う に 著 し く分 業 さ れる
前
の技術
は、
手
工芸
に して も、
調 理 に しても とてもエキサ イ テ ィ ング
だ。ブ
ラックボ
ック スが 少 ない し、
身 近で と れ る素 材が多
い。 や る気
に なれば個 人 が家 庭で で きる のだ。
たと えば豆
腐
。
最 初 は豆 乳 と に が り を 買ってつ く る。
つぎに大
豆 か らつ く り、
大 量 に 出 る お か ら を ど うするか に悩
む。
いず れ 大 豆 か ら育てた り、
海 水から に が り をつ くる のも やっ て み た い。 茹でた大豆 をす り鉢であ た る か、
ミ キ サー
を 使うかで、
労 力 がかわ る。 また豆 乳 を し ぼ る た めの木 綿の布
も 必要
だ。 目の細
かい布
が なかっ たら ど う す るのだろう か。
に が り を 打っ た あ と で笊 豆 腐 に す る の か、
四 角 くす る かで道 具 が か わっ てくる。
竹 や 杉 やさわらなど がで て く る。
冒 頭の 「炊 き 干 しj は
、
でき れ ば 米 を育て て精 米 する とこ ろ か ら やっ て みると思いがけ ない問 題 に ぶ ち あ たる。
全 部の 工程 をでき な くても 想 像 力 た く ま し く 思い描い てみ る。
最 終 的 に お い しい ごは ん が食べ られ るの だ か ら、
無 駄 に も ならない。た とえ
ば
、
「研 ぐ 」 と はそ もそも ど ういう こと なのか、
と探
っ て い く と、
精 米 技 術 を 極めて い っ た 仕 上 げの作業
なのだ と ゆ き あたる。
収 穫 し た 稲 穂 を 脱 穀 して、
籾 す り をし て玄 米に し、
そ の 玄 米 を か ぎ りな く 白 く研い で い くのが精米
なのだ。 今のよ う に 動 力で精 米でき な かっ た 時 代に は精 白す る の は 至 難 の 業。
江 戸 時 代の白 米 は 今 ほ ど 白 く な かっ た といわ れる。玄
米の 固い果 皮 は と れても、
そ の下の種 皮はと り き れ ず、
塵など もつ い て い た だ ろ う。
だ か ら米 研 ぎ は、
食べ る前 にそ のゴミを 洗い流し な が ら、
強 く 押 し 洗いしてよ り 白 くするとこ ろから始
まり、
その風味
が多
くの人の好みに あっ て、
ご飯は 研 い で炊く も の、
と され る よ うになっ た……。
ひとつの推
測 だ が、
研
ぐ と い う 動 作ひとつ を とっ ても、
さ ま ざ ま な 文 化 技 術背
景が あ る。
無 洗 米 は 便 利で、
下 水 も 汚 さ ないが、
お膳
立てさ れた便
利さを 受 け 入 れるだ けでは 見 逃し て しまう こ とが ある。
も は や 原 始 人のよ う に 裸一
貫で 天然 とむき あっ て生き るこ と は無理 な の か も しれ ない。
しか しみ ん な 裸で生 ま れてくる のだ から、
裸
か ら暮
らしは じ めてい け る 知 恵 を 身 につ け たい。
あざな え る縄のごと く
、
食 材とその生 産 量、
加工技 術
、
調
理器
具、
そ れ らの変
化 が か ら まっ て、
我 々の食べ る物 が目 の前
に やっ て く る。
未 知 な る 食 は ま だ ま だ ある。
過 去 を学
ぶ の は、
未
来
の た めであ る。
20
デザイン学研究特集号Special Issue ofJa ρanese Soclety terthe ScLence of Deslgn Vol