日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 28, No. 2, 196-206, 2014
*1聖隷三方原病院(Seirei Mikatahara Hospital) *2創価大学(Soka University) *3亀田医療大学(Kameda College of Health Sciences)
2014年4月14日受付 2014年11月10日採用
原 著
助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力
Abilities of midwifery instructors expected
by midwifery faculty members
大 博 子(Hiroko OSAKI)
*1志 村 千鶴子(Chizuko SHIMURA)
*2惠美須 文 枝(Fumie EMISU)
*3 抄 録 目 的 助産教員が分娩介助実習指導者に対して必要と考える能力の構成因子を明らかにし,それに関連する 要因を検討することである。 対象と方法 東日本大震災被災地9県を除く全国の助産師養成機関139校の助産教員に,協力依頼文書と調査用紙 を配布し,教員経験3年以上の方に回答を求めて185名の回答該当者から回答を得た。その全てが有効 回答であったのでこれを分析対象とした。調査期間は平成23年6月∼9月で,調査内容は基本属性及 び一般的職務のコンピテンシーに対応させた分娩介助実習指導者の行動88項目について5段階の重要 性を問う内容とした。構成因子抽出には因子分析,その構成因子と属性等の関連については,Mann-Whitney U検定,Kruskal-Wallis検定を行った。 結 果 対象の助産教員経験は平均8.97年(SD5.88),助産師臨床経験は平均9.50年(SD5.63)であった。因子 分析の結果,【実践者としての助産ケア指導力】,【学生理解を基にした学習目標達成志向】,【学生の状況 に応じた指導の創造力】,【状況に応じた人的資源の活用と調整力】,【自己コントロールと指導力の向上 意欲】の5因子を抽出し,これらを「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」と命名した。全体の Cronbach'sα係数は.974,各因子は.894~.933であった。どの教育課程の助産教員も【実践者としての助 産ケア指導力】の平均得点が最も高い結果であった。助産師臨床経験年数と【自己コントロールと指導 力の向上意欲】には有意差が認められ(p<.01),臨床経験が長い群が短い群よりその能力を重要視する 結果であった。 結 論 助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力の5構成因子のうち,【実践者としての助産ケア指導力】 は全ての指導者が最低限備えるべき能力といえる。また,臨床経験のより長い教員は,自己の経験から, 分娩介助実習指導には指導者の自己研鑽に基づく高度な指導力の必要性を重要視していると考えられた。 キーワード:分娩介助実習,臨床実習指導者,助産教員,コンピテンシーAbstract Objective
To reveal the component factors and related factors for the abilities that midwifery faculty members expect midwifery instructors to possess.
Subjects and methods
We conducted a survey on the level of importance (from 1 to 5) of 88 actions related to the basic attributes and general job competency of midwifery instructors. Between June and September 2011, we distributed a letter requesting cooperation and a survey form to midwifery faculty members with more than 3 years of experience at 139 midwife training institutions across Japan (except for those in the 9 prefectures affected by the Great East Japan Earthquake). We analyzed 185 valid responses using factor analysis to extract component factors and related fac-tors, and we used the Mann-Whitney U test and Kruskal-Wallis test to investigate associations between the factors. Results
The mean (standard deviation) number of years of experience as a midwifery faculty member was 8.97 (5.88), and that as a clinical midwife was 9.50 (5.63). Statistical analysis extracted the following 5 factors: "leadership ability in midwifery care as a practitioner", "goal-oriented teaching focusing on student understanding", "creative teaching depending on the status of students", "application and adjustment of human resources to meet the conditions", and "self-control and motivation to improve leadership ability". We collectively called these factors "abilities of midwifery instructors expected by midwifery faculty members". Cronbach's alpha coefficient was .974 for all factors and ranged from .894 to .933 for individual factors. In all midwifery faculty members, the mean value on "leadership abil-ity in midwifery care as a practitioner" was highest among all factors. In addition, a significant difference was noted between the years of experience in clinical midwifery and "self-control and motivation to improve leadership ability" (p<.01), suggesting that this ability was considered important by midwifery faculty members with many years of clinical experience compared with those with only a few years of clinical experience.
Conclusion
Of the 5 factors on abilities expected of midwifery instructors by the midwifery faculty members, "leadership ability in midwifery care as a practitioner" was considered by all faculty members to be the most fundamental. Fur-thermore, those with comparatively longer clinical experience placed importance on the need for high-level leader-ship ability based on their own experiences as practitioners.
Keywords: supporting spontaneous birth at clinical placement, clinical midwifery instructor, midwifery faculty, competency
Ⅰ.緒 言
現在の助産師教育における助産学実習は,助産師国 家試験受験資格として必要な保健師助産師看護師学校 養成所指定規則(保健師助産師看護師法, 2011, pp.77-78)に定められている履修単位数28単位のうちの11単 位を占めている。そのなかには,助産師活動の中核と なる分娩介助実習が含まれており,助産師としての 出産を取り扱うための実践能力の定着が図られている。 したがって,この実習を担当する臨床実習指導者には, 重大な責任と期待がかけられている。 これまでの研究では,分娩介助実習での臨床実習指 導が学生への問いかけやフィードバックを行うこと が学生の学びに影響を与えるという報告(岩木, 1996, pp.40-41)のほか,臨床実習指導者が学生のストレッ サーの一つである(蓼沼・鈴木, 2006, p.189)という研 究もある。いずれにしても分娩介助実習指導者は,学 生の学習成果を左右するキーパンソンであると考えら れる。また,その他の研究では,堀内・服部・谷口他 (2007, p.16)は,学生の技術習得のプロセスの特徴を 踏まえ,指導者がモデルとなり学生が真似るという方 法から学生の主体的な実施を見守るという指導方法の 必要性を報告している。また,常盤・今関(2002, p.75) は,学生の実習段階を把握したうえでの指導の必要性 を示唆しており,更に菱沼(2010, pp.639-643)は,分 娩介助実習で行われる「振り返り」について,その学 習の意義を臨床実習指導者側から明らかにしている。 海 外 に お い て は,Licqurish & Seibold(2008, pp.483-486)が助産師学生の実践の振り返りや信頼関係の構築 など指導者に必要な役割を報告している。このように 指導方法や臨床実習指導者の役割についての研究は行 われているが,それらに影響を与える臨床実習指導者 自身がもつべき能力内容やそのレベルについて注目し た研究は見当たらない。相原(2002, pp.12-13)は,人格や性格,才能は多く の場合,何らかの行動となって表れると考え,その行 動を記述できればそれがコンピテンシーになるとして いる。そして,高業績を上げる人々の特性として知識 やスキル以上に,物事の考え方や仕事に対する姿勢, こだわり,行動特性といった部分に普通に仕事をこ なす人々との違いがみられることを述べている。同様 の考え方で既にSpencer & Spencer(1993/2001,
pp.31-115)は,一般的職務に必要なコンピテンシー20項目 を提唱しており,この概念を基盤とした研究が,看護 分野でも救急初療看護師(坂口・作田・新井他, 2006, pp.13-15)や看護教員(平野, 2010, pp.27-30)を対象に 行われている。これらの結果から,それぞれの職務毎 に異なる特徴的な能力が求められることが示唆されて いる。 本研究では,高業績を生む人の物事の考え方や仕事 に対する姿勢やこだわり,行動特性に基づいた考え方 に従って,Spencer & Spencer(1993/2001, pp.31-115) の20のコンピテンシーを基本として,分娩介助実習 指導者に必要な能力とはどのようなものか,助産師教 育を企画・運営する立場の教員の視点から,それを明 らかにすることとした。そして,その構成因子に関連 する要因として,助産教員の年齢や臨床経験年数,実 習期間や実習内容の異なる教育課程別や実習施設等に ついて検討することとした。
Ⅱ.研 究 目 的
助産教員が分娩介助実習指導者に対して必要と考え る能力の構成因子を明らかにし,それに関連する要因 を検討する。Ⅲ.用語の定義
1. 助産教員とは,助産師国家試験受験資格習得のた めの教育課程をもつ養成機関に属する教員をいう。 2. 分娩介助実習指導者とは,学生の分娩介助実習の 指導を担当する実習施設の助産師をいう。 3. 本研究における分娩介助実習指導者の能力とは, 助産教員が分娩介助実習指導者に対して必要と考え る資質,姿勢,考え方の特性を含めた指導実践能力 を指し,実習指導場面の教育活動として表現される 行動を示すこととする。Ⅳ.研 究 方 法
1.調査対象 調査期間を平成23年6月∼9月とし,看護学校便覧 2010(2010, pp.315-339)及び,各校のホームページを 基に全国の助産師養成課程をもつ139校(東日本大震 災の被災地9県を除く)の大学院,大学,大学専攻科 ・別科,短期大学専攻科・別科,1年課程養成所の助 産教員に対して,助産教員経験3年以上の方に,調査 対象者として回答を依頼した。因子分析を行うには, 質問項目の3∼5倍のデータが必要であり(柳井・井部, 2012, p.25),本調査では,264∼440名のデータ数が求 められる。しかし,全国の教員経験3年以上の正確な 数の把握は困難であるため,看護学校便覧及び各校 ホームページから得られた全675名の方に調査用紙を 発送した。 2.調査方法 1 ) 調査項目の抽出過程 助産教員が考える分娩介助実習指導者に必要な能力 の項目作成に当たっては,分娩介助実習指導者に必 要な考え方や姿勢などの価値観を含む能力を示す行 動として,一般的職務の20のコンピテンシーの概念 (Spencer & Spencer, 1993/2001, pp.31-115)に 対 応 さ せ,過去の文献や実際の現場助産師の助言を得て,1 概念につき3∼8項目抽出し,96項目を列挙した。次 に,その96項目それぞれについて妥当性確認のため, 助産教員経験3年以上の33名に調査用紙を配布し,15 名から項目の妥当性についての回答(回収率45.5%) を得た。その結果,96項目の全てに15名中の80%以 上が妥当性を肯定する回答であった。これらに付され た修正意見を参考に,更に項目の精選を行い重複する 11項目を減じて,新たに「教育観」,「倫理観」,「指導者, スタッフ間の指導内容の調整」の3項目を加え,分娩 介助実習指導者の能力を示す88の行動項目(以下,分 娩介助実習指導者に必要な能力項目)を作成した。 次の段階でこの88項目の質問紙に対して,助産教 員経験3年以上の6名の教員にプリテストを行い,更 なる検討を行った結果について,今回の無記名自記式 質問紙調査票として用いた。 全国の助産教員への回答依頼に際しては,研究目的 ・方法・倫理的配慮等を記載した調査協力依頼文書を 調査用紙に添付し,個別郵送による回答を求めた。そ の際,調査用紙の返送をもって,調査協力に同意したものと扱う旨を明記した。 2 ) 本研究の調査内容 調査内容には,対象者の基本属性(年齢,助産教員 経験年数,助産師臨床経験年数,課程別所属機関,分 娩介助実習施設)及び,今回作成した分娩介助実習指 導能力項目各々の重要性について,「1:重要ではな い」と「5:非常に重要」の間に2∼4の数値のみを記し, 各項目の重要性の程度について5段階での回答を求め た。 3.分析方法
分析には,統計解析ソフトIBM SPSS Statistics
Ver-sion 19を用いた。対象者の属性及び分娩介助実習指 導者に必要な能力項目の分析には,記述統計を用い, 重要度の分布を参考に,その程度を確認した。また, 分娩介助実習指導者に必要な能力の構成因子を明ら かにするため,1点∼5点の重要度得点を用いて,因 子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った。因 子分析は,固有値の減衰状況を参考に回転後の因子 負荷量が0.40未満の項目は順次除外し,分析を繰り返 した。その結果による構成因子の信頼性の検討には, Cronbach's α係数を用いた。また,分娩介助実習指導 者に必要とされる能力の構成因子に関連する要因を検 討するため,助産教員の臨床経験年数,教員経験年数, 主として分娩介助実習を行っている施設別の検定には Mann-Whitney U検定,及び助産教員の年代,教育課 程別所属機関の違いにはKruskal-Wallis検定を行った。 4.倫理的配慮 調査用紙は無記名自記式で個別の依頼と回収により, また情報の漏出がないようデータ等は厳重に管理した。 本研究は,愛知県立大学研究倫理審査委員会の承認 (23愛県大管理第12-1号)を得て実施した。
Ⅴ.結 果
助産教員経験が3年以上185名から回答を得,その 全てが質問項目の90%以上を満たしていたため,こ の185名を以下の分析データとした。 1.対象者の属性 回答教員の年齢は,30歳代26名(14.1%),40歳代 88名(47.6%),50歳 代50名(27.0%),60歳 以 上21名 (11.4%)であり,教員経験年数は平均8.97(SD5.88)年 であった。また,教育課程別所属機関は,大学(4年 選択制)97名(52.4%),1年課程養成所39名(21.1%), 大学院21名(11.4%),大学専攻科・別科16名(8.6%), 短期大学専攻科・別科10名(5.4%)で4年制大学の教 員が半数を占めていた。また,助産師としての臨床経 験年数は平均9.50(SD5.63)年で,現在,分娩介助実 習を行っている主な施設は,病院144名(77.8%),診 療所・クリニック37名(20.0%),助産院1名(0.5%)で, 病院が主な実習施設である回答者が約8割を占めた。 2.各行動項目の重要度の結果 分娩介助実習指導者に必要な能力88項目の重要度 の平均は,4.20(SD0.46)であった。平均が最も高か った項目は,「倫理観をもち,産婦や学生に接する」 4.75(SD0.51)であり,最も低かった項目は,「学生間 の人間関係を把握し,それを踏まえて指導する」3.34 (SD1.09)であった。回答者の50%以上が「非常に重 要:5」と回答した項目の18項目を表1に示した。 3.分娩介助実習指導者に必要な能力の因子分析結果 因子分析を行うにあたり,天井効果,フロア効果の 確認の結果,フロア効果の項目はなく,天井効果の項 目が39項目あった。しかし,それらの項目は助産教 員が非常に重要と認識している項目であることから, 全88項目を投入して因子分析を行うこととした。 88項目について,主因子法,プロマックス回転, 因子負荷量0.40未満の項目を順次除外し,因子分析を 繰り返した結果,助産教員が分娩介助実習指導者に求 める能力として表2のとおり5因子を抽出することが できた。全体のCronbach's α係数は.974,各因子につ いては.894∼.933で,累積寄与率は51.163%であった。 また,各因子間には,中程度の相関がみられた(r=.428 ∼.630, p<.001)。 因子の命名について,第Ⅰ因子は,「産婦のニーズ と学生が立案した計画内容が合致しているか,いつも 配慮している」,「分娩進行状況や異常徴候を見逃さな いように学習のポイントを学生に伝える」等助産実践 力習得のために,目の前の産婦個々の特徴を踏まえた 上で,分娩進行状況等をアセスメントし,ケア実践と して学生の指導に取り入れる内容の14項目で構成さ れた。これを【実践者としての助産ケア指導力】と命 名した。 第Ⅱ因子は,「学生が自分の考えを整理していると きは,学生の意見を待つ」,「学生の話に耳を傾ける」 など,学びの主体である学生の刻々と変化する思考過程や習得段階に注目し,学習目標達成を目指す姿勢を 示す内容13項目で構成された。この因子を【学生理解 を基にした学習目標達成志向】と命名した。 第Ⅲ因子は,「学生間の学習を促進するような機会 を積極的につくる」,「学生の混乱状態を整理し,学ぶ べきことを的確に取り出して筋道を明確に示す」など, より高い学習効果を狙い,その時々の状況に応じた学 生への直接的な指導方法を工夫する内容の18項目で 構成された。これを【学生の状況に応じた指導の創造 力】と命名した。 第Ⅳ因子は,「学生と病棟スタッフの関係を把握し, 必要な調整を行う」,「実習のための協力が得られるよ うに,医師との良好な関係を維持する」など,分娩介 助実習に関係する人々を把握し,適当な活用と調整を 迅速に判断する内容の13項目で構成された。これを【状 況に応じた人的資源の活用と調整力】と命名した。 第Ⅴ因子は,「自分の感情をいつでも冷静に保ち, 自分をコントロールできる」,「自分の心身を安定させ るよう日頃から努力する」など,どんな時にも自己や 周囲の状況を冷静に判断し,柔軟に対応する内容と自 己向上意欲を含む内容の10項目で構成された。これ を【自己コントロールと指導力の向上意欲】と命名した。 以上の全68項目5因子で構成される助産教員が分娩 介助実習指導者に必要とする能力の総称を「助産教員 が分娩介助実習指導者に求める能力」と命名した。 この因子分析の過程において,表1で示した18項 目のうち,「自分なりの助産観をもち,学生に接する」, 「学生の学習状況や指導方法について,教員とコミュ ニケーションを密にとる」,「学生への説明の際には, 技術やケアの根拠を添えて説明する」,「指導内容の食 い違いがないように,指導者間や病棟スタッフの調整 を行う」の4項目は,5因子の中には含まれず除外され る結果となった。これら4項目について,項目間相関 を算出した結果,強い相関(0.7<|r| 1.0)を示す項目は なく,比較的強い相関(0.4<|r| 0.7)がみられた項目 のうち,特に相関係数が高かった項目は以下の通りで あった。まず,「自分なりの助産観をもち,学生に接 する」は,第Ⅲ因子【学生の状況に応じた指導の創造 力】のうちの項目「自分なりの教育観をもち,学生に 接する」(r=.651, p<.01),第Ⅰ因子【実践者としての助 産ケア指導力】のうちの項目「倫理観をもち,産婦や 学生に接する」(r=.600, p<.01)と相関がみられた。また, 「学生の学習状況や指導方法について,教員とコミュ ニケーションを密にとる」は,第Ⅳ因子【状況に応じ た人的資源の活用と調整力】のうちの項目「実習のた めの協力が得られるように,医師との良好な関係を維 持する」(r=.557, p<.01),「医師の協力が必要な場合に, 的確に相談や協力を求める」(r=.503, p<.01)と相関が みられた。更に「学生への説明への際には,技術やケ アの根拠を添えて説明する」は,第Ⅱ因子【学生理解 を基にした学習目標達成志向】のうちの項目「個々の 学生のできること,できないこと等,指導に必要な情 報を積極的に得ようとする」(r=.518, p<.01),第Ⅳ因 子【状況に応じた人的資源の活用と調整力】のうちの 項目「学生と産婦やその家族の関係を把握し,必要な 調整を行う」(r=.512, p<.01)と相関がみられた。「指導 表1 「非常に重要:5」とした割合が高かった項目(n=185) 項 目 人数 (%) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 15 15 18 倫理観をもち,産婦や学生に接する。 緊急時にも,冷静に対応できる。 自分なりの助産観をもち,学生に接する。 学生の話に耳を傾ける。 助産ケアの専門的知識・技術を十分にもっている。 産婦が感じている学生に対する気持ちや感情を敏感に感じとる。 産婦のニーズと学生が立案した計画内容が合致しているか,いつも配慮している。 学生の学習状況や指導方法について,教員とコミュニケーションを密にとる。 学生が,産婦の状態やケア場面を分析的に考え,整理できるように実習の振り返りを指導する。 分娩予測に基づいた必要なケアの見本を示す。 学生が質問しやすく,緊張を和らげるように学生に接する。 分娩進行に沿った分析,判断,行動を意識し,産婦へのケアの一貫性を保つ。 学生への説明の際には,技術やケアの根拠を添えて説明する。 指導内容の食い違いがないように,指導者間や病棟スタッフの調整を行う。 自分なりの教育観もち,学生に接する。 自分の専門的な知識や技術の限界を知って,それを高めるよう努力する。 自分の失敗を認め,自らの学びへとつなげるよう努力する。 分娩の進行状況や異常徴候を見逃さないように学習のポイントを学生に伝える。 143 126 121 119 118 116 112 111 106 105 102 101 99 97 94 94 94 93 (77.3) (68.1) (65.4) (64.3) (63.8) (62.7) (60.5) (60.0) (57.3) (56.8) (55.1) (54.6) (53.5) (52.4) (50.8) (50.8) (50.8) (50.3)
表2 助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力の構成因子(n=185) 項 目 全項目α=.974 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 第Ⅰ因子【実践者としての助産ケア指導力】 α=.894 産婦のニーズと学生が立案した計画内容が合致しているか,いつも配慮している。 分娩の進行状況や異常徴候を見逃さないように学習のポイントを学生に伝える。 異常の発生を予測した予防的介入行動の見本を示す。 助産ケアの専門的知識・技術を十分にもっている。 分娩予測に基づいた必要なケアの見本を示す。 必要に応じて,他のスタッフに実習への協力や指示を伝える。 倫理観をもち,産婦や学生に接する。 分娩進行に沿った分析,判断,行動を意識し,産婦へのケアの一貫性を保つ。 必要に応じて,自分の指示に従うべきことを的確に学生に伝える。 1例毎に学生の個別性に応じた実習課題を明確に伝える。 産婦が感じている学生に対する気持ちや感情を敏感に感じとる。 緊急時にも,冷静に対応できる。 学生が,産婦の状態やケア場面を分析的に考え,整理できるように実習の振り返りを指導する。 産婦の特徴を踏まえて,学習ポイントを掴んだ指導ができる。 .723 .636 .634 .623 .612 .589 .573 .571 .531 .518 .463 .457 .447 .421 .148 .011 .032 .263 .152 .079 .073 .030 .050 .003 .139 .022 .250 .072 .005 .091 .204 .147 .345 .144 .026 .034 .012 .450 .077 .233 .178 .249 .111 .101 .276 .125 .179 .298 .036 .061 .157 .157 .133 .235 .164 .048 .107 .046 .105 .213 .120 .077 .097 .045 .027 .014 .200 .038 .017 .026 第Ⅱ因子【学生理解を基にした学習目標達成志向】 α=.907 学生が自分の考えを整理しているときには,学生の意見を待つ。 学生の話に耳を傾ける。 学生に自分から声をかけ,学生の行動や考えを理解しようとする。 学生のその時々の考えや行動にいつも注意や関心を向ける。 個々の学生のできること,できないこと等,指導に必要な情報を積極的に得ようとする。 伝えたいことが伝わったかどうか,常に確認するよう努力する。 学生がどのようなことを学びたいと思っているのかを把握する。 学生のニーズと指導が合致しているかを学生に確認しながら,指導する。 学校側の実習目標の指導が合致しているかを確認しながら,指導する。 学生のケア実践に対するコメントを,タイミングよくフィードバックする。 学生が質問しやすく,緊張を和らげるように学生に接する。 学生の実習に対する満足度や達成度に常に関心をもっている。 学生のために必要な時間を調整し,確保する。 .104 .026 .025 .025 .040 .020 .141 .034 .229 .171 .120 .149 .156 .762 .717 .704 .661 .609 .605 .577 .556 .540 .528 .446 .420 .419 .062 .166 .233 .137 .051 .060 .235 .262 .011 .131 .056 .357 .106 .167 .003 .084 .062 .044 .027 .127 .056 .047 .032 .302 .005 .064 .192 .151 .166 .048 .149 .158 .092 .108 .111 .092 .150 .058 .113 第Ⅲ因子【学生の状況に応じた指導の創造力】 α=.933 学生間の学習を促進するような機会を積極的につくる。 学生の混乱状態を整理し,学ぶべきことを的確に取り出して筋道を明確に示す。 学生間の人間関係を把握し,それを踏まえて指導する。 学生個々の長所や短所を的確に把握する。 自分が関わった学生の学習成果について,責任をもつ。 自分なりの教育観をもち,学生に接する。 学生指導について,より有効な新たな指導法を見つけ出す。 教員が実習中の学生にどのような影響を与えているのか理解している。 学生が,自身の課題に合ったケア計画を立案できるよう助言する。 学生に伝える際に,表情,ジェスチャー,声の抑揚,ユーモアを効果的に活用する。 学生個々の段階に応じた個別の指導方法を工夫する。 実習の経過や結果を分析し,よかったこと,よくなかったことの原因を明確にする。 学生指導において,自分の長所を活かし,短所を出さないようにしている。 学生が関心をもつ場面や学習の機会をできるだけ多くつくる。 効果的な指導のために,実習方法の専門的知識を活用する。 学生が大切なことに気づくことができるよう的を射た質問をする。 自分の専門的な力量(知識・技術)に自信をもっている。 学生や産婦の状態に応じて,柔軟に指導方法を変更する。 .199 .290 .266 .088 .015 .209 .050 .198 .146 .100 .040 .156 .144 .131 .123 .002 .399 .051 .010 .096 .046 .001 .002 .095 .060 .063 .220 .055 .345 .145 .122 .454 .019 .270 .299 .306 .719 .716 .625 .624 .592 .543 .538 .536 .533 .493 .491 .472 .466 .465 .464 .452 .434 .403 .297 .165 .414 .083 .017 .153 .115 .411 .049 .189 .013 .169 .022 .047 .030 .000 .005 .058 .068 .036 .029 .001 .175 .248 .139 .008 .072 .152 .156 .041 .442 .202 .246 .127 .110 .192 第Ⅳ因子【状況に応じた人的資源の活用と調整力】 α=.922 学生と病棟スタッフの関係を把握し,必要な調整を行う。 実習のための協力が得られるように,医師との良好な関係を維持する。 その時の実習効果に影響する病棟のキーパーソンを把握している。 病棟スタッフそれぞれの役割や立場を理解し,実習との関連を把握している。 医師の協力が必要な場合に,的確に相談や協力を求める。 学生と産婦やその家族の関係を把握し,必要な調整を行う。 実習が病棟に与えている影響を把握し,調整する。 実習指導場面に,病棟スタッフを巻き込み,ともに考える機会をつくる。 分娩介助実習に関係する他のスタッフの気持ちを把握している。 スタッフ一人ひとりたけている部分を把握し,実習に活用する。 自分と産婦のコミュニケーションに入りやすいように,学生に配慮する。 学生が実習に集中できるように,環境を整える。 病棟スタッフと実習指導を話し合い,実習や病棟の改善や向上にリーダーシップを発揮する。 .001 .069 .045 .222 .205 .174 .121 .193 .257 .052 .095 .199 .325 .080 .091 .051 .012 .020 .166 .106 .089 .061 .135 .181 .290 .193 .162 .002 .044 .015 .125 .005 .237 .150 .126 .070 .101 .075 .148 .848 .785 .681 .643 .631 .605 .571 .561 .540 .516 .473 .457 .419 .163 .064 .100 .043 .097 .136 .069 .177 .177 .159 .012 .098 .105 第Ⅴ因子【自己コントロールと指導力の向上意欲】 α=.909 自分の感情をいつでも冷静に保ち,自分をコントロールできる。 自分の心身を安定させるよう日頃から努力する。 感情的になる場面でも,相手の気持ちを理解する精神的余裕をもっている。 緊急時でも感情をコントロールし,学生に落ち着いて対処行動を伝えることができる。 どんな状況であっても,学習場面につなげることができる。 自分の失敗を認め,自らの学びへとつなげるよう努力する。 自分の専門的な知識や技術の限界を知って,それを高めるよう努力する。 学生指導をする上での自分の苦手な部分を認識している。 自己の指導力を高める機会を,積極的に得るよう努力する。 その場の状況に応じて,学生の経験に必要な素材を的確に抽出する。 .015 .010 .100 .189 .085 .228 .406 .066 .092 .134 .090 .064 .005 .108 .146 .101 .126 .172 .044 .159 .027 .028 .083 .058 .273 .058 .040 .119 .268 .386 .076 .120 .021 .106 .064 .037 .045 .265 .041 .063 .760 .745 .670 .586 .578 .538 .510 .489 .410 .408 固有値 因子寄与率(%) 累積寄与率(%) 25.470 36.765 36.765 4.054 5.215 41.980 2.915 3.590 45.570 2.632 3.163 48.733 2.119 2.429 51.163 因子抽出法:主因子法 回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法
内容の食い違いがないように,指導者間や病棟スタッ フの調整を行う」は,第Ⅲ因子【学生の状況に応じた 指導の創造力】のうちの項目「実習の経過や結果を分 析し,よかったこと,よくなかったことの原因を明確 にする」(r=.544, p<.01),第Ⅳ因子【状況に応じた人的 資源の活用と調整力】のうちの項目「病棟スタッフと 実習指導を話し合い,実習や病棟の改善や向上にリー ダーシップを発揮する」(r=.532, p<.01)と相関がみら れた。 4.「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」に 関連する要因の検討 対象者の属性である助産教員の経験年数,年齢,所 属機関の教育課程,分娩介助実習を行っている施設と 「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」の得 点には,有意差は認められなかった。 更に,臨床経験年数による「助産教員が分娩介助実 習指導者に求める能力」得点の関連を検討するため, 平均の9.50年を基準として,臨床経験年数が長い群と 短い群の2群間の得点差について検討を行った。 その結果,第Ⅴ因子【自己コントロールと指導力の 向上意欲】について,有意差が認められ(p<.01),助 産師としての臨床経験年数が長い群の方が,分娩介助 実習指導者の【自己コントロールと指導力の向上意欲】 をより重要視しているという結果であった。 また,教育課程によっては,実習期間や内容が異な ると考えらえることから,教育課程別に分娩介助実習 指導者に求める能力に違いがあるか,得点が高い因子 から順に①∼⑤の順位をつけて検討した。その結果を 表4のとおりであった。 すなわち,どの教育機関に所属する助産教員であっ ても,第Ⅰ因子【実践者としての助産ケア指導力】の 重要度が最も高く,最も低い因子は第Ⅲ因子【学生の 状況に応じた指導の創造力】という結果であった。
Ⅵ.考 察
今回の調査結果は,大学教育(4年間の学部におけ る選択制の助産師養成)に携わる助産教員による回答 が52.4%と約半数を占めており,現状の助産師国家資 格取得者の割合にもほぼ一致し,助産師教育の背景を 考える上でも参考にできる結果と考えられる。 また,回答者の助産教員としての経験は約9年(平 均8.97年:SD5.88),助産師の臨床経験年数について も平均9.50年(SD5.63)であり,臨床及び教育の両面 に十分な見解を持つ人達の回答が得られた。更に,「助 産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」の構成因 子は,5つが抽出され,それらのCronbach's α係数は, 全体で.974,それぞれの因子別では.894∼.933の範囲 にあり,構成因子全体の内的整合性は保持されている 表3 助産師としての臨床経験年数との関連(n=161) 臨床経験年数が長い群 (n=72) 臨床経験年数が短い群(n=89) p値 平均値 中央値 平均値 中央値 第Ⅰ因子【実践者として助産ケア指導力】 第Ⅱ因子【学生理解を基にした学習目標達成志向】 第Ⅲ因子【学生の状況に応じた指導の創造力】 第Ⅳ因子【状況に応じた人的資源の活用と調整力】 第Ⅴ因子【自己コントロールと指導力の向上意欲】 4.48 0.46 4.24 0.49 4.03 0.62 4.22 0.54 4.38 0.49 4.47 4.08 4.17 4.26 4.44 4.42 0.46 4.19 0.52 3.89 0.60 4.11 0.61 4.14 0.59 4.47 4.18 3.89 4.13 4.21 .316 .581 .099 .256 .007 ns ns ns ns * Mann-Whitney U検定 *p<.01, ns: not significant 表4 助産教員の所属の教育課程別にみた分娩介助実習指導者に求める能力の平均得点(n=160) Mean SD 所属機関 第Ⅰ因子 第Ⅱ因子 第Ⅲ因子 第Ⅳ因子 第Ⅴ因子 【実践者としての 助産ケア指導力】【学生理解を基にした学習目標達成志向】【学生の状況に応じた指導の創造力】【状況に応じた人的資源の活用と調整力】【自己コントロールと指導力の向上意欲】 1年課程養成所(n=34) 短期大学専攻科・別科(n=9) 大学(4年選択制)(n=84) 大学(専攻科・別科)(n=13) 大学院(n=20) 全体(n=160) ①4.43 0.46 ①4.58 0.36 ①4.43 0.46 ①4.62 0.36 ①4.40 0.47 ①4.45 0.45 ④4.15 0.52 ②4.32 0.48 ②4.20 0.53 ④4.25 0.51 ②4.31 0.37 ③4.21 0.50 ⑤3.99 0.70 ⑤3.86 0.64 ⑤3.94 0.58 ⑤4.02 0.71 ⑤3.99 0.46 ⑤3.96 0.60 ③4.16 0.58 ③4.14 0.61 ④4.12 0.61 ②4.44 0.52 ③4.21 0.46 ④4.17 0.58 ②4.36 0.51 ④4.12 0.48 ③4.19 0.58 ③4.32 0.66 ④4.20 0.51 ②4.24 0.56 ○付き数字は順位と考えられる。これらのことを踏まえ,以下のような ことが考えられる。 1.「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」の 構成因子について 第Ⅰ因子の【実践者としての助産ケア指導力】は, 助産師としての実践能力を基盤とし,分娩進行に伴い, 「リアルタイムで刻々と心身ともに変化する対象の状 況を理解し,判断し,ケアを実践し,評価する過程を 学習する」(遠藤・渡部・山本他, 2005, p.274)という 実習の見解に一致している。このことは,ケア過程に ついて,丹念に時間をかけて思考プロセスを形成する 看護学の実習とは異なり,即断即決を求められる助産 学実習の特徴を示していると考えられる。この因子の 項目内容は,分娩の進行状態に合わせたケアや異常に 対する予防的介入などにみられるように助産教員は分 娩介助実習に際して,学生の見本となるような実践者 像を実習指導者の行動に求めていることが窺える。 更に,この第Ⅰ因子は,教育課程の違いにかかわら ず,どの課程に所属する教員でも最も重視している内 容であり,分娩介助実習指導者が最低限備えておくべ き能力として求められていることが明らかになった。 そのほか第Ⅰ因子には,回答者の半数以上が「非常 に重要」と答えた「倫理観をもち,産婦や学生に接す る」が含まれていた。分娩期は,産婦の主体性やバー スプランを尊重し,産婦自身の選択や決定を重視して, 産婦やその家族にとって快適で満足な出産ができるよ うにケアを行うことが重要である。このことは,塩見 (2011, pp.80-81)も臨床実習指導者の学生指導の倫理 観が,教授行為にも影響を与えることとして述べてい る。産婦ケアではこのことが基盤になって,産婦の力 を引き出すケアが成り立つ。したがって,助産学の中 核として,このような実践能力が学生に定着すること が実習の根幹としての教員の期待としてあると考えら れる。この他,「産婦が感じている学生に対する気持 ちや感情を敏感に感じとる」,「産婦のニーズと学生が 立案した計画内容が合致しているか,いつも配慮して いる」といった,受け持った産婦と学生を結び付けな がら,産婦を中心とする実践姿勢が実習指導者から学 生に伝達されるような具体的な指導視点が表れている。 第Ⅱ因子の【学生理解を基にした学習目標達成志向】 は,学生自身の思考や習得段階に焦点をあてて学生 個々を理解したうえで,その状況に応じた目標達成手 段のコンピテンシーが含まれる。Malcolm(1980/2008, p.13)は,「あらゆる成人教育者の基本的・直接的使命 は,人びとにニーズを満足させ,目標の達成を援助す ること」と述べている。助産師学生の実習に関する過 去の研究においても学生が自分でできたことを明らか に認識できたとき,次への意欲へとつながることが確 認されている(岩木, 1996, p.39)。分娩介助実習では, 産婦の経過に従って,学習環境が刻々と変化するた め,間髪をいれずにその場面でしか伝えられないこと を的確に学生に伝える必要がある。そのために,学生 の学習段階や個別的な強み・弱みを熟知した上で,対 応することが学習効果に大きく影響する。実習指導者 は,学生の戸惑いや混乱が最小限になるよう配慮しつ つ,産婦の満足と学生の自己効力感や達成感を高める ようにかかわることを求められ,このような指導状況 が第Ⅱ因子に表現されて,助産教員の指導者への期待 が示されていると考えられる。 このことは更に第Ⅲ因子の【学生の状況に応じた指 導の創造力】に連動し,より学習効果を上げるための 指導方法の工夫やそのための指導者自身の自己活用の 能力として求められている。学生個々の状況を把握し たうえで,その時その場の産婦の状況に合わせて学習 効果を生み出す場面の柔軟な思考による教材化ができ ることが期待されている。 第Ⅳ因子【状況に応じた人的資源の活用と調整力】 は,分娩介助実習に関係する人的環境に対する指導者 のアプローチ内容であった。他の研究による看護学 実習においても,臨床実習指導者は実習の調整者とし ての役割が期待されている(山田・太田, 2010, pp.4-7)。 今回の結果でも,ほかのスタッフや医師とのチーム ワークで分娩経過を進めること,病棟全体の動きに実 習を同調させること,産婦の家族に対する気遣いや学 生の学び易さへの配慮など多面的な調整機能が,分娩 の開始から終了までの短時間の指導能力に含まれてい た。 分娩介助実習は,学生自身が自立して正常分娩を取 り扱えるように,いくつかの段階を経て学習が積み重 ねられる。しかし,実習対象となる産婦は,こうした 学生の能力習得の段階にはかかわりなく,その時の出 産そのものがかけがえのない人生の出来事となる。そ ればかりか,分娩経過中は母児の生命にかかわる緊張 場面の連続でもある。その中で実習指導者は,常に産 婦と学生両者の状況を考慮しつつ,学生の能力形成に かかわるという量的・質的に高度の能力が期待され ている。このような実習に関わるための力量は,実際 的にどの程度の臨床経験や研修内容が必要とされるか,
助産師のキャリア形成にかかわる検討も必要と考えら れる。 第Ⅴ因子の【自己コントロールと指導力の向上意欲】 は,実習指導者としての情緒的側面のコントロール力 や自己啓発を含む内容で構成されていた。臨床にお ける学習は,状況依存的といわれ(中西, 1983, p.253), 実習指導者は,多様な状況にバランスよく自分自身を 柔軟に適応させ,産婦や学生の状況に合ったケア実践 を作り出していく能力が求められる。それは,産婦の 緊急事態やその発生にかかわる観察や予知に細心の注 意を払いつつ,冷静に振る舞い,その場ならではの緊 急時の判断やケアについての学習効果を生み出す役割 を果たすことである。学生に不安を与え,脅威にさら すことのないよう振る舞うための自己洞察力は,重要 な能力の一つとなる。また,実践者として,指導者と して,求められる自己の能力を高めることは,実習指 導の質向上のためには欠くことができないと考えられ る。この能力は,他の因子に比べて実習指導者自身の 考え方や資質が大きく行動として表現され,学生の学 習意欲や自信につながる情緒面への影響が大きい。そ の振る舞いはまた,学生のモデル像となり得る可能性 もある。そのような能力は頭の中で形成されるという よりも,日頃の臨床実務の様々な状況での対応力の積 み重ねとして,意識されながら培われてゆくものであ ると考えられる。 因子分析の結果,除外された4項目については,項 目間相関結果も踏まえ,以下のことが考えられる。 まず,「自分なりの助産観をもち,学生に接する」は, 第Ⅰ因子,第Ⅲ因子に属する倫理観や教育観を示す項 目との関連がみられた。助産観は,産婦ケアに対する 根幹的な指導者自身の考え方・姿勢を示していること, また助産実践には指導者自身の倫理観が影響すること から,第Ⅰ因子の【実践者としての助産ケア指導力】 に関連すると考えられる。さらに,助産観をもち学生 指導にあたるという姿勢が項目内容に包含されるため, 第Ⅲ因子の教育観を示す項目との相関がみられたと考 えられる。 次の「学生の学習状況や指導方法について,教員と コミュニケーションを密にとる」は,第Ⅳ因子【状況 に応じた人的資源の活用と調整力】を構成する項目と の関連がみられた。特に,夜間実習等では,実習場面 で教員が立ち会うことが難しい場合も多く,円滑に進 め,効果的な指導を実施していく上では日頃から病棟 スタッフや医師との良好な関係を維持し,必要な調整 を行うことが重要視されていると考えられた。 三つ目の「指導内容の食い違いがないように,指導 者間や病棟スタッフの調整を行う」については,第Ⅲ 因子,第Ⅳ因子に属する項目と相関がみられ,学生の 状況に応じた指導力と同時に,指導者間や病棟スタッ フとの実習に関連する人たちと食い違いがないように 調整する2つの能力が混在していると考えられる。 最後の「学生への説明の際には,技術やケアの根拠 を添えて説明する」については,直接的指導を示す【学 生理解を基にした学習目標達成志向】と【状況に応じ た人的資源の活用と調整力】に属する項目と相関がみ られた。分娩介助実習では,刻々と変化する産婦の状 態に合わせ,特に会陰保護や児頭娩出時といった母児 の生命に係わる緊張が高まる時期には,命令的指示 が多くなることが報告されている(古田, 2004, p.347)。 どの時期にどのような指導方法を選択するか,項目表 現に時期を加える等の再考が必要である。 以上のことから,今後それぞれの関連因子の項目を 踏まえて,より事実に近い的確な項目の表現に改変す ることにより,今回とは異なる結果が示されることも 考えられ,今回の結果を第一段階とし,項目の精錬や 利用目的に応じた使い方の工夫と共に,この4項目に 関する今後の研究を重ねていくべきである。 2.「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」に 関連する要因 「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」と 関連要因の分析では,因子分析で除外された4項目に は何らかの除外理由があると考え,それらの項目を含 まない5因子68項目の結果と調査対象者の背景につい て,以下のような検討を行った。 「助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力」と 教員の助産師臨床経験年数との関連において,臨床経 験年数が長い群の方が,短い群よりも第Ⅴ因子【自己 コントロールと指導力の向上意欲】を重要視している という結果を得た。細田・山口(2004, p.9)は,実習指 導者の学生との相互関係の形成や学習環境の調整とい った教育的アプローチには,看護職としての経験年数 がその要因の一つであると報告している。しかし今回 の結果では,それに相応する【状況に応じた人的資源 の活用と調整力】との関連は見いだせなかった。回答 者である教員の臨床経験年数に関連していたのは,第 Ⅴ因子の【自己コントロールと指導力の向上意欲】で あった。臨床経験の長い助産教員が,そうでない教員
よりもこの能力をより重要と認識しているのは,自己 の経験から,産婦の急激な変化や学生の状況に応じた 対応力や指導には指導者の自己研鑽に基づく高度な指 導力の必要性をより強く考えていることが関係してい るとも考えられる。 3.本研究の今後の活用と課題 本調査は,臨床と教育それぞれに9年程度の経験の ある助産教員の視点からの全国調査による結果が得ら れ,一定の能力を抽出することができた。そして,こ れらの能力は,助産師養成課程のいずれの教育機関で も,相違はなく,どの実習指導者にも求められる能力 であることが示唆された。しかし一方で,主な分娩介 助実習施設を病院としている回答が77.8%と多くを占 め,病院に勤務する実習指導者に求められている能力 を中心にした結果でもある。医師が常駐している環境 下ではなく,助産師がより主体的に活動する本来の助 産師像である助産院の実習指導者をイメージした結果 には該当しない。 今回の5因子68項目の結果は,多くの回答者が重要 と考える4項目を除外した結果であり,これらの項目 を加えた場合の影響や各項目の表現の改変等が今後の 課題である。 また,今回の結果を踏まえ,実習指導者の指導能力 を標準化していくことができれば,今後の助産教育の 向上に資することができるとともに,実践助産師のラ ダーの目安としても活用できる。また,本研究のサン プルサイズの不足についても限界を否めず,この質問 紙の標準化については,実習指導者の視点からも今後 の検討を進める必要がある。
Ⅶ.結 論
本研究の結果,助産教員の視点から,分娩介助実習 指導者に必要とされる能力について以下のような知見 が得られた。 1. 助産教員が分娩介助実習指導者に求める能力の構 成因子には,【実践者としての助産ケア指導力】,【学 生理解を基にした学習目標達成志向】,【学生の状況 に応じた指導の創造力】,【状況に応じた人的資源の 活用と調整力】,【自己コントロールと指導力の向上 意欲】の5つの能力が抽出され,実践的ケア能力だ けでなく,指導者自身の資質や考え方を含む能力が 求められていた。 2. どのような教育課程であっても,助産教員が実習 指導者に求める能力には相違がなく,最も重要度が 高い能力は【実践者としての助産ケア指導力】であ った。従って,この能力は分娩介助実習指導者が最 低限備えておくべき能力であると考える。 3. 助産教員の中で助産師としての臨床経験年数が長 い群は,短い群に比べて,【自己コントロールと指 導力の向上意欲】をより重要視しており,自己の経 験から,分娩介助実習指導場面での的確な状況判断 や指導には指導者の自己研鑽に基づく高度な指導力 の必要性を重要視していると考えられた。 謝 辞 本研究にご協力くださいました全国の助産教員の皆 様方,本研究を進めるにあたり,ご指導いただきまし た愛知県立大学大学院儘田徹教授,愛知県立大学看護 学部ウィメンズヘルス・助産学研究室の先生方に深く 感謝申し上げます。 本研究は平成23年度愛知県立大学理事長特別研究 費の助成を受けて実施した調査を修士論文にまとめ, その一部を加筆・修正を加えた。さらに本論文の一部 は,日本看護学教育学会第22回学術集会にて発表した。 引用文献 相原孝夫(2002).コンピテンシーの活用の実際.11-89, 東京:日本経済新聞出版社. 遠藤俊子,渡部尚子,山本あい子,青木康子,村上睦子 (2005).新版 助産師業務要覧.274,東京:(株)日 本看護協会出版会. 古田祐子(2004).分娩介助技術指導において助産師学生 に「わかった」と認識させる指導者の言語的教育技法, 母性衛生,45(2),342-352. 平野加代子(2010).臨地実習指導場面における看護教員 のコンピテンシー,日本看護学教育学会誌,20(1),25-35. 細田泰子,山口明子(2004).実習指導者の教育的アプ ローチの特徴とその関連要因,日本看護学教育学会誌, 14(2),1-16. 菱沼由梨(2010).臨床指導者の視座による分娩介助の「振 り返り」という学びの意味,母性衛生,50(4),637-645. 堀内寛子,服部律子,谷口通英,布原佳奈,名和文香,宮 本麻記子(2007).本学学生の分娩介助技術習得のプ ロセスとそれに応じた臨床指導のありよう,岐阜県立 看護大学紀要,7(2),9-17.医学書院販売部SP課(2010).看護学校便覧2010.315-339, 東京:医学書院販売部SP課. 岩木宏子(1996).助産婦学生の分娩介助実習における学 びの積み重ねについて―学生の視座に基づく学びの積 み重ねのプロセス―,日本助産学会誌,10(1),36-45. 看護行政研究会(2011).看護六法 平成23年度版.77-78, 東京:新日本法規出版.
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