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小学校6年生の基本的人権の判断に及ぼす「無知のベール」の効果

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Academic year: 2021

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要旨  小学校社会科の授業で扱われる基本的人権の尊重を児童に主体的に学ばせるための試みとして,J. ロー ルズが提唱した「無知のベール」を用いることの効果を検証した。青森県内の小学 6 年生に,経済的公正 を勘案させる教材を用いて,4 つの立場(会社社長,サラリーマン,大学生,失業者)でロール・プレイ ングをさせた。プレイでは,税制や年金制度について意見を述べ,政策判断をするよう指示した。その後 に,「無知のベール」を被り自分の立場が分からない状況で,再び,同様の政策判断をさせた。その結果, 「無知のベール」を用いることによって,児童の判断がより基本的人権を重視したものに変化することが 確認された。 キーワード:小学校社会科,社会保障,ロール・プレイング,無知のベール

Ⅰ.はじめに

 小学校社会科の授業で扱われる基本的人権の尊重を 児童に自発的に学ばせるための試みとして,J. ロール ズによる無知のベールを用い,児童に思考させること の効果を検証したものである。  我が国において基本的人権は,小学校社会科第 6 学 年の日本国憲法を扱う際に指導されてきた。教科書の 扱いでは日本国憲法の三大原則の一つがその尊重であ ることや,人間として生まれながらにして有する権利 であると示されている。さらに教科書では,挿絵と共 に 5 つの権利(自由権・平等権・社会権・請求権・参 政権)を扱う流れとなっている。  しかしこれらの内容について,教師が単に知識とし て暗記させたり教え込んだりするような指導1)を行う ことで次の二つの問題が懸念される。第一に,児童の 主体的な学びが期待できないことである。平成 20 年 度改訂の学習指導要領において,公民的分野に関わる 学習内容は第 6 学年の最後に学ぶ配列となっている。 歴史的分野を先に学び,公民的分野の範囲を学ぶ頃は 学校行事として卒業生を送る会や卒業制作,卒業式等 があり,併せて中学受験が実施される頃でもある。こ のような時期は第 6 学年児童のみならず指導者にとっ ても多忙な時期であり,指導に十分な時間が取れない でいる現状である。そのため,教科書の指導内容を単 に終わらせればよいといった一方的な知識の伝達によ る学びが展開されていることをよく目にしてきた。こ れでは,公民分野に対し,単に暗記科目であるという 意識が児童に形成されてしまい,児童の主体的な学び を期待することはできない。第二に,基本的人権の役 割を児童に深いレベルで気付かせる2)ことができない ことである。この役割について菊池八穂子らは「初等 教育における憲法学習の目的は憲法の内容を教えるこ とではなく,民主主義国家の中での憲法の役割が分か るようにすることである3)」と述べている。内容の教 え込みのみでは役割について理解しにくいのは当然の ことであり,児童にとって深いレベルでの気付きは期 待できない。  そこで,本研究では基本的人権についての指導につ いて,従来の単に知識の伝達に留まらない,主体的且 つ深いレベルでの気付きが伴う学びを提案する。然る 後,プリテスト・ポストテスト比較や意思決定の変化, 児童の記述等を用いて分析し,その成果及び課題を提

Instructional Practice

The Journal of

Economic Education No.37, September, 2018

実践記録

小学校 6 年生の基本的人権の判断に

及ぼす「無知のベール」の効果

─経済的公正を勘案させる教材活用を通して─

The effect of wearing a “veil of ignorance” on the fundamental human right judgments by 6th-grade Japanese students: Through using teaching materials to raise students’ awareness about economic fairness

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示する。

Ⅱ.研究における具体的手立て

 先に述べた従来の問題に対する具体的手立てとして, 二点を取り上げる。一点目は,主体的な学びを喚起す るための J.ロールズの無知のベールの活用である。 二点目は,深いレベルでの気付きを伴わせるための ワークショップ型4)授業の取組である。 1.主体的に価値に気付かせるための無知の ベールの活用  本研究では,ロールズの無知のベールを用いて実践 を行う。無知のベールとは自他の能力や属性の違いを 分からなくする仮想の装置5)のことで,各人が自分に とっての有利・不利を考慮することなく偏らない視点 から選択するようにした状態である。 (1)ロールズの正義と無知のベール  ロールズは社会的・経済的に最も不遇な人たちの福 利の向上が見込まれる場合,社会的格差を許容すると いう正義6)を主張する。この正義は,様々な価値観を もっている人々を,誰かの利益に偏ること無く公正に 扱う枠組み(視点)である。この判断を無知のベール の下にある人たちは,自分自身の有利・不利に関する 情報をもたないなかで合理的に判断を行う。この無知 のベールを授業に用いることで,児童は自分が置かれ ている立場を意識せずに公正に判断を行うとともに, その判断が社会的・経済的に最も不遇な人たちの福利 の向上を求めていることを自発的に思考することがで きるのである。  加えて,本研究は基本的人権の特に社会権に焦点を 当てることとする。ロールズの正義は社会的・経済的 に最も不遇な人たちの福利の向上を意図していること から,基本的人権における社会権の理念に適ってい る7)といえる。よって,無知のベールを社会権におけ る配分に関わらせる実践とした。 (2) 無知のベールを扱った先行研究  本研究の先行事例として,猪瀬武則の報告書に筆者 の実践8)を掲載したものが挙げられる。猪瀬は米国経 済教育学会のカリキュラム教材「無知のベールゲー ム」を日本語に翻案した。このゲームは,経済的公正 を実現するための方策を学習者に勘案させるものであ る。実践部分では筆者が児童の発達段階を考慮し,政 策決定や立場の改変を行った。本稿は,対象児童数を 増やし,実践を検証したものである。それ以外の,国 内において無知のベールを扱った小学校社会科の実践 は見付けることができなかった9)。そこで,高等学校 の先行研究として平等権を用いて法的意思決定力の育 成を目指した高林賢治の実践10)を取り挙げる。この 実践では,トゥールミンモデルを改良した法的意思決 定モデルや価値判断,ディベートを用いることで,配 分的正義を意識させながら合理性の高い思考の深化を ねらいとしているところに意義がある。しかし,無知 のベールを用いているのはケーキの切り方を考えさせ る場面であり,配分的正義を思考させるにあたり身近 な例として思考させるに留まっている。つまり,無知 のベールそのものにより,主体的な気付きをねらって いるわけではないのである。 2.深いレベルでの気付きを伴った学びを形成 させるためのワークショップ型の活動  本研究では,深い学びを形成するための具体的手立 てをワークショップ型の活動に求める。ワークショッ プ型授業における対話的・体験的な学びを通して,深 いレベルでの気付きへと導く。授業では二点の具体的 手法を用いる。一点目は,主に対話的な学びとしての ジグソー法的手法(以下ジグソー法と表記)である。 二点目は,体験的な学びを中心としたロール・プレイ ングである。 (1) ジグソー法による学びの協同化  ジグソー法はグループ学習であり,「ホームグルー プ(ジグソーグループ)」と「エクスパートグループ」 という 2 種類のグループを作ることから始まる。目的 はジグソーグループでの資料の読解理解である。全員 が同じ資料を読むのではなく,各々のメンバーが異な る部分を読み,それをグループで総合することで各自 の学習を進めていくものである11)。ジグソー法を用い ることで二点の特長があげられる。一点目は,「グ ループの中では,誰もが他者の助けなしではよく学べ ない。」である。二点目は,「それぞれのメンバーは独 自のそして不可欠な貢献をすることができる12)。」で ある。つまり,ジグソー法は協同的な学びを促す。そ して,ジグソー法を用いることで共感,つまり他者へ の立場へと立つことができる力の発達を促進させる13) ことができる。これは本研究において基本的人権を扱 う際,様々な立場の人々を考慮する場面において必要 な学びである。よって本実践において,ジグソー法を 用いることが適切であると判断した。 (2) ロール・プレイングの導入による深いレベルでの 気付きを伴う展開

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 ロール・プレイングは役割演技により,深いレベル での気付きが可能となる学びである。なぜなら,社会 事象を模擬的に再現する際に特定の視点から抽象し, 単純化することから児童に体験的・直観的な理解を可 能とするからである。資料の読み取りに時間を要した り,不十分な理解に留まったりすることで,思考を深 められなかった児童が情報を獲得することで深い学び の形成が見込める14)。先に述べたように,本研究では 様々な立場の人々を考慮する場面を想定しているが, これらの立場を理解させる際,ロール・プレイングの 導入が児童の発達段階を考慮した場合,有効に働くの は想像に難くない。 (3) ワークショップ型の取組を扱った先行研究  ワークショップ型の取組を扱った先行研究は,今日, 数多く行われているが,ここでは特にジグソー法を用 いて社会権や平等権を扱った井上篤子の学習意欲と思 考力を高める実践15)を取り挙げる。この実践は,ジ グソー法を用いて様々な立場の人々を想定しながら労 働問題について考えさせている。そして,これら取組 により生徒の意欲向上を明らかにしている点に意義が ある。本研究においても,これらジグソー法の有効性 を確認しつつ,ロール・プレイングを用いることの効 果を期待し実践に取り組んだ。

Ⅲ.無知のベールを用いた実践 第 6 学年

「わたしたちのくらしと憲法」

 以下は,ワークショップ型授業でロールズの正義を 扱うことで,基本的人権の尊重が人間の本質的な行動 規範より生ずることに児童自らが気付く実践である。 実践は 2015 〜 17 年に行い,対象児童は青森県弘前市 にある弘前大学教育学部附属小学校 6 年児童である。 1.単元について  単元名及び単元の目標,評価規準は以下の通りであ る。なお,評価基準については,実践当時の学習指導 要領に基づき記載している。 (1) 単元名  「わたしたちのくらしと憲法」(日本文教出版) (2) 単元の目標  日本国憲法と我が国の政治や国民生活との関わりに ついて,憲法の基本的な考え方をつかむとともに,我 が国の民主政治は日本国憲法の基本的な考え方に基づ いていることが分かる。 (3) 単元の評価基準 ・社会的事象への関心・意欲・態度  我が国の政治について関心をもち,具体物や資料, 既存の知識を活用して意欲的に追究しようとする。 ・社会的な思考・判断・表現  我が国の政治の仕組みについて,国民生活の向上と 安定を国の政治の働きと結び付けて考え,適切に判断 し,自分の言葉で説明している。 ・観察・資料活用の技能  資料を活用しながら調べ,国民生活と政治との関わ りについて根拠を明らかにしながら調べたり,まとめ たりしている。 ・社会的事象についての知識・理解  日本国憲法の基本的な考え方や,我が国の政治の仕 組みについて理解している。 (4) 単元の指導計画(全 7 時間)  第 1 時 国民健康保険について  第 2 時 社会保障について  第 3 時 税制について  第 4 時 基本的人権について(本時)  第 5 時 国会の役割について  第 6 時 三権分立について  第 7 時 地方議会について 2.本時について  本時の目標及び指導案は以下の通りである。 (1) 本時の目標  社会的弱者を考慮した際,どのような政策が必要な のかを根拠をもって考えることができる。

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(2)本時指導案 主な発問 主な指示 予想される発言及び活動 ◎具体の評価規準指導上の留意点 資 料 1我が国の社会保障制度はどの ような制度だったかを確認し よう。 2保険証や年金制度は,自分に とって必要かどうかを考えよ う。 ・支え合いになっている。 ・税金も使っている。 ・必要だ。 ・無ければ困る。 ・あった方がいい。 ・前時までの学習を確認する。 ・ここでは,現在の自分の立場で考えさせ る。 ・前時ま でに扱 った資 料 あなたにとって,そしてみんなにとって必要な政策を考えよう。 3与えられた役割カードの立場 で考えよう。 4 つの立場 ・会社社長 ・サラリーマン ・大学生 ・失業者 (詳しくは図 1 参照) 4役割や選択した理由について 説明しよう。 5何者でもない「一人の人間と して」考えよう。 6選択した理由について説明し よう。 7今日考えたことをまとめよう。 ・(例 1)会社社長  消費税を選択し,自分に不 利な累進課税を嫌がる。保険 証や年金は従来通りを選択。 ・(例 2)失業者  累進課税を希望し,消費税 は撤廃。保険証や年金は掛け 金にかかわらず配布を選択。 ・どの児童も,与えられた役割 が最大限に生きるよう説明す る。 ・どの立場であっても,累進課 税を選択し,保険証や年金制 度の全員支給を選択する。 ・自然と「困っている人」や 「貧しい人」等のキーワード が用いられ話し合いが行われ る。 ・二人一組となり,一組で 1 つの役割 を考えさせる。 ・カードと記入用紙,回答シールを配 る。 ・①〜④の役割カードを配り,立場を 理解させた上で,役割カードの投票 1回目に政策を選択及び記入させる。 ・役割カードの人物になりきり,自分 の得になるように演じることを指示 する。 ・記入用紙の質問回答に対応したシー ルを,役割カードの指定された位置 に貼らせる。 ・グループにそれぞれの役割の児童が 1 名ずつ入るようにする。 ・役割カードを配り,立場を理解させ た上で,政策を選択させる。 ・役割カードの投票 2 回目に政策を選 択及び記入させる。 ・記入用紙の質問回答に対応したシー ルを,役割カードの指定された位置 に貼らせる。 ・司会者の指示で話合いを行わせる。 ・始めの役割で考えたことと,一人の 人間とし考えたこととを比べながら 書くように指示する。 ・無自覚の内に,困っている人のことを考 えている発言を取り上げ,気付かせるよ うにする。 ・困っている人々への手を差し伸べること が基本的人権にも生かされていることに 気付かせる。 ◎社会的弱者を考慮した際,どのような政 策が,人々にとって必要なのかを根拠を もって考えることができている。 ・役割カ ード ・政策選 択カー ド ジグソー法   ロール・プレイング 無知のベール (例)私は初め,社長の立場だったから,結構,自分で 何でもできるのでどんな政策でもいいと思ったけど, 一人の人間として考えたときは,困っている人とかも いると思うので,そういう人のことも考えて政策を決 めた。

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Ⅳ.分析と考察

 ここでは,四点より実践の分析を行う。一点目は, 実践の前後に実施したテスト結果の分析である。二点 目は,政策に対する意思決定の変化より分析を行う。 三点目は児童の発話記録分析であり,四点目は児童記 述より分析を行う。そして,それぞれに考察を付与す る。 1.プリテスト・ポストテストの分析  基本的人権に内在する配分的正義について,対象児 童はどのような認識なのかを実践の前後で調査した。 以下は,アンケートの内容とその結果である。  度) (1) アンケート内容  アンケートは架空の国の累進課税を説明した文章で あり,税制に対する賛成及び反対の立場を明確にする ものである。プリテスト・ポストテストにおいて同一 の文章で実施した。  あきた・つしま・やまうちの 3 人は,ある国のサッ カー選手。小学校の時からの友達でありライバルだ。 あきたは地方ではちょっと有名な選手だった。つしま は全国レベルの選手だった。やまうちは世界が注目す る選手だった。3 人は大人になり,見事,プロのサッ カー選手になった。契約金は以下の通りとなった。 あきた 1000 万円 つしま 3000 万円 やまうち 1 億 5000 万円  喜んだのもつかの間…国から「税金をはらえ」と言 われたのである。求められた税金は以下の通りである。 あきた 300 万円  つしま 1500 万円 やまうち 1 億 円  国も税金を払ってもらわないと困ってしまう。そし て税金を払わないと「脱税」という罪となり刑務所に 入れられてしまう。3 人は税金を国にはらいましたと さ。 問: 上記の文章を読み,この税のとり方に,「賛成」 か「反対」かを選び,その理由を書きなさい。 図 2 アンケートの文面 (2) プリテスト結果  プリテストでのアンケートに対する児童の判断は, 図 3 左側のグラフ通りである。反対を支持している児 童は「同率の税率が望ましいから」といいった消費税 のような同率の税率を求めていた。また,賛否にかか わらず,半数の児童が税金そのものの金額に視点が注 がれていた。 ①会社社長(58 歳) ・老後の生活に困らないだけの貯金あり。 ・ 例えどんな病気になっても病院に治りょう代を払 うだけのお金あり。 ・まだまだ,もっともうけたいと思っている。 ②サラリーマン(40 歳) ・老後は年金で生活したいが,年金だけでは今の給 料の半分<らいしかもらえないので,貯金も少しず つ行い始めた。 ・病気になったら保険証を使って治りょうするので, 治りょうにかかったお金の 3 割の支払いだけで済んで いる。 ・貯金をもっと増やしたいと思っている。 ③大学生(20 歳) ・老後の事は,今は考えていない。生活費はバイト 代のみ。小さい頃から,絵画コンクールで金賞など 入選多数。 ・自分の保険証だけは,親からもらっている。 ・授業で使う道具代もバイトでかせいでいるが,油 絵用の絵の具代が高いと感じている。 ④失業者(45 歳) ・老後の事は全く考えられない。今日を生きてい< ことで精一杯。親が体をこわし,家計を助けるため, 高校中退して働いていた。 ・まじめに勤めていた会社が倒産するまでは保険証 を持っていたが現在保険証は持っていない。 ・働いていた会社は建設業。国からの工事を引き受 ける会社だったが,国も予算が減り,年々,工事依 頼が少なくなり,倒産。 能力があるから, もうけられるんだ! 今でも生活はできるけど,ちょっとだけ 余裕を持って生活できたらいいな… 将来の夢は日本を代表する 画家になること! どうすればいいんだろう… 手持ちのお金も残り少ない… 図 1 ロール・プレイング用役割カード

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(3) ポストテスト結果  ポストテストでのアンケートに対する児童の判断は, 図 3 右側のグラフ通りである。実践後は賛成とした児 童が増えていることが認められた。主な理由として 「安い契約金の人から安い税金を取るのはいいことだ」 や「高い契約金の人から高い税金を貰うのは当然」と いった理由が述べられていた。これらは,配分的正義 が有効であることを意識している記述である。つまり, 能力に比例して負担が決まることを是と認識している。 この変化は,実践において「基本的人権は,手を差し 伸べなければならない人へ眼差しを向ける」ことを身 に付けたものとして受け止められる。 賛成 25% 75% 13% 87% ポストテスト結果 プリテスト結果 反対 図 3 プリテスト・ポストテストの結果 2.政策に対する意思決定の分析  本実践では,先に図 1 で示した 4 つの立場(会社社 長・サラリーマン・大学生・失業者)を設定し,児童 にロール・プレイングを通してそれぞれの立場に立た せ(指導案3)図 4 の問いで政策を選択させた。その 後,無知のベール(指導案5)の下,一人の人間とし て,もう一度,図 4 の問いで政策を選択させた。ここ では,立場が会社社長であった児童の政策選択の変化 を取り上げる。 問1  政府の収入を増やさなければ年金や健康保険を やっていけません。どちらを選ぶ?      A 累進課税  B 消費税 問2 健康保険制度は今後どうすればよいか?      A 従来通り  B 全員配布 問3 年金制度は今後どうする?      A 従来通り  B 全員給付 図 4 政策決定の際の質問  会社社長は収入も貯蓄も十分な人物を想定しており, 社会保障に必要性を感じていない設定である。児童は その設定を受け,自己の立場が最も有利になるように 政策選択を行った。よってほとんどの児童は,全ての 問で B を選択した。しかし,無知のベールの下では, 会社社長役だった全ての児童が,全ての問で A を選 択した。持てる者が負担するべきであるといった実質 的な平等を意識しており,立場の弱い者に対する眼差 しが伺えた。 3.児童の発話記録による分析  無知のベールの下で政策を選択し,話合いを行って いる場面(指導案6)での児童の発話記録より分析を 行った。図 5 は年金政策について話合ったその一部で ある。 C1: B(全員給付)を選んだんだけど,お金がない 人もいるし,もし,困っている人もいると思う から。 C2: 貧しい人は保険料を払えないかもしれないし, そういう人もいると思うから,(保険料を)払え ない人でも年金を貰えれば,みんな生きていけ る。 図 5 無知のベールの下での児童の発言の一部 (括弧内は教師が付加した言葉)  この記録からも,無知のベールの下では,教師の指 示・指導が無くとも,児童自ら波線部の「お金がない 人もいるし」や「保険料を払えないかも」という言葉 を用いて説明をしていた。他に「困っている人」や 「貧しい人」というキーワードを用いながら,基本的 人権を考慮し政策を選択していた。 4.児童の記述による分析  本実践のまとめの段階(指導案 7)において,学び を振り返らせ記述させた。ここではそれぞれの児童に, 図 6 に示されるような記述が見られた。よって,児童 が知らず知らずのうちに弱い立場の人々を意識し,政 策に対する意思決定ができたことが伺えた。 図 6 児童の記述より(一部抜粋)

Ⅴ.おわりに

 以上,小学校社会科授業においてロールズの正義を

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ワークショップ型の活動を用いることで,基本的人権 の尊重が人間の本質的な行動規範より生ずることに児 童自らが気付く授業開発を報告した。  成果は,次の二点である。一点目は,無知のベール の下,児童が基本的人権をより重視したものに変化す ることが確認されたことである。二点目は,この学び が,これからの教育に求められる主体的・対話的で深 い学び16)であるアクティブ・ラーニングを具現化し ていることにある。  課題は,次の三点である。一点目は,対象児童の数 にある。本研究は 3 年間分の児童数で検証を行ってい るが,延べ 110 名程度の実施であるため,更なる数の 実践と検証の積み重ねが必要である。二点目は,児童 の言語活動の成果に対する適切な分析である。例えば ポストテストにおいて,税率と金額との関係に誤認が 起きていないかを追究する必要があるといったことが あげられる。内容を精査し,より説得力の高い分析が 今後必要である。三点目はアンケートや発問等の精査 である。先に述べたように,意図が十分伝わるような 発達段階を考慮した発問・指示の更なる検討が必要で ある。 註 1) 知識の詰め込み指導に関しては校種や学年,教科に限ら ず学校教育の様々な場面で指摘がなされているが,公的 に明言しているものに以下がある。中央教育審議会初等 中等教育分科会教育課程部会第 15 回(第 3 期第 1 回)議 事録・配付資料 2017 年 8 月 20 日引用 http://www.mext. g o . j p / b _ m e n u / s h i n g i / c h u k y o / c h u k y o 3 / 0 0 4 / siryo/05062301/006/003.htm 2) 高良聖はロールプレイによる学習について「知識による 頭だけの理解とは異なり,情緒的体験を伴うために,深 いレベルでの気付きを得られることが知られている」と 述べている。國分康孝監『スクールカウンセリング辞典』 東京書籍,p.515(2000) 3) 菊池八穂子他「初等社会科法関連教育の授業開発-憲法 学習の改善を目指して-」名古屋学院大学『教職セン ター年報』創刊号,p.78(2017) 4) ロール・プレイングやシミュレーション等のアクティビ ティーを取り入れた活動については,次の文献に詳しい。 堀公俊『ワークショップ入門』日経文庫,2008 5) 仲正昌樹『いまこそロールズに学べ』春秋社,p.77(2013) 6) 同上,p.66 7) 田中成明はロールズの正義を用いて「社会経済的福祉の 第二原理に従った適正な配分に与る権利もまた,憲法制 定会議を規律しそこで制度的保障を与えられるべき「基 本的権利」として位置づけられるべきものではなかろう か。」と述べている。田中「ジョン・ロールズの「公正と しての正義」論」日本法哲学会『法哲学年報 1972』p.186 (1973) 8) 猪瀬武則『社会科における価値学習の内容開発-効率・ 公正・卓越からの視点を導入して』平成 24 年度文教協会 助成報告書,公益財団法人日本文教協会(2013) 9) 小学校社会科における無知のベールの指導については, CiNii で検索しても実践が確認できなかった。また,海外 の教育研究を網羅的に扱っている ERIC において「veil of ignorance」と「primary school」や「elementary school」 で検索したが,国内同様に確認ができなかった。 10) 高林賢治「法的意思決定力を育成する高等学校公民科の 授業構成-小単元「平等権を考える」の開発-」全国社 会科教育学会『社会科研究』No.67, pp.21-30(2007) 11) 友野清文「ジグソー法の背景と思想-学校文化の変容の ために-」昭和女子大学『學苑』895 巻,p.2(2015) 12) エリオット・アロンソン他著,昭和女子大学教育研究会 訳『ジグソー法ってなに?─みんなが協同する授業』丸 善プラネット,p.13(2016) 13) 同上,p.123 14) 對馬秀孔「ロール・プレイングを用いて社会的な見方を 育む小学校社会科授業の開発─第 4 学年単元「ふせごう, 交通事故や事件」─」弘前大学教育学部『クロスロード』 第 21 巻,p.16(2017) 15) 井上篤子「生徒の学習意欲と思考力を高める社会科の授 業づくりの研究─協同学習の実践をとおして─」島根大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科『 課 題 研 究 成 果 論 集 』No.5, pp.1-10(2014) 16) 文部科学省『小学校学習指導要領』p.7(2017)

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