日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-32 184
-オンライン・ペアレントトレーニングのための
発達支援・問題解決プラットホームの開発と評価
○石塚 祐香1,2)、石川 菜津美3)、山本 淳一4) 1 )筑波大学 人間系、 2 )日本学術振興会 特別研究員(PD)、 3 )東京大学医学部附属病院 こころの発達診療部、 4 )慶應義塾大学 文学部 イントロダクション: 我が国のペアレントトレーニングの多くは、プログ ラム化された一般的な講義内容を集団で実施する形態 であり、発達障害児一人ひとりの特性や保護者の行動 レパートリーに応じた支援は限られている。近年で は、一人ひとりがアクセス可能なwebサイトでの講義 と、個別で実施するweb会議システムを組み合わせた オンライン・ペアレントトレーニングが開発され、保 護者の子どもへの適切な関わり方やポジティブな視点 が獲得されることが示されている(Ingersoll et al., 2016; Lindgren et al., 2016; Vismara et al. 2018)。しかし発達障害児と保護者が過ごしている物 理的環境や子どもと保護者の相互作用の具体的な状況 など、環境条件のアセスメントが十分になされていな い場合が多く、実際の日常における親子の円滑なコ ミュニケーションを促す条件は十分に明らかになって いない。したがって本研究では、親子の円滑なコミュ ニケーションを促すためのオンライン・ペアレントト レーニングを構築することを目的とし、発達支援・問 題解決プラットフォームの開発と評価を行った。 使用した機材: 本研究では、タブレット端末 1 台、三脚、タブレッ ト端末と三脚とつなぐコネクタを用意し、保護者に貸 し出した。タブレット端末は、家庭での保護者と参加 児の様子を撮影する際と、Skypeを用いたコンサル テーションを実施する際に使用した。 方法: 1 .参加者のリクルート:次の条件を全て満たした保 護者を募集した。( a )発達障害のある小学生の児童 の保護者である。( b )ご家庭の中の児童との関わり の中で悩んでいる点がある。( c )ご家庭にwifi環境が あり、週に 1 回 1 時間程度・ 1 ヶ月間skypeで相談が できる。( d )児童の行動の記録と家庭でビデオ撮影 ができる。 2 .発達支援と問題解決のプラットフォームの開発: 本研究は、インテーク面接、オンライン・ペアレント トレーニング、フォローアップ面接で構成された。本 研究では、発達支援と問題解決のプラットフォームを 開発するため、以下の点を組み合わせた。 ( a )家庭での様子を撮影した映像に基づいた支援の 設定:支援者は、保護者に対し、参加児に関する情報 を記載するシートを事前に送付し、記入を求めた。さ らに、参加児と保護者の様子を撮影したビデオ映像の 撮影も求めた。インテーク面接時には、保護者が持参 したシートをもとに、「参加児が得意なこと」と「参 加児が苦手なこと」を重点的に聴取した。聴取した内 容に基づいて、保護者が優先的に取り組みたい場面と その場面に応じた保護者のターゲット行動を相談のも と選定した。参加児と保護者の様子を撮影したビデオ 映像を保護者と一緒に見ながら、保護者が優先的に取 り組みたい場面とその場面に応じた保護者の標的行動 を支援者とともに選定した。 ( b )「家庭でできる10の発達支援方法チェックシー ト」と、「参加児の行動に関する機能分析シート」の 作成:チェックリストの項目は、保護者のターゲット 行動の結果を踏まえて 1 週間ごとに編集した。分析 シートは、参加児の問題行動の前後の刺激を同定する ために、行動が起こったタイミングでの記入を保護者 に求めた。 ( c ) クラウドを活用した動画・記録シートの共有: 保護者はタブレット端末で参加児と保護者の場面を撮 影し、その動画をタブレット端末のクラウドにアップ ロードした。チェックシート及び分析シートについて も同様の方法で共有した。 ( d )タブレット端末を用いたオンライン・ペアレン トトレーニング(全 3 回)の実施:保護者はタブレッ ト端末を用いて週 1 回60分間のオンライン・ペアレン トトレーニングを受けた。 ( e )発達支援と問題解決のためのコンサルテーショ ンの実施:支援者は、コンサルテーション開始前に予 め保護者と参加児のビデオ映像およびチェックシート を確認した。その後、チェックシートをもとに、具体 的内容、結果、問題などについて応用行動分析に基づ く発達支援と問題解決の技法とアクセプタント&コ ミットメント・セラピー(ACT)に基づく言語的メタ ファーの活用について具体的に説明した。さらに機能 分析シートを見ながら、参加児の行動のきっかけや要 因を保護者との話し合いの中で見つけ出し、家庭でで きる対応方法も協働で決めていった。 2 回目以降のコ ンサルテーションでは、特に家庭内の映像の中で参加 児の適切な行動、家庭内の物理的環境のよい点と改善 点、保護者の関わり方のよい点と改善点を中心にコン日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-32 185 -サルテーションを実施した。 3 . 評価と分析方法: インテーク面接、オンライン・ペアレントトレーニ ング、フォローアップ面接は全てICレコーダーで録音 した。保護者の発言の中でもポジティブな発言の変化 の分析や繰り返し保護者が発言するキーワードに関す る分析を行った。チェックシート・機能分析シートに おける保護者の記述から、保護者のポジティブな文章 の出現回数を計測した。また、保護者が撮影した参加 児の映像の行動観察を行い、映像の中で参加児の適切 な行動の生起率を算出した。さらにオンライン・ペア レントトレーニングの社会的妥当性の評価について、 1 (全くそう思わない)から 7 (非常にそう思う)ま での 7 件法で回答を求めた。 結果と考察: 社会的妥当性の評価の結果、保護者は「本プログラ ムは保護者と参加児にとって役立ったか」という項目 に対し、「 7(非常にそう思う)」と評定した。また「家 庭内でのコミュニケーションが増えたか」という項目 に対し、「 6 (そう思う)」と評定した。インタビュー の結果、保護者は「子どもが小学校に入学してから、 自分自身が相談を受ける場所や機会がなかった為、今 回参加することで子どもとの関わり方に関する具体的 な相談ができたのがよかった。」と話した。このこと から、参加児と保護者が撮影した映像を保護者と支援 者間で共有することで、物理的環境や親子の相互作用 の実態を明確にすることができたと考えられる。さら に映像をもとに、応用行動分析に基づく発達支援技法 と問題解決の技法および言語的メタファーの活用につ いて具体的に促したことが、家庭での円滑なコミュニ ケーションの促進につながったと推察される。今後 は、多様な発達障害のある子どもの保護者を対象と し、プラットフォームの活用と再構築を進めていく必 要がある。 インフォームド・コンセント: 本研究は、慶應義塾大学倫理委員会にて個人情報保 護を含めた倫理的承認を受けた研究説明書(受理番号 14026-1-5)に基づいて書面と口頭にて詳細な説明を 行い、保護者に同意を得て実施した。 付記: 本研究は、科学研究費助成事業(科学研究費補助金) 基盤B 「幼小連携のための包括的コンピュータ発達支 援システムの構築と定量評価」の助成を受けて実施し た。