人工股関節全置換術後の漸減的な補高挿入は自覚的脚長差の軽減に有用か?
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(2) 人工股関節全置換術後の自覚的脚長差に対する補高の有用性. 487. 表 1 対象の基本属性および術後 3 日目の PLLD 性別. 年齢(歳). 原疾患. 術後 3 日目の PLLD(mm). 症例 1. 女性. 80. 変形性股関節症. 10. 症例 2. 女性. 68. 変形性股関節症. 10. 症例 3. 女性. 66. 変形性股関節症. 10. 症例 4. 女性. 84. 変形性股関節症. 8. 症例 5. 女性. 67. 変形性股関節症. 4. 症例 6. 女性. 79. 大. 4. 骨頭壊死症. よって経時的に PLLD の改善が得られることを経験し. 被検者間マルチベースラインデザインを使用した。従属. ている。また非術側足底への補高の挿入が静的立位姿勢. 変数である PLLD の評価には block test. における下肢荷重率を即時的に均等化することを報告し. 両上肢下垂位,肩幅に開脚した自然立位にて,足底に. 16). 18). を使用し,. 。しかしながら PLLD を有する THA 例を対象と. 2 mm のアクリル板を上行性に積み重ね脚長差感が消失. して,補高使用による PLLD 軽減効果を縦断的に調査. する高さを測定した。一般的に block test を使用した. した報告は少ない。補高挿入が PLLD 改善に与える影. PLLD 測定は 5 mm 単位で実施されることが多く,測定. 響が明らかとなれば,PLLD を有する THA 例を対象と. 値の信頼性も確認されているが. して術後理学療法を行ううえで非常に有益であると考え. の 経 時 的 変 化 を 鋭 敏 に 捉 え る た め に,2 mm 単 位 で. られる。そこで本研究では PLLD を有する THA 例に対. PLLD の測定を行った。PLLD の測定は 2 回計測した際. する補高の使用が,PLLD 軽減に有用か否かを明らかに. の最大値を採用し,2 日毎に担当理学療法士(2 名)が. することを目的とする。. 実施した。補高挿入に関しては,測定した PLLD 値と. た. 16). ,本研究では PLLD. 同一の厚さの補高材(EVA(Ethylene Vinyl Acetate). 方 法. 素材)を非術側足底へ挿入した。2 日毎に PLLD を評価. 1.対象. し,PLLD が軽減した場合には挿入した補高の高さも減. 本研究では補高挿入による PLLD 軽減効果を検討す. じることとした。PLLD の測定に合わせて,PLLD に影. るための調査(調査 1)に加え,PLLD 測定値の信頼性. 響を与えることが明らかにされている術側股関節内転可. を検討するための補足的な調査(調査 2)を行った。. 動域. 調査 1 の対象は JA 山口厚生連周東総合病院で 2014. 節内転可動域については角度計を使用し,日本リハビリ. 年 4 ∼ 6 月に初回片側 THA 施行となり,術後 3 日目の. テーション医学会が定めた方法に準じて理学療法士 2 名. 段階で PLLD を有する 6 例とした。対象者の基本的属. で測定を行った。関節可動域測定は 5°単位とし他動可. 性および術後 3 日目における PLLD を表 1 に示した。. 動域を 1 回測定した。測定肢位は背臥位で反対側下肢を. 調査 2 の対象は 2013 年 1 月∼ 2015 年 3 月の間に JA 山. 屈曲挙上した肢位とし,骨盤傾斜による代償運動を防ぐ. 口厚生連周東総合病院で初回片側 THA 施行となった連. ため検者が骨盤を固定した。. 続 80 例のうち,術後 2 週の段階で 2 mm 以上の PLLD. 対象とした 6 例を術後 3 ∼ 9 日を A 期(基礎水準測. を有する 28 例(年齢:71.7 ± 8.6 歳,性別:男性 2 例・. 定期)とし術後 10 ∼ 30 日を B 期(操作導入期)とす. 女性 26 例,原疾患:変形性股関節症 26 例・大. 15). を術後 3 日目より 1 週間ごとに測定した。股関. 骨頭壊. る 2 例,術後 3 ∼ 16 日を A 期とし術後 17 ∼ 30 日を B. 死症 2 例)とした。本研究はヘルシンキ宣言ならびに臨. 期とする 2 例,術後 3 ∼ 23 日を A 期とし術後 24 ∼ 30. 床研究に関する倫理指針にしたがって行った。対象者に. 日を B 期とする 2 例に,Microsoft Excel 2013 の RAND. は書面にて研究の趣旨およびプライバシー保護に関して. 関数を使用して無作為に割りつけた。一般的に被検者間. 十分な説明を行ったうえで同意を得た。. マルチベースラインデザインにおける結果の解析には, ランダマイゼーション検定が使用されることが多い。ラ ンダマイゼーション検定を使用する場合,有意確率が. 2.方法(調査 1) 研究デザインは AB デザインによる被検者間マルチ 17). 5%を下回るためには,A 期・B 期の組み合わせ総数を. とし,独立変数を補高挿入の. 21 通り以上とする必要がある。本研究ではこの組み合. 有無,従属変数を PLLD とした。通常,介入効果を検. わせ総数に加え,起立・歩行練習が許可される術後日. 証する研究ではランダム化比較試験等の研究デザインが. 数,当院における THA 例の一般的な入院期間を考慮し,. 使用されることが多いが,本研究では対象者の不利益を. A 期・B 期の期間設定を行った。. 最小限にするため,すべての対象者に介入が実施可能な. A 期には関節可動域運動・筋力強化運動・歩行練習. ベースラインデザイン.
(3) 488. 理学療法学 第 43 巻第 6 号. 図 1 A 期における PLLD 是正を目的とした運動療法. といった通常の理学療法に加え,術側股関節内転運動・. 期間の平均値差,平均値差に基づく Effect Size を図 2. 腰椎側屈運動・骨盤側方傾斜運動といった PLLD 是正. に示した。6 例いずれも経時的に PLLD は減少した。6. を目的とした運動療法(図 1)を実施した。B 期には A. 例における平均値差の総和は 21.3 であり,ランダマイ. 期の運動療法に加え,PLLD に合わせて補高を挿入し,. ゼーション検定の結果,A 期に比較して B 期における. 歩行練習を実施した。補高に関しては理学療法施行中に. PLLD の減少が有意に大きかった(1/6C2*4C2 < 0.05)。. 限らず,病棟移動中も含め挿入した状態とした。. 先行研究. 21). に基づき Effect Size の大きさを判定した結. 果,算出した Effect Size は症例 1 で大,症例 2・3・4 3.方法(調査 2). で小,症例 5・6 で中等度であった(図 2) 。. 調 査 2 は 術 後 14 日 目 に 実 施 し, 同 一 検 者 が 2 回. 測定した術側股関節内転可動域の推移を図 3 に示し. PLLD の測定を行った。なお PLLD の測定方法は調査 1. た。症例 1 ∼ 6 いずれも術側股関節内転可動域の拡大に. と同様とした。. 伴い,PLLD が軽減する傾向にあった。. 4.統計学的解析. 2.調査 2. 調査 1 の結果の分析にはランダマイゼーション検. PLLD の初回測定値は 5.8 ± 2.7 mm,2 回目測定値は. 定. 19). を使用した。A 期・B 期間の平均値差を算出し,. 5.9 ± 2.6 mm であり,算出した級内相関係数(1, 1)は. 6 例における平均値差の総和を検定統計量とした。次に. 0.96(95% CI:0.91 ‒ 0.98,p < 0.05)で高い信頼性が確. A 期・B 期の 12 回分のデータをランダムに組み合わせ,. 認された。. 90 通り(6C2*4C2)の平均値差を算出し,6 例における 平均値差の総和を算出した。本研究における組み合わせ. 考 察. 総数 90 通りのうち,平均値差の総和が検定統計量以上. 本研究では PLLD を有する THA 例に対する漸減的な. になる組み合わせが,何通り存在するかを算出し,算出. 補高の使用が,PLLD 軽減に有用か否かを明らかにする. した値を組み合わせ総数 90 で除した値を有意確率とし. ことを目的とした。結果より A 期に比較して B 期にお. た。 さ ら に A 期・B 期 間 の 平 均 値 差 に 基 づ く Effect. け る PLLD の 減 少 が 有 意 に 大 き く,PLLD を 有 す る. Size(A 期・B 期間の平均値差を各期をプールした標準. THA 例における非術側足底への補高挿入の有用性が示. 20). 偏差で除したもの). を算出し,補高挿入による PLLD. 唆された。. 変化の程度を検討した。調査 2 の PLLD 測定値の検者. 我々は THA 例の PLLD に影響を与える要因として,. 内信頼性の検証にあたっては,測定した 2 回の PLLD. 術後 X 線学的脚長差から独立して術側股内転可動域が. 測定値から級内相関係数(1,1)を算出した。統計学的. 重要であることを報告した. 解析には SPSS Statistics Version21.0(日本 IBM 社)を. 症例においては術前に大. 使用し,有意水準は 5%とした。 結 果. とが多く. 15). 。変股症・大. 骨頭壊死. 骨頭が外上方偏位しているこ. 22). ,THA により脚延長が行われると,股関節. 外側軟部組織が伸張され外転拘縮が生じやすい。また臼 蓋形成不全を起因とする変股症例では寛骨臼の骨頭被覆. 1.調査 1. 率を高めるために骨盤を罹患側へ傾斜している症例が多. 症例 1 ∼ 6 における PLLD の経時的変化,A 期・B. く,術前から内転可動域制限が生じていることが少なく.
(4) 人工股関節全置換術後の自覚的脚長差に対する補高の有用性. 図 2 PLLD の経時的変化 PLLD(perceived leg length discrepancy) ,pod(post operative day) ,ES(effect size). 図 3 PLLD および術側股関節内転可動域の経時的変化 PLLD(perceived leg length discrepancy) ,pod(post operative day). 489.
(5) 490. 理学療法学 第 43 巻第 6 号. ない。さらに後側方侵入による THA では脱臼肢位を回. かが不明な点が問題となる。被検者間マルチベースライ. 避するために術後早期には屈曲−内転−内旋方向への過. ンデザインはこれらの欠点を補う研究デザインであり,. 度な関節運動は禁忌となる。当院では術後 2 週間は就寝. 独立変数導入のタイミングを無作為に割りあてることで. 時には外転枕を装着し,0°以上の内転を伴う積極的な可. 介入効果を検証することが可能である. 動域運動は控えている。このような機序により THA 後. ら多標本実験計画法を用いた研究デザインに比較すると. においては内転可動域制限が生じ,荷重位における術側. 対象例が少なく,この点が本研究の最大の限界である。. 方向への骨盤側方傾斜を引き起こし,PLLD が出現する. 今後はランダム化比較試験等の実験的研究デザインを使. ものと考える。よって PLLD 改善を目的とした理学療. 用した検討が必要であろう。また従属変数である PLLD. 法においては術側内転可動域の改善が重要となる。. の測定は独立変数導入のタイミングを知っている検者が. 3 次元動作解析装置を用いて THA 例の歩行分析を. 実施しており,対象者へも介入に関する盲検化が行えて. 行った先行研究では,THA 例における歩行時立脚初期. いないため,測定バイアスが生じた可能性は否めない。. の術側股関節内転角度が健常例に比較して有意に小さい. 加えて調査期間が術後 30 日と短期間であることも研究. ことが報告されている. 23)24). 。また PLLD を有する THA. 例においては,術側立脚期における股関節内転角度が PLLD を有しない症例に比較して有意に小さいことが明 らかにされている. 25). 。股関節外転位での立脚支持では. 16). 。しかしなが. の限界であろう。今後はこれらの限界を考慮したうえで の長期的な調査が必要である。 結 論. 股関節外側軟部組織の十分な伸張が得られず,内転可動. PLLD を 有 す る THA 例 に 対 す る 補 高 の 使 用 が,. 域拡大による PLLD の改善を図ることが困難となる。. PLLD 軽減に有用か否かを明らかにすることを目的とし. 本研究では,PLLD は術側股関節内転可動域の拡大に. て研究を行った。初回片側 THA 施行となった 6 例を対. 伴って軽減しており,B 期における内転可動域改善は A. 象とした。研究デザインは AB デザインによる被検者間. 期に比較して大きい傾向にあった。したがって非術側足. マルチベースラインデザインとし,独立変数を補高挿入. 底へ補高を挿入することで立脚期における術側股関節内. の有無,従属変数を PLLD とした。結果より A 期に比. 転角度が増加し,経時的に術側股関節内転可動域に改善. 較 し て B 期 に お け る PLLD の 減 少 は 有 意 に 大 き く,. が得られ PLLD が減少したものと推測する。. PLLD を有する THA 例における補高使用は PLLD 軽減. 冒頭でも述べたが THA 例における PLLD は隣接関節. に有用であることが示唆された。. への力学的負担を増大させ二次的障害を引き起こすこと が知られている。また THA 術後の満足度や QOL に影 響を与える要因としても PLLD が挙げられており,術 後理学療法においても PLLD の改善が非常に重要とな る。本研究は非術側足底への漸減的な補高挿入が PLLD 軽減に有効であることを明らかにした点で,その臨床的 意義は大きいと思われる。脚長差に対する補高は古くか ら代償的手段として使用されてきたが,本研究結果から PLLD 改善を目的とした治療的手段としての有用性が示 唆された。一方で補高挿入に際しては補高挿入によるア ライメント変化を十分に評価したうえで,隣接関節への 疼痛の出現に留意する必要があろう。加えて補高挿入後 には経時的に PLLD を評価し,PLLD の軽減に合わせ て補高を減じる必要があると考える。 最後に本研究の限界について述べる。一般的に介入効 果を検証する研究ではランダム化比較試験等の実験的研 究デザインが使用されることが多い。本研究では対象者 の不利益を最小限にするため,すべての対象者に介入が 実施可能な被検者間マルチベースラインデザインを使用 した。1 例を対象としたシングルケースデザインでは一 般化(結果が対象とした症例以外にもあてはまるか)が 問題となることが多い。また AB デザインでは独立変数 の導入によって変化が生じたのか,偶然変化が生じたの. 文 献 1)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会:変形性股関節 症診療ガイドライン.南江堂,東京,2008,pp. 22‒26. 2)福島若葉,廣田良夫:大 骨頭壊死症─関節温存手術と その限界─ 特発性大 骨頭壊死症の全国疫学調査から. Orthopaedics.2011; 24: 7‒11. 3)村木重之:変形性股関節症診療ガイドラインの問題点 改 訂に向けて変形性股関節症の有病率と股関節痛との関連. 日本整形外科学会雑誌.2015; 89: 476. 4)Brand RA, Yack HJ: Effects of leg length discrepancies on the forces at the hip joint. Clin Orthop Relat Res. 1996; 333: 172‒180. 5)Pakpianpairoj C: Perception of leg length discrepancy after total hip replacement and its impact on quality of life. J Med Assoc Thai. 2012; 95: 105‒108. 6)Iversen MD, Chudasama N, et al.: Influence of selfreported limb length discrepancy on function and satisfaction 6 years after total hip replacement. J Geriatr Phys Ther. 2011; 34: 148‒152. 7)Clark CR, Huddleston HD, et al.: Leg-length discrepancy after total hip arthroplasty. J Am Acad Orthop Surg. 2006; 14: 38‒45. 8)Zhang Y, He W, et al.: Total hip arthroplasty: Leg length discrepancy affects functional outcomes and patient’s gait. Cell Biochem Biophys. 2015; 72: 215‒219. 9)Golightly YM, Allen KD, et al.: Symptoms of the knee and hip in individuals with and without limb length inequality. Osteoarthritis Cartilage. 2009; 17: 596‒600. 10)Wylde V, Whitehouse SL, et al.: Prevalence and functional.
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(7) 492. 理学療法学 第 43 巻第 6 号. 〈Abstract〉. Is Decrescent Shoe Lift Insertion Effective for Reducing Perceived Leg Length Discrepancy after Total Hip Arthroplasty?: An Investigation using Multiple Baseline Design Across Participants. Yuji KAWABATA, PT, Yuta KARIMATA, PT Department of Rehabilitation Medicine, Shuto General Hospital, JA Yamaguchi Prefectural Welfare Federation of Agricultural Cooperative. Purpose: To clarify whether the decrescent insertion of a shoe lift is effective for reducing perceived leg length discrepancy after total hip arthroplasty. Methods: Six patients who underwent primary unilateral total hip arthroplasty were included. The study was a multiple baseline design across participants. The independent variable was the presence or absence of a shoe lift, and the dependent variable was the perceived leg length discrepancy. In phase A, range of motion exercises, muscle strengthening exercises, and gait exercises were performed by the patients. In phase B, gait exercises using the shoe lift were performed by the patients in addition to the exercises in phase A. Six patients were randomly assigned; two patients performed phase A exercises on postoperative days 3 ‒ 9 and phase B exercises on postoperative days 10 ‒ 30, two patients performed phase A exercises on postoperative days 3 ‒ 16 and phase B exercises on postoperative days 17 ‒ 30, and two patients performed phase A exercises on postoperative days 3 ‒ 23 and phase B exercises on postoperative days 24 ‒ 30. Results: Results of the randomization test revealed that the reduction of the perceived leg length discrepancy was significantly higher in phase B than in phase A. Conclusion: The results suggest that it is useful to insert a shoe lift to reduce perceived leg length discrepancy after total hip arthroplasty. Key Words: Total Hip Arthroplasty, Perceived leg length discrepancy, Shoe lift, Multiple baseline design.
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