胸骨正中切開による心臓外科術後の脊柱アライメント・可動域の変化
8
0
0
全文
(2) 胸骨正中切開による心外術後の脊柱アライメント・可動域の変化. 83. 対象および方法 1.対象 対象は,2015 年 6 月 1 日∼ 2016 年 12 月 31 日までに 国際医療福祉大学病院心臓外科にて胸骨正中切開で待機 的心臓外科手術を行った患者 27 名(男性 16 名,女性 11 名,年齢 64.8 ± 11.6 歳,身長 161.1 ± 11.0 cm,術前 2 体重 58.1 ± 9.2 kg,Body Mass Index 22.3 ± 2.3 kg/m ). とした。除外基準は脊柱疾患の既往がある者,立位保 持・前後屈が困難であった者,データに欠損がみられた 者,術後合併症等で離床が遅延した者とした。また,弓 部大動脈瘤にて大動脈弓部全置換術を施行した患者は手 術の際に鎖骨下も同時に切開するため影響を考慮し除外 とした。 本研究は,国際医療福祉大学病院倫理審査委員会の承 認を得た(承認番号 13-B-165)。また,対象者には事前 に研究の内容と目的を説明し,口頭と書面にて同意を 得た。 図 1 スパイナルマウス本体と測定方法 第 7 頸椎から第 3 仙椎を結ぶ脊柱傍線部を頭側 から尾側に向けて,2 つの Roller が皮膚から離 れないようにしてなぞることで測定を行う.. 2.心臓外科術後のリハビリテーション 術後は心大血管疾患におけるリハビリテーションのガ イドライン. 10). に沿って理学療法士監視下における早期. リハビリテーションを実施した。術翌日より主治医と相 談のうえ,離床を開始し 4 ∼ 5 日で病棟内自立をめざし,. 者間信頼性に関しても良好であることが報告されてい. 介入を行った。離床開始時期は 1.3 ± 0.7 日,100 m 歩. る. 行可能時期は 6.7 ± 2.0 日(100 m 歩行不可であった 1. の 3 条件で行った。各条件とも両足を左右平行に接地,. 名を除く)であった。. 足幅は内果間 10 cm,両上肢は自然下垂位とした。頭部. 15)16). 。測定肢位は直立位,体幹前屈位,体幹後屈位. の位置として,直立位では目線の高さの前方を注視さ 3.調査項目. せ,体幹前屈・体幹後屈では中間位を保持させた。直立. 1)患者背景と周術期. 位は安楽姿勢をとらせ,体幹前屈位と体幹後屈位は,最. 患者背景として手術に至る疾患,New York Heart. 大努力にて行った。各肢位でスパイナルマウスを第 7 頸. Association 分類,合併症,ADL 状況を診療録より調査. 椎から第 3 仙椎の脊柱傍線上にあて,頭側から尾側へ測. した。. 定した。測定項目は各条件における仙骨傾斜角度(前傾. 周術期の情報として術式,手術時間,体外循環時間,出. が正,後傾が負) ,胸椎彎曲角度(前彎が負,後彎が正),. 血量,胸骨固定方法を診療録より調査した。胸骨固定には,. 腰椎彎曲角度(前彎が負,後彎が正),脊柱の全体傾斜. 糸はエチボンドエクセル(Johnson & Johnson 社製) ,ワ. 角(前傾が正,後傾が負)と直立位−体幹前屈位間・直. イヤーは横綱ワイヤー(松田医科工業株式会社製) ,胸骨. 立位−体幹後屈位間の仙骨傾斜可動域,胸椎可動域,腰. ピンはグランドフィックス(グンゼ株式会社) ,胸骨プレー. 椎可動域,脊柱の全体可動域を算出した。. 11) 12). トは SternaLock(BIOMET 社製,America). ,メッシュ. プレートはスーパーフィクソーブ MX(タキロン株式会社 13). 製). を使用した。また,術後測定時に胸郭周囲の疼痛. 3)統計処理 統計は脊柱アライメント・可動域の術前後を比較する 目的で対応のある t 検定を行った。また,疼痛強度との. 強度について Visual Analogue Scale を用いて聴取した。. 関係を調査する目的として脊柱アライメント・可動域の. 2)脊柱アライメント・脊柱可動域. 術前後の変化量と術後疼痛間で Spearman の順位相関係. 測定時期は術前を手術前 1 週間以内,術後を退院前に. 数を行った。. 設定した。対象者の術後測定時期は 19.9 ± 5.5 日であっ. 統計解析には SPSS statistics,version 23,IBM を用. た。脊柱計測にはスパイナルマウス(Idiag AG 社製,. い,有意水準は 5%とした。. Switzerland)を使用した。スパイナルマウスはX線と の比較による妥当性が報告されており. 14). ,検者内・検.
(3) 84. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 図 2 3 条件の測定肢位と脊柱の算出角度 脊柱アライメント 仙骨傾斜角(前傾が正,後傾が負):仙骨後面と垂直線の成す角度 胸椎彎曲角(前彎が負,後彎が正):Th1 ∼ 12 までの背部脊柱全体の彎曲 腰椎彎曲角(前彎が負,後彎が正):Th12 ∼ S1 までの腰部脊柱全体の彎曲 全体傾斜角(前傾が正,後傾が負):Th1 と S1 を結ぶ傾斜線と鉛直線がつくる角度 脊柱可動域 仙骨可動域(前傾が正,後傾が負):直立位から体幹前屈位または体幹後屈位の仙骨傾斜角の差 胸椎可動域(前彎が負,後彎が正):直立位から体幹前屈位または体幹後屈位の胸椎彎曲角の差 腰椎可動域(前彎が負,後彎が正):直立位から体幹前屈位または体幹後屈位の腰椎彎曲角の差 全体可動域(前傾が正,後傾が負):直立位から体幹前屈位または体幹後屈位の全体傾斜角の差. 結 果. 2)前屈位 胸椎彎曲角は術後有意に後彎が減少していた。仙骨傾. 1.対象者属性. 斜角・腰椎彎曲角・全体傾斜角に術後変化はみられな. 対象者属性を表 1 に示す。手術に至る疾患名は大動脈. かった。. 弁狭窄症 6 例,大動脈弁閉鎖不全症 9 例,僧帽弁狭窄症. 3)後屈位. 2 例,僧帽弁閉鎖不全症 13 例,三尖弁閉鎖不全症 12 例,. 胸椎彎曲角・全体傾斜角は術後それぞれ有意に後彎が. 冠動脈病変 6 例,心房細動 10 例,卵円孔開存 1 例,心. 増加・後傾が減少していた。仙骨傾斜角・腰椎彎曲角に. 室瘤 1 例で,術式は大動脈弁置換術 15 例,僧帽弁置換. 術後変化はみられなかった。. 術 7 例,僧帽弁形成術 7 例,三尖弁形成術 13 例,冠動 脈バイパス術 5 例,卵円孔直接閉鎖術 1 例,Maze 術 6 例,. 3.脊柱可動域. 肺静脈隔離 6 例であった。また,胸骨正中切開後の胸骨. スパイナルマウス計測による各条件における術前後の. 固定方法は,糸 2 例,ワイヤー 5 例,糸と胸骨ピン 7 例,. 数値を表 3 に示す。. ワイヤーと胸骨ピン 7 例,糸とプレート 1 例,ワイヤー. 1)直立位−体幹前屈位間. とメッシュプレート 5 例であった。. 胸椎可動域は術後有意に減少していた。仙骨傾斜可動 域・腰椎可動域・脊柱全体可動域に術後変化はみられな. 2.脊柱アライメント. かった。. スパイナルマウス計測による各条件における術前後の. 2)直立位−体幹後屈位間. 数値を表 2 に示す。. 胸椎可動域・脊柱全体可動域は両方とも術後有意に減. 1)直立位. 少していた。仙骨傾斜可動域・腰椎可動域に術後変化は. 胸椎彎曲角は術後有意に後彎が増加していた。仙骨傾. みられなかった。. 斜角・腰椎彎曲角・全体傾斜角に術後変化はみられな かった。.
(4) 胸骨正中切開による心外術後の脊柱アライメント・可動域の変化. 85. 表 1 対象者情報(n=27) 疾患名(例). 大動脈弁狭窄症 . 6 (22%). 大動脈弁閉鎖不全症 . 9 (33%). 僧帽弁狭窄症 . 術式(例). 合併症(例). 術前 New York Heart Association 分類(例). 術前 ADL 状況(例). 2 (7%). 僧帽弁閉鎖不全症 . 13 (48%). 三尖弁閉鎖不全症 . 12 (44%). 冠動脈病変 . 6 (22%). 心房細動. 10 (37%). 卵円孔開存. 1 (4%). 心室瘤. 1 (4%). 大動脈弁置換術. 15 (56%). 僧帽弁置換術. 7 (26%). 僧帽弁形成術. 7 (26%). 三尖弁形成術. 13 (48%). 冠動脈バイパス術. 5 (19%). 卵円孔直接閉鎖術. 1 (4%). Maze 術. 6 (22%). 肺静脈隔離. 6 (22%). 高血圧. 19 (70%). 高脂血症. 8 (30%). 糖尿病. 7 (26%). 慢性腎不全. 5 (19%). Ⅰ. 3 (11%). Ⅱ. 23 (85%). Ⅲ. 1 (4%). 自立. 27 (100%). 手術時間(分). 404.1 ± 106.5. 体外循環時間(分). 232.8 ± 77.9. 出血量(ml). 776.7 ± 913.3. 胸骨固定方法(例). 術後 Visual Analogue Scale(cm). 糸 . 2 (7%). ワイヤー . 5 (19%). 糸+胸骨ピン . 7 (26%). ワイヤー+胸骨ピン . 7 (26%). 糸+プレート . 1 (4%). ワイヤー+メッシュプレート. 5 (19%) 1.8 ± 2.2. 疾患名,術式,合併症,術前 New York Heart Association 分類,術前 ADL 状況,胸骨固定方法 は件数(割合)で表記 手術時間,体外循環時間,出血量,術後 Visual Analogue Scale は平均値±標準偏差で表記 疾患,術式,合併症は重複あり 体外循環時間は off pump Coronary Artery Bypass Grafting であった 1 名を除外. 4.脊柱アライメント・可動域と疼痛. のは脊柱アライメントの変化量では前屈時の全体傾斜角. 脊柱アライメントおよび可動域の術前後変化量と術後. の前傾減少(r = ‒ 0.4),脊柱可動域では直立位−体幹. 疼痛との相関係数を表 4 に示す。. 前屈位間の仙骨傾斜角の前傾可動域減少(r = ‒ 0.41),. 術後測定時の胸郭部疼痛強度と有意に相関が得られた. 全体傾斜角の前傾可動域減少(r = ‒ 0.46),直立位−体.
(5) 86. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 表 2 脊柱アライメントの術前と術後における対応のある t 検定の結果 術前. 術後. p値. 直立位 仙骨傾斜角(°). 3.1 ± 7.2. 2.4 ± 7.3. 0.48. 胸椎彎曲角(°). 40.2 ± 10.5. 42.4 ± 8.9. < 0.05. 腰椎彎曲角(°). ‒ 12.0 ± 13.1. ‒ 10.4 ± 13.6. 0.18. 3.1 ± 5.3. 3.7 ± 5.8. 0.23. 仙骨傾斜角(°). 62.1 ± 21.3. 64.9 ± 18.2. 0.43. 胸椎彎曲角(°). 53.7 ± 11.5. 49.1 ± 10.2. < 0.01. 全体傾斜角(°) 前屈位. 腰椎彎曲角(°). 29.3 ± 15.7. 31.0 ± 13.6. 0.29. 全体傾斜角(°). 100.3 ± 20.6. 103.6 ± 16.6. 0.39 0.37. 後屈位 仙骨傾斜角(°). ‒ 17.1 ± 13.4. ‒ 16.2 ± 11.9. 0.58. 胸椎彎曲角(°). 34.7 ± 15.7. 40.9 ± 11.6. < 0.01. 腰椎彎曲角(°). ‒ 17.3 ± 14.5. ‒ 15.1 ± 15.2. 0.16. 全体傾斜角(°). ‒ 23.1 ± 13.1. ‒ 18.6 ± 11.9. < 0.05. 仙骨傾斜角,胸椎彎曲角,腰椎彎曲角,全体傾斜角は平均値±標準偏差で表記. 表 3 脊柱可動域の術前と術後における対応のある t 検定の結果 p値. 術前. 術後. 仙骨可動域(°). 58.9 ± 19.4. 62.4 ± 16.4. 0.36. 胸椎可動域(°). 13.4 ± 10.0. 6.6 ± 8.2. < 0.01. 腰椎可動域(°). 41.4 ± 13.8. 41.4 ± 10.0. 0.98. 全体可動域(°). 97.3 ± 24.0. 100.0 ± 19.6. 0.49. 仙骨可動域(°). ‒ 20.5 ± 10.9. ‒ 18.4 ± 11.4. 0.27. 胸椎可動域(°). ‒ 5.6 ± 12.1. ‒ 1.4 ± 7.8. < 0.05. 腰椎可動域(°). ‒ 5.3 ± 5.7. ‒ 4.7 ± 6.3. 0.7. 全体可動域(°). ‒ 26.2 ± 9.5. ‒ 22.4 ± 9.0. < 0.05. 直立位−体幹前屈位間. 直立位−体幹後屈位間. 仙骨可動域,胸椎可動域,腰椎可動域,全体可動域は平均値±標準偏差で表記. 幹後屈位間の腰椎の前彎可動域減少(r = 0.41)であった。. 骨操作前の可動域と同等までは改善しないと報告してい る。しかし,これらの研究では周辺の筋肉や軟部組織を. 考 察. 取り除くことにより,影響を除外してしまっている。. 胸骨切開が胸椎の可動域に与える影響についてはこれ. 今回の結果から脊柱アライメントでは直立位で胸椎彎. までに生体外での調査が中心に行われてきた。Mannen. 曲角,前屈位で胸椎彎曲角,後屈位で胸椎彎曲角・全体. 8). は胸骨標本を用いて胸骨切開時. 傾斜角にそれぞれ低下がみられた。また,脊柱可動域で. や胸骨を取り除いた際の胸椎可動域の変化について調査. は直立位−体幹前屈位間で胸椎可動域,直立位−体幹後. し,胸骨操作は胸郭の安定性を破綻させるため胸椎可動. 屈位間で胸椎可動域・脊柱全体可動域にそれぞれ低下が. ら. や Brasiliense ら. 9). 域が増加することを報告している。さらに Liebsch ら. 17). みられた。すべての項目の胸椎角度と後屈動作時の全体. は胸骨操作前,胸骨正中切開後,胸骨ワイヤー締結後の. 傾斜角に変化が見られており,先行研究とは反対に動き. 胸椎可動域について調査し,胸骨正中切開後の胸椎可動. が低下するという新たな知見を得た。. 域の増加はワイヤー締結を行うことで軽減できるが,胸. 各条件において低下がみられた原因としてまず術後疼.
(6) 胸骨正中切開による心外術後の脊柱アライメント・可動域の変化. 87. 表 4 脊柱アライメントおよび可動域の術前後変化量と術後疼痛との Spearman の順位相関係数 脊柱アライメント. p値. 相関係数. 脊柱可動域. 直立位. 相関係数. p値. < 0.05. 直立位−体幹前屈位間. 仙骨傾斜角(°). 0.13. 0.53. 仙骨可動域(°). ‒ 0.41. 胸椎彎曲角(°). ‒ 0.04. 0.84. 胸椎可動域(°). 0.02. 腰椎彎曲角(°). ‒ 0.07. 0.72. 腰椎可動域(°). ‒ 0.25. 0.21. 全体傾斜角(°). 0.15. 0.51. 全体可動域(°). ‒ 0.46. < 0.05. 前屈位. 0.9. 直立位−体幹後屈位間. 仙骨傾斜角(°). ‒ 0.22. 0.26. 仙骨可動域(°). ‒ 0.06. 0.76. 胸椎彎曲角(°). ‒ 0.13. 0.52. 胸椎可動域(°). ‒ 0.02. 0.93. 腰椎彎曲角(°). ‒ 0.38. 0.05. 腰椎可動域(°). 0.41. < 0.05. 全体傾斜角(°). ‒ 0.4. < 0.05. 全体可動域(°). 0.27. 0.17. 後屈位 仙骨傾斜角(°). 0.07. 0.75. 胸椎彎曲角(°). ‒ 0.07. 0.74. 腰椎彎曲角(°). 0.35. 0.08. 全体傾斜角(°). 0.28. 0.16. 痛による影響が挙げられる。術後疼痛は胸骨正中切開で 18)19). も大きいと考えられる。Mueller. 20). や黛ら 21)は術後に. 。術後. 創部の疼痛が軽減後,肩や背部の疼痛を訴える者が多い. 3 日目に疼痛強度が最大となり,術後 5 日で発生率が最. ことも報告しており,開胸に伴う関節負荷からくる疼痛. 手術を受けた患者の 70 ∼ 80%が経験する. 大,2 週間後にはほぼ改善すると報告されている. 20)21). 。. である可能性を述べている。. 術後疼痛による交感神経活動亢進は,心筋酸素需要を増. さらに考慮すべき要因として術後の胸帯の使用による. 加,心筋酸素供給を低下させる。それによる合併症によ. 影響がある。本国において胸骨正中切開術後は創部の保. 22). 。また,10 ∼ 30%が. 護を目的として胸帯を使用することが多い。当院でも術. 12 ヵ月以上継続する慢性疼痛となるとも報告されてお. 後創部の疼痛を訴える者には可動時に胸帯の使用を指導. り離床が遅延する可能性がある り. 19)23)24). ,身体の動きに与える影響は大きいと考えら. している。胸帯は本来胸骨や肋骨骨折の際に使用され,. れる。今回の調査で疼痛と脊柱アライメント・可動域に. 胸郭の可動域を抑えることによって疼痛を抑制する効果. は中等度の相関が得られたことから疼痛が脊柱へ影響を. があるが胸骨正中切開後に使用することの利点に関する. 及ぼしていると考えられる。さらに,術後は疼痛により. 報告は少ない。心大血管リハビリテーションガイドライ. 周辺筋の過緊張や逃避性の動作,心因的要素が残存して. ン. いることも考えられる。特に後屈の動作では前面部にあ. 胸郭運動を制限することは運動耐容能の回復の妨げ,合. る創部への心因的要素の影響がでやすいと考えられ,測. 併症の発生を助長する可能性があると記されている。ま. 定時の疼痛の強度だけでなく経時的変化や部位について. た,矢部ら. も考慮する必要がある。. で安静時・運動時ともに呼吸機能が低下すると報告して. 胸骨正中切開患者において疼痛が発生する要因とし. いる。. て,術操作による胸郭へのストレスが挙げられる。胸骨. 特定部位の脊柱アライメント・可動域が低下すること. 正中切開では胸骨を縦方向へ切開した後に開胸器で左右. で周辺関節への負担は増加する。今回の結果から術前後. 方向へ開いて視野を確保する。つまり開胸術は胸骨切開. で低下はみられたが,増加した部位はなく,低下した彎. による影響だけでなく,切開した胸骨を左右に開くこと. 曲・可動域は特定の部位でなく周辺関節で負荷を分散し. による負荷も加わる。開胸に伴う合併症としては肋骨骨. ている可能性や代償方法が個々により異なる可能性が考. 4). 10). においても正当な理由なくして胸帯の使用により. 25). は胸帯の利用が胸郭の拡張を妨げること. 。開胸. えられた。関節負荷の増加は疼痛や変形へとつながる可. 器にて胸骨を開く際は肋骨の柔軟性によって脊柱との連. 能性があり,胸郭周囲の疼痛軽減により脊柱アライメン. 結を保つが,肋骨には強い負荷がかかっており,骨折を. ト・可動域が改善するかを調査していく必要がある。. 呈することがある。このことから開胸は胸郭に強い負荷. 本研究の限界として①胸骨正中切開による胸郭への負. をかける方法であり,胸肋関節・肋椎関節にかかる負担. 荷が個々で異なること,②胸骨固定方法により強度が異. 折とそれに伴う腕神経叢麻痺が報告されている.
(7) 88. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. なること,③術後の肢位による影響があること,④胸帯. 心臓外科の國友先生,吉永先生,柘植先生,診療技術部. の使用に個人差があること,⑤脊柱アライメント・可動. リハビリテーション室スタッフに深く感謝いたします。. 域が個々で異なることが挙げられる。 ①胸骨正中切開法は手術における視野を確保する目的 で行うため,手術内容や心臓の状態により開胸器で左右 へ広げる大きさが異なる。そのため,開胸に伴う胸郭へ の負荷量の個々の違いを検討していく必要がある。 ②今回対象とした患者は表 1 に示したように活動性や 胸骨の骨強度により複数の方法で術後胸骨固定方法を変 更している。固定方法により胸骨の固定力が異なり,胸 郭の安定性も異なると考えられる。 ③術後は点滴や機器類の使用,疼痛のため自己での体 位交換の範囲が制限されてしまう。また,術後は排痰時 の疼痛を避けるため肩甲骨が挙上位にあり,主動作筋で ある僧帽筋,菱形筋,肩甲挙筋といった背部の筋の過緊 張を招くことがある. 26). 。これらの影響は点滴や機器が. 外れるまでの期間やその後の活動量,術後の排痰量の差 を調査する必要がある。 ④前述したように胸帯の使用に関しては正当な理由な くして積極的には勧められないため,術後疼痛を継続し て訴える者に限定して使用している。そのため,胸帯の 使用時間にはばらつきがあり,使用状況を調査する必要 がある。使用方法に関しても圧迫力は適度な圧迫を加え るよう指導しているが,個々の使用感による影響が強く 適切な圧迫力に統制できていないことが挙げられる。 ⑤脊柱のアライメントおよび可動域は,年齢・性別・ 体格によっても異なる。本研究では,基礎的な検討とし て t 検定を用いて平均値の比較を行ったため,個々の違 いによる影響を考慮できていない。n 数を増やしていく とともに対象者の選抜や統計の方法を検討する必要が ある。 今後は課題として挙げた点を調査していくとともに低 下した脊柱のアライメント・可動域が胸骨の癒合期間を 経て,長期的にどのように変化していくかを調べていく 必要があると考えている。 結 論 胸骨正中切開は術後に胸椎を中心に脊柱のアライメン トや可動域を変化させると考えられた。脊柱アライメン トでは直立位で胸椎後彎の増強,前屈位で胸椎後彎の減 少,後屈位で胸椎後彎の増強と全体傾斜角の減少が認め られた。脊柱可動域では前後屈ともに胸椎の可動域は低 下し,後屈動作における全体傾斜域の減少が認められた。 利益相反 本研究において開示すべき利益相反はない。 謝辞:本研究にご協力いただいた国際医療福祉大学病院. 文 献 1)一般社団法人日本循環器学会ホームページ 循環器疾患 診 療 実 態 調 査 報 告 書 2016 年 度.http://www.j-circ.or.jp/ jittai_chosa/#tensai(2017 年 4 月 25 日引用) 2)Okutan H, Tenekeci C, et al.: The reinforced sternal closure system is reliable to use in elderly patients. J Card Surg. 2005; 20: 271‒273. 3)Losanoff JE, Richman BW, et al.: Disruption and infection of median sternotomy: a comprehensive review. Eur J Cardiothorac Surg. 2002; 21: 831‒839. 4)Dubert M, Pourbaix A, et al.: Sternal Wound Infection after Cardiac Surgery Management and Outcome. PLOS ONE. 2015; 10: e0139122. 5)Curtis JA, Libshitz HI, et al.: Fracture of the first rib as a complication of midline sternotomy. Radiology. 1987; 115: 63‒65. 6)Andriacchi T, Schultz A, et al.: A model for studies of mechanical interactions between the human spine and rib cage. J Biomech. 1974; 7: 497‒507. 7)織田 格,鐙 邦芳,他:胸椎安定性における後方要素, 肋椎関節,および胸郭の役割─生体力学的実験─.日本臨 床バイオメカニクス.1995; 16: 267‒272. 8)Mannen EM, Anderson JT, et al.: Mechanical Contribution of the Rib Cage in the Human Cadaveric Thoracic Spine. Spine. 2015; 40: E760‒E766. 9)Brasiliense LB, Lazaro BC, et al.: Biomechanical Contribution of the Rib Cage to Thoracic Stability. Spine. 2011; 36: E1686‒E1693. 10)一般社団法人日本循環器学会ホームページ:心大血管リ ハビリテーションガイドライン 2012 年改訂版.http:// www.j-circ.or.jp/guideline/(2017 年 4 月 25 日引用) 11)Hendrickson SC, Koger KE, et al.: Sternal plating for the treatment of sternal nonunion. Ann Thorac Surg. 1996; 62: 512‒518. 12)Chou SS, Sena MJ, et al.: Use of SternaLock Plating System in Acute Treatment of Unstable Traumatic Sternal Fractures. Ann Thorac Surg. 2011; 91: 597‒599. 13)阪下裕司,泉谷裕則:胸骨正中切開後の胸骨固定におけ る Super FIXSORB(R) MX40 の使用方法.心臓.2016; 48: 730‒734. 14)杉野伸冶,松尾礼美,他:矢状面レントゲン画像との比較 によるスパイナルマウスの妥当性の検証.ヘルスプロモー ション理学療法研究.2013; 3: 123‒127. 15)Mannion AF, Knecht K, et al.: A new skin-surface device for measuring the curvature and global and segmental ranges of motion of the spine: reliability of measurements and comparison with data reviewed from the literature. Eur Spine J. 2004; 13: 122‒136. 16)Kellis E, Adamou G, et al.: Reliability of spinal range of motion in healthy boys using a skin-surface device. J Manipulative Physiol Ther. 2008; 31: 570‒576. 17)Liebsch C, Graf N, et al.: Wire cerclage can restore the stability of the thoracic spine after median sternotomy: an in vitro study with entire rib cage specimens. Eur Spine J. 2017; 26: 1401‒1407. 18)Apfelbaum JL, Chen C, et al.: Postoperative pain experience: results from a national survey suggest postoperative pain continues to be undermanaged. Anesth Analg. 2003; 97: 534‒540. 19)Lahtinen P, Kokki H, et al.: Pain after Cardiac Surgery: A Prospective Cohort Study of 1-Year Incidence and.
(8) 胸骨正中切開による心外術後の脊柱アライメント・可動域の変化 Intensity. Anesthesiology. 2006; 105: 794‒800. 20)Mueller XM, Tinguely F, et al.: Pain location, distribution, and intensity after cardiac surgery. Chest. 2000; 118: 391‒396. 21)黛江里子,石井典子,他:胸骨正中切開後の痛みに関する 実態調査─第 2 報─.心臓リハビリテーション.2005; 10: 75‒78. 22)Liu S, Carpenter RL, et al.: Epidural anesthesia and analgesia. Their role in postoperative outcome. Anesthesiology. 1995; 82: 1474‒1506. 23)Kalso E, Mennander S, et al.: Chronic post-sternotomy. pain. Acta Anaesthesiol Scand. 2001; 45: 935‒939. 24)Jensen MK, Andersen C: Can chronic poststernotomy pain after cardiac valve replacement be reduced using thoracic epidural analgesia? Acta Anaesthesiol Scand. 2004; 48: 871‒874. 25)矢部恭代,丸山仁美,他:胸帯が肺活量検査および心肺運 動負荷試験へ与える影響.心臓リハビリテーション.2009; 14: 193‒195. 26)宮城さやか,藤崎浩行,他:開心術後の肩関節・肩甲骨周 囲の疼痛へのアプローチ.心臓リハビリテーション.2006; 11: 307‒310.. 〈Abstract〉. Alteration of Spinal Column Alignment and Mobility after Cardiac Surgery by Median Sternotomy. Akihiro ITO, PT, MSc Department of Physical Therapy, Faculty of Health Science, lnternational University of Health and Welfare Akihiro ITO, PT, MSc, Hiroshi IRIE, PT, PhD, Kiyoshi UEDA, PT Department Rehabilitation, International University of Health and Welfare Hospital Akihiro ITO, PT, MSc Division of Physical Therapy, Doctoral Program in Health Sciences, Graduate School of Health and Welfare Sciences, International University of Health and Welfare Graduate School Saki WATANABE, PT Nishinasuno Maronie Visiting Nursing Station. Purpose: The aim of this study investigated the effect of median sternotomy, which is routinely used during cardiac surgery, on postoperative spinal column alignment and range of motion. Methods: Twenty-seven patients who underwent scheduled surgery on the median sternotomy incision were included. Spinal alignment and range of motion were measured using three conditions: spinal mouse (Idiag AG, Switzerland), upright position, trunk anterior flexion position, trunk posterior flexion position. I also interviewed the rib cage pain during postoperative measurement. Statistics were compared between preoperative and postoperative using t-test with corresponding spinal column items and the relation between spinal column and pain was investigated using Spearman’s rank correlation coefficient. Results: In the spinal column alignment, the posterior flexion was enhanced in the upright position and the posterior flexion, the posterior flexion decreased the thoracic dorsal curvature. The range of movement of the thoracic region decreased in both the vertical position-the anterior tilt position and the upright position-the posterior trunk position. There was a significant correlation between spinal alignment / range of motion and pain. Conclusions: It was suggested that the median sternotomy could alter thoracic alignment and mobility after surgery. Key Words: Cardiac surgery postoperative, Spine, Pain. 89.
(9)
関連したドキュメント
Hiroyuki Furukawa*2, Hitoshi Tsukamoto3, Masahiro Kuga3, Fumito Tuchiya4, Masaomi Kimura5, Noriko Ohkura5 and Ken-ichi Miyamoto2 Centerfor Clinical Trial
学生部と保健管理センターは,1月13日に,医療技術短 期大学部 (鶴間) で本年も,エイズとその感染予防に関す
人間社会学域 College of Human and Social Sciences 理工学域. 医薬保健学域 College of Medical,Pharmaceutical and
医薬保健学域 College of Medical,Pharmaceutical and Health Sciences 医学類
金沢大学学際科学実験センター アイソトープ総合研究施設 千葉大学大学院医学研究院
⑹外国の⼤学その他の外国の学校(その教育研究活動等の総合的な状況について、当該外国の政府又は関
東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上