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第一章はじめに行政行為(行政処分)は たとえ違法であったとしても 取消訴訟を通じて取消されない限り有効であり続け(1 )る 行政行為の特殊な効力としての 公定力 あるいは 取消訴訟(を含む抗告訴訟)に 排他的管轄 (行政事件訴訟法[以下 行訴法 ]三条)が認められること 取消訴訟(厳密には抗告訴訟)

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(1)

行政執行と遮断効 : 行政上の義務の司法的執行問

題を手掛りに (加藤秀治郎教授退職記念号)

著者

高木 英行

雑誌名

東洋法学

58

3

ページ

1-42

発行年

2015-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007002/

(2)

第一章   はじめに   行 政 行 為 (行 政 処 分) は、 た と え 違 法 で あ っ た と し て も、 取 消 訴 訟 を 通 じ て 取 消 さ れ な い 限 り 有 効 で あ り 続 け ( 1 ) る 。 行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 と し て の「公 定 力」 、 あ る い は、 取 消 訴 訟 (を 含 む 抗 告 訴 訟) に「排 他 的 管 轄」 (行 政 事 件 訴 訟 法[以 下「行 訴 法」 ] 三 条) が 認 め ら れ る こ と ―― 取 消 訴 訟 (厳 密 に は 抗 告 訴 訟) の 排 他 的 管 2 ) 轄 ―― の 制 度 的 な 効 果 と し て 説 明 さ れ 3 ) る 。 た だ し 行 政 行 為 に「重 大 か つ 明 白 な」 瑕 疵 が あ る (= 無 効 の 瑕 疵 が あ る) 場 合 に は、 公 定 力 (取消訴訟の排他的管轄) は認められない (最判昭和三〇年一二月二六日:民集九巻一四号二〇七〇頁 ( 4 ) 等) 。   他 方 で、 行 政 行 為 に よ り 課 さ れ た 義 務 を 市 民 が 自 発 的 に 履 行 し な い 場 合、 行 政 主 体 (国 や 地 方 公 共 団 体 等) は、 裁 判 所 に よ り 出 さ れ る 確 定 判 決 等 の「債 務 名 義」 (民 事 執 行 法 二 二 条) に 依 拠 す る こ と な く、 自 ら の 権 限 で も っ て 強 制 執 行 し う 5 ) る 。 伝 統 的 に 行 政 行 為 の「 (自 力) 執 行 力」 と 説 明 さ れ て き た が、 今 日 で は、 行 政 代 執 行 法 や 国 税 徴 収 《 論    説 》

行政執行と遮断効

――

行政上の義務の司法的執行問題を手掛りに

 

  

 

(3)

法等の、 「行政上の強制執行」 (以下「行政執行」 ) を認める実定法規に由来する制度的な効果として説明され ( 6 ) る 。   伝 統 的 に 公 定 力 や 執 行 力 (以 下「両 特 殊 な 効 力」 ) は、 「法 律 行 為」 と は 異 な っ た「行 政 行 為」 の「権 力 性」 を 示 す 性 質 と し て 議 論 さ れ て き 7 ) た 。 本 稿 は、 こ れ ら 両 特 殊 な 効 力 の 性 質 論 に 関 し 8 ) て 、 行 政 主 体 が 行 政 執 行 (自 力 執 行) で は な く、 司 法 的 執 行 (民 事 訴 訟 → 民 事 執 行。 以 下「義 務 履 行 確 保 訴 訟」 ) に 依 拠 す る こ と が 適 法 か 否 か と い う 問 題 を 素材に再考していきたい。そして本稿の目標は、両特殊な効力論が交錯するこの義務履行確保訴訟問 ( 9 ) 題 の検討を手 掛りとして、 「行政行為の権力性」ではなく、 「行政行為の遮断効」という観点からの、両特殊な効力の統合的理解 の余地を確認することにあ ( 10 ) る 。   以下第二章では、義務履行確保訴訟問題をめぐる議論動向を確認し、同問題の構成を明らかにする。第三章では 同問題と執行力、第四章では同問題と公定力というように、それぞれ検討を進める。第五章では本稿の考察結果を 整理し、今後の研究課題を指摘する。 第二章   義務履行確保訴訟   本章第一節・第二節では、行政主体が原告となり相手方市民を被告に、行政上の義務の履行を確保するために提 起 さ れ る 民 事 訴 訟、 す な わ ち「義 務 履 行 確 保 訴 訟 ( 11 ) 」 に 関 し て、 「法 律 上 の 争 訟」 性 を 欠 く こ と を 理 由 に「不 適 法」 と 判 断 し た 宝 塚 市 パ チ ン コ 店 規 制 条 例 事 件 (最 判 平 成 一 四 年 七 月 九 日 民 集 五 六 巻 六 号 一 一 三 四 頁、 以 下 一 四 年 最 判) に ついて、その問題の所在を確認す ( 12 ) る 。つぎに第三節・第四節では、一四年最判で「法律上の争訟」問題と並び論点 と な っ て い た、 「行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄」 問 題 を 取 り 上 げ、 そ の 射 程 範 囲 を め ぐ る 議 論 を 紹 介 す る と と も に、 そ の問題構成を明らかにする。そして第五節では、次章での考察方針を示す。

(4)

第一節   宝塚市パチンコ店規制条例事件   本件は、条例違反のパチンコ店建築につき工事中止命令が出されたのに、事業者が工事を続行したため、市が事 業者相手に建築続行禁止を求めて民事訴訟を提起した事案である。最高裁は、以下の理由から原告の訴えを不適法 とした。まず一般論として、次の二区分論を提示する。行政主体が「財産権の主体として自己の財産上の権利利益 の 保 護 救 済 を 求 め る よ う な」 訴 訟 (以 下「財 産 義 務 履 行 確 保 訴 13 ) 訟」 ) は、 「法 律 上 の 争 訟」 (裁 判 所 法 三 条) に 当 た る の に 対 し、 行 政 主 体 が「専 ら 行 政 権 の 主 体 と し て 国 民 に 対 し て 行 政 上 の 義 務 の 履 行 を 求 め る 訴 訟」 (以 下「行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟」 ) は、 「法 規 の 適 用 の 適 正 な い し 一 般 公 益 の 保 護 を 目 的 と す る も の で あ っ て、 自 己 の 権 利 利 益 の 保 護 救 済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではな く、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許される」 。   そ の 上 で 一 四 年 最 判 は、 行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 定 め る「特 別 の 規 定」 の 有 無 に つ い て 検 討 す る。 「行 政 代 執 行 法は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるものと 規 定 し て (一 条) 、 同 法 が 行 政 上 の 義 務 の 履 行 に 関 す る 一 般 法 で あ る こ と を 明 ら か に し た 上 で、 そ の 具 体 的 な 方 法 と し て は、 同 法 二 条 の 規 定 に よ る 代 執 行 の み を 認 め て い る。 」 ま た 行 訴 法 そ の 他 の 法 律 に も、 一 般 に 行 政 義 務 履 行 確保訴訟の提起を認める「特別の規定」もない。   か く し て 一 四 年 最 判 は、 行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 に 関 し て、 「法 律 上 の 争 訟」 に 当 た ら ず、 ま た こ れ を 認 め る 特 別 の規定もないとして不適法とする。また以上の一般論を踏まえ、一四年最判は、原告宝塚市の訴えが行政義務履行 確保訴訟に当たるとともに、本件義務が原告の「財産的権利に由来するものであるという事情も認められない」の で、 「法律上の争訟」に当たらず不適法として、訴えを却下すべきと判示した。

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第二節   二つの論点   前 節 の よ う に 一 四 年 最 判 は、 行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟「不 適 法」 、 財 産 義 務 履 行 確 保 訴 訟「適 法」 と の 二 区 分 論 を 提示する一方、行政義務履行確保訴訟であっても「財産的権利に由来する」ものであれば、適法と解しうる余地を も 示 唆 す 14 ) る 。 た だ し 本 稿 で は、 考 察 主 題 と の 関 連 で、 こ の 二 区 分 (+ α) 論 に つ い て は、 そ の 妥 当 性 も 含 め 考 察 す る つ も り は な 15 ) い 。 以 下 本 稿 で は、 「財 産 的 権 利 に 由 来 す る」 行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 に 関 し て も、 広 い 意 味 で の「財 産義務履行確保訴訟」に含まれるとした上で、上記二区分論を論ずる。   ともあれ一四年最判では、特別の法規定がない限り、法律上の争訟に該当しなければ裁判を提起できないという (あ) 「法 律 上 の 争 訟」 の 論 点 (裁 判 所 法 三 条) と、 特 別 の 法 規 定 が な い 限 り、 行 政 上 の 義 務 履 行 確 保 は 行 政 代 執 行 の み に 限 ら れ る と い う(い) 「行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄」 の 論 点 (行 政 代 執 行 法 一 条) と が“融 合” さ れ て 論 じ ら れ てい ( 16 ) る 。   ひ る が え っ て、 一 四 年 最 判 以 前 の 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を め ぐ る 議 論 は、 (い) の 論 点 を 中 心 に 蓄 積 し て き 17 ) た 。 し か し一四年最判が(あ)の論点を前面に押し出したことから、一四年最判以降もっぱらこの論点を中心に議論が展開 し、その反作用として(い)の論点が十分に議論されてきていないようにも思われる。さらに本稿の問題関心が行 政行為の執行力の性質の再検討にあり、この関連で(い)の論点に関しあらためて注目する必要性があることをも 踏まえて、以下この論点を掘り下げて検討していく。 第三節   「排他的管轄」の射程範囲   行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄 と 言 っ て も、 そ も そ も そ の 射 程 範 囲 を い か に 理 解 す る か で 議 論 の 対 立 が あ 18 ) る 。 例 え ば

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一四年最判の調査官解説において、福井章 ( 19 ) 代 氏は、戦前の「行政執行法」時代に行政義務履行確保訴訟が許されな いと解されていたこと、また戦後の「行政代執行法」制定当時、行政上の義務履行確保の一般的手段は「代執行」 に限り認められ、個別法上特段の定めのない行政上の義務については、行政罰により間接的に履行を担保するほか は、強制的な義務内容の実現を認めない趣旨と解されていたことを指摘する。   これに対し曽和俊 ( 20 ) 文 氏は、一四年最判のように、行政代執行法一条を根拠に司法的執行を否定する議論は「的外 れ」と批判する。というのも「行政代執行法一条の規定はもともと行政上の強制執行制度に関する一般法として制 定 さ れ て い る (こ の 点 は 前 身 で あ る 行 政 執 行 法 と 同 様 で あ る) 」 の で あ っ て、 こ の 規 定 で も っ て「 『別 に 法 律 で 定 め る も の』 と し て 想 定 さ れ て い る の は 執 行 罰 や 直 接 強 制 な ど の 行 政 上 の 強 制 執 行 手 段」 で あ り、 「司 法 的 執 行 の 可 否 は そもそも行政代執行法の守備範囲外」なのであって、 「行政代執行法の関与するところではない。 」からであ ( 21 ) る 。   福 井 説 が、 「行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄」 の 射 程 範 囲 を、 司 法 的 執 行 (行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟) と の 関 連 で“広 く” 捉 え る の に 対 し、 曽 和 説 は、 そ の 範 囲 を、 行 政 上 の 強 制 執 行 の 種 類 (代 執 行・ 直 接 強 制・ 執 行 罰) と の 関 連 で“狭 く”捉え ( 22 ) る 。ともあれ曽和説も、前提としては認めるように、一四年最判の採用する理解は、福井説と解するのが 妥当であろう。 第四節   「排他的管轄」の問題構成   第一節で確認した一四年最判の二区分論、ならびに、第二節で同じく確認した一四年最判の「排他的管轄の射程 範囲」理解を踏まえると、排他的管轄問題をめぐっては、次の(ア) (イ)の二つの類型が想定しうる。 (ア)一四 年 最 判 に も か か わ ら ず、 「行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟」 が 法 律 上 の 争 訟 と 解 す る 場 合 で あ っ て も、 別 途「行 政 代 執 行」

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の 排 他 的 管 轄 が 適 用 さ れ、 そ れ と 抵 触 す る 行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 が 不 適 法 と な る の か 否 23 ) か と い う 問 24 ) 題 。(イ) 一 四 年最判において「法律上の争訟」とされた「財産義務履行確保訴訟」の場合であっても、別途「強制徴収」の排他 的管轄が適用され、それと抵触する財産義務履行確保訴訟が不適法となるのか否かという問 ( 25 ) 題 。   も ち ろ ん、 《行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟》 と《行 政 代 執 行》 と の 間、 ま た《財 産 義 務 履 行 確 保 訴 訟》 と《強 制 徴 収》 との間で、それぞれ論理必然的に“一対一”で問題が構成されるというわけではな ( 26 ) い 。もっとも本稿では、問題の 所 在 を 明 ら か に す る 観 点 か ら、 あ え て か く の ご と く 一 対 一 に 結 び つ け て (そ の 限 り で は 想 定 さ れ る 問 題 類 型 を 限 定 し て) 議論していく。   さ ら に(ア) (イ) そ れ ぞ れ の 場 合 に 結 論 を 下 す に 当 た っ て は、 行 政 代 執 行 に せ よ 強 制 徴 収 に せ よ、 排 他 的 管 轄 が 問 わ れ て い る 際 に、 そ れ ら の 行 政 執 行 (自 力 執 行) が、 (a) 十 分 に 使 え る 状 況 (法 律 上 定 め ら れ て い る こ と を も 含 む) に あ る か、 そ れ と も、 (b) 十 分 に 使 え な い 状 況 (法 律 上 定 め ら れ て い な い こ と を も 含 む) に あ る か と い う 問 題 状 況 の 差 異 に つ い て も 考 慮 せ ね ば な ら な 27 ) い 。 も ち ろ ん 突 き つ め る な ら、 “行 政 執 行 が 十 分 に 使 え る か 否 か” と い う (a) (b)の区別も質的なものではなく、量的なものに過ぎない。しかしやはり本稿では、問題の所在を明らかに する観点を重視し、両者を画然と区別して議論していくこととする。 第五節   小括   以上のことから、次章では、 (ア) (イ)という形で構成した二つの問題類型 モデル 0 0 0 と、 (a) (b)という形で構 成 し た 二 つ の 問 題 状 況 モ デ ル 0 0 0 と を 交 錯 さ せ (し た が っ て 四 つ の 組 み 合 わ せ が で き る) 、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 問 題 に 関 し て、 (法 律 上 の 争 訟 の 観 点 を さ し あ た り 措 い た 上 で) 排 他 的 管 轄 の 観 点 か ら の 考 察 を 進 め る。 ま た こ の 点 と 関 連 し て、

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排 他 的 管 轄 が“行 政 代 執 行” の み な ら ず、 “強 制 徴 収” に 関 し て も 問 題 と な り う る こ と か ら、 以 下 本 稿 の 用 語 法 と して、 「行政代執行の排他的管轄」と「強制徴収の排他的管轄」の上位概念として、 『行政執行の排他的管轄』とい 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 う概念を用いる 0 0 0 0 0 0 0 。 第三章   義務履行確保訴訟と執行力   前章最後に示した考察方針に基づき、本章第一節では、行政代執行の排他的管轄をめぐる判例学説の展開を検討 す る。 第 二 節 で は、 排 他 的 管 轄 論 が“強 制 徴 収” に 関 し て も 問 題 と な り う る こ と を、 「バ イ パ ス 理 論」 を め ぐ る 判 例 学 説 の 展 開 に 即 し て 明 ら か に す る。 さ ら に 第 三 節 で は、 「行 政 執 行 の 排 他 的 管 轄」 と い う 上 位 概 念 か ら、 学 説 展 開 を 掘 り 下 げ て 検 討 す る。 そ し て 第 四 節 で は、 以 上 の 考 察 結 果 を 踏 ま え つ つ、 「行 政 執 行 の 排 他 的 管 轄」 概 念 に 関 して、伝統的な「行政行為の執行力」概念との関係を考察していく。 第一節   行政代執行の排他的管轄   裁 判 例 か ら み よ う。 (ア a) の 場 合、 例 え ば 岐 阜 地 判 昭 和 四 四 年 一 一 月 二 七 日 (判 時 六 〇 〇 号 一 〇 〇 28 ) 頁) は、 国 が、河川区域内で不法な砂利採取をした事業者に対して、河川法による原状回復命令を出した後、その命令の履行 を求める訴訟を提起した事案である。裁判所は、河川「法には何ら強制執行の規定がない以上、非常の場合の救済 手段である行政代執行法による代執行によらないで、裁判所にこれが履行を求める訴を提起することも許される」 として、本訴を「適法」とした (請求も認容している) 。   つ い で 富 山 地 決 平 成 二 年 六 月 五 日 (訟 月 三 七 巻 一 号 一 頁) は、 河 川 区 域 で の 不 法 な 土 石 採 取 に 関 わ る 原 状 回 復 命

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令を履行させるための仮処分申請が認容された事例であ ( 29 ) る 。かえりみて先の岐阜地判昭和四四年は、行政代執行を 「非 常 の 場 合 の 救 済 手 段」 と 断 定 す る ほ か、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 の 許 容 性 を 裏 付 け る 明 確 な 理 由 を 示 し て い な か っ た と こ 30 ) ろ 、 こ の 富 山 地 決 平 成 二 年 は、 「民 事 上 の 手 続 に よ る こ と が 債 務 者 に 対 し 特 に 不 利 益 を 与 え る も の と は い え な い し、 行 政 代 執 行 法 も こ れ を 許 さ な い 趣 旨 で あ る と は 解 さ れ な い」 と の 理 由 を 示 31 ) す 。 と も あ れ い ず れ の 裁 判 例 と も、 行 政 代 執 行 が 十 分 に 使 え る 問 題 状 況 の も と 32 ) で 、 行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄 が 否 定 (行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 が 肯 定) された事例であ ( 33 ) る 。   以 上 に 対 し(ア b) の 場 合、 例 え ば 大 阪 高 決 昭 和 六 〇 年 一 一 月 二 五 日 (判 時 一 一 八 九 号 三 九 頁) は、 一 四 年 最 判 同様、パチンコ店規制条例に基づく建築中止命令に違反した事業者に対し、伊丹市が建築続行禁止の仮処分を申請 し、それが認められた事例であ ( 34 ) る 。本判決では、本件命令を適法とし、かつ、相手方事業者がこの命令に従う行政 上の義務があることを認めるのだが、その前提として、次のように、一般論として、行政代執行の排他的管轄を否 定し、行政義務履行確保訴訟とそれに伴う仮処分申請を適法と判断する。   「本 件 条 例 に は、 建 築 中 止 命 令 に 従 わ な い 場 合 に 行 政 上 こ れ を 強 制 的 に 履 行 さ せ る た め の 定 め が な く、 又 そ の 性 質上行政代執行法上の代執行によって強制的に履行させることもできない。このような場合においては、行政主体 は、 裁 判 所 に そ の 履 行 を 求 め る 訴 を 提 起 す る こ と が で き る も の と 解 す る。 け だ し、 本 件 の よ う に 行 政 庁 の 処 分 に よって私人に行政上の義務が課せられた以上私人はこれを遵守すべきであり、私人がこれを遵守しない場合におい て行政上右義務の履行確保の手段がないからといってこれを放置することは行政上弊害が生じ又公益に反する結果 となり、又何らの措置をとりえないとすることは不合理であり、その義務の履行を求める訴を提起しうるとするの が法治主義の理念にもかなうものであ ( 35 ) る 。」

(10)

  (ア a) (ア b) い ず れ の 場 合 と も、 裁 判 例 上、 行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄 を 否 定 (行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 肯 定) す る裁判例が蓄積してき ( 36 ) た 。しかし一四年最判は、直接には(アb)の場合の事案において、行政代執行の排他的管 轄 を 肯 定 (行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 否 定) し た。 こ の 一 四 年 最 判 (建 築 中 止 命 令 に 従 う 義 務 と い っ た、 行 政 代 執 行 法 が 使 え な い 不 作 為 義 務 に 関 し て 下 さ れ た 判 決) の 射 程 距 離 は、 行 政 代 執 行 が 十 分 使 え る 問 題 状 況 に 係 る(ア a) の 場 合 に 対 し て も、 《勿 論》 及 ぶ と 解 さ れ る お そ れ が あ る。 な ぜ な ら、 行 政 代 執 行 が 十 分 使 え な い 問 題 状 況 で す ら、 行 政 代 執行の排他的管轄が肯定されるのであれば、それが十分使える問題状況では、なおさらそれが否定されるはずがな いとの議論が成り立ちうるからである。   以上の判例動向に対し学説では、 (アa)の場合に関しては、賛否両論が拮抗してきたように思われる一 ( 37 ) 方 、(ア b) の 場 合 に 関 し て は、 こ れ ま で 行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄 を 否 定 (行 政 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 肯 定) す る 見 解 が 支 配 的 だったし、また一四年最判を経た今日においてもなお有力な見解と言え ( 38 ) る 。   例 え ば 阿 部 泰 隆 39 ) 氏 は、 「行 政 代 執 行 は 行 政 庁 が 要 急 事 件 に つ き 自 己 の 危 険 負 担 に お い て 行 政 上 の 義 務 の 履 行 確 保 を図る特権を附加的に認める制度にすぎず、行政代執行の発動要件の有無が明らかでないとか、行政代執行が必ず しも有効でないときは、原則的な履行強制手段である民事執行の利用を行政庁に禁ずる理由はない」と指摘す ( 40 ) る 。   ま た 曽 和 俊 文 41 ) 氏 も、 「法 令 や 行 政 処 分 で 私 人 に 義 務 を 課 し た す べ て の 場 合 に、 一 般 に、 私 人 の 義 務 に 対 応 し た 国 や地方公共団体の義務履行請求権が常に生じるとはいえないとしても、①行政上の強制執行制度が十分に機能しな い場合であって、②司法的執行によって実現すべき公益の内容が民事訴訟による実現になじむ場合に、何らかの解 釈論的工夫によって司法的執行を認めるべき事例があるのではなかろうか」と指摘す ( 42 ) る 。

(11)

第二節   強制徴収の排他的管轄   まず(イb)の場合の判例からみよう。例えば岡山地判昭和四一年五月一九日 (行集一七巻五号五四九頁) は、被 告納税義務者が租税債権の存在を争う一方、差押えの対象となるべき財産を所持していないことから、原告行政主 体が事実上滞納処分に着手することができず、その結果、原告として消滅時効の進行を中断するためには、裁判上 の 請 求 (民 法 一 四 九 条) し か 方 法 が な い と し て、 時 効 中 断 の た め の 租 税 納 付 義 務 確 認 訴 訟 (公 法 上 の 当 事 者 訴 訟: 行 訴 法 四 条) を 提 起 し た と こ ろ、 そ の 訴 え が 適 法 と 認 め ら れ た 事 例 で あ 43 ) る 。 今 日、 租 税 債 権 の 消 滅 時 効 中 断 に 関 わ っ て、強制徴収の排他的管轄が否定され、財産義務履行確保訴訟――当事者訴訟によるのであれ民事訴訟によるので あれ――が肯定されることは、裁判例上確立しているといえよ ( 44 ) う 。   学 説 で も 例 え ば 兼 子 仁 45 ) 氏 は、 滞 納 処 分 の 文 脈 で、 「司 法 国 家 制 に お け る 自 力 執 行 の 原 理 的 例 外 性 に か ん が み る と き、行政組織体制上自力執行至難でかつ具体的に訴えの利益を限定できる場合には、行政が民事執行を訴求しうる も の と 解 し て よ い」 と 言 及 し、 (イ b) の 場 合 の、 強 制 徴 収 の 排 他 的 管 轄「否 定」 (財 産 義 務 履 行 確 保 訴 訟「肯 定」 ) を示唆す ( 46 ) る 。   つ ぎ に(イ a) の 場 合 の リ ー デ ィ ン グ ケ ー ス、 農 業 共 済 組 合 保 険 料 事 件 (最 判 昭 和 四 一 年 二 月 二 三 日: 民 集 二 〇 巻 二 号 三 二 〇 頁、 四 一 年 最 判) は、 農 業 共 済 組 合 の 農 作 物 共 済 掛 金 等 に つ い て、 法 律 (農 業 災 害 補 償 法 や 農 業 共 済 基 金 法 等) に よ っ て 認 め ら れ て い る 行 政 上 の 強 制 徴 収 で は な く、 民 事 訴 訟 に よ る 強 制 執 行 が 試 み ら れ た 事 案 で あ る。 最 高 裁 は、 農 業 共 済 組 合 が 組 合 員 に 対 し 有 す る 共 済 掛 金 等 に 係 る 債 権 に つ い て、 「法 が 一 般 私 法 上 の 債 権 に み ら れ な い 特別の取扱いを認めているのは、農業災害に関する共済事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保す るためには、農業共済組合が強制加入制のもとにこれに加入する多数の組合員から収納するこれらの金円につき、

(12)

租税に準ずる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが、もっとも適切かつ妥当であるとしたからに ほかならない。 」と判示する。   そ の 上 で 最 高 裁 は、 「農 業 共 済 組 合 が、 法 律 上 特 に か よ う な 独 自 の 強 制 徴 収 の 手 段 を 与 え ら れ な が ら、 こ の 手 段 によることなく、一般私法上の債権と同様、訴えを提起し、民訴法上の強制執行の手段によってこれら債権の実現 を図ることは、前示立法の趣旨に反し、公共性の強い農業共済組合の権能行使の適正を欠くものとして、許されな い」として訴えを不適法とし ( 47 ) た 。   四 一 年 最 判 は、 事 案 に 照 ら し て 厳 密 に 言 え ば、 原 告 債 権 者 (農 業 共 済 組 合 連 合 会) 、 訴 外 債 務 者 (農 業 共 済 組 合) 、 被 告 第 三 債 務 者 (同 組 合 の 組 合 員) と い う《三 面 関 係》 の 下 で、 原 告 債 権 者 が 訴 外 債 務 者 の も つ 強 制 徴 収 権 を 代 位 行 使 し え な か っ た の で、 や む な く 民 事 訴 訟 で 争 っ た 事 案 と し て、 (イ b) の 場 合 に 属 す る 事 例 と の 理 解 も 成 り 立 ち う 48 ) る 。   も っ と も 四 一 年 最 判 の 調 査 官 解 説 が、 同 最 判 の 基 礎 と す る 考 え 方 に つ き、 「行 政 上 の 強 制 徴 収 も[民 訴 法 上 の] 強制執行もひとしく債権実現の手段であるから、特定種類の債権について法が適切合目的と認めてその一の手段を 指定した以上、その債権の実現は必ずその方法によるべきであって、債権者にその方法の自由な選択を許す趣旨と は 解 し が た い。 」 (カ ッ コ 内 は 髙 木 に よ 49 ) る) と の 指 摘 か ら も う か が わ れ る よ う に、 同 最 判 に 関 し て は、 強 制 徴 収 が 十 分 使 え る こ と を 前 提 に、 そ の 排 他 的 管 轄 を 肯 定 (財 産 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 否 定) し た(イ a) の 場 合 に 属 す る 事 例 と して理解されてきたと言えよう。   そ し て こ の 四 一 年 最 判 の 意 義 を“一 般 化” し て 論 じ た の が、 塩 野 宏 50 ) 氏 の「バ イ パ ス 理 論」 で あ る。 塩 野 氏 は、 四 一 年 最 判 の み な ら ず、 (ア a) の 場 合 に 係 る 前 掲 岐 阜 地 判 昭 和 四 四 年 を も 念 頭 に、 法 律 が「本 来 の 道」 (= 民 事 上

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の 強 制 執 行) で は な い「バ イ パ ス」 (= 行 政 上 の 強 制 執 行) を つ く っ た の に、 そ の「バ イ パ ス を 使 わ な い で、 裁 判 所 という別の国家機関に迷惑をかけるというのは、ほかの第三者なんかに、いろいろそういうルートを使いたいとい う 人 に 若 干 迷 惑 を 及 ぼ す こ と が あ り 得 る。 」 と し た 上 で、 特 権 と し て「バ イ パ ス が 認 め ら れ た 以 上」 、「常 に こ ち ら を通るべきだというのが一つの筋」と指摘する。   い わ ば、 強 制 徴 収 で あ れ 行 政 代 執 行 で あ れ、 自 力 執 行 と い う 形 で の 特 権 的 な 行 政 執 行 (バ イ パ ス) が 使 え る 以 上、 そ れ を 使 わ ね ば な ら な い と い う の が 法 律 の 趣 旨 で あ る と の 議 論 で あ 51 ) る 。 他 方 で 同 氏 は、 「バ イ パ ス が な い と き に、 要 す る に 行 政 上 の 強 制 執 行 手 段 が な い 場 合 に、 民 事 上 の 強 制 執 行 が 使 え な い か ど う か と い う こ と に な り ま す と、それは場合によるのではないか」とも指摘す ( 52 ) る 。かくして塩野「バイパス理論」は、 (アb) (イb)の場合は ともかく、 (アa) (イa)の場合に「行政執行の排他的管轄」を肯定 (義務履行確保訴訟を否定) する議論であると 言えよう。 第三節   「行政執行」の排他的管轄   塩野「バイパス理論」をめぐって、学説上さらに議論が展開していく。もちろん「そもそも論」として、この理 論そのものに対する批判論も展開してき ( 53 ) た 。しかし以下この理論が広く受け入れられていることに鑑み、この理論 を踏まえた上での学説展開をみていく。   例 え ば 小 高 剛 54 ) 氏 は、 四 一 年 最 判、 バ イ パ ス 理 論、 先 の 兼 子 説 等 を 踏 ま え た 上 で、 「少 な く と も、 強 制 徴 収 に 関 す るかぎり、解釈論としては、その要件は明確であり、違法な手続が行われるおそれはほとんどないと考えられるか ら、民事上の強制執行を認めないとする見解は、納得できる」と指摘する。少なくとも(イa)の場合に強制徴収

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の排他的管轄を肯定 (財産義務履行確保訴訟を否定) する趣旨であろう。   他 方 で 小 高 氏 ( 55 ) は 、 行 政 代 執 行 法 二 条 の、 自 力 執 行 (行 政 代 執 行) が 実 施 で き る 場 合 を 厳 格 に 絞 る 要 件 規 定 ―― 《補充性要件》や《公益性要 件 ( 56 ) 》――からみて、 「行政代執行によっては実現できない義務がありうるのであり、ま た こ の よ う な 義 務 に つ い て 履 行 確 保 の 必 要 性 が な い も の と し た わ け で な い 以 上、 民 事 上 の 手 段 を 閉 ざ す こ と は 失 当」 と し た 上 で、 「行 政 強 制 の 手 段 が 法 律 上 定 め ら れ て い な い 場 合 に、 行 政 処 分 の 強 制 執 行 に つ い て は、 民 事 執 行 手続が、一般的原則的手続と目することが許される」と指摘する。少なくとも(アb)の場合の行政代執行の排他 的管轄を否定 (行政義務履行確保訴訟を肯定) する趣旨であろう。   これに対し原田尚 ( 57 ) 彦 氏は、小高説同様、 (イa)の場合には、 「行政の能率性と経済性ならびに迅速性を確保する 見 地 か ら は」 、 強 制 徴 収 の 排 他 的 管 轄 を 肯 定 (財 産 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 否 定) す る 議 論 は「是 認 し て よ い」 と す る。 また(アb)の場合、具体的には行政代執行法二条が掲げる《補充性要件》や《公益性要件》を明白に欠く、行政 上 の 義 務 不 履 行 に 関 し て は、 「行 政 庁 は い か な る 手 段 に よ っ て も そ の 下 命 を 強 制 的 に 実 現 す る こ と は で き な い」 と い う。 な ぜ な ら 両 要 件 は、 「ひ と り 代 執 行 の 要 件 で あ る ば か り で な く、 公 法 上 の 義 務 の 強 制 履 行 全 般 を 通 ず る 一 般 原則とも解し得るから、これが欠けるときには、司法権といえども公法上の義務の強制履行をする余地はない」か ら で あ る。 こ の 点 で 原 田 説 は、 小 高 説 と 異 な り、 (ア b) の 場 合 で あ っ て も、 行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄 を 肯 定 (行 政義務履行確保訴訟を否定) する。   も っ と も 小 早 川 光 郎 58 ) 氏 は、 「人 民 の 負 担 す る 義 務 に つ い て 立 法 が 予 定 す る 限 度 を 超 え て 実 効 確 保 が 追 求 さ れ る べ き で は な く、 民 事 手 続 に よ る 強 制 の 仕 組 み の 適 用 (拡 大 適 用) を 認 め る に は 慎 重 さ が 必 要」 と の、 上 記 原 田 説 の よ う な 議 論 に 対 し て、 「真 に 重 要 な の は 人 民 に 対 す る 強 制 に 関 し て 行 政 機 関 の 恣 意 を 排 除 す る こ と で あ り、 民 事 上 の

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法律関係の場合と同一の原則に従い、法定の手続にもとづく独立の裁判所の判断によって義務履行強制が行われる とすれば、それを広く認めることに実質的な不都合はない」と反論 ( 59 ) し 、少なくとも(アb)の場合の行政代執行の 排他的管轄を否定 (行政義務履行確保訴訟を肯定) する。   ま た 小 早 川 60 ) 氏 は、 (ア a) (イ a) の 場 合 の 義 務 履 行 確 保 訴 訟 に 関 し、 「本 来 的 に は 可 能」 、「行 政 上 の 強 制 執 行 に 関する立法の存在によって当然かつ全面的に排除されると解すべきものでもない。 」と指摘しながらも、 「行政上の 強 制 執 行 が 可 能 で あ り、 そ れ に よ っ て 容 易 に 目 的 を 達 す る こ と が で き る」 場 合 に は、 「訴 え の 利 益 を 欠 く と み る べ き場合があろう」として、行政執行の排他的管轄を肯定 (義務履行確保訴訟を否定) する余地を示唆する。   さ て、 上 記 原 田 説 で あ る が、 そ れ は 比 較 的 初 期 の 議 論 (以 下 原 田 X 説) で あ っ た。 そ の 後 同 様 の 問 題 に つ き、 原 田 尚 彦 61 ) 氏 (以 下 原 田 Y 説) は、 先 の 兼 子 説 同 様、 「『司 法 国 家』 体 制 の も と で は、 実 力 の 行 使 は 司 法 権 の 判 断 に 即 し て 司 法 権 の 手 で 行 わ れ る の が 大 原 則」 で あ っ て、 行 政 上 の 強 制 執 行 (自 力 執 行) は「法 律 が と く に 許 し て い る 場 合 に 例 外 と し て 認 め ら れ る に す ぎ な い」 と 指 摘 す 62 ) る 。 そ し て こ の こ と か ら、 原 田 X説 と は《逆 の》 議 論、 す な わ ち 「行 政 上 の 強 制 執 行 が 法 律 上 許 さ れ て い な い 場 合 に は、 行 政 上 の 強 制 執 行 は で き な い わ け で あ る が、 さ り と て 一 切 の強制を放棄する趣旨と解するのは適当ではない。 」とし、このような場合には、 「司法上の手続によることを予定 している」と理解するのが「素直な見方」であり、 「正当な解釈」であるとす ( 63 ) る 。   以上を踏まえた上で原田 Y説は、岐阜地判昭和四四年等の(アa)の場合に関しては行政執行の排他的管轄を肯 定 (義務履行確保訴訟を否定) するのが「常識的な対応」――ただし司法国家原理を徹底するならば逆の結論になり う る 旨 も 指 摘 す 64 ) る ―― と す る 一 方 で、 「行 政 上 の 強 制 執 行 手 続 は 義 務 の 強 制 を 簡 易 迅 速 に 果 た す た め の、 所 詮 は 一 つの便法にすぎない。 」との理解のもと、 「行政上の強制手続によるのが不適切とみられるような特段の事情がある

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場合にまで『バイ・パス』の利用を強制し『本道』に戻ることを禁ずるいわれはない」と指摘す ( 65 ) る 。その上で原田 氏は、行政代執行法二条の補充性要件や公益性要件の有無が疑わしい場合、租税債権の時効中断の必要性がある場 合、その他「事実上の障害」があって行政執行がむずかしい場 ( 66 ) 合 といった三つの場合――すなわち本稿の分類で整 理すれば(アb) (イb)の場合――においては、行政執行の排他的管轄を否定 (義務履行確保訴訟を肯定) す 67 ) る 。   さらに岡田春男氏は、 「バイパス理論」が“行政上の強制徴収”に特有の問題ではなく、 “行政上の強制執行”全 般 で 配 慮 さ れ る べ き 理 論 と の 理 解 を 示 す と と も に、 「行 政 上 の 強 制 執 行 権 発 動 の 制 度 な い し 趣 旨 が 十 分 に 活 か さ れ な い 場 合 に は、 理 論 上 の 限 界 な り 例 外 が あ っ て し か る べ き で、 そ の 排 他 性 は 退 く も の と 解 す る。 」 と し て、 (ア b) (イb)の場合につき、行政執行の排他的管轄を否定 (義務履行確保訴訟を肯定) す 68 ) る 。   ま た 岡 田 氏 は、 「法 が 特 別 の 手 続 を 設 け て い る こ と に 鑑 み て、 そ こ に 排 他 性 の 承 認 と い う 趣 意 ま で 汲 み 取 り、 原 則 と し て『排 他 性 の 一 般 的 承 認』 を 是 認 す る 考 え」 を「一 般 排 他 性 の 原 則」 と 呼 69 ) び 、 こ の 原 則 の 具 体 例 と し て、 「取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄」 の ほ 70 ) か 、 バ イ パ ス 理 論 と の 関 連 で 論 じ ら れ て き た 四 一 年 最 判 を 挙 げ 71 ) る 。 も っ と も 同 氏 は、四一年最判が「迂遠な民事訴訟法上の強制執行の手段によることが強制徴収の手段を設けた趣旨に反しない場 合」 に は「例 外 の あ る こ と を 予 定」 し て い る と も 理 解 で き る と す 72 ) る 。 そ の 例 外 の 具 体 例 と し て 前 掲 岡 山 地 判 昭 和 四 一 年 を 挙 げ る こ と か ら み て 73 ) も 、(イ b) の 場 合 の 行 政 執 行 の 排 他 的 管 轄 を 否 定 (義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 肯 定) す る も のと言えよう。   以上岡田説は、義務履行確保訴訟に関して、今日学説が到達した水準を反映する議論であるが、それとともに注 目すべき点は、 「一般排他性の原則」という観点に立つことによって、 「行政執行の排他的管轄」と「取消訴訟の排 他的管轄」とを統合的に議論していく余地を開拓している点である。塩野説において提起された《行政執行》場面

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で の「バ イ パ ス 理 論」 の 一 般 化 を さ ら に 進 め、 《行 政 訴 訟》 場 面 で の 問 題 事 象 と の【接 続】 を は か る 視 点 を 示 唆 す るものと言えよう。 第四節   若干の検討   以上学説の大まかな議論動向を整理するなら、 (ア)行政代執行の排他的管轄であれ、 (イ)強制徴収の排他的管 轄 で あ れ、 (b) 自 力 執 行 た る 行 政 執 行 (バ イ パ ス) が 十 分 使 え な い 0 0 0 0 0 0 場 合 に ま で そ の 排 他 的 管 轄 を 肯 定 (義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 否 定) す る こ と に 関 し て は、 概 し て 消 極 的 4 4 4 な 動 向 だ が、 (a) 自 力 執 行 た る 行 政 執 行 (バ イ パ ス) が 十 分 使 0 0 0 える 0 0 場合にその排他的管轄を肯定 (義務履行確保訴訟を否定) することに関しては、概して 積極的 4 4 4 な動向といえよう か。   他 方 で 判 例 で は、 一 四 年 最 判 に よ り、 少 な く と も(ア b) の 場 合 に お い て「行 政 代 執 行 の 排 他 的 管 轄」 が 肯 定 (義 務 履 行 確 保 訴 訟 が 否 定) さ れ、 ま た 今 後、 こ の 判 決 の 射 程 距 離 が、 従 来 の 裁 判 例 上 そ の 排 他 的 管 轄 が 否 定 (義 務 履 行 確 保 訴 訟 が 肯 定) さ れ て い た(ア a) の 場 合 に ま で 及 ぶ 恐 れ が あ る。 ま た(イ b) の 場 合 に 関 し て は、 「租 税 債 権 の 消 滅 時 効 中 断」 の 論 点 に 絞 っ て で は あ る が、 「強 制 徴 収 の 排 他 的 管 轄」 を 否 定 (義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 肯 定) す る 裁 判 例 が 確 立 し て い る 一 方 で、 (イ a) の 場 合 に 関 し て は、 四 一 年 最 判 が そ の 排 他 的 管 轄 を 肯 定 (義 務 履 行 確 保 訴 訟 を否定) するものといえよう。   そこでつぎに問題となるのが、学説判例が念頭に置く「行政執行の排他的管轄」とは何であるのか、とくに従来 からの伝統的な「行政行為の執行力」概念との間でどのように位置づけられるのかという理論的な問題であ ( 74 ) る 。か え り み て、 行 政 行 為 の 執 行 力 と し て 従 来 か ら 議 論 さ れ て き た 内 容 は、 (X) 私 人 に は 認 め ら れ な い、 行 政 に と っ て

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の 権 力 的 優 越 性 と し て の 自 力 執 行「特 権」 (バ イ パ ス) の 側 面 で あ っ た。 し か し「行 政 執 行 の 排 他 的 管 轄」 で は、 このような特権的契機――バイパス が 0 使 える 0 0 こと――が直接問題となっているわけではない。   む し ろ こ こ で 問 題 と な っ て い る 事 柄 は、 ( Xʼ) 行 政 上 の 義 務 履 行 確 保 に 当 た っ て は 法 律 (行 政 代 執 行 法 や 国 税 徴 収 法 等) で そ の 実 体 並 び に 手 続 的 要 件 が 厳 格 に 定 め ら れ た 形 で の 自 力 執 行 手 続 し か 用 い る こ と が で き な い こ と ―― バ イ パ ス し か 0 0 使 え な い 0 0 こ と ―― と い う、 「行 政 執 行 の 排 他 的 管 轄」 の 制 度 的 効 果 で あ る。 以 下 本 稿 で は、 後 者 の 制 度 的 効 果 の こ と を、 他 の 手 段 (義 務 履 行 確 保 訴 訟) で も っ て は 行 政 行 為 の 効 力 を 貫 徹 で き な い と い う そ の 趣 旨 を 踏 ま えて、 「効力 貫徹 4 4 遮断効」と言及することとしたい。   し か し 以 上 と 類 似 の 議 論 は 公 定 力 を め ぐ っ て も 0 0 0 0 0 0 0 0 0 見 出 さ れ う る。 す な わ ち 公 定 力 に 関 し て も、 「取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄」 の 制 度 的 効 果 ――「効 力 覆 滅 4 4 遮 断 効」 ―― と い っ た 形 で、 ( Yʼ) 制 約 的 契 機 (訴 訟 類 型 強 制 や 出 訴 期 間 と い っ た 一 定 の 訴 訟 要 件 を 満 た し て い な け れ ば な ら な い) が 問 題 と さ れ る 一 方、 取 消 訴 訟 に よ り さ え す れ ば 原 因 に 遡 っ て 画 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 一的に紛争解決ができる 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 など、見方によれば市民にとっての(Y)特権的契機も語られてき ( 75 ) た 。それゆえ公定力と 対 比 で 考 え る な ら、 執 行 力 に 関 し て も、 (X) 特 権 的 契 機 (自 力 執 行 権) の み な ら ず、 そ の「裏 表」 の 関 係 と し て、 ( Xʼ)制約的契機 (効力貫徹遮断効) が含まれているとの説明が成り立ちうるのではないか。   思うに、従来の行政法 ( 76 ) 学 では、執行力と公定力に共通する「行政行為の権力性」を抉り出す問題意識から、注目 さ れ る 契 機 が 前 者 の 場 合(X) 、 後 者 の 場 合( Yʼ) と い う よ う に、 概 念 整 理 に“ず れ” が あ っ た の で は な い か。 む ろんそれは、行政行為に化体される《行政権力》なり《公権力》なりを統制するという、それはそれで正当な実践 論的問題意識――ただしここで言う「権力」とは何かという根本的な認識論的問題に関してはさておく――に立つ ものであるし、またこの問題意識からすれば、理論上も一貫した概念整理でもある。しかしその反作用として、執

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行力の( Xʼ)部分と公定力の( Yʼ)部分との間の関係性について、十分な検討が尽くされなかったのではないか。   ただし逆に言えば、 「行政行為の権力性」とは異なる問題意識、 「行政行為の遮断効」という問題意識に立脚すれ ば、上の「ずれ」は消滅し、執行力と公定力の性質の異同に関して新たな分析視角が得られることになろう。もっ ともこの新たな視角を考えるに当たっては、あらためて公定力と執行力との関係性を掘り下げて理解する必要があ る。そしてその際には、両特殊な効力論が交錯する、 「義務履行確保訴訟」の本案審理において、 '公定力'が問題 となる場面を検討しておくことが有用である。 第四章   義務履行確保訴訟と公定力   適 法 に 提 起 さ れ た 義 務 履 行 確 保 訴 訟 ―― 当 座 の 解 釈 論 的 に 言 え ば 一 四 年 最 判 が「法 律 上 の 争 訟」 と 認 め る(イ) 「財産」義務履行確保訴訟、それを超えて理論的に言えば一四年最判が「法律上の争訟」と認めない(ア) 「行政」 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を も 含 む ―― の 中 で、 被 告 市 民 は 前 提 た る 行 政 行 為 の「違 法 性」 を 主 張 (抗 弁) し う る か (裁 判 所 か ら す れ ば 違 法 性 を 審 理 し う る か) 否 か が、 そ の「行 政 行 為 の 公 定 力」 な い し「取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄 ( 77 ) 」 と の 関 連 で問題とされてき ( 78 ) た 。   本章第一節では、この問題に関する賛否両論を紹介するとともに、違法主張を認めるとしてもその「肯定」の論 拠 に 関 し て、 な お 検 討 の 余 地 が あ る こ と を 指 摘 す る。 つ ぎ に 第 二 節 で は、 「違 法 性 の 承 継」 論 の 問 題 状 況 と の 比 較 を手掛かりに、先の違法主張「肯定」の論拠の説明を試みる。さらに第三節では、公定力と執行力との関係に関す る 学 説 の 議 論 を 検 討 す る。 そ し て 第 四 節 で は、 前 章 最 後 で 述 べ た、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 に 基 づ く 新 た な 分 析 視 角 と、その視角を踏まえた上での一四年最判の問題性を指摘する。

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第一節   違法主張「肯定」の論拠   義務履行確保訴訟と公定力をめぐって、学説では様々な議論が展開されてき ( 79 ) た 。例えば塩野宏氏は、建築続行禁 止 の 仮 処 分 が 認 め ら れ た、 (ア b) に 係 る 前 掲 大 阪 高 決 昭 和 六 〇 年 で は、 そ の 前 提 と し て 建 築 禁 止 命 令 の 適 法 性 を 審 査 し た こ と を 挙 げ な が ら も、 「命 令 の 公 定 力 が 働 く の で、 裁 判 所 の 審 査 は 命 令 の 有 効 無 効 に 限 定 さ れ る と 解 さ れ る。 」とい ( 80 ) う 。   こ れ に 対 し 宇 賀 克 也 81 ) 氏 は、 「行 政 行 為 の 公 定 力 論 を 民 事 訴 訟、 民 事 保 全 手 続 に よ る 場 合 に も そ の ま ま 適 用」 す る と、すなわち「公定力によって裁判所は当該行政行為に無効の瑕疵がない限り有効なものとして取り扱わなければ な ら な い」 と す る と、 「民 事 訴 訟、 民 事 保 全 手 続 に お い て も 行 政 に 特 権 が 認 め ら れ て い る こ と に な る」 と 指 摘 す る。また「無効の瑕疵しか裁判所が審査できないのであれば、裁判所は、通常、単に行政上の義務履行確保のため に行政の下請機関として利用されるだけのことになってしまい、実態としては、行政権の自力執行を認めるのと大 差がないことになる」とす ( 82 ) る 。   さ ら に 宇 賀 氏 は、 (ア a) に 係 る 富 山 地 決 平 成 二 年 等、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 を 適 法 と 認 め て き た 裁 判 例 の 中 で も、 裁判所が行政行為の適法性を審査しうることが「当然の前提」とされてきたと指摘する。加えて「民事訴訟、民事 保 全 手 続 は、 当 事 者 が 対 等 で あ っ て 一 方 が 特 権 を 認 め ら れ る こ と は な い」 こ と を「大 前 提」 と す る 以 上、 「行 政 主 体であっても、民事訴訟、民事保全の手段による以上は、当事者対等の原則を崩すような特権を認められるべきで はないという考えも十分に成立しうる」のだか ( 83 ) ら 、義務履行確保訴訟に「公定力が働くと考える必要はなく」 、「裁 判所に行政行為の適法性の審査を行わせ、違法な場合、民事執行、民事保全を拒否しても、取消訴訟の排他的管轄 の趣旨に反しないという見方も十分ありうる」と指摘す ( 84 ) る 。

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  も っ と も こ の 宇 賀 説 に 関 し て 土 井 真 一 85 ) 氏 は、 「裁 判 所 を 法 原 理 部 門 と し て 捉 え る 場 合 に 非 常 に 重 要 で あ る」 と 評 し つ つ も、 「民 事 訴 訟 に お け る 当 事 者 対 等 の 原 則 を 論 拠 と す る 場 合 に は、 本 件 の よ う な 司 法 的 執 行 に 係 る 訴 訟 だ け ではなく、民事訴訟一般に妥当することになり、そもそも取消訴訟の排他的管轄を認めることが適切ではないとい う こ と に な ら な い か」 と の 疑 問 を 提 起 す る。 こ の 疑 問 は、 「当 事 者 対 等 の 原 則」 を 論 拠 と す る と、 違 法 で あ っ て も 有 効 な 行 政 行 為 (公 定 力 が 働 い て い る 行 政 行 為) を 前 提 と し た 民 事 訴 訟 (最 判 昭 和 三 〇 年 一 二 月 二 六 日: 民 集 九 巻 一 四 号 二 〇 七 〇 頁 等) に お い て、 「取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄」 が 働 く こ と す ら も 正 当 化 さ れ え な く な っ て し ま う 恐 れ が あ る と の 趣 旨 で あ ろ う。 つ ま り 土 井 説 は、 「当 事 者 対 等 の 原 則」 と い う 抽 象 的 な 原 則 か ら、 ダ イ レ ク ト に 公 定 力 (取 消 訴訟の排他的管轄) を否定する結論を導く宇賀説の論理的な問題性を突くものと言えよう。   他方で宇賀説のほかにも、例えば中川丈久 ( 86 ) 氏 は、義務履行確保訴訟においても「取消訴訟の排他性はカテゴリカ ル に は 排 除 さ れ な い」 と 解 す る 立 場 を 採 る 一 方 で、 「最 高 裁 は、 取 消 訴 訟 を 適 時 に 提 起 す る こ と を 期 待 す べ き で な い者に対してまで、取消訴訟の排他性を適用していない。排他性を認めても正義の観念に反しない場面に限って適 用 す る の が、 最 高 裁 の 判 例 準 則 で あ る。 」 と も 指 摘 す る。 そ の 上 で、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 が 提 起 さ れ る こ と を 予 期 で きなかった――「強制執行しうる債務」であることが法律上明文で示されていない場合の――市民に対しては取消 訴訟の排他性が適用されず、違法主張が肯定されうると説明す ( 87 ) る 。   こ の 中 川 説 は、 《予 測 可 能 性 保 護 の 原 則》 に 依 拠 し た 正 当 化 論 で あ ろ う。 し か し そ の 種 の「判 例 準 則」 が あ る と し て も、 不 利 益 な 行 政 処 分 の 法 的 効 果 と そ れ に 基 づ く 義 務 が 生 じ て い る こ と が 相 手 方 市 民 に と っ て 明 確 で あ る (実 体 法 上 の 明 確 性 が あ る) に も か か わ ら ず、 そ の 義 務 に つ き 義 務 履 行 確 保 訴 訟 が 提 起 さ れ う る か 否 か が 不 明 確 (執 行 法 上 の 不 明 確 性 が あ る) と い う 理 由 で も っ て、 「取 消 訴 訟 を 適 時 に 提 起 す る こ と を 期 待 す べ き で な い 者」 (救 済 法 上 の 不

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明 確 性 が あ る) と 言 い、 こ の よ う な 者 に 対 し て 取 消 訴 訟 の 排 他 性 を 適 用 す る こ と が、 “正 義 の 観 念 に 反 す る” と ま で 言い切れるのだろう ( 88 ) か 。予測可能性保護の原則を、この水準にまで押し及ぼすためには、さらなる論証の必要があ るように思われる。   加 え て 兼 子 89 ) 仁 氏 は、 「行 政 処 分 の 適 法・ 違 法 の 有 権 的 審 査 は 司 法 裁 判 所 で 初 審 的 に 行 な わ れ 公 定 力 は 効 果 の 予 先 的通用性のみを意味するという立場からすれば、この執行訴訟において被告側の違法主張に基づく適法審査が不可 争 処 分 に つ い て も な さ れ る べ き と 解 さ れ る。 」 と 指 摘 す る。 確 か に 今 日 の 公 定 力 理 解 を 反 映 し た 解 釈 論 的 説 明 で は あ る が、 し か し 否 定 説 が こ れ と 同 じ 公 定 力 理 解 に 立 ち な が ら も、 《違 法 主 張 を 認 め て し ま う と 実 質 的 に 公 定 力 な り 不可争力なりが侵害されるのではないか》との懸念を抱いているとするのであれば、この兼子説の説明のみでもっ ては十分に応え切れていない可能性がある。   以上学説の議論動 ( 90 ) 向 を踏まえると、義務履行確保訴訟に公定力が及ばない旨の違法主張肯定説に立つ場合には、 そのことを 過不足なく 4 4 4 4 4 裏づけるための、それ相応の筋道だった“解釈論的な”説明が求められるように思われる。 第二節   「違法性の承継」論との問題状況の比較   ま ず 大 前 提 と し て、 前 節 最 後 の 兼 子 説 の 指 摘 に も あ っ た よ う に、 ま た 前 稿・ 前 々 稿 で も 論 じ た よ う 91 ) に 、 公 定 力 (さ ら に は 不 可 争 力) は、 今 日、 行 政 行 為 の 効 力 を 覆 滅 す る こ と を 阻 止 す る 作 用 (効 力 覆 滅 遮 断 効) の み を 含 意 す る も の と 解 す べ き で あ る。 こ の 作 用 を 超 え て、 行 政 行 為 の 違 法 主 張 ま で を も 阻 止 す る 作 用 (違 法 主 張 遮 断 効) が 認 め ら れ る の は、 そ れ (= 違 法 主 張) を 認 め て し ま う と、 間 接 的 に で は あ れ、 効 力 覆 滅 遮 断 効 が 侵 害 さ れ る こ と に な る 法 的 事 態 が 生 じ る 場 合 に 限 ら れ る べ き で あ る。 そ の 具 体 例 と し て、 「違 法 性 の 承 継」 で 論 じ ら れ て き た 問 題 状 況 が

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ある。   すなわち、後行行政行為取消訴訟において、先行行政行為の違法主張を認めて、それを理由に後行行政行為をも 違 法 と し、 そ の 結 果、 そ の 取 消 判 決 (請 求 認 容 判 決) が 下 さ れ る こ と に な る と、 そ の 判 決 の「形 成 力」 に よ っ て、 「後 行 行 政 行 為」 の 効 力 が 覆 滅 す る の み な ら ず、 そ の 判 決 の“拘 束 力” (に 基 づ く 不 整 合 処 分 取 消 義 務) に よ っ て、 “先 行 行 政 行 為” の 効 力 を も 覆 滅 す る 法 的 事 態 が 生 ず る (行 訴 法 三 三 条) 。 し た が っ て 先 行 行 為 に 係 る「効 力 覆 滅 遮 断効」 を維持するためには、 公定力 (ないし不可争力) の名のもと、 先行行為に係る 「違法主張遮断効」 が補完的・ 派生的に作動する必然性が生じる。このような観点から「違法性の承継」は“原則として”否定されることが正当 化される (例外として最判平成二一年一二月一七日(民集六三巻一〇号二六三一頁)等参照) 。   こ れ に 対 し 義 務 履 行 確 保 訴 訟 の 場 合、 そ も そ も「民 事 訴 訟」 で あ る 以 上、 「取 消 判 決 の 拘 束 力」 と い う 行 訴 法 上 の 制 度 は 問 題 と な ら な 92 ) い 。 言 い 換 え る と、 民 事 訴 訟 (義 務 履 行 確 保 訴 訟) の 本 案 審 理 を 通 じ て、 被 告 市 民 側 の 行 政 行為に係る違法主張が認められ、その結果として「請求棄却判決」が下されることとなったとしても、その行政行 為の効力が覆滅する法的事態は生じな ( 93 ) い 。したがって、違法主張を認めたとしても「効力覆滅遮断効」が侵害され な い 以 上 は、 違 法 性 の 承 継 の 問 題 状 況 と は 異 な っ て、 公 定 力 (あ る い は 不 可 争 力) の 名 の も と、 「違 法 主 張 遮 断 効」 が補完的・派生的に作動する必然性はな ( 94 ) い 。   か く し て、 「効 力 覆 滅 遮 断 効」 ・「違 法 主 張 遮 断 効」 の 作 動 メ カ ニ ズ ム か ら す れ ば、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 の 本 案 審 理 において、被告市民からの、行政処分に係る違法主張は“当然に”肯定されるということになる。そしてこの帰結 は、義務履行確保訴訟とは“逆の”紛争事態、すなわち原告市民から取消訴訟を提起された被告行政主体が、その 行政行為の「適法」を主張できることとも、結果的に均衡がとれている。

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  こ の よ う に、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 に お け る 公 定 力 否 定 は、 「当 事 者 対 等 の 原 則」 な い し《予 測 可 能 性 保 護 の 原 則》 と い う 抽 象 的 な 原 則 か ら ダ イ レ ク ト に 裏 づ け る の で は な く、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 の 作 動 の あ り 方 を 媒 介 と し て 解 釈論的に裏付けるべきだろう。 第三節   公定力と執行力   以上の議論を受け、あらためて問題となるのは、公定力と執行力との関係であ ( 95 ) る 。例えば広岡隆 ( 96 ) 氏 は、執行力の 「理 論 的 前 提」 と し て 公 定 力 が 考 え ら れ る と と も 97 ) に 、 両 特 殊 な 効 力 は「行 政 主 体 の 行 政 客 体 に 対 す る 優 越 性 を 示 し、 行 政 行 為 が、 私 法 行 為 と 異 り、 公 権 力 の 発 動 行 為 た る こ と の 特 徴 を 表 わ す。 」 と 指 摘 す る。 ま た こ の こ と か ら、 「公 定 力 と 執 行 力 と は、 必 ず し も 概 念 上 明 確 に 区 別 さ れ ず、 公 定 力 と 執 行 力 と が 漠 然 と 一 つ の 概 念 の 下 で と ら え ら れ た り、 或 は、 公 定 力 の 中 核 を な す も の が、 執 行 力 で あ る か の よ う に 語 ら れ る こ と も あ る。 」 と 指 摘 す 98 ) る 。 こ の よ う に 伝 統 的 な 行 政 法 学 で は、 「行 政 行 為 の 権 力 性」 の 考 え 方 を 背 景 に、 執 行 力 を 公 定 力 の 一 部 な い し 延 長 と し て、行政主体と市民との不対等な関係を律する現象として論じられてき ( 99 ) た 。   他方で近年、斎藤誠 ( 100 ) 氏 は、一四年最判で問題となった紛争が「具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する 紛 争」 に 当 た り う る こ と を 論 証 す る 前 提 と し て、 行 政 行 為 の 効 力 論 に 関 し 次 の よ う に 説 明 す 101 ) る 。「ま ず、 行 政 行 為 の 場 合 を 考 え る。 法 律 な い し 条 例 に 根 拠 を お く 行 政 機 関 の 当 該 行 為 に よ っ て、 (A) 私 人 の 権 利 義 務 は 一 方 的 に 変 動・ 確 定 し (あ る い は、 そ の 前 提 と な る 要 件 事 実 が 確 定 し) 、 法 的 拘 束 力 が 生 ず る (行 政 行 為 の 規 律 力、 な い し 規 律 権 力) 。 そ し て、 (B) こ の 法 効 果 を 私 人 の 側 か ら 排 除 す る た め に は、 原 則 と し て、 特 別 の 訴 訟 ル ー ト 0 0 0 0 0 0 0 0 を 通 ら な け れ ば な ら ず (行 政 行 為 の『公 定 力』 、 な い し 取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄) 、(C) 行 政 の 側 は、 こ の、 観 念・ 言 葉 の 世 界 で 課 し た

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義務を現実の世界で実現するために、行政代執行法の定める手段を用いて自力で執行するという 特別な手段 0 0 0 0 0 を用い る こ と が で き る 場 合 が あ る (行 政 行 為 の『執 行 力』 ) 。」 (傍 点 は 髙 木 に よ る) こ の よ う に 斎 藤 説 は、 (A) 行 政 行 為 の 規 律 力 を 土 台 と し つ つ、 (B) 公 定 力 と(C) 執 行 力 と を、 そ れ ぞ れ 実 定 法 (行 訴 法・ 行 政 代 執 行 法) に 基 づ く 特 別 な 手続 (訴訟手続ないし執行手続) との関連で対比的に論ずる。   つ ぎ に 仲 野 武 102 ) 志 氏 は、 「国 家・ 私 人 間 関 係 を 二 当 事 者 の 権 利 領 域 の 対 立 と し て 捉 え る こ と を 基 本 的 前 提」 と す る、 行 政 法 に 係 る「従 来 の 実 体 法 構 成」 を 批 判 的 に 再 検 討 す る な か で、 そ の 構 成 の 下 で は 国 家・ 私 人 の 立 場 が、 「民 事 法 秩 序 に お け る 私 人 相 互 と 本 質 的 に 変 わ る と こ ろ は な い。 」 と し て い わ く。 「両 者 は、 互 い に 相 手 方 の 権 利 領 域を侵害してはならない代わりに、自己の権利領域内では自由に行動することができる。そして権利領域が侵害さ れ た 場 合 に は、 排 除 請 求 権 を 行 使 し う る の で あ る (但 し、 私 人 は 裁 判 上 の 行 使 を 要 す る 一 方、 国 家 に は 裁 判 外 の 執 行 が 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 認 め ら れ る 4 4 4 4 4 ) 。 か よ う な 物 権 的 妨 害 排 除 さ な が ら の〈権 利 規 範〉 こ そ が、 実 体 法 の 核 心 的 内 容 を な す。 」 (傍 点 は 髙 木 に よ る) こ の よ う に 仲 野 説 は、 権 利 規 範 に 基 づ く 排 除 請 求 権 を 土 台 と し つ つ、 公 定 力 と 執 行 力 と の 対 比 的 な 位 置 付 けを示唆する。   斎 藤 説 も 仲 野 説 も、 公 定 力 と 執 行 力 (あ る い は そ れ ら に 対 応 す る 制 度) と を 対 比 的 に 論 じ (先 に 挙 げ た(X) と ( Yʼ) と の 対 比) 、 そ の 差 異 性 を 強 調 す る。 こ の 点 で 両 説 は、 先 に も 指 摘 し た 公 定 力 と 執 行 力 を「行 政 行 為 の 権 力 性」の問題意識において一貫して捉えてきた伝統的な行政法学の前提に立つものであろう。しかし他方で両説は、 公定力と執行力との間の差異性の前提にある、両特殊な効力間の一定の内在的な共通性をも示唆している。もっと も両説とも、この共通性に関して掘り下げて議論しているわけではない。そこで「行政行為の遮断効」という問題 意識 (先に挙げた( Xʼ)と( Yʼ)との対比) の下で、あらためて公定力と執行力とを対比的に論じてみよう。

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第四節   若干の検討   思 う に、 《効 力 覆 滅 遮 断 効》 も《効 力 貫 徹 遮 断 効》 も、 行 政 行 為 の 効 力 を 継 続 さ せ る こ と 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 、 そ の 限 り で の「法 的 安 定 性」 を 保 護 す べ し と の 要 請 か ら す れ ば、 「同 じ」 で あ る と の 問 題 意 識 が 重 要 な の で は な い か。 む ろ ん 両《遮 断 効》 は、 法 的 安 定 性 の 保 護 が 要 請 さ れ る 場 面、 言 う な れ ば【座 標 系】 が 異 な る 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 。 す な わ ち 前 者 の 遮 断 効 は、 “行 政 訴訟”の場面で、不利益な処分を受けた相手方市民の利益と対立する視点から、法的安定性の保護が要請される。 こ れ に 対 し 後 者 の 遮 断 効 は、 “行 政 執 行” の 場 面 で、 行 政 主 体 の 利 益 (公 益) と 対 立 す る 視 点 か ら、 法 的 安 定 性 の 保 護 が 要 請 さ れ る。 と は い え、 「法 的 安 定 性 の 保 護」 と い う 原 理 的 要 請 と そ れ に 基 づ き 行 政 行 為 に 関 し て 遮 断 効 が 働くという作動メカニズムの点では、行政訴訟の場面であれ行政執行の場面であれ、変わらないのであ ( 103 ) る 。   かくして公定力と執行力とは、 '行政行為の権力性'という観念的・抽象的観点から整理できるのみならず、 '行 政行為の遮断効'という技術的・機能的観点からも整理できる。そしてこの遮断効に係る【相対的】理解を踏まえ ると、一四年最判に関して、次のような問題点が浮かび上がってくる。すなわち 効力覆滅遮断効 4 4 4 4 4 4 4 に関しては、行政 行為に「重大かつ明白な」瑕疵がある場合 (=無効の瑕疵がある場合) の例外的な救済の余地が認められている。こ れに対し一四年最判は、 効力貫徹遮断効 4 4 4 4 4 4 4 に関して、例外的な執行の余地までをも否定してしまっている ように少な 0 0 0 0 0 く と も 見 受 け ら れ る 0 0 0 0 0 0 0 0 0 。 い わ ば 公 定 力 と 執 行 力 と を、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 と し て 純 粋 に 技 術 的・ 機 能 的 に 理 解 し た 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 場合 4 4 、両特殊な効力をめぐる解釈論の帰結間での“不均衡”が浮き彫りになるのであ ( 104 ) る 。   ただし一四年最判によって、その種の例外的な執行の余地まで完全に排除されてしまったのかに関しては、なお 検討する必要があろう。その際にはあらためて、法律上の争訟と行政代執行の排他的管轄が融合して論じられてい る一四年最判の特徴を踏まえ、その射程距離を分析することが求められるように思われ ( 105 ) る 。

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第五章   むすびにかえて   本 稿 で は、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 問 題 を 素 材 に、 行 政 行 為 の 公 定 力 及 び 執 行 力 に 関 し て、 「行 政 行 為 の 権 力 性」 で は な く、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 と い う 視 点 か ら 統 一 的 に 説 明 す る 可 能 性 を 模 索 し て き た。 そ の な か で、 行 政 義 務 履 行 確保訟を「法律上の争訟」性がないとして一律不適法とする ように少なくとも見受けられる 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 一四年最判の不当さに つき、公定力と執行力とを対比する視点から議論した。   すなわち「行政行為の遮断効」という視点に立てば、公定力と執行力とは、行政訴訟か行政執行かといった、法 的 安 定 性 の 保 護 の 要 請 が 求 め ら れ る【座 標 系】 を 異 に す る に 過 ぎ な い こ と、 そ れ に も か か わ ら ず 公 定 力 (効 力 覆 滅 遮 断 効) の 場 合 に は 重 大 か つ 明 白 な 瑕 疵 (無 効 の 瑕 疵) が あ る 場 合 の 例 外 的 救 済 の 余 地 が 認 め ら れ る の に 対 し、 執 行 力 (効 力 貫 徹 遮 断 効) の 場 合 に は 例 外 的 執 行 の 余 地 が ま っ た く 認 め ら れ な い と い う の は ―― 厳 密 に 言 う と「認 め られないと解するならば」――、およそ法解釈論として均衡を欠くのではないかと指摘した。   ま た 以 上 の 検 討 の 中 で、 義 務 履 行 確 保 訴 訟 に 公 定 力 が 及 ば な い こ と の 説 明 に 関 し て は、 「当 事 者 対 等 の 原 則」 や 《予 測 可 能 性 保 護 の 原 則》 と い っ た 抽 象 的 な 論 拠 で は な く、 む し ろ「違 法 性 の 承 継」 を 認 め る 場 合 に 生 ず る「法 的 事態」――違法主張遮断効を認めなければ効力覆滅遮断効の侵害が生じてしまう事態――が想定しえないこと、そ の限りで「行政行為の遮断効」といった具体的な解釈論的論拠から裏付けうることをも指摘した。   今後の研究課題として、まずは、本稿で検討しえなかった「刑事裁判と公定力」問 ( 106 ) 題 や「再申請と不可争力」問 ( 107 ) 題 が あ る。 両 問 題 と も、 行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 に 関 わ る 著 名 な 論 点 と し て、 本 稿 で 取 り 上 げ た 問 題 と と も に (あ る い は そ れ 以 上 に) 、 学 説 判 例 上 議 論 さ れ て き た と こ ろ で あ る。 両 問 題 に つ き、 行 政 行 為 の 遮 断 効 の 観 点 か ら ど の よ う

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( 1)   行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 な い し 制 度 的 な 効 果 に 関 す る 説 明 と し て、 塩 野 宏『行 政 法 Ⅰ[第 五 版 補 訂 版] 』(有 斐 閣、 二 〇 一 三 年) に説明することができるのか、取り組んでいく必要がある。   つぎに行政行為の遮断効に関する理論的検討の必要性である。先に《法的安定性の保護》という原理的要請から 遮断効を裏付けうるとしたが、他方で遮断効が“行政主体に対しても市民に対しても及ぶこと”については、どの ような原理的要請から裏付けうるのだろうか。この点先の斎藤説を踏まえるならば、伝統的な行政法学において語 られてきた行政行為の「拘束力」 、とりわけその「双面 性 ( 108 ) 」から裏付けられうる可能性がある。   そ し て こ の“拘 束 力 の 双 面 性” が「法 律 に よ る 行 政」 ―― な い し は「法 の 支 配」 ―― を 原 理 的 基 礎 と す る な ら ば、 “遮 断 効 の 双 面 性” に つ い て も《法 律 に よ る 行 政》 か ら 裏 づ け う る の で は な い か。 も っ と も こ う し た【行 政 行 為 の 力 学 ( 109 ) 】 に 係 る 仮 説 的 考 え を 裏 付 け て い く た め に は、 遮 断 効 が 前 提 と す る、 「行 政 行 為 の 法 的 効 果」 と は 何 か に ついて、拘束力説や規律力 ( 110 ) 説 も踏まえて分析していく必要がある。   さらに以上の理論的検討の延長線上で、近年の「処分性拡大判例」の解釈論的検討も必要となってこよう。とく に 筆 者 は、 《処 分 性 の 拡 大 解 釈 に 伴 う 取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄 の 縮 小 解 釈》 の 必 要 性 を 提 唱 し た と こ ろ で あ る 111 ) が 、 公 定力であれ不可争力であれ (はたまた執行力であれ不可変更力であれ) 、行政行為の特殊な諸効力を「遮断効」という 形で【規格化】して論ずることにどのような意義があるのかについて、検討していかなければならない。加えて筆 者 は、 右 の 縮 小 解 釈 論 の 前 提 と し て、 《主 観 的 構 成 と 客 観 的 構 成 の 区 別 を 通 じ た「行 政 行 為」 概 念 の 再 構 成》 の 必 要性を指摘したところである ( 112 ) が 、この必要性との関連でも遮断効の問題を検討していかなければならない。以上の 点に関しては、今後の研究課題としたい。

参照

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