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図 2 負の屈折率が作り出す Veselago レンズでの 2 重結像と完全結像 : 左は通常の誘電体スラブの場合の屈折状況, 右ではスラブが負屈折率になることによりスラブ内外で 2 回の結像が生じる. 波動的な解析を行うと負屈折率は完全結像となると予想されている.(RH:Right Hand, L

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Basics of Meta-materials/Jun-ichi KATO 理化学研究所・超精密加工技術開発チーム

加藤純一

1.は じ め に 精密工学会の皆様にとって「メタマテリアル」という言 葉は,まだ馴染みのないものだろう.筆者が別途所属する 応用物理学会においてさえ,講演分科のキーワードではい まだ市民権を得ているとはいえない.しかしこの数年,さ まざまな学会誌での解説1)や雑誌・新聞記事2)などにおい てもたびたび取り上げられ「負の屈折率」「透明マント (クローキング)」「完全レンズ」などの刺激的でかつ何と なくあやしい(?)技術の実現の可能性とともに語られて いる.自ら専らとしている技術領域とはどうもまだまだ接 点はなさそうだと思いながら,メタマテリアルとは一体ど のようなもので,その将来の実力はどの程度のものである のか? と興味をおもちの方も多いだろう.「はじめての 精密工学」でメタマテリアルを取り上げるのは,その意味 で時節に沿っている.ところで,いただいたお題は「メタ マテリアルの基礎」とある,さて困りました.メタマテリ アルの概念は,いわばアンテナ工学の世界を電波から光の 波長サイズにダウンサイジングしたようなもので,ガチガ チの電磁気学の話と,光の波長以下の構造の光応答の絡む 話だ.基礎といわれても,どこから紐解けば良いかも難し いし,とても筆者の担えるテーマではない(自分とて完全 に理解できていない).そこで,筆者なりにメタマテリア ルをどう見ているのかという観点から,理論には立ち入ら ず,その基本的イメージをお伝えすることとする.精密工 学における注視点を一点挙げるとすると,メタマテリアル を本当に使える技術として実現するということは,今後の 新たなナノ・マイクロ加工・製造技術を一層高める 1 つの 標的となり得るという意味で重要な意味をもっている. 2.そもそものメタマテリアル メタマテリアル(metamaterial または meta-material) とは何か? ‘meta’ という接頭語は「超越した」とか「上 位の」といった意味合いともいわれるが,もともとは「変 化」の意味から来る.メタボ(metabolic:代謝,変態) でおなじみです.つまり,「性質を(人工的に)変化させ た物質」と定義するのがわかりやすい.2000 年に実験的 にマイクロ波領域での負の屈折率の実証実験を行うととも にこの言葉を導入した3)4)D. R. Smith(当時米 UCSD,現 在 Duke 大)は,実にうまい造語をしたものである. さて,この負の屈折率だが,屈折率 n はわれわれの接 する通常の物質世界では 1∼2 程度の値をとる.Si とか Ge のような半導体材料は,そのバンドギャップエネルギ以下 の波長の赤外光はよく透過し,3∼4 の屈折率を示すが, 人間の感じる波長(可視光)では吸収され見た目には黒っ ぽく不透明である.また,屈折率は 1 を下回ることもあ る.例えばレーザ加工などで生じる,プラズマ化したプル ームの屈折率などがその例である.しかし,その値が負に なるなどとは聞いたこともない話で,当時は大きな驚きと 疑念をもって受け止められた. そもそも光は電磁波であるので,物質の電子的・磁気的 な性質を感じながら(正確にはほとんどは物質中の電気分 極の波とエネルギをやりとりしながら)物質中を進む.こ の電気分極の波と入射光の重ね合わせにより,いわばこれ に引きずられる形で入射光の位相速度が遅くなり,それが 物質の屈折率を決める.ここでは,光の電場の変化に対す る電子の動きやすさの指標である誘電率 e(厳密にはその 実部)が主に効いている.ガラスのような誘電体では,構 成分子の分極が入射光の電場に応答するが,電子は原子に 束縛され入射電場に見合う大きさと速度で動けず,e は 1∼4 に近い正の値をとる.一方,金・銀のような自由電 子リッチな貴金属では,自由電子が入射電場を打ち消す向 きに速く運動できる(e?0)ため,光の電場は物質内部で 打ち消され,ほとんどが表面で再輻射として反射される. これが,銀などが良いミラー材料となっている理由であ る.一方,物質中の小さな磁石の向きともいえる磁気モー メントの電場への応答に相当する透磁率 m も考慮せねば ならない.しかし磁区は電子のように速くは動けず,光の 周波数では磁場変化に追従できず 1 として扱うのが慣例で ある.屈折率は n/



em であり,誘電体(e>0)では正の 実数となり,貴金属(e?0)では虚部を含んだ複素屈折率 Pn+ikQ となる.虚部は,光に対する吸収として作用す る. さて,光の周波数領域で透磁率は本当に一定なのか? この疑問に対して金属ナノ構造の電磁応答の理論研究を行 っていた英 Sir J. B. Pendry が 1999 年に一つのアイデアを 提案した5).ある種の微小な金属アンテナ構造はかなり高 い周波数域においても実効的に透磁率を変化させ,それも 負の値にできるというものであった.これが,図 1(a)

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に示すスプリットリング共振器(Sprit Ring Resonator : SRR)による光に対する磁気応答の模倣の提案であった. SRR 構造は,その 2 重リング中央を貫く磁場に対してア ンテナ的に応答する磁気型の LC 共振器である.図に示す ように,リング部分がインダクタンス(L),内外リング 間とその切断部の間隙がキャパシタンス(C)とみなせ, 1#



LC に比例する特定の周波数で鋭い磁気的な共振を示 す.その結果この共振を透磁率の変化として周波数応答を 計算すると,その実部がマイナス側にオーバーシュート し,ある周波数で負の値までとることが示され,しかもそ の 周 波 数 を か な り 高 く 設 計 で き る こ と が わ か っ た. Pendry はその少し前に,金属細線構造により誘電率が負 となる周波数をこちらは逆に極端に低くできることも示し ており6),図 1(b)に示すようにこの両者をうまく設計す るとある周波数で誘電率と透磁率を同時に負にできること が わ か っ た.実 は 1968 年 に,当 時 ソ 連 邦 の V. G. Veselago がこうした状況で屈折率が負となることを予言 し,負屈折媒質(光の位相速度ベクトルの向きが逆向きと なるため「左手系媒質」とも呼ばれる)がいかなる新奇な 物理現象が生じるか議論していた7).Pendry がいったい どの時点から Veselago の予想の実現を意識していたのか は良くわからない.学会で Pendry の話を聞きつけた D. R. Smith が,それならまずはマイクロ波の領域で負の屈折 率の実験をしてみようと発想し,その実証をすることにな ったという流れには,人やアイデアの接点の偶然という不 思議な物語がありそうだ. メタマテリアルによって,透磁率をいじれるということ が驚きであったのだが,その後の研究はその動作周波数を いかに高めて,光周波数における負屈折率を実現するかの 一大競走となった.負の屈折率により Veselago が予想し たのは,板状媒質による 2 重結像(図 2(a)右)やチェ レンコフ光の異常な方向への放出など幾何光学的な現象だ ったのだが,またもや Pendry が,負屈折に基づく 2 重結 像が,実は物理的には物体の全ての細かな構造の情報を完 全に伝搬する「完全結像」となることを示したことが一因 である.図 2(b)の電磁シミュレーションが示すように, 点光源から出た波面は回折限界を超えて 1 点に収斂するの である.SRR 構造を小さくすれば応答を高周波側へシフ トさせることができるが,2 重のリング構造では高周波化 に限界がある.リングの構造をより小キャパシタンスであ るシンプルな構造へ変えれば良いことが理論的解析により 予想されていた.そのため光周波数動作を目指した半導体 プロセスを駆使した極微細リング共振器の作成が試みら れ,図 1(a)に示した数百 nm サイズの C 型構造により 波長 900 nm において磁気応答が得られた9).この構造の 延長線での可視波長域での実験例もあっという間に報告さ れた.そこでは,リング構造とは異なるよりシンプルな金 属ナノ構造が発案された.いずれも図 3 に示すような貴 金属ナノ構造のペアが構成する微小な LC 回路の磁気応答 を利用したもので,数十 nm オーダのロッドペア10),ナノ ピラー11),金属膜・ワイヤペア12)13)などが金属中の自由電 子の振動(プラズモン)を介して光周波数に追従する磁気 応答を示した.金属の負の誘電率により負の屈折率が近赤 外域で実現したことを示す実験結果も示されている.作成 されている構造は,多くは 2 次元平面構造であり,負屈折 wave vector k LHM RHM RHM Source

Thanks: MEFiSTo-3D Pro http://www.faustcorp.com =1 =1.3 =1 =1 =−1 =1 RH RH RH RH LH RH (a) (b) 図 2 負の屈折率が作り出す Veselago レンズでの 2 重結像と完全結 像:(a)左は通常の誘電体スラブの場合の屈折状況,右では スラブが負屈折率になることによりスラブ内外で 2 回の結像 が生じる.(b)波動的な解析を行うと負屈折率は完全結像と なると予想されている.(RH : Right Hand, LH : Left Hand) E k B C C L 320 nm 70 nm 90 nm L μ 実部 μ 虚部 透磁率→負 1 0 0 周波数 スケールダウン +簡略化  →高周波数動作 (a) 要素サイズ・間隔 λ → 実効的な ε & μ を擬装 磁気的共鳴 1→負値 大きな負値 →小さくする 電子的応答

Split Ring Resonators(SRRs) Wire Array 両者が人工原子としてメタマテリアルを作る! make overlap 0 0.5 1 1.5 2 2.5 GAP ε<0 E ω ω ω0 μ<0 ω ω μ(ω)=1− ω2−ω 0 2 ω2 ε(ω)=1− ω2 ω2 H (b) 図 1 スプリットリング共振器(SRR)とメタマテリアル:(a)そ の構造と,磁気共鳴周波数における透磁率の変化.共振器サ イズを小型化し,キャパシタンスの小さな構造とすることに より共鳴周波数を高くすることができる.(b)細線状の金属 スプリット構造は,誘電率負となるプラズモン周波数を低く できる,両周波数の歩み寄りを実現する構造が波長以下の人 工原子として振る舞い負屈折率メタマテリアルを生み出す.

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などの現象を観測するためには構造を 3 次元に拡張するこ とが必要であり,多くの 2.5 次元構造を利用した実験が行 われている.しかし,まだ負の屈折現象および完全結像に ついては疑う余地のない結果は光領域では示されてはいな いようだ.またこの時点でのメタマテリアル構造素材が金 属であったため,吸収による損失の問題が大きな課題であ った.これに対しては,プラズモニックな応答を示しかつ 損失の小さな材料の模索が行われている14) 3.ひろがるメタマテリアル 前節の SRR 構造は,その電子回路との等価性より低周 波数(MHz∼GHz)の電波領域では,トランスミッショ ン回路に置き換え模擬できる.サイズ的にも作成が容易で あり,実効的な左手系回路を低損失で実現できるためミリ 波帯での新しいアンテナ回路など,左手系回路としての応 用面の発展が著しい1).メタマテリアルの概念は,電気回 路理論に対しては新しい回路動作の原理・視点を与えたも のと考えることができ,逆に電気回路での原理を光周波数 領域にもち込むことで新奇な光機能を見いだすという展開 も広がっている.そのためには,コンデンサ,コイルや抵 抗素子が光周波数領域での物質のどのような性質に対応し ているのかを明らかにする必要がある. N. Engheta らは,特に金属・非金属ナノ粒子などの動 作波長に比較し十分小さい構造を「ナノ回路要素」と考 え,それらを合成することで光周波数領域で従来にない複 雑な回路を構成する概念を提案している15)16).詳細は参考 文献に譲るが,彼らの基本的考え方は,金属の誘電的性質 が光周波数領域において大きく変化することに基づいてお り,図 4(a),(b)に示すように,非金属微粒子(e>0) をナノキャパシタ,金属微粒子(e?0)をナノインダクタ に対応づけている.後者においては外部電界に相当するキ ャパシタンスとの組み合わせにより共鳴的な応答が説明で き,これが局在プラズモン共鳴に相当する.微粒子の誘電 率の虚部がナノレジスタとして作用する.こうした考え方 を導入することにより,低周波数領域における電気回路構 成を正負誘電体微粒子の集合体に置き換えられ,光学的材 料の複雑な組み合わせによる新しい機能の見通しもつけや すくなる.図 4(c)では,電気回路における左手系伝送 路が上記の置き換えにより,正負誘電体の薄膜より構成さ れる光導波路に置き換えることができることが容易に理解 される.もちろん,実際の細かい設計パラメータは,従来 よりある光学材料の特性を加味し決定せねばならないが, こうしたパラダイムの導入により今後思わぬ新機能が光ナ ノ構造により実現され,メタマテリアルの新たな広がりを もたらす可能性がある. 当初のメタマテリアルの概念は,前述のような物質の光 応答の新しい見方へ発展するとともに,e, m 両者について パラメータとすることができ,しかも空間的に自由な配置 をとることにより,いわば光の伝搬空間座標を自由に変換 (transformation)できるという考え方に基づき,光学素 子そのものの設計の自由度を飛躍的に高めることができる と期待されている.この方向は,transformation optics な どとも呼ばれている.その概念を応用した代表例が,図 5 B E k 200 nm 5 μm 100 nm 金ロッド 誘導電流 金ピラー k E (a) (b) B E k 絶縁膜 金薄膜 金薄膜 ホールアレイ (c) (d) 図 3 SRR 共振器を拡張したさまざまな負屈折率メタマテリアル基 本構造:(a)では金ナノロッドペアが,(b)では金ナノピラ ーペアが入射光に対し微小な LC 回路を構成し,近赤外∼可視 域で磁気応答を示す.(c),(d)は金属薄膜 2 層で構成された 近赤外メタマテリアル. ε > 0 ε < 0 (a) (b) (c) 図 4 Engheta による光周波数領域でのナノ粒子の応答と電気回路 素子の対応付け.(a)コンデンサには正誘電率微粒子が,(b) インダクタには負誘電率(金属)微粒子が対応する.(c)こ の対応付けにより左手系の伝送路動作は IMI(Insulator-Metal-Insulator)光導波路によって実現される.

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(a)に示す,いわゆる「透明マント」の概念である17).こ れはクローキング(Cloaking)とも呼ばれ,古い世代では スタートレックなどでこの用語を聞いた方々も多いと思う が,要はその材料で覆うことでその内側を外部の電磁波に 対して完全に隠蔽してしまう外装がメタマテリアルで可能 になるというのである.Pendry 等の案では,図に示すよ うにある球状の空間の周囲にクローキング領域を設け,そ の内部の誘電率 e と透磁率 m の分布を屈折率分布型レンズ のように自由に設計する.そしてクローキング領域の外部 の任意の方向から入射した光線を,内部の遮蔽空間を避け てクローキング領域内を曲がって進み,完全に入射光線と 同じ軌跡に戻るようにする.しかも外殻表面で完全にイン ピーダンス Z/



m#e を一致させ無反射状態を作るという ものである.この状態では内部の球状空間は電磁波的に完 全に外部から不可視となる! ただし,このマントは,ピ ンポイントの 1 周波数についてのみ動作するため,実際に このマントに覆われた物質は極めて奇妙な隠れ方をするだ ろう.メタマテリアルは,まだまだびっくりするようなア イデアをもたらしてくれる.例えば,屈折率がゼロの媒質 ができると何が起こるだろうか.図 5(b)は光の入射側 と出射側で異なる表面形状をもつほとんど誘電率がゼロ (e near zero : ENZ)な物質を光が通過する際の挙動を示 している.少し考えればわかるように,Snell の法則で n/0 だと全ての光は屈折角がゼロつまり法線方向となる. 結果として,どんな波面の光が入射しようと出射面の波面 はその表面形状に沿ったものに変換されるのである.ま た,先の SRR 構造を異なったアンテナ構造に置き換えて 新たな機能を生みだそうという試みも盛んだ.例えば,長 さの異なる金属ロッドペアや図 5(c)に示すような,異 なる周波数応答を示す金属ロッドセットを 2 次元的に並べ ると,単一のロッドではある周波数を中心にブロードな吸 収特性が得られるのに対し,例えば図の例では左のロッド ペアのサイズとそれと右の太い単一ロッドの間隔を適切に 設計することにより,太いロッドの共鳴周波数でそのエネ ルギが左のロッドペアに移行し輻射されることで,吸収最 大の周波数で却って透明状態になるような機能を模擬でき る19)20).この現象は,電磁誘導透過(Electrically Induced Transparency : EIT)と呼ばれる光非線形現象と類似の現 象で,量子光学での応用が期待されているが,それを人工 的に設計できる可能性を示している.また,アンテナの形 状もさまざまで,図 5(d)のような「く」の字型の提案 もある.詳細は省くが,この曲げ角を変化させると入射す る光の偏光方向に応じて輻射される光の位相が制御でき る.そのため異なる角度の「く」の字アンテナを分布させ て並べると一種の複合位相板を作ることができる.図の例 では,それによって渦巻き状の位相分布(ラゲール・ガウ ス分布)を人工的に作り出すフィルタを実際に作成してい る.こういったアンテナ構造も自由に配置し設計すること で,これまでできなかった光学素子が作成されるようにな るだろう. 4.つくるメタマテリアル さて,これまで見てきたように,いわばメタマテリアル は微小なアンテナ構造をその特性と配置を含めて 3 次元空 間内で自由に設計することにより,いろいろな夢を見てい る段階であるといえる.「目」で見える形でのデモンスト レーションは,マイクロ波領域以外ではほとんどなされて いない.筆者も,目の黒いうちに本当に負屈折媒質スラブ で 2 重結像を起こすところを見てみたいものであるが,果 たしてどうだろう.冒頭に述べたように,実は本当にメタ マテリアルを光領域で使うための最大の技術的ハードル は,その作成技術にある.ここまで述べてきたうち,確か に光周波数での実際の実験が数多く行われている.そし て,今のところ,デバイスの作成のほとんどは,半導体プ ロセスによっている.しかもほとんどは 2 次元的な素子に 留まっており,最近ようやく積層技術を併用した 2.5 次元 のデバイスが図 6(a)に示すように実現している20).同 等の素子を大量に並べるタイプのメタマテリアルなら,半 導体プロセスで良いのだろうが,より複雑かつ厚みをもっ た素子として実現するためには,3 次元性を生かした光加 工技術や,メカニカルな加工法およびそれらを複合した新 しい概念の加工・生産方式が必要となりそうだ. 半導体プロセス以外のメタマテリアル作成法としては, 3 次元の構造を一度に作成する方法としては,図 6(b) ENZ ゼロ 屈折率 クローキング領域 遮蔽領域 インピーダンス マッチング (a) (b) → → 0 5 10 15 20 0 10 20 600 500 400 300 Frequency(THz) 600 500 400 300 =40 nm =40 nm (c) Einc Ea Es Ea Es a ^

Symmetric mode Antisymmetric mode

5 μm Δ s ^ (d) 図 5 ひろがるメタマテリアルの概念:(a)メタマテリアルによる 座標変換光学にもとづくクローキング技術,(b)誘電率ゼロ 材料による波面変換,(c)アンバランスな金属ロッドペア構 造による電磁誘起透過デバイスの作成例,(d)屈曲アンテナ 構造による散乱波の位相操作とそのアレイ化による位相変換 デバイスの例.

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に示す 2 光子吸収光造形とマイクロレンズアレイなどを組 み合わせた方法があげられる21).2 光子吸収光造形は,集 光されたパルス光の集光点のみでレジンを硬化できるため 3 次元的なマイクロ造形に適している.出来た造形物表面 に金属をメッキしたり,それを鋳型にして金属を電鋳する こともでき,金らせん構造による偏光素子などが作成され ている22).また,金属微粒子などを複数自己組織的につな いだり固定する方法もさまざま研究されている.図 6(c) は理研で研究されているユニークな方法で,上図は大きさ の異なる反磁性・常磁性微粒子を磁界の中に置くことで, 大きな粒子の赤道に沿うように磁性の異なる微小粒子を配 列する方法で,金微粒子をネックレスのように配置しリン グ共振器を目指すものである23).また,(c)下図のよう に,最近 DNA 折り紙などで有名となった DNA 鎖の選択 的な結合性を利用して金微粒子を結合させることが試みら れている24).2∼4 個のナノ金微粒子を選択的につなげた 構造が大量かつ選択的に作成でき,磁気的な応答が観測さ れれば面白いメタマテリアル候補となるだろう.先にも述 べたが,現状ではプラズモニックな応答を利用するため金 属の構造の作成が主流であるが,金属は原理的に吸収の影 響を逃れられないため,透明な導電性材料の可能性も探索 され,低損失のアルミ添加亜鉛(AZO)などが有望視さ れている.今後は,こうした材料面からの研究も加工法を 含めていっそう活発化することが期待される. 5.お わ り に 駆け足で,メタマテリアルの世界を眺めてきたが,とに かく 2000 年という比較的最近立ち上がった研究分野であ るにもかかわらず,マイクロ波,THz,光と幅広い周波 数領域にわたった莫大な研究が進んでおり,現状としては やや混沌とした状況にあるように感じられる.よくよく考 えてみると支える理論的な背景では,本質的な物理の変化 はなくエンジニアリング的な側面が濃い分野であることが わかる.わずかな視点の広がりがあっという間にさまざま なアイデアを生み出したという意味では,発想の転換次第 で工学の分野もまだまだ新しいネタが転がっていることが わかる.メタマテリアルにちなんで「メタメカニズム」と か「メタ材料」といった精密工学での新しい観点を考えて みてはいかがだろうか? 参 考 文 献 1) 例えば加藤純一:あなたは右利き? 左利き?∼Web でたどる 左手系マテリアルの世界(1),(2)∼,光学,33(2004)138 お よび 195.石原照也他:特集 メタマテリアル∼左手系を中心と して∼,光学,bf 36(2007)554 など. 2) J. B.ペンドリー,D. R.スミス:光学技術に革命を起こすスー パーレンズ,日経サイエンス,10(2006).

3) D.R. Smith, W.J. Padilla, D.C. Vier, S.C. Nemat-Nasser and S. Schultz : Composite Medium with Simultaneously Negative Permeability and Permittivity, Phys. Rev. Lett., 84 (2000) 4184. 4) R.A. Shelby, D.R. Smith and S. Schultz : Experimental Verification

of a Negative Index of Refraction, Science, 292 (2001) 77. 5) J.B. Pendry, A.J. Holden, D.J. Robbins and W.J. Stewart,

Magnetism from Conductors and Enhanced Non-Linear Phenomena, IEEE Trans. Microwave Theory and Tech., 47 (1999) 2075.

6) J.B. Pendry, A.J. Holden, W.J. Stewart and I. Youngs : Extremely Low Frequency Plasmons in Metallic Mesostructures, Phys. Rev. Lett., 76 (1996) 4773.

7) V.G. Veselago : The Elecrodynamics of Substances with Simultaneously Negative Values of e and m, Soviet Physics Uspekhi, 10 (1968) 509.

8) J.B. Pendry : Negative Refraction Makes a Perfect Lens, Phys. Rev. Lett., 85 (2000) 3966.

9) S. Linden, C. Enkrich, M. Wegener, J. Zhou, T. Koschny and C.M. Soukoulis : Magnetic Response of Metamaterials at 100 2 μm 2 μm 2 μm (a) Cover glass Resin Objective lens Relay lens Laser beam Microlens array x-y z 200 μm 250 μm 1 μm x―y z 金らせん構造22) fs レーザ マイクロレンズ アレイ 対物レンズ レジン (b) Side view ext ext Top view 常磁性金粒子 反磁性中心粒子 Au 微粒子 反発力 DNA 鎖 (c) 図 6 さまざまなメタマテリアルの作り方と自己組織化の利用:(a) 積層技術を半導体プロセスと組み合わせた 2.5 次元メタマテリ アル作成例,(b)マルチスポット 2 光子吸収光造形法と金ら せん構造の作成例,(c)自己組織的な金微粒子配列法の例. 上:磁界中に置かれた磁性流体中の常・反磁性微粒子同士の 相互作用を利用した金ネックレス配列,下:DNA 鎖結合を利 用した金微粒子ダイマー,トライマーの作成法.

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Terahertz, Science, 306 (2004) 1351.

10) V.M. Shalaev, W. Cai, U.K. Chettiar, H. -K. Yuan, A.K. Sarychev, V.P. Drachev and A.V. Kildishev : Negative Index of Refraction in Optical Metamaterials, Opt. Lett., 30 (2005) 3356.

11) A.N. Grigorenko, A.K. Geim, H.F. Gleeson, Y. Zhang, A.A. Firsov, I.Y. Khrushchev and J. Petrovic : Nanofabricated Media with Negative Permeability at Visible Frequencies, Nature (London),

438 (2005) 335.

12) S. Zhang, W. Fan, N.C. Panoiu, K.J. Malloy, R.M. Osgood and S.R.J. Brueck : Experimental Demonstration of Near-infrared Negative-index Metamaterials, Phys. Rev. Lett., 95 (2005) 137404.

13) G. Dolling, C. Enkrich, M. Wegener, C.M. Soukoulis and S. Linden : Simultaneous Negative Phase and Group Velocity of in a Metamaterial, Science, 312 (2006) 892.

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15) N. Engheta, S. Salandrino and A. Alú : Circuit Elements at Optical Frequencies : Nanoinductors, Nanocapacitors, and Nanoresistors, Phys. Rev. Lett., 95 (2005) 095504.

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17) J.B. Pendry, D. Schurig and D.R. Smith : Controlling Electromagnetic Fields, Science, 312 (2006) 1780.

18) A. Alú, M.G. Silveirinha, A. Salandrino and N. Engheta :

Epsilon-near-zero Metamaterials and Electromagnetic Sources : Tailoring the Radiation Phase Pattern, Phys. Rev. B, 75 (2007) 155410.

19) S. Zhang, D.A. Genov, Y. Wang, M. Liu and X. Zhang : Plasmon-Induced Transparency in Metamaterials, Phys. Rev. Lett., 101 (2008) 047401.

20) N. Liu, L. Langguth, T. Weiss, J. Kästel, M. Fleischhauer, T. Pfau and H. Giessen : Plasmonic Analogue of Electromagnetically Induced Transparency at the Drude Damping Limit, Nat. Mater.,

8 (2009) 758.

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22) J.K. Gansel, M. Thiel, M.S. Rill, M. Decker, K. Bade, V. Saile, G. von Freymann, S. Linden and M. Wegener : Gold Helix Photonic Metamaterial as Broadband Circular Polarizer, Science, 325 (2009) 1513.

23) K. Aoki, K. Furusawa and T. Tanaka : Magnetic Assembly of Gold Core-shell Necklace Resonators, Appl. Phys. Lett., 100 (2012) 181106.

24) T. Ohshiro, T. Zako, R. Watanabe-Tamaki and T. Tanaka : A Facile Method towards Cyclic Assembly of Gold Nanoparticles Using DNA Template Alone, Chem. Comm., 46 (2010) 6132.

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