米国DOE・エネルギー情報局(EIA)のレポートを主なベースとして、地中海東岸地域の エネルギー産業について、前回に引き続き紹介する。対象はシリア、イスラエル、キプロス、 ヨルダン、レバノンの5ヵ国とパレスチナ自治区の1地区である。 1. 地中海東岸地域の石油精製(図 1 参照) 地中海東岸地域には稼動している製油所は5 つしかなく、そのうち 2 つ(シリアの 2 製 油所)は減量運転中である。当該地域の石油精製能力は内需を満たすには不十分で石油製 品の不足分を輸入している。唯一、イスラエルのみ内需に応えられる国であるが、いくつ かの石油製品を輸出している反面、内需を満たすため石油製品の追加輸入を余儀なくされ ている。同国は2 製油所を保有し、1 つは Haifa(13 万 BPD)もう 1 つは Ashdod(9 万 BPD)に位置し、合計公称能力は 22 万 BPD である。 シリアは2 つの国営製油所をもち、1 つは Homs(10.7 万 BPD)もう 1 つは Banias(13.3 万BPD)に位置し、合計公称能力は 24 万 BPD である。現在、Homs 製油所付近のパイ プラインとインフラが損傷しているので実際の精製能力は少ないと見られる。因みに、 2013 年 2 月にシリアの首相は Homs と Banias の製油所はそれぞれ 70%と 79.5%で稼動 していることを示唆した。シリアはベネズエラ・イラン・マレーシアと共同でHoms 近く のFurqlus に 14 万 BPD の製油所を建設する協定を結ぶ可能性を残している。ヨルダン ではZarqa に 1 製油所があり公称能力は 9 万 BPD である。 キプロスとレバノン両国は一時、製油所を稼動していたが、数多くの経済問題と安全問 題により閉鎖してしまった。パレスチナ自治区には製油所はない。因みに、閉鎖された製 油所はキプロスのLarnaca 製油所(2.7 万 BPD)とレバノンの Tripoli 製油所(2.0 万BPD) およびZahrani 製油所(1.8 万 BPD)である。
図 1 地中海東岸地域の製油所の位置図(□印が製油所) 2. 地中海東岸地域のエネルギーインフラ 2.1. 概要 地中海東部地域は戦略的な地理条件を備えている。中東の石油生産国と欧州市場の間に 位置し、近くには原油と石油製品の国際航路の重要なチョークポイントとなっているスエ ズ運河がある。最近のLevant Basin(キプロスとイスラエルの沖合)での大規模な天然ガ ス田の発見は地中海東部地域をエネルギートランジットハブに変えようとする取り組みを 生き返らせた。当該地域に国際石油パイプライン・天然ガスパイプライン・LNG プラン ト・石油ターミナルを建設する提案がある。 現在のところ、当該地域には稼動している主要な国際パイプラインはただ1 本しかない。 数年内にエネルギートランジット機能を果たすかもしれないとされる、休止したパイプラ インや提案済のパイプラインは数多く存在している。ただし、計画は当該地域の治安と経 済問題を含むいくつかの難問題に直面しながら進めなければならない。特にエジプト・イ ラク・シリア・トルコにおける治安状態が国際パイプラインプロジェクトの実行可能性に 影響を与え続けるだろう。 Zarqa Banias Homs Haifa Ashdod
レバノン・シリア向けの天然ガスはほとんどストップしている。エジプトは又、過去数年 間に亘りイスラエルへの輸出パイプライン(el-Arish→Ashkelon)を経由して断続的に送 気してきたが、現在は使用されていない。 AGP の最近の稼動状況にも拘らず、当該地域のエネルギー分野の協力は可能である。特 に天然ガスの最近の発見が地中海東部地域における供給側の展望を変化させた。政策立案 者たちはこれらの発見が内需を満たし、最終的に当該地域がエネルギートランジットハブ になることを望んでいる。既にイスラエルとキプロスは新しく発見された天然ガスを輸出 することを計画している。しかし、“どのように”、“どこに”は未定である。両国にLNG プラントを建設する案があるが、輸出ガスパイプラインを敷設する案も残っている。 図 2 地中海東岸地域の石油・天然ガスパイプラインの経路図 Ashkelon El-Arish
図 3 アラブガスパイプライン(AGP)の詳細経路図 2.3. 輸出用インフラ キプロスはVasilikosにLNG基地を新設し、Aphroditeガス田から天然ガスを輸出しようと 計画している。プラントと付帯配管の予備基本初期設計(pre-FEED)を2013年内に終え、 2015年に着工し、早ければ2019年に稼動開始の予定である。キプロスとイスラエルの天然 ガスを合わせて処理できるようにLNG生産能力年間500万トンのプラントを3系列設置し、 キプロスは当該地域のエネルギートランジットハブを目指す。 一方、イスラエルは地中海の同国沿岸沖に浮体式LNGプラント(FLNG)を設置し、天 然ガスをLNGとして輸出する計画を立てている。現在、当該Tamar FLNGプロジェクトは 第2フェーズに進んでおり、2017年までに稼動開始する予定である。プラント能力はLNG生 産年間300万トン×1系列である。陸上にLNGプラントを設置する案があったが、コストと 安全上の問題で保留となっている。又、イスラエルは紅海沿岸のEilat港をアップグレードし、 天然ガス貯蔵設備(16万m3)を設置しRamat Yotam基地(120万m3)と接続する計画であ
2.4. 輸入用インフラ シリア~イラク間の2つの石油パイプラインについて、イラクのAin Zalahとシリアの Suweidiyaを結ぶ比較的小口径のパイプラインのみ稼動しているが、今後シリアの紛争がこ のパイプラインを脅かすかもしれない。一方、イラクのKirkukとシリアのBaniasを結ぶも う1つのパイプラインは2003年の米国主導のイラク侵攻でダメージを受け停止している。修 理して再開すると協定で誓約したにも拘らず、現在の政情ではその可能性はない。 シリアには数多くの計画された石油と天然ガスパイプラインプロジェクトがある。1つは イラク原油をシリアの地中海沿岸に送り、そこからさらに国際市場へ送る石油パイプライン を2本建設する計画である。第1番目のパイプライン(能力150万BPD)はイラク北部から重 質原油を送る。第2番目のパイプライン(能力125万BPD)はイラク南部の油田から既設の Haditha-Baniasパイプラインに沿って軽質原油を出荷するものである。当該協定にはイラ ク南部から発しイラクのBaijiのエネルギーハブとリンクしながらバグダッドとシリアとの 国境まで延伸する天然ガスパイプラインを1本建設する計画も含まれているが、シリアの治 安情勢が改善するまで大きく進展しそうもない。 アゼルバイジャンから発する天然ガスパイプラインは2012年内に運用開始した筈であっ たが、シリアの内戦による建設の遅れから2013年4月時点でストップしている。 2011年5月、イラン・イラク・シリアはイラン産天然ガスをイラク経由でシリアへ送る三 ヵ国協定を締結したが、現在の政情と治安状況に拘らず三ヵ国は当プロジェクトへの関心を 維持している。イスラエルは現在、パイプライン経由での石油輸入をしていない。ロシア原 油を紅海に運ぶことについて議論がなされてきた。計画されたパイプラインはロシア原油を 黒海経由でトルコのセイハン輸出基地に運ぶもので、さらにその原油はセイハンからタンカ ーでイスラエルのAshkeln港に運ばれ、最終的に既設のインフラを経由してイスラエルを通 過し紅海近くのEilat基地に至る。但し、このプロジェクトについての議論は未だ予備段階で ある。 ヨルダンはエネルギーセキュリティを強めるためいくつかの石油と天然ガスパイプライ ンの敷設を検討している。提案された1つのパイプライン(当初能力最大100万BPD)はイ ラク原油をバスラから紅海沿岸のAqabaへ送るもの。建設されれば、ヨルダンのZarqa製油 所を活性化できる。又、同様のルートに沿わせて走らせる天然ガスパイプラインの計画もあ るが、その天然ガスの大部分を石油パイプラインを稼動させるためのポンプステーションと 発電プラントに使うとしている。同時にヨルダンのAqaba港に石油基地を新設する計画があ
さらに、ヨルダンはAqabaの石油基地にLNGターミナルを併設する計画である。事前資 格審査の申し込み期限は2013年5月で、ヨルダンのエネルギー天然資源省は2014年後半に最 初のLNGの受入れすべきであると示唆した。その後さらに、同省は再ガス化能力約1,400万 m3/Dの浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)の設置を求めている。 3. 国別のエネルギー事情 3.1. シリアのエネルギー事情 シリア(図4)におけるエネルギー資源の 探査と生産は2011 年における混乱の始まり とともに低下し始めたが、同国は厳しい制裁 とエネルギーインフラの損傷に直面しながら も生産量の最大化に最善を尽くし続けている。 シリアの油田と天然ガス田の大半は同国の中 部とイラクとの国境近くの東部に位置してい る。それらはシリアの紛争が続けば益々脅威 に晒されることになる。 2006 年~2010 年におけるシリアの平均石 油生産実績は41.1 万 BPD であったが、この 期間中を通して徐々に減少してきた。軍事衝突と経済制裁により、平均石油生産量が2011 年3 月の 38 万 BPD から 2013 年 3 月には 11.7 万 BPD と、紛争前レベルから約 70%減 少した。2011 年のシリアの石油消費量は 25.8 万 BPD・石油生産量は 33.1 万 BPD だっ たが、同国の石油精製能力には限りがあり、石油製品の輸入を余儀なくされている。即ち、 2011 年以前でさえ、国内石油需要を満たすまでの石油製品の生産はできていなかったので ある。 2011 年に先立って、シリアは石油製品の内需を緩和するため天然ガス事業の拡大を計画 した。同国の天然ガスのほとんどは商用と家庭向け及び発電に使われているが、同時に石 油回収にも使う努力をしている。2000 年~2011 年間、同国の油田に天然ガス総生産量の 約17%が再注入された。又、全ての既存の火力発電設備(多くは石油製品を燃焼している) を天然ガス焚きに変換することを計画しているが、少なくとも短期間では達成できないと 思われる。正常操業の最後の年に当る2010 年に、シリアは 89 億 m3 の乾性天然ガスを生 産した。だが、2011 年には 12%減って 77 億 m3 に、2012 年はさらに落ち込むと見られ ている。インフラの損傷と石油生産量(石油回収にかなりの量の天然ガスを使用)の落ち 込みが相まって、天然ガスの内需量は減っている。 図 4 シリアの概略地図
年の23.3 万 BPD・最大が 2011 年の 26.3 万 BPD であった。加えて、2011 年において同国 は地中海東岸地域で第2 番目の天然ガス消費国 でもあった。輸入に依存しているイスラエルの 石油消費と異なり、過去10 年間の天然ガス消 費の大半に国内産を充当している。イスラエル は全てのエンドユーザーに天然ガスの使用を増 やすよう望んでいるが、増加する必要量を満た すため国内産の天然ガス生産量をより多く増や さなければならない。同国は2017 年内に天然 ガスの純輸出国になる見通しである。 2000年に発見されたMari-Bガス田はイスラエル市場へ国内産天然ガスを大量供給し内 需の40%をカバーしたが、2012 年になると同ガス田は終末期を迎え生産量が急激に減少 した。2002 年には 0.1 億 m3 しかなかったイスラエルの天然ガス総生産量は 2012 年には 42 億 m3 を超えた。近年、イスラエルの天然ガス消費量は増えており、2000 年の 0.1 億 m3 から 2010 年には 37 億 m3 のピークを記録した。国内市場は天然ガスを選択し、他の エネルギー源からのシフトを続けている。2013 年初頭に Tamar ガス田が生産開始した。 一方、Leviathan ガス田は 2016 年に最大 2,120 万 m3/D で生産開始する予定である。 3.3. キプロスのエネルギー事情 現在、キプロス(図 6)は石油も天然ガスも 生産していない。EIA は 2011 年のキプロスの 全一次エネルギー需要の 98%が石油製品であ ったと推定した。2000~2011 年間の平均石油 消費量は5.5 万 BPD、ピークは 2008 年の 6.0 万BPD であった。石油価格が同国の経済を左 右する主な要素となっている。最近のキプロス での天然ガスの発見により、天然ガスが石油製 品に代わることが期待されている。早ければ 2017 年に海洋の Aphrodite ガス田から天然ガ スを生産開始する計画である 図 5 イスラエルの概略地図 (緑色部分はパレスチナ自治区) 図 6 キプロスの概略地図
3.4. ヨルダンのエネルギー事情 ヨルダン(図7)の国内産の炭化水素資源(石 油と天然ガス)は2011 年の同国のエネルギー 需要の3%に過ぎない。政府統計によれば、2011 年の一次エネルギー需要の 80%超を石油が占 めている。過去数十年に亘り、ヨルダンはほん の僅かの石油を生産してきた。1986 年(0.1 万 BPD 生産)以降は減り続け 2012 年には零とな った。ヨルダンの天然ガス分野は成長するいく らかの可能性を示している。 最も期待される天然ガス生産の可能性は Risha ガス田で、2012 年に約 40 万 m3/D 生産 した。当局は2015 年までに 850 万 m3/D 超にアップするよう期待している。2000~2011 年の天然ガスの年間平均生産量は2.7 億 m3、2006 年がピークで 3.1 億 m3、国内生産量 はいくらか内需を満たしてはいるが、天然ガス需要の多くを輸入に依存し続けている。天 然ガス消費量は 2008 年にピーク(30.6 億 m3)を記録したがアラブガスパイプライン (AGP)の損傷により 2011 年には 10.7 億 m3 まで減少した。ヨルダンは発電所(50 万 kW)の燃料としてオイルシェール資源の生産と使用を計画しており、2017 年内に運転開 始する予定である。 3.5. レバノンのエネルギー事情 レバノン(図 8)の石油需要は 2011 年に 4 年前より5.5 万 BPD 増えて 13.4 万 BPD を記 録した。同国は未だ発見されていない海洋のガ ス田からの天然ガスが内需を満たすことを期待 している。エネルギー水道省の最近の資料はエ ネルギーミックス中で天然ガスの比率を 2030 年までに2/3 に上げるよう計画しているが、こ れからの天然ガス探査が隣国イスラエルのよう に成功しないと目標達成は困難と思われる。 図 7 ヨルダンの概略地図 図 8 レバノンの概略地図
71%を石油製品が占めており、数年後には 80% に達すると見られている。 4. 地中海東部地域の政治的および社会的な諸問題 地中海東部地域はイスラエルとアラブ諸国間のパレスチナ問題を始め、イスラエルとレバ ノン間の領海論争、エジプトとイスラエルの海上境界線問題、イスラエル・パレスチナ(ガ ザ地区)・エジプト間の海図の不確実性、トルコ系キプロス人とギリシャ系キプロス人のキ プロスの覇権問題、キプロス・エジプト・トルコ間のキプロス島周辺の領海論争、キプロス のマクロ経済危機など複雑な難問題を数多く抱えている。これらはエネルギー資源の争奪や エネルギープロェクトの進捗などに波及するであろう。 <出典および参考資料>
(1) 米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、Eastern Mediterranean Region
http://www.eia.gov/countries/regions-topics.cfm?fips=EM
(2) 外務省ホームページ、各国情勢
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/index.html
(3) Wikipedia 、Eastern Mediterranean
http://en.wikipedia.org/wiki/Eastern_Mediterranean
(4) Wikipedia.org
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/3/38/EasternMedMap.JPG
(5) Wikipedia 、Palestinian territories
http://en.wikipedia.org/wiki/Palestinian_territories
(6) Wikipedia 、Shale oil
http://en.wikipedia.org/wiki/Shale_oil
(7) Wikipedia 、Oil shale
http://en.wikipedia.org/wiki/Oil_shale
以上 図 9 パレスチナ自治区の概略地図
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
までお願いします。
Copyright 2014 Japan Petroleum Energy Center all rights reserved 次回のJPEC レポート(2013 年度 第 29 回)は
「中国のプロパン脱水素プラント」 を予定しています。