シンガポールの概要と
建設市場の現状
牛頭
豊
清水建設(株)執行役員国際支店副支店長(兼)シンガポール営業所長 支部通信 ›››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››› シンガポール1.
シンガポールの概要 最近はニュース報道や旅番組のロケ先などでもだいぶ認 知度が上がってきたが、まず最初に改めてシンガポールに 関する概要を簡単にご紹介したい。計量的なものは、スケー ル感が分かるように日本との比較で各種数値を以下に並べ た。(星…シンガポール / 日…日本) ①面積 星:718km2(東京23区と同程度) 日:377,900 km2 ②人口 星:547万人(内シンガポール人・永住者は387万人) (2013年9月現在) 日:1億2,710万人(2015年12月現在) ③名目GDP 星:2,927億3,000万ドル(2015年)39位 日:4兆1,232億6,000万ドル(2015年)3位 ④ひとり当たり名目GDP 星:52,888ドル(2015年) 7位 日:32,486ドル(2015年)26位 ⑤実質GDP成長率% 星:2.00%(2015年)119位 日:0.47%(2015年)162位 ⑥貿易額 星: 輸出 4,095億3,600万ドル(2014年)14位 輸入 3,660億1,600万ドル(2014年)15位 日: 輸出 6,838億5,000万ドル(2014年)4位 輸入 8,222億5,000万(2014年)4位 ⑦民族 中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3% ⑧言語(公用語) 英語、中国語、マレー語、タミール語 ⑨宗教 仏教、イスラム教、キリスト教、道教、ヒンズー教 これらの情報から読み取れるのは、国土も人口も、日本 の10分の1以下の小さな国だが、国の規模から比べると、 GDPや貿易額は十分な額であり、ひとり当たりのGDPで は日本を遥かに凌駕するほどの裕福な国であるということ だ。また、中華系を中心とした多民族国家であり、宗教や 言語も民族に応じて多様性を見せている。2.
歴史と歩み シンガポール共和国は、1965年にマレーシア(当時は マレーシア連邦)からの分離、独立というかたちにより建 国された。マレー人優遇政策を採ろうとするマレーシア中 央政府と、イギリス植民地時代に流入した華人を中心とす 410,000 400,000 390,000 380,000 370,000 360,000 350,000 340,000 330,000 320,000 310,000 名目 GDP 実質 GDP 対前年伸び率(2010 年基準) 7.0% 6.0% 5.0% 4.0% 3.0% 2.0% 1.0% 0.0% 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 図1 名目GDPと実質成長率の推移 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 名目GDP総額 342,513 355,281 370,065 388,170 402,460 実質GDP 対前年伸び率 (2010年基準) 6.0% 1.9% 4.1% 3.3% 2.0%るシンガポール人民行動党(PAP)との間の軋轢の激化が、 独立に至った直接的な原因と言われている。 独立時に建国時の首相リー・クアンユー氏が行った演説 の中で、氏が涙を流して国民に訴え、鼓舞する姿はつとに 有名である。しかしながら、その涙は独立を祝してのもの ではなく、マレーシア連邦から「独立」したと言うよりも むしろ「追放」された自国の将来に対する不安と絶望から 出たものであったとも言われている。 では、その小国が独立から50年を経て、どのように世界 に冠たる金融立国にのし上がったのだろうか。 何より、建国直後から外資規制や国内市場保護政策を捨 て去り、政府主導で積極的な外資の導入政策を取ったこと が功を奏したと言える。同時に外資が進出しやすいビジネ ス環境をつくるため、第一言語としての英語教育の強化、 徹底的な実力主義の導入によるエリート養成、旧宗主国か ら受け継いだ先進国並みの法インフラの整備などを進め、 その結果アジアの金融センターと呼ばれるほど国外から キャッシュを呼び込むことに成功した。 時に強権的とも言える人民行動党(PAP)の一党支配体 制は、反面、政権の安定性という意味では、他の東南アジ ア諸国と比べても海外からの投資に対するナショナルリス クを軽減させる効果をもたらし、また、時宜を得たスピー ド感のある政策を次々に打ち出すことを可能にした。 さらには、政府の強力なリーダーシップは、政府系ファン ドから国内の各企業に注入される資本を通じて民間企業の 経営活動をも支配し、政府と企業が一体となったいわゆる 開発独裁と言われる方法で力強い経済体制をつくり上げた。 世界銀行公表の「ビジネス環境ランキング2016」によれ ばシンガポールは引き続き世界第1位の座を維持しており、 海外からの最も良好な投資先のひとつと見なされている。 豊かになる反面、世界の諸国と同様、所得格差の拡大な ど問題がないとは言えないが、少なくともひとり当たり名 目GDPでは日本を遥かに上回るほどの裕福な国へと発展 を遂げたことは事実である。
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カジノの経済効果 テレビや報道などで「マリーナベイサンズホテル」はご 覧になったことがあるだろう。ホテルの上に船が載ってい る独特の形状の建物である(写真1)。 写真1 マリーナベイサンズ ホテルの開発は2010年にラスベガスのカジノ・リゾー ト運営会社ラスベガス・サンズによって行われ、ホテル内 には、世界最大級のカジノが併設されている。カジノと言っ ても、Integrated Resort(IR)と呼ばれる国際会議場や展 示場、レストランなどを合わせた複合施設で、その経済効果 は目を見張るものがある。セントーサ島(シンガポール国内 のリゾート地)のもうひとつのIRと合わせた建設投資額だ けでも約1兆円、直接雇用2.6万人、売上高は5,000億円ほ どと言われGDPの1%を占めるまでの主要産業となった。 日本国内でもひところ議論されたようにカジノの存在 そのものは、依然として賛否両論あるが、適切な管理の下、 その経済効果をきっちりと吸収して抜かりなく経済成長に 役立てているところは、流石万事抜け目のないシンガポー ル政府というところだろうか。4.
国防と軍事費について 経済的発展のあらましは上記の通りだが、ここで簡単に 国防体制、軍事に関しても、下記で触れておきたい。 2015年度 軍事費 星:94億1,700万ドル(GDP比 3.2%) 日:408億8,500万ドル(GDP比1.0%) (出展:ストックホルム国際平和研究所) シンガポールというと、金融と貿易に特化した平和な小 さな島国というイメージだろうが、意外にも国防のための 軍事費は、対GDP比率では日本よりも遥かに大きく、また、 ナショナル・サービスとしてすべての男子は17歳に達し た段階で(進学の場合は延期可能)2年間の徴兵制度、兵役 終了後も13年間の予備役制度が義務付けられている(免 除制度は原則なし)。このように、強い経済を支える根底に は強い国防体制があり、それがまた一層、シンガポール国民としてのアイデンティティ、連帯感をつくり出している と言われている。
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リー・クアンユー氏の逝去とその後の動向 日本国内でも大きく報道されたが、昨年(2015年)3月 23日、リー・クアンユー氏が91歳でその生涯を閉じた。 同氏は、1965年のシンガポール独立から1990年まで首 相職を務め、その後も上級相、内閣顧問を歴任し同国の建 国の父と称された。その政治手法は時に、開発独裁、強権 的とも評されることもあったが、資源の乏しい東南アジア の小さな島国を世界に冠たる金融立国へ押し上げたのは、 間違いなく同氏の功績のたまものである。その死後は、政 治的にも経済的にも目立った混乱はなく、同年9月に行わ れた総選挙でもリー・クアンユー氏の長男リー・シェンロ ン首相が率いる人民行動党(PAP)は、全89議席中83議 席を獲得し前回に引き続き圧勝した。(なお、2011年に行 われたその前の総選挙は87議席中81議席獲得) この結果は、リー・クアンユー氏の建国の父としての存 命中の政治的功績が、その死後も国民の中で一定以上の評 価を得ていることの証左であると言える。6.
マクロ経済の動向 さて、次は経済の動向について少し記載する。 実質GDPの成長率自体は、建国以来、最高値を記録した 2010年の14.8%以降、緩やかに下降しているが、これは 以前のような爆発的な成長期を終えて安定的な成長期に 入ったからであり、経済活動に関しては、引き続き持続的 な成長が見込まれるとするのが支配的な論評である。また、 シンガポール貿易産業省(MTI)によると2016年の実質 GDP成長率は1.0∼3.0%と、前年と同様の「控えめ」な 成長になるとの見通しだ。中国経済の減速など外部需要の 改善が見込めず、また、世界経済の先行き不透明感が深ま る中、シンガポール経済の行方についても当局は慎重な見 方を示している。7.
建設市場の動向と短期予測 次に建設市場の動向についてだが、まずは建設投資額の 推移をご覧いただきたい。 最高記録を更新した一昨年の2014年度(387億6,000 万ドル)に比べ、昨年2015年度は大きく落ち込む結果 (272億2,000万ドル)となってしまった。民間の新築住 宅投資額の大幅な減少が主要な原因となっており、一部で はコンドミニアムの供給過剰と不動産価格の下落がささや かれている。このような状況を受けて政府(BCA:シンガ ポール建築・建設庁)が発表している2016年度の建設投 資額の見込みは、 最小:27.0億ドル 最大:34.0億ドル 公共工事 最少:185億ドル シンガ ポール 項目 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 (速報値) 2016年(見通し) 最少 最大 建・土別 建築 住宅 15,300 11,850 15,960 11,290 7,640 6,600∼ 8,100 商業施設 4,210 2,990 3,730 3,820 2,160 1,900∼ 2,500 工場 6,220 6,420 5,490 6,630 5,370 4,000∼ 5,400 その他 3,020 4,690 3,680 7,120 6,620 3,800∼ 5,200 建築計 28,750 25,950 28,860 28,860 21,790 16,300 ∼ 21,200 土木 6,740 4,810 6,940 9,900 5,430 10,700 ∼ 12,900 建・土計 35,490 30,760 35,800 38,760 27,220 27,000∼ 34,000 官・民 公共工事 15,280 9,520 14,890 19,220 14,000 18,500 ∼ 21,500 民間工事 20,210 21,240 20,910 19,540 13,220 8,500∼ 12,500 官・民計 35,490 30,760 35,800 38,760 27,220 27,000∼ 34,000 日本円換算@80円 = 億円 2兆8,392億円 2兆4,608億円 2兆8,640億円 3兆1,008億円 2兆1,776億円 2兆1,600億円 ∼ 2兆7,200億円 日本 日本国内での名目建設投資額 43兆2,900億円 45兆2,900億円 51兆2,900億円 51兆3,000億円 50兆100億円 - - 49兆6,100億円 実績 実績 見込み 見込み 見通し - - 見通し 図2 建設投資額の推移 (単位:百万シンガポールドル)出典:Singapore Building & Construction Authorityウェブサイト
最大:215億ドル 民間工事 最少:85億ドル 最大:125億ドル となっており、昨年度から減少にはならないが、若干の増 加程度に留まることが予想されている。 項目別に見ると、民間工事全般に関しては、引き続き新 築住宅への投資が奮わず、昨年度の数値を下回る見込みだ が、それを補うかのように、公共工事の投資額の大幅な増 加が見込まれている。その内訳はHDBと呼ばれる公営の 大型集合住宅の新築・改築、地下鉄の延長工事や給排水用 トンネルなどの大型土木工事となっている。民間の投資が 低調な時は公共工事にて補い、経済活動の停滞を防ぐとい う、このあたりの構造は日本も同様、世界でも共通して見 られることだが、国の規模が小さく民間大手企業の多くに 国営資本が注入されているこの国の場合は、より大胆に実 行できるものと言われている。 さて、中期的な展望に目を移すと(2017年∼2020年)、 BCA(シンガポール建築・建設庁)が発表している数値に よれば、 2017年/2018年 最少:26,000百万ドル 最大:35,000百万ドル 2019年/2020年 最少:26,000百万ドル 最大:37,000百万ドル と、非常に幅を持たせた予測を発表している。これは、近年 になく低迷した2015年の数値(272億2,000万シンガポー ルドル)をボトムラインとして、この数値以上は達成したい という意思が感じられるような発表数値と言えるだろう。
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おわりに 今年、2016年は日本・シンガポールの外交関係樹立か ら50周年の記念すべき年となる。既にここシンガポール には、多くの日系企業が進出し、両国の経済的な関係は切っ ても切れないほど緊密なものとなっている。また、建設業 に関しても多くの日系建設会社が進出しており、日系各社 にてシンガポール国内のモニュメントになるような重要 な建物や公共工事を受注してきた。法インフラが整備され フェアな発注が行われると言われているこの国では、今後 も国外の建設業者が引き続き、大型案件を受注していくこ とが可能であると見込まるので、中国勢や韓国勢との厳し い競争に負けず、日系建設会社の心意気を示していく所存 である。民主化へのロードマ
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(株)タイ鴻池副社長 支部通信 ›››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››››タイ1.
はじめに 私は、本寄稿が会報「OCAJI」に掲載される頃には、通 算のタイ勤務が17年となる。その赴任期間には、2004年 のスマトラ島沖地震による津波、2006年のクーデター、 2010∼11年のいわゆる赤シャツ(反政府側、タクシン派) の政府に対する大規模デモ、2011年の大洪水、2014年5 月には、戒厳令、プラユット総司令官(当時)によるクーデ ターなどさまざまな出来事が、毎年のように発生していた。 大津波、大洪水を除いた政治・治安に関する出来事につい ては、日本の各種報道とは温度差があり、日本での心配を よそに、治安の不安定に慣れているタイ人およびタイの国 民性によるものか、特段危険を感じることもなく過ごせ、 今となっては、年中高温で季節感のないのも相まって、遠 い過去のような気もしている。 現在、政治において、最大の関心事である民主化のロー ドマップについて、簡単に述べたいと思う。 まずは、世界の政治、経済・金融に多大なる影響を与え ると言われ、全世界が固唾を飲んで見守っていた、EU離脱 の是非を問う英国の国民投票が、去る6月23日に行われ たが、ここタイにおいては、憲法起草委員会(CDC)に策 定された民主化への第1ステップである新憲法案の賛否を 問う国民投票で「微笑みの国」の国民の判断が注目される。2.
クーデターからこれまでの経緯 まずは、クーデターからのこれまでの経緯だが、2014 年5月22日に、クーデター発生、その後、プラユット総司 令官(当時)率いる国家平和秩序維持団(NCPO)により、 2007年憲法の破棄、同年7月、2014年暫定憲法が公布。 その後、同年8月に発表された1本目の草案(通称:ボー ウォーンサック版)は同年9月に国家改革評議会(NRC) によって否決され、それを受け、今年(2016年)1月29日 に2本目の草案(通称:ミーチャイ版)が発表された。 *草案の通称は、おのおの、憲法起草委員会(CDC)の 委員長のボーウォーンサック氏、ならびに、ミーチャイ氏 の名前からきている。3.
民主化へのロードマップ タイでの民政化の第1ステップは新憲法の制定である。 何故なら、新憲法の公布、関連法案が制定されなければ、 新たな総選挙の実施が不可能なためであり、現在、今年8 月7日にミーチャイ版の賛否を問う国民投票が予定されて いる。また、その後のロードマップとしては、承認の場合 は、選挙法の制定、来年6月総選挙、同年7月新政権の発足 の見通しと言われている。しかし、プラユット首相は今年 6月1日に、国に秩序が戻らない限り、首相に留まる旨の 発言をするなど、政府の公表通りに民政復帰が進むかは不 透明な面があることは否めず、また、もし憲法草案が国民 投票にて否決された場合は、CDCでの草案策定作業やり直 し? 廃止憲法の復活? 暫定憲法の改正(修正)? な ど言われている。クーデター後に公布された2014年暫定 憲法には、否決の場合の明確な規定はないと言われており、 否決の場合は、民主化の道がさらに遅れることは否めない と思われ、8月に予定されている草案の可否を問う国民投 票の結果が注目される。4.
ミーチャイ版の主な骨子 現状、公開されている主な内容は、以下の通りとなって いる。 ①上院の200議席すべてが任命制 ②国軍最高司令官ら治安当局トップに上院の6議席の付与 ③首相に就任できる資格は下院議員以外でも有資格 ④下院(選挙区300議席+比例150議席)の単独過半数を 占めるのが困難な選挙制度へ ⑤独立機関(特に選挙委員会、国家汚職防止取締役委員 会)の権限強化 ⑥憲法裁判所の権限強化 ⑦憲法改正条件のハードルを高くミーチャイ版は、暫定憲法35条により基本方針が規定 されていることから、その方針に従った起草作業を経てい るが、最終的に、今後各方面からの意見を反映して修正が 入る可能性も否定できない。