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博士論文第15章.doc

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(1)

<第五部 地方工業集積地域における産業活性化策の在り方>

これまで本研究においては、まず第一部では、本研究の概要、目的とその方法を示し、 第二部では、本研究に関連する先行研究について体系的にサーベイし論じた。 そして、第三部では、地域産業活性化策の体系、歴史的展開、構成要素、成功要因等に ついて、研究目的を達成するための基礎となる諸要因を抽出し論じた。 第四部では、事例地域における実践研究を通じて、地方工業集積地域の産業活性化策に 関連する応用的な知見を整理し論じた。 第五部では、ここまでの各部における諸論を総合し、地方工業集積地域における産業活 性化策の在り方について論じることとする。 まず、第15章にて地方工業集積地域におけるグレードアップ型産業活性化策について 論じ、諸提言をまとめる。そして第16章にて、本研究の各章において得られた成果につ いてまとめることとする。最後に、第17章においては、本研究を通じて明らかとなった 今後の課題について論じることとする。

第15章 地方工業集積地域におけるグレードアップ型産業活性化策

本章においては、第四部までの知見を総合し、地方工業集積地域のグレードアップを通 じた産業活性化策について論じ、諸提言を行う。 15.1項ではグレードアップ型地域産業活性化策のロジックについて、15.2項で は地域経営資源、地域インフラの整備策について、15.3項では地域イノベーション創 出システムの構築策について、それぞれ論じ、諸提言を行うこととする。 最後に、15.4項にて、第15章のまとめを行う。

15.1

グレードアップ型地域産業活性化策のロジック

本項においては、地方工業集積地域におけるグレードアップ型地域産業活性化策のロジ ックについて論じることとする。 15.1.1項では、グレードアップ型地域産業活性化策のフレームワークについて、 15.1.2項では、グレードアップ型地域産業活性化策の有効性と限界について、それ ぞれ論じることとする。

15.1.1

グレードアップ型地域産業活性化策のフレームワーク

第1章で定義したように、産業活性化とは、「産業がさらに活力を持つ状況に転ずること」 である。地域経済の視点で考えると、1)既存地域産業が一層の活力を備える場合、2)新しい 活力ある地域産業が生まれる場合、の二通りに地域産業が活力を持つ状況は分類される。 本研究において地域産業活性化とは、上記 1)、2)のいずれか、あるいは両方のパターン を通じて地域産業が活力を持ち、自立的発展状況に到達することに他ならない。地域産業

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活性化策とは、自律的発展状況に至るメカニズムを機能させるための政策とする。 グレードアップ型地域産業活性化策とは、一定水準の既存工業集積が見られる地域をグ レードアップさせようとする産業活性化策である。 本項では、(1)地域産業活性化のメカニズム、(2)地域産業のポジショニング戦略、(3) グレードアップのための政策、について論ずることとする。

(1)地域産業活性化のメカニズム

地域産業活性化のメカニズムは、図15−1に示される通りである。 地域産業活性化の、最初の契機は、地域外需・地域外経営資源の流入(Ⅰ)によりはじまる。 地域外需の流入は、企業家が市場において事業機会をつかむことにより生じる。 地域外経営資源の流入は、地域外からの投資や人材移入等を通じて生じる。 これらは、地域外からの富の移転である。 地域外需確保はフローベースの富の増加につながり、地域外経営資源の流入はストック ベースの富の増加、富を生み出す資源である人材の増加に帰結する。 地域の富が増大すると地域内需・雇用が拡大(Ⅱ)し、経済的活況がもたらされる。 図15−1 地域産業活性化のメカニズム 一方、Kruguman,P.(1994)はかつて、アジア危機前のアジア諸国の成長について、かつ てのソビエトの資源投入の急増による経済成長と類似したものだという有名な指摘を行っ ている。この指摘はその後のアジア経済危機の時期に、まさに正鵠を得た論理であったと の評価を受けた。資源投入による成長ではなく、技術革新により生産効率が向上するかど

Ⅳ.自律的発展

イノベーション等による

生産性向上

経済的活況

Ⅲ.地域内経営資源の

量的拡大・

質的向上

Ⅱ.地域内需・

雇用の拡大

Ⅰ.地域外需・

地域外

経営資源の流入

富の移転

地域産業の経済性

(3)

うかに着目すべきというのがKrugman の主張である。 本研究においても、こうした観点を重視している。 単に投入増によりもたらされる経済的活況に終わることなく、地域内経営資源の量的拡 大・質的向上(Ⅲ)を通じてのイノベーション創出等により生産性が向上することが、真の地 域産業活性化につながるという考え方である。 自律的発展(Ⅳ)に入ると、地域産業の経済性が発揮され、競争優位性が確保される。 従来型の工場誘致政策は、図15−1に示されるⅠ、Ⅱのフェーズまでは良いが、Ⅲ、 Ⅳのフェーズに課題がある。 一旦、工場誘致に成功すると、需要は地域外から自動的に搬入され、地域外からの投資 も行われる。(フェーズⅠ) その結果、地域の所得は成長し、内需は拡大し、雇用も創出される。(フェーズⅡ) しかし、その後、フェーズⅢにおいて、地域内経営資源の量的拡大、質的向上は必ずし も保証されない。企業誘致で成功を収めた工業集積地域悩みはここにある。 第11章において事例として取り上げた岩手県北上市は、組立型大手企業を誘致し、次 には幅広い生産技術型中小企業を誘致することに成功した。 最近では、岩手大学の研究室の誘致にも成功した。一方、グローバル経済の進展と我が 国の高度成長の終焉を前提とすると、ここから先は、北上のような力のある地域であって も外発型政策の手詰まり感は否めない。 誘致型工業集積地域が、その延長上で地域内経営資源を量的拡大・質的向上するには、 製造工場をマザー工場化し、マザー工場を本社工場化する機能誘致が有効である。 しかし、これは国内のどこかの地域からその機能を奪うゼロサムゲームであり、タイミ ングが重要である。我が国においては、1980年代後半にこの機能誘致政策を仕掛ける タイミングがあったが、ほとんどの自治体は、この政策に本腰を入れることは無かった。 また、イノベーション等を通じた生産性向上には、それを創出する企業家が不可欠であ るが、誘致された製造工場には技術者・技能者はいても企業家はいない。つまり、誘致に 徹するのであれば、企業誘致ではなく企業家誘致の時代に入っているのである。 北上市の隣の花巻市は、Uターン企業家をインキュベーションセンターに呼び込むと行 った正当な努力を続けているが、成果を数字で出すには長期的な視点が必要となる。 Schumpeter,J.A.(1926)は、新結合を遂行することがイノベーションであり、新結合には、 1)新しい財貨の生産(新製品開発)、2)新しい生産方法の導入(新生産技術開発)、3)新しい販 路の開拓(新市場開発)、4)原料や半製品の新しい供給源の獲得、5)新しい組織の実現、の5 つの場合があるとしている。 ここでは、1)はプロダクトイノベーション、2)はプロセスイノベーション、3)、4)、5)は 組織間連鎖と組織内連鎖を意味するのでバリューチェーンイノベーション、と現代流に再 定義することとする。 誘致された製造工場においては、プロダクトイノベーションの機能はない。

(4)

バリューチェーンイノベーションについても、全体のトータルコーディネートは通常本 社にて実施されるため、機能的には限定される。 改善を通じた漸進的なプロセスイノベーションについては製造工場主導で取り組むこ とが出来る。 しかし、VEによる部品点数削減等の本格的な改善には、設計機能を必要とする。 清成(1998)は、Kirzner,I.M.(1997)の企業家的発見理論をベースとして、企業家とは、市 場機会に敏感に反応する事業家であるとしている。 プロダクトイノベーション、バリューチェーンイノベーションのうち顧客とのインター フェースに企業家の本領が発揮される。 誘致型の工場は、企業家不在が故にこの部分のイノベーションを創出出来ない。 Watts,H.D.(1987)が指摘しているように、初期段階のR&Dは、新製品開発と関係し、 生産地点に必ずしも結びつかない。大学や公的研究機関、ベンチャーキャピタルや専門サー ビスの利用可能性がプロダクトイノベーションに影響するからである。 分工場として進出した時点で既に成熟段階に入っているために、非大都市圏域への工場 拡散が起こるのである。 自治体がプロダクトイノベーション志向の内発型政策に転じる場合は、推進役となる企 業家の存在が不可欠である。

Rothwell,R. & Zegveld,W.(1982)が述べているように、大企業の分工場より、独立した小 企業の方が、技術革新政策の良き理解者となる。

大企業の研究機能は東京周辺に局地的集中する傾向があるためである。

ただし、小企業の技術革新は地方市場の技術的必要性に左右される場合がある。

Rothwell,R. & Zegveld,W.(1982)が指摘しているように、技術革新における中小企業の優 位性は、1)高級品市場や一定の技術領域内における特殊な能力、2)事業機会をとらえた迅速 な行動、3)組織内の良好なコミュニケーション、にある。 反面、中小企業の劣位性は、1)技術革新のための人材、2)外部とのコミュニケーション、 3)経営の専門知識、4)資金調達、5)規模の経済とシステムアプローチ、6)政府規制への対応 能力、7)成長に伴う諸問題、にある。 地方工業集積地域において内発型政策を進める場合、既存企業家の有無、企業家輩出可 能性の有無が問題となる。一定の集積がある場合は、Rothwell,R. & Zegveld,W. の指摘する 優位性を伸ばし、劣位性を減じるのが政策の要点となる。

(2)地域産業のポジショニング戦略

グレードアップ型地域産業活性化策を立案するには、地域実態に基づくポジショニング 戦略を持つ必要がある。つまり、自らの地域はどのような位置付けを狙っていくのかとい う産業活性化策の基礎となるコンセプト確立である。 我が国の各地方工業集積地域にも様々な集積条件がある。

(5)

それをどのように変化させていこうとするかがポジショニング戦略の核となる。 筆者が第四部で示したように、徹底的な精査を地域内で実施することが戦略立案の際の 基礎となるが、地域産業の特徴を直感的に把握する手法も同時に必要となる。

地域産業の特徴を把握するための視点としては、様々な切り口が考えられる。

Markusen,A.(1996)は、地域産業集積のパターンを、1)Marshallian Industrial District、 2)Italianate Variant、3)Hub-and-spoke District 、 4)Satellite Industrial Platforms 、 5)State-anchored Industrial District、の五つに分類している。1)は小規模な地域企業間の 取引が密なタイプであり、2)は 1)に対するデザイン等のウェートを高めた変形型である。 3)は大手企業と中小供給業者が混在する集積パターンであり、4)は分工場の集積、5)は軍 事基地や研究機関等の国家機関の影響が強い地域である。 橋本寿朗(1997)は、大企業中心型(大手企業内に生産工程が統合されるタイプ、あるいは 中小企業が大手企業を補完するタイプ)、中小企業中心型(産地型、大都市立地ネットワーク 型)に分類している。こうした類型化については、Markusen や橋本以外にも様々な考え方 があり得る。類型化を行う際には、分析の目的とその主旨が重要となる。 Markusen の類型は、やや地理的分析と機能的分析が混在している。 橋本の類型は、中心となっている企業の規模を切り口としている。 表15−1 地域産業類型化の主たる切り口 主たる切り口 概 要 中心的需要搬入企業の特徴 <分類例> 1)企業規模 大企業/中小企業 2)多様性 複数企業/単一企業 3)機能 本社/マザー工場/分工場 4)埋め込み性 コミュニティと同化/貢献/遊離 地域産業集積の特徴 <分類例> 5)産出される財 生産財/資本財/消費財 6)集積の形式 外部経済型/特定企業内中心型 7)技術・スキル 製造技術/研究開発/企画 8)自律性 企業家集積/下請け集積 9)公的セクターの影響力 公的セクター中心/民間セクター中心 10)立地条件 需要・技術の集積地との距離大/小 地域産業を類型化する際には、無数の切り口を考案することが可能である。表15−1 に示される通り、10種類の主たる切り口が少なくとも存在している。 地域産業は、中心的需要搬入企業と地域産業集積の特徴により類型化が可能である。 中心的需要搬入企業の企業規模がどの程度であるのか、複数の需要搬入企業が存在して

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いるのか一社依存であるのか、本社も地域内にある地元企業なのかマザー工場なのか分工 場なのかといった点は類型化の際に重要な視点である。 また、中心的需要搬入企業が、地域に埋め込まれた(embedded)存在であるのかどうか。 具体的にはコミュニティに同化しているのか、よそ者として貢献しているのか、距離を 置いて遊離しているのかも重要である。 地域産業の産出物を切り口とする方法もある。 例えば、地場産業は主として消費財を生産し、企業城下町は主として生産財を生産する。 集積のスタイルが外部経済活用型なのか、大手企業の工場内にブラックボックス化した 工程が閉鎖的に存在しているのかでもタイプは異なってくる。 技術・スキルが製造に特化しているのか、研究開発を包含しているのかも重要な切り口 である。「IT産業集積」という表現は、産出物ではなくある特定の研究開発の技術・スキ ルが集積している状況を表現している。 自律性のある企業家の集積が見られるのかどうか、公的研究機関等の公的セクターが大 きな影響力を有しているのかどうかも重要な切り口である。 我が国の筑波研究学園都市、アメリカのワシントンDC等は公的セクターのウェートが 相対的に高い地域である。 立地条件としては、需要・技術の集積する地域への距離・アクセスが切り口となる。 我が国では、需要地としても技術集積地としても東京圏が際だっている。東京圏に近く、 顧客への納入に便利で、研究開発上の接触の利益が得られる地域かどうかという大別が可 能である。 一方、これらの類型化を通じてどのように地域産業活性化策を立案すべきなのだろうか。 こうした地域産業の類型化は、研究者が地域の実態を把握する上では有益だが、地域産 業のポジショニング戦略を立案する上では違うフレームワークが必要となる。 それはイノベーションを創出しなければ、自律的発展にはつながらないという点に着目 した類型化である。 第一次調査時に、筆者は予備調査として地域製造企業を百社訪問した。 その中で、機械金属系の製造技術は大部分が枯れた技術であり、この分野では社歴の若 い新規創業企業はほとんど見られなかった点に気がついた。 戦後の我が国の製造分野では、ファナックのようなIT分野、ミスミのようなバリュー チェーン分野、さらには材料技術分野にイノベーションが起きているが、基本的な製造技 術そのものは戦前の延長線上にあった。 第一次調査当時、シリコンバレーではIC(インド人、中国人)等の外国人が続々と入り込 み、新規創業が活発に行われ、日進月歩のIT技術革新を支えていた。 こうした彼我の比較から、技術革新速度への対応という切り口の重要性が認識された。 一方、本論文にて公表していないが、同時期に地域のニット製造企業群を調査したこと もあった。一社を除き、各調査対象企業は問屋経由でニット製品を販売していた。

(7)

問屋の卸先である百貨店業界はマイナス成長であり、成長する量販店には低価格の中国 製品が次々と並ぶため、地域ニット関連企業の年商は低下する一方であった。 燕三条の問屋依存する洋食器メーカーも同様の状況であった。 調査結果を受けて、地域産業ネットワーク学会でニット産業振興をテーマとする研究会 を開催したところ、自前の店舗での販売も行っているニット製造企業一社のみが積極的に チャンスをつかみ、研究会の場でマッチングが成立して新製品開発につながった。 つまり、自前の店舗で顧客の需要変化に日々対応している企業家のみが、イノベーショ ンを創出したのである。その他の企業は、「日本製は高級品」と言いながら、その価値を問 屋には認めてもらえず、日々中国製品に駆逐されていた。 市場の変革速度への対応という切り口の重要性が認識された。 図15−2 地域産業のポジショニング分析(野長瀬 1998a) そうした観点から、図15−2に示される、地域産業のポジショニング戦略の分析手法 が確立された。 縦軸に市場の変革速度をとり、横軸に技術革新速度をとる。 そして、現在の地域産業のポジションと今後の目指すべきポジションを明確化すること がこのポジショニング分析の要旨である。 伊丹敬之(1998)は、1)外部から需要を持ち込む企業(需要搬入企業)、2)外部から持ち込ま れる需要の変化に対応する柔軟性、の二つが重要であると述べているが、本研究において は、さらに技術革新に対する柔軟性かつ迅速な対応の必要性をポジショニング分析のコン セプトに含めて示している。

市場リンケージ型

先進集積地型

キャッチアップ型

技術リンケージ型

市場

変革速度

遅 ← 技術革新速度 → 速 先進集積地型 技術リンケージ型 市場リンケージ型 キャッチアップ型  直接金融、一級人材の吸引、  多彩な企業家輩出経路など  研究開発による差別化、  知的所有権戦略、技術の複合化など  マーケティング能力の高い企業群、  ブランディング、コーディネート力など  規模の経済性、コストリーダーシップ、  参入障壁の構築など 地域産業 タイプ 競争優位性確保 のための

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地域の明確なポジショニング戦略を持ち、その戦略との整合性に留意し産業活性化策を 運用していく必要がある。 技術と市場の変化速度が共に速い領域は、「先進集積地型」である。 直接金融的手段によるミルク補給のシステム、多彩な企業家輩出経路、及び国籍にこだ わらず有能な一級人材にチャンスを与えるシステム等が確立された地域が優位に立つ。 この典型がシリコンバレーモデルである。 技術と市場の変化が共に遅い領域は、「キャッチアップ型」である。 新興工業国に見られるパターンであり、我が国がかつてそうであったように、一定の参 入障壁を築き自国内に企業を育て、規模の経済性、コストリーダーシップ等で優位に立と うとするモデルである。 海外企業の直接投資により技術移転がなされ、地域内のジョブホッピングを通じてスピ ルオーバーが加速されるという図式で能力アップしていく場合が多い。 先に紹介したニット産業では技術革新速度があまり早くはない。 市場の変革速度に対応する努力を放棄したなら、キャッチアップ型の象限に入ってしま うので、新興工業国との競争において優位性を確保することが困難となる。 そこで、市場の変化が速く技術の変化が遅い領域、「市場リンケージ型」の象限にポジシ ョンを移す努力が必要となる。 市場リンケージ型の象限にシフトするには、マーケティング能力、ブランディング、コー ディネートが必要となる。イタリアモデルに代表されるように、消費財産業では、この象 限に入ることが競争優位の条件となる。 太田地域の機械金属系産業も製造技術面の技術革新速度が遅いので、キャッチアップ型 に入るリスクが高い。現状では、地域の主軸である自動車産業がグローバルな競争力を保 っているので問題点が表面化していないものの、中国への自動車産業の本格移転時代を目 前とし、より有利なポジションにシフトしていく必要性が極めて高い。 技術の変化が速く市場の変化が遅い領域は、「技術リンケージ型」である。 この領域では、研究開発による差別化、知的所有権戦略、技術の複合化等が重要となる。 地域を技術リンケージ型にシフトさせるには、製品開発型企業、研究開発型企業、応用 技術型企業の集積、産学官ネットワーキングの促進等が必要である。 太田地域の機械金属系新分野進出企業の調査において優良事例企業は、市場リンケージ 型の象限にシフトして成功していた。 同調査では、技術リンケージ型の象限にシフトしようとした企業の失敗例が見られた。 技術に不確実性が大きい場合、中小企業には、必要なスキルを外部から容易に調達でき る事が望ましい。 この点について、中小企業庁と中小企業事業団が支援するコーディネート・ネットワー ク研究会で、筆者らは、太田地域と広域多摩地域、を比較分析している。 広域多摩地域には26の理工系大学が立地し、大企業の技術研究所、製品開発型中小企

(9)

業、等が多数集積している。 それに対して、太田地域には、大企業の工場は多数あるものの、研究開発型拠点は少な く、技術集積面では条件が悪い。 条件が悪い地域においては、規模の小さい企業が技術リンケージ型の象限に参入する上 で、広域連携を通じて技術リソースを確保することが重要である。 地域内にリソースが無ければ、コーディネータ間の連携を通じて地域外から持ってくる といった貪欲な地域産業活性化策を持つ必要がある。 図15−3 地方工業集積地域に適したポジショニング 現状において、ある程度の地力を有する地方工業集積地域の一般的なポジションは、図 15−3に示される通り、ややキャッチアップ型に軸足を置いたものとなっている場合が 多い。世界中から一流の人材を集めてくるシリコンバレーモデルに対抗する先進集積地型 の地域産業モデルを創出することは、現状の我が国では想定しにくい。 もちろん、MLBにおいて日本人野球選手達が活躍しているように、個別企業であるト ヨタ自動車がアメリカのビッグ3を打ち負かすことはあるかもしれない。 しかし、トヨタ自動車の地元中京地方から世界一の要素技術を開発するベンチャー企業 が次々と現れて、トヨタに続く大企業が多数生まれるかというと別問題である。 地域産業活性化のためのポジショニング戦略は、図15−3に示されている通り、リス クの高いキャッチアップ型から、軸足を市場リンケージ型あるいは技術リンケージ型にシ フトしていくというのが現実的である。

(3)グレードアップのための政策

図15−3に示されたポジショニング戦略を採ることは、多くの工業集積地域において

市場リンケージ型

先進集積地型

キャッチアップ型

技術リンケージ型

市場 変革速度 遅 ← 技術革新速度 → 速

技術リンケージ型

=ターゲット2

市場リンケージ型

=ターゲット1

現状

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必要不可欠である。一方、こうしたポジショニングシフトを地域産業活性化策として仕掛 けていくと、その過程で、現在グローバル化の荒波に直面している多くの製造系企業は付 いていくことが出来ない可能性がある。 結果的に、適切な方向性に舵を切ることが出来る企業家、すなわち強者が生き残るとい う構図になるだろう。清成忠男(1997)による、「我が国では産業集積解体が進展している」 という時代認識は、本研究における基本認識となっている。 第四部において調査対象となった意欲的企業の多くは、地域の事業所数が減少したとし ても生き残るための努力を続けている。 問題は筆者の調査対象としなかった平均的な中小企業群である。 アメリカにおいて、農業従事者は戦後一貫して減少しているが、アメリカの農産物生産 は減少せず増加している。 サービス経済化の流れの中で、我が国の地方工業集積地域においても、今後それと類似 した傾向が見られる可能性が高い。現に、第四部にて紹介した通り、事例地域の製造品出 荷額等は伸びているが、その反面、工業系事業所数は減少している。 工業系事業所数や従業者数は緩やかに減少しつつも、力のある企業はさほど従業員を急 増させずに生産性を向上させて新しい仕事を確保していく。 図15−4 新たな21世紀型産業集積地の登場 そして、製品開発型企業、研究開発型企業、応用技術型企業は、技術上・マーケティン グ上の不確実性を減少させるために「接触の利益」を求めて、広域的ネットワーキングに 参加する。多彩なスキルを有する知的人材の集積により形成される“場(Field)”から高感 度な情報が得られる「知的集積の経済性」という思想が重要となっていく。 地域内連携 地域内連携 国内広域連携、 グローバル連携 国内広域連携、 グローバル連携 地域間連携 地域間連携 ・高速道路網の普及 ・円高の影響による企業の海外進出 ・アジア諸国の技術水準の向上 ・高速情報網整備 新産業・地域 の産業集積

新たな21世紀型

産業集積地の登場

変革圧力 変革圧力

(11)

図15−4に示されている通り、我が国においては、経済のグローバル化の中で既存の 産業集積の解体が進んでいる。かつては、日本の近隣諸国には先進的な工業集積地域は未 形成であり、しかも高速交通網の整備が遅れていた。 したがって、地域間連携は難しく、マーシャル的な外部経済が狭いエリア内で成立して いた。我が国に高速交通網が整備されるにつれ、例えば、東京の製造業が北関東や東北な どに拠点を拡大するようになった。 企業家活動も徐々に広域化し、地域間連携の時代となっていく。 急速な円高の時代には、多くの企業が海外進出し、それと並行してアジア諸国の技術水 準が向上しはじめた。高速情報通信網の整備も進み、グローバル連携の時代が到来した。 かつて地域内連携だけに依存していた既存工業集積地域の経済性は、一部の例外を除き 徐々に失われつつある。この現象を指して産業集積の解体と言うのである。 各既存集積地の中で、強い企業家が競争に勝ち残り、その活動を広域化している。 グローバル強者間連携、国内広域強者間連携が至る所で成立している。 また、成長分野、新産業分野の強者が多数活動する地域には、輸送コスト、各種取引コ ストを節約するために周辺産業が周囲に立地し、新たに他地域から良質の企業家・人材も 流入して来る。 図15−5 地域クラスター形成のフェーズと政策フェーズ 既存集積の解体が進む反面、新たな収穫逓増過程を実現する地域クラスターも、新産業 の創出と同時に生まれてくる。問題は、そうした21世紀型の集積が、我が国に誕生する のか、周辺の他国に誕生するのかである。

<政策のフェーズ>

<クラスター形成のフェーズ>

Ⅲ.集積の促進

クラスターの多様化、深化

中核企業群の

競争優位性確保

集積の原点

Ⅱ.事業の確立

Ⅰ.イノベーションの創出

自律的な発展

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点として、我が国の各地域に一定数の強者が生き残ることは間違いないが、面として強 さを保つ工業集積地域がどの程度生き残るかが問われているのである。

地域クラスター政策の各フェーズについては、図15−5に示されている通りである。 Krugman,P.(1996) が指摘しているように、産業集積のきっかけは、多くの場合ささいな 出来事である。これは、まさに複雑系におけるバタフライ効果と同様の発想である。

Krugman,P. は、複雑系の影響を強く受けた産業集積論を唱えており、Ellison,G. & Glaeser,E.L.(1997)も偶然により産業の集中が起こり得ることを示している。 発端となる歴史的な出来事(企業家活動の開始)があった後に、同種類の企業が集まり、外 部経済が成立し、臨界点を超え収穫逓増の過程に入っていく。 産業政策的にこうした状況を実現する上では、各地域の現在の状況、政策的なフェーズ を正しく認識する必要がある。 地域クラスターを形成する地域産業振興政策は、Ⅰ.イノベーションの創出、Ⅱ.事業 の確立、Ⅲ.集積の促進、の3フェーズに分かれる。フェーズ毎に政策的な重点が異なる。 イノベーションを創出するフェーズでは、才能ある企業家が触発されるきっかけや場を 作る。事業を確立するフェーズでは、クラスターの中核となる企業家セクター群が競争優 位性を確保することを支援し、集積を促進するフェーズでは、より多様性と深みを備える ことを目指すのである。 制御不能なきっかけ作りのフェーズより、むしろその後の集積促進フェーズに着目すべ きという考え方もある。例えば、大学発のイノベーションから知的クラスターを生じさせ る政策は、制御不能な部分を内包している。 Porter,M.E.(1990)は、政府の政策は、全く新しい産業クラスターの促進に努力するより、 既にできあがっているか、今まさに生まれようとしているものを強化する場合の方が成功 の可能性が高く、国の中にクラスターがあればそれが自己強化の発端となると論じている。 本研究の第14章においては、既存工業集積地域におけるネットワーキングの実践研究 より、弱連結を通じたきっかけ作りと強連結に転じた後の事業化支援は表裏一体の運用と すべきというコンセプトが示されている。この点においてPorter の持論を一歩進めたもの となっている。Ⅰ∼Ⅲの各フェーズを弱連結と強連結のロジックを熟知したリーダーシッ プの下、統合的な運用を行っていくことが本研究を通じて示唆される。 グレードアップ型地域産業活性化策のロジックについては、図15−6の通りに示され る。Porter,M.E.(1990)によれば、新しい競争力のパラダイムは国や企業のイノベーション とグレードアップの能力をベースとしており、イノベーションは競争などのプレッシャー から生まれる。一方、どのようにプレッシャーを与えたならイノベーションが生ずるのか、 競争に勝つためのイノベーションをどのように引き起こすのか、国レベルではなく、地域 レベルでどのように競争優位を実現するかについて、各国・各地域の実態に即した個別具 体論が求められている。 地域産業レベルで競争優位性を実現するには、図15−6に示されている、1)新規創業、

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2)既存企業の既存事業強化、3)既存企業の新分野進出、4)地域外企業の移入、の四つの意欲 的企業家要因について考慮する必要がある。 こうした意欲的企業家群の競争戦略を支援し、多数かつ多様な勝ち組企業が地域に立地 することが政策の目標となる。 面としての地域クラスター構築が成功するかどうかは不確実性に満ち溢れている。 しかし、点として強者が多数生き残るように支援することは、政策的にターゲットが十 分絞り込まれている。筆者が第四部において論じた調査対象企業群は、強者、あるいは強 者候補生であった。地方工業集積地域において、この層の各企業について、その気になれ ば個別戦略を全数調査することは可能である。 図15−6 グレードアップ型地域産業活性化策のロジック 数多くの強者が生き残っている地域に、良質のイノベーションが生起すると、地域クラ スター構築のチャンスが広がる。 国内の各工業集積地域は、現在、良質のイノベーション機会を待つ我慢比べの局面にあ る。勝ち組企業のいない地域へと転ずるなら、波に乗るチャンスを失う。 図15−6の通り、「多数かつ多様な勝ち組企業が立地する状況」を実現した地域に、地 域産業活性化のチャンスが生まれる。 多数かつ多様な勝ち組企業が立地する状況とは、中核的企業や新興企業に国際的水準の 勝ち組企業が生まれ、国内水準の勝者、広域エリア水準の勝者、生活エリア水準の勝者も バランス良く立地している状況を指す。 研究開発型企業は国際水準を目指す必要があるが、例えばメッキ業者は広域エリア水準 (例えば首都圏北部地域レベル)の勝者であれば、地域に取り有益な存在である。 工業系サービス業については、生活エリア水準(例えば市内)の勝者であっても、場合によ っては、国際水準の企業の成功に寄与することが可能となる。 新規創業 既存企業の 既存事業強化 既存企業の 新分野進出 地域外企業 の移入

競争戦略支援

 多数かつ多様な  勝ち組企業が立地   ・国際水準の勝者   ・国内水準の勝者   ・広域エリア水準の勝者   ・生活エリア水準の勝者  活発な 企業家活動  による 地域産業  活性化

(14)

15.1.2

グレードアップ型地域産業活性化策の有効性と限界

本項においては、第三部、第四部において抽出された地域産業活性化策の成功要因と課 題をベースとして、グレードアップ型地域産業活性化策の有効性と限界について論じる。 (1)従来の政策体系、歴史的展開から抽出された諸要素、(2)先進地域事例等から抽出さ れた諸要素、(3)実践研究から抽出された諸要素、についてまとめることとする。

(1) 従来の政策体系、歴史的展開から抽出された諸要素

産業政策を有効なものとするには、第9章において示された通り、1)私的情報の把握、2) 経済的自由や独占禁止法等への抵触の予見、3)精緻かつ複雑な因果関係を見抜き不確実に閉 ざされた未来を見抜く能力、がそれぞれ重要となる。 政策が有効に機能するかどうかは、それを立案、運用する政策管理主体のこれら能力に 依存している。 企業家の重要な能力として、需要と技術の予測能力が挙げられる。 実は、政策管理主体にも深い地域産業への理解、因果関係をモデル化し抽象的に把握す る能力、先見性が必要である。「政策企業家」とでも表現される人材が政策管理主体に含ま れているか否かが、グレードアップ型政策が機能するかどうかを左右する。 第10章で示した、図10−3におけるプロの行政スタッフ、企業家精神に富む経営者、 見識の高い外部ブレーン、見識の高い首長等が良いコミュニケーションを保ち、「政策企業 家」がその中に含まれているかどうかが重要なのである。 タイムリーな意思決定を行うには、議会制民主主義のシステムの下で公正に手続きを踏 みつつもアジリティが求められる。 グレードアップ型地域産業活性化策の一つの限界は、政策管理主体の力量に依存してい ることと、不確実性を含んでいるため完全な予見はあり得ないことにある。 予見が外れた場合に、柔軟に見直しをするシステムの有無も制約条件となる。 グレードアップ型政策の不確実性は、研究開発や製品開発等の「開発行為」、あるいは新 規創業や新分野進出等の「未知領域への挑戦」に起因するものである。 また、第10章にて論じた通り、地域の企業家についての深い理解は、地域産業につい ての深い理解につながる。対物観察、対人接触を通じ、政策管理主体が、ナレッジベース 化情報を効率的に収集することが必要である。 対物観察は「訪問」が基本となる、対人接触は、1)来訪者への「応対」、2)集まりへの「参 加」、3)特定の人への「訪問」、4)特定の人達の「招集」、の4通りの方法により行われる。 暗黙知、ナレッジベース化情報を蓄積するには、自然と知識が集まり、共振する場が生 まれる状況を創り出すことが望ましい。地域産業活性化策の管理主体には、ナレッジベー ス化情報が自然と集まるような政策企業家が含まれている必要がある。

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対人接触の中で最もハイレベルなものが、自らがネットワーキングの事務局となる「招 集」である。「参加」する人より「招集」する事務局に多くの情報が集まる。 しかし、メンバーの水準の高さを確保するだけの人物鑑識眼、ホスピタリティの面で優 れた政策企業家が事務局の中心となっていることが要求される。 筆者が政策立案過程において出会った政策企業家的な人材は様々な立場にある。 国の中堅幹部である場合もあれば、上級幹部である場合もある。自治体の中堅幹部であ る場合もあれば、自治体の外郭団体の幹部である場合もある。やる気のある若手スタッフ を上司が温かくサポートしているような事例もある。 一方、そうした人材が在籍している間と、異動後の落差も痛感してきた。 政策が立案され有効に機能し、適切な修正を加えられていく時期は、“Visions Fugitive”、 つかの間の幻影のようにはかないものである。 第9章にて地域産業活性化策の体系と歴史的展開について論じた中からも、政策的な有 効性と限界が抽出された。 地域範囲の視点に基づく地域産業活性化策の体系として、1)外発的政策、2)内発的政策、 3)共通基盤整備政策、の三つを政策的な構成要素とした。 現状において、外発型政策によるグレードアップを目指す場合、従来地域に不足してい た経営資源・スキルを有する企業、諸機関を誘致することになる。 最近、各自治体が着目している外資系企業誘致については、全国的に見ると成功事例も あるが、必ずしも常にグレードアップに寄与するとは限らない。 海外においても、インセンティブを付与して誘致した企業が、すぐ撤退してしまうとい う事例があり、いくつかの地方議会等で問題となった。 外資系企業と言っても、多くの従業員は日本人であり、製造機能に特化した工場誘致で あるなら、日本企業とあまり変わらない。 それに対し、国際色豊かな研究所、大学の誘致等は、グレードアップに寄与する可能性 がある。しかし、大学や国公立研究所の誘致については政治マターである場合も多く、相 手のあることでもあり、望むなら必ず実現するというようなものではない。 内発的政策、共通基盤整備政策については、我が国では、自治体自前の財源が限られて いる上に、政策管理主体の機能が小さい自治体ほど脆弱となりがちである。 第9章では、政策分野に基づく地域産業活性化策の体系として、1)産業、市場等に関する 諸政策、2)産業立地政策、3)企業家支援政策、を主要な構成要素とし、政策全般の推移、国 と自治体の政策について論じ、さらに各歴史的展開を論じている。 産業、市場に関する諸政策については、高度成長期に成長性を過小評価してしまうとい った過ちを優秀な官僚達が犯している。一定の確率で、政府の失敗は起こり得る。 市場における調整が国家の計画よりも効率的であることは論を待たない。 Pigou,A.C.(1952)は、経済システムの働きに欠陥が見出された場合、それを政府の行動に より是正するとしている。

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一方、Coase,R.H.(1988)のように、外部性(externality)を見出した場合は政府が介入する というやり方は誤りだとし、社会的費用が発生していたとしても、それを除去するのに費 用が大きくかかるなら介入しない方がよいという考え方もある。 政府は私的組織に比べて少ない費用でことを成しうる力を持っているが、行政機構はそ れ自体、費用無しには動けない上に、政治的圧力を受け、競争によるチェック無しに作用 する。Coase は、政府が誤りを免れない存在としている。 しかし、Coase のような考え方は、理屈としては成立しうるが、公共財の供給、外部性の 存在、規模に関する収穫逓増と自然独占、幼稚産業、といった領域では、市場以外に産業 組織に対する影響力を行使する方法が有益である場合もある。 本研究においては、市場の暴力的影響力の中で、公的セクターの影響力が相対的に小さ な存在となりつつあるという時代認識に立っている。 筆者の基本認識は、現在の中央集権型の公的セクターを強化すべきというものではない。 意欲と能力のある地域には、地域産業活性化策に関する権限や財源をより大胆に委譲す べきという選別型地方分権が必要というものである。 我が国においては、いまだに社会的政策への資源配分が大きい。保護が恒常化する政策 分野では、政治の影響力が強く、非効率な配分が続いている。 Porter,M.E.(1990)は、政府の政策は自国産業を競争優位にグレードアップする基礎を築 くことであるとし、地方自治体の役割も重視している。 Porter の指摘で重要なのが、一国の産業が競争優位を確保するには、10年ないしそれ 以上の期間が必要となるという点である。一方、政治上、10年は永遠を意味するので、 国の政策も短期の経済変動に影響される。 地方工業集積地域のグレードアップ型政策については、こうした認識を持つ必要がある。 事実、第13章においてフロントランナー企業家の分析を行ったが、30歳代に創業し て、周囲から認められるのに10年以上かかる事例が多かった。 産業立地政策については、例えば、テクノポリス政策は、政治的な意図を大いに含んだ 政策であった。アメリカのシリコンバレーモデルを追随するというのが発想の原点であっ たはずであるが、実際には首都圏は外され、西日本中心に19カ所も指定した。 アメリカにおいてすら希少事例であるシリコンバレーが、日本の地方に多数生まれるこ とは考えにくく、政策は政治的妥協の産物であり、公共工事の色彩が強い。 テクノポリス法の延長上に出てきたインキュベータ整備政策も、新たな箱もの行政と化 している。我が国のさきがけであるKSPですら、IPO実績に不足し、景気低迷下で合 理化に奔走せざるを得ない状況である。新竹等のアジアのサイエンスパークに比べてもイ ンキュベーション実績で後れをとっている。地方のここ数年に出来たインキュベータは、 自治体の財政悪化による将来的な機能低下リスクを抱えている。

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集積活性化政策も、公共工事的側面を持ち、製造品出荷額等という指標を用いて統制し ようとするなど見直しが必要な状況である。Porter,M.E.(1990)は、国の経済目標は長期の 生産性向上以外で規定するのは誤りであると指摘している。 各テクノポリス地域の中で、政策が機能している地域は限られている。 地方圏のハイテク製造企業を育成する政策自体は不要というわけではないが、ポテンシ ャルを持つ地域に集中投資するという思想が政治的調整の結果失われたのである。 シリコンバレーに見習うべきは、スタンフォード大学という私立大学が、企業家的経営 を行い、SIPという工業団地まで造成してしまうダイナミックさである。 アメリカの州立大学は、研究能力が一定水準にある上、州に地域貢献するべき存在と位 置付けられている。日本では、地方に行くと私立大学は軽視され、県立大学は小規模で、 国立大学は文部科学省に支配されているため自治体の言うことを必ずしも聞かないという 構図が一般的である。 本来は、筑波や首都圏の高度集積地域1カ所、地方の意欲的な地域1カ所程度にしぼり、 規制緩和も含めた産学官連携の実験的試みをすべきであったが、テクノポリス法制定当時 はそうした思想は我が国になかった。 最近では、文部科学省の知的クラスター政策もコンセプトとしては間違っていないが、 集中投資と企業家的大学経営の欠如という課題を有していると言えるだろう。 テクノポリス法以来、多数の地域を政治的配慮に基づき指定し、国の財政負担を軽減す るために自治体側とのマッチング投資を行うという政策手法が流行している。 ドイツがビオレギオ政策において見せたような選別の論理、スピンオフを創出する仕組 みを織り込んだ手法が今後は求められる。 経済産業省の産業クラスター政策は、地域企業家支援の色彩が強く、その中に産学官連 携という要素が織り込まれたものとなっている。 企業家支援政策については、SBIR、SBDC等、アメリカの制度を日本流に修正し て導入したものが多い。 一方、我が国の中小ベンチャー企業政策は、二重構造論に支配されていた時代が長いも のの、知見を持つ産学官の諸先達が、そうした環境の中ですべきことをしてきた。 官は投資育成会社、VECにはじまる公的中小ベンチャー育成機関を設立し、民はVC や投資事業組合を立ち上げ、学はベンチャービジネスという概念を普及させていった。 我が国の中小ベンチャー政策は、形式的にはアメリカの手法を現時点においてかなりの 部分で模倣することに成功している。しかし、開業率の低下は著しく、その水準も低い。 風土論・啓蒙論からいまだに抜け出すことが出来ない。 本研究においては、第14章で地方工業集積地域における若者の意識調査結果の分析を 行っているが、啓蒙のフェーズを脱するには、まだ時間が必要な状況である。 ハイテクベンチャー創出、大学発ベンチャー創出については、特にアメリカに対する時 間的な遅れが著しい。経済産業省のみならず、税制を司る財務省、大学を管轄する文部科

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学省、自治体調達やITベンチャー政策を担当する総務省等の連携がキャッチアップには 不可欠である。 Porter,M.E.(1990)は、競争力ある産業を創出するのは企業であり、政府の適切な役割は、 平価切り下げ、規制緩和、民営化、製品と環境の基準緩和、企業間の協調や協力の推進、 合併奨励、税制改革、地域開発、自主規制や秩序あるマーケティング協定、全般的な教育 システムの改善努力、政府の研究投資拡大、新しい企業に融資する政府の計画、防衛やそ の他の政府調達となるとしている。 Poeter は、政府による要素創造のメカニズムについては、教育訓練、専門技能を持つ人 材の流入の分野では重要であるとの認識を示している。科学技術、インフラストラクチャ、 通貨市場、需要政策についても政府の関与が有効となりうる分野としている。

(2) 先進地域事例等から抽出された諸要素

シリコンバレーモデルについては、1)グローバル、国内、地域内の多種多様な企業家ネッ トワーク、2)世界中で最も良質の経営資源、3)スタンフォード大学やVC等の優れた一次イ ンフラ、4) 西部の革新的 Mileu(風土)、5)ハイテク企業の活発な創業、といった成功要因が 抽出される。 シリコンバレーは成功したが故の過密化に悩まされているため、二次インフラ、三次イ ンフラの整備に行政の余地があるものの、その他の行政主導の産業活性化策にはあまり依 存していない。収穫逓増過程を既に経験したシリコンバレーモデルを模倣することは難し いが、橋本寿朗が指摘しているように我が国との導管は必要である。 イタリアモデルについては、1)コーディネート企業が中心となりニッチ市場において需 要の変化に迅速対応し、2)中小企業間の連携による柔軟な専門化が成立し、3)地域に埋め 込まれた企業家が次々と誕生し、4)鑑識眼の厳しい国内需要家に受け入れられるために企 業家が競争を通じて能力向上を続けている、といった成功要因を抽出した。 各個人に依存するところが大きく、成長力に力強さが不足している点で課題がないとは 言えないが、市場規模がハイセンス人口に規定される消費財分野では妥当性を有する地域 産業モデルである。 シリコンバレーモデル同様に行政主導の産業活性化策にはあまり依存していない。 Piore,M.J. and Sable,C.F.(1984)は、大量生産システムから、「柔軟な専門化」への転換、 中小企業の柔軟な分業を通じた地域産業集積について論じている。一方、柔軟な専門化で は、技術革新の能力を維持していくことが課題となる。1)ニッチ市場向け製品で一旦成功す るとそこから抜け出す必要性が薄れ、2)技術革新を起こそうとする場合に外部とのコーディ ネートが必要となるためである。 筆者が「ニッチ企業のジレンマ」と呼ぶ状況に陥るリスクがある。 Porter,M.E.(1990)の認識は、政府の政策はシリコンバレーモデル、イタリアモデルには ほとんど寄与していないというものである。また、他国の競争優位モデルを見習っても、

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ある程度の発展段階までしか到達できないとしている。 それに対して、オースチンモデルは、誘致を起点とし、産学官連携を交えたロジックと なっており、我が国の地方自治体に見習うべきところが多いと言われている。 オースチンモデルについては、1) MCCやシリコンバレー企業等の誘致、2) Kozmetsky らの influencers の存在、3)スピンオフ企業の輩出と育成、4)産学官の緊密な連携、5) テ キサス大学という研究型大学の存在、6)優れたQOL、といった成功要因を抽出した。 一方、かつての半導体、IT分野の成功は未来永劫の成功を約束するものではなく、現 にITバブル崩壊の影響も一部に見られている。次の時代を先取りするビジョンを持ち、 それをタイムリーに実行することが現在の課題である。次世代産業のシーズを有する人材 が誘致を通じて増え、彼らがQOLに満足して定住しスピンオフ創業し、研究型大学がそ れをサポートするという成功モデルの持続が求められている。我が国では、筑波学園都市 が何故こうした成功モデルとならないのかという点が問われている。 その他の各海外地域については、アメリカ、欧州、アジアで多少の様相は異なるが、1) 中核となる研究型大学、2)スピンオフベンチャー、3)研究開発型の Anchor Company、4) 核となる諸機関の地理的近接性、という構成要素が揃っており、公的施策として、5)研究開 発支援策、6)サイエンスパーク整備策、7)産学官連携策、8)スピンオフ促進策、9)創業支援 策、が打ち出されている、といった成功要因が共通点として抽出された。 国内の工業集積地域では、産業クラスター政策の先導役とも位置付け出来る多摩地域に 注目が集まっている。 多摩地域については、都内からの移転等を通じて、大学、マザー工場、研究所をはじめ とする様々な 1)地域の経営資源、インフラが集積している。また、2)文化的な水準も高く QOLは相対的に良い。都内に通勤する住民も多く、3)高度な知識を持った人材が集積して いる、といった成功要因を抽出した。 一方、広大な多摩地域に諸要素が分散し、道路渋滞もあり、必ずしもface to face のコミ ュニケーション環境が良いとは言えない。 多摩地域には有能なビジネスコーディネートもいるが、広大すぎるために、一人のリー ダーが統括することには限界がある。「事実上の地域」を再定義し、ポテンシャルを生かす ための場をいかに作るかが課題である。 また、高度成長期以降の工業再配置政策が、多摩地域への企業や大学の立地を促進した 側面は否めないが、最近では規制緩和があり、大学等の都内回帰がはじまっている。 浜松地域については、1)一定の産業集積があり、2)テクノポリス構築に真剣に取り組んで おり、3)テクノポリス推進機構に腕の良いビジネスコーディネータがいて、3)進取の精神が ある、といった成功要因を抽出した。 一方、異業種交流的アプローチによる新事業創出、新事業創出を通じた雇用創出、産学 連携からの事業化やスピンオフ、といった部分では課題がある。 かつてのホンダ、ヤマハに相当する、新時代を切り開くAnchor Company の不在が政策

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的な選択肢を狭めている。 テクノポリス地域指定の中では優良事例地域であるが、意欲的中小企業支援と産学官連 携を切り口として、Porter が言うような10年スパンの時間軸で取り組みを評価していく 必要がある。ハイテク企業の創業促進とインキュベーションについては、地域のポテンシ ャルをさらに発揮する余地が残されている。 北上・花巻地域については、1)熱心な企業誘致と基盤整備のタイムリーな実施、2)よそ者 や異色人材に活躍の場を与える風土、3)地に足のついたローコストで熱心なインキュベーシ ョン、4)市、県、国の支援策活用、といった成功要因を抽出した。 一方、一次インフラの不足、産業集積の他律性、インキュベーション施策の即効性不足、 産学連携から事業化へつなげるノウハウの不足、が課題である。 課題の部分は、多くの地方の自治体に共通する問題であり、北上・花巻地域は正当な努 力を続けている点は称賛に値すると言えよう。 ソフト産業が集積する札幌バレーについては、1)北海道に定住可能な産業であったこと、 2)北海道大学青木教授を中心とする研究会が場を提供したこと、3)ソフト産業の急成長期に 札幌市の誘致施策がタイムリーに打ち出されたこと、といった成功要因を抽出した。 課題としては、コンテンツや自社製品の強い企業が限られていること、下請け仕事は北 京等の海外地域との競合になること、一次インフラの層が薄いこと、等が挙げられる。 地場産地の代表格である燕三条地域産業については、1)基盤技術型企業の集積、2)高度な 分業、3)大きな海外需要、を成功要因として抽出した。 一方、イタリアモデルに比し需要リンケージ機能が弱いこと、顧客ニーズ把握が商社経 由となること、ニッチ市場に対する提案能力、顧客アクセス能力が弱いこと、が課題とし て挙げられる。 東大阪と京浜地域については、世界にも類を見ない製造技術とその周辺機能の集積を成 功要因として抽出した。これら地域の課題は、先端需要、ニッチ需要、経営資源へのグロー バルリンケージである。 この問題に関連して、関満博(1993)は、日本国内に全ての産業、技術分野を抱え込むフル セット型産業構造の時代は終焉したと指摘し、今後はアジアとの新たなネットワーク形成 の時代に入り、基盤技術の多くを日本は今後東アジアに依存すると予言する。 関は、加工機能の欠落を防ぐべきだというマニュファクチャリングミニマム論を強調し ているが、問題は政策として実行可能性があるのかというところに行き着く。 筆者も関と同様の懸念を感じ、事例地域において1995年に「地域マイスター制度」 を提唱したが、当時は産業界からもっともだという意見は多く聞かれたものの、自治体の 政策には採用されなかった。21世紀に入り、群馬県がこの分野の政策を打ち出している が、筆者のコンセプトとはやや異なったものとなっている。地域においてドイツのマイス ター制度と同様の尊敬される仕組みを作り、金を稼ぐことの出来るテクノマイスターを育 成する運動を長期的に継続していくというコンセプトが求められている。

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地域マイスターは研究者ではなく実践者であり、企業ニーズに合致した複合技術を保有 している存在である。1)設計、2)プログラミング、3)製造技術に関する一貫したスキルを保 有している他、4)設備保全が出来るというものである。 これだけの複合化されたスキルを保有している人材であれば、企業家は、工場を一つ安 心して任せることが出来る。 実際に、4)以外を全てこなすことの出来る地域マイスターの実例を調査したことがあるが、 その人は中小企業にスカウトされ、大手企業並の処遇を受けていた。

(3)実践研究から抽出された諸要素

実践研究においてはコーディネート活動を通じて、地方工業集積地域におけるソフトな 支援策の有効性と限界について明確化された。 広域的競争力を持つ地域企業、新製品開発等に意欲的な地域企業をピックアップしたネ ットワーキングは、目的を純化すると会員数が少なくなり、会費収入も限られてくる。 会費収入を増加させようとするなら、意に染まない会員を勧誘することとなり、「第二商 工会議所化」する。資金力のある大手企業を勧誘すると中小企業は遠慮してしまう。 公的機関が事務局となってネットワーキングを行うと、通常は、地域の大手企業にまず 話を持っていき、選別をせずに入会希望者を全て受け入れて失敗する。 筆者の場合は、運営委員の意見を聞き、企業の入会を断ったこともある。 目的を純化し、運営をイノベーションの担い手である意欲的企業家に限定した結果、地 域産業ネットワーク学会は筆者の手弁当のウェートが大きくなった。 市役所、商工会議所、第三セクター企業との互助的ネットワークにより運営したが、こ れら機関は人事異動が頻繁にあった。人事異動のフォローには、かなりの工数を取られる。 特に、熱心であった人材の後任者が、ネットワーキングの価値を理解できないタイプの 場合は、フォローに一定の努力が必要となる。 人事異動のない意欲的企業家達とは、継続的なネットワーキングが可能であった。 ただ、有能な企業家ほど多忙であり、筆者が多忙となるに応じて、公設民営型のバック オフィスが必要となった。多忙な会員の時間節約を狙い、昼食時間を活用するビジネスラ ンチというスタイルも試行錯誤した。 地域の実力派の企業群に貢献するためには、ビジネスコーディネータにも地域外で通用 するスキルが要求される。しかし、地域外で能力が認められるほど、地域内にいる時間が 少なくなるというジレンマと直面することになる。 インターネット時代を迎え、ネットで交流する方策も、情報リテラシー研究会、ネティ ズン育成プログラム等で検討した。しかし、企業家達との有効なコミュニケーション方法 は、依然としてface to face であり続けた。 シリコンバレーにおいて、インターネットと人的ネットワーキングを重視するスマート バレー公社が発足したが既に解散し、我が国において設立されたスマートバレージャパン

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も実質的に解散状況にある。 人材異動の激しいシリコンバレーで、安定的かつスピーディなネットワーキングを実践 することは、インターネットを活用したところでそう簡単なことではない。我が国におい てネットワーキングを実践する際には、スキルの低い秀才達がイニシアティブを握ると、 実力派の企業家や泥臭い支援を日常的に実施している支援家は失望し離れていく。 また、ネットワークは人材の入れ替わりが激しくなるとマネジメント不能に陥り、人材 が固定的になると徐々に高齢化しイノベーションが起きにくくなる。ネットワークは年を とるという現実を、筆者も体験している。 この辺りの案配が難しく、毎日丹精して育てていく手間が必要となる。 新しい技術を紹介する産業技術研究会、各地域のビジネスコーディネータを紹介するN OC(Network of Coordination)研究会は、意欲的地域企業に好評であった。 地域貢献のための公開研究会、すなわち非会員にも情報提供や紹介を行うシステムもス タートした。太田地域外の中小ベンチャー企業を、まずは公開研究会にお招きして、気に 入っていただいた場合は正式の会員になっていただくという方式とした。その結果、各商 工会議所ベースの研究会と異なり、太田地域外の会員が増えていった。群馬県庁の意欲的 スタッフ、近隣商工会の意欲的経営指導員も参加するようになっていった。 定期的な研究会等は、二ヶ月−三ヶ月に一度質の高い出会いの場を作り、日常的な交流 の場で企業家の考えを人に聞き、何とか役に立とうと考える活動が地域における活動の基 本であった。企業訪問や、企業の方々の研究室訪問、夕方以降のミーティングで経営者の 経営に関する取り組みや金銭感覚に触れている中で、時々お節介をするという方式であり、 そうした手間が非常にかかる活動であった。 企業家の泥臭い現場ニーズに応えるビジネスコーディネータが、自由度のある弱連結を 基盤として提供し、リーダーシップを有する企業家が事業化フェーズに入った途端に、柔 軟な専門化を前提とした強連結にスムーズに転ずるという仕組みである。 高品質な弱連結のネットワークが日常的に機能している場を提供し、意欲的な企業家が 意思決定を下し弱連結から強連結に転じようとするときに、ハンズオン型のコーディネー トを企業家と共に行い、事業化へのスムーズな移行を支援する。 こうしたソフトなインフラは、地方都市の意欲的企業家に支持される素地がある。 その際の条件は、腕の良いビジネスコーディネータの存在、その後ろを支えるバックオ フィスの構築であり、バックオフィスに気配りの出来る人材がいるかどうかでパフォーマ ンスが異なってくる。 技術系大学を交えた産学官連携については、数少ない実績が一部の分野・研究者に偏っ ていること、事業化の経験に欠けていることが課題である。伝統ある大学ほど、人材の入 れ替えや考え方の変更に時間がかかる。 技術系大学の強みとしては、1)主要企業の研究開発部門との人的ネットワークを構築して おり先端技術動向に明るいこと、2)大学には分析装置も豊富にある上、計測、評価のスキル

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が企業に比し高いこと、が挙げられる。 地域の中小ベンチャー企業がこうした研究者の知見、人脈、設備を活用して、生産技術 型から応用技術型に脱皮し、研究開発型企業、製品開発型企業がコア技術に磨きをかける。 そうした関係が、大学シーズ発の事業化より先に進んでいく。 大学に関連したインフラとして、MBAコース、リエゾンオフィス、TLO、キャンパ スインキュベータは重要な構成要素である。 しかし、日本全体を見渡しても、創業や新規事業創出の部分に強みを持つMBAコース はほとんどない。地方都市に立地する大学が高レベルのMBAコースを立ち上げることが 出来るのかが問題となる。リエゾンオフィス、TLOは、その固定費をどの様な構造で負 担するかである。当初は国や地域が支えるという構造とならざるを得ない。 フロントランナー企業は、そもそも地域内には顧客も少なく地盤がない。都内をはじめ 各地域から引き合いや注文が来て、日々広域的に活躍している実力派が多い。 そうした企業は、高度な技術を追求すればするほど、研究開発部門の集積がある都内周 辺とのつき合いが多くなる。都内の大手大学や地方の旧帝大系大学等からも産学連携のお 誘いが来る。地域とのつき合いは、こうしてますます薄くなっていく。 地域を変えて行くには、これらフロントランナー企業群の影響力を引き出し、その後に 続く企業が増えるようにする必要がある。放置しておくと、地方のフロントランナー達(企 業家、研究者)が、東京都内等から一本釣りされて、そちらの産業構造に組み込まれていく という図式になる可能性がある。 また、首都圏北部地域では、地域の活力源となるべき若手企業家の台頭が見られなかっ た。学生意識調査の結果を見ると、若手企業家を地域に輩出するにはすべきことが多い。 産学連携を活性化させるには、様々なタイプのフロントランナーが地域に揃い、数と多 様性が確保され、場が作られていくことが不可欠である。 支援機関側には、個別具体論を解決出来る人材が不足している。 基本的に、自分で創業した経験のある人、あるいは個別企業の中に入り込んで支援した 経験のある人でなければ、創業支援や新事業育成等は難しい。 現状では、大手企業のサラリーマンであった人が、支援機関に採用されると「先生にな って中小ベンチャー企業に指図してしまう事例」が多い。 首都圏北部地域において、大学や公的支援機関のソフト・人材の状況を見ると、現状で は熱心な人材はいるものの、さらなるノウハウ蓄積やコラボレーションの仕組みを作り上 げなければならない状況である。全般的に、現場で問題解決をした経験を有する支援人材 が不足している。 特に、自治体の支援体制については、県と市町村に格差が目立つ。県レベルでは商工部 門に一定数のスタッフがおり、関連する公益法人や3セクにも企業支援人材が配置されて いるが、市レベルでは、プロ人材を育てるためのシステムが弱い。 今後考えなければならないのが、PPPをどのように考えるかである。

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