高橋昭男 成島柳北『新柳情譜』初編評釈 凡例 一、 底 本 に は、 『 花 月 新 誌 』 第 六 十 七 号( 明 治 十 二 年 三 月 八 日 発 行 ) か ら 第 七 十 八 号( 明 治 十 二 年 七 月 三 十 日 発 行 ) ま で 十 二 回 に わ たり連載された「新柳情譜」初編を使用した。 一、 翻 刻 に あ た っ て は、 次 の よ う な 方 針 で 行 な っ た。 原 文 は 漢 文 で あ る が、 送 り 仮 名、 返 り 点 が ほ ど こ さ れ て い る の で、 煩 雑 を 避 け る た め、 原 文 を 訓 読 文 に し て あ る。 た だ し、 漢 字 表 記 は 通 行 の字体を用いた。 一、 七 言 絶 句 は 原 文 で は、 振 り 仮 名、 返 り 点 が ほ ど こ さ れ て い る が、 原 詩 か ら 送 り 仮 名、 返 り 点 を は ず し、 字 体 は 旧 字 と し、 別 に 訓 読を付した。 一、 欄 外 の 頭 評 に は、 送 り 仮 名、 返 り 点 は 無 い の で、 旧 字 の 原 文 通 りとし、訓読を付した。 一、 頭 評 に は ① の よ う に 番 号 を 付 し、 対 応 す る 本 文 に も ① の よ う に 付した。 一、難読漢字にはルビを付した。 一、すべての訓読文に、現代語訳を付した。 新 しんりゆうじようふ 柳 情 譜 初編 濹 ぼくじようぎよし 上漁史戯稿 秋風道人漫評 【第六十七号】 古 の 狭 斜 に 遊 ぶ 者 は、 多 く は 江 湖 市 井 の 人 な り。 頃 け い ね ん 年 、 世 態 一 変 し、 貴 ① きかいしんしん 介搢紳 、 皆な 鑣 くつわ を連ね、 輪を接し、 争ひて香圍粉陣の間に 馳 ち へ い 聘 す。 故 に 翠 す い が こ う く ん 蛾 紅 裙 の 品 評、 到 る 処、 嘖 さ く さ く 嘖 。 而 し て 売 文 の 士、 其 の 情 景 を 記 す る 者、 亦 た 隨 ひ て 印 行 す。 積 巻 累 篇、 勝 あげ て 算 ふ べ か ら ず。 余 老 ひたり。 復た綺語を以て諸子と 抗 こうこう 衡 する能はず。 袖 しゆうしゆ 手 傍観するのみ。 頃 け い じ つ 日 、 会 たまた ま 心 疾 を 患 へ、 連 宵 寝 ら れ ず。 耿 こ う こ う 々 中、 戯 ② に 平 生 聞 見 す る 所 の 者 を 綴 り、 新 橋 柳 橋 校 書 の 為 に 此 の 譜 を 作 る。 其 の 文 詞、 粗 そ ほ ん 笨 。
成島柳北『新柳情譜』初編評釈
高
橋
昭
男
成蹊人文研究 第二十四号(二〇一六) 固より観るに足らずと雖も、 其の摘評する所、 則ち亦た 直 ちよくひつ 筆 に係る。 読者、諒せよ。 ◯濹上漁史=成島柳北の雅号。 ◯秋風道人=未詳。 ただし 『花月新誌』 第二十二号より第四十八号まで、 新橋の花柳街を舞台にした小説「新 橋 佳 話 」 が、 秋 風 道 人 編 と し て 連 載 さ れ て い る。 し た が っ て 分 量 か ら し て も、 小 冊 子 の『 花 月 新 誌 』 に こ れ だ け の ペ ー ジ を さ い て い る の は、 柳 北 と 極 め て 親 し い 人 物 と 思 わ れ る。 ま た、 「 新 柳 情 譜 」 と 掲 載 が 重 な っ て い な い と こ ろ か ら、 柳 北 本 人 の 筆 名 で あ る 可 能 性 も 捨 て き れ な い。 ○ 狭 斜 = 長 安 の 遊 里 の 名。 花 柳 街。 ○ 頃 年 = 近 年。 ○ 貴 介 搢 紳 = 貴 介 は 高 い 身 分。 搢 は は さ む。 搢 紳 は 笏 を 大 帯 に さ し は さ む こ と。 転 じ て 朝 廷 に 仕 え る 高 官 の こ と。 ○ 鑣 = く つ わ。 轡。 ◯ 香 圍 粉 陣 = 鬢 付 け 油 の 香 り と、 白 粉 の 匂 い。 花 柳 街 の こ と。 ◯ 馳 聘 = 馬 で 駆 け ま わ る こ と。 走 り ま わ る こ と。 ◯ 翠 蛾 紅 裙 = 翠 蛾 は 緑 色 の 三 日 月 形 の 眉。 紅 裙 は 赤 い 裳。 と も に 美 女 の た と え。 こ こ で は 芸 者。 ◯嘖嘖=嘖はさけぶ。 口々にやかましく叫ぶさま。 ◯印行=刊行。 ○ 積 巻 累 篇 = 多 数 の 刊 行 物。 ○ 綺 語 = は な や か な 詞。 ○ 抗 衡 = 互 に 譲 ら ず 張 り 合 う。 ○ 袖 手 傍 観 = ふ と こ ろ 手 し て 見 物 す る。 拱 手 傍 観。 ○ 耿 耿 = 耿 は あ き ら か。 気 に か か る こ と が あ っ て、 眠 れ な い さ ま。 ◯ 校 書 = 芸 者。 ○ 粗 笨 = 粗 い こ と。 笨 も あ ら い。 ○ 直 筆 = 事 実 を あ りのまま書くこと。 現代語訳 か つ て、 花 柳 界 で 遊 ん だ 人 と い え ば、 大 半 は 世 間 一 般 の 人 た ち で あ っ た。 と こ ろ が 近 年 は、 様 相 が す っ か り 変 わ っ て し ま っ た。 官 界 の お 役 人 様 た ち が、 馬 車 に 乗 っ て 競 う が ご と く 花 柳 の 巷 に 馳 せ 参 じ て い る。 そ の せ い か、 芸 者 衆 の 品 定 め と い え ば、 ど こ へ 行 っ て も 騒 が し く 耳 に 入 る。 そ こ で 売 文 の 者 た ち も、 花 柳 界 の 消 息 を 追 い か け る よ う に 書 き ま く っ て 刊 行 し て い る。 次 か ら 次 へ と 数 え 切 れ な い 量 だ。 今 や 私 も 馬 齢 を 重 ね た。 歯 の 浮 く よ う な 綺 麗 ご と を 書 き 並 べ て、 あ の 手 合 い と 張 り 合 う 気 に も な ら な い。 ど う ぞ ご 勝 手 に と、 傍 観 す るしかない。最近、 たまたま気の病で、 毎夜不眠がちであったのだが、 眠 れ ぬ ま ま に、 日 頃 見 慣 れ た 花 柳 界 の あ れ こ れ を 戯 れ に 書 い て、 新 橋 や 柳 橋 の 芸 者 衆 の た め に、 こ の 新 柳 情 譜 を 作 っ て み た。 文 章 も 粗 雑 で、 と て も 世 間 に お 見 せ す る ほ ど の も の で は な く、 ほ ん の さ わ り の 人 物 評 で は あ る が、 あ り の ま ま を 記 述 し て あ る こ と だ け は 保 証 す る。読者諸君、よろしくお付き合いのほど。 頭評 ① 宋 人 觀 賈 秋 壑 闘 蟋 蟀 曰 是 亦 軍 國 重 事 耶 今 日 搢 紳 品 翠 評 紅 決 不 出 於 此盖亦昇平樂事偶然及之耳漁史不苛論之眞通儒也哉 宋人、 賈 かしゆうがく 秋壑 の 闘 とうしつしゆつ 蟋 蟀 を観て曰ふ、 「是も亦た軍国の重事か」 と。 今日、 搢 紳 の 翠 を 品 し、 紅 を 評 す る は 決 し て 此 れ に 出 い づ。 蓋 し 亦 た、 昇 平 の 楽 事、 偶 然 之 に 及 ぶ の み。 漁 史 の 之 を 苛 論 せ ざ る は、 真 の 通 儒 な るかな。
高橋昭男 成島柳北『新柳情譜』初編評釈 ②可謂胭脂春秋弟子不能賛一辞 臙 え ん じ 脂 の春秋と謂ふべし。弟子、一辞を賛すること能はず。 ◯ 賈 秋 壑 = 賈 似 道。 南 宋 末 期 の 軍 人、 政 治 家。 秋 壑 は 号。 ◯ 闘 蟋 蟀 = 蟋 蟀 相 撲。 賈 秋 壑 は 蟋 蟀 相 撲 の 愛 好 家 で、 唐 代 以 降 の 蟋 蟀 に 関 す る 知 識 と 自 身 の 研 究 を ま と め た『 促 そ く し よ く き よ う 織 経 』 を 著 す。 促 織 は こ お ろ ぎ。 ◯ 軍 国 = 軍 事 と 国 政。 ◯ 品 翠 評 紅 = 翠 は 翠 黛、 紅 は 紅 裙 で、 と も に 美 人 の こ と。 美 人 の 芸 者 を 品 評 す る こ と。 ◯ 盖 = 蓋 の 俗 字。 ◯ 苛=みだれる。 ◯通儒=博学で万事に通じた学者。 ○胭脂=臙脂。 紅。 花 街 の 芸 者 を 暗 示 す る か。 ◯ 春 秋 = 孔 子 が 編 集 し た 中 国 古 代 の 歴 史 書。 現代語訳 ① 宋 代 の あ る 人 が、 賈 秋 壑 の『 闘 蟋 蟀 』 を 観 て 言 っ た と い う。 「 こ う ろ ぎ 相 撲 と 言 う の も、 ま た、 軍 事 や 国 政 の 大 事 に 似 た と こ ろ が あ る も の で す ね 」 と。 最 近 の 紳 士 諸 君 が 試 み る 美 人 の 品 評 も、 此 れ と 同 じ よ う な も の で、 太 平 の 御 代 の 遊 び 事 が、 た ま た ま こ う い う も の に な っ た ま で の こ と。 柳 北 君 が、 こ う い う こ と を 厳 酷 に は 論 じ な い と いうのは、真の通儒ということですね。 ② 花 街 の 史 書 と で も 言 う べ き も の で あ ろ う。 弟 子 が 一 言 も 加 え る こ とはできない。 阿 お い く 郁 (新橋) 若 ① し 好 こ う ず 事 の 人 有 り て、 公 選 妓 会 を 新 橋 の 地 に 開 か ん と 欲 す れ ば、 則 ち 其 の 会 長 の 選 に 膺 あた る 者、 余 必 ず 阿 郁 為 た る を 知 る。 郁 の 名、 新 橋 に 震 ふ こ と 年 有 り。 特 ひと り 新 橋 南 北 の 妓 流、 推 し て 以 て 泰 斗 と 為 す の み な ら ず、 他 方 有 名 校 書 と 雖 も、 亦 た 皆 な 郁 に 雁 行 す。 而 ② し て 彼、 絶 世 の 色、 抜 群 の 技 有 る に 非 ず。 唯 だ 老 熟 を 以 て、 是 の 如 き 地 位 を 占 め得るのみ。余が友某々 毎 つね に曰く、 「 ③ 酒 ③ 間、 縦ひ艶麗俊秀の妓有るも、 一 個 の 春 は る も と 本 婆 を 着 け ざ れ ば、 則 ち 人 を し て 楽 し ま し め ず 」 と。 春 本 は 郁 の 家 号 な り。 然 ④ れ ど も 郁、 頃 年 漸 く 威 福 を 裙 く ん さ 釵 社 会 に 弄 す。 故 に後進気概有る者、往々不平を懐くと云ふ。 老勁憐他媚態無 老 ろうけい 勁 憐む 他の媚態無きを 傍花偎柳巧馳驅 傍花 偎 わい 柳 巧に馳駆す 披來席上有餘趣 披き来りて 席上 余趣有り 一幅寒鴉枯木圖 一幅 寒鴉 枯木の図 評 に 云 ふ。 阿 郁 蓋 し 妓 中 の 仲 蔵 な る の み。 仲 蔵 の 戯、 老 熟 鍛 錬。 看 る 是 れ 一 場 の 妙 劇。 名 優 悉 く 備 る も、 仲 蔵 無 く ん ば、 則 ち 一 熱 ね つ ど う 鬧 打 混し去るに過ぎず。 甚 じ ん も 麽 の場面を 做 な さん。 ◯ 阿 郁 = お 郁。 以 下、 芸 妓 名 の 阿 は「 お 」 と 訓 む。 ◯ 公 選 妓 会 = 公 選議会のもじり。 当時、 議会開設の要求が盛んにあった。 ◯膺=ヨウ。 当 る。 ◯ 特 = ひ と り。 ◯ 妓 流 = 流 は 仲 間。 芸 者 連 中。 ◯ 雁 行 = 空 を 飛 ぶ 雁 の 列 の よ う に、 付 い て 行 く。 ◯ 裙 釵 社 会 = 裙 は 着 物。 釵 は か ん ざ し。 花 柳 界。 ◯ 春 本 婆 = お 郁 を さ す。 春 本 は、 郁 を 抱 え る 置 屋
成蹊人文研究 第二十四号(二〇一六) の 家 号。 ◯ 弄 = ほ し い ま ま に す る。 ◯ 老 勁 = 老 い て な お し っ か り し て い る。 お 郁 を さ す。 ◯ 傍 花 偎 柳 = 傍 も 偎 も 近 寄 る。 花 柳 社 会 の こ と。 ◯ 披 = ひ ら く。 お し ひ ら く。 ◯ 仲 蔵 = 歌 舞 伎 役 者 ・ 中 村 仲 蔵。 初 代は名優として知られた。 ○熱鬧=鬧熱。 こみ合ってさわがしいこと。 ◯打混=ぶつかりあうこと。○甚麽=どんな。何。 現代語訳 お郁(新橋) ど な た か 物 好 き な お 方 が い て、 公 選 妓 会 な る も の を 新 橋 の 花 柳 界 に 開 設 し よ う と す れ ば、 ま ず、 会 長 と し て 選 ば れ る 者 は、 私 に 言 わ せ れ ば、 お 郁 を お い て 外 に な い。 お 郁 の 名 声 は 新 橋 の 花 柳 界 に と ど ろ き わ た っ て 何 年 に も な る。 新 橋 の 花 柳 界 の 芸 者 連 中 が こ ぞ っ て お 郁 を 大 将 に ま つ り あ げ る だ け で は な く、 外 の 売 れ っ 子 の 姐 さ ん た ち も 後 に つ づ く し か な い。 そ れ に し て も、 お 郁 は と り た て 美 人 と い う わ け で も な く、 芸 が 抜 き ん で い る と も い え な い。 た だ、 花 柳 社 会 に 熟 達 し て い る こ と が、 こ う し た 地 位 を 彼 女 に も た ら し て い る の だ。 私 の 友 人 は つ ね づ ね い う の だ が、 「 お 座 敷 に 美 人 や 芸 達 者 が そ ろ っ て い て も、 春 本 の 婆 さ ん が い て く れ な い と、 ち っ と も 座 が 盛 り 上 が ら な い の だ 」 と。 ち な み に 春 本 は お 郁 の 家 号 で あ る。 そ れ に し て も、 お郁はここ数年、 新橋界隈に名声をほしいままにしている。 そのため、 後につづく意気込のある芸妓たちは、不平を懐いているらしい。 婆さん芸者が客持ちの悪い連中を憐れんで あちらこちらのお座敷に大持てで出入りしている 居 並 ぶ 姐 さ ん た ち を か き わ け て 座 に つ く と 何 と も い え な い 雰 囲 気になる 一 幅 の 軸 に 画 か れ た 寒 中 の 枯 れ 木 に 留 ま っ て い る 鴉 と い っ た 趣 である 評 に 云 う。 お 郁 は 数 あ る 芸 者 の な か で、 役 者 で 言 え ば 仲 蔵 と で も い う し か な い。 仲 蔵 の 芸 は あ ら ゆ る 場 面 を く ぐ り 抜 け た、 鍛 え 上 げ た 芸 風 で、 そ こ に 居 る だ け で 芝 居 が 出 来 て く る か ら 不 思 議 だ。 名 優 と い わ れ る 役 者 が い く ら い て も、 仲 蔵 が 加 わ ら な い と、 が や が や し て いるだけの田舎芝居になってしまう。どんな場面になるのやら。 頭評 ①起手何等突兀故不着裊娜婉妁語純用議論體妙似其人 起 き し ゆ 手 は 何 等 の 突 と つ こ つ 兀 ぞ。 故 ことさら に 裊 じ よ う だ え ん や く 娜 婉 妁 の 語 を 着 せ ず。 純 もつぱら ら 議 論 体 を用ゆ。妙なること其の人に似たり。 ②不啻論妓而論人材亦然 啻 ただ に妓を論ずるのみならず、而して人材を論ずるも亦た然り。 ③咄咄逼人 咄々人に逼る。 ④老熟之恠物乃爾可畏可憎 老熟の怪物は乃ち爾り。畏るべし憎むべし。 ○ 起 手 = 手 始 め。 ○ 突 兀 = 高 く つ き 出 る さ ま。 ○ 裊 娜 = し な や か な
高橋昭男 成島柳北『新柳情譜』初編評釈 さ ま。 な よ な よ し た さ ま。 ○ 婉 妁 = 美 し く や さ し い。 ○ 人 材 = 才 能。 ◯咄咄=事の意外なのに驚いて発する声。おやおや。 現代語訳 ① 文 章 の 書 き 出 し は、 何 と い う 意 表 を 突 い て い る こ と で あ ろ う。 こ と さ ら に 優 美 な 語 を 使 わ ず、 も っ ぱ ら 議 論 の 文 体 を 用 い て い る。 そ れで妙というのは、作者の人柄に似ている。 ② た だ 芸 者 の 品 評 を す る と い う だ け で な く、 そ の 人 の 才 能 に つ い て もふれている。 ③何ともはや説得力がある。 ④ 海 千 山 千 の 芸 者 と い う も の は、 そ ん な も の だ。 恐 れ 多 い と い う か、 憎たらしいというか、いやはや。 小仙(新橋) 小 仙、 絶 艶 の 名、 一 時 教 坊 を 動 か す。 而 し て 今、 稍 や や 衰 ふ。 然 れ ど も 彼、 猶 ほ 情 痴 を 以 て、 江 湖 に 鳴 る。 蓋 し 尋 常 折 腰 の 妓 に 非 ざ る な り。 某 新 聞 記 者、 嘗 て 仙 の 私 事 を 摘 発 し、 こ れ を 紙 上 に 録 し、 社 丁 を し て、 高 誦、 仙 の 門 を 過 ぎ し む。 仙 曰 く「 快 な り 」。 乃 ち 急 に 情 人 を 招 き、 漆 黒 の 車 に 同 乗 し、 轣 れ き ろ く 轆 、 記 者 の 門 を 輾 て ん か 過 す る こ と 数 十 回。 衆皆な喫驚し、 記 ① 者も亦た 黯 あんぜん 然 自失す。其の 豪 ごうまい 邁 、概ね此の如し。仙、 原 も と 阪 府 の 歌 妓 な り。 故 有 り て、 籍 を 東 京 に 移 す。 而 し て 其 の 名 声、 阪に在るの日よりも盛んなり。 仙 ② 、毎に云ふ、 「 妾 わたし 、復た西帰せず」 と。 楚材晋用古來多 楚材 晋用 古来多し 仙種誰移自浪華 仙種 誰か浪花より移す 附與東人賞春色 東人に付与して 春色を賞せしむ 櫻宮祠畔一株華 桜宮 祠畔 一株の花 評に云ふ。 漁史嘗て京猫一斑を著し、 京妓を把へて口を極めて打罵し、 一 いちもん 文 に当らず。 小仙、 蓋し其の説を聴き、 豹変する者か。 文人一枝の筆、 絶世の佳人をして転念せしむること、此の如し。 ◯ 絶 艶 = た ぐ い ま れ な 美 人。 ◯ 教 坊 = 花 街。 唐 代、 都 に あ っ た 官 立 の 音 楽 ・ 歌 舞 を 教 え る 学 校 か ら く る。 ◯ 折 腰 = 人 に 頭 を 下 げ る。 こ こ で は 媚 び を 売 る。 ◯ 某 新 聞 記 者 = 柳 北 は 当 時、 新 橋 で 同 業 の 福 地 桜 痴 と 張 り 合 っ て い た の で、 こ の 桜 痴 を さ す か。 ◯ 私 事 を 摘 発 し = 当 時 の 新 聞 は 芸 者 の ゴ シ ッ プ 記 事 を 売 り 物 に し て い た。 ◯ 社 丁 = 新 聞 社 の 使 用 人。 ◯ 高 誦 = 仙 の ゴ シ ッ プ 記 事 を 大 声 で 読 ま せ た こ と。 ◯ 漆 黒 の 車 = 人 力 車。 こ こ で は 二 人 乗 り。 ◯ 轣 轆 = 車 や 轆 轤 の 回 る 音 の さ ま。 ◯ 輾 過 = 輾 は 車 の き し る こ と。 ◯ 黯 然 = 黯 は 暗 い。 憂 え る さま。 ◯豪邁=人に飛び抜けていること。 ◯原=もと。 ◯阪府=大阪。 ◯ 歌 妓 = 芸 者。 ◯ 藉 = 藉 は 借 り る の 意。 芸 者 は 置 屋 に 借 金 で し ば ら れ る。 ◯ 妾 = わ た し。 女 性 の 一 人 称。 ◯ 楚 材 晋 用 = 楚 の 人 材 を 晋 の 人 が 用 い る。 他 国 の 人 材 を 利 用 す る。 ◯ 仙 種 = 美 し い 花 の 種。 ◯ 桜 宮 = 大 阪 市 都 島 区 に あ る 神 社。 桜 の 名 所 と し て 知 ら れ る。 ◯ 京 猫 一 斑 = 明 治 六 年、 柳 北 は 東 本 願 寺 翻 訳 局 の 局 長 と し て 京 都 に 赴 任。 一 年 近 く 滞 在 し て、 祇 園 の 花 街 に 頻 繁 に 通 う。 そ の 体 験 を も と に、 祇
成蹊人文研究 第二十四号(二〇一六) 園の生態を描いたのが 『京猫一斑』 で、 東京の柳橋の芸者を持ち上げ、 祇 園 の 芸 者 を お と し め て い る。 ◯ 転 念 = さ ま ざ ま に 想 い め ぐ ら し て、 物事を考えること。 現代語訳 小仙(新橋) 小 仙 は た ぐ い ま れ な 美 人 で 名 を 知 ら れ、 か つ て は 新 橋 の 花 街 に そ の 名 を と ど ろ か せ た。 昨 今 は や や そ の 美 貌 に も 衰 え が 見 え る が、 ど うして、 そのもって生れた色気は、 今なお知らぬ者とてない。つまり、 そ こ い ら の 客 に 媚 び を 売 る よ う な 連 中 と は、 わ け が 違 う。 新 聞 記 者 のなにがしが、 昔、 小仙の情事を聞きつけて、 新聞紙上に記事を載せ、 社 員 に そ の 記 事 を 小 仙 の 家 の 門 前 で 聞 こ え よ が し に 大 声 で 読 ま せ た。 す る と 小 仙 は、 「 面 白 い じ ゃ な い か 」、 と 言 っ て、 情 人 を 急 い で 呼 び 寄 せ、 黒 塗 り の 人 力 車 に 二 人 で 相 乗 り し、 記 事 を 載 せ た 記 者 の 家 の 門 前 を、 こ れ 見 よ が し に 往 復 す る こ と 数 十 回 に 及 ん だ そ う な。 近 所 の 人 た ち は、 何 事 な ら ん と 仰 天 し、 そ の 記 者 も が っ く り き て、 茫 然 自 失 で あ っ た と い う。 小 仙 の 豪 快 と も い え る 気 っ 風 の 良 さ は、 ざ っ と、 こんなところだ。小仙は以前、 大阪の花街に出ていた。訳あって、 東京に出ることになったのだが、 大阪時代よりも小仙の名声は高まっ た の で あ る。 小 仙 は 口 癖 の よ う に、 「 あ た し は 大 阪 に は 戻 り ま せ ん 」 と言っている。 他国の人材を用いるというのはよくあることだが 小仙という名花を大阪から運んできたのは誰だろう おかげで東京の人間は春景色を楽しませてもらった 大阪で名の知れた桜宮の花盛りの桜の一株のような色香を 評 に 云 う。 柳 北 君 は 昔、 京 猫 一 斑 と い う 書 物 を 著 し、 そ の 中 で 京 都 の 芸 者 を さ ん ざ ん こ き 下 ろ し た が、 一 文 に も な ら な か っ た。 も し か す る と、 小 仙 は 柳 北 君 の 説 い た 内 容 を 耳 に し て、 東 京 に 鞍 替 え し た の か も 知 れ ぬ。 文 人 の 筆 の す さ び が、 絶 世 の 美 女 に 思 い も よ ら ぬ 決 断をもたらしたのであろうか。 頭評 ①知是那個 知る是れ 那 い ず れ 個 なるかを ②結不説破妙 結びに妙を説破せず ◯説破=説きつくす。 現代語訳 ①人力車の人物が誰かは、すぐ分かる ②結びの書き方は、くどくなくて、さらっとしている 【第六十八号】 小万(新橋) 小 万 の 美、 万 目 皆 な 見、 万 口 斉 く 唱 ふ。 間 ま ま 異 説 有 る 者 は、 其 の 怨
高橋昭男 成島柳北『新柳情譜』初編評釈 家に非ざれば、 則ち 妬 と じ ん 人 なり。余、 教坊の美人を歴観する、 頗る多し。 而 ① し て 美 な る 者 は 往 々 軽 佻 浮 薄、 否 しか ら ざ れ ば 則 ち 傲 慢 貪 ど ん ら ん 惏 、 人 を し て 幾 個 の 惜 の 字 を 連 叫 せ し む。 独 り 小 万 は 謹 倹 に し て 静 淑。 宛 え ん ぜ ん 然 良 家 の 子 な り。 某 君 嘗 て 彤 と う か ん 管 の 贈 の 為 に 悦 え つ え き 懌 措 か ざ り し は、 亦 た 軽 忽 に諷刺すべからざる者有るか。 鏡奩照影皓無塵 鏡 きようれん 奩 影を照らせば 皓として塵無く 聞説仙盟情亦眞 聞 きくならく 説 仙盟 情 亦た真なりと 只恐嫦娥月中去 只だ恐る 嫦娥の月中に去りて 世間無復這般人 世間 復た 這 しやはん 般 の人無きを 評 に 云 ふ。 漁 史 の 筆 端 鋭 利 に し て、 説 き 来 た り 説 き 去 り て、 幾 個 の 美 人 許 多 の 罅 か ろ う 漏 、 罵 り 得 て 殆 ど 完 膚 無 し。 独 り 小 万 に 至 り て は、 絶 えて一語の 他 かれ を貶する無し。大いに是れ怪しむべし。 ◯ 怨 家 = 恨 み 合 う 関 係 に あ る 家。 か た き。 ◯ 宛 然 = あ た か も。 そ っ く り そ の ま ま。 ◯ 彤 管 の 贈 = 彤 管 貽( と う か ん の い )。 赤 色 の 筆 軸 の 贈り物。 男女が互いに物を贈って交際を結ぶこと。 ◯悦懌=よろこぶ。 ◯軽忽=軽々しくお座なりな態度をとる。 ◯鏡奩=鏡匣。 かがみばこ。 [ 徐 幹 ・ 情 詩 ]「 鏡 匣 上 塵 生 」。 ○ 聞 説 = 聞 く と こ ろ で は。 ○ 仙 盟 = 仙 界 の 男 女 の 約 束。 ○ 嫦 娥 = 月 の 別 名。 月 に 住 む 美 人 の 名。 ○ 這 般 = この。これら。◯罅漏=欠けたところ。物事のすきま。 現代語訳 小万(新橋) 小 万 が 美 人 で あ る こ と は、 衆 目 の 一 致 す る と こ ろ、 誰 も が 口 々 に そ の 美 を 称 え る。 時 に 異 を さ し は さ む 者 が あ る と す れ ば、 商 売 敵 がたき の 店 の 者 で あ る か、 同 僚 芸 者 の 単 な る 妬 み で あ ろ う。 私 は こ れ ま で 花 街 の 遊 び の な か で、 数 え 切 れ な い ほ ど の 美 人 を 観 て き た が、 概 ね 美 貌の芸者の多くは軽佻浮薄であり、 そうでなければ、 傲慢で金に汚い。 顔 は 綺 麗 な の だ が、 態 度 が ね ェ と 客 は 口 々 に 叫 ぶ。 と こ ろ が、 小 万 だ け は 慎 み 深 く、 物 静 か で、 ま る で 良 家 の 子 女 の ご と き 風 情 だ。 あ る 人 が、 か つ て 小 万 と い い 仲 に な っ て、 大 喜 び し た そ う だ が、 こ れ を軽率にあれこれ言うのは、如何なものか。 鏡箱の鏡は、光があたると輝いて塵ひとつない 聞くところでは仙界の男女の情もまた真実だという この美女が月の世界に行ってしまえば 人界には美人がいなくなってしまうことを恐れるのみだ 評 に 云 う。 柳 北 君 の 文 章 は 実 に す る ど く、 説 く こ と 縦 横 無 尽、 そ の 他 大 勢 も 含 め て 大 半 の 美 人 を 完 膚 無 き ま で に こ き 下 ろ し て い る。 だ け ど、 小 万 に だ け は 一 語 も お と し め る よ う な こ と を 言 わ な い。 一 体 これはどういうことだ。 頭評 ①冩出何等霊妙 写し出して何等の霊妙
成蹊人文研究 第二十四号(二〇一六) 現代語訳 (いわゆる美人のことを)写し出して何というすばらしさ。 阿貞(新橋) 阿貞、 籍を掲ぐるの初め、 名声甚だ微なり。余、 一日、 平井氏を過ぎ、 一 校 書 の 細 さ い き よ う せ ん い 頰 尖 頤 の 者 を 見 る。 こ れ を 問 へ ば、 即 ち 是 れ な り。 当 時、 窃 に 謂 ふ、 「 是 れ 凡 種 の み 」 と。 未 だ 幾 いくばく な ら ず、 貞 の 名 遽 にわか に 噪 さわ ぐ。 評 者 或 は 云 ふ、 「 小 万・ 鳥 介 と 相 匹 す 」 と。 余、 喫 驚 す。 往 き て こ れ を 窺 へ ば、 則 ち 依 然 た る 阿 蒙 の み。 但 だ 其 の 衣 服 簪 し ん さ い 釵 は、 則 ち 上 等 妓 流 の 物 な り。 余、 甚 だ 訝 いぶか る。 一 友、 余 を 嘲 り て 曰 は く、 「 子 ① 、 訝 るなかれ。 それ伯楽一顧すれば、 則ち駑馬も亦千里の名を得ん。 貞や、 凡 と 雖 も 亦 た 駑 馬 と 異 な り。 子、 唯 だ 馬 有 る を 知 り て、 伯 楽 有 る を 知らず。何ぞ其れ迂なるや」と。余、 釈然として悟る。古人云ふ、 「士 は 己 を 知 る 者 の 為 に 死 す 」 と。 余、 為 に 一 転 語 を 下 し て 曰 は く、 「 妓 は己を愛する者の為に貴し」と。未だ知らず、当否如何を。 縦然草木竟無心 縦 た と 然 ひ 草木 竟に心無きも 應謝東君寵眷深 応に謝すべし 東君 寵 ちようけん 眷 の深きを 一 ② 自春風入南畝 一たび 春風の南畝に入りしより 菜花忽地化黄金 菜花 忽 こ つ ち 地 に黄金に化す 評に云ふ。 趙端々は奇醜の名。 曲中に噪ぐ。 名人の一詩を得て、 其の価、 遽 に 高 し。 然 れ ど も、 お 貞 も 亦 た 一 佳 妓。 恐 ら く は 漁 史 の 評、 矮 曲 にして過直なり。 呵 か か 々 。 ◯ 籍 を 掲 ぐ = 芸 者 と し て お 披 露 目 す る。 ◯ 平 井 氏 = 置 屋 の 名 か。 「 平 井 」。 氏 は 漢 語 的 表 現。 ◯ 鳥 介 = と り す け、 と い う 売 れ っ 子 芸 者 の 名 か。 ◯ 依 然 = も と の ま ま。 ◯ 阿 蒙 = 子 供。 ◯ 簪 釵 = 簪 も 釵 も、 か ん ざ し。 ◯ 伯 楽 = 古 代 中 国 で、 馬 の 良 否 を よ く 見 分 け た 人 で、 姓 は 孫、 名 は 陽。 ◯ 千 里 = 千 里 を 走 る 馬。 ◯ 釈 然 = 疑 い や 迷 い が 解 け て、 心 が か ら り と 晴 れ る さ ま。 ◯ 士 は 己 を 知 る 者 の 為 に 死 す =『 史 記 』 刺 客 伝・ 予 譲「 士 為 知 己 者 死 」。 ◯ 転 語 = 言 葉 を 転 じ た 言 い 方。 ◯ 貴 = 珍 重 す べ き 価 値 が あ る。 ◯ 縦 然 = た と い。 縦 令 と 同 じ。 ◯ 東 君 = 春 の 神。 ○ 寵 眷 = 特 別 に 目 を か け る こ と。 ◯ 南 畝 = 田 地。 ○ 忽 地 = た ちまち。 ◯趙端端=未詳。 ◯曲中= 曲 く る わ 輪 の中。 ここでは、 新橋の花街。 あ る い は、 中 国・ 南 京 の 歓 楽 地・ 秦 淮 に あ る 旧 院 と い う 花 街 の 別 称。 ◯ 矮 曲 = 歪 曲。 ゆ が み 曲 げ る こ と。 ◯ 過 直 = 過 度 に ま っ す ぐ な こ と。 ◯呵呵=大声をあげて笑うさま。 現代語訳 お貞(新橋) お 貞 は お 披 露 目 し た 当 時 は、 あ ま り 知 ら れ て い な か っ た。 私 は、 あ る 日、 平 井 の 家 に 寄 っ た と こ ろ、 顔 が 小 さ く、 あ ご の 尖 っ た 芸 者 を 見 か け た。 何 と い う 名 の 妓 こ な の、 と 聞 く と、 こ れ が お 貞 で あ っ た。 その頃は、 こいつは売れっ子にはならないなと、 何となく思っていた。 ところが、 いつの間にか、 お貞の名前をあちこちで聞くようになって、 消 息 筋 に よ る と、 小 万 や 鳥 介 並 の 売 れ っ 子 な の だ と い う。 私 は 吃 驚 仰 天 し て、 平 井 に 行 っ て 覗 い て み た ら、 何 の こ と は な い、 前 と 同 じ
高橋昭男 成島柳北『新柳情譜』初編評釈 の お ぼ こ で は な い か。 な の に 着 物 や 髪 飾 り は 格 上 の 芸 者 と 同 等 な の だ。 私 は 一 体 ど う い う こ と な の か、 分 か ら な か っ た。 す る と、 あ る 友 人 が 小 馬 鹿 に し た よ う な 口 ぶ り で い う に は、 「 何 の こ と は な い、 ホ ラ、 よ く 言 う で し ょ う。 伯 楽 が ひ と 目 見 れ ば、 駄 馬 も 千 里 を 走 る 馬 に な っ て し ま う と。 お 貞 も そ こ い ら の 女 の 子 と 同 じ よ う に 見 え る が、 そ う で は な い の よ。 お 前 さ ん に は そ う 見 え た だ け の 話 で、 実 は 名 伯 楽 が い た と い う こ と で す。 お 前 さ ん に し て は、 迂 闊 だ よ な 」 と。 私 は な る ほ ど、 そ う か、 と 合 点 し た。 古 人 は 言 っ た。 「 武 士 は 己 を 知 る 者 の 為 に は 死 を も 恐 れ な い 」 と。 そ こ で 私 も 言 葉 を 変 え て、 「 芸 者 は 己を愛する者の為には、 貴いものになるのだ」と。さて、 これが当っ ているかどうかは、何とも言えないが。 たとえば草木に当然のことながら心がないとしても や は り 感 謝 す べ き で あ ろ う、 春 の 神 様 が 特 別 に 目 を か け て く だ さるのを いったん春風が田畑に吹き込んでくると 菜の花畑があっという間に黄金色になっていく 評 に 云 う。 趙 端 端 と は、 と ん で も な い 不 美 人 で、 花 街 の 中 で は 評 判 であった。ところが、 さる高名な人が、 この妓女を詩に詠んだとたん、 売 れ っ 子 に な っ た と い う。 お 貞 も ま た 佳 い 妓 で は あ る が、 ど う や ら 柳北君の品評には、 事実に反するところがあり、 言い過ぎではないか。 ハッハッハ。 頭評 ①不直道破將妙喩來隠々着意何等巧致漁史眞妙人也哉 直 に 道 破 せ ず、 妙 喩 を 将 つ て 来 る。 隠 々 た る 着 意、 何 等 の 巧 致。 漁 史は真の妙人なるか。 ②着眼第三句 第三句に着眼せよ。 ◯ 道 破 = 言 い 尽 く す。 ◯ 隠 々 = 表 面 に あ ら わ れ ず、 内 に 隠 れ て い る さま。◯着意=着想。◯妙人=すぐれた人。 現代語訳 ① 直 接 的 な 表 現 を 用 い ず、 巧 み な 比 喩 で あ ら わ し て い る。 あ か ら さ ま で な い 着 想、 他 に 類 を 見 な い 技 巧。 柳 北 君 の 文 章 こ そ、 本 当 の 才 筆と言えるだろう。 ②第三句は注目に値する表現だ。 【第六十九号】 小松(新橋) 謫 仙、 句 有 り、 云 ふ、 「 一 枝 の 濃 艶、 露、 香 を 凝 す 」 と。 方 ① 今、 新 橋 の紅裙、 能く一個の濃の字に 抵 あたり 得る者、 独り、 小松有るのみ。遊客、 若 し 瀟 し よ う し や 灑 冷 淡 し、 秋 蘭 水 仙 の 如 き 者 を 得 ん と 欲 せ ば、 則 ち 宜 し く 他 に 問 ふ べ し。 小 松、 其 の 選 に 非 ざ る な り。 然 ② れ ど も 桜 花 霞 蒸、 海 棠 雨 滴 る の 情 致 を 愛 す る 者 は、 則 ち 小 松 を 舎 す て ゝ、 将 に 安 いずく に 往 か ん と