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日本の英語教育における基本語の選定基準に関する研究 : 定義可能度を中心として

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(1)日本の英語教育における基本語の選定基準. に関する研究. -一定義可能度を中心として一一. 馬本 勉.

(2) はじめに. 寒語教育における語嚢の重要性が叫ばれる今日、その効果的な習得に寄与する選定語嚢 への関心が再び高まりつつあるO 英語学習者のための語桑リストが次々に発表され始めたのは、海外においては1920年 代、日本では1930年代であるO この時代に作成された語意リストは、その後の日本にお いて、英語教科書や学習指導要領に取り上げられる語の決定に一定の役割を果たしてきた と言えるであろうO しかし、現在の日本の英語教育において、基本語選定の資料として利 用できる語嚢表・統計資料が「あまりにも少ない」 (村田1997: 34)と指摘されるように、 今なお語嚢選定に関する基礎的な研究は不十分であると言わざるを得ない。そのひとつに、 選定された語嚢リストを評価する手法が確立されていない、という点が挙げられるO 唯一 科学的な指標と考えられるのは、語の頻度をもとに算出する「有効度指標」 (竹蓋・中条 1993)であろう。これは選定された語をすべて習得した学習者を想定した場合、その学習 者が出会うテクスト中にどれくらいの比率で既知語が含まれているかを求める手法であるO 選定された語嚢リストを評価する手法が確立されていないということは、同時に「基本 語とは何か」という問題が未解決であることを示している。すなわち、語を選ぶ際に、何 lノ. が重要かということに対して、万人の合意を得ることは困難だということである。例えば 荒木(1966:5)は、外国語学習における基本語を「外国語を学習する者が、その学習期間中 に覚えるべく要求された語嚢、またはそれに習熟しておれば、日常の伝達行為には支障を 来さない最/順の語桑(m聖mumvocabulary)」と述べているD Lかしこれまでに様々な選 定者が「基本語」として選んできた語嚢リストを眺めてみると、その選定方法は一様では ない。 本研究においては、これまでに日本で選定された語棄リスト、およびその選定に影響を 与えたと思われる語嚢リストを取り上げ、それらのリストに含まれる語嚢項目の数量的な 評価を試みる。この過程において、複数の語意リストを客観的に評価する指標として既に.

(3) 確立されている「頻度」のほかに、 「定義可能度」という指標を提案し、複眼的な評価を試 みることとする。 さらに、頻度と定義可能度による量的な語棄リストの評価・分析を踏まえ、これまでに 選定された語嚢リストの選定基準を検討する。多くの選定語嚢リストには、数量的なデー タの上では選定の理由を説明することが困難な、いわゆる「主観的に」選定された語が含 まれている。それらの分析的な記述により、主観の絡む選定要因の特定を試みるとともに、 日本の英語教育における基本語の姿を明らかにしていきたいO. 本研究をまとめるにあたり、多くの先生方から温かいご指導を賜ったO 小篠敏明先生には、私が1983年から1989年までの6年間在籍した広島大学学校教育学 部、広島大学大学院学校教育研究科(修士課程)を通じて、また、その後も研究会や学会 活動を通じて、長い間にわたってご指導を頂いたO 特に1998年に広島大学大学院教育学 研究科学習開発専攻(博士課程後期)に入学してからの3年間は、指導教官として常に懇 切丁寧なご指導を賜ったO 心より感謝申し上げる次第である。本研究において取り上げ、 深めようと試みた領域の多くは、先生のご専門であるパーマーや英語教育史に関するご研 究の中から多くの示唆を得たものである。斬新な「切り口」で歴史を切ることによって新 境地を開拓される先生のご研究スタイルから、多くのことを学ばせて頂いたことに対し、 厚くお礼申し上げたい。 森敏昭先生には、語桑選定研究の意義を考える上での貴重なご助言の数々を賜った。特 に、先生ご自身の英語習得体験に裏打ちされた、口語英語の語嚢の扱いをめぐる示唆に富 むご助言は、私の「切り口」を構成する上で非常に重要な意味を持っている。 三浦省五先生の築いてこられた語桑選定研究が無ければ、私の研究は存在していないと 思う1970年代より膨大な英語教科書コーパスを構築され、数々の語棄研究、選定語嚢リ ストを世に送りつづけてこられた先生のご研究は、私の語棄選定研究のバックボーンとし て厳然と存在している。 山元隆春先生からは、意味論的な視座からの貴重なご助言の数々を賜った。先生のご出.

(4) 版された翻訳書の中の、ある訳語をめぐるディスカッションの中から、語義の広がりや深 まりを実感できたことは記憶に新しい。 広島大学大学院教育学研究科学習開発専攻に在籍したこの3年間、小篠敏明先生、森敏 昭先生、三浦省五先生、山元隆春先生をはじめ、学習開発専攻の諸先生方から賜った終始 変わらぬご指導とご助言に励まされ、修士論文以来温めてきたテーマについてまとめるこ とができたO心より感謝申し上げる次第であるO研究を進める中で、英語教育の実践と理 論との距離についてしばしば考えさせられることがあった。この点に関して常に問題を投 げかけてくださった樋口聡先生には、綿密なコメントを通じていっも多くのヒントを頂い た。記して感謝申し上げたい。 本研究の出発点は、私が12年前に広島大学大学院学校教育研究科に提出した修士論文 VocabularyTeachinginanEFLContext' -SelectingtheAppropriateWordsであるO当時 の指導教官である五十嵐二郎先生(広島大学名誉教授、現広島文教女子大学学長)には、 学部の卒業論文、修士課程の修士論文と、6年間続けて懇切丁寧なご指導を賜ったOその 後も引き続き温かい励ましと親身なご指導を賜り、本研究を続ける上で常に大きな支えで あったO心よりお礼申し上げたい. 2001年1月.

(5) 目次. はじめに. 第1章 本研究における問題の所在 第1節 語嚢選定の歴史的概観 1.日本の英語教育に影響を与えた選定語嚢リスト. …. 1. …. 1. ‥ 2. 2.英語教科書の調査に基づく語嚢リスト. ‥ 4. 3.学習指導要領の必修語. ms. 第2節 選定語嚢リス.トに関する評価の歴史. ‥.If). 1.主観的批評. …15. 2.客観的評価. ..17. 3.有効度を示す指標 第3節 語桑リストの評価法確立の必要性. 第2章 基本語の選定基準 第1節 評価の尺度という観点から見た選定基準の再検討. ‥‥.19. .‥22. …‥‥‥24. wmサ.. 1.頻度・分布度. ‥.25. 2.有用度・熟知度. .‥27. 3.適用範囲度. …28. 第2節 定義可能度. …30. 第3章 定義可能度による語嚢リストの評価 第1節 分析対象とする語桑リスト. DR閉. …32. 第2節 分析方法. .35. 第3節 分析結果. ∴41.

(6) 第4章 基本語の「主観的選定」に関わる要因. …蝣i;i. 第1節 主観を説明する要因としての定義可能度. …43. 第2節 頻度・定義可能度以外の説明要因. …47. 1.共通の語. .‥47. 2.リスト固有の語. .‥48. 第5章 本研究における日本の英語教育-の示唆と残された課題. ... r><tt). 第1節 定義可能度の意義. HHHiiF. 第2節 本研究における今後の課題. ‥‥..57. 注. Mifl. サー.;蝣: .'.i十. …GG. 付録1 頻度順語嚢リスト 付録2 定義可能度順語嚢リスト 付録3 アルファベット順語嚢リスト. …78. ‥. 117. ‥‥‥.156.

(7) 第1草  本研究における問題の所在 本研究の目的は、日本の英語教育における基本語の選定および評価の基準を検討するこ とである。.本章においては、これまで語嚢選定に関して行われてきた研究を概観し、本研 究におけるテーマ設定の根拠を明らかにすると同時に、本テーマの英語教育界における意 義を明らかにしていきたい.ラ. 第1節 語嚢選定の歴史的概観. 学習者の負担を軽減し、学習効率を高めるという意味において、全ての語学教育は多か れ少なかれ選定された語嚢によって為されている。本研究における「語嚢選定」とは、そ れを単なる悉意的な選択でないものにする営みを指すo Sweet(1899: 66)によると、外国語学習の本質的な困難は「語桑に習熟しなくてはならな いこと」だというD 実際、何年も英語学習を続けているにもかかわらず、自分の意図を的 確に伝える語を知らない日本の学習者は多い。,英語学習者にとって、英語という言語の持 つ語桑の豊かさが、しばしば大きな障壁となるOその障壁を越えられないのは、学習者自 身の努力が不十分であるからだと言うのは簡単である。しかし、彼らの英語学習が、本当 に有用な語の学習に集中できているかどうか、我々は検討し続けなければならないだろう.こ. では一体、学習者にとって有用な語とは何であろうかJespersen(1904: 19)は「文学的 な語よりも日常語のほうが重要である」と述べ、 Hornby(1953: 16)は「語の頻度表がこの 問題の答となる」と述べているO このように学習者にとって有用な語、すなわち英語学習 のための基本語の選定には、どのような語をどのように選定するかという問題、さらにど のくらいの語数を選ぶかという問題も絡んでいるb 以下では基本語選定の歴史を概観して いくこととする._,.

(8) 1,日本の英語教育に影響を与えた選定語嚢リスト. 荒木(1966)によると、語嚢選定の手法は客観的選定、主観的選定、総合的選定の3つに 分類される。客観的方法とは、語意選定の基準を純粋に統計に求めるものであり、主観的 方法とは、選定者の思弁的な判断に基礎を置くものであるo また、総合的方法とは、客観 的選定の結果を主観的判断によって修正してゆくものであるG 日本の英語教育に大きな影響を与えた語嚢選定を、上の3つの方法によって分類すると 次のようになるo l ]内は選定された語数である。,. a.客観的選定 Thorndike(1921) The Teacher's WordBook [10,000] Thorndike(1931) A Teacher's Word Book of the Twenty Thousand Words [20,000] Dewey(1923) Relativ Frequency of English Speech Sounds I"1,000] Horn(1926) A Basic Writing Vocabulary [10,000] Faucett and Maki(1932) A Study of English Word-Values Statistically Determined from the Latest Extensive Word-Count [l, 534] Thorndike and Lorge(1944) The Teacher's WordBook of'30,000 Words [30,000] b.主観的選定 Ogden(1930) Basic English [850] West(1935) "Definition Vocabulary'-∴圧490] West(1960) "The Minimum Adequate Vocabulary" [l,200] van Ek(1975) ThresholdLevelEnglish [l,500]. van Ek(1976) The ThresholdLevel for Modern Language Learning in Schools [1,580]. 2.

(9) Hindmarsh(1980) Cambridge English Lexicon [4,470]. C.総合的選定 Palmer(1931a). "The. First. 500. English. Words. of. Most. Frequent. Occurrence‖. 1500]. Palmer(1931b). HThe. Second. 500. English. Words. of. Most. Frequent. Occurrence‖. [500] Palmer(1931c) Second Interim Report on Vocabulary Selection [3,000] Palmer(1932) HThe First 600 English Words for a Classroom Vocabulary" [600] I.R.E.T.Q934) "The I.R.E.T. Standard English Vocabulary" [1,000] Faucett et al.(1936) Interim Report on Vocabulary Selection [2,000] West(1953) A General Service List of English Words [2,000]. これらの語嚢リストが日本の英語教育に与えた影響というのは、日本の学習者のための 教材、すなわち教科書、語意リスト、辞書などに反映されている、という点において説明 することができるO中でも、 Palmer(1931a, 1931b, 1931c, 1932), ].R.E.T.(1934)の語桑リ ストは、文部省英語教育顧問として来日したPalmerが、英語教授研究所所長として研究 所の出版物として発表したものであり、日本人学習者のための英語教育改善を意識したも のである.I.またその選定語嚢は、テキストの簡易化のために用いられた,, その Palmer の語嚢選定(1931a, 1931b, 1931c)の基礎資料として用いられたのが Thorndike(1921), Dewey(1923), Horn(1926)の研究である Palmerは客観的に選ばれた 頻度の高い語を基本としながらも、全国の英語教師から選定語の妥当性について意見を求 め、教授経験の中から生まれる主観的な判断を選定基準として重要視した.I.客観と主観を 折衷した、いわば「経験的」とも呼ぶべき第三の総合的な語嚢選定方式は、市河(193きi)や 石川(1937)に支持され、今なお大きな影響を持ち続けているD また、日本人の手による語嚢選定である菅沼(1953b)、稲村・鳥居(1956)、語学教育研究 所(1963)、全国英語教育研究団体連合会(1967, 1981, 1988)、東京都中学校英語教育研究会. lIi.

(10) 研究部(1987)、長谷川ほか(1988)に掲載の「キーワード5000」、 JACET教材研究委員会 (1993)などは、上で列挙した海外の研究者による語嚢選定のいずれか(多くは複数のもの) を参照しているO これらの日本人による語嚢リストは、客観、主観の占める度合いは異な っているが、いずれも総合的な選定の中に含めることができる1). 2.英語教科書の調査に基づく語桑リスト. 海外の研究者による語桑選定研究と同様、日本においてはひとつの大きな流れとして、 英語教科書の調査に基づく語意選定がPalmerやThorndike以前から行われてきた。 「英 語読本に含まれている語嚢の徹底的の政調」 (岡倉1932a: 29)の結果生まれた鹿島中華校 英語研究部による『英語之基礎』 (1915)は、赤祖父(1938: 162)によって「標準語桑研究の 最初の成果」と紹介されている.I.この『英語之基礎』はNationalReadersほか当時の教 科書22種類を調査した上で、独立記憶に訴えるべきものと、語源を利用して覚えるべき ものとに分け、合計約5.000語を選定している。. この流れに続くものは、菅沼太一郎による教科書の調査(菅沼太一郎『各学年別中学標準 英単語』 (慶文堂1935)であるLこ,これはある語が20種の教科書のうち何種類に取り上げら れているかを調査したものである。,この書物の現物は入手できていないが、この調査のデ ータは『英語の研究と教授』の「単語調査」の一部として、 1935-1936年に連載されて いる。 戦後に入ってからも、教科書の調査、およびそれに基づく選定が発表された,1代表的な ものに菅沼(1953b)、嶋田・栂(1954)、稲村・鳥居(1956)がある,I,教科書を調査することの 意義について、菅沼(1953a: 12)は「現に広く行われているものであり、それぞれ英語教育 の目標の実現に最善をつくして作製された書物であるから、種々雑多な材料を調査するよ りも、はるかに有効」と述べているが、この指摘は今日においても-1---考に値するものと思 われるO 教科書用に書かれた文章や、原典からのリライトを行う際に使用される語は、筆者の経. 4.

(11) 験別に基づいて「選定」されている。そのデータを集めた語嚢調査から得られるものは、 たとえ客観的な数値を示した語嚢リストであっても、主観的な要素を含んだ「総合的選定」 に近いものとなろう.こ.. その後、文部省の学習指導要領に「必修語」が指定されるようになり、教科書の語義は 大幅に制限を加えられていくが、それ以降も教科書に現れる語の研究は続いている。.中学 校の教科書では、連用(1966, 1972)、杉沼(1976)、中央教育研究所(1979, 1981, 1984, 1987, 1990, 1993, 1997)、三浦ほか(1982, 1987)、三浦(1985)の調査がある,ニ.このうち、三浦ほ か(1982, 1987)は、中学校英語教科書全種類に登場するすべての英単語について、その語 が使用されているすべての文を列挙した、膨大なコンコーダンスである.=.また、杉沼(1976) と三浦(1985)では、それぞれの語が実際に教科書に登場した回数(頻度)が示されているr=. それ以外のものは、各英単語が使用されている教科書の冊数が数値として示されている,, 高校教科書の調査としては、各語の登場する教科書数を示した淀縄(1983)、三浦(1987) のほかに、教科書数と頻度を共に示した杉浦(2000a, 2000b)がある._.また、教科書の調査 データを基礎資料として用いた語桑選定として、語学教育研究所(]き蝣)63)、全国英語教育研 究団体連合会(1967, 1981, 1988)がある。.. 3.学習指導要領の必修語. 学習指導要領で指定されている所謂「必修語」は、中学校における英語教科書に制約を 加えるという点において、日本で最も影響力の大きい語嚢選定であると言うことができる。. しかし、選定基準の暖昧さという点において、数多くの批判にさらされてきたのも事実で ある。.以下、この学習指導要領によって指定されてきた「必修語」の歴史について、その 起源を探りながら問題点を述べていきたい。. まず、中学校学習指導要領の変遷を、それぞれの目標に含まれるキーワードと、語嚢に 関する記述を中心にまとめると、以下のようになる.。 「別表」として掲げてある語意表に掲 載されている語は、 3年間のうちに必ず学ぶ必要がある語であり、しばしば「必修語」と. 5.

(12) 呼ばれている。若林(1998)は、 「 『学習指導要領』は「語表」に掲げられた語が「必修」で あるとは言っていない」として、 「指定語」という表現を用いているが、本研究においては、 便宜上「必修語」という言葉を用いる。実質的に「必修」であり、羽鳥(1992)、幡上(1992) など多くの論評においてこの表現が用いられているからである[_,. [中学校学習指導要領の変遷] 1947C昭和22)年学習指導要領英語編(試案) (目標)英語で考える習慣/四技能!風俗習慣・日常生活を知る (語嚢)とくに指定されていない 1952(昭和27)年中学校・高等学校学習指導要領外国語科英語編(試案) (目標)話す・聴く・構造の重視!四技能! 生活様式・風俗習慣の理解・鑑賞・好ましい態度 (語桑)新語の数1,200-2,100     別表なし 1958C昭和33)年中学校学習指導要領[1962(昭和37)年施行] (目標)音声/語法/四技能/日常生活・風俗習慣・ものの見方の理解 (語嚢)新語の数1,100-1,300     別表1の語数520 1969(昭和44)年中学校学習指導要領[1972(昭和47)年施行] (目標)音声/語法!文字/四技能/国際理解の基礎 (語嚢)新語の数 950-1.100      別表1の語数(110 1977(昭和52)年中学校学習指導要領[1981(昭和56)年施行] (酎票)理解・表現!言語に対する関心!生活やものの見方を理解 (語嚢)新語の数 900-1,050      別表1の語数490 1989C平成元)年 中学校学習指導要領[1993(平成5)年施行] (目標)理解・表現!積極的にコミュニケーションをとる態度/ 言語や文化-の関心/国際理解の基礎 (語嚢)新語の数1,000語程度まで   別表2の語数 507. G.

(13) 1998(平成10)年中学校学習指導要領[2002(平成14)年施行予定] (目標)言語や文化の理解/実践的コミュニケーション能力の基礎 (語尭)新語の数 900語程度まで    別表1の語数100. 学習指導要領における具体的な語嚢選定は1958(昭和 33)年の改訂から始まった6 1947(昭和22)年の『学習指導要領英語編(試案)』、およびその第-回めの改訂版である昭和 27年(1952)の『中学校高等学校学習指導要領外国語科英語編(試案)』においては、 「必修語」 の選定は行われていないが、最初の学習指導要領の作成に関わった宍戸(1948: 246)により、 次のような語嚢選定の考え方が公表されている。,. アメリカのThorndike博士の語嚢選択(vocabulary selection)はまず見落としてはな らない H.E.Palmer氏の研究もある。, OedenとRichardsとの2人でやった基礎英 請(BasicEnglish)も参考となるであろう。.このようないろいろの調査のうち、もっと も頻度数の高いもめを選び出すことは、もっとも効果的な行き方であることに疑いは ない。.けれども子供の興味がそのような頻度数の高い基礎的な単語ばかりで満足させ られるとは限らない。,かくて単語は語嚢選択によるものと子供の興味によるものとの 函数関係によって選択され配列されることが望ましくなってくるのである。.. また、昭和27(1952)年の『中学校高等学校学習指導要領外国語科英語編(試案)』 (1952: 158)には、以下のような考え方が述べてあるO. 英語の学習指導を効果的にかつ科学的に行おうとするものは、だれでも、学習者に最 も実際的に有効な単語を教えることが必要だと悟るのである.こ,それでは最も有効な単 語とはなにか,こ.いうまでもなく、学習者が最もひんばんに接する単語である,こ.それゆ え出度表とは各種の文献を調査した結果、ある言語において、いかなる単語が最も多 く現れ、いかなる単語が少く、いかなる単語がさらに少いかを示した表である._.この. 7.

(14) ような表は、学習指導と学習過程における無意味なまたはむだな努力を省くことが目 的であるo. 以上のように、頻度や学習者の興味に配慮しようとする姿勢は、 1958(昭和33)年に出さ れた第-回めの「必修語」選定の背景となっていることが予想される1958(昭和33)年の 学習指導要領では、 520語の「必修語」が制定された,:.新しい指導要領自体、これまでの 「試案」から「告示」 -と変化し、ある意味で国家的な基準としての具体的指導内容を纏 ったものだということができようrこ, 当時も現在と同様、英語は選択科目であったが、高校進学生に対するアチーブメントテ スト(学力検査)を実施する都道府県が急増しつつあり、 『英語教育』誌上においても、 1.950年代前半からこのアチーブメントテストをめぐる議論が活発におこなわれた1950 年代半ばには、ほぼすべての都道府県で実施されていたという調査もある(全英連1956: 191)。. アチーブメントテストが広く行われるようになりながら、当時の複数の英語教科書にお ける共通語の数は少なかった.こ, 「20数種に共通な語がわずか200を少し上回る程度」 (宍 戸1956)、 「基本語の指定制度がなかった時代の中学校教科書11種に共通語は270余語」 (清水1979)といった指摘の中に、共通語の少なさが問題視されていたことをうかがう ことができる。.いくつかの語棄調査が行われたことと思われるが、当時の調査結果をまと めた文献としては、嶋田・栂(1954) 『中・高連絡英語語嚢最低基準表』がある.I,そこに示 された語棄リストから、当時の中学校英語教科書12種に共通の語を拾い上げていくと、 合計279語であることが分かる。. こうした中、 520語からなる別表が指定されたのであるが、約500という語数の設定に ついては、宍戸(1956: 71)が「最低必要なもの」と述べているO これはFaucettandMaki (1932)が示した‖indispensablewords" (必須の語)が500語であることと一致すると見 ていいだろう。コ. 若林(1999)は学習指導要領が掲げる語表の変遷を詳細に検討し、ある語が登場したり消. 8.

(15) 滅したりする理由の説明が「今まで、一度もなかった」と指摘する.こ.では実際に、最初の 必修語の選定に関する理由の説明、すなわち選定基準の公表はどこまで行われていたのだ ろうか。.学習指導要領そのものの中に、選定基準を説明した記述は見られない(I,しかし、 学習指導要領に続いて発行された(1)学習指導要領解説、 (2)指導書、 (3)新教育課程の解説 書、さらに(4)選定に関わった関係者による雑誌記事のなかに、若干の説明を見出すことが できるD 以下列挙してみたい,こ,. (り 学習指導要領解説 このような最低必要語を選定するにあたっては、現行の教科書から逆算したり、その 中に用いられているひん度を調査したり、さらには共通なものを抽出することは、筋 違いであると考え、およそ英語の能力の基礎を養うにあたって、どうしても欠くこと のできないものにどのような語があるかを調べ、さらにさまざまな語のひん度調査の 結果を照合するとともに、現実にわが国の中学校生徒の習得の実状をも調査して選定 したものである。.もちろん、英語の形態から論理的に選定したものを実績に照らして 調整するだけでは、骨と皮ばかりのものになることは明らかなので、生徒の心理や特 性や経験や環境に関する語も加味して、豊かな指導と学習とを展開する基盤としたっ もりであるG. (文部省調査局『学習指導要領解説 中学校』 1958: 71). (2)指導書 ・英語を聞いたり話したり読んだり書いたりする能力の基礎を養うためには、基本的 で欠くことのできない語や運用度のきわめて高い語を選定し指導することが必要lこ, ・これら520語は、働きを表わす語や内容を表わす語にわたって、英語のいろいろな 能力の基礎を養う上に欠くことのできないもの、基礎的な英語の形態として欠くこと のできないもの、生徒の経験、生活、環境などの中で基本的なもの、さらに実際に用 いられる運用度などを勘案して選定したものである.こ,. 9.

(16) ・この段階の生徒は総じて運動や植物や動物などを好むものであり、別表1のsp。叫 game, flower, animalなどから、 baseball, tennis, swimmingとか、 rose, lily, violet とか、 clog,cat,horseなどを指導することになるであろうO (文部省『中学校外国語[英語]指導書』 1959: 39-46). (3)新教育課程の解説書 ・ 3学年間に指導する新語の数のおよそ半分を目途として、基本的な機能語(function words)と内容語(content words)から選定,こ. ・ひん度だけをもって新語選定のたったひとつの条件とすることは、かえってわが国 の事情に添わないことになるので、英語の形態を分析していって基本的なものを含め るとともに、また一方生徒の経験や生活や環境などの点からも勘案して含めることと した。. ・現行教科書の中でどのようになっているかについては調査したが、 (中略)その調査 結果からただちに逆算するという方法はとらないで、中学校における実績や実態に基 づいて選定した,こ. (安達健二(編) 『中学校新教育課程』 1961: 81). (4)雑誌記事 (選定の基準は)もちろんひん度数とfunctionwor〔lsである._. (岡本圭次郎ほか「座談会:新学習指導要領をめぐって」 1958: 454). これらの記述を総合すると、英語の組み立てに不可欠な機能語、頻度の高い語、学校現 場および生徒の実状に即した語、そして具体名詞の上位概念に当たる語、という選定議め 姿が浮かび上がってくる。pなお、 『中学校外国語[英語]指導書』に触れてあるsport, game, flower, animalなどのような具体名詞の上位概念に当たる語に関して、若林(1999: 5)は「当 時、文部省は、これらのanimalやbirdなどは、いわゆる"INDEXWORDs"として考えて. 10.

(17) もらいたい、というような説明をしていた」と述べているが、必ずしもこの考え方が徹底 しているわけではないことも指摘している。 以上述べてきたような基準に基づいたにしても、なお、その選定のプロセスは不透明で あると言わざるを得ない。. 「このリストを参照した」とか「こうしたデータを基礎にした」 という具体的な記述がなされていないからである.ニ.しかしながら、選定に関わる説明から 推測すると、1958年以前に発表された語意調査や語棄リストが参照されたことがうかがえ ると同時に、何らかのお手本があったと仮定することは難しくない。.例えば幡上(1992)は、 Palmerの3,000語(Palmer 1931c)を必修語のルーツと推論している.1が、 520語のお手 本として仮定するには、あまりにも語数の開きが大きいlこ.より近い語数のリストを予測し てみるほうが妥当であろう。. そこで、必修語の選定以前に発表された語桑リストのうち、語数の近いものを比較し、 その一致度を調べてみた。つと較の対象とした語嚢リストは以下の通りであるo. a)0畠den:BasicEnglish(1930) 分析的な手法により主観的に選定された85O語しこ. b)Palmer:TheFirst500EnglishWordsofMostFrequentOccurrence(1931a) Thorndike(1921)..Dewey(1923),Horn(1926)の語嚢統計を総合した上で、さらに 選定者の主観による修正を加えて選定された500語。, c)Palmer:TheFirst600EnglishWordsforaClassroomVocabLIary(1932) lU 統計的に選定された語だけでは教室での授業には適切でないとして、上記の統計的 な500語を修正し、身近な具体名詞などを主観的に加え選定した600語=. d)ThorndikeandLorge:Words1-500(1944) 聖書、古典、小説、教科書など、約時000,000語からなる書き言葉の頻度を調べ たデータの上位500語L, e)菅沼:中学標準英単語(1953b) 英語教科書20種100の語の統計に加え、Thorn。like(1931).f寸orn(1926),Palmer. ll.

(18) (1931c)などの比較研究の結果、中学1年生用に選んだ600語。 f)稲村・鳥居:最低基本500語(1956) 30種の英語教科書の語嚢を調査した結果をもとに、 Thorndikeの最初の500語に よる修正を加え、中学生用に選んだ500語G. これらの語嚢リストと520語の「必修語」との重なり具合を見ると、之;)252語、b)312語、 c)374語、 d)319語、 e) 398語、 f)415語という結果となる,I,当時入手可能であった頻 度中心の調査に重きを置いていたとすれば、 b)のPalmerや、 d)の'homelikeとの重なり が多くなってもよさそうだが、そうはなっていない.ン結果的に、どれだけ幅広い教科書に 使われているかという語の使用範囲(range)の統計によって選んだ稲村・鳥居(1956)との重 なりが群を抜いて多いことが明らかになった.=, このことは何を物語っているのであろうか。.必修語の選定には、教科書の調査結果が大 きく関係している、ということが推測されるであろうlこ,上記の選定プロセスの中では「教 科書の調査に基づくものではない」と説明されていたにもかかわらず、実際には教科書の 実状に近い選定になっていたということである。j さらに「必修語」は、その後の学習指導要領の改訂の度に変化を遂げているが、どのよ うな変遷を辿ったか以下で簡単に述べてみたい,, 1969C昭和44)年の「必修語」は、 520語に98語が加えられ、 8譜が削除され、計GIO 語となった.こ, 98語増えた語のうち、 69語までが、連用(1966)による12種の教科書調査で 10種以上の教科書に取り上げられている語であった 2) 続く1977(昭和52)年の「必修語」は、 GIO語にG語加えられ、 126語が削除され、計 490語となった。加えられた6語のうち5語は、小笠原(1976a)が「慣用事実」から見て加 えたほうが良いと指摘した語である。 3)また彼が「再考の余地あり」と指摘した40轟わ うち半数にあたる20語は削除されたO なお、連用(1966)ならびに小笠原(1976a)はいずれも、当時の文部省教科書調査官によっ てまとめられた研究である[つ. 12.

(19) 1989(平成元)年の「必修語」は、 490語に30語が加えられ、 13語が削除され、計507 語となったO加えられた30語のうちの25語は、中央教育研究所(1987)の調査でG種の教 科書中4種以上の教科書に取り上げられている語であった 4) このように見ていくと、現行の指導要領における必修語の選定においても、教科書調査 の影響は少なからずある、と結論づけることができるであろう.こ, ひとつ注意しておかなくてはならないのは、菅沼の調査(1935)以来、教科書の調査結果 として示されるデータの多くは、その語を取り上げた「教科書の数」だということである.I. 稲村・鳥居(1956: ii)は「教科書における単語のfrequencyの統計は、必ずしもそれぞれの 語の重要性のindexになるとは限らない」と述べ、彼らの統計表が付equencyの統計では なく、 rangeの統計であることを明記している.I. 1958C昭和33)年版の学習指導要領と同様に、 1969C昭和44)年版、 1977(昭和52)年版、 1989(平成元)年版のいずれにおいても、寸旨導書に示された選定の基準は、 「基本的(基礎 的)」および「運用度」ということであった。. 「運用度」というのは一一1見、頻度と考えて差 し支えなさそうであるが、上記の結果を踏まえると、使用範囲という意味での「運用度」 という解釈もできるであろう.I, では、 「基本的」とはいったいどういう語を指すcr)だろうか.=.もう一一度、 1958(昭和33) 年の必修語を検討してみよう.:.稲村・鳥居(1956)のリストには含まれないが、必修語に含 まれる105語の内容を、 『中学校外国語指導書』 (1959)の分類に沿って検討してみたい。 以下の語は、教科書の調査結果に基づく稲村・鳥居(1956)の「rangeの広い500語」には 含まれないが、 「基本的」であるがゆえに、必修語に含まれた語、と推論できるのである,,. (イ)人や物について用いる代名詞 anybo。ly, anyone, anything, both, everyone, hers, herself, himself, its, mine, myself, ours,, ourselves, somebody, someone, theirs, themselves, yours, yourself, yourselves. (ウ)主として疑問文の中で用いるもの whom, (ェ)助動詞 does. IB.

(20) (オ)数量や程度に関するもの few,nothing. (カ)接続を表すもの though (キ)時、場所、関連などを表すもの already, beside, either, elso-, near, rather since, till, within, yet.. (ク)名称を表すもの a )人間に関するもの children, doctor, feet, men, son, women b )身近な生活に関するもの bread,, building, dinner food, pocket, supper blackboard, chalk, classroom, diary, dictionary, ink, knife. -lotebook, page, song. c )数に関するもの eighth, eighty, eleventh, fifth, fifty,丘>rty. fourth, ninety, ninth, seventh, seventy, sixth, sixty, tenth, thirty, thousand, twelfth,. d)季節、月、曜日、時間などに関するもの hour,night,noon e )国や地域に関するもの Asia, England, Europe. Japan, Japanese, village I )自然に関するもの cloud, fruit, mountain, Mt., star (ケ)性質や状態を表すもの black, cool, ill, left, low, rich, sick, slowly, wide (コ)動作などを表すもの been, drink, lend, rise, sell, teach, wish (サ)その他 mile. ここに挙がっている語の数々は、学校現場および生徒の実情に即したものとは言えないだ ろうか,_.特に、人称代名詞にみられる文法的な整合性を求めたり、数詞のまとめを英語学 習の初期段階で終えようとする意図も見うけられる.ニ.また、身近な生活に関するものとし て、教室の場で視覚的に説明できるもの、すなわち Palmer(19:>>2)の言う classroom vocabularyが多く含まれていることは興味深い,こ,これらを「基本的な語」と呼ぶとすれば、 その選定に経験的な要素が大きく入り込んでいることは否定できない。,言い替えれば、ー頻 度や使用範囲といった「運用度」の基準だけで語桑選定を行っては、経験的に「基本的な」 語が漏れ落ちてしまう可能性も高いということである,こ.ここにおいてもまた、経験的な選 定を等閑にできない日本の英語教育の実態が浮かび上がってくるのである.A.. IE!.

(21) 以上、本節においては、日本の英語教育における「基本語」の選定の歴史と現状を概観 した.こ.ここで明らかになったことは、日本の英語教育において基本語と考えられてきたも のは、客観的なデータを経験則に基づく主観で補う「総合的」な選定によって得られる語、 ということである.I.. 第2節 選定語嚢リストに関する評価の歴史. 前節において、日本を中心とした語嚢選定の歴史を論じてきた.こ.こうした選定語秦リス トというのは、選定された語が3,000語であれ100語であれ、語数が限定されてしまった 時点で、 「選ばれなかった」膨大な数の語が取り残されてしまう[.その結果、選定語桑リス トに対して、選ばれた語と選ばれなかった語との「重要性」を比べ、選定の可否をめぐる 「主観的な批判」が行われることが多い.I.選定の過程が不明瞭な場合、その批判はより一 層強いものとなる.こ.本節では、選定された語嚢リストがどう評価されてきたか、その歴史 を概観していきたい。,主観的批評の項では、特に、日本の英語教育界で盛んに行われてき た語義リストの評価として、学習指導要領「必修語」の評価を中心に取り上げて論じるこ ととする。,. 1.主観的批評. 学習指導要領の必修語に対する批判は、まず選定そのものに向けられる場合が多い.I. 「英 語教育の改善に関するアピール」 (日本英語教育改善懇談会)では繰り返し必修語の撤廃を 求めている(若林1999: 50),しかし一方で、必修語の必要性を訴える声もあるL=つ列えば かつて『現代英語教育』誌上で行われたアンケートの結果、中学校教師の間で「(指定語の) 必要論が不要論を圧倒」したという(羽鳥・若林1976:G).こ.. IK.

(22) 選定自体をめぐる賛否両論の中、選定方法に関する具体的な問題点として、選定の基準 が明確でない、とする批判がある(若林1983:122.太田垣1999:64), 『中学校外国語(莱 請)指導書』 (1959: 40)によると、 1958年版の必修語(520語)は、 「英語のいろいろな能 力の基礎を養う上に欠くことのできないもの、基礎的な英語の形態として欠くことのでき ないもの、生徒の経験、生活、環境などの中で基本的なもの、さらに実際に用いられる運 用度などを勘案して選定」されたものであるc. 1969年版(610語)・1977年版(490語)につ いて記された1970年1978年の『中学校指導書外国語編』においても同様の表現が見ら れるE=.ところが、 1989年版(507語)については『中学校指導書外匡ほ吾編』 (1989: 61)にお いて「運用度の高い、基礎的な語」を指導する必要性が論じられているものの、別表の選 定に関する記述は見られない1998年版(100語)については『中学校学習指導要領解説外 国語編』 (1999: 37)において、 「文を構成する上で必要な主な基本語100語」である旨記 されている,,では一体、 「基本的」で「運用度の高い」語は、具体的にどうやって選ばれた のであろうか。,宍戸(1977:41)は、指定語の作成に関わった立場から、その選定には「(描 定校の研究など)みんな実証的な証拠がある」と述べているが、どういった実証研究に基 づいたものかは明らかにされていない。. 選定方法に向けられた批判と同時に、個々の語、すなわち「選ばれた語」と「選ばれな かった語」をめぐる批評も多い.=一例えば胤L(1992)は、 1958年当初の必修語であったthing が1977年から必修語でなくなったことに対し、 「何故英語という言語の最も核心に関わる この語が選定されないのか不思議」と述べている.こ. ここで問題となるのは、何を根拠に「最も核心に関わる」と判断したのか、という点で あるO これを明らかにし、誰が見ても納得するような根拠を示さなければ、何の裏づけも ない単なる各人の主観的な思い込みとして軽く扱われてしまう可能性もあるE=. 必修語をめぐるこうしたいわば「印象批評」的な批判は多い。.若林(1971‥ 44)の以下め 批判は、その代表的なものと考えることができるであろう.=.. 文部省の定めた基本単語は昭和33年の520語から、昭和44年には610語にふくれ. 16.

(23) あがったO昭和33年の改定のとき、案としてはじめに示されたのは515語であった,I, それが何かの都合で520語となった。ラウンドナンバーにするための小手先の操作で あろうといううわさが流れた。そして今なお、 520語にせよGIO語にせよ、その理論 的な根拠が全く不明であるという非難が絶えない。=,たとえば、昭和33年には、orange は必修単語となったl=.しかもこのorangeが「色」のことか「くだもの」のことかは っきりしない。.そして、オレンジを食べることなど、我々にはあまりチャンスはない のである。蝣  冗談だけれども、むしろグレープフルーツを加えてはどうか、と言い たくなる。,. 上の例は、選定の根拠が明らかにならない以上、批判の尺度を定めようがない事実を物語 っているG 上記の例と同様に、必修となる語数が大幅に増した1969年版の必修語に対す る批判的な論評は、英語教育誌上で活発に論じられた。,例えば箕田(1975)は、 body, arm; bottleなどの身近な語が取り上げられていないことや、 sameやhardはあるのにその反意 語であるdifferent, softがないことを指摘している,I.中村(1976)はコミュニケーションの レベルという観点から、 America, England, doll, brea〔i, coffeeなどの指定は問題があると している.=・そして井出(1976)は、必修語を「国産品」と述べ、文化意味論の観点からhat, cap, pocket, gate, lilyなどの指定に異を唱えている。=. これらは、各人によって異なる「視点」に基づき、主観的に加えられた論評であると判 断できるであろう。.このような主観的批評のもっとも重大な欠陥は、往々にして明快な根 拠に欠ける、ということである。}. 2.客観的評価. 選定語桑リストをもう少し客観的に評価しようとする研究もあるこ,例えば必修語に関し て清川(1981)は、 Kucera & Francis(1967), Carollほか(1971)の頻度を基に、 eleventh, twelfth, cook, invite, pen㍉坤ort, hersなどの選定に疑問を提示している.=.また竹蓋(198G). 17.

(24) は、アメリカ英語の頻度と比較し、 really, mean, feel, rememberなどを加えるべきだと述 べているO これは、別の語嚢リストとの比較によって、選ばれた語の妥当性を論じていこうとする ものである。.特に比較対象となる語棄リストとして客観的な選定によるものを選ぶ傾向が ある。 市河(1933)は、 「パーマーの3,000語のリスト」 (Palmer 1931c)を「フォセット=牧のリ スト」 (FaucettandMaki1932)と比較することを提案した。これを実際に行ったのが斎藤 (1933)である.=.斎藤(1933: 161)は、 「二つの研究を同一標準にかけて比較研究をなし、そ の 長一短を具体的に表して見る必要がある」と述べ、パーマーの3.000語の比較対象と して、FaucettandMaki(1932)よりfinalratingnumberの1から74までの語、合計2,947 語を選び、両者の重なり具合を調べている.コ その結果、 「フォセット=牧」にあってパーマ ーにないものが301語、パーマーにあって「フォセット=牧」にないものが781語あるこ とを示し、それぞれ個々の語を列挙しているLこ,この数量的な差が生じた理由として、斎藤 L933: 172)は、パーマーの表の「Derivatives(派生語)が大に活躍したがため」と述べ、さ らにInflect・edForms 語形の変化した語.I,動詞の不規則変化など)までを含んでいる「フ ォセット=牧」の表(さらにその元となったThorndikeとHornの語桑リスト)に対し、 「文法として取扱うべきことを器械的に譜表に取り入れた」として、 「客観主義による WordSelectionの通弊」であると批判している.=.結論として彼は、語の選定に際して「先 ず普通人としての自己の周囲と内心を観察し省察すること」が重要だと述べ、パーマーの 語嚢リストの価値が高いことを重ねて主張している(I. この評価法の問題点は、数量的な比較の解釈にあたって、 「はじめに結論ありき」的な 論が展開されていることである.こ.複数の語嚢リストの重なり具合を見るという比較は、あ くまでも数量的な差を示すのであり、良し悪Lを論じるには、不十分な評価法と言える,;. Fries and Traver(1940)は、 Basic EnglishとThorndikeの語菓リストを用い、他の5 つの語桑リストとの重なり具合を調べている,I,比較に用いられたのは、 WestのDefinition Vocabulary、 I.R.E.T. Standard English Vocabulary、 Interim Report on Vocabulary. IIS.

(25) Selection、Faucett and Makiの1,534 Words with Values 1 to 34、AikenのLittle English であるL, 調査の結果、 BasicEnglishの850語とThrondikeの1,000語との重なりは約5割であ ること、その他の5つの語嚢リストは、BasicEnglishの850語よりも、Thorndikeの1.000 語との重なりが大きいことなどが示されている。. FriesとindTraverの評価は、語嚢リスト間の重複部分とそうでない部分についての考察 にとどめ、外国語として英語を学ぶ学習者にとっての学習上の容易さについては、判断を 差し控えている。.その理由は、語の学習負担は個々の語によって異なり、語嚢リスト間に 見られる重複とそうでない部分として算出された「語数」そのものが「紛らわしい存在」 であると述べている。. このように、複数の語嚢リストに現われる語の重なり具合を調べ、各語桑リストに固有 な特徴を記述する評価法は、主観的な批評に比べると遥かに説得力がある.コ しかし、この タイプの評価においては、比較対象となる語桑リスト間に見られる「特徴語」の量と質を 論じることはできるが、その結果をもって語意リストの有効性を論じることは困難である.I.. 3_ 有効度を示す指標. こうした中、いくつもある語嚢リストの中から最善のものを選ぶためにはどうすればよ いか、という議論の中から、語の頻度をもとに算出する「有効度指標」 (竹蓋・中条1993) という、語嚢リストを評価するための指標が提案された.I,これは、選定された語をすべて 習得した学習者を想定した場合、その学習者が出会うテキスト中にどれくらいの比率で既 知語が含まれているかを求める手法である.コ この指標により、複数の語嚢リストを一つの 尺度に沿って比較することが可能となる.=.竹蓋・中候(1993)はこの指標により、自分たち の選定した「キーワード5000」という語棄リストの妥当性を立証しようとしている.I.頻度 を基準として選定した「キーワード5000」を、頻度に基づく指標で評価するのであるから、 その評価は当然高くなるlこ.しかし、複数の語桑リストをひとつの指標によって評価したこ. 19.

(26) とは、日本の語嚢選定研究において初めてであった。. もともとこの指標は、語学教育研究所(編) 『英語教授法辞典』のVocabularySelection の項に紹介してあるBongersの考え方にヒントを得たというBongers(1936)は、 「注意深 く選んだ3,000語は普通の読み物の95%を占めている」というPalmer(1931‥ 3)の主張に 対し、その信感性を調べようとしたものである。そして13の文学作品の冒頭の1,000語 中、 Palmerの3,000語でカバーされる比率を求め、 Palmerの主張が妥当なものであるこ とを示したl=,文学作品においてカバーされた比率を別の角度から見ると、 3.000語をすべ て習得した学習者がその文学作品を読んだとすると、そのうち95%は既知語ということに なる。, 竹蓋・中候(1993)は、 Bongersの考え方を次のようにまとめているL_.. 「評価されるべき語桑」が「必要な分野の言語活動で使われる語桑」の何%をカバー するか. 中候(1991)は、 「評価されるべき語嚢」として、 Ogden(1930)、 vanEk(197G)、東京都中 学校英語教育研究会研究部(1986)、 West(1953)、 Summers(1987)∴Palmer(1931c)、大学 英語教育学会(1983)、 Hindmarsh(1980)、全英連(1981)、 Thorndike and Lorge(1944)、 そして自ら開発に携わった「現代英語のキーワード」、合計11の語桑リストを選んでいる。 また、 「必要な分野の言語活動で使われる語嚢」として、日常会話や会議英語など10種の 音声言語、女性誌やパソコン誌を含む13種の文字言語からなる、現代社会に必要な最終 日標語嚢を設定した,I. このようにして評価を行った結果が以下のグラフである..,. 20.

(27) 「10種の基本語刺と同語数で区切った「現代封吾の-ヮ∼ド」の有効度の 比較(有効度は23種の目標言-料に対する有効度の平均値) 有}^^度(%). 中候(199.1: 63). Bongersの場合は「Palmerの3,000語」が「文学作品を読むのに必要な(文学作品に 用いられている)語桑」の約9橘をカバーしていることを示した。,中傾(1991)のデ-)は、 「現代英語のキーワード5,000語」は「現代社会に必要な語桑」の約9,5%をカバーしてい ることを示しているO. 竹蓋・中値(1993)は、以上の評価法に用いた指標を「有効度指肋と呼び、最善の基本 語嚢を選ぶ基準として利用する可能性に言及しているGこの評価法の特徴を再度確認して おくと、 「評価されるべき語嚢(A)が必要な分野の言語活動で使われる語菜(p)卯橘 をカバーするか」ということであり、この際、 Bの総語数に対す-6Aの総語数の比率が求 められるbすなわち、 Bの元テクストに登場する、 Aの構成要素の「頻度」の合計を出し、 Bの総語数に占める割合を求め、それを「有効度」と呼んでいる(ノノである.こ,ここで言う有 効度とは、頻度から見た有効度なのである._.. 21.

(28) 中候(1991)によると、現代英語のキーワードの選定に用いられたテクストと、その評価 に用いたBの元テクストとの共通点は少なくない。.つまり、似通ったテクストの「頻度」 が、選定の基準であると同時に、評価の指標として用いられているということである.I.結 果として、現代英語のキーワードが他の語意リストと比べて群を抜いて高い有効度を示し ているのは当然のことと思われるlこ. しかし、竹蓋・中候(1993)、および中偵(1990の最大の貢献は、複数の語桑リストを同 じ客観的な尺度で評価するとともに、それを1枚のグラフ上に示したという点である,,. 第3節 語嚢リストの評価法確立の必要性. 以上、第2節においては語棄リストの評価の歴史を概観し、主観的な批評と客観的な評 価法について検討し、それぞれを批判的に考察した.=.さらに頻度に基づく「有効度指標」 を検討し、複数の語嚢リストを客観的に評価するものさしとして、一I-定の評価を与えた。. ここで問題となるのは、頻度が唯一の選定基準ではない語嚢リストの数々を、頻度に基 づく指標だけで評価しても良いのか、ということである。.とりわけ、第1節で論じたよう に、日本の英語教育における語意リストは、客観的な資料と主園を折衷した「総合的」な 選定が主流である。ならば、頻度にのみ頼った評価ではなく、それ以外の要素を含む評価 手法を確立する必要があるのではないだろうか(こ. 語嚢選定の研究に欠けているものは、複数の語棄リストに対する客観的な評価が可能な、 頻度以外の指標であるOこれが第1節、第2節の歴史的概観から得られた結論である,I.こ のことを踏まえ、本研究のテーマを次のように設定した.. 「複数の語嚢リストを評価するための、頻度以外の指標を打ち立て、それに基づいた語 桑リストの客観的な評価を行うこと」. 22.

(29) このテーマに沿った課題を運行するためには、これまでに提唱されてきた語嚢選定基準の 再検討が必要である.I. なお、客観的な評価ということに関して、若干付け加えておくべきことがらがある.I.上 で述べたように、 「基本語とは何か」という問題は、簡単に解決するものではないG Lかし その実態を少しでも明らかにしていくために、目に見えるところから手をつける必要があ る.,この点について水谷(1983: 172)は以下のように述べている._.. 問題のむずかしさの故に、語の基本度の研究は余り行われていないしこ,由来、線型に(i 次元的大小で)基本度が設定出来るか否かも分からないO ただここで注意すべきは、 くく語の基本度>>を操作的概念と割り切らなければ議論が不毛に帰するだろうという 事であるlこ.. このように、問題の難しさを認識しながらも、本研究においては操作的な観点から英語の 基本語を論じていくこととする・=・操作的な方法論によって得られキ結果を通じて、主観的 に選定された語棄項目に対する「客観的な説明要因」を模索していきたい。,. 2M.

(30) 第2章  基本語の選定基準. 語桑リストを客観的に評価する指標は、語嚢選定を行うための客観的な基準と表裏一体 であるlン本章では、これまでに提唱された語棄選定の基準を「評価の尺度」という点から 再検討していきたい。 これまでに選定された語意リストの選定基準にはどのようなものがあるのか。 Mackey(1965), Kelly(1969), Richards(1974)によって検討された基準は以下の6つにまと めることができる(なお、日本語による訳語は安藤1991、村田1997を参照). a.頻度(frequency) :テクスト中に現れる度合い b・分布度(range) :幅広い種類のテクストに現れる度合い C・有用度(availability) :特定の場面で思い浮かぶ度合い a.熟知度(familiarity) :よく知っている度合い e・適用範囲度(coverage) :多くの概念を表すことのできる度合い f・学習容易度(learnability/facility) :類似性、明瞭性、簡潔性、規則性などの要因 からなる習い易さの度合い. これまでに発表された語嚢リストは、以上の基準のうち少なくとも一つ、多くは複数の基 準を用いて選定されている・=・また、それぞれの基準を用いる際に、数量的なデータを利用 すれば客観的な選定、選定者の語感に基づく選定を行えば主観的な選定と分類されるであ ろう。p 「学習容易度」は、類似性、明瞭性、簡潔性、規則性、学習負荷などがその構成要素 として挙げられるが、いずれも具体的な数値として示すことは困難である。.そのため、こ の基準は語を選定するか否かを主観的に判断する基準とみなすことができる。. 以下、 a∼eまでの基準について、客観的な指標となりうるかどうかという視点で再検討 を行う,I.. 24.

(31) 第1節 評価の尺度という観点から見た選定基準の再検討. 1.頻度と分布度. まず「頻度(frequency)」による語意選定は、調査対象となるテクスト中に多く用いられ ている語を計量し、その上位何語までを選ぶという方法であるo 頻度によって選ばれた語 嚢リストは、学習者が出会う可能性の高い語を集めたリストであるため、頻度が語の有効 性を示す指標のひとつであることは多くの人が認めるところである(I.しかし、テクスト中 の語の頻度は、計量の基となるテクストの選定に左右されるため、完全に客観的な基準と は言えない(Palmer1936: 15),:,この欠点を補い、あるテクストに固有の語の頻度が極端に 高くなることを防ぐには、幅広いジャンルにわたるテクストをバランス良く集める必要が あるOそのために重要な基準は「分布度(range)」と呼ばれるD これは、ある語が含まれる テクストの種類の数値を示すものであり、いわゆる高い頻度の語が特定のテクストにのみ 偏った結果ではないかどうかをチェックする指標となるlこ. 「頻度」による代表的な語桑選定であるThorn〔likeのThe Teacher's WordBook(1921) は、頻度と分布度の双方を勘案したratingnumberを示した研究として評価が高い1)一 方で、分布度の規定の基準が明らかでないなど、計算法があいまいだとの批判もある(市 河1935.池上1983), 頻度計算のもととなるコーパス作成の段階から分布度に配慮したテクスト収集を行う ことで、より信頼性の高い頻度表を作ることが可能と考えられている。近年、コンピュー タ技術の飛躍的な進歩により、電子データによるコーパス作成が盛んである.=.その代表的 なものはブラウン・コーパスであり、 「コーパス研究で最も基本的なコーパス」 (鷹家・須 賀1998: 73)とも呼ばれる。.このコーパスに基づき、 FrancisandKucera (1982)によっ七、 頻度分析の結果が公表されているl, なお、分布度を評価の指標として考える場合に、ブラウンコーパス(FrancisandKucera 1982)から得られた以下の数値によって、問題点を指摘することができる,_,. m.

(32) 頻度    分布度(テキスト数) 36435      500 4371      500. disappear     54 nice          76. ここでは、 ofとfrom、 disappearとniceの例から、分布度において同じ数値を示すもの であっても、頻度による評価は異なっていることが分かる.jまた、 m)erとmarkはその逆 の例である。,こうした数値の比較においては、どちらの数値がより重要度を反映している かを判断するのは困難である.I.どちらか一方の数値が同じ場合に、もう一方の数値の大小 によって重要度の差を論じることは可能であろう。.例えばdisappearよりniceのほうが、 fiberよりmarkのほうが重要である、というように。,しかし、分布度のほうが、頻度に比 べてより大雑把な数値であり、同じ分布度を示す語が多数存在するであろうことは予想さ れるlこ.また、分布度という基準は、語の評価というより、むしろ頻度データの元となるコ ーパス作成において議論すべき基準ではないかと思われる。 幅広い資料の中に多く残された語の記録を反映する「頻度」の場合、複数の語嚢リスト を評価するための普遍的な指標として利用可能と思われる。.前述の通り、既に竹蓋・中偵 (1993)によって、評価の指標として用いられている(=.この際、分布度については「頻度に よる選定の下位基準」と先に述べたが、分布度に配慮された頻度表、すなわち、コ-ノ寸ス の作成段階で数多くの素材を集めた頻度表による評価であることが重要となろう.... 26.

(33) 2.有用度・熟知度. 高頻度の語を集めたリストからは、特定の文脈を与えられたときに想起しやすい語(特 に具体名詞)が漏れてしまうという欠点がある。,日常的な場面と結びついた具体名詞は記 憶に残りやすいが、必ずしもその語が書物に何度も登場するとは限らない。. 「有用度 (availabilit・y)」、 「熟知度(familiarity)」という基準は、こうした頻度による選定の欠点を 補うために提唱されたものである.I. 「有用度」の高い語とは、特定の場面において利用可能性の高い語であり、あるトピッ クを与えて想起する語を、複数の被験者を調査対象として集めた統計結果によって選定す ることができる。言吾連想の研究は心理学の分野で古くから行われてきたが、言語教育の分 野においては、基本フランス語Le Francis Fondamentalの選定に寄与するために、 Michea(1953)は16の主題(centerofinterest′)を被験者(生徒900人)に提示し、各主 題ごとに最も有用な20語を列挙させて語の選定を行った。 2) こうした考え方による英語の語嚢リストは、 West・(1960)の"The Minimum Adequate Vocabulary"とvan Ek(1975, 1976)の"Threshold Level"があるが、いずれも統計的な 選定ではなく、選定者の主観による選定が行われているo 有用度によって選ばれる語というのは、意味的なカテゴリーに含まれる語、もしくは特 定の場面に関係する語である.こ.ところが、この方法でいわゆる「身近な語」を選ぶ際にも 問題点が生じてくる。.まず、どのようにカテゴリーや場面を設定するのかという問題があ るo また、多くの身近な語、例えばhandle, glue,cigaretteなどは、特定の場面と結びつ けることが難しい。.さらに、カテゴリーや場面に優劣をつけることも困難である.=,このよ うな理由から、 Richards(1970: 93)は「有用度」による選定の限界を指摘し、主題に依存 した語の評価ではなく、各語ごとに「熟知度」を評価することの必要性を論じている.こ. 「熟知度」による選定は、語を知っている度合いの判定を複数の被験者に課し、その合 計数値によって行なわれる Richards(1974)は、次の方法で熟知度による語嚢選定を試み ている,,. or*.

(34) 1,000人の被験者に対し、各自250語の具体名詞を与え、それぞれの語に対して 「見たり、聞いたり、使ったことがある」度合いを、 「非常によくある」から「全 くない」の5段階で評価させる.コ調査の対象となった具体名詞は合計4,495語で あり、それぞれの語が約50人の被験者によって評価されるように、ランダムな配 布を行っている,こ.. このようにして選ばれた300語の具体名詞の上位20語は次の通りである.ニト. money, hair, car, paper, girl, home, man, knife, hand, milk, lunch, woman, television, water, salt, high school, book, head, shirt, soap. 「有用度」や「熟知度」を語嘉リストの評価の指標として考えた場合、それらは調査対 象となる被験者の言語感覚を反映したものであるため、特定の学習者を想定した語意リス トの妥当性を測る場合の個別的な指標となりうるであろうlこ.. 3.適用範囲度. 「適用範囲度(coverage)」の高い語とは、その語を用いて言い表し得る範囲の広い語を 指す[=, Mackey(1965)は適用範囲度の下位項目として以下の4つを挙げている,I.. 定義(definition) :他の語を定義することによる言い換え 包含(inclusi〔>n) :別の語による言い換え 拡張(extension) :比糠的な意味の拡張による言い換え 組み合わせ(combination) :造語能力の強い語を用いた複合語による言い換え. こうした言い換えに利用できる語は有用性が高いと考えられるlこ.従来の語桑選定において、. 28.

(35) この考え方を大きく反映しているのは「定義語」と呼ばれるものである。こ. 有名な定義語には、 1930年代に出されたOgden(1930)のBasic English(850語)や、 West(1935)のDefinition Vocabulary(1490語)があり、その後の語桑選定に大きな影響を 与えている。.また、 Faucett, et al.のInterim Reporton VocabularySelection (1936)に おいても、定義語の働きを持つ語を積極的に選定しようと試みられている.=.このように、 語桑選定における定義語の重要性は認められてきたが、その選定は主観的な語の分析によ るもので、従来は頻度による選定を主観的に補う役割を持っていたと考えられるEン 定義語としての有用性を基準とした選定は方法論として確立しているとは言い難く、そ れを客観的に示した研究は非常に少ない。. MackeyandSavard(1967)は、定義語としての有用性を含む「適用範囲度」の数量化に よる語桑選定を試みた唯一の例であろう。.彼らは、上記の4つの要素を、以下の方法で算 出し、フランス語の基本語選定を試みているl一.. 定義(Clefinition) :辞書の定義文中に用いられた頻度 包含(inclusion) :類義語辞典に挙げられた言い換え語の数 拡張(extension) :辞書に挙げられた語義の数 組み合わせ(combination) :辞書に掲載された複合語の数. この適用範囲度を数量化した研究は、フランス語以外にも広げ、英語の語についても公表 されることがMackeyandSavard(1967)に述べられているが、英語においてこの数量化を 実現した研究はいまだ発表されていない。, 英語において、この適用範囲度を示すデータが利用できれば、語菜リストの評価に大い に活用できることが予想される。特に、前述の通り、日本の英語教育に影響を与えた請負 選定において、主観的な判断ながらも「定義語」という概念の果たしてきた役割は大きい と考えられる。. 本研究においては、この「定義語」としての有用性を測る指標を数値化できる可能性が. 29.

(36) 高いと判断されたtこ,なぜなら、辞書の定義はCD-ROMによって「コーパス化」が進んで いるからである.こ.. 第2節 定義可能度. 本節では、第1節で展開された語桑選定基準の再検討を受け、英単語の「定義語として の有用性」を測る指標を数量的に示すことの可能性を追求してみたい.こ.この数量化は従来、 膨大な手作業に頼らざるを得なかったため、これまで研究があまり行われてこなかったも のと思われるl=,しかし、辞書の定義をひとつの「コーパス」としてパソコン上で利用する ことができれば、この問題は解決する.I, 1990年代から数々の英語辞典がCD-ROMの形で出版されるようになった。.その最大の ものはOxford English Dictionary第2版のCD-ROM (以下OED2-CD)であるL,この OED2-CDには、定義中に用いられた語を検索するDefinition TextSearchの機能があり、 しかも定義語として用いられた頻度を同時に表示する(I.この機能を用いることで、ある語 の「他の語を定義する際に用いられる度合い」を数量化することが可能となる`こ.例えば、 OED2-CDの中で、定義にinterestingという語を含む見出し語は、 monotony, amusing, attractive, curiosity, entertainmentなどがあり、合計で44回interestingは用いられて いる._,この44という数値は、 interestingが定義語として用いられた頻度であり、この数 値が多ければ多いほど、他の語を定義する力が強いと考えることができる,I. 本研究では、このOED2-CDのDefinitionTextSearchで得られた「定義語としての頻 度」を「定義可能度」と呼び、語嚢リストを評価する指標として提案し、その妥当性を論 じていくこととするO なお、定義可能度を算出するに当たり、 OED2-CD以外のCD-ROMを利用することも 検討したr,特に、 Oxford Advanced Learners'Dictionary (以下OALD)やLongman Dictionary of Contemporary English (以下LDCE)の定義語は、それぞれ3500語と2000. 30.

(37) 語からなり、OxfordEnglishDictionaryに比べると、より外国語としての英語教育を意識 した辞典である,∴きれらの定義語を、本研究の主眼となる定義可能度の算出の基準として 用いなかったのには理由がある.I.それは、外国語としての英語教育を想定した「限られた」 定義語によって定義可能度を算出した場合、評価対象の語嚢リストに含まれている単語A が、指標となる辞典の定義語に含まれていない場合、単語Aの定義可能度を求めることは できない、という理由による。. 例えば、BasicEnglishにはsneezeやkettleといった語が含まれているが、いずれも上 記のOALD、LDCEの2つの定義語には含まれていない.I.この場合、OALD、LDCEを基 準としたsneeze,kettleの「定義可能度」は求めることができない。,しかし、OED2-CD の場合、sneezeは41、kettleの場合は106という数値を求めることができる。このよう に、できるだけ多くの語の「定義可能度」を求めるために、定義語があまりに限定された 辞書に頼ることはできないという結論に達したのである.I, さて、定義可能度の高い語の中には、多くの高頻度語が含まれている。.そのほかに、定 義をするための文構造上有用な語(例:belong,hence,etcなど)や、名詞の上位語(例: action,form,instrument,plant,substanceなど)がある3) 。特に後者の場合、必ずしも 頻度が高くなくても、語義リストに含まれている場合がある。,そうした語の選定の裏側に は、選定者の「定義に使える」「言い替えに便利」との主観が働いた可能性が考えられる。, これまでに、定義に用いる上での有用性を鑑みた選定という考え方はあったが、それを 客観的に示した数値によって語嚢選定が行われたことはないrこ.このことから判断すると、 定義可能度という指標は、むしろ主観的に選ばれたであろう語の存在意義を、客観的に示 すための指標と言えるかも知れない.I.例えば、語桑リスト中のある語は頻度が低いために、 これまで「主観的に選定された」としか判断され得なかったとしても、定義可能度におい ては高い数値を示す場合もある.ニ.このように、個々の語に関して、頻度とは異なった観点 からの評価が可能となるのであるく=、また、それぞれの合計数値によって、定義可能度から 見た語嚢リスト全体としての有用性に関する評価も可能となるであろう。,. m.

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