計 算 機 援 用 解 析 on One Hundred Years of Boundary Layer
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AUTO
による大域ダイナミクスの解析の試み
上
山
大
信
1 はじめに 我々の身のまわりには,多様で魅力的な現象が数多く存在する.生命現象はその代表例だろう.我々 は,それら現象の本質をとらえるべく,モデリングというプロセスを経て,数理モデルを得ようとする のであるが,そもそも,現象の本質をとらえたモデルを得ることが可能かどうかが第一の問題である し,必ずしもモデルが微分方程式の形で表現されるわけでもない.運良くモデリングのプロセスがうま くいき,微分方程式としてモデルが手に入ったとすれば,その解の性質を調べることによって,現象の 理解に近づくことができる.しかしながら,考える現象が普通のものであれば,得られる数理モデルは 非線形方程式となり,得られた方程式の解を調べるには,多くの場合コンピュータの力が必要となる. 非線形とは文字通り線形に非ずであって,その言葉の適応範囲はとても広い.多種多様な現象をひっ くるめて非線形現象と呼ぶのであるから,そこに見られる現象は多種多様であって,おおよそ身の回 りに見られる現象は非線形現象である.それらの複雑な現象をどのように理解するか? 数理モデル による現象の再現が第一であるが,最終目標は数理的な現象の理解・解明である. 1.1 計算機支援解析 現在我々が日常的に利用するパソコンの性能は大変高い.おそらく十数年前に,スーパーコンピュー タと呼ばれた大変高価なマシンと同等かそれ以上の性能を持つコンピュータを誰もが所有している.による大域ダイナミクスの解析の試み 現象の数理的な理解を目指し,コンピュータを用いるとき,コンピュータの高性能化は何か有用な情 報を与えてくれるだろうか? 現在のコンピュータは大変高性能なので,素人的にシミュレーション を行えば,容易に方程式の数値解を得ることができる(もちろん,数値計算の信頼性も十分吟味が必 要であることは明らかである).しかしながら,闇雲に行った多量の数値計算結果が,自動的に新しい 結果を生み出すことはない.その中から,重要な情報を引き出し,現象の中核となる部分を取り出す のは人間の役割であり,それこそがキーである. 技術の発展はすさまじいが,人間の能力が特に向上しているとは思えない.例えば,医者が検査の ために患者の体内を‘みる’ とき,様々な方法を用いる.聴診器,レントゲン,胃カメラ,最近では CT, MRI等による断層写真といったハイテクも使われる.複雑なものを解析し,それを理解するに は多角的な解析が必要となる.例えば,MRIであっても,ある一つの断面で人体を見てもさほど大き な情報にはならない.しかし,多数の断面を同時にみることで,病状がどのように進んでいるのかが 理解できるのではなかろうか.非線形現象についても,従来の解析手法に加えて,コンピュータをよ り積極的に用いた解析手法の発展なくして,その解明に近づくことはできないと考えている.もちろ ん,最新技術のMRIのみが優れた方法であるわけではない.場合によっては聴診器による古風な診 察がもっとも適切な場合もあるだろう.非線形現象に挑むとき,様々な方法論を組み合わせることが 重要である.例えばここで紹介するAUTOという優れたソフトウェアを活用し,従来の解析的手法 や分岐理論的視点を組み合わせることによって,これまで理解への糸口さえ見いだせなかったような ダイナミクスに対して,糸口を見いだすことができる場合もでてくるに違いない. さて,前置きが長くなったが,ここより,E. J. Doedel等[ 1 ]によって開発された分岐解析ソフトウェ アAUTOを用いた大域ダイナミクスの解明の試みをいくつか紹介し,その有効性を紹介したいと思う. 1.2 分岐解析ソフトウェアAUTO 分岐解析ソフトウェアAUTOは,E. J. Doedel等 [ 1 ] によって開発され,現在も開発が続けら れている.常微分方程式系の定常解,時間周期解の分岐解析や,常微分方程式の境界値問題の解の追 跡が可能である.AUTOにはC言語を用いるバージョンと,FORTRANを用いるバージョンがあ る.C言語を用いる最新バージョンはAUTO2000であって,FORTRANを用いる最新バージョンは AUTO07pである.開発の中心は,AUTO07pに移っているようであるが,自身が知っている言語に 合わせてバージョンを選べば良いだろう.上記言語の違いは,AUTOに対して方程式など問題を与え る場合に,C言語またはFORTRANによって方程式を記述する場合に意識することとなるが,それ 以外の利用法に関してはバージョンによる違いはほとんどない.分岐図を表示するソフトウェアの導 入には少しばかり苦労する可能性はあるが,それ以外は比較的簡単にインストールすることができる. また,AUTOはそのソースファイルと共に詳細なマニュアルおよび数多くの例題が配布されているの で,自身でその利用法等を学ぶことができる.是非一度自身のコンピュータにAUTOをインストー ルし,AUTOを動かしてみていただきたい.喜ばしいことに,KNOPPIX/Math 2008年度版[19] にAUTO07pが含まれたことで,より簡単にAUTOを試してみることができるようになった. 本来AUTOは少数次元の常微分方程式系の分岐解析をするために設計されている.しかしながら, 原理的には高次元の問題に対しても対応できることから,例えば反応拡散系に対して,何らかの空間離 散化を施した結果得られる高次元常微分方程式系の分岐解析を行うことが可能であり,AUTOに付属 しているデモプログラムの中にもそのような例を見ることができる.しかし,定常解を得るためのア
計 算 機 援 用 解 析 ルゴリズムが,ニュートン法によっているため,高次元において,それがうまくいくかどうかは問題に よるともいえるし,ニュートン法に与える初期値を如何にして得るかという問題も存在する(AUTO では,解追跡を行うための初期値をユーザーが与える必要がある).また,高次元問題に対する時間周 期解の追跡は困難を極め,うまくいかない場合が多い.実際,以前個人的にいくつかの反応拡散方程 式で記述される問題に対して,AUTOを適用しようと試みたことがあるが,少しばかり工夫が必要 であったり,工夫をしたとしても定常解の追跡すらあまりうまくいかないという事態に遭遇した.ま た,高次元の問題に適応可能といっても,それにはやはり上限があり,200次元程度の問題が上限とみ て良いだろう.その場合,空間離散化のサイズとしては粗いといわざるを得ない場合があり,解析を 試みている元の連続問題ではなく,離散問題特有の現象を見てしまっているということもある([ 7 ]). これは数値計算一般にいえることではあるが,AUTOの出力を正しいと思いこむのではなく,例えば 発展方程式の精密なシミュレーション結果との比較等が必要である.このように,AUTOは,様々な 問題に対して,Automaticに適応できるというものではないことは確かであると思う (AUTO付属 の例題はまさしくAutomaticに動くが,それはそのように作られているからであって,自身の問題 をAUTOに適用するにはそれなりの苦労が伴う).AUTOは汎用性が重要視されているため,特殊 な問題に対してそれを適応するには困難が伴うのは致し方ないといえるだろう.しかしながら,ここ で少々紹介するように,反応拡散系の解のダイナミクスに対してその大域的な解構造を数値的に求め ることは大変有効である場合があり,反応拡散系の解析に特化した解追跡ソフトウェアの開発も積極 的に行われている([18]). ここでは,まず簡単な例によって大域ダイナミクスを解析するために,解の大域構造を知ることが 有効であることを示し,そのような方法が,反応拡散方程式系のある種の問題に対して有効であった 例を示す. 2 AUTOによる大域ダイナミクスの解析 先に述べたように,AUTOは,常微分方程式系の定常解,時間周期解の大域的な解構造およびその 安定性の情報を与える.それらは,時間が十分経った後にシステムが落ち着く先の候補ではあるが, それらが最終状態に至る途中のダイナミクスに関して何か有用な情報となりうるかは自明ではない. しかし,解の大域的な解構造の情報が得られ,そこに特徴的な分岐構造が見られるならば,系が生ず る特徴的な解のダイナミクスを説明可能である場合がある.ここでは,そのような例を二つあげるこ とにより,AUTOの大域ダイナミクスの解析に向けた適用例の紹介としたい. 2.1 そもそも定常解の大域構造の情報が,ダイナミクスについて何か語り得るのか?−−−簡単な例−−− ここでは,まずAUTOを用いた大域ダイナミクスの解析としてもっとも単純な例を示そう.その 目的は,AUTOによって得られる,定常解または時間周期解の大域的な情報が,解のダイナミクス解 明に繋がる場合があることを示すことにある.ここで我々が知りたい解のダイナミクスとは何であろ うか.例えば系のパラメータをある値に固定した際,単純な場合であれば,最終的には定常状態,周 期振動状態におちつくであろうし,場合によっては (永続的な) 不規則状態に至るであろう.系が最 終的に示す状態,すなわちアトラクタに関する興味である. もう一つの興味としてはその最終状態に至る途中状態が興味の対象となる場合がある.もしも,ア トラクタへの興味しかない場合には,途中の状態はトランジェントな状態として捨てられるべきもの
による大域ダイナミクスの解析の試み であるが,場合によってはそこに興味の本質がある場合もある.AUTOで得られるものは定常解およ び時間周期振動解の情報であるから,ここでの興味は前者にあると考えられるであろう.しかしなが ら,それだけではない.簡単な例を用いて,大域的な定常解の構造を知ることによって,適当な初期 状態から最終状態に至る途中のダイナミクスに関して,重要な示唆が得られることを示す.次の非線 形1階常微分方程式を考えよう: ut=−(u + 1)(u2− α), α < 1. (1) この方程式はパラメータαの値によらず u =−1 という平衡解をもつ.さらに 0 < α < 1 におい ては,その他にu =±αの二つの平衡解をもつことはすぐに分かる.今,α < 0 としよう.すると, この方程式の平衡解は u =−1 唯一つである.このとき,どのような初期値u0をとったとしても, limt→∞u(t) =−1であることは簡単に示すことができる.つまり,どのような初期値をとったとして も,十分時間が経てばu(t)は−1という値に漸近する.このとき,αを0に近い負の値(α =−0.001) として,初期値をu(0) = 0.5とし,コンピュータを用いて方程式(1)の解u(t)を求めた結果を図1 に示す.図では横軸を時間とし,縦軸を解u(t)として表示してある. 図1:常微分方程式(1)の数値シミュレーション例.limt→∞u(t) =−1となることが分かる. 図1をよく見てみよう.図中Sと示したように,時間が十分経った t = 150 付近では解は唯一存 在する定常解 u =−1に漸近する.先に述べた limt→∞u(t) =−1 が確認できる.シミュレーショ ン結果は,このように,解の漸近的な状態を明らかにする.また,同時にその途中も見せてくれるこ とがシミュレーションの威力である.さて,もう一度シミュレーション結果をよく見ると,図中AE と示した部分にある一定時間解が0近くに滞在している様子が見られる.これはいったい何であろう か.一つの立場として,この現象は一時的なものであるから,長い時間が経った後に残りうる状態を 興味の対象とし,一時的に見られるこのようなダイナミクスを無視するという立場もありえる.この ような立場に立てば,先のグラフの左2/3は不要である.しかし,ここでは初期状態からある安定な 状態に至る途中に見られる,AEと示した0付近への滞在現象に注目してみることにする (いや,別 に注目しなくても良い.なんだこれは? と気になるでしょう? そもそも,コンピュータシミュレー
計 算 機 援 用 解 析 ションは多くの情報を与えるのだが,それを目の前にして何らかの興味を得ないのであれば,そのシ ミュレーションに何の意味があるのだろうか?).現在用いている α =−0.001 というパラメータに おいては,u = 0 は不安定な定常解ですらない単なる通常点にすぎない.この現象に関して,AUTO が与える定常解の大域的構造の情報は多くのヒントを与える.AUTOが出力した分岐図を図2に示 す (説明のためにいくつか記号などを追加してある).AUTOが出力した分岐図によれば,α = 0 に おいて,サドル・ノード分岐点が存在することが分かる.すなわち,α = 0において見られる定常解 u = 0が AEで示した0付近滞在現象と関係があり,サドル・ノード分岐点近くのベクトル場の縮退 が,解を0付近に長らく留まらせていた原因である. 図2:常微分方程式(1)に対してAUTOを適用した場合の出力例.図中U0は初期値 をあらわし,Sは最終状態をあらわす.AEはサドル・ノード分岐点の余韻を受け,極 限点近くに解がしばらく滞在していることを示す(図1においても同様). ここで例としてあげた問題も,上記のように示せば当たり前のように思われるかもしれないが,そ もそもパラメータをサドル・ノード分岐点付近にとったことがキーである.なぜなら,パラメータを サドル・ノード分岐点から遠く離れた負の値にとったなら,AE で示したような特徴的なダイナミク スは見られないからである (そもそも,漸近的状況にしか興味を持たなければ,ここに示した現象も 興味深いとは思われないかもしれない.そのような立場の人にとっては,α < 0という情報があれば 十分である).注目している現象が,はっきりと見られるようなパラメータを見つけることが第一であ る.その後,そのダイナミクスに関わるであろう解構造を見つける.これが,手順である.この問題 では明らかに簡単であるが,実際的な問題では,パラメータの特定は大変難しい. 2.2 反応拡散系に対する適用例 第二の例として,1次元反応拡散系における遷移パターンの解析に対して,AUTOを活用した例を 示す.詳しくは[ 5 ], [ 6 ], [15]–[17] を参照していただくことにして,ここでは要点のみ示す.
による大域ダイナミクスの解析の試み 遷移パターンとは,ある安定な状態から異なる安定な状態に至る途中に一時的に見られるパターン であり,それを知るには大域ダイナミクスの解析が必要である.先の常微分方程式の例は,そのもっ とも簡単な例といえるだろう.それらの解析では時間発展シミュレーションとその観察が大きな武器 となるが,より詳細なメカニズムを知るには,解の大域構造を知ることが重要である. ピアソン[ 2 ] が自己複製パターンを発見した数理モデルはグレイ–スコットモデル[ 3 ] に空間的な 拡がりを持たせた次のような反応拡散方程式である(ピアソンは空間2次元モデルの時間発展シミュ レーションを様々なパラメータにおいて実施し,比較的簡単なモデル方程式において,自己複製パター ンを含む様々な複雑時空間パターンが得られることを発見した): ⎧ ⎨ ⎩ ut= Duuxx+ u2v− (F + k)u, vt= Dvvxx− u2v + F (1− v). (2) 図3:1次元グレイ–スコットモデルに見られる自己複製パターン.u(x, t) の鳥瞰図 表示.Lはシステムサイズをあらわす.(a)定在型自己複製パターン:Du= 10−5, Dv= 2× 10−5, F = 0.04, k = 0.06075, L = 1.6,(b) 伝搬型自己複製パターン: Du= 10−5, Dv= 2× 10−5, F = 0.025, k = 0.0542, L = 0.5.
計 算 機 援 用 解 析 この方程式を適切なパラメータにおいて時間発展シミュレーションを行うと,図3に見られるような 自己複製パルスパターンを見ることができる.この特徴的なパターンは,適当なパラメータ領域で観 察され,適切にパラメータを設定すれば,一つ一つのパルス分裂に要する時間を長くとることができ た.また,パターンとパラメータの関係を調べた相図(図4)からは,自己複製パターンのパラメータ 領域が単独パルスが安定定常解として存在するパラメータ領域の隣にあることが分かっていた.そこ で,(2)に対して空間離散化を施した常微分方程式系の解構造を,AUTOを用いて調べることにした. 実際には上記のような寄り道のない手順を経たわけではなく,紆余曲折を経てやっと到達したのであ るが,結果として次のような分岐図(図5)を得るに至った.AUTOが与える分岐図の情報と,数値 シミュレーションの結果を照らし合わせた結果,極限点の整列構造という大域的な解構造が,自己複 製パターンを駆動するという視点を得ることができた瞬間である.詳細は省くが,その後不安定多様 体の繋がりなどの重要な情報を得るために,自作のソフトウェアを構築し,不安定解の固有値および 固有関数を求め,数値的に上記の視点の正しさを示すことに成功した.AUTOも内部的には安定性を 調べるために固有値計算をしているのだが,固有関数の情報は外部ファイルに出力されないため,自 作のソフトウェアを作成する必要があった.具体的には,数値的に求めた定常解またはAUTOが出 力した定常解情報を読み込み,ニュートン法にてより精度の良い定常解を求め,それに関する固有値・ 固有関数を求めるもので,固有値・固有関数に関しては,LAPACK [ 4 ]の関数を用いた. その後,上記のように見いだされたサドル・ノード分岐点の整列構造を認めた上での,理論的な発 展が見られたことも注意しておく.詳しくは,例えば,[17]の第4章,[ 8 ], [ 9 ]等を参照して欲しい. 上記のようなAUTOによる解析がなかった場合に,このような理論的な発展があり得たかどうか分 からないが,重要な情報になったことは間違いないであろうと思っている. ところで,AUTO利用に関して,解追跡の初期値を如何にして与えるかというのは大問題である. 高次元のニュートン法ではかなり慎重に初期値を与えなければ収束しない.幸運にも厳密解が求まっ ている場合にはそれを初期値として与えれば良いだろう.ただし,連続問題の厳密解と離散問題の厳 密解は一般に異なるので,不都合が生じる場合もあるかもしれない.また安定な解であれば発展方程 式を長時間解けば十分精度の良い定常解が得られるため,それを用いて解追跡を行えば良いだろう. 当然ながら,発展方程式を解く場合の空間離散化手法と,AUTOに適用するときに用いた空間離散化 手法は一致している必要がある.またときには,不安定解を初期値に解追跡を行いたい場合でてくる. その場合,例えば不安定解に関する解追跡については,近似的に解をとらえ,それをニュートン法を用 いてより高精度な初期値を作成するという手順が必要となる1).先述の自作ソフトウェアは,そのよ うな用途にも役立った.不安定解がなぜ重要であるか? と疑問を持たれるかもしれないが,実は不安 定解が大域ダイナミクスの重要な情報を持つ場合がある.例えば,自己複製パターンについても,サ ドル・ノード分岐点近くの不安定サドル解の固有関数情報が自己複製駆動メカニズム解明のキーポイ ントであったし,不安定解が分水嶺解として働き,複数のパルス解の衝突した後どのように振る舞う かといった情報や,空間非一様な場でのパルス運動に関する有用な情報を与えることが分かっており, 単純な反応拡散系に留まらないより広範囲の現象についてもさらなる発展がなされている([10]–[14]). 上記のような結果を得るには,大域的な分岐理論に関する知識,コンピュータの発達,多くのシミュ レーションによって経験的に得られた適切なパラメータ設定,問題をAUTOに適用させ,それがう まく働いたという事実,それらのどれ一つがかけても実現できなかったことを強調しておきたい.も
による大域ダイナミクスの解析の試み
図4:1次元グレイ–スコットモデルにあらわれる時空パターンの相図およびu(x, t)の 鳥瞰図表示.Du= 10−5, Dv= 2× 10−5, L = 0.5とし,階段型の初期値を用い, 様々なパラメータの組み合わせ(k, F )についてシミュレーションを行った結果により 得られた.自己複製パターンは,3の領域で観察される.
計 算 機 援 用 解 析 図5:グレイ–スコットモデルにおけるサドル・ノード分岐点の整列構造とその余韻. 下の二つの図は,F = 0.04, L = 0.3 とした場合にAUTOを用いて得られた分岐図. AUTOにより得られたサドル・ノード分岐点の整列位置はおおよそk = 0.0608であ り,自己複製パターンがシミュレーションで観察されるパラメータと一致する.右下図 は左下図の拡大図である.右下図中の(a), (b)それぞれに対応したkでのシミュレー ション結果が上2図であって,それぞれ (a) k = 0.06079, (b) k = 0.06075である. (a)の場合の方が(b)の場合に比べて,よりサドル・ノード分岐点に近いため,極限 点近くに滞在する時間が長くなる.
による大域ダイナミクスの解析の試み ちろん,そのような広範囲にわたる知識を一人で全て賄うことができるのであれば最高だが,なかな かそうもいかない.実際我々も,それぞれ得意分野をもった複数人が協力することで大きな前進を得 たのであるし,そのようなそれぞれのタレントを生かした共同研究というスタイルが今後増えていく べきであろうと考えている. 3 おわりに 前述したように,現在のコンピュータの持つ性能は大変高い.数値計算に関する分かりやすい参考 書も多くあり,問題さえ与えられたなら,小学生でも数値シミュレーションを行うことができるだろ う.また,AUTOもデモプログラムを動かす程度であれば全く簡単である.だからといって,それら が何らかの新しい発見に自動的に繋がるかというとそうではないことは明らかである.AUTOが一般 に公開されたとき,‘今後,論文のfirst authorがコンピュータであるような論文が山のように出てく るであろう’と言う人がいたそうである.コンピュータやAUTOのような有用なソフトウェア,また シミュレーションやその可視化といった手法,それらは大変強力ではあるが,少なくとも数理科学の 分野においては現象を理解するためのツール群であって,例えば数学的な解析手法と並ぶものである. メソッドがfirst authorになることなど決してなく,それらをうまく使いこなすことこそが有用な発 見に繋がるのだ. 確かに,多くのシミュレーションを簡単に行える時代ではある.もちろん,その結果を吟味し,研究 の対象にしていくには,それ相応の知識と運が必要である.しかしながら,数多くの人がシミュレー ションに接し,AUTO等の有用なツールを使い,多くの情報を得ることが全く無駄であるとは思わな い.それらが与えてくれる視覚的イメージは強力であって,非線形現象に挑む研究者に多くのアイデ アを与えうると信じている. 注 釈 1) AUTO内部でもニュートン法的な手法を用いている ので,初期値の前処理をニュートン法で行うというこ とに違和感を感じられるかもしれない.自作のソフト ウェアの場合,そのアルゴリズム内のパラメータの微 調整が可能で,出来合いのソフトウェアであるAUTO よりもその制御に関して自由度があるということであ る.つまり,そのような微調整によって,例えばニュー トン法を収束させることができる場合もあるのである. そのような理由から,問題に特化した自作ソフトウェ アの開発というのは,研究に対して数値的な方法を適 用するのであれば,大抵生じるといっても良いと思う. 文 献
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書
評
A. Kushner, V. Lychagin and V. Rubtsov: Contact Geometry and
Non-linear Differential Equations,
Encyclopedia Math. Appl., 101, Cambridge Univ. Press, 2007
年,xxii + 496
ページ.佐 藤 肇 著者達はまずはじめに,この本の目的は‘2階の偏微分方程式の幾何学的研究を読者に紹介する’ こ とであるとはっきりと述べている. 実際に取り扱うのは,2階の非線形偏微分方程式のうちでも重要な位置を占めるMonge–Amp`ere方 程式の接触変換による分類というLieの問題で,それに対する概括的な解説を与えるのが主な内容で あると言ってよい. このLieの問題には,19世紀以来,たくさんの数学者が取り組んできたが,微分方程式を具体的に 取り扱うことは,一般論の研究に押されて流行からはずれた.松田[Ma]・森本[Mo]などのさきがけ の研究の後,Cartanの外微分形式の方法の理解が進むにつれて,再び各国で研究されるようになった (e.g. [BGG]).その結果,独立変数が2の場合の理解は進んだが,それ以上の場合はやり残されてい ることは多い. Monge–Amp`ereのような2階の偏微分方程式は,1階のジェット束上に接触形式と独立な微分形式 を与えることと同じであるという古くからの視点を徹底し,著者たちはまず代数的に,1交代形式を 固定した空間の次数の高い交代形式の分類を詳しく調べる.ジェット束上の微分形式が,1次元低い 余接シンプレクティック空間のみに依存している場合に,Lieの問題は簡単になり,その場合につい て結果を最初に与えている. 旧ソ連を母国とするかなりの数学者たちがこの分野の研究を続けていて,たくさんの結果が出てい