小学校英語学習経験者 の追跡調査 と
小 ・中学校英 語教 育へ の示唆1
樋 口忠 彦 、 大 村 吉 弘、 田邊 義 隆 、 國 方 太 司 、加 賀 田哲 也
泉 恵 美 子 、 衣 笠 知 子 、 箱 崎 雄 子 、 植 松 茂 男 、 三 上 明 洋
1、 は じ め に 小 学 校 の 英 語 は、 次 の学 習 指 導 要 領 に お い て 、5,6年 生 で 必 修 化 さ れ る 。小 学 校 に英 語 教 育 の 本 格 的 な導 入 が な さ れれ ば、 こ れ ま で の 中学 ・高 校 の英 語 教 育 の位 置 づ け 、役 割 の再 検 討 が 必 要 と な る。 そ の 際 、 これ ま で実 施 され て きた小 学 校 英 語 活 動 の成 果 や 問題 点 を 明 らか に し、 そ れ ら を踏 ま え、 小 ・中 ・高 の 英 語 教 育 の 指 導 目標 や 指 導 内容 、 指 導 方 法 等 を再 構 築 しな け れ ば 、 わ が 国 の 英 語 教 育 の 改 善 につ なが らな い。 と こ ろで 、1992年 に 当時 の文 部 省 が 英 語 の 研 究 開発 校 に大 阪 市 立 真 田 山小 学 校 と味 原 小 学 校 を 指 定 して 以 来 、 多 くの 小 学 校 で 英 語 活 動 が 実 施 され る よ うに な り、 文 部 科 学 省 の調 査 で は2006年 度 に は全 国 の95.8%の 小 学 校 で 実 施 さ れ て い る 。 しか し、 これ らの小 学 校 の 英 語 活 動 の 成 果 や 問 題 点 を明 らか に しよ う とす る小 学 校 英 語 活 動 経 験 者 に対 す る科 学 的 な追 跡 調 査 、 特 に技 能 に 関す る もの が ほ とん ど ない 。 これ は次 の 理 由 に よ り、 追 跡 調 査 の 実 施 が 極 め て難 しいか らで あ る。 ① 英 語 学 習 の 開 始 学 年 、 学 習 時 間 数 指 導 目標 、 指 導 内 容 、 指 導 方 法 等 が 、 調 査 目的 に合 っ た 調 査 対 象 校 を探 す こ とが 困 難 で あ る。 仮 に適 切 な小 ・中学 校 を探 せ て も、 教 育 委 員 会 、 学 校 長 、 教 職 員 に追 跡 調 査 の 意 義 を理 解 し、 協 力 して も らう に は相 当 な努 力 が 必 要 で あ る。 ② 信 頼性 の あ る 調 査 結 果 を得 るた め に は、 特 に技 能 面 につ い て 何 を(ど の よ う な技 能 や 能 力 を)、 どの よ う な方 法 で、 どの よ う な 問題 で測 定す る の が妥 当 か を 十分 検 討 す る 必 要 が あ る 。 さ らに 、 英 語 学 習 経験 が 大 き く異 な る 調 査 対 象 者 に公 平 な問 題 を作 成 す る こ と は極 め て 困難 で あ る 。 ③ 小 学 校 英 語 活 動 が 及 ぼ す 影 響 の 調 査 実 施 時 期 は、 例 え ば、 中 学3年 、 高 校3年 、 大 学3年 i本 論 文 は、 日本 児 童 英 語 教 育 学 会(JASTEC)関 西 支 部 ・プ ロ ジ ェ ク トチ ー ム(代 表:樋 口忠 彦)に よ る研 究 成 果 で あ る。 当 プ ロ ジ ェ ク トチ ー ム は 平 成 ユ7年7月 に発 足 以 来30回 を 越 え る 研 究 会 、小 ・中学 校 合 計8校 で調 査 を 行 い 、本 論 文 を ま とめ た 。 また 、 本 論 文 は 上 記 研 究 会 で の 報 告 、 協 議 内容 に基 づ きメ ンバ ー 全 員 で 分 担 し て執 筆 した が 、 執筆 内 容 は 全 メ ンバ ー の 考 え が 渾 然 一 体 とな っ て い る 関係 上 、 各 執 筆 者 の 執 筆箇 所 を 示 して い な い。 なお 、 全 体 の 内容 構 成 お よ び 内 容 調 整 、 用 語 の 統 一 は樋 口 と大村 、 田 邊 が 行 っ た 。 一 ユ23一近畿大学語学教育部紀要7巻2号(2007・12) の段 階 で とい っ た 長 期 的 な 視 点 か ら調 査 す る こ とが 望 ま しい 。 しか し、 小 学 校 英 語 活 動 が 多 くの 学 校 で 実 施 され る よ う にな っ た の は 比 較 的 最 近 の こ とで あ り、 また 、 高 校 、 大 学 段 階 に な る と進路 が 多 岐 に わ た る の で 、 調 査 対 象 者 の 確 保 は 不 可 能 に近 い 。 本 論 文 は 、 上 記 の 追 跡 調 査 の 難 し さを 可 能 な 限 り克 服 す る と と も に、 国 外 、 国 内 の 先 行 研 究 を 徹 底 的 に分 析 し、 す ぐれ た 点 を 参 考 に 、 問 題 点 を改 善 して 実 施 した 小 学 校 英 語 活 動 経 験 者 の 追 跡 調 査 の結 果 を 示 し、 そ の 結 果 に 基 づ き小 ・中 英 語 教 育 の 成 果 と問 題 点 を明 らか にす る と と も に、 こ れ か らの我 が 国 の小 ・中 英 語 教 育 の 方 向性 に つ い て提 案 す る 。 2.小 学 校(早 期)英 語 教 育 の 影 響 に 関 す る 先 行 研 究 本 章 で は 、小 学 校(早 期)英 語 教 育 が そ の後 の 英 語 学 習 に 与 え る 影響 に 関 す る 国 外 お よび 国 内 の代 表 的 な調 査 研 究 を技 能面 、情 意 面 につ い て 紹 介 す る 。 また 、 本 章 の 最 後 に 私 た ち の 調 査 研 究 を よ り意 義 の あ る もの にす る た め に 、 こ れ らの調 査研 究 に お け る 課 題 や 問 題 点 を指摘 す る 。 2.1.技 能 面 2.1.1.国 外 国 外 に お け る 技 能 面 の 調 査 研 究 と し て 、 体 系 的 に 追 跡 研 究 を 実 施 し て い る ス ペ イ ン で の 研 究 を 3つ 紹 介 し た い(GarciaLecumberri&Gallardo2003;Cenoz2003;Mora2006)。 GarciaLecumberri&Gallardo(2003)は 、 英 語 学 習 開 始 年 齢 の 違 い が 、 音 声 ・音 韻 面 の 習 得 に 与 え る 影 響 を 明 ら か に す る た め 、 学 習 開 始 年 齢 が 異 な る3グ ル ー プ(Group1:4歳 か ら 開 始 、 Group2:8歳 か ら 開 始 、Group3:1ユ 歳 か ら 開 始:い ず れ もバ ス ク 語 と ス ペ イ ン語 の バ イ リ ン ガ ル の 学 習 者)に 対 し て 、tellingofastoryお よ びsoundperceptiontestの2つ の 調 査 を 実 施 し た 。telingofastoryに つ い て は 、 収 集 さ れ た 発 話 をforeignaccentsとintelligibilityと い う2つ の 観 点 か ら 分 析 し た 結 果 、 そ の 両 方 に お い てGroup3の 被 験 者 の 得 点 が 最 も 高 く、Group3と 他 の2つ の グ ル ー プ 問 に は 有 意 な 差 が 確 認 さ れ た 。 ま た 、soundperceptiontestの 分 析 か ら も、 母 音 、 子 音 の 両 方 に お い て 、Group3が 最 も 優 れ て い る と い う 結 果 が 得 られ た 。 しか し、 こ の 調 査 で は 、 学 習 開 始 年 齢 に よ る 差 を 比 較 す る た め 、 被 験 者 の 学 習 期 間 を 一 定(6年)に し た こ と に よ り 、 調 査 時 の 各 グ ル ー プ の 発 達 段 階 に お け る 言 語 能 力 の 差 が 結 果 に 影 響 して い る 可 能 性 が あ る 。 Cenoz(2003)で は 、 ス ペ イ ン ・バ ス ク 地 方 に お け る 学 習 開 始 年 齢 が 異 な る 学 習 者(4歳 、8 歳 、 ユ1歳)を 対 象 に、oralproduction,listeningcomprehension,clozetest,readingcomprehension
(grammarを 含 む)、compositionに 関 す る 英 語 能 力 試 験 を 実 施 し た 結 果 、 上 述 のGarcia
小 学 校 英 語 学 習 経 験 者 の 追跡 調 査 と小 ・中学 校 英 語教 育 へ の 示 唆 Lecumberri&Gallardo(2003)と 同 様 に 、 学 習 開 始 年 齢 が 高 く な る に つ れ て 優 れ た 結 果 が 得 ら れ た こ と を 示 し て い る 。 ま た 、Mora(2006)は 、 学 習 開 始 年 齢 の 違 い が 音 声 英 語 の 流 暢 性 に 与 え る 影 響 を 明 ら か に す る た め に 、 ス ペ イ ン の 学 校 に お い て 、 学 習 開 始 年 齢 の 異 な る 英 語 学 習 者(GroupA:8歳 、 GroupB:11歳)に 、6枚 の 絵 を 使 っ てstory-tellingを させ 、 そ の 発 話 を 分 析 し た 。 そ の 結 果 、
GroupBは 、GroupAと 比 べ 、pauseの 頻 度 や 流 暢 性 不 全 の 割 合 が 高 い が 、1分 あ た りの 発 話 単 語 数 が 多 く 、 母 語 の 出 現 頻 度 の 割 合 も 低 く、 よ り長 いfluentrunが 見 ら れ た こ と か ら、GroupB は 、GroupAと 比 べ 、oralfluencyに お い て 優 れ て い る と い う結 果 を 示 して い る 。 た だ し 、 こ の 調 査 で は 、 英 語 の 発 音 や リ ズ ム 、 イ ン トネ ー シ ョ ン 、 ま た 話 さ れ て い る 内 容 が 評 価 の 対 象 と な っ て い な い 。 以 上 、3つ の 調 査 研 究 に お い て 、 調 査 方 法 に 多 少 の 議 論 の 余 地 は あ る と し て も 、 外 国 語 学 習 の 開 始 学 年 が 遅 い 学 習 者 の 方 が 、 そ う で な い 者 よ り言 語 習 得 に は 優 れ て い る と い う 結 果 を 示 し て い る 。 2.1.2国 内 我 が 国 にお い て も、 技 能 面 にお け る追 跡 研 究 は少 な か らず 行 わ れ て は い る が 、 そ の 結 果 は 二 分 化 して い る 傾 向 が 見 ら れ る。 こ こ で は、 言 語 習 得 に肯 定 的 な 論 文 と して 、樋 口 他(19$6,1987, 198&ユ989)、 松 川(1998)、 静(2007)が あ げ ら れ る。 ま た 、 否 定 的 な 論 文 と して 白 畑(2002) をあ げ て み た い 。 樋 口 他 論 文(1986,1987,1988,19$9)で は、 私 立 小 学 校 で の 英 語 学 習 経 験 者 と 中学 校 か らの英 語 学 習 者 延 べ848名 を 対 象 に して、 私 立 中 ・高 等 学 校 に お け る 中1、 中3、 高2の 時 点 で4技 能 の 習 得 に 違 い が あ るか につ い て 横 断 的 な調 査 を実 施 して い る。 そ の 結 果 、4技 能 す べ て に お い て 、 中 ユで は 小 学 校 英 語 学 習 経 験 者 は未 経 験 者 よ り優 れ て い るが 、 中3で はそ の 差 は小 さ くな り、 高 2で 再 び そ の 差 が 大 き くな る こ とが 報 告 され て い る。 小 学 校 英 語 教 育 は長 期 的 な視 点 か ら見 れ ば、 技 能 の 習 得 に 有 効 で あ る。 また 、 小 学 校 で の 英 語 学 習 経 験 者 の 優 位 性 は、 英 語 の 規 則(文 法)に 関 す る 知 識 の 量 や 正確 さで は な く、 習 得 した 英 語 の 規 則 の 運 用 力 にあ る と結 論 づ け て い る。 松 川 論 文(ユ998)で は 、研 究 開 発 学 校 と して 高 学 年 で 週2回 の 英 語 学 習 を経 験 して い る公 立 小 学 校 出 身者(65名)と 他 の 公 立 小 学 校 出 身 者(87名)の 中 学1年 生 を対 象 に英 語 運 用 能 力 に違 い が あ る か を調 査 す る た め 、 イ ン タ ビュ ー テ ス トを実 施 した 。 そ の 結 果 、 ① 反 応 の 速 さ、 内 容 の 適 切 さ、未 知語 の推 測 に 対 す る 態 度 で は 、 小 学 校 で の 英 語 学 習 経 験 者 が優 れ て い る、 ② 文 法 的 観 点 一125一
近畿大学語学教育部紀要7巻2号(2007・12) で は、 両 グ ル ー プ 問 の差 は あ ま り見 られ な い、 ③ 総 発 話量 で は 、 単語 数 ・文 数 と もに研 究 開 発 学 校 出 身者 が 上 回 っ て お り、 小 学 校 で の英 語 学 習 経 験 者 の 英語 力 が 期待 通 り育 っ て い る 、 と報 告 し て い る。 ま た、 静 論 文(2007)で は、 小 学 校 時代 で の英 語 学 習 経験 者(316名)と 未 経 験 者(345名)聞 に、 高 校 で の英 語 力 に どの よ う な違 い が生 じる か に つ い て 調査 して い る 。技 能 面 の 調 査 には 、 英 語 運 用 能 力 テ ス ト(ACE)を 用 い て お り、 そ の 結 果 、 小 学 校 英 語 学 習 経 験 者 は未 経 験 者 に比 べ 、 特 に リ ス ニ ングカ に 関 してす ぐれ て い る、 と分 析 した 上 で 、 そ の傾 向 は 、 週 当 りの 学 習 時 間 数 を 増 や す よ り も、 学 習 年 数 を増 やす と、 よ り顕 著 に現 れ る と して い る 。 しか し なが ら、 白畑 論 文(2002)で は、 公 立 小 学 校 で 英 語 授 業 を 週1時 間 ず つ3年 問 、合 計 105時 聞 受 け た生 徒 と、 中 学 校 で は じめ て 英 語 学 習 を 開 始 した 生 徒 の 中学 入 学 後 の 英 語 能 力 の 違 い につ い て、 音 素 識 別 能 力 、 発 音 能 力 、 流 暢 性(発 話 語 数)の3つ の 観 点 か ら調 査 して い るが 、 す べ て にお い て、 小 学 校 英 語 経 験 者 と未 経 験 者 問 に は統 計 的 な 差 は 認 め られ な か っ た 、 とい う結 果 を示 して い る。 た だ し、 本 論 文 で は、 果 た して音 素 識 別 能力 で小 学校 英 語 学 習 の 成 果 を測 定 す る こ とが 妥 当 で あ る か とい う点 に 関 して、 ま た 、発 音 能 力 に つ い て も文 字 を提 示 し発 音 させ て い るが 、 自然 な発 話 の な か で収 集 した デ ー タを分 析 すべ きで な い か とい っ た 点 に 関 して 、 検 討 が 必 要 で あ ろ う。 2,2.情 意 面 2.2.1.国 外 こ こ で は 先 述 のCenoz(2003)の 調 査 研 究 を 、 ま た 、 古 典 的 な 調 査 研 究 と し てBurstall(1975) の 論 文 に つ い て 紹 介 し て み た い 。 前 述 のCenoz(2003)で は、技 能 面 の 調 査 と 同 じ 被 験 者 に 対 し て 、AttitudesandMotivation Questionnaires(計21項 目:例 え ば、feelingtowardslearningEnglish,Basque,andSpanish;desire tolearnthelanguage;effortandattitudestowardslearningthelanguage)を 実 施 し た と こ ろ 、 attitudesとmotivationの 両 方 に お い て 、 学 習 開 始 年 齢 の 早 い 学 習 者 が 、 言 語 学 習 に 対 し て 、 統 計 的 に よ り積 極 的 な 態 度 や 、 よ り高 い 動 機 付 け を 示 し た こ と を 明 ら か に し て い る 。 そ の 理 由 と し て は 、 学 習 開 始 年 齢 の 早 い グ ル ー プ で は ドラ マ や ス トー リ ー テ リ ン グ な ど音 声 重 視 の 指 導 内 容 や 指 導 方 法 を 楽 し ん で い た が 、 開 始 学 年 の 遅 い グ ル ー プ は 中 学 校 で 文 法 や 語 彙 を 重 視 し た 指 導 を 受 け て い た 、 と い っ た 指 導 内 容 や 指 導 方 法 の 違 い や 、 学 校 自体 に 対 す る 抵 抗 感 ・拒 絶 感 と い っ た 心 理 的 要 因 が よ り強 く影 響 し て い る 可 能 性 を 指 摘 し て い る 。 一126一
・ 萱 小学校英語学習経験者の追跡調査 と小 ・中学校英語教育へ の示唆 ま た 、Burstall(1975)で は 、 イ ン グ ラ ン ドに お い て、 大 規 模 か つ 長 期 的 な ス パ ンに基 づ き、 外 国語 学 習 へ の動 機 付 け の要 因 につ い て の調 査 が行 わ れ て い る 。 そ の 結 果 、① 統 合 的 な 動 機 付 け (他 の 言 語 を 話 す 人 々 や そ の 文 化 に 関 心 を持 つ こ と でL2を 学 習 す る よ う な動 機 付 け)お よ び 道 具 的 な動 機 付 け(社 会 的 地 位 や 教 育 的素 地 を 高 め た い な ど、実 際 的 な利 益 を得 た い とい う 目的 で L2を 学 習 す る よ う な動 機 付 け)に 関 して は、 多 くの 生 徒 が 両 方 の 要 因 を持 ち 、 一 方 に優 位 な 結 果 はみ られ な い、 ② 外 国文 化 を実 際 に体 験 す る こ とは、 外 国語 学 習 に対 して積 極 的 な態 度 お よび 言 語 習 得 に プ ラ ス に働 く、③ 外 国 語 学 習 へ の積 極 的 な 態 度 お よび 成 績 の優 秀 さ は 、両 親 の 社 会 的 ・経 済 的 地 位 に影 響 され る傾 向 が あ る、 ④ 女 子 の ほ うが 、 初 期 段 階 か ら外 国語 の成 績 が優 秀 で あ り、 そ の 後 もそ の ま ま推 移 す る、 ⑤ 小 規 模 校 にお い て は、 学 習 者 の互 い に助 け あ う態 度 や競 争 的 な 雰 囲 気 が ない こ とが 成 績 を押 し上 げて い る要 因で あ る、 と い う結 果 が 示 さ れ て い る。 2.2.2.国 内 国 内 に お け る 研 究 に つ い て は 、 カ レ イ ラ松 崎(2006)を は じめ 、 高 木(2003)、 樋 口 他(1994) の 研 究 を 紹 介 し て お き た い 。 カ レ イ ラ松 崎(2006)は 、 英 語 教 育 を 教 科 と し て 実 施 し て い る 小 学 校(公 立 お よ び 私 立 の 小 学 校2校)に お い て 、 英 語 学 習 に 影 響 を 与 え る 情 意 要 因 の 発 達 的 傾 向 と性 差 を 明 ら か に す る た め に 、 小 学3年(137名)、 小 学4年(129名)、 小 学6年(119名)の 合 計385名 の 児 童 を 対 象 に 、5つ の カ テ ゴ リー(intrinsicmotivation,interestinforeigncountries,instrumentalmotivation, caregiver'sencouragement,anxiety)に つ い て ア ン ケ ー ト調 査 を 実 施 し た 。 そ の 結 果 、 ① 英 語 学 習 に 対 す る 動 機 付 け は 学 年 が 上 が る に つ れ て 低 下 す る 、 ② 男 児 よ り も 女 児 の 方 が 英 語 学 習 に 対 す る 動 機 付 け は 高 い 、 ③caregiver'sencouragementとanxietyに 対 す る 年 齢 や 性 差 に よ る 影 響 は 見 られ な い と、 報 告 し て い る 。 た だ し、 彼 女 の 指 摘 す る 通 り 、 こ の 結 果 を 容 易 に 一 般 化 す る こ と は で き な い 。 な ぜ な ら、 社 会 的 ・文 化 的 な 環 境 の 違 い や 英 語 教 育 の ね ら い や 教 育 環 境 の 違 い が 言 語 学 習 に 対 す る 動 機 付 け に 大 き く影 響 す る か ら で あ る 。 ま た 、 高 木 論 文(2003)は 、957名 の 中 学 生(1-3年)を 対 象 と し 、 早 期 英 語 学 習 経 験 者 (753名)と 未 経 験 者(204名)間 の 英 語 学 習 に お け る 動 機 付 け の 違 い を 調 査 し て い る 。 そ の 結 果 、 ① 早 期 に 英 語 学 習 を 開 始 し た グ ル ー プ は 道 具 的 お よ び 外 発 的 動 機 付 け が 強 く、 英 語 学 習 に 対 し て 努 力 す る 傾 向 が あ る 、 ② 英 語 教 室 で 学 習 し た 生 徒 は 早 期 英 語 学 習 未 経 験 者 と 比 較 す る と 、「道 具 的 」「統 合 的 」 「内 発 的 」 「外 発 的 」 「英 米 文 化 に 対 す る 態 度 」「努 力 」 に お い て 、 強 い 動 機 付 け が 見 ら れ る 、 ③ 週1回 以 上 の 早 期 英 語 学 習 経 験 者 は 未 経 験 者 よ り 「道 具 的 」「外 発 的 」 「努 力 」 に お い 一127一
近畿大学語学教育 部紀要7巻2号(2007・12) て 、 よ り肯 定 的 態 度 を示 して い る、 な ど と結 論 づ け て い る。 一 方 、樋 口他論 文(1994)は 、 中 学1年 、3年 、 高 校2年 、 大 学1、2年 生 の 合 計 ユ,417名を 対 象 と した 調 査研 究 で あ る。 小 学 校 時 代 の 英 語 学 習 経 験 者 は、 ① コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを重 視 した 授 業 や授 業 に直接 関 係 し ない 自主 的 な英 語 学 習 に も積 極 的 で あ る、 ② 英 米 文 化 を含 む い ろ い ろ な 外 国 の 文 化 、 外 国 の 入 々の 考 え方 を理 解 し た り、 日本 の文 化 や 日本 人 の考 え方 を外 国 の 人 々 に紹 介 す る こ との 必 要性 を強 く感 じて い る傾 向 が 強 い、 な ど を 明 らか に して い る。 2.3.先 行研 究 にお け る課 題 や 聞 題 点 2.1お よび2.2.で 概 観 した 先 行研 究 は、 い ず れ も示 唆 に富 む もの で はあ るが 、 調 査 方 法 お よ び 調 査 内 容 の 妥 当 性 、 信 頼 性 につ い て 、 以 下 に示 す よ う に、 多 少 な り と も課 題 や 問題 点 が あ る こ と は否 定 で き ない 。 ① 技 能 面 測 定 の た め の テス トにつ い て は、 中学 校 か ら英 語 学 習 を 開始 した被 験 者 に対 して特 に配 慮 され た 調 査 内 容 ・調 査 項 目 に な って い る。 ま た、 小 学 校 英 語 教 育 の特 徴 を 踏 まえ た調 査 内 容 ・調 査 項 目が 少 ない 。 例 え ば、 未 知 語 や 未 知 構 文 が あ っ た と して も、 そ れ らを推 測 し なが ら ま と ま りの あ る会 話 を聞 い て 大 意 を把 握 す る能 力 、 リズ ム や イ ン トネ ー シ ョ ンな どの プ ロ ソ デ ィに 関 わ る能 力 、 会 話 が 断 絶 した と きの 非 言 語 的 手段 や コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン ス ト ラテ ジー を活 用 す る能 力 な ど につ い て の 調 査 項 目が 乏 しい こ とが あ げ られ る。 ② ス ピー キ ン グ ・テス トにつ い て は、 ス ピ ー キ ング能 力 を正 し く評 価 す る た め の 評価 規 準 お よび 評価 基 準 が 明 確 で ない 。 あ るい は妥 当性 に欠 け る調 査 が 多 く、 そ れ故 、評 価 自体 が信 頼 性 に乏 しい もの と な って い る よ う に思 われ る。 ま た、 ス ピ ー キ ング ・テ ス トに お け る 評価 者 の 事 前 トレー ニ ン グが 十 分 な され て い るの か 、 ま た評 価 者 間 の評 価 の相 関 につ い て も不 明 な もの もあ る。 ③ 情 意 面 の 調 査 につ い て は、 全 体 的 に質 問 項 目が 少 なす ぎる もの もあ り、 信 頼 性 に 乏 しい と い う感 が 強 い 。 ④ 分析 結 果 に は、 当然 の こ と なが ら、 被 験 者 の調 査 時 に所 属 す る(あ る い は過 去 に所 属 して い た)各 教 育 機 関 で の 英 語 の 指 導 目標 や 指 導 内容 、 指 導 方 法 の違 いが 影 響 して い る と思 わ れ るが 、 先 行研 究 で は この 部 分 が 示 され て い な い も の も あ る。 ⑤ 国 外 の研 究 で は、 学 習 開 始 年 齢 に よ る言 語 習 得 の差 を比 較 す る た め に、 学 習 期 聞 を 一 定 に した 比 較研 究 が 顕 著 に見 られ るが 、 調 査 時 の 被 験 者 の年 齢 が 異 な っ てお り、 そ の結 果 、調 査 時 の 被験 者 の 認 知 能 力 ・言 語 能 力 の 差 が 調 査 結 果 に影 響 して い る可 能 性 が あ る。 一128一
小学校英語学習経験者 の追跡 調査 と小 ・中学校 英語教 育へ の示唆 ⑥ 調 査 研 究 に よっ て は 、 小 学 生 の み を被験 者 と した り、 中 学1年 生 だ け を被 験 者 と して い る もの も見 られ る が 、 少 な く と も中 学3年 生 まで を被験 者 とす べ きで あ る。 しか し、 現 在 の と こ ろ 、公 立小 学 校 に お け る 英語 教 育 の 歴 史 が 浅 い 我 が 国 で は、 公 立 小 学 校 で 英 語 学 習 経 験 を 有 す る 高校 生 ・大 学 生 を被 験 者 とす る の は 非 常 に困 難 で あ るが 、 今 後 、 よ り長 期 的 視 点 か ら の調 査 が 必 要 で あ る。 本 調 査 研 究 で は 、上 に あ げ た調 査 内容 、 調 査 方 法 につ い て の 課 題 や 問 題 点 を十 分 考 慮 し、 調 査 研 究 を試 み る こ と と した。 本研 究 の調 査 方 法 ・調 査 内 容 につ い て は、3章 を参 照 して い た だ き た いo 3.調 査 目 的 我 が 国 にお け る小 学 校 英 語 活 動 の成 果 と問題 点 を 明 らか に す る た め に 、 英 語 を教 科 と して 学 習 して い るが 、 開始 学 年 や 学 習 時 間数 が 異 な る2地 区 の小 学 校6年 生 と、 そ れ らの 小 学 校 の 卒 業 生 が 進 学 す る2つ の 中学 校 の1,2年 生2各1ク ラ ス、 計2ク ラス ず つ 、 お よ び 小 学 校 で 英 語 学 習 を ほ とん ど経 験 して い な い 中学 校 の1,2年 生 各1ク ラス の学 習 者 を調 査 対 象 者 と して技 能 ・情 意 の 両 面 か ら追 跡 調 査 を実 施 す る。 そ して、 こ れ らの調 査 結 果 に基 づ き、上 記3地 区(小 学 校 は2 地 区)の 学 習 者 の 小6、 中1、 中2段 階 で の技 能 面 お よび 情 意面 に 見 られ る傾 向 を明 らか に し、 そ の 結 果 に基 づ い て これ か らの小 ・中の 英 語 教 育 の方 向性 につ い て必 要 な提 案 を す る こ と を 目的 とす る。 4.調 査 計 画 本 章 で は、 まず 今 回 の 調 査 対 象 校 の 英 語 教 育 につ い て概 観 し、 そ の後 、 今 回行 な っ た調 査 の調 査 内 容 、 調 査 問 題 、 評 価 方 法 、 調 査 対 象 者 数 及 び調 査 実 施 時 期 につ い て述 べ る。 4.1.調 査対 象 校 の 英 語 教 育 4.ll.指 導 者 と指 導 形 態 小 学 校段 階 で の 指 導 者 と指 導 形 態 は、 表4.1.1.の 通 りで あ る 。 この 表 か ら、A地 区 、B地 区 の 小 学 校 で は、 か な り恵 ま れ た環 境 で 英 語 教 育 が 行 な わ れ て い る こ とが わ か る。 一 方 、 中 学 校 段 階 で は 、A、B、C地 区 と も指 導 者 は英 語 科 教 員 とALTが 中 心 で 、 指 導 形 態 は通 常 、 英 語 科 教 z中 学3年 生 を 被 験 者 と し な か っ た の は 、 小 学 校 で 教 科 と し て 英語 教 育 を 実 施 して い る2地 区 の 一 方 に お い て 、 教 科 「英 語 」 で 学 習 した 学 習 者 の 最 高 学 年 が 中 学2年 生 で あ る か らで あ る。 一129一
近 畿 大 学 語 学 教 育部 紀 要7巻2号(2007・12) 表4.1.1:小 学 校 段 階 の 指 導 者 と 指 導 形 態 指導者 指導形態 A地 区 担任 、英 語専 科教 員 、 ALT、 中学校 教員 担 任 とALTのTT、 担 任 と専科 教 員のTr、 担 任 と申学校 教 員のTr、 担 任単 独 他 B地 区 担任 、英 語担 当教 員 、 ALT、 中学校 教 員 担 任 とALTのTr、 担 任 とALTと 英語担 当のTr C地 区 担 任 、ALT 担 任 とALTのTr 員 の 単 独 指 導 で あ る が 、 週1時 間 程 度 、 英 語 科 教 員 とALTのTTが 実 施 さ れ て い る 。 な お 、A、 B地 区 で は 、 時 々 、 小 学 校 教 員 も指 導 に 加 わ っ て い る 。 ま た 、A、B両 地 区 に お い て は 、 英 語 科 教 員 同 士 のTTも 行 な わ れ て い る 。 4.1.2.授 業 時 数 今 回 調 査 を 行 な っ た3つ の 地 区 の 小 ・中 学 校 に お け る 英 語 授 業 時 数 は 、 表4.1.2.の 通 り で あ る 。 表4.1.2:調 査対 象 地 区の小 ・中学校 に お ける英語 授業 時数 被験者 小学校段階 中1段 階 中2霞 階 総学習時間数 A地 区 小6 中1 中2 350時 間* 350時 間* 350時 間* 140時 間 140時 間 140時 間 350時 間 490時 間 630時 間 B地 区 小6 中1 中2 70時 間** 40∼70時 間** 35∼55時 間** 140時 間 140時 間 140時 間 70時 間 180-一 一210時 間 315∼335時 間 C地 区 中1 中2 4時 間 4時 間 105時 間 105時 間 105時 間 109時 問 214時 間 *:小1か ら6年 間 。 **:小5か ら2年 間。小 学校3校 よ り中学校 に進 学。 小学 校3校 の 英語 学習 時間 数 は異 な る。 A地 区 の 小 学 校 は 、 教 科 「英 語 」 と して 英 語 教 育 を実 施 す る研 究 開発 学 校 で あ る。 小1か ら6 年 間 、 英 語 教 育 を 実 施 して お り、 そ の 結 果 、 小 学 校 段 階 で 、 英 語 学 習 総 時 間 数 が350時 間 に達 し て い る 。B地 区 の小 学 校 は、 教 科 と して英 語 教 育 を実 施 して い る英 語 教 育 特 区 の 小 学 校 で あ る。 中1と 中2で は 、 小 学 校 で の 英 語 学 習 時 間 数 の ば らつ きが 見 られ るが 、 これ は、 英 語 学 習 時 問数 が 異 な る3つ の 小 学 校 か ら1つ の 中 学 校 に進 学 した た め で あ り、 い ず れ の 小 学 校 にお い て も小5 か ら2年 間 英 語 教 育 を実 施 して い る、 とい う点 で 一 致 して い る。 なお 、C地 区 の 小 学 校 は、「総 合 的 な 学 習 の 時 間 」 に年2時 間 程 度 の 英 語 活 動 を実 施 して い るだ けで あ る。 す な わ ち、 中 ユ、 中 2と も、 小5及 び 小6で 年 間2時 間 、 計4時 間 しか 英 語 活 動 を実 施 して お らず 、 今 回 の調 査 で は、 い わ ゆ る 英 語 教 育 をほ とん ど実 施 して い な い 小 学 校 と して 扱 って い る。 一130一
小 学 校 英 語 学 習 経 験 者 の追 跡 調 査 と小 ・中学 校 英 語 教 育へ の 示 唆 ま た 、 中1、 中2で の 学 習 時 間 数 は 、A、B両 地 区 と も 年140時 間 、C地 区 で は 年 ユ05時 間 と な っ て い る 。 4.1.3.指 導/到 達 目標 等 次 に、3地 区 の小 学 校 と中学 校 に お け る 指 導/到 達 目標 とそ れ を達 成 す る た め に な され て い る 工 夫 につ い て紹 介 す る。 A地 区 の 小 学 校 、 中 学 校 の 指 導/到 達 目標 A地 区 の 小 学 校 の 指 導 目標 は、 次 の 通 りで あ る。 ① 身 近 な事 柄 に 関す る英 語 を 聞 い て、 話 し手 の 意 図 な どを理 解 で きる よ うに す る 。 ② 身 近 な事 柄 につ い て 自分 の思 い を伝 え合 う こ とが で きる よ うに す る 。 ③ 聞 き慣 れ た簡 単 な語 や 文 を読 ん だ り、 書 い た りす る こ とに慣 れ 親 しむ 。 なお 、 同校 で は 、 第4学 年 か ら 「読 む こ と」、 第5学 年 か ら 「書 くこ と」 の指 導 を開 始 して お り、「読 む こ と ・書 く こ と」 の 具 体 目標 を 「ア ル フ ァベ ッ トや 聞 き慣 れ た 簡 単 な語 や 文 を読 ん だ り、 書 い た りす る こ と に慣 れ親 しみ なが ら、 文 字 を活 用 して 自分 の思 い な どを伝 え 合 う こ とが で き る よ う にす る」 と して い る。 ま た指 導 目標 を達 成 す る た め に 、 中学 校 で の指 導 内容 を 考 慮 した 上 で 、「子 ど もの 発 達 段 階 や 興 味 ・関 心 に応 じた カ リキ ュ ラ ム」 を作 成 す る と と も に、 観 光 地 や 空 港 で の イ ン タ ビ ュー な ど、 実 際 に英 語 で コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを 図 る機 会 を積 極 的 に提 供 して い る。 また 、 授 業 で は、CDや ビ デ オ な どの視 聴 覚 教 材 や コ ン ピュ ー タが 活 用 され て い る 。 A地 区 の 中学 校 の指 導 目標 は 、 次 の 通 りで あ る 。 ① 英 語 で の 聞 く ・話 す ・読 む ・書 く言 語 活 動 を通 して、 言 語 や 文 化 に対 す る 関心 や 理 解 を深 め る。 ② 積 極 的 に コ ミュニ ケ ー シ ョン を図 ろ う とす る態 度 の 育 成 を 図 る。 ③ 互 い に情 報 や 気 持 ちや 考 え を伝 え合 う こ との で き る実 践 的 コ ミュニ ケー シ ョ ン能 力 の基 礎 を 養 う。 また 、 学 習 者 の 小 学 校 で の 英 語 活 動 経験 を生 か す た め に、 次 の よ う な配 慮 が な され て い る。 ① 生徒 が 英 語 の 学 習 に 積 極 的 に取 り組 み 、 英 語 に よ る コ ミ ュニ ケー シ ョンや 外 国 の 文 化 に興 味 ・ 関心 を持 ち 続 け 、 よ り自立 した 学 習 者 ・情 報 受 発 信 者 と なれ る よ う に、 小 学 校 段 階 で の 多 彩 な言 語 活動 の 内 容 と発 展 的 に つ な が り、 か つ 中 学 校段 階 で の 学 習 目標 を達 成 す る よ う な、 生 徒 の 発 達 段 階 や 実態 に 合 っ た 言 語 活 動 を行 な う。② 検 定 教 科 書 を使 っ た 授 業(週3時 間)の ほか に、 自己 一13ユ ー
近 畿 大 学 語 学 教 育 部 紀 要7巻2号(2007・12) 表 現 ・コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 の 育 成 を 目標 とす る 「英 語 表 現 」 を 週1時 間 実 施 す る 。 ③ こ れ ら に 加 え 、 小 ・中 の 連 携 を 図 る た め に 、 小 学 校 の 英 語 担 当 教 員 、ALT、 中 学 校 英 語 科 教 員 に よ る テ ィー ム テ ィ ー チ ン グ を 行 な っ た り、 小 ・中 の 英 語 担 当 教 員 が 一 緒 に 会 議 を 定 期 的 に 行 な っ た り して い る 。 B地 区 の小 学校 、 中 学校 の 指 導/到 達 目標 B地 区 の小 学校 の 指 導 目標 は 、 次 の 通 りで あ る 。 ① 英 語 を学 ぶ 楽 しさ を体 験 させ る こ とで、 異 な る文 化 を持 つ 人 との コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンへ の積 極 的 な関 心 ・意 欲 ・態 度 を高 め る と共 に、 文 化 の多 様 性 を理 解 す る態 度 を養 う。 ② 学 年 に応 じ系 統 立 て て、 児 童 が 英 語 に触 れ る こ とで、 簡 単 な英 語 を使 っ て 、相 手 の 意 向 を理 解 し、 自分 の 意 志 を表 現 す る こ との で きる実 践 的 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能力 の基 礎 を培 う。 B地 区 の 中学 校 の 指 導 目標 は 、 次 の 通 りで あ る 。 ① 子 ど もた ちが 英 語 に よ る コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンに意 欲 を持 っ て、 生 き生 き と学 習 活 動 に取 り組 む よ う にす る。 ② 英 語 の4技 能 につ い てバ ラ ンス よ く力 をつ け る。 また 、A地 区 と 同様 に、 中学 校 の 英 語 担 当教 員 が 小6の 授 業 に参 加 した り、 逆 に小 学 校 の英 語 担 当 者 が 中 学 校 の 英 語 の 授 業 に参 加 した りす る こ とで、 小 ・中 の交 流 を 図 っ て い る。 特 に 、 中1 の1学 期 に は、 小 ・中 の ス ムー ス な接 続 を図 る た め に、 中学 校 英 語 へ の導 入 の た め の カ リキ ュ ラ ム を作 成 し、 授 業 を行 な って い る。 C地 区 の小 学 校 、 中学 校 の指 導/到 達 目標 C地 区 の小 学 校 で は 、 年 間授 業 時 間 数 が2時 間 で あ るた め 、 指 導/到 達 目標 は特 に設 定 され て い な い 。 外 国 の 言 葉 や 習 慣 に親 しみ 、 英 語 が 好 き に な る よ う に配 慮 して活 動 を行 な っ て い る程 度 で あ る 。 一 方 、 中 学 校 で は、1年 次 の4技 能 の 到 達 目標 を次 の よ う に設 定 して い る。 ① リ ス ニ ン グ ② ス ピ ー キ ン グ ③ リ ー デ ィ ン グ ④ ラ イ テ ィ ン グ ・本 文 の 内容 につ い てT/Fク イ ズ に 答 え られ る。 ・本 文 の 内容 に 関す る 質 問 に 文 で答 え られ る 。 ・日常 の簡 単 な英 会 話 が で きる。 ・自分 や 家 族 ・友 達 につ い て 、英 語 で紹 介 で きる。 ・本 文 の 内容 を理 解 し、音読 で きる。 ・意 味 が 分 り、読 める ようになった英 文を正 しく書 ける。 一132一
小 学 校 英 語 学 習 経 験 者 の追 跡 調 査 と小 ・中学 校 英 語 教 育へ の示 唆 ・自 分 ・家 族 ・友 達 に つ い て 、 簡 単 な英 文 が 書 け る。 な お 、 同 校 で は 、 新 出 単 語 が 独 力 で 読 め る よ う に す る た め に 、 フ ォ ニ ッ ク ス の 指 導 に も 力 を 入 れ て い る 。 4.2.調 査 内 容 4.2、1、 技 能 面 技 能 の 調 査 は 、 ① ス ピ ー キ ン グ 、 ② リ ス ニ ン グ 、 ③ リ ー デ ィ ン グ に 関 し て 行 な っ た 。 具 体 的 な 調 査 内 容 は 、 表4.2.1の 通 りで あ る 。 な お 、 小 学 校 で は 、 リ ー デ ィ ン グ の 技 能 の 習 得 は 主 要 な 目 標 で は な く、「聞 く」、「話 す 」 を 中 心 に 授 業 が 展 開 さ れ て い る た め 、 リ ー デ ィ ン グ ・テ ス トは 実 施 して い な い 。 問 題 作 成 に あ た っ て は 、 小 学 校 は2つ の 地 区 の 小 学 校 の 指 導 案 集 、 中 学 校 は3校 で 使 用 さ れ て い る 検 定 教 科 書 で 扱 わ れ て い る 語 彙 や 文 法 項 目 を 吟 味 し、 調 査 対 象 者 間 で 不 公 平 が 生 じ な い よ う 配 慮 し た 。 な お 、 リ ス ニ ン グ 問 題 の テ ー プ 速 度 は ユ08WPMで あ る 。 テ ー プ 速 度 を 決 め る 際 に は 、 中 学 校 検 定 教 科 書 、ONEWORLDEnglishCourse2の 準 拠 テ ー プ の 平 均 速 度(120WPM)と 、 児 童 を 対 象 と し た 英 語 検 定 試 験 の ひ と つ で あ るTECS(英 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン技 能 検 定 試 験)1級 の リ ス ニ ン グ 問 題 の テ ー プ 速 度(ユ26WPM)を 参 考 に し た 。 一 方、 リ ー デ ィ ン グ 問 題 の 試 験 時 間 は25分 で あ る 。Part1,Part2に 必 要 な 解 答 時 間 を15分 問 と 想 定 し 、Part3の 配 当 時 間 を10分 に し た 。 一 般 的 に 、 中2と 中3の 平 均 読 解 速 度 は 、 そ れ ぞ れ 50WPMと60WPM前 後 と 言 わ れ て い る が 、 読 解 速 度 を80WPM弱 と や や 高 い 目 に 設 定 した 。 表4.2.1:技 能 面 の 調 査 内 容 と 調 査 項 目 小 学6年 生1中 学1年 生1中 学2年 生 ス ピ ー キ ン グ Part1 自己情 報 に関す る応 答 Part2 パ ノラマ絵 に関す る事 実情 報1スの応 答1応 答及 び絵 か ら推 測 で きる情 報 に関す る応 答トー リー性 の ある5コ マ絵 の 事実 情 報 に関 す る ■ リス ニ ン グ Part1 1∼2文 の事 実情 報 に合 った適 切 な絵 の 選択 Part2 事実情 報 に関 す る質問 と応 答 に合 った適 切 な絵 の 選択 Part3 会話 文の 要 点 の聞 き取 り 「 会 話 文 、 ス ピ ー チ の 要 点 の 聞 き 取 り リー デ ィ ン グ Part1 ,曹一 一 曹 曹一 一 曹 一 Part2 ,一一 曹 曹 曹一 一_ Part3 実施せず 文型 ・文 法事項 に関す る適 語選 択 r 会話文の要点把握 卜 紹 介 文 、 日記 文の 要点 把握 一133一
近 畿 大 学 語 学 教 育 部 紀 要7巻2号(2007・12) 4.2、2.情 意 面 情 意 面 に 関 し て は 、 次 の16の カ テ ゴ リ ー を 設 定 し、 各 カ テ ゴ リ ー に1∼4の 質 問 項 目 を 作 成 し、 質 問 紙 調 査 を 実 施 し た 。 Cl:英 語 学 習 に対 す る 関心 ・意 欲 ・態 度 C2:学 習 方 略 C3:英 語 以 外 の外 国語 学 習 へ の意 欲 C4:学 習 動 機:内 容 こ だ わ り型 C5:学 習 動 機:関 係 こ だ わ り型 C6:学 習 動 機:条 件 こ だ わ り型 C7:学 習 動 機:自 己 こ だ わ り型 C8:コ ミュニ ケー シ ョ ンに対 す る方 略 C9:コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 対 す る 態 度 C10:自 言 語 へ の 関 心 Cll:自 文 化 へ の 関 心 C12:他 文 化 へ の 関 心 C13:交 流 へ の 関 心 C14:相 互 協 力 へ の 態 度 C15:自 己 肯 定 感 Cl6:他 者 尊 重 なお 、 学 習 動 機 に 関 して は、 鹿 毛(2000)が4種 類 に大 別 した もの を用 い た 。 鹿 毛 は 「自 ら学 ぶ 意 欲 」 を説 明 す る上 で、 人 は 自 ら学 ぶ と きに何 らか の 「こだ わ り」 を持 っ て お り、 そ の 「こだ わ り」 が 学 ぶ 意 欲 の源 泉 とな っ て 「学 び」 と 「自分 」 を結 びつ け る と論 じて い る 。 そ の 「自 ら学 ぶ 意 欲 」 を構 成 す る要 素 を、 ① 学 ぶ 対 象 ・内容 が 学 ぶ意 欲 の源 泉 とな る 「内容 こだ わ り型 意 欲 」、 ② 他 者 との 関 わ りの 中 か ら生 じる 「関 係 こだ わ り型 意 欲 」、③ い わ ゆ る 「外 発 的 動 機 付 け」 に 相 当 す る 「条 件 こ だ わ り型 意 欲 」、 ④ 肯 定 的 な 自己 像 を確 立 し よ う とす る 「自 己 こ だ わ り型 意 欲 」 と した 。 また 、 質 問 項 目 は、 小6は22項 目、 中1及 び 中2は35項 目 と した。 こ の項 目数 の差 は 、小 学 生 にふ さ わ し く ない 質 問(例:「 英 語 学 習 の 中 で は、 ど ち らか とい う と読 ん だ り、書 い た りす る活 動 が 楽 しい 」)を 省 い た結 果 で あ る。 4.3.調 査 問 題 4.3.1.技 能 面 「ス ピ ー キ ン グ ・テ ス ト」 で は 、Part1で は 、 小6、 中1、 中2と も 自分 自身 の こ と に つ い て 、 正 確 に 伝 え る こ と が で き る か を 問 う 質 問 を5題 出 題 し た 。 ま たPart2で は 、 小6と 中1に 対 し て は パ ノ ラ マ 絵 を 、 中2に は ス トー リ ー 性 の あ る5コ マ 絵 を 見 せ 、 そ の 絵 に 関 す る 質 問 を5題 出 題 し 、 事 実 情 報 を い か に 正 確 に 伝 え る こ と が で き る か を 測 定 し た 。 特 に 中2に つ い て は 、 最 後 の 質 問 で 絵 か ら推 測 す る こ と が で き る 情 報 に 関 す る 応 答 を 行 な い 、 口 頭 自 由 英 作 文 の 能 力 を 判 定 し た 。 「リ ス ニ ン グ ・テ ス ト」 のPartlで は 、 小6に は7問 、 中11に は8問 、 中2に は7問 出 題 し た 一 ユ34一
小 学 校 英 語 学 習経 験 者 の 追跡 調 査 と小 ・中 学 校 英 語 教 育 へ の 示 唆 が 、 事 実 情 報 を 伝 え る 文 の 詳 細 を 聞 き 取 る 能 力 を 判 定 し た 。Part2で は 、 事 実 情 報 に 関 す る 質 問 と 応 答 に 合 っ た 絵 を 選 択 さ せ る 問 題 を 、 小6に は7問 、 中1に は6問 、 中2に は7問 出 題 し た 。 Part3で は 、 小6、 中1、 中2と も3つ の 会 話 の 要 旨 を 聞 き 取 らせ た 。 各 会 話 に つ い て 日 本 語 で 書 か れ た 質 問 を2問 ず つ 、 計6問 出 題 し 、4つ の 選 択 肢 か ら正 答 を 選 択 さ せ た 。 中1、 中2に は 、 会 話 文 の 聞 き 取 り に 加 え ス ピ ー チ の 要 点 の 聞 き 取 り問 題 を5題 出 題 し た 。 「リ ー デ ィ ン グ ・テ ス ト」 は3部 構 成 と し た 。 な お 、 前 述 の 通 り、 小6に 対 し て は 、 リ ー デ ィ ン グ ・テ ス トを 実 施 し な か っ た 。 中1、 中2と も、Partlで は 、 文 型 ・文 法 事 項 に 関 す る 適 語 選 択 問 題 を ユ2問、Part2で は 会 話 文 の 要 点 把 握 問 題 を4問 、Part3で は 、 中 ユ に 対 し て は 紹 介 文 、 中2に 対 し て は 、 日 記 文 の 要 点 把 握 に 関 す る 問 題 を4題 ず つ 出 題 し た 。 な お 、 調 査 で 使 用 し た ス ピ ー キ ン グ 問 題 、 リ ス ニ ン グ 問 題 、 リ ー デ ィ ン グ 問 題 は 、 資 料 ユー1 ∼1-4を 参 照 の こ と。 4.3.2.情 意 面 情 意 面 に 関 し て は 、 前 述 の よ う に16の カ テ ゴ リ ー を 設 定 し 、 質 問 紙 調 査 を 行 な っ た 。 そ れ ぞ れ の カ テ ゴ リ ー に 対 す る 小 ・中 学 校 別 の 質 問 数 及 び 質 問 番 号 は 、 次 の 通 りで あ る 。 表4.3.1:小 ・中 学 校 別 質 聞 項 目数 及 び 質 問 項 目番 号 小 中 小 中 C1 10,11.13 10,13,14,17 C9 26.27 39.40 C2 該 当 な し 19,20.21 C10 28 42 C3 14 22 C11 29 43 C4 15.16 23,24,25,26 C12 31 45 C5 19.20 29.30 C13 30 44.47 C6 23 33,35.36 C14 32 46.48 C7 21.22 31.32 C15 33 49.51 CS 25 38.41 C16 34.35 50,52.53 な お 、 調 査 で 使 用 し た ア ン ケ ー ト問 題 に つ い て は 、 資 料2を 参 照 の こ と 。 4.4.評 価 方 法 4.4.1、 ス ピ ー キ ン グ ス ピ ー キ ン グ ・テ ス トに 関 し て は 、 次 の4つ の 評 価 の 観 点 と 評 価 規 準 に 基 づ き 、 具 体 的 な 評 価 基 準 を 作 成 し た 。 一135一
近 畿 大 学 語 学 教 育 部紀 要7巻2号(2007・12) 1.コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 対 す る 積 極 的 な 態 度 規 準:自 分 か ら 積 極 的 に 聞 い た り、 話 し た り し て い る か 。 2.内 容 の 適 切 さ 規 準:質 問 を 理 解 し 、 内 容 を 十 分 満 た し 、 適 切 に 答 え て い る か 。 3.英 語 の 正 確 さ(語 彙 ・文 法) 規 準:質 問 を 理 解 し 、 正 し い 英 語 で 答 え て い る か 。 4.発 音 規 準:相 手 に 理 解 し て も ら え る よ う に 、 正 し い 発 音 、 ア ク セ ン ト、 イ ン トネ ー シ ョ ンで 明 瞭 に 話 し て い る か 。 *適 切 さ と正 確 さ に つ い て は 、2つ の 観 点 に 分 け て い る が 、 運 用 に 当 た っ て は 統 合 して 評 価 す る 。 **総 合 評 価 の 仕 方:そ れ ぞ れ の 観 点 の 点 数 を 合 計 す る 。 な お 、 具 体 的 な 評 価 基 準 に つ い て は 、 資 料3-1、3-2を 参 照 の こ と 。 ま た 、 ス ピ ー キ ン グ ・テ ス トは 、 英 語 教 育 ・応 用 言 語 学 を 専 門 と し て い る 日 本 人 英 語 教 員 が 、 1対1で 面 接 を 行 な っ た 。 評 価 に あ た っ て は 、 面 接 の 模 様 を 録 画 し た ビ デ オ を英 語 教 育 ・応 用 言 語 学 を 専 門 と す る3名 の 日本 人 英 語 教 員 が 見 て 、 前 述 の 評 価 規 準 及 び 具 体 的 な 評 価 基 準 に 基 づ き 、 4つ の 観 点 か ら総 合 的 に5段 階 評 価 し、 最 終 的 に は 、 そ の3人 の 平 均 点 を 得 点 と し た 。 全 ユ0問で 、 50点 満 点 で あ る 。 4.4.2.リ ス ニ ン グ 、 リ ー デ ィ ン グ リ ス ニ ン グ ・テ ス ト は 、 筆 記 ・多 肢 選 択 と し、 小6は 全20問 で20点 満 点 、 中1と 中2は 全25問 で25点 満 点 で あ る 。 リ ー デ ィ ン グ ・テ ス ト は 、 筆 記 ・多 肢 選 択 で 、 全20問 、20点 満 点 で あ る 。 4.4.3.質 問 紙 調 査 情 意 面 に 関 し て は 、 質 問 紙 調 査 を 行 な い 、 各 項 目 に つ い て5段 階 で 調 査 対 象 者 に 自 己 評 価 さ せ た 。 4.5.調 査 対 象 者 数 調 査 対 象 者 数 は 、 表4.5.ユ の 通 りで あ る 。 一136一
小学校英語学習経験者の追跡調査 と小 ・中学校英語教 育へ の示唆
表4.5.1:調 査 対 象 者 数
学年 小 学6年 生 中学1年 生 中学2年 生 地 区 A地 区B地 区 A地 区 B地 区 C地 区 A地 区 B地 区 C地 区
調査対象者数 25名33名 30名 34名 33名 26名 28名 25名 調 査 対 象 者 数 が 少 な い の は、 そ もそ もA地 区 の 小 学 校 が1学 年 ユク ラ ス で あ った の で 、 他 の 地 区 も1ク ラ ス と した こ と、 ま た、1対1の 個 人面 接 調 査 に よる イ ン タ ビュ ー ・テ ス トは非 常 に時 間 が か か る点 に も配 慮 した。 4.6.調 査 実 施 時 期 2006年12月 か ら2007年1月 。 5.調 査 結 果 と 考 察 本 章 で は 、技 能 面 、 情 意 面 お よ び技 能 面 と情 意 面 の 関係 につ い て調 査 結 果 を示 し、 考 察 を加 え る 。 前 述 の よ う に、A地 区 の 小 学 校 が ユ学 年1ク ラ ス とい う小 規 模 で あ っ た 関係 で、B、C地 区 も調 査対 象 を1ク ラス と した た め 全 体 的 な母 数 が 少 な く、 統 計 的 な有 意 差 が 認 め られ た と ころ は 、 非 常 に 大 きな 違 い が あ っ た とい う こ とが 言 え る。 また 、 リス ニ ングや リー デ ィ ング の よ うに評 価 が簡 単 に で きな い ス ピー キ ン グ ・テ ス トにお い て も、 で きる限 り客 観 的 な採 点 を行 うた め に、 パ イ ロ ッ トテ ス トの ビデ オ を見 な が ら評 価 規 準 お よ び基 準 を練 り上 げ た結 果 、 各 学 年 と も3人 の評 価 者 の 評 価 者 問信 頼 係 数(inter-raterreliability)は α9以上(小6は0.931、 中1はo.96a中2は 0.960)と 、 非 常 に ば らつ きが 小 さ か っ た 。 ま た念 の た め に 実 施 した 英 語 母 語 話 者 と 日本 人 評 価 者 の評 価 者 問信 頼 係 数 も、0.958と 非 常 に高 か っ た。 な お 、本 調 査 の統 計処 理 は す べ てSPSSを 用 い て行 な っ た。 以 下 、 各学 年 に お け る技 能 面 で の 比 較 を見 て い く。 5.1.技 能 面 5.1.1∼5.1.4.に お い て 、 技 能 面 の 調 査 結 果 を 順 次 示 し 、 考 察 を 記 述 し て い く。 ま た 最 後 に 小6∼ 中2を 通 し て 調 査 結 果 を 示 し、 考 察 を 加 え る 。 な お 、 小6はA、B2地 区 の 比 較 で あ る の でt検 定 を 、 中1、 中2は3地 区 の 比 較 と な る た めScheffeを 用 い た 一 元 配 置 分 散 分 析 多 重 比 較 を 行 な っ た 。 一137一
近 畿 大 学 語 学 教 育 部 紀 要7巻 且号120⑪7・12) 5.1.1.小 学6年 生 A、B両 地 区 の 調 査 結 果 は 次 の 通 り で あ る 。(表5.Ll、 グ ラ フ5.1.工.グ ラ ワ5.1.2参 照 。) 衷5.1.1:小 学6年 生 母 平 均 の 差 の 検 定 被蛾者数 iF均 点 'F均 の 華 t値 リ ス ニ ン グ A地 区 B地 区 25 詔 17.52 1醇.4呂 1.04 一 一 1,762 ス ピ ー キ ン グ A地 区 B地 区 25 脇 3955 41.06 一1 .51 一1391 グ ラ フ5.1、1小6リ ス ニ ン グ得 点 分 布 グ ラ フ5.12:小Oス ピ ー キ ン グ 得 点 分 布 リ ス ニ ン グ で はA地 区 の 平 均 点 が17.52、B地 区 の 平 均 点 が16.4呂 で 、t値 は ユ.762と 、2地 区 間 に 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た 。 次 に ス ピ ー キ ン グ で はA地 区 の 平 均 点 が39.55、B地 区 の 平 均 点 が 41.06で 、t値 は 一1.391と 、 ス ピ ー キ ン グ に お い て も2地 区 間 に 有 意 差 は 見 ら れ な か ウ た 。 つ ま り,リ ス ニ ン グ 、 ス ピ ー キ ン グ に お い て 、2地 区 間 に 統 剖 的 な 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た こ と が わ か る.英 語 学 習 の 開 始 学 年 や 学 習 時 間 数 を 考 え る と、 有 意 差 が な い と い う 結 果 は 予 想 外 で あ る 。 しか し、 リ ス ニ ン グ の 得 点 分 布 を 見 る と、A地 区 で は 成 績 下 位 者 が 少 な い こ と が 特 筆 で き る{グ ラ フ5.1.1参 照)。 一 方,ス ピ ー キ ン グ に お い て はB地 区 の ほ う が 平 均 点 も 高 く成 績 上 位 者 も 多 い こ と が わ か る(グ ラ フ5.1.2参 照)。 こ れ はB地 区 の 児 童 に と っ て 今 回 調 査 し た 表 現 に 日 ご ろ か ら慣 れ て い た 等 の 要 因 が 影 響 し て い る の で は な い か と 考 え ら れ る 。 つ ま り、 両 地 区 の 児 童 に と っ て 既 習 の 項 目 の み を 厳 選 し て 作 問 し た 結 果 、B地 区 の 児 童 が 学 習 し た 内 容 が 中 心 に 出 題 さ れ て お り、A地 区 の 児 童 の み が 学 習 し て い る 、 よ り 高 度 な 問 題 が 一 切 出 題 さ れ て い な か っ た こ と も 一・因 か も し れ な いφ 5.1,2.中 学1年 生 、 A、B、C9地 区 の 調 査 結 果 は 次 の 通 りで あ る 。(表5.1.2、 グ ラ フ5.1.3、 グ ラ フ5.1,4、 一138一
小 学校 英 語 学 習 経 験 者 の 追 跡 調 査 と小 ・中学 校 英 語 教 育 へ の 示 唆 グ ラ フ5,1.5、 参 照.) 結 果 は 表5.1.2の 通 り で あ る が 、 ま ず リ ス ニ ン グ で はA地 区 の 平 均 点 が21.gaB地 区 の 平 均 点 が ユ9.呂&C地 区 の 平 均 点 が17.21で 、A地 区 とC地 区 、B地 区 とC地 区 の 問 で 、 危 険 率1%水 準 で 有 意 差 が 見 ら れ た 。 ス ピ ー キ ン グ で はA地 区 の 平 均 点 が38.55、B地 区 の 平 均 点 が30.99、C 地 区 の 平 均 点 が22.58で 、A地 区 とB地 区 の 間 に 危 険 率5%水 準 で 有 意 差 が 見 ら れ る 。 ま た 、A 地 区 とC地 区 、B地 区 とC地 区 の 間 で.危 険 率1%水 準 で 有 意 差 が 見 ら れ た 。 裏5.1.2:中 学1年 生 分 散 分 析 多 重 比 較 幅oh前f帥 一 葡嚴 者匙 一 平均点 SD 平均 点の 差 (A-B) 平均 点の 差 {A-c) 平 均 点 の 差 {B-O〕 IJス ニ ン グ A地 区 B地 区 C地 区 きo 註4 鵠 2tgo l9.巳呂 1721 225 3.1与 4.14 2.⑪2 [P一 血050] 4.田 串肛 [P一 αoo7】 2.67申 ‡ 〔P-a㎜] ス ピ ー キ ン グ A地 区 B地 区 C地 区 註o a4 蕗 3呂茄 3⑪.99 22.5呂 色74 7』4 呂.呂5 5.品 串 [P=位o捌 14.D9串 串 【P二 α000】 乱41串 牢 [Pニ"㎜] り一 デ ィ ン グ A地 区 B地 区 c地 区 aD 騒 53 1aO7 10.74 臼.91 4,婁5 5.95 5.ヨ1 2.33 [P量 軌20呂 】 一 5.15 【P三 〇.06胡 o.舘 [P一 α呂o臼] 申串 ρ<o.01・ 酢P<o.05 グ ラ フ5.L3中1リ ス ニ ン グ 得 点 分 布 グ ラ フ5.1.4中1ス ピ ー キ ン グ 得 点 分 布 グ ラ フ5.1.5中1リ ー デ ィ ン グ 得 点 分 布
近 畿 大 学 語 学 教 育 部 紀 要7巻2号(2007・12) 次 に リ ー デ ィ ン グ に お い て は 、A地 区 の 平 均 点 が ユ3.07、B地 区 の 平 均 点 が ユ0.74、C地 区 の 平 均 点 が9.9ユで 、3地 区 の 問 に 平 均 点 で は 差 は 見 ら れ る が 、 統 計 的 に 有 意 差 は 出 て い な い 。 つ ま り、 リ ス ニ ン グ お よ び ス ピ ー キ ン グ に お い て は 、 中1の 段 階 で は 小 学 校 英 語 学 習 の 影 響 が 非 常 に 顕 著 に 現 れ て い る と い え る 。 小6段 階 で はB地 区 は ス ピ ー キ ン グ の 平 均 点 でA地 区 を 上 回 っ て い た が 、 中1段 階 で は 逆 転 し て い る 。 ま た 、A地 区 の 生 徒 は リ ス ニ ン グ 、 ス ピ ー キ ン グ に お い て 成 績 上 位 者 が 多 く 、 下 位 者 が 少 な い の が 特 徴 で あ る(グ ラ フ5.1.3、5.1.4参 照)。A地 区 お よ びB地 区 の 生 徒 、 と り わ けA地 区 の 生 徒 は リ ス ニ ン グ 、 ス ピ ー キ ン グ に お い て 小 学 校 英 語 学 習 で 培 っ た 能 力 を 保 持 し て い る が 、 小 学 校 で は 体 系 的 に 扱 わ れ な か っ た リ ー デ ィ ン グ に お い て は 、A地 区 とB 地 区 間 、A、B両 地 区 とC地 区 間 に 差 は 見 ら れ な か っ た(グ ラ フ5.1.5参 照)。 5.1.3中 学2年 生 A,B,C3地 区 の 調 査 結 果 は 次 の 通 り で あ る 。(表5.1.3、 グ ラ フ5.1.6、 グ ラ フ5.1.7、 グ ラ フ5.1.8参 照 。) 表5.1.3:中 学2年 生 分 散 分 析 多 重 比 較(Scheffe) 被験者数 平均点 SD 平 均点 の差 (A-B) 平 均点 の差 (A-C) 平 均点 の差 (s-c) リス ニ ン グ A地 区 B地 区 C地 区 26 28 25 1$.31 17.96 16.84 3.53 3.3 4.38 0.34 LP=0.867] 1.47 [p=0.411] 1.12 [p=0.674] ス ピ ー キ ン グ A地 区 B地 区 C地 区 26 28 25 33.56 32.43 25.64 8.01 7.90 8.35 1.14 [p=0.912] 7.92** [p=0.009) 6.79 [p=0.019] リー デ ィ ン グ A地 区 B地 区 C地 区 26 2$ 25 11.19 11.18 11.04 4.75 4.98 5.32 0.01 LA=0.9$2] 0.15 LA=0.992] 0.14 [p=0.950] **、 ρ<0,01*ρ<0.05 結 果 は 表5。 ユ.3の 通 りで あ る が 、 リ ス ニ ン グ 、 リ ー デ ィ ン グ に お い て は 地 区 間 の 有 意 差 は 見 ら れ ず 、 ス ピ ー キ ン グ に お い て の み 、 有 意 差 が 見 ら れ る 結 果 と な っ た 。 ま ず リ ス ニ ン グ で はA地 区 の 平 均 が18.31、B地 区 の 平 均 が ユ7.9CC地 区 の 平 均 が16.84で 、 地 区 問 の 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た 。 中1の リ ス ニ ン グ で 見 ら れ たA地 区 に お け る 小 学 校 英 語 の プ ラ ス の 影 響 が 中2段 階 で は 見 受 け ら れ な く な っ て お り 、 ま たC地 区 の 生 徒 が 他 の2地 区 に 追 い つ い て き て い る こ と が わ か る 。 し か し 、 ス ピ ー キ ン グ で はA地 区 の 平 均 が33.56、B地 区 の 平 均 が32.43,C地 区 の 平 均 が25.64と 、 A地 区 とC地 区 の 間 に 危 険 率1%水 準 で 、 ま たB地 区 とC地 区 の 間 で 、 危 険 率5%水 準 で 有 意 差 一 ユ40一
小学 校 英 語学 習 絶 験 者の 追 跡 調 査 と小 ・中学 校 英 語 教 育 へ の 示 唆 が 見 ら れ た 。 し か し、 リ ー デ ィ ン ゲ に お い て は 、A地 区 の 平 均 が11.19B地 区 の 平 均 がILI8、 C地 区 の 平 均 がll.04と 平 均 点 の 差 も ほ と ん ど な く、 地 区 間 の 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た 。 グ ラ フ5、1.61:1'121」 ス ニ ン グ 得 点 分 布 グ ラ フ5.1.7:中2ス ピ ー キ ン グ 得 点 分 布
一
グ ラ フ5.1.呂:中2リ ー デ ィ ン グ 得 点 分 布 11」'局 以 上 の よ う に 、 中2の 段 階 で は 、 リ ス ニ ン グ 、 リー デ ィ ン グ に お い て 小 学 校 で 英 語 を ほ と ん ど 学 習 し て い な か っ たC地 区 の 生 徒 が 、A、B両 地 区 の 生 徒 に 追 い つ い て き て い る の が わ か る 〔グ ラ フ5.1.5、5.1溜 参 照}。 し かL、 ス ピ ー キ ン グ に お い て は 、 小 学 校 英 語 学 習 経 験 者 で あ るA、 B両 地 区 の 生 徒 はC地 区 の 生 徒 と と 比 ぺ る と 、 こ の 段 階 に お い て も統 計 的 な 有 意 差 を 保 持 し て い る(グ ラ フ5,1、7参 照)。 5,1.4,小 学5年 生 か ら 中 学2年 生 を 通 し て 次 に 、 技 能 面 に お け る 、 小 面か ら中2ま で の 変 化 を 見 て い く.小6と 中1、 中Zの 問 題 数 、 配 点 が 異 な る た め 、 得 ・点 を 得 点 率 に 変 換Lて 示 す(表5.1.4:リ ス ニ ン グ 、 表5.L5;ス ピ ー キ ン グ 、 表5.1.6:リ ー デ ィ ン グ)。近 畿 大 学 語 学 教 育 部紀 要7巻2号(2007・12) 表5.1.4:リ ス ニ ン グ得 点 率 小6 中1 中2 A地 区 B地 区 C地 区 87.6 82.4% 87.6% 79.5% ・::'. 73.2 71.8% 67.4 平 均 85.0% 78.6 70.8% 表5.1.5:ス ピ ー キ ン グ 得 点 率 小6 中1 中2 A地 区 B地 区 C地 区 79.1 82.1 77.3 62.0 45.2% 67.1 64.9% 51.3% 平 均 80.6 61.5% 61.1 表5.1.6:リ ー デ ィ ン グ 得 点 率 小6 中1 中2 A地 区 B地 区 C地 区 65.4 53.7 49.6% 56.0% 55.9% 55.2% 平 均 56.2% 55.7% リス ニ ング にお い て は、 小6段 階 で は、A地 区 とB地 区 の 間 に あ ま り差 は見 られ ず 、 学 習 時 問 数 や 学 習 期 間 の差 が 技 能 の差 に現 れ て い な い こ とが わ か る。 この結 果 か ら判 断 す る と、 前 述 の よ う に 出題 内 容 にや や 問 題 が あ っ た た め、 あ る い は 問題 が や や易 しす ぎた た め 、両 地 区 間 に差 が 出 なか った と も考 え られ る。 中1の 段 階 で は、 小 学 校 英 語 学 習 を経 験 して い るA、B両 地 区 とC地 区 を比 較 す る と、 統 計 的 な有 意 差 が あ る。 しか し、 中2段 階 で は、3地 区 の生 徒 の得 点率 の 差 は 小 さ く、 ほ とん ど差 は見 られ な い。 ス ピー キ ン グ にお い て は、 小6段 階 で は、 リス ニ ング と同様 、A地 区 とB地 区 の 問 に あ ま り差 は見 られ ない 。 これ は これ は リス ニ ング と同 様 な理 由 に よ る ものか も しれ な い。 しか し、 中1段 階 で はA、B両 地 区 とC地 区 の 間 に有 意 差(p<.0ユ)が あ り、A地 区 とB地 区 の 間 に も有 意 差 (p<.05)が 見 られ る。 これ は学 習 期 間 と学 習 時 間 数 を反 映 した結 果 とい え る 。 中2段 階 にお い て も、A地 区 とC地 区の 間 に有 意 差(p<.0ユ)が あ り、B地 区 とC地 区 の 問 に も有 意 差(p<.05) が あ る 。 しか し、 中1段 階 に見 られ たA地 区 、B地 区 の差 は ほ とん ど見 られ な い。 リー デ ィ ン グ にお い て は、 中1段 階 で3地 区 を比 較 す る と平 均 点 の 差 が あ るが 、 統 計 的 な有 意 差 は な か っ た 。 中1、 中2と も得 点 率 が50%前 後 か ら65%前 後 で あ り、 問 題 が や や 難 しか っ た こ と も影響 して い る 可 能性 が あ る 。 中2段 階 で は 、3地 区 の 平 均 点 の 差 もほ とん ど見 られ ない 。 一142一
小学校英語 学習経験 者の追跡 調査 と小 ・中学校英語教育への示唆 今 回 の 小6か ら中2ま で の 技 能 面 で の 調 査 結 果 を ま と め る と、 ス ピ ー キ ング に お い て、 中 ユ、 中2の 段 階 で はA、B両 地 区 は、C地 区 と比 べ 、 有 意 にす ぐれ て い る こ とが わ か る。 しか しA地 区 とB地 区 を比 較 す る と、 中1段 階 で の み 有 意差 が 見 られ た だ け で あ る 。 今 後 も追 跡 調 査 を行 い 、 中3段 階 で の 結 果 を待 って 、 さ ら に検 討 して い き たい 。 リ ス ニ ン グ にお い て は、 中1段 階 でA、 B両 地 区 の 生 徒 とC地 区 の 生 徒 の 間 に統 計 的 な有 意 差 は見 られ るが 、 中2.段 階 で は3地 区 の差 は 見 られ な い 。 また リー デ ィ ン グ にお い て 、 中1、 中2段 階 と も統 計 的 な有 意 差 はみ られ な い。 こ れ らの 原 因 と して 、A、B地 区 と も複 数 の 小 学 校 の 児 童 が 同 じ中学 校 へ 進 学 す る た め、 中学 校 で の 指 導 が 学 習 時 間 数 の 少 な い 小 学 校 出 身 の 児 童 に焦 点 をあ て た 指 導 が さ なれ て い る こ とや 、 小 学 校 で リー デ ィ ン グの 指 導 が 体 系 的 にな され て い ない こ とが あ げ られ るで あ ろ う。 5.2.情 意 面 情 意 面 の 調 査 に つ い て は 、 第4章 で 述べ た よ う に、 質 問 紙 調 査 を実 施 した 。 当 節 で はそ の 分 析 方法 、 お よび調 査 結 果 と考 察 に つ い て 述べ る 。 分 析 方法 に つ い て は 、 質 問 紙 調査 の 結 果 を 因 子 分析 し、 そ の 解 釈 に基 づ い て カテ ゴ リー 分 け を 行 な う、通 常 の統 計処 理 とは 異 な る 手 法 を 用 い た 。 情 意 因 子 の 先 行研 究 の 妥 当 性 を前 提 に、 あ ら か じめ カ テ ゴ リー 分 け を した 上 で 質 問 紙調 査 を 実 施 し、 そ の 結 果 を この 分 類 に当 て はめ る形 で 分 析 を行 な い 、行 き過 ぎた解 釈 に な らな い よ うに慎 重 に 考 察 を加 え た 。 な お 、Cユか らCl6の カテ ゴ リー の う ちC2「 学 習 方 略 」 に つ い て は、 現 在 の小 学 校 英 語 教 育 の 目標 を 考 え る と、 小 学 校 段 階 で育 成 を 目指 す 項 目で は な い と判 断 し、 こ れ に該 当 す る 質 問 は 質 問 紙 調 査 に は 含 め な か っ た 。 し たが っ て、 小 学6年 生 はC2を 除 く15項 目、 中学1・2年 生 は16項 目で分 析 を行 な っ て い る 。 統 計 処 理 方 法 につ い て は、 小 学6年 生 はAとBの2地 区 問 に お け る比 較 とな る た め 、t検 定 を 用 い て検 証 した。 中学 生 に 関 して は、3地 区 に お け る平 均 値 の差 の検 定 とな る た め 、 一 元 配 置 分 散 分 析 を行 な い、 ま た各 地 区 問 の 度数 が 異 な る た め、SchefEe検 定 を用 い た多 重 比 較 を行 な っ た。 被 験 者 数 は、 表5.2.1.の 通 りで あ る 。 表5.21:情 意 因子 調 査対 象者数 小 学6年 生 中学1年 生 中学2年 生 A地 区 24名 24名 22名 B地 区 35名 35名 27名 C地 区
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23名 19名 一 ユ43一近畿大学語学教育部紀要7巻2号(2007・12) 5.2.1.小 学6年 生 の調 査 結 果 と考 察 小 学6年 生 はユ5項目中 ユ0項目 にお い て 統 計 的 に有 意 差 が 認 め られ た。 いず れ の項 目につ い て も A地 区 の 平 均 値 が 上 まわ っ て お り、 危 険 率1%水 準 で は 「英 語 学 習 に 対 す る 関心 ・意 欲 ・態 度 (Cl)」 「学 習 動 機:内 容 こ だ わ り型 意 欲(C4)」 「コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 対 す る 方 略(C8)」 「コ ミュ ニ ケ ー シ ョン に対 す る態 度(C9)」 「自言 語 へ の 関心(C10)」 「相 互 協 力 へ の 態 度(C14)」 「自 己肯 定 感(Cユ5)」 「他 者 尊 重(Cl6)」 の8項 目に 有 意 差 が 認 め られ る。 ま た、 危 険 率5%水 準 で も、「他 文 化 へ の 関心(C12)」 と 「交 流 へ の 関 心(Cl3)」 の2項 目に 有 意 差 が 見 られ る。A地 区 で は小 学1年 生 か ら6年 問 で 約350時 間 、B地 区 で は 小 学5年 生 か ら2年 間 で35∼70時 間 英 語 学 習 に取 り組 ん で い るが 、 この結 果 に は学 習 開始 学 年 と学 習 時 問 数 の 差 が 如 実 に表 れ て い る と言 え る。 表5.2.2:小 学6年 生の調査結果 注)統 計データは資料4-1参 照の こと。**P<0.01*ρ<0。05 情 意 面 にお い て は、 小 学 校 英 語 教 育 の 肯 定 的 な影 響 は こ れ まで も多 く報 告 され て い る が 、 今 回 の 小 学6年 生 を対 象 と した 調 査 は これ らを裏 付 け る結 果 に な っ て い る。 逆 に有 意 差 の 認 め られ な か っ た項 目 に も 目 を向 け て み た い。 まず 、「英 語 以 外 の外 国 語 学 習 へ の 意 欲(C3)」 につ い て は 、 英語 学 習 の 初 期 段 階 で は他 の 言 語 に対 す る 関心 まで は培 わ れ に くい の は 当 然 で あ ろ う。 次 に、 学 習 動 機 に つ い て は、4種 類 の 学 習 動 機 の う ち 「内 容 こ だ わ り型 (C4)」 以 外 に 有 意 差 は 見 られ な い こ と か ら、 児 童 は 学 ぶ 対 象 ・内 容 が 学 ぶ 意 欲 の 源 泉 と な る 「内 容 こ だ わ り型 意 欲 」 を 中心 と した 内 発 的 動 機 に よ って 英 語 学 習 に取 り組 ん で い る 様 子 が 見 て 取 れ る。 5.2.2.中 学1年 生 の 調 査 結 果 と 考 察 一144一
小学校 英語学習経験 者の追跡調査 と小 ・中学校英語教育への示唆 中 学1年 生 につ い て は、「英 語 学 習 に対 す る 関心 ・意 欲 ・態 度(Cl)」 にお い て の み 、B地 区 と C地 区 の 問 に危 険 率1%水 準 、A地 区 とC地 区の 問 に危 険 率5%水 準 で有 意 差 が 見 られ る。 小 学 校 段 階 で 英 語 学 習 を経験 す る こ と に よ り、 英 語 学 習 に対 す る 関心 ・意 欲 ・態 度 が 育 成 さ れ て い る と判 断 され る。 また 、 これ は小 学 校 にお け る英 語 学 習 、 あ る い は英 語 活 動 の 目標 に も合 致 す る結 果 で あ る と も言 え る。 しか しなが ら、Cユ以 外 の 項 目に つ い て は 有 意 差 が 認 め られ な い 点 に 、 中 学 校 の英 語 教 育 や 小 ・中 の 連携 に関 す る現 状 を垣 問見 る こ とが で き る。 連 携 に 問題 が あ る場 合 、 5.1.4で も言 及 した よ うに、 カ リキ ュ ラ ム編 成 や 授 業 の 進 度 は、 往 々 に して 英 語 学 習 経 験 の少 な い生 徒 に合 わせ て 決 め られ るた め 、 結 果 と して 、 英 語 学 習 経 験 の 多 い生 徒 は 中学 校 に進 学 して 以 来 、学 習経 験 の 少 な い 生徒 が 追 い つ くまで 相 当 な期 間 にわ た って 「足 踏 み 」 させ られ る こ とに な る。 今 回 の調 査 結 果 が 、 この現 状 と密接 に関 わ り合 って い る可 能 性 は否 定 で き な いで あ ろ う。 小 学 校 で 英 語 学 習 を多 く経 験 して い るA、B両 地 区 と経 験 が ほ とん ど な いC地 区 の 問 に、「コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン に対 す る 方 略(C8)」 や 「コ ミ ュニ ケ ー シ ョン に対 す る 態 度(C9)」 に お い て 有 意 差 が 認 め られ な い点 も無視 で きな い 。 これ まで 、 小 学校 で 英 語 学 習 に取 り組 む こ と に よ りコ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを積 極 的 に 図 ろ う とす る態 度 が 育 成 され る と経験 的 に言 わ れ て お り、 関 係 者 の 問で ほ とん ど共 通 認 識 とな っ て い る 感 さえ あ る 。 そ して 、 文 部科 学 省 は、 小 学校 にお け る英 語 必 修 化 の ひ とつ の ね らい と して、 また小 ・中 の 連携 等 を議 論 す る 上 で 、小 学校 で培 った この コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを積 極 的 に 図 ろ う とす る態 度 を基 盤 に して 申学 校 で は 実践 的 コ ミ ュニ ケ ー シ ョン能 力 の 基 礎 を養 う と して い る。 しか しなが ら今 回 の調 査 に お い て は 、 出 て 然 るべ き と考 え られ た コ ミュニ ケ ー シ ョ ンの方 略 や 態 度 とい っ た項 目に お い て有 意差 が 見 られ な い 。前 述 の小 ・中 の 連携 に関 す る問 題 以 外 に もさ ま ざ ま な要 因が 考 え得 るが 、小 学 校 英 語 教 育 の 意義 を問 う上 で も重 要 な 鍵 を握 る項 目 だ け に、 今 回 の調 査 結 果 は小 ・中 の英 語 学 習 を考 え る上 で重 大 な課 題 と して 受 け 止 め るべ きで あ ろ う。 一145一
近畿大学語学教育部紀要7巻2号(2007・12) 地 区 を上 ま わ る か た ちで 、「学 習動 機:自 己 こ だ わ り型(C7)」 「他 文 化 へ の 関 心(C12)」 「交 流 へ の 関 心(Cユ3)」 「相 互 協 力 へ の態 度(C14)」 に お い て 、 危 険 率5%水 準 で 有 意 差 が 認 め られ る。 特 に、 小6の 段 階 で は 「他 文 化 へ の 関 心(Cユ2)」 「交 流 へ の 関 心(C13)」 「相 互 協 力 へ の 態 度 (Cユ4)」に つ い て はA地 区 の方 がB地 区 よ りも有 意 味 に好 ま しい 傾 向 を示 して い た が 、 中2で は 逆 転 現 象 が起 こ っ て い る 。 また 、「学 習 動 機:自 己 こ だ わ り型(C7)」 に つ い て も、 同 様 の 結 果 が 出 てお り、B地 区 に お い て は肯 定 的 な 自己像 を確 立 し よ う とす る 意 欲 が 英 語 学 習 の 動 機 と して 現 れ て い る。 こ れ らは 、A、B両 地 区 の 小 学 校 英 語 学 習 の影 響 な の か 、 そ れ と も中学 校 英 語 教 育 に 何 らか の要 因が あ る の か 、 あ る い は地 域 的 な取 り組 み な ど英 語 以外 の 学 習 内 容 が 反 映 され て い る の か 、 今 回 の調 査 か らは判 断 しか ね るが 、 小6の 結 果 とは対 照 的 で予 想 外 の 結 果 で あ っ た 。 さ ら に、B地 区 とC地 区 の 間 に も、「交 流 へ の 関心(C13)」 にお い て 危 険 率5%水 準 で 有 意 差 が 認 め られ る。B地 区 で は 、交 流 へ の 関心 が他 の 地 区 よ りも強 く育 成 され て い る様 子 が 見 て 取 れ る。 A地 区 とB地 区の 逆 転 現 象 につ い て は、 別 の観 点 か ら も一 考 に値 す る。A地 区 で は小 学1年 生 か ら6年 間 、B地 区で は小 学5年 生 か ら2年 聞、 そ れ ぞ れ英 語 学 習 に取 り組 ん で い る が 、 考 え得 る ひ とつ の 可 能 性 と して 、A地 区で は長 期 的 に英 語 学 習 に取 り組 む こ とに よ っ て 、 もは や英 語 学 習 に新 鮮 味 が 感 じられ な くな り、 関 心 や 意 欲 が 薄 れ て しま っ て こ の よ う な結 果 に な っ て い る の か も しれ な い 。 仮 に この 推 察 が 妥 当 で あ る とす る な ら ば、 小 学 校 英 語 教 育 の導 入 に際 して 、学 習 開 始学 年 につ い て も また 、慎 重 に検 討 す る必 要 が あ ろ う。 5.3技 能 面 と 情 意 面 の 関 係 5.3.1.分 析 方 法 各 技 能 調 査 結 果 と情 意 調 査 結 果 と の 関 係 を 調 べ る た め に 、 小6、 中1、 中2各 学 年 の ス ピ ー キ ン グ 、 リ ス ニ ン グ 、 リ ー デ ィ ン グ(小6は な し)の テ ス ト結 果 と 情 意 ア ン ケ ー ト結 果 を 用 い 、 相 関 関 係 が 存 在 す る か を 調 査 し た 。 分 析 に 先 立 ち 、 技 能 テ ス トデ ー タ は 小 、 中 学 生 と も に 、 各 テ ス トの 合 計 点 を も と に 表5.3.1の よ う に 各 レ ベ ル の 人 数 が ほ ぼ 均 等 に な る よ う に3段 階(上 ・ 中 ・下)に レベ ル 分 け を 行 な っ た 。 分 析 で は ス ピ ー キ ン グ 、 リ ス ニ ン グ 、 リ ー デ ィ ン グ の ス コ ア 、 お よ び 情 意 項 目(Cユ か らC16)の 回 答 を 変 数 と し、 相 関 分 析 を 試 み た 。 情 意 ア ン ケ ー トの 回 答 デ ー タ が 間 隔 尺 度 を 満 た す 等 分 に 連 続 的 な 変 数 と は 言 え な い た め 、 分 析 に はKendallタ ウ を 用 い た 。 一146一