ポートフォリオ評価法に基づく考察力育成のための授業方法の開発
A Teaching Method with portfolios for the expression of consideration.
山 本 睦
YAMAMOTO Chika
問題と目的 保育所が保育指針によって「保育と教育の一体的提供」の場として位置づけられ(ミネルヴァ書房編 集部, 2008)てから,保育現場での研修は指導記録や指導案,自己評価等「記述する力」に関する内容 が他の保育技術や知識の獲得と同様に扱われている(山本・坂井, 2011; 柴崎・金 ,2011; 岡花ら ,2009)。 これは,児童票や指導要録といった子どもの評価に関わる文書作成の業務が多くなったこと,これまで の保育現場では四大卒がまだ少なく論文を執筆する経験を経ていない保育士が多いこと,従って職場学 習(中原, 2010)のなかで指導する立場にあるベテラン保育士も体系的な学びを必要としていることが 背景にあると思われる。本学部では,実習日誌はすべて「感想」ではなく「考察」を書く形式になって いるが,そこに困難を示す学生が多い。 そこで演習科目の授業において,毎回学生に当該授業の「学習内容」「ねらい」「考察」と 3 ステップ を設けた用紙に記述させる書式を考案した。記述に対しては,毎回筆者が到達度評価と修正事項をフィー ドバックし,その記録(授業ポートフォリオ)を蓄積した。さらに中間(第 8 回)と最終回に自己分析 してもらうことで,考察の書き方を身につける実践を行なった。本研究では,そこで得られた授業ポー トフォリオを分析することで,学生の考察力と関連する要因について検討することを目的とした。 ここではまず,さまざまな文章作成に関する先行研究から,主観的な「感想」から脱却し,根拠を提 示したうえで展開する「考察」を書くための要因を概観する。 ⑴文章産出能力としての考察力 考察を書けない学生は,考察だけではなく,感想であっても記録であっても文章力そのものに問題が ある場合が多い。この文章力という一般的な語彙を,心理学の構成概念では,「書く」という行為だけ でなく「話す」も含めたより広く複雑な認知過程として捉える文章産出能力と位置づける。大澤(2003) は,文章産出を文章理解と同じく「目標を設定し問題を解決していく認知過程」であると位置づけ,「書 く」行為に付随する「読み」の重要性を指摘する。「読み」は,問題解決的な認知活動(記憶を文章と して表現すること,テキスト産出)に対して,客観的に活動を監視するメタ認知的な働きをしている。 つまり,「書く」という行為は,行為主体としての書き手だけではなく読み手も想定し,読み手と書き 手が自己内で行なう対話過程であるとされる。そして,「書く」ことは,単に記憶や既存の知識を文章に変換しているだけでなく,モニタリングや推敲といったメタ認知の働き1が必要なので,「書く」ため の教育はメタ認知を活性化させるような指導を行なえば,文章産出にかかわる技能を効率的に向上させ ることができると述べている。 しかし崎濱(2004)は,文章産出については,熟達者でさえ産出活動についてのモニタリングあるい は自己評価を行なうことが極めて困難であるという知見から,こうしたメタ認知的側面を実際の産出活 動場面で活用できるよう,何らかの具体的な外的介入が必要であるとした。効果があると思われる外的 介入として,①読み手を意識させる教示を行なう,②字数制限を課す,の2つの方法があげられている。 先行研究の結果から,①の効果の有無については一致した見解が得られておらず,それは読み手の知識 状態や内容理解の程度が想定できないと効果が見られない(崎濱, 2003)という。この点を克服するた めには,読み手からのフィードバックを蓄積する方法が示唆されている。一方,②は文章産出スキルに 影響を及ぼす要因が,知識量よりむしろ内容の取捨選択,内容同士のつながりの検討であることから, 効果が生じると考えられている。つまり,字数制限を課すと,書き手の情報選択や選択情報のつながり の検討が促進され,その結果文章産出スキルが獲得されていくということである。また,この作業を「く りかえす」ことの重要性も指摘されている。 こうした知見から,今回の授業実践では,①読み手からのフィードバックを蓄積すること,②書くス ペースを区切って,字数が制限されるよう工夫すること,の2点を取り入れた。 ⑵保育者養成のなかで「論理的文章が書ける」ように指導する意味 本学部の教育実習日誌において,「感想」欄ではなく「考察」欄を設けた契機は,鯨岡(2005),鯨岡・ 鯨岡(2007),鯨岡(2012)のエピソード記述の方法を日誌に反映させ,学生のエピソードを書く力の 養成を図ろうとしたことであった。岡花ら(2009)がエピソード記述を基にしたカンファレンスの事例 を分析しているように,保育現場ではエピソード記述を持ち寄っての園内研修が盛んに行なわれている。 筆者も数回に渡ってエピソード記述の書き方,それを利用した園内研修の効果の分析に関する研修の講 師を務めたことがある。そのなかで,特に困難を感じたのは<考察>の書き方であった。鯨岡・鯨岡(2007) のなかでエピソード記述の構成要素は,<背景>,<エピソード>,<考察>の3つからなる。<背景> はエピソードとなる出来事を理解するために,それまでの流れ,前提となる仕組みや関係性について記 述するものである。<エピソード>は,観察者=保育者と観察対象者=子どもの間で起こった出来事を 「間主観的」に記述していく。そしてそのエピソードを取りあげた理由を最後に書くとされている。そ して問題となる<考察>なのだが,それは観察者がその<エピソード>をどう受け止め,「自然に自分 が巻き込まれていたその場から少し離れて,全体を見る態度,つまり脱自的態度(鯨岡・鯨岡, 2007, P60)」で何を考えたかを記述する。 この作業を通じて,考察では少なくとも2つ以上の見解を擦り合わせて考えることが示唆される。例 えば,エピソード場面に「巻き込まれた」態度とエピソード記述をしている脱自的態度,エピソードに 遭遇する前の自分の<常識>とエピソードによって<常識>が覆される経験,<背景>に沿って期待し た内容と実際のエピソードの内容,などである。確かに,1つの見解だけに依存した記述であれば,そ れは「伝聞」であり「感想」なのである。この「2つ以上の見解を擦り合わせて考える」ことが,記述 1 大澤(2003)や崎濱(2004)では,「モニタリング」をメタ認知として扱っているが,内田(2008)は幼児の文章産出過程での メタ認知の発達に関して,「モニタリング」と「メタ認知」の出現時期にずれが生じるものとして記述されている。結果,幼児 期に「モニタリング」から「メタ認知」への切り替えが生じるとされている。
を「考察」にするためのミニマムな構造なのではないだろうか。 単一の(往々にして主観的で根拠がない)見解による「感想」から「考察」への移行は,単なる文章 産出ではなく,「論理的文章を書くこと」の教育実践として位置づく。上述したように文章産出は,書 き手が読み手の視点を獲得することによって,そのスキルが向上する。つまり,スキル向上のための教 育方法は,文章産出そのものが書き手と読み手との相互行為のなかで達成されることが根底にある。た だし,この相互行為は,不特定な書き手あるいは読み手を想定しているに過ぎない。したがって,単に 文章産出スキルを獲得するだけでは,上記のエピソード記述を一例とする保育実践に適合するわけでは ない。 この問題を「コミュニティへの参入」という概念の導入で,石田(2006)は次のように乗り越えてい る。石田(2006)によれば,社会構成主義的学習論の立場から「論理的文章を書くこと」の教育は,こ とばによって表現・伝達される内容を「真実」あるいは「現実」に近づけることではなく,むしろ「真 実」・「現実」の解釈について複数性,多元性を前提に展開されると主張している。その前提のうえで,「論 理的文章」が書けるようになることは,自分の既存のコミュニティから新たな「コミュニティへの参入」 への移行を意図しているというのである。つまり,論理的な文章を書くための教育は,学習者のコミュ ニティで通常使用されるディスコース2から,異なるコミュニティへと参入させていくような論理的ディ スコースを獲得する教育実践のデザインとして考えなければならない。そこで身につける論理的ディス コースは,研究者や高等教育機関などのアカデミック・コミュニティだけで要求されるものではない。 論理的ディスコースの役割は,私的なディスコースから公的で非人称的なディスコースへと移行させる ことである。 この石田の見解を簡単にまとめてしまえば,「感想(私的なディスコース)」から「考察(公的で非人 称的なディスコース)」への移行と対応している。つまり,公的で非人称的なディスコースとは,根拠 が示され客観性を有し,「私ひとりの解釈」ではなく他者に対して説得的な論理展開が必要とされるも のだからである。そして,保育現場で用いられるエピソード記述による<考察>の取り組みは,面前で 起きた出来事=「現実」の解釈の複数性,多元性を引き出すための装置として機能していると考えられ る。つまり,保育者養成において「論理的文章を書く」実践に取り組むことは,文章産出スキルを獲得 させるという学習者への詰め込みではなく,学生のコミュニティから保育者のコミュニティへの移行を 促すこととなる。そのための論理的ディスコースの核は,複数性,多元性を有していること,言い換え れば「少なくとも2つ以上の見解を擦り合わせる」作業を含むこととして集約できるのではないだろう か。 ⑶創造性のシステムから考案した3つのステップ 「感想」から「考察」への移行を促す教育実践の目標が,文章中で述べられる見解の複数性,多元性 の確保と決まったところで,次に教育装置を考案しなければならない。そこで2つの理論モデルを採用 した。1つは教育方法としてのポートフォリオ評価法(シャクリーら, 2001)である。ポートフォリオ 評価法は,構成主義的発達観に基づき,学習者の作品,親や保護者そして教師の観察記録,そして学習 2 石田(2006)は,Gee のディスコースという概念を援用し,次のように述べている。「我々の身の回りに存在するさまざまな言 語の使いかた,すなわち,文章のジャンルや言語のスタイルなどは,それぞれある社会的な集団や社会的な役割を意味している。 ディスコースとは,このような言語の社会的な側面側面に注目した概念である。(中略)論理的文章もさまざまな文章のジャン ルと同様,ある特定の社会的な集団や役割を示す。(P60)」
- 78 - 者自身の自己評価記録などを課題に応じて収集・蓄積し分析する質的な評価法であり,多くの才能教育, 創造性教育で活用されている(夏堀, 2005)。この教育実践は,学んだ内容を確認するのではなく,自 ら「考察」を「考えだす」=創出することが主たる活動となる。したがって,創造的活動の評価法であ り,必ず自己評価を伴うポートフォリオ評価の方法を用いることにした。自己評価の要素を重視する理 由は,現行の保育所保育指針のもと,保育者は自己評価が義務づけられており,各園でその書式と水準 は異なるものの,保育者にとって自己評価の文書作成は業務の1つとなっているからである。 そして,もう1つの理論モデルは,Csikszentmihalyi(1999)の創造性のシステムモデルである。 このモデルはDIFI モデルと呼ばれ,Domain(領域)- Individual(個人)- Field(評価の場)- Interaction(相互関係)モデルのことである。創造性を用いる活動は,すべてこのモデルの各要素間 を巡るシステムとして記述可能である。人が何か新しいものを産み出そうとするとき,まずその領域の 既存の知見を得なければならない。これがIndividual から文化の下位システムである Domain へのア クセスである。そうして得た知見を特定の生育史を持ったIndividual が変換し,何らかの産物をつく り出す。そして,その産物が当該領域の専門家集団や市場といったField によって社会的評価を獲得で きた場合は,新しい=創造的であるとされ,Domain に組み込まれる。当然 , Domain に蓄積されてい る知見はField の選択評価に影響を与え,また Field の評価基準が Individual の変換を規定する。こ の3つの要素が相互に影響しあい,創造性を成立させている。先に述べたように,この「感想」から「考 察」への移行を促す実践は,創造的活動であり,この要素間を巡るシステムとして記述可能なはずであ る。そこから,次のステップを考案した。 をつくり出す。そして,その産物が当該領域の専門家集団や市場といった Field によ って社会的評価を獲得できた場合は,新しい=創造的であるとされ,Domain に組み 込まれる。当然, Domain に蓄積されている知見は Field の選択評価に影響を与え,ま た Field の評価基準が Individual の変換を規定する。この3つの要素が相互に影響し あい,創造性を成立させている。先に述べたように,この「感想」から「考察」への 移行を促す実践は,創造的活動であり,この要素間を巡るシステムとして記述可能な はずである。そこから,次のステップを考案した。 ① 学習内容(何を学んだのか) これは,Domain から Individual への矢印に対 応している。各授業回のなかでどのような知見を得たのかを記述する。 ② ねらい(何を学ばせたかったのか;教員の授業目標を推測) これは考察の記述 内容を規定する Field から Individual の矢印に対応している。またこのステッ プは,考察が私見のみによる感想になることを妨げ,知見の複数性に気づかせる
①学習内容(何を学んだのか) これは,Domain から Individual への矢印に対応している。各授業 回のなかでどのような知見を得たのかを記述する。 ②ねらい(何を学ばせたかったのか;教員の授業目標を推測) これは考察の記述内容を規定する Field から Individual の矢印に対応している。またこのステップは,考察が私見のみによる感想に なることを妨げ,知見の複数性に気づかせることを意図して配置した。 ③考察(何が考えられるのか) これはIndividual から Field への矢印,つまり“新しさ”の産出と なる。この授業内での評価者は筆者であるので,②のねらいが読み取れれば,「何が評価されるのか」 を推測しつつ,学生自身の知見と擦り合わせることが容易になる。 この3ステップを学生は毎回ポートフォリオの用紙に記入し,毎回筆者が修正点を指摘したものを フィードバックするシステムを設計した。そして中間(第 8 回)と最終回(第 15 回)に自己分析と自 己評価の作業を行なう授業デザインにした。 以上が今回行なった「感想」から「考察」への移行を促す実践の理論的背景である。本稿では,この 実践を通じて得たポートフォリオの分析を通じて,考察力の形成に影響する要因を検討することを目的 とする。 方 法 対象:平成 24 年度「保育の心理学演習」受講者(2 年,79 名)。 手続き:毎回授業の終わりに,①学習内容(何を学んだのか),②ねらい(何を学ばせたかったのか; 教員の授業目標を推測),③考察の 3 ステップから成る授業ポートフォリオを作成させる。毎回①~③ のどのステップまで書けているかを評価し,書けているステップの欄に印鑑を押し,到達度をフィード バックした。①までは 1 点,②までは 2 点, ③までは 3 点を割り当て,毎回の到達度を得点化した。そ れと同時に,印鑑が押されなかったステップには,どのような誤りがあるかを添削してフィードバック した。誤りの種類は,主語・述語の不一致や漢字の間違いを除いて次の4種類に大別された。 ①感想・根拠なし(単一の見解,主観的な見解によって構成)。 ②他項目と同じ内容(学習内容,ねらい,考察間で同じ内容が書かれている)。 ③説明が必要(文と文の間の飛躍,主語目的語が欠如)。 ④構成概念不適切(概念の誤用)。 この4種類の誤りが第 1 回から第7回まで(前半)と第 8 回から第 14 回まで(後半)の③考察ステッ プ(全 14 回3)内で,それぞれ何回指摘されているかを各変数とした。また期末に実施する◯×,穴埋 めで構成されているテスト(再生・再認課題)の得点も変数とした。 結果と考察 ポートフォリオによる到達度の合計点(PF 得点)とテストの得点を基準変数に設け,それ以外の変 数を説明変数としてステップワイズ法で重回帰分析を行なった(Figure2,3)。 3 第 15 回は自己分析と自己評価の結果を別紙で提出するため,通常のポートフォリオへの記入はない。
7
平均値
標準偏差
N
合計
20.18
8.232 79
第1回−7回
10.734
4.384 79
第8回−14回
9.443
5.098 79
効果
-1.29
4.761 79
テスト
73.54
18.013 79
感想根拠なし
1.05
2.044 79
他項目と同じ内容
1.15
0.949 79
説明が必要
4.16
2.109 79
構成概念不適切
0.89
1.291 79
Table1
Fgure2,3
の
分
析
の記述統計
-.204*
感想・根拠無し
第 8 回−14 回
他項目と同じ内容
テスト得点
-.360** .296**adjR
2=.311
*** Figure3 テスト得点に影響する要因PF 合計得点
-.210**説明が必要
テスト
構成概念誤用
感想・根拠無し
-.445 *** .228** -.203**adjR
2=.498
*** Figure2 ポートフォリオ得点に影響する要因 *-p<.05 **-p<.01 ***-p<.001 *-p<.05 **-p<.01 ***-p<.001 Figure2 ポートフォリオ得点に影響する要因 Figure3 テスト得点に影響する要因 Table1 Figure2,3 の分析の記述統計平均
標準偏差
N
合計
20
.18
8
.232 79
第 1 回− 7 回
10
.734
4
.384 79
第 8 回− 14 回
9
.443
5
.098 79
効果
-1.29
4
.761 79
テスト
73
.54
18
.013 79
感想・根拠無し
1
.05
2
.044 79
他項目と同じ内容
1
.15
0
.949 79
説明が必要
4
.16
2
.109 79
構成概念不適切
0
.89
1
.291 79
Figure2 の PF 合計得点とは全ポートフォリオの到達度得点の合計得点を表している。これを従属変 数とし,独立変数は上記 4 つの修正事項の出現数と,第 8 回から第 14 回の到達度得点の合計から第 1 回から第7回の到達度得点の合計を引いた「効果」の得点を設定した(Table1)。「効果」とは,中間の 自己分析と自己評価をはさんで,前半と後半の差を教育効果として表したものである。各変数の記述統 Table2 Figure2 の分析の変数間の相関 合計 効果 テスト 感想根拠なし 他項目と同じ内容 説明が必要 構成概念不適切 相関 PF 合計 1 0.173 0.496 -0.427 -0.171 -0.539 -0.399 効果 0.173 1 0.078 0.036 0.05 -0.171 -0.012 テスト 0.496 0.078 1 -0.451 -0.227 -0.235 -0.341 感想根拠なし -0.427 0.036 -0.451 1 -0.03 0.105 0.352 他項目と同じ内容 -0.171 0.05 -0.227 -0.03 1 -0.109 0.203 説明が必要 -0.539 -0.171 -0.235 0.105 -0.109 1 0.087 構成概念不適切 -0.399 -0.012 -0.341 0.352 0.203 0.087 1 有意確率 PF 合計 . 0.064 0 0 0.066 0 0 (片側) 効果 0.064 . 0.247 0.377 0.332 0.066 0.459 テスト 0 0.247 . 0 0.022 0.019 0.001 感想根拠なし 0 0.377 0 . 0.395 0.178 0.001 他項目と同じ内容 0.066 0.332 0.022 0.395 . 0.17 0.037 説明が必要 0 0.066 0.019 0.178 0.17 . 0.223 構成概念不適切 0 0.459 0.001 0.001 0.037 0.223 . Table3 Figure3 の分析の変数間の相関 テスト 効果 感想根拠なし 他項目と同じ内容 説明が必要 構成概念不適切 第1回− 7 回 第 8 回− 14 回 相関 テスト 1 0.078 -0.451 -0.227 -0.235 -0.341 0.424 0.437 効果 0.078 1 0.036 0.05 -0.171 -0.012 -0.381 0.606 感想根拠なし -0.451 0.036 1 -0.03 0.105 0.352 -0.421 -0.328 他項目と同じ内容 -0.227 0.05 -0.03 1 -0.109 0.203 -0.187 -0.115 説明が必要 -0.235 -0.171 0.105 -0.109 1 0.087 -0.413 -0.515 構成概念不適切 -0.341 -0.012 0.352 0.203 0.087 1 -0.368 -0.327 第1回−7回 0.424 -0.381 -0.421 -0.187 -0.413 -0.368 1 0.504 第8回− 14 回 0.437 0.606 -0.328 -0.115 -0.515 -0.327 0.504 1 有意確率 テスト . 0.247 0 0.022 0.019 0.001 0 0 (片側) 効果 0.247 . 0.377 0.332 0.066 0.459 0 0 感想根拠なし 0 0.377 . 0.395 0.178 0.001 0 0.002 他項目と同じ内容 0.022 0.332 0.395 . 0.17 0.037 0.049 0.157 説明が必要 0.019 0.066 0.178 0.17 . 0.223 0 0 構成概念不適切 0.001 0.459 0.001 0.037 0.223 . 0 0.002 第1回−7回 0 0 0 0.049 0 0 .
0
第8回− 14 回 0 0 0.002 0.157 0 0.002 0.
計はTable1,変数間の相関は Table2 のようになった。変数間の相関を係数の絶対値 0.4 以上4(斜体) として見ると,「効果」「他項目と同じ内容」「構成概念不適切」が他の変数に対して独立であることが わかる。また非常に重要なのは,4 つの修正事項間に相関がないということである。 Figure3 は,上記 PF 得点と相関はあるが,影響を受ける要因の違いを見るために,期末のテスト得 点を従属変数とした。独立変数は,Figure2 と同じく 4 つの修正事項の出現数と「効果」,そして「第 1 回-第 7 回」の前半の到達度得点と「第 8 回-第 14 回」の後半の到達度得点とした。各変数の記述 統計と変数間の相関は,それぞれTable1,Table3 のようになった。この分析では,PF 得点を合計で はなく前半と後半に分けた変数で分析したが,2 変数の相関が高いこと,「効果」の得点は後半の得点 とだけ相関があることが示された。 こうした変数間の関係を考慮しつつ,重回帰分析の結果(Figure2,3)を見ると,PF 得点とテストの 得点に影響する要因が異なることが分かる。PF 得点(全ポートフォリオの到達度得点の合計得点)に 影響している要因は,「説明が必要」という指摘内容であった。つまり「考察」まで辿り着くことが困 難で,この実践の到達度の合計得点が低い学生は,「説明が必要」という指摘を多く受けている。逆に, 「考察」までしっかり書ける学生の記述は,「説明が必要」という指摘を受けない。また「考察」まで辿 り着くことができているならば,少なくとも自分以外の見解である「ねらい」の記述によって教員の意 図が適切に読み取れている。つまり,PF 得点の高さは「複数性,多元性の確保」がなされていること と比例する。そしてPF 得点で表されている「考察」を書く力には形式の理解だけではなく,自分の表 現について「他者が理解できるかどうか」という第2の視点での文章作成が必要となる。なぜなら「説 明が必要」という指摘がされない記述は,読み手が過不足なく論理展開に必要な情報を与えられている ことを示すからである。したがって,この結果は文章産出において「他者視点での推敲が必要」という 先行研究の知見(崎濱,2003)と一致したと考えられる。 それに対して,記憶の再生・再認課題で構成された期末テストの得点が低い学生は,「感想になって いる,または根拠が示されない」という指摘を多く受けていることが示された。何度繰り返して修正を 指摘しても,考察が感想とは異なることをはじめ考察の形式自体が理解されない。そして「他項目と同 じ内容」が有効変数として残っていることから,3ステップの違いが理解されていないことも同じ理由 に依ると考えられる。つまりこの「考察」を書く実践における修正内容や目標自体の理解度はメタ学習 とよばれるものであるが,テスト得点で測定される授業内容の理解度,いわゆる学力そのものと相関し ていると考えられる。 この結果をふまえて,「感想」から「考察」への移行を促す指導上,考えなければならない課題は次 の 2 点である。 ①読み手に対して過不足なく論理展開に必要な情報を与えることができる,つまり「他者視点での推敲」 や視点の「複数性,多元性の確保」ができるようになると,「考察」が書けるようになる可能性が高い。 これは,テストで測定される学力の高低よりも,「考察」する力に影響する。 ②しかし,「他者視点での推敲」や「複数性,多元性の確保」ができるような指導法で,必ず「考察」 が書けるようになるわけではない。それ以前の段階にある授業の内容や目標自体が理解できないという メタ学習が成立しない学生では,「他者視点での推敲」や「複数性,多元性の確保」を促す指導法を用 4 ピアソンの相関係数は,データ数によって有意水準が左右されてしまう欠点を持っている。そのため,心理学では絶対値 .4 以 上において相関があるとする判断基準が用いられている。
いても効果が生じない可能性がある。 テストの得点で成績がふるわない,いわゆる低学力の学生をいかに「保育者のディスコース」に移行 させるかは,非常に難しい問題である。単なる指導法の開発でフォローできる問題ではない。そこには, 高校までのキャリア選択の指導や適性の見極め方,さらに今後の保育者に必要とされる資質に沿った職 業体験等,高等教育以前のキャリア教育の再検討が必要であると考えられる。 残された問題点と今後の課題 Hodkinson(2005)によれば,英国の保育者養成では,その資質も含めて社会的階級,職種の違いに よる階層性が明確化している。日本でも平成 27 年度から幼保連携型認定こども園が開設され,それに 伴うこども指針をはじめ各指針や制度の改革が行われる。おそらく保育者の実践内容やカリキュラム, 教育目標と教育評価といった実践に直接関わることだけでなく,保育者の給与,待遇といった間接的要 因も,施設間の格差を拡大し,英国のような階層性を伴う保育職が並立することになると思われる。 保育界の大きな転換期を迎えるなかで,養成課程が目標とする「保育者のディスコース」も階層性を 伴いつつ変化していく。その変化に対応して保育者が保育を記述する力も,「感想」から「考察」への 移行にとどまらず,次の段階を想定する時期に来ている。筆者はおそらく「教育評価」の機能をもった 記述が次の段階ではないかと考えている。これについては,制度改革後に「多額の補助金に見合う実践 の証拠」として,どのような条件が保育現場に突きつけられるのかを精査していく必要がある。 そして最後に,石田(2006)の主張のように,論理的文章が書けるようになることが,「学生のコミュ ニティ」から「保育者のコミュニティ」への移行につながるのであれば,今回の結果から導かれる低学 力でメタ学習が成立しない学生の処遇は,養成校にとって非常に重要な問題になる。基礎学力とメタ学 習の成立は個人内相関が高いと考えられるが,そうであったとしても入試で学力一般だけでなく,メタ 学習の成立を確認する方法を取り入れる必要があるのではないだろうか。保育者に必要な資質の1つと して論理的文章を記述する力が求められる以上,養成校にとって社会科学的アプローチによる入試方法 や選抜基準の検討は不可欠であると思われる。 引用文献
Csikszentmihalyi,M.(1999)“Implication of a System Perspective for the Study of Creativity.” In R. J. Sternberg (Ed) Handbook of creativity. Cambridge: Cambridge University Press. Pp313-335.
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