Title
イマリ・ケアをコアとする地域基盤型の卒前医学教育( 本文
(Fulltext) )
Author(s)
若林, 英樹; 鈴木, 康之
Citation
[医学教育 = Medical education] vol.[42] no.[6] p.[371]-[374]
Issue Date
2011-12-25
Rights
Japan Society for Medical Education (一般社団法人日本医学教
育学会)
Version
出版社版 (publisher version) postprint
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/46953
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医学教育 2011,42(6):371~374
報 告
英国グラスゴー大学のカリキュラムに学ぶ
~総合診療/プライマリ・ケアをコアとする地域基盤型の卒前医学教育~
若 林 英 樹
*鈴 木 康 之
* 要旨: 1) 英国の医学部卒前教育では,大学総合診療部門が中心となり基本的臨床能力の教育および,プライマリ・ケアの専門 教育の両者を担っている. 2) プライマリ・ケアの臨床実習は,内科,外科,小児科,産婦人科,精神科と並び 5 週間の必須科目であり,地域の診 療所において行われている. 3) 指導医の養成が定着しており,地域で診療している多く総合診療医(General Practitioner)が指導医として医学教育 に参加している. キーワード:総合診療,プライマリ・ケア,地域基盤型カリキュラム,医学教育,指導医養成Learning from the Curriculum of the University of Glasgow: Community-Based Medical Education with an Emphasis on General Practice/Primary Care
Hideki Wakabayashi* Yasuyuki Suzuki*
1) In medical education in the United Kingdom, departments of general practice organize the basic training in clinical skills and specialty training in primary care.
2) A clinical clerkship in primary care is a compulsory 5︲week subject, as are clerkships in internal medicine, surgery, pediatrics, obstetrics/gynecology, and psychiatry.
3) As a tutorial training system has been established, general practitioners are contributing to medical education as clinical instructors.
Key words: general practice, primary care, community︲based curriculum, medical education, tutorial training
* 岐阜大学医学教育開発研究センター,Gifu University, Medical Education Development Center
[〒 501︲1194 岐阜市柳戸 1︲1] 受付:2011 年 9 月 28 日,受理:2011 年 10 月 28 日 オーストラリア,米国等では,総合診療・家庭医 療学の講座が中心となり地域基盤型の医療教育を 卒前に行っている1, 2). 筆者は 2010 年 9 月,英国の Glasgow 大学で行 われている地域基盤型の総合診療/プライマリ・ ケア教育を視察する機会を得た.その概要を報告 するとともに,今後我が国に望まれる地域基盤型 の医学教育について提案する. 我が国では,地域医療の再生策や細分化した専 門医療偏重への反省から,近年,地域医療教育が 見直されている.2008 年頃からは多くの大学で, 地域枠入学制度の設立に伴い地域医療の講座が開 設され始めた.しかし我が国では,卒前教育にお いて地域医療/プライマリ・ケアの系統的な教育 を行っている大学は 53%で,詳細な現状は不明 である(「医学教育白書 2010」).一方,英国,
(脚注:General Practice に相当する日本語は総合診療,家庭医療であるが,本稿では文献 3 に準じて「総合診療」とした) (脚注:英国において Surgery は手術ではなく診療時間の意) 英国の総合診療医の役割 英国の医療システムの特徴の一つは,全医師の 約 半 数 は 総 合 診 療 医(General Practitioner: GP),あとの半数が各科専門医という配分であり その役割も確立していることである.地域医療の 現 場 で GP は, 疾 患 の 有 無 に か か わ ら ず, 約 1,500 人の地域住民をかかりつけとして受け持 ち,包括的,継続的な医療を行い,必要に応じ他 の専門医と連携している.患者は GP にかからな いと専門医を受診することはできない. 10 年以上前には英国でも,医師不足が社会問 題となったが現在かなり改善され,総合診療/プ ライマリ・ケアの教育が,卒前の医学教育の中で 重要な部分を占めている.これは,英国の医療制 度のあり方を反映したカリキュラムと言える. Glasgow 大学の卒前教育カリキュラム Glasgow はスコットランド南西部に位置し, 人口約 58 万人,スコットランド最大の産業都市 として発展した.Glasgow 大学は 1451 年に創立 された伝統ある大学である.医学部 5 年間のカリ キュラムの中で,総合診療/プライマリ・ケアの 教育が次の 3 つのコースとして織り込まれてい る. 1~2 年生:Vocational Study(基本的臨床スキ ル):1~2 年生のカリキュラムは PBL(Problem based learning, 問題基盤型学習)を中心に進め られるが, Vocational Study が通年で週 1 回組 まれている.ここで医療面接と身体診察の基本 を学ぶ.また,早期から患者に会い,患者の視 点を理解するほか,倫理的な事柄,EBM,プ ロフェッショナリズムを学ぶ.
3 年生:Clinical Practice in the Community(地 域医療体験実習):2~3 名の学生がグループ で,丸 1 日× 10 回,GP の元で実習する.診療 に同席し患者から話を聴くほか,Longitudinal Project という継続診療の体験実習や,訪問診 療への同行も行われる.また,身体診察では患 者の協力を得て異常所見の診方を学ぶ. 4~5 年生:Clinical Rotation, GP Attachment (臨床実習における GP ローテーション):臨 床 実 習 の 全 体 構 造 は 表 1 の 通 り,General Practice は内科,外科,小児科,産婦人科,精 神科と並んで必修である.学生は診療所に出向 き 5 週間固定で臨床経験を積む. Teaching surgery という見学・参加型の実習を週 4 回, Student︲led surgery という学生自身が診察す る実習を週 1 回は行う.地域の療養型病院やホ スピス,訪問診療なども組まれる. このように,卒前教育の 5 年間を通じて,基本 的臨床能力の教育および総合診療・家庭医療の教 育が,大学の総合診療/プライマリ・ケア部門と 学内外の GP の協力で提供されている.地域を挙 げて医療の基本づくりが行われていると言ってよ いだろう. 今回,Glasgow 郊外にある Bishopton 診療所 (6 人の医師が所属するグループ診療)を訪問 し,これらの教育が実践されているのを目の当た りにした.感心したことは実習開始以来 10 年 間,時間の確保,部屋の確保,コーディネイトを 行う職員の確保に努力されていることであった. 指導医養成 FD TALE このように英国では多くの GP が卒前教育に貢 表 1 Glasgow 大学医学部 4 ~ 5 年生の臨床実習ロー テーション General Practice(総合診療) 5 週間 精神科 5 週間 小児科 5 週間 産婦人科 5 週間 内科 15 週間 外科 15 週間 選択科目 5 週間× 2 つ
表 2 Teaching and Learning Event のプログラム (2010.9.14)
第一部
① Chalotte Rees 教授(Dundee 大学,医学教育セン ター長)によるプロフェッショナリズムについて の講演:学生がよく経験するジレンマについて. 第二部 ② 1 ~ 2 年生の大学内での実習 ③ 3 ~ 5 年生の診療所実習 (②,③のいずれかを選択) 第三部 ④ 医学生の持つ異文化を理解する ⑤ 学生の学習スタイルに及ぼす文化の影響 ⑥ 難しい学生 ⑦ 筋骨格系の臨床技能 ⑧ PBL を体験しよう (④~⑧のうち 2 つを選択) 献している.しかし始めからこのようなシステム があったわけではなく,20~30 年前には General Practice の教育は数日程度の実習だったようであ る.約 10 年前,英国では社会問題となった医療 不足に対して改革がなされ,Glasgow 大学医学部 の カ リ キ ュ ラ ム も,GMC(General Medical
Council)の Tomorrowʼs Doctor4)に基づき,大
きな変革を遂げた.
その「新カリキュラム」では指導医として多く の GP が必要となる.その養成は定着しており, TALE(Teaching and Learning Event)という 指導医養成のための 1 日ワークショップが年 1 回,Glasgow 大学の総合診療/プライマリ・ケア 部門によって企画されている.今回も Glasgow と周辺地域から 100 人を超す GP の参加があり盛 況であった. プログラムの概要を表 2 に示す.②~⑧は 1 時 間のワークショップで,カリキュラムの理解,指 導のコツ,気づきを深める,などが目標となって いた.休憩や昼食時の交流にも重きを置いている ことが伺え,共に学生を育てるという意識づけの 重要性を実感した.参加は無料で義務ではない が,教育熱心な GP が参加し楽しんでいた.英国 ではグループ診療が主流であるため,スケジュー ルを調整し平日のワークショップに参加しやすい 環境にある. 今後望まれる方向性 我が国の卒前教育では,医療面接や身体診察の 基本形は普及してきたものの,それを実際どう使 うかを学ぶ機会や,地域でのニーズが高いプライ マリ・ケアを学べる機会は限られていた.その結 果,多くの卒業生はプライマリ・ケアについて認 識しないまま現場に出ていくことになる.高齢化 とともにプライマリ・ケアへのニーズが大きくな る中で,問題は地域医療崩壊として顕在化した. 卒後研修では,日本プライマリ・ケア連合学会 の後期研修プログラムが 2006 年から開始され, 充実が図られている.今後は,卒前教育の段階か ら,プライマリ・ケアの教育が充実されることが 望まれる.英国の医学教育を参考に,そのポイン トを 5 つまとめた. 1) 家庭医療や総合診療を卒前教育の必須科目と する. 2) 地域医療現場での臨床実習を十分な時間数行 う. 3) 医療面接,身体診察,臨床推論に関する講 義・PBL・実習による学習を強化する. 4) 医師患者関係,社会科学,臨床倫理の講義・ PBL・実習による学習を強化する. 5) 十分な数のプライマリ・ケアに従事する医師 が卒前教育に関与する. 地域医療に携わる多くの医師が教育に参加でき るプライマリ・ケアの卒前教育を作り上げるため には,大学,医療機関,行政が連携しネットワー クやサポート体制づくりなど,個人および組織レ ベルでの創造が望まれる.各種ワークショップ5) や学会など指導者向けの研修や交流の場を活用す ることも有用であろう. 最後に,視察中に助言をいただいた以下の諸先 生 に 深 謝 い た し ま す( 敬 称 略 )Phillip Evans, Andrea Williamson, Jilly Hamilton, Alan Bennie, Phil Cotton, Jill Morrison.
文 献
Health & Science University から学んだこと, 家庭医療 2003; 1 巻 2 号 : 70︲5.
2) 高村昭輝,伴信太郎.地域立脚型の卒前医学教 育―医学教育の新しいパラダイム―,医学教育 2010; 41: 255︲8.
3) John A. Dent & Ronald M. Harden 著,鈴木康 之,錦織宏監訳.医学教育の理論と実践,篠原 出版新社,東京,2010,p.113.
4) General Medical Council, Tomorrowʼs Doctors,
2009 http://www.gmc︲uk.org/GMC_TD_09__1.11.11. pdf_45377818.pdf 5) 新しい医学教育の流れʼ08 夏 第 39 回医学教育 セミナーとワークショップの記録より,ワーク ショップ 4「魅力アップのための卒前地域医療 教育」,岐阜大学医学教育開発研究センター編 集.2009,pp127︲145,三恵社