I
情報技術の爆発的進展
近年、ノートパソコンやスマートフォン、小型セ ンサが爆発的に普及し、我々の生活の中の様々 な領域で情報関連技術が活用されている。様々な 産業分野の中で情報関連技術の進展は非常に早 く、世界最大の半導体メーカーIntel
社の創設者 の一人であるGordon Moore
博士が1965
年に経 験則として「半導体の集積密度は18
ヶ月から24
ヶ 月で倍増する」という「ムーアの法則」を提唱した[1]
。この法則は、半導体の微細加工技術の発展 を根拠に現在まで数十年にわたりほぼ成り立って おり、指数関数的な成長が実現された珍しい成長 因子の一つである。 また、アメリカの経済学者George Gilder
氏が2000
年に自著「TELECOSM
」において「通信網 の帯域幅は6
ヶ月で2
倍になる」という「ギルダーの 法則」を提唱した[2]
。ギルダーの法則に従うと、10
年で通信網の帯域幅は100
万倍になるが、実際 は10
年で1000
倍くらい(1
年で2
倍)のペースで増 大している。多くの人が利用するインターネットで は、ムーアの法則(10
年で100
倍)程度のペースで しか帯域は増大していない。一方、バックボーンの ネットワークは光通信技術の進展により、飛躍的 に高速且つ低コストになってきている。 さらに、ハードディスクなどの記憶装置の記憶 容量も指数的に増大している。1967
年に日本の電 機メーカーが開発したハードディスクは7.25MB
の容量(現在の標準的なノートパソコン搭載メモ リー8GB
の千分の一の容量)で洗濯機大の大き さがあったが、1999
年には1
インチ大で340MB
のハードディスクが、2011
年には4TB
(4000MB
) のハードディスクが開発されている。 このように、数年から十年のオーダーで計算機 のプロセッサー(CPU
)のスピードやハードディスIT
を
活用
したユビキタス
時代
の
リスク
管理
災害時の救命救急支援
東野輝夫 Teruo Higashino 大阪大学大学院 情報科学研究科 / 教授 論文クの記憶容量は百倍に、ネットワークのスピードは 千倍になり、
IT
機器のサイズはどんどん小さくなっ てきている。今のスマートフォンは一昔前の大型 計算機よりずっと高速大容量であり、サイズや製 造コストも数千∼数万分の一になった。近い将来、Google Glass[3]
に代表されるメガネ内蔵型の小型コンピュータや、
Samsung
のGalaxy Gear[4]
に代表される腕時計型の小型コンピュータのような 超小型
IT
機器が驚くような低価格で登場すると 考えられる。 このようなIT
技術の爆発的な進展を考えると、 時代の変遷とともにIT
を活用したリスク管理の姿 も大きく変化してきている。企業におけるリスク管 理はもとより、災害発生時の危機管理や病院・介 護施設などでの安全管理の分野でも、IT
を活用 した多くの新しいリスク管理技術が開発されて いる。II
発災時のリスク管理
地震などの大規模な自然災害が発生した際の リスク管理には様々なものがある。以下では、筆者 らが2007
年度から2012
年度まで科学技術振興 機構(JST
)の戦略的創造推進事業(CREST
)と して取り組んできた「災害時救命救急支援を目指 した人間情報センシングシステム」の概要を紹介 する[5]
。 II.1 トリアージ 本研究プロジェクトでは、災害で数百人以上の 傷病者が短時間に発生するような状況を想定し、 電子トリアージ機器の開発を行い、各傷病者に装 着したトリアージタグから得られる脈拍数や血中 酸素濃度などの生体センシング情報を無線アド ホックネットワーク経由で迅速に収集すると共に、 傷病者の位置や病状変化をリアルタイムで監視し、 救命活動を行う消防関係者や医療チームにその 情報を図的に提示する救命救急医療支援システ ムを開発してきた。 我が国でトリアージの概念が制度化されたのは1995
年に発生した阪神淡路大震災における災害 対応の検証からであり、2005
年のJR
福知山線脱 線事故で初めて大規模トリアージが実際に施行 された。その後は2007
年の中越沖地震や2008
年の秋葉原無差別殺傷事件、2011
年3
月11
日に 発生した東日本大震災などの大規模事故・災害 の発災時にトリアージが実施されている。 災害現場で最も重要なことは、被災情報をでき るだけ正確に収集し、短時間に全体像を把握する ことである。どこに重傷者が何名、軽傷者が何名 いるのか、それぞれの傷病者の現在の病状やバイ タルサインはどのような状況か、救命活動にあた る医療従事者が今どこに何名いるのか、これらの 情報をリアルタイムに把握し続けることは非常に 困難である。 トリアージの目的は傷病者数(需要)に対して医 療資源(供給)が極端に不足している場合に治療 の優先順位を決めることであり、災害現場に限ら ず搬送先の病院でも繰り返し実施される。災害現場 で は
START
(Simple Triage And Rapid
Treatment
)法に基づき、傷病者一人に対し30
秒 以内という短時間に傷病者の病状を緑、黄、赤、 黒 の4
段階に分類しなけれ ばならない( 表1
)。START
法に基づき重症度判定が行われた負傷 者の手首には図1
のような紙製のトリアージタグが 取り付けられる。JR
福知山線事故の現場周辺で は図2
のような配置でトリアージが実施された。事 故現場から運び出された傷病者は、まずトリアー ジポストでSTART
法による重症度判定を受ける。 トリアージタグの下部をもぎ取ることによって重症II.2 現行トリアージの課題 トリアージは限られた医療資源で可能な限り多 数の傷病者を救助するために必要不可欠な行為と されているが、事故現場及びその後の実施評価に よると、現行のトリアージの実施状況に関して、下 記のような幾つかの問題点が指摘されている
[6]
。 (1) 傷病者の病状変化に対応し切れない 傷病者の状態は時々刻々と変化するため、トリ アージは可能な限り繰り返し実施されることが望 ましい。しかしながら、一旦重症度の分類が実施 され医療従事者がその場を離れてしまうと、多数 の傷病者の中から病状が急変した傷病者を特定 し、遅延なく対応することは極めて困難である。 (2) 傷病者・医療従事者の居場所が把握できない 災害現場では、どこにどのような傷病者が何人 存在しているかを把握することが最優先の課題と なる。この情報に加え、続々と応援に駆け付けてく る様々な職種の医療従事者が現在どこで活動し ているかを把握することが医療資源の適切な配 置・活用には不可欠である。このためには、傷病者 と医療従事者それぞれの個人情報や位置情報が リアルタイムに把握できる必要があり、現行の災 害対応でもこの点に多大な労力が払われているが、 抜本的な解決策は見出されていない。 (3) 医療従事者の心理的負担が大きい 重症度判定を行うトリアージ実施者には、肉体 的疲労に加え相当な精神的重圧がかかる。過去 の災害対応の検証から、業務後のdebriefing
の重 要性が指摘されている。 (4) トリアージタグの記録・回収が徹底できない 被災者情報の管理のため、トリアージタグはカ ルテの役割を果たす転写式の3
枚綴りになってお り、それぞれが災害現場、医療機関などで回収さ れる。しかし慌ただしい現場では必要事項の記入 が十分になされていない、タグ回収を忘れてしまう、 度が明示されたタグが傷病者の手などに装着さ れ、重症度毎に分類されたトリアージテントに運 ばれる。そこで搬送に耐え得るような安定化処置 を受けた後、赤タグの傷病者から優先的に救命 救急センターなどの病院に搬出される。 分類 重症度 黒(O) 死亡もしくは現状の医療資源では救命困難 赤(I) 生命に関わる重篤状態で緊急の処置が必要 黄(II) 重篤な状態ではないが早期の処置が必要 緑(III) 救急での搬送は不要 表 1 重症度と色(カテゴリ)の対応 図1 トリアージタグ 図2 JR福知山線脱線事故現場搬送順位の決定支援や、医療従事者の心理的負 担の軽減が期待される。集約したデータは全て サーバに蓄積されるため、トリアージの記録が確 実に残るというメリットもある。また、
GPS
や位置 推定機能によって傷病者や医療従事者の位置情 報も持続的に把握できるようになるため、全ての 傷病者の生体情報と位置情報に加えて医療従事 者のID
情報や位置情報がサーバで一元管理され ることになり、医療従事者間の情報共有支援も可 能となる。 米国では主に比較的スペースがある平地での 運用を想定しているが、それと比較して土地が極 端に狭い日本では地下街やビルなどの建築物が 林立している環境が多く存在する。このため、位置 推定機能をGPS
のみに依存することは難しい。地 下街ではGPS
の電波が届かないため、位置を特定 することができない。また、ビルの陰や屋内などに おいてもGPS
の電波が届きにくくなり、数十メート ル以上の誤差が生じてしまう。Assisted GPS
など 基地局の機能を併用することでGPS
の電波が微 弱な場合でも高精度に位置推定可能な手法も開 発されているが、災害時を想定した場合、できるだ け準備の手間が少なくかつインフラレスでも動作 するシステムの運用が望ましい。 著者らの研究グループでは図3
、図4
に示すよう な電子タグを用いたトリアージ支援システムを設 計・開発した[9]
。図5
に本システムの全体像を示 す。現場には図6
に示すようないくつかの基地局が 配置される。基地局は機能的にはWiFi-ZigBee
併用ポケットルータであり、近距離無線ネットワー ク規格の一つであるIEEE802.15.4 (ZigBee)
の ベースステーション機能とGPS
を搭載し、災害現 場での無線ネットワークの構築や位置推定時の 基準地点として利用する。さらに基地局には無線LAN
通信機能を持たせることで、他の基地局との タグを紛失してしまう、などの問題が高い頻度で 生じることが報告されている。 II.3 ICT技術の活用 前述のようなトリアージを含む災害医療におけ る現在の課題は、その多くが無線ネットワーク技 術を利用した取り組みにより解決される可能性が ある。ICT
を活用した様々な救命救急支援システ ムが提案されているが、共通の特徴として傷病者 の生体情報を自動計測するセンサを用いて容態 を遠隔自動監視することが挙げられる。計測した 生体情報は携帯電話網や無線LAN
、ZigBee
、Bluetooth
などの無線ネットワークによって管理用 コンピュータ(サーバ)へ集約される。また、GPS
や無線ネットワークを利用した位置推定機能によ り、各端末保持者の現在位置を特定する機能を 持つシステムも存在する。 例えば、米国では大事故や災害時のみならずテ ロ対策や戦場での利用が考えられるため、NASA
やFEMA
などのプロジェクトで無線ネットワーク を用いた生体情報収集システムに関する研究が盛んに行われている。
AID-N (Advanced Health
and Disaster Aid Network)
プロジェクト[7]
はその一つであり、生体情報の収集機能や
GPS
を搭載したシステムを開発している。同じく米国の
Tech Specs
プ ロ ジ ェ クト に よ るWIISARD
(Wireless Internet Information System for
Medical Response in Disasters
)[8]
も同様の研 究を行っている。 このようなICT
を活用したシステムでは、傷病 者の生体情報を自動的に集約し、一元管理してリ アルタイムに監視することにより、ある傷病者に生 じた状態変化をリアルタイムに把握することが可 能となる。同時に傷病者の生体情報という客観的 データを示すことで、二次トリアージにおける治療・酸素濃度(
SpO
2)ならびに脈拍数が測定可能であ り、Full
ではLight
の機能に加えて呼吸数も測定 できる。図3
右端のようにLight
には裏側にOK/
NG
のボタンがあり、LED
点灯部分の質問に対し てOK
またはNG
を入力することでSTART
法に基 づくトリアージが可能である。自動測定された生 体情報はIEEE802.15.4
により近隣の端末や基地 局と形成される無線メッシュネットワークを介して 臨時に災害現場に敷設されたサーバへ送信され る。送られたデータはサーバのデータベースに登 録され、ブラウザなどを用いてWeb
経由でアクセIEEE802.11
ネットワークを構築できるようにし、 データ送信経路に冗長性を持たせて信頼性の向 上を図っている。 傷病者の生体情報や位置を把握するための端 末である電子トリアージタグは、生体情報を取得 する生体センサ、IEEE802.15.4
無線通信機器、 人体通信送受信機の3
つの機器を組み合わせた センサ端末である。指先に装着可能な型(Light
(図3
))と腕部に装着可能な型(Full
(図4
))の2
種 類があり、いずれも装着した傷病者に負担がかか らないサイズを目標に開発した。Light
では血中 図3 電子タグ(Light:指先装着型) 図4 電子タグ(Full:腕部装着型) 図5 電子トリアージシステムの全体像 図6 基地局ンでは無線
LAN
を介して傷病者の生体情報一覧 や過去の生体情報のグラフ、現場の地図や対策 本部からの指示などをサーバとやりとりすることが できる。また、電子タグには人体通信機能が搭載 されている。人体通信は人体上で微弱な電界の変 化を利用し、人体通信機能を搭載した人や物に触 れると通信が行われる仕組みである。この人体通 信機能を利用して、触れた傷病者の電子タグから 情報を取得し、その情報をiPod touch
などの画面 上に表示することによって傷病者の取り違えを防 ぐことや、いつ誰がどの傷病者を処置したかなど の治療記録をサーバに自動保存することが可能で ある。傷病者や医療従事者の位置推定には近隣 端末との接続情報のみを利用したレンジフリー ベースの位置推定手法を用いている。基本的なア イデアは、「無線で通信できた端末同士は一定距 離以内の位置にいる」という性質のみを用いること である。いくつかの基地局を災害現場の各所に配 置し、GPS
あるいは手動で基地局の位置を地図 上に登録すれば、それらの基地局を起点にして位 置推定を行うことができる(図9
)。 スすることで任意の情報を表示できる。図7
は生 体情報の一覧表示画面である。傷病者の容態が 急変すると自動的に該当する傷病者の生体情報 が最上部に移動し、赤色でハイライト表示される とともにアラームなどで通知されるため発見が容 易になる。 また、医療従事者間の情報共有を容易にするた め、電子タグにより測定した傷病者の生体情報の みならず、各端末の位置情報や災害によって変化 してしまった現場の道路状況を含む最新の地理 情報などを医療従事者がどこにいても容易に確認 できるようにする必要がある。このため、タッチス クリーンを搭載したiPod touch
用のアプリケー ションを開発している(図8
)。このアプリケーショ 図7 生体情報の一覧表示画面 図8 医療従事者用の携帯端末 図9 傷病者や医療従事者の位置推定現在、医療機関では災害時の対応訓練を行う 目的 で
Emergo Train System®(ETS)[11,12]
と呼ばれる机上シミュレーションが広まりつつある。
ETS
では複数のホワイトボードを災害現場や病院 などのエリアに見立て、ホワイトボード上で傷病者 や医療従事者、医療資源などを表す札を一定の ルールに基づき移動させながらシミュレーション を行う。ETS
は大規模な災害を想定した訓練が 実施可能であるが、机上シミュレーションであると いう性質上、傷病者の容態変化を再現することは 難しい。一方、Sim-Patient[13]
のように傷病者の 呼吸音や外見などのリアリティを追究する試みも なされているが、これらのシステムでは逆に多数の 傷病者が存在するような環境を想定していない。 我々が開発したシミュレータ(
図10)
では、傷病 者ごとに時間経過によるバイタルサインの状態変 化が設定されており、設定時間内に適切な安定化 処置が施行されない場合は状態が次第に悪化し、 死亡してしまう。訓練参加者はコンピュータ画面 上に次々と表示される(運ばれてくる)傷病者に対 して、医療従事者のアイコンを移動させて傷病者 のバイタルサインや受傷部位を確認し、必要な処 置を施す。各処置には所要時間と必要な医療資源 (医療従事者のアイコン、処置台、救急車など)が 定められており、ある医療資源を使用している間 は、当該医療資源を使って他の傷病者を処置する ことができない。参加者は協力して可能な限り多 数の傷病者の状態を安定させ、適切な病院に適 切な順序で搬送することが求められる。 表示された傷病者のアイコンを選択するとバイ タルサインや症状の他、氏名などの傷病者に関す る個人情報が表示される。シミュレータに電子ト リアージシステムを導入した場合、電子タグを傷 病者に取り付ける処置を行うと、以後その傷病者 のバイタルサインが持続的にモニターされること II.4 救急外来での試験的運用 電子トリアージシステムは災害現場での使用の みならず、救急車で来院した患者の対応に追われ る間に独歩で来院した患者が待合室で急変する 危険性を抱える救急外来での日常診療でも有効 に機能すると期待できる。このため2009
年1
月か ら2
年間、順天堂大学医学部附属浦安病院の救 急外来で電子トリアージシステムの試験的な運用 を行った。独歩で来院した患者のうち、受付から 治療開始までの間にバイタルサインに異常が出現 した症例を「容態急変」と定義し、過去の急変例 の分析から待合室で急変する可能性があると考え られる患者群を対象に、電子トリアージタグを装 着してバイタルサインを継続的にモニターすること にした。 このような試験的運用を開始した前後2
年間の 救急外来での「容態急変」発生率を比較したとこ ろ、電子トリアージシステムの導入前に比べ、導入 後では「容態急変」発生率が3
分の1
に減少してい ることが確認できた。この変化は救急外来の患者 のリスク管理に種々の改良が加えられたことも影 響しているが、電子トリアージシステムが救急外来 における日常診療の支援ツールとしても有効であ ることを示唆するものである。 II.5 電子トリアージ訓練シミュレータ 電子トリアージシステムを実際に災害現場で活 用するためには、その有効性を明らかにして普及 を進めるとともに、システムを利用した訓練が不可 欠である。このため、我々は仮想的な大規模災害 をコンピュータ上で発生させ、複数のコンピュータ 端末から参加者がアクセスして災害対応訓練を 行うシミュレータを開発し、このシミュレータ上で 電子トリアージシステムの有効性を評価した[10]
。スク管理で共通する概念は、小型センサを用いて 得られる生体情報を携帯網などを介してクラウド 側に転送・蓄積し、過去の症例との比較・解析な どを行うことで、様々な健康リスクを早期に発見・ 通知しようとするものである。 上記の考えは、現実世界の物理的なセンシング 情報をインターネットなどのネットワークを介して サイバーな空間に蓄積・整理し、知的なマイニン グにより現実世界の物理的な環境をフィードバッ ク制御しようとするサイバー・フィジカル・システム (
CPS
)の考え方に沿ったもので、米国の大統領科 学技術諮問委員会(PCAST
)報告書でも近年最 も重要なIT
分野の研究課題の一つとして取り上 げられている。また、欧州のFP8
(Horizon
) 計画においても、スマートCPS
の研究や次世代ヘ ルスケア技術の開発などがIT
分野の重点研究課 題として取り上げられている。このような背景から、 防災、医療、環境改善など様々な分野で小型セン サなどのユビキタス端末を用いた新しいリスク管 理システムが実用化されていくものと考えられる。 になる。このような電子トリアージシステムを導入 した場合の影響をシミュレータで検証することに より、災害現場で電子トリアージシステムを導入す ることの効果を評価している。また、このシミュレー タは実際に多数の参加者が一箇所に集合するこ とができないような状況でも、インターネットにアク セス可能であれば災害対応訓練を行うことが可能 である。III
ユビキタス時代のリスク管理
近い将来、メガネ内蔵型の小型コンピュータや 腕時計型の小型コンピュータのような超小型IT
機器が低価格で登場すると、IT
を活用したリスク 管理の姿も一段と変化すると考えられる。上述の ような生体センシング情報の活用に限ってみても、 図11
に示すように中高年のパーソナル・ヘルス・ ケアなどへの応用、病院や介護施設における高齢 者のモニタリング、中高生のスポーツ活動時の安 全確保など、様々な応用が考えられる。これらのリ 図10 電子トリアージ訓練シミュレータ今回本稿で紹介した生体センシング情報を用 いたリスク管理はいわゆる企業におけるリスク管 理とは異なるものであるが、その本質的な考え方 は共通する部分が多い。また、第
4
期科学技術基 本計画などで謳われている「安心・安全な社会」や 「レジリエントな防災・減災機能」の構築などにも 通じる重要な考え方であると思われる。 【付記】 最後になりましたが、大学院生の時代から長年 ご指導いただいた森將豪先生に深く感謝します。 参考文献 [1] G. E. Moore()/“Cramming more components onto integrated circuits”, Electronics Magazine, pp.-.
IV
おわりに
筆者は1984
年に学位を取得して今年で30
年に なる。筆者の学位論文の研究成果の一部が滋賀 大学経済学部管理科学科の森將豪先生との共 著論文として、同年ソフトウェア工学分野の基幹 論 文 誌IEEE Transactions on Software
Engi-neering
誌に掲載された[14]
。本論文は通信回線 を経由してデータを送受信する2
つの計算機上で 動作するソフトウェアが正しく動作すること、なら びに、障害が発生した場合に適切なエラーリカバ リの処理が行われることを保証するための設計検 証技法に関する研究であり、経済学や管理科学 に関する研究とは少し異なる分野の研究である。 一方で、エラーリカバリなどその基本的な考え方は リスクを組織的に管理し、損失などの回避または 低減をはかるというリスクマネージメントの手法と 非常に関連が深い。 図11 生体センシング情報の活用[13] RIT International, Sim-Patient: http://www.rti.org/page.cfm/SimPatient. [14] T. Higashino, M. Mori, Y. Sugiyama, K. Taniguchi and T. Kasami() /
“An Algebraic Specification of HDLC Procedures and Its Verification”,
IEEE Transactions on Software Engineering, Vol., No., pp.-.
[2] G. Gilder() /
“TELECOSM: How Infinite Bandwidth will Revolutionize Our World”, Free Press, pages. [3] Google Glass:
http://www.google.com/glass/start/. [4] Samsung Galaxy Gear:
http://www.samsung.com/jp/consumer/ mobilephone/galaxy-gear/. [5] 東野輝夫/ “災害時救命救急支援を目指した 人間情報センシングシステム”, http://etriage.jp/. または、 http://www-higashi.ist.osaka-u.ac.jp/ ~higashino/eng/research/etriage.html. [6] 丸川征四郎(2007) “経験から学ぶ大規模災害医療─対応・活動・処置”/ 永井書店. [7] T. Gao, et al.() /
“ Wireless Medical Sensor Networks in Emergency Response: Implementation and Pilot Results”, Proc. of IEEE Int. Conf.
on Technologies for Homeland Security, pp.-. [8] L. A. Lenert, D. A. Palmer,
T. C. Chan and R. Rao() / “An Intelligent . Triage Tag for Medical Response to Disasters”,
Proc. of American Medical Informatics Association 2005 Symp., pp.-.
[9] T. Higashino, A. Uchiyama and K. Yasumoto()/ “eTriage: A Wireless Communication Service Platform for Advanced Rescue Operations”,
Proc. of ACM Int. Workshop on Internet of Things and Service Platforms (IoTSP 2011).
(Invited Paper/Keynote Speech)
[10] 野上大樹、内山彰、中田康城、東野輝夫(2011)/ “多人数参加型シミュレータによる電子トリアージシステムの
有効性検討”、日本集団災害医学会誌、2011;16, pp.8-18. [11] Emergo Train System:
http://www.emergotrain.com/. [12] 中田康城(2007)/
“災害医療教育エマルゴ・トレーニング・システム”、 救急医療ジャーナル、2007;15, pp.78-83.