S H R
mini
No.2
滋賀大学保健管理センター 〔2004.1〕結核について
古代エジプトのミイラから典型的な結核の痕 跡が見出されるなど、結核は人類の歴史ととも にある古い病気ですが、ほんの10 数年程前まで、 結核は「病気との闘いの上で医学が勝利した典 型的な見本」とされていました。ところが今日、 結核は人類始まって以来の大流行を見せている のです。2002 年 8 月の WHO の報告によると、 世界の人口の約1/3 が結核菌に感染しており、毎 年800 万人が結核を発症し、毎年 200 万人(そ のうち約30 万人は 15 歳以下の小児たち)が結 核のために死亡すると推定されています。成人 において結核による死亡者数は、エイズ・マラ リア・その他の全ての熱帯病による死亡者の合 計より多いのです。 全世界の結核患者の95%は途上国で発生し、 結核による死亡の99%は途上国で起こっていま す。一方、既に峠を越えたと信じられてきた先 進諸国でも、最近、結核症発生数の減少鈍化な いし逆転上昇が認められています。この一因と して、交通手段の高速化、大量化、効率化によ って感染者の移動が容易となったことに伴う途 上国からの人口流入(結核の持ち込み)が指摘 されています。例えば米国では、全結核患者の 1/3 は国外生まれとされています。 結核について、このような事態を引き起こし た要因として、WHO は、不十分な結核対策(不 当な軽視?)、HIV/AIDS の拡大(世界の HIV 陽性者1400 万人のうち約 560 万人が結核にも感 染していると推計されている)、多剤耐性結核菌 の蔓延を挙げ、1993 年「世界緊急事態宣言」を 出して、あらためて強力な結核対策を呼びかけ ています。 我が国でも、明治以降の産業革命による都市 への人口集中に伴い、結核が国内に蔓延し、「結 核は国民病」といわれていました。その痕跡は 石川啄木、正岡子規、堀辰雄などに深い爪あと として残されています。ちなみに昭和25 年、結 核による死亡者は 121,769 人、死亡率は 146.4 (人口10 万対)で、死亡順位第 1 位でした。そ の後、住環境や栄養状態の改善、抗結核薬の開 発、結核予防法施行に伴う医療費の公費負担制 度の確立などにより、結核は減少を続けてきま した。1997 年以降 3 年連続して新規登録患者数 (結核罹患率)が上昇したため、1999 年厚生省 (当時)が「結核緊急事態宣言」を出して、国 民各層の注意を喚起しました。2000 年以降、結 核罹患率は再び低下に転じ、2001 年には推計で、 死亡者2,488 人、死亡率は(人口 10 万対)2.0、 死亡順位第25 位となっています。しかしながら、 欧米諸国に比較すると、結核罹患率は3∼6 倍で あり、大都市などを中心に依然高い状態が継続 しています。 日本における最近の結核流行の特徴的な姿は 次の2点に集約されます。その一つは、ある程 度まで低蔓延化した結果、患者の発生が特定集 団に集中化していること、すなわち、新規登録 患者の約6 割が 60 歳以上の年齢層から発生して おり、発病の母地となる既感染者は9割までが40 歳以上であること、いま一つは、「終戦直後に 強い感染を受けた中高齢者」と「殆ど感染を受 けていない若者」が同居していること、です。 これらの特徴から派生する結核流行の様相とし て、患者発生が医学的・社会経済的弱者に偏在 すること、集団発生の頻発、重症発症例の増加 などが挙げられています。このために、結核対 策も、小学校・中学校でのBCG を廃止するなど、 それらの特徴を考慮した形に少しずつ変更され つつあります。但し、結核の専門家が急速に減 少しているとか、医療者に「結核は過去の病気」 という意識が蔓延しているといった問題点も指 摘されています。 滋賀県の状況はどうでしょうか?滋賀県は結 核罹患率、結核による死亡率とも全国平均とほ ぼ同等かやや低値で推移していますが、これら の値が、全国平均の約 3 倍を示している大阪市 をはじめ、やはり全国平均よりも高い京都市、 神戸市、名古屋市などにも近く、今後の推移は 予断を許しません。また、30∼40 歳代でもその 殆んどが未感染者となっているために、学校ば かりでなく、一般の職場でも集団感染が起こる 頻度が高くなる可能性があります。 ところで、滋賀大学はまさしく、「終戦直後に 強い感染を受けた中高齢教職員」と「殆ど感染 を受けていない若い教職員、学生」が同じキャ ンパスで働きあるいは学んでいる場所というこ とになります。実際、1999 年夏に、彦根キャン パスを中心に集団感染・集団発生が起こったこ とは記憶に新しいところです。その事態を受け て、滋賀大学は、全学生および全教職員を対象 に結核検診を実施し、その結果を、「平成 11 年 度滋賀大学における結核検診実施報告書」1)と してまとめるとともに、2000 年 3 月には保健管 理センターがSHR 結核特集号2)を発行して、結 核についての注意を喚起しました。2001 年以降、 学内の多大の御協力を得て、胸部 X 線検査によ る結核検診の受診率が向上し、2003 年春には学 生全体で約85%となっています。一方、教職員 の受診率は人間ドック受診者を併せてもなお 60%程度にとどまっています。学校における結 核集団感染において、教職員の結核罹患が原因 であることが少なくありません。以前から再三 お知らせしているように、「2週間以上継続する 咳、痰、発熱、全身倦怠感」がある場合には、 結核の可能性を考えることが必要ですが、一方 で大学生の結核患者の半数以上が定期検診で発 見されています3)。「自分自身の健康のための早 期発見・早期治療」とともに「集団発生の予防」 という観点から、できるだけ多くの滋賀大学人 が定期健診における結核検診を受けていただけ ればと考えます。 参考文献 1)滋賀大学保健管理センター,滋賀大学学生 部:平成11 年度滋賀大学における結核検診報告 書 平成12 年 3 月 2)滋賀大学保健管理センター:Shiga Health Report 結核特集号 平成 12 年 3 月 3)長尾啓一(千葉大学保健管理センター所 長):私信