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自己所有船舶上の先取特権 (滋賀大学経済学部開学十周年記念論文集)

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二七四

自己所有船舶上の先取特権

 はしがき  同一船主の所有に属する甲・乙姉妹船間に海難救助が行われた場合に、船主が自己自身に対して救助料請 求権を取得することは、海難救助条約第五条がこれを認めており、また規定はないが、わが商法の解釈としても、同様に 解するのが今日の通説といってよい。しからばこの場合、船主はその救助料請求権につき自己所有の被救助船乙の上に船 舶先取特権不眠四︶を有するかというに、我国ではまだこれを肯定する説は少いが、救助料請求権の成立を認める以上は、 船主が自己所有船舶上に先取特権を有することを承認せねばならぬ。次に、同一船主の所有に属する姉妹船主に衝突の 生じた場合、その損害賠償請求権につき右の海難救助の場合と同様のことが言えるかどうか、或はAの所有する貨物を同 じくAの所有する船舶に積込み運送中、海上危険に際して右貨物が投塗せられた如き場合には、Aは海損荷主として自己 自身に対し共同海損分担請求権を有するであろうか。この点についても我国ではまだあまり論議されていないが、独逸に おいてはいつれも肯定説が有力である。元来、伝統的な民法概念を以てすれば、同一人が債権者となると同時に債務者と なり、又は所有者が自己所有物の上に担保物権を有するということは原則としてありえないのであって、ただわが民法は 濫同の場合の例外としてこれを認めるにすぎない︵民一七九一但・五二〇但︶。 しかし商法においては必ずしもこの民法概念にとらわれ ることはできないのであって、混同の場合以外にも、広く同一人が同時に債権者と債務者の地位を兼.ね、所有者が自己所

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有物の上に担保物権を有する場合を認める必要がある。そこで本意においては、海商法上、如何なる場合に船主が自己自 身に対して債権債務を有しまた自己所有船舶の上に船舶先取特権を有するかを検討し、かかる結果を認める実際上の必要 性とその理論づけについて、若干の考察を試みたいと思うのである。 一 自己所有船舶上の先取特権の成立   0り 法律の規定の解釈により先取特権の発生する場合  ω海難救助の場合  一九一〇年の海難救助条約第五条は、﹁報酬は同一の所有者に属する船舶間に救援・救助ありた         る場合にもこれを支払うべぎものとす﹂と規定している。本条約は各国により批准されているが、右第五条を国内法化す        るについての各国の立法態度及び解釈にはかなりの差異が見られる。しかし独逸や我国においては、右規定の解釈として、 姉妹船甲・乙間に海難救助が行われた場合には、救助船甲の船員が被救助船乙の船主及び荷主に対し、また甲船船主が乙 船上の貨物の荷主に対して救助料請求権を有するのみならず、救助黒石の船主が被救助下天の船主たる自己自身に対し救 助料請求権を有するものと解せられている。独逸においては、右条約が成立する以前において、すでに一八九ご年の独大        審院判決は、姉妹船間の救助につぎ船主の自己自身に対する救助料請求権の取得を認めており、小数の反対説を除いて、        多数説は目的論的見地から判例の結論を支持していた。その後独逸は右条約を国内磁化するため一九二二年の法律を以て 商法を改正し、現行商法七四三条は条約五条と同趣旨の規定を設けたから、従来の判例及び多数説の立場が立法的に確認 せられるに至った。そしてまた現在では、この船主の救助料請求権につき、船主が自己所有船舶上に船舶先取特権︵ω葺竿        ︷け。q一ぎぼσq霞器。窪︶を有することも、学説が一致してこれを認めている。我国も大正二年右条約を批准し翌年これを公布施 行している︵大正三年条約第三号︶。そして条約は専ら渉外関係に適用せられ、日本船舶間の海難救助には商法の規定が適用せられる。     自己所有船舶上の先取特権︵小島︶      二七五

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      二七六 条約の適用ある場合における姉妹船間の救助については、独逸におけると同様に解することに異論はない。また商法の適 用される場合においても、直接の規定はないが解釈上同様に解するのが通説である。しかし船主が自己自身に対して救助 料請求権を取得するという特異な法現象を、如何なる理論的根拠においてとらえるかについては、学説は必ずしも一致し ない。ここでは我国の学説を一々検討する余猶はないが、この点についての卑見を述べつつ、若干の考察を加えたい。  船主が自己自身に対して救助料請求権を取得するという結果を認めるには、先づ﹁何人も自己自身に対して請求権を取 得し得ない﹂︵巳①日三島閃。aΦさ昌αq窪σQΦσq窪ω8ず。。2げ曾Φ暑霞げ①μ吋。目Φ︶という古典的概念を再検討せねばならぬ。人が自己自 身に対して請求権を有するということは、多くの場合にはその実益がない故に、右の概念が一般に認識せられる。しかし これはあくまで原則として写りというに止り、その実益ある場合には、自己自身に対する請求権の成立を認めても少しも 差支えない。古くは同一債権につき債権者が同時に債務者とはなりえないというのが支配的な見解であったが、近時は債 権乃至は請求権の本質についての概念に変化を来し、同一人が債権者となると同時に債務者となることも可能であるとの        見解が次第に一般的となりつつある。例えば自己受の約束手形に署名した振出人、又は受取入・支払人が同一入たる為替         手形の引受をした支払人は、債権者であると同時に債務者となると解せられているのがその一例であり、またここに問題 とする姉妹船間の救助の場合における船主の自己に対する救助料請求権の取得もこの一場合に該当する。  しからば姉妹船間の救助の場合に、船主に自己自身に対する救助料請求権を認める実益とは如何なるものであろうか。 この実益は、船主の利益と救助船上の委付債権者の利益という二つの方面より考察しなければならぬ。そして、ω船主の 利益の見地より考えると、この船主の救助料請求権の取得は、ω被救助船の保険者に対する船主の保険金請求権の発生と いう点と、回被救助船に対し船舶債権者が権利を実行した場合における船主の配当加入権︵優先弁済権︶の発生という二点 で、実益を有する。先づ保険者に対する罵係を見るに、前述の独逸大審院の判例の場合にも見る如く、姉妹船澗の救助の

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場合に部民助船の船主が救助船の船主たる自己自芽に対して救助料債務を負担するということを前提としなげれば醸舩主 が被救助船の保険者に対して救助料の墳補としての保険金の支払を請求できない結果となる。しかしこれでは救助に貢献 した船主が損失を被ることになり、また救助船が金諾助船の船主に属していたという偶然の事実によって保険者が保険金 支払の義務を免れるというのは不合理である。従って公平の見地から船主に自己自身に対する救助料請求権の取得を認め         る必要があり、かの海難救助条約五条もかかる保険者に対する関係⊥設けられた規定であると言われる。次に、船主の配 当加入権の発生という点について考えると、姉妹船︵甲・乙︶間の救助の場合に船主︵A︶が自己自身に対.して救助料請求権を 販得するものとするならば、この請求権には当然船舶先取特権︵隔入四二5︶が認められ、船主は自己所有の被救助船︵乙船︶の 上に先取特権を有することになる。そして後述する如く、被救助船に対して他の債権者が執行をなした場合には、船主は 自身も船舶先取特権者として、その競売代金の配当に加入し、法定の順位による優先弁済権に基ぎ、配当金の控除請求を ・なすことができるのであって、救助に対する彼の努力は報いられることになる。この配当加入権は殊に船主Aが被救助船 ︵乙船︶を委付した場合にその効果を発黙するであらう。元来、汽船なるものは乙船の船舶債権者︵船舶先取特権者︶の担保の 目的物であるのだから、乙船が海難に遭遇した場台にこれを救助することは、猟船の船舶債権者の利益のためにも必要で ある。従って、滞船を救助した船主Aに右の配当加入権を認めてもそれは当然の報償であって、何等乙船の船舶債権者に 酷な結果を強いるものではない。のみならず右の結果を認めなければ、船主Aはなるべく自己所有船をして肥船の救助に 向わしめることを避けるようになり、かくては海難救助を奨励する法の理想にも反することとなるであらう。また、②救 助船︵肥船︶上の委付債権者︵XYZとする︶の利益のためにも、船主が自己自身に対して救跡料請求権を取得するという結果 を認める必要がある。救助船甲の船主たるAが被救助船固の船主としてのA自身に対して有する救助料請求権なるものは 甲介と共に一個の海産を形成する。故にもしAが甲船をXYZに委付すれば、Aの有する救助料請求権も当然XYZに移      自己所有船舶上の先取特権︵小島︶      ’        二七七

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二七八 強し︵商六九〇︶、この請求権につきXYZは下船の上に船舶先取持権を有することになる︵先取特権の晴伴性︶。しかるに姉妹船 の救助の場合に船主Aの自己自身に対する救助料請求権を認めないとすれば、委付の場合に.XYZの取得する海産の価値 がそれだけ減少する結果となる。甲船が危険を伴う海難救助に従事することは、XYZにとっては担保物が危険にさらさ れることになるのであるから、その均衡をとる意味において、救助船上の委付債権者XYZの利益のためにも、船主Aに        @ 救助料請求権を認める必要があると考える。  以上の如き実益ある以上は、姉妹船間の救助の場合に船主に自己自身に対する救助料請求権を認めても、それは請求権 乃至は債権の本質と何等矛盾するものではない。そして船主の自己自身に対する救助料請求権を認める限りは、この請求        ⑫ 権につぎ船主が自己所有船舶上に先取特権を有することもまた承認されねばならぬと老えるのである。 ①︾昌㎝.、.d器器B目ひ雷臨8①。。け含①窪8話ρ器一、器ω轟き88冨ωきく卑帥ぴQ①葺曾H冨億Φ算話舜ユ目2p。竈⇔障①8昌常日⑪日①   践。管憲雷片Φ.、噂       、       馬 ②条約五条に関する各国の見解を一瞥すると、先づ英国においては、姉妹船間の救助が行われた場合、救助船の船員は被救助船の船主  及び荷主に対し、また救助船の船主は救助された荷主に対し、それぞれ救助料請求権を有するが、船主は自己自身に対して救助料請求  権を有しない、というのが従来からの判例の見解である︵O震奉おOp巨冨αq①ohOoO匹ωξψ①P¢酢瓶鮮︵ち認︶℃℃・G。ひO、田O⋮囚①〒  昌Φ匹ざい㊤乏ohΩ<目ω巴く⇔σqρωH白目餌.︵一〇ωひ︶づ.。。㎝︶。英国は条約を国内法化するためζ㊤臣二日①Oo昌く①コ試。昌諺。け層一〇=を制定した  が、本法には条約五条に該当する規定が設けられていないから、従来の右判例の見解は今口もそのまま依持せられている︵ζ碧﹃。巴餌P  ζΦ犀冨巨ωぼ℃℃官σq嘲ひ師号穿︵一〇悼ω︶℃b.お。。’刈。。O︶。 尤も保険者との関係においては右の判例の原則にかかわらず、実務上はいわゆ  るω一。。審﹃ω﹃号Ω窪ωρすなわち同一船主の所有に属する船舶間に衝突又は海難救助が行われた場合にも異る船主に属する船舶間にそ  れが行われた場合と同様に保険者は損害の螺補をなす旨の約款により、被保険者は保険金を請求しうることになっている︵︾毎。巳阜  ζ舞ぎΦH昌ω員き。ρ寧げ国9︵一〇=︶押ω①o叶刈8︵日︶”勝呂弘・﹁海上保険﹂ ︵昭二五年版︶ 一九七頁︶。   米国法においても、従来英国法と同様の見解がとられていた。しかるに米国は条約を国内法化するためω巴話αqo諺。戸一£Pを制定  し、本法一条︵前文︶において条約五条に従い、..鰹Φ同おぼ8器日巨臼9。畝。昌︷霞⇔ωω算磐。①o同ω酷く餌σq①ω冨=Po叶げ①p鴇Φ08匹げ団  φoBヨopo≦眉唾ωぼ℃o︷夢①く①。。。・Φ↑ω円Φコ仙Φ村貯ぴq碧出目Φo浮く冒σq。。蛋。﹃霧。。雷冨昌。Φ○村ω巴く箆領①。。巽50窃・”、と規定した。この規定は一瞥

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 したところ、従来の判例の立場を変更したかの如く見えるが、事実は決してそうではない。近時の米国判例によれば、右規定は、姉妹  船間の救助の場合にも救助船の船員は救助料請求権を有するという従来の判例の見解を立法的に再確認したまでのことであって.、決し  て船主が自己自身に対して救助料請求権を取得することを認めたものではないのである︵○出日。話半切冨。﹃︾日日ヰp一華い餌芝・一8N  唱O・㌫ω盆α・合⊂ρ・合点⋮菊。び言。,oP間き亀びoo犀。︷︾伍ヨ一居巴旨い鋤≦℃おG。P娼や刈αO①峠ω①ρ:︶。 以上の如くであるから、英・米法に  おいては救助料請求権につき船主が自己所有船舶上に船舶先取特権 ︵昌P曽目一け一5P① 一一〇一ρ︶ を有するかどうかということも問題にならない  のである。   フランスにおいても、姉妹船間の救助の場合に船主に救助料請求権を認めるかどうかにつき、ド・クーシーの消極説とリヨン・ヵー  ン等の積極説が対立していたが ︵匹①Oo自。ざO岱㊦。。江。冨匹①O巴。騨寮母三ヨρ目り一。。G。9や鍵2。。巳く・いい団。〒O⇔9卑”①⇒磐貫  頂生一瓢匙oU巴。ぽOoヨヨ霞。一QrP。①山.、<一︵一。。Oひ︶”ロ。一〇話p“加藤正治・﹁海法研究﹂一巻三三六頁参照︶、一九=陣雲四月二九日  の法律はその第五条に条約五条と同文の規定を設けた。しかしこの五条についても解釈上かなり問題があるようである︵<oざ図号①芦  UHo旨]≦貸三ヨρ心、⑪匹‘H目︵一〇αGρ︶噛昌。巴。。暁︶。それはともかく、仏においては姉妹船間の救助の場合に船主に救助料請求権が認めら  れるとしても、これにつき船主の自己所有船舶上の先取特権が成立するかどうかは殆ど議論されていない︵本稿二八八頁註③参照︶。 ③園ON‘ゆFωPω・無h.この事件は、原告所有にかかるイタリや号が同じく原告所有のゲレールト号によって救助されたので、原告  はイ号園主としてイ号の保険者に救助料の唄補を請求したところ、保険者は、原告がゲ号船員に対して支払うべき救助料の填補は承認  したが、原告がゲ号船主としての自己自身に対して負う救助料については、救助に要した実際の費用を除いて、その填補を拒否した、  という事案で.あって、やはり保険者との関係が問題になっている。 ④じd目。蕾a、しd霞αq巨σq§侮缶一=巴臨ωε嶺言ω①㊦8臣魍あoSψ8. ⑤ ωoげ9。窃、U器U①口冨。ずのω①①H①oゲ紗一b段轡︵一8ひ︶野師心、諺ロヨ■会Qり凶①︿Φ犀ぎαq”U㊤㎝山①巨富畠①の①臼①。ま層一8刈鴇ω.=N一δいOoω㌣  o劉い①冒げロ9匹①ω葭p。コ山色ω器。ゲ声ひ諺鼠一.︵一〇〇ω︶⑳一ホ曜H<⋮℃碧唱窪﹃Φ一目−頃9。昌◎ざ9山Φ。・OQ①霞Φoぽ。。、H︵一8ひソQっ●し。一。。. ⑥暴雨叶①巳。鳳g団き象口。げ牙ωσq①雛ヨ8口出阿蒙9。・器。窪。・=£Q”ω曜ホO︷.旧日興ω巴げρ2Φ自①三口島①のω①①冨巳露ωHΦ。ぽ=Oαρω.  =一⋮諺げ話げ9ヨ噛U霧ω①2①oゲ戸一8ひ鴇OQ凸心Q。. ⑦故に混同に関する民法一七九条但書及び五二〇条但書の規定は、旧時の観念からすれば理論を無視した便宜的規定ということになる  が、近時の観念よりすれば当然の事理を表明した注意的規定ということにならう。 なお勝本正晃・﹁債権法概論︵総論︶﹂五〇二頁以  下、.石坂音次郎・﹁日本民法︵債権︶﹂再版一七二七頁以下参照。 ③ 田中耕太郎・﹁手形関係の本質﹂ ︵商法学特殊問題中巻︶三〇一頁以下参照。 自己所有船舶上の先取特権︵小島︶ 二七九

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       二八○ ⑨尤もこれは創造説に立っての見解であり、手形理論につき交付契約説をとれば若干異った結論が出るであろう。 ⑩小町谷操三・﹁海難救助法論﹂九五頁註六参照。 ⑪ 加藤正治・田中誠二両博士は、姉妹船間の救助の場合に船主に救助料請求権を認める理由として、救助料請求権が海産の一部を構成  し、委付ある場合は混同に関する民法五二〇条但書にいわゆる第三者の権利の目的たる債権に該当するという点を挙げられている︵加  藤・﹁海法研究﹂一巻五二四頁、田中誠・﹁海商法提要﹂八版五三八頁︶。 しかしこの見解には疑問がある。すなわち混同は異れる二  個の法人格の聞に既に発生した債権と債務が、後に同一の一個の法人格の下に帰属する場合であるのに対して、姉妹船間の救助につき  問題となるのは、同一人格の下に最初から債権と債務が発生するか否かという点であるから、この場合は民法五二〇条但書は全く問題  にならないのである。 ⑫竹井廉・﹁海商法﹂六六頁三五七頁、石井照久・﹁海商法概論﹂六八頁も同説。  ㈲ 船舶衝突の場合  同一船主Aの所有に属する甲・乙姉妹船が乙船側の過失によって衝突した場合に、Aは無過失 船甲の船主として過失船庫の船主たる自己自身に対し損害賠償請求権を取得するか否か、またこの請求権につぎAは自己 所有船乙の上に船舶先取特権を有するかどうか。この点についての独逸の判例学説を見ると、一八九九年の独逸大審院判    決は消極説をとる。その理由とするところは、海難救助に関する独逸商法七四〇条にいわゆる”第三者”には被救助船の船 主も含まれるが故に、姉妹船間の救助の場合には船主に救助料請求権を認めても差つかえないが、船員の不法行為に対する 船主の責任を定めた独商四八五条にいわゆる”第三者”には明かに船主自身は含まれないから、姉妹.船軍に衝突が生じても 船主は自己自身に対しては賠償請求権を取得しない。これをもし反対に解するならば、船主が自己所有の海産の上に賠償 請求権を有することになり、その結果は該海産に対する他の被害者︵例えば積荷利害関係人︶の権利を侵害することになる、         という。この判決につきジーフェキングはほぼ同様の理由から賛成し、シャツプスも結果的に同意している。これに対し        ポイエンズ、コザック、ゼッバ、ヴュステンデルファー等は判決に反対して積極説をとり、また一九一七年のハンザ控訴 院判醜も積極説をと乏至・た・ヴ・スチンデル・・−は、四八五条にいわゆる〃第=著”と七四〇条にいわゆる〃第三

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者”が意味を異にするというが如き説は文法的に正しくないのみならず目的論的にも不当であるゆ姉妹船間の衝突の場合 にも船主に賠償請求権を認めるのでなければ、積荷利害関係人等はたまたま過失船が姉妹船であったという事実によって 恣意的な利益に浴することになり、また無過失船の船舶債権者は被害船主の賠償請求権を代位行使することができないこ とになり、更に無過失船の保険者は過失船及びその保険者に対して求償することができぬという不都合な結果を生ずると       述べている。このように独逸においても消極説と積極説が対立しているが、しかし近時はむしろ積極説が有力であるとい         われている。我国においては、山戸博士・小町谷博士は保険者等との関係を不慮して積極説に立たれるが、田中誠二博士        ・竹井教授は消極説をとられている。  思うに、実益ある場合は同一人が自己自身に対して請求権を有することを認めても差支えないという卑見の立場よりす れば、当然積極説に賛成せねばならぬ。すなわち姉妹船間の衝突の場合に船主に自己自身に対する損害賠償請求権を認め るならば、姉妹船間の海難救助の場合について述べたのと同様に、ω過失船町に対し他の債権者が執行をなしこれを競売 する場合に、船主も自ら先取特権者︵商八四二9︶として乙船の競売代金の配当に優先加入することができるという利益がある。 そしてこの実益は船主が闘志を委付した場合に発輝される。尤も右の如く積極説をとって船主Aの立場を保護すれば、そ れは他方において過失船の委付債権者︵例えば衝突によって損害を被った積荷利害関係人等  UVWとする︶が不利な立場に立 たされることになる。本来この衝突は乙船の船員の過失から生じたものであり、而して乙船船員の行為についてはその船 主Aが責任を負わねばならないのであるから、その責任者たる船主の利益をはかって被害者たるUVWの利益が害せられ るというのでは、公平の見地より妥当でないという考え方もありうる。独逸大審院がこの理由より消極説をとっているこ とは前述した通りである。しかし乍らよく老えて見ると、もし衝突したのが姉妹船ではなく、過失船乙が第三者たるBの 所有に属していた場合には、乙船の委付債権者UVWは、無過失船甲の船主Aの配当加入を拒むことができない筈である。     自己所有船舶上の先取特権︵小島︶       二八一

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       二八二 故にヴュステンデルファーも言う如く、過失船がたまたま同一船主に属していたという偶然の事実によって、船主Aの配 当加入を拒否しそれだけUVWが僥倖の利益を得るということは、かえって公平の観念に反するとも言える。このように 考えれば、公平の見地から必ずしも消極説をとらなければならぬという結論は出てこないわけである。のみならず、②無 過失亀甲の船主Aが乙船舶主たるA自身に対して有する損害賠償請求権は、母船と共に一個の海産を構成するから、無過 失船甲の委付債権老の利益のためにも、問題を積極的に解する必要があり、また、⑧積極説をとらなければ、甲船の損害 を墳補した保険者が、乙船の船主又は保険者︵滞船の衝突損害賠償責任の保険者︶に対して求償できないという不都合な結果           を生ずるであろう。  以上の如き実益にかんがみ、私は姉妹雪間の衝突の場合にも、船主に自己自身に対する損害賠償請求権の取得を認め、         かっこの請求権につき船主の自己所有船舶上に先取特権︵商八四二9︶の発生することを認めなければならぬと考える。 ①即ON二切鼻ホ旧ψαo.  ②ヵONこしσ匹■ホ讐QQ●盟6 ③ωδ<①犀ヨαq”即pρ樋Gリニ心。。=幽。⋮ω。冨甥、H︾珪 、⑰衆心サ諺ロ日.命 ④しdo閤重層卑即9層押ω・8心慮Oo鋸。ぎ卑勲ρ噂ゆ︼ら。斜b隠婁馴陣恥⑦島巷甲ζ㌶Φ︸の8ぎあΦげ客層︼︶島密暮q・9①Oo①霞①。罫悼諺ミド  姻謡ム、﹀口日.ひ跨W薯ロ駒。富昌αo臥葭=bdごω■ホ一・δ口・ ⑤ 寓きω窒肝。冨、菊Φ。窪ωNΦ器。冨同沖一2。。℃一8⋮Qり。冨窃−ζ捧①犀①一〒ωΦげ冨。p。■pρ、⑳謡心層︾旨ヨ.刈. ⑥芝器8巳。ほ興出bd.℃ψδ一魑心認.  ⑦薯募叶魯ま臨日頃ゆこ9.pρ. ③ 山戸嘉一・﹁船舶衝突論﹂︻︻五頁以下、小町谷操三・﹁船舶衝突法論﹂四八頁。 ⑨田中誠二・﹁海商法上の諸問題﹂四三六頁以下、同・前掲﹁提要﹂五一〇頁、竹井,・前掲書三四五頁。 ⑩今日の海上保険の実務においては、姉妹近間の衝突はいわゆる姉妹船約款︵和文船舶特別約款第三種・第四種・第五種に挿入される  衝突損害賠償金填補約款四条一項︶によって処理せられている。 ⑪ 以上の本文においては、姉妹船甲・乙工船が同一船主に所有されかつ運航せられている場合について考察したわけであるが、これと  やや異り、Aの所有・運航する堀船と、Aが所有しBが賃借・運航する乙舶とが、乙韻側の過失によって衝突した場合には、舶舶賃借

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讐  人Bに対する賠償請求権につき、Aが自己所有艦乙の上に先取持権を有する︵商館〇四豆︶ことは、本文語例の場合よりもより強い理  由を以て、肯定されねばならぬと思う。  圖 共同海損の.場合  Aの所有する貨物を同じくAの所有する船舶︵甲船︶を以て運送中、海上危険に際して右貨物 が投荷されたような場合には、Aは海損荷主として船主たる自己自身に対し共同海損分担請求権を有するか、またこの請         求権につぎAは自己所有船舶上に先取特権を有するか。独逸においてはこの点についても積極説が強い。私はわが商法の 解釈としても積極に解すべきものと考える。蓋しかように解さなければ、ω右貨物の損害は他の貨物の利害関係人によっ てのみ分担せられることになって不公平な結果となり、②網船の保険者は共同海損分担費用としての保険金の支払をな塔 ず、㈲Aが甲船を債権者に委付した場合にAの配当加入はできないことになり、㈲また右積荷が委付された場合に︵商七一二且︶ 積荷債権者︵層畳呂σqωσQ鼠暮置生︶の利益が害せられるからである。殊に右貨物につぎ船荷証券が発行せられている場合に         は、Aから証券を取得した証券所持人の利益のためにも積極説をとる必要があると思われる。 ①芝審汁①巳。鳳興=bJ‘Qα。お一旧鎌Φ屋巴げpω国即、ω二a⋮ω9碧叩ζ葺鮎ω鼠㌣QQ①σげ斜節■pO二吻胡♪︾ロヨ.O. ②本文に設立の如き場合には、英法は共同海損の成立を認めない。しかし保険者との関係においては、あたかも共同海損があったかの  如く取扱、われ、船主は保険金の支払を受けることができるものとされている︵O農くΦお。や9什ご℃やひO㎝、ひOひ︶。   回 契約に因って自己所有船舶上に先取特権の発生する場合  同一船、王Aの所有に属する甲。乙前船の船長の間に救助前額の約定を含む救助契約が締結された場合、或はAの経営す るドックにおいてその所有船が修繕せられた場合等において、Aはこの救助料又は修繕料につき、自己所有船の上に先取 特権︵暗礁隅二︶を有するか。ヴュステンデルファーは﹁たしかにこのような場合には、同一商人に属するご店舗間の関係に 見るが如き債務類似関係としての客観的債務在高︵Oげ﹂①犀仲一く①昌QDOげ二一餌げΦo自叶臼P匹︶が存在することが是認される。このように考        オ えることによって、同一権利主体に属する各個の特別財産間における掴取権と責任︵NβσQ峰︷貫Φ畠ε巳頃⇔津β口σq︶との独立     富己所有船舶上の先取特権︵小島︶       二八三

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      二八四 性が認められることになる。しかしながら、船主又はその代理人︵船長︶によってなされる悠意的な法律行為によって、彼 の所有する船舶を任意の債権額において船舶先販特権に拘束することは、船主自身にとっては有利であるが他の船舶債権 者にとって不利となるから、原則としてかかる権限を船主に認めるべきではない。もしこのようなことが認められるなら        ロ       ば、他の船舶債権者の権利は実効を奪われ、その順位は害せられるであろうしと述べて消極説をとるが、パッペンハイム は﹁しかしこのような︵第三者を害する︶危険がない限りにおいては、法律行為によって生じた債権につき船舶先取特権を        認めることも不可能ではない﹂として条件付積極説をとる。思うに、契約のなされた理由や契約額が妥当で、第三者を害 するおそれのない場合には、積極説をとっても差支えないようであるが、しかし現実の問題としては右の妥当性を確認す         ることは容易ではないから、むしろヴ教授の消極説に賛成すべぎであろう。独逸においても消極説が支配的である。しか し右とはやや異り、A所有の甲船の船長と、Aの所有にかかるがBの賃借︵裸傭船︶する乙船の船長との間に救助契約が締 結せられた場合、或は右の乙船がAの経営するドックにおいて修繕せられた如き場合には、Bに対する救助料叉は修繕料 につき、Aが自己所有船乙の上に先取特権︵商七〇四皿︶を有することは当然認められるべきであろう。 ①自密8巳。臨興ω寓力こω二駆r  ②℃呂究爵①一β。.pO‘押ω.鷲。。■ ③ しd畠窪ω、p⇔■○‘Hoり■80hh脚Qっ農工。。1ζ葺①Hω8一印−ωoびびpppO‘ゆ誤倉諺昌B.O一      −   ㈲ 混同によって自己所有船舶上の先取特権が成立する場合  Aの所有する甲船をBが賃借・運航し、このBに対して救助料請求権又は賠償請求権等の債権をCが有している場合に おいて︵従ってCは甲船上に船舶先取特権を有する︶、この第三債権者Cの執行をさけるため、AがBに代ってCに支払をなし たときには、Aは自己所有船甲の上に先取特権を有するか。この場合AがCよりBに対する債権の譲渡を受けたのであれ        つ ば、やはり積極的に解すべぎである。この場合は物権の混同が生じるわけであるが、甲船に対し他に船舶置字特権又は抵

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当権を有する者ある場合には、民法一七九条一項但書の解釈としても当然右の見解が肯定される。また甲船の船主が甲船 に対して船舶先取特権を有する船荷証券所持人 ︵損害荷主︶より該証券を譲受けた場合にも、船主は自己所有船甲の⊥に         ② 先取特権を取得する。このようなときには、債権の混同を生ずるが、この場合も有価証券法理により民法五二〇条の適用        ③       ④ が排除せられることは、.手形の戻裏書の場合と同様である。この他船舶の委付、相続・会社の合併等の包括承継によって も自己所有船舶上に先取特権が成立すると考えるが、詳細は脚註に譲る。 ①② 薯舘ω8ロ儀。ほ㊤ω缶即−ω・冨O⋮<箪Gり。冨窃−ζ一け邑。。悉昌あ①びびp穿pO‘⑳誤心”︾昌ヨ■一〇﹁ ③委付の場合について考えると、船主Aが債権者XYZに対し甲羅を委付すれば、甲船はAの所有よりXYZの共有に移される︵移転  的効力説︶。委付債権者はすべて船舶先取特権者であるから︵商八四二9一相関原則︶、XYZは自己の共有する甲船の上にそれぞれ先  取特権を有するわけであり、ここに自己所有︵共有︶艦船上の先取特権が成立する︵西島弥太郎﹁海商法要論﹂一一一頁参照︶。 ④民法一七九条一項但書の解釈としては、例えば甲の所有地に乙が一番抵当権を有し、丙が二番抵当権を有している場合に、乙が甲か  ら相続によって土地所有権を取得すれば、 一番抵当権の被担保債権が混同によって消滅するから︵民法五二〇条︶、 乙の一番抵当権も  右但書にかかわらず消滅し、丙の二番抵当権の順位が上昇すると解する説が有力である︵我妻陛有泉・﹁民法総則・物権法﹂二八七  頁、林良平・﹁物権法﹂四一頁参照︶。この理より推せば、Aの所有船船の上に船舶先取特権を有するBが、Aより該船舶を相続.会社  合併等により取得しても、Bの自己所有船舶上の先取特権は成立しないことになるが、しかし姉妹船間の救助の場合に船主は自己に対  して救助料請求権を有しこの請求権につき自己所有船舶の上に先取特権を有するのと対比すれば、相続・会社合併の場合にも、右の如  く消極的に解することが妥当であるかどうか、多分に疑問があると思う。       、 二 自己所有船舶上の先取特権の効力  自己所有船舶上の先取特権の効力は、当該船舶が競売せられた場合における船主の醗当加入の可能性にある。船主が自 己自身に対して請求権を有し、かっこの請求権につぎ自己所有船舶の上に先取特権を有するといっても、船主が自己に対        ① してこの先取特権を実行することは、理論的には不可能でないにしても、現実問題としては殆んど実益を有しない。しか      自己所有船舶上の先取特権︵小島︶       二八五

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      二八六 し他の債権者が当該船舶に対して権利を実行し、これを競売に付した場合には、その競売代金の配当につぎ、船主は先取 特権者として配当に加入し、その法定順位に基いて後順位権利者に優先して自ら満足を受けることがでぎるのであって、 自己所有船舶上の先取特権の効力が防衛的機能︵α①h①昌ω一く①閃二昌昌賦Oづ︶にあると言われるゆえんはここにある。ただしかし、 この船主の自己所有船舶上の先取特権は、船主が当該船舶を委付︵商六九〇︶した場合において、委付債権者に対してのみ実効 を有するという点に注意せねばならぬ。蓋し当該船舶の競売の場合に船主が自己所有船舶上の先取特権を主張しても、委 付の対抗を受けない債権者は、未だ満足を受けない債権額につき、更に船主の陸産︵融鯨瀞期記鋤舗論翻甘心鮪肘鼠銑神罰罐旧聞鵬励銑疎 罐碓 ニ︶に対して執行をなしうるのであって、従ってかかる債権者に対しては船主の自己所有船舶上の先取特権は何等実効 を有しない。これに反して、委付の対抗を受ける債権者は委付後は当該船舶を中心とする海産以外には執行をなしえない から、当該船舶の競売に委付債務者と競合して船主が船舶先取特権者として配当加入するならば、それだけ委付債権者の 満足は減殺されるわけであって、従ってかかる委付債権者に対しては、自己所有船舶上の船主の先取特権は実効を有する わけである。このように自己所有船舶上の先取特権の実益は、船主有限責任の制度と密接に関連することを知らねばなら ぬ。  ところでここに注意すべきは、自己所有船舶上に先取特権の成立を認めることは、物的船主有限責任制度の下において は実益を有するが、人的船主有限責任制度の下においてはさまで実益を有しないという点である。例えば一九五七年の船        主有限責任条約の採用した人的有限責任制度︵縫噸駐礒劇囲薇曲師勧︶の下においては、船主がいわゆる責任制限基金︵一塁同耳一。⇔ 貯巳︶を提供形成したときには、有限責任の対抗を受ける債権者は、この基金以外の船主の財産に対して執行することは 原則として許されないことになっている︵条約二条四項︶。従って基金形成後は、基金以外の船主の財産たる海産において、有限責 任の対抗を受ける債権者の権利と船主自身の先取特権とが競合することはありえない。またこの基金に対しては船舶先取

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特権の効方は及ばないことになっているから、この基金において船主自身の先取特権と有限責任の対抗を受ける債権者の 権利とが脚台することもありえない。故に条約の人的有限責任制度の下にあっては、船主に自己所有船舶上の先取特権 を認めても、それによって有限責任の対抗を受ける債権者の満足が特に減少されるということはないのであって、船主の 側より見ればこの種の先取特権の実益は大巾に減殺されることになるのである。.以上は有限責任条約の制度に関して述べ たが、同じく人的有限責任制度をとる英国法及び米国法の制度の下にあっても、結果は同一である。これに反し執行主義 (独 Z条︶や委付主義︵陥要説鵡嫉︶の如き物的有限責任制度の下にあっては、 有限責任の対抗を受ける債権者の満足の客体は 海産のみに限られるから、この海産の上に船主自身の先販特権を認めるならば、有限責任の対抗を受ける債権者の満足は それだけ更に減少し、船主は利益を受けることになるのであって、この物的有限責任の制度の下においては自己所有船舶 上の先取特権は実益を有するのである。自己所有船舶上に先取特権が成立するか否かについては、独逸の如く物的有限責 任制度を.とる国においては、しきりに議論されているが、英・米の如く学的有限責任制度をとる国においては、殆んど問        題とされていないのは、右に述べた如き事情に基くのではないかと算えられるのである。 ①独逸の通説は、船主が自己自身に対する請求権につき、自己所有船舶上に先取特権を有する場合と、舶主が第三者︵例えば船舶賃借  人︶に対して有する笹津権につき自己所有船舶上に先取特権を有する場合を区別し、前の場合には船主は自己に対する債務名義を獲得  することができないから先取特権を自ら実行することもできないが、後の場合には第三者に対する債務名義を得て自ら先取特権を実行  することができると解している︵鼻口の器5伍σ臥ΦhOり=菊ごψ一ら魑一誌“ωOび巷ω ζ葺①冨け鉱コーω⑦げび斜餌.鋤.○’℃ゆ謡心、︾ロ日.一ρ=・︶。  これは独逸訴訟法においては、原則として担保物権の実行に債務名義が必要とされているからであるが、わが競売法にカいては、担保  物権の実行に債務名義を必要とレないから、右の如き区別をなす必要はない。しかしいつれの場合においても、船主が自己所有船上の  先取特権を積極的に実行する実益は存しないと思われる。ただ先取特権の目的たる船舶が数人の共有に属するときには、共有者の中の  先取特権者がこれを実行する実益ある場合もありうるであろう。 ② 一九五七年の有限責任条約については、小町谷博士の﹁航海船の所有者の責任の制限に関する国際条約の研究﹂法学新報六五巻︵六     自己所有船舶上の先取特権︵小島︶      二八七

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二八八  号︶四七二頁以下及び︵七号︶五四七頁以下を参照されたい。 ③フランスにおいては、我国と同じく物的船主有限責任制度︵委付主義︶がとられているにかかわらず、自己所有船舶上の先取特権の  成立が殆んど論議されていないが、これは恐らく一九四九年の改正までは、仏法は救助料請求権・共同海損分担請求権・船舶衝突によ  る賠償請求権につき船舶先取特権が認められていなかったという沿革に基くものと思われる︵拙稿・﹁トイツ法及びフランヌ法におけ  る船舶先取特権制度について﹂法学論叢六三巻五号六七頁参照︶。  むすび 以上は、如何なる場合に船主は自己自身に対して債権債務を有し、自己所有船舶上に先取特権を有するか、 またかかる結果を認める実益は如何なる処にあるかについて卑見の一端を述べた。しかしなほ老察すれば、自己所有船舶 上の先取特権は、近代法における債権及び担保物権の本質と関連して、極めて重要な問題を包蔵している。通例独逸にお いては、自己所有船舶上の先取特権は、不動産上の所有者抵当権︵観αq窪慈旨の廉潔。跨Φパ︶と対応して、ともに自己所有物 上の制限物権︵びΦσq屋基け①ω象護皆げ⑦ω国Φ。窪碧山σq魯霞ω零冨︶の問題として論ぜられている。ただしかし抵当権は法律行為 ︵通常は契約、但し独逸の場合︶によって設定せられる約定担保物権であるに反し、先取特権︵融斜照瓶︶は︸定の債権につき法 律の規定によって当然に発生する法定担保物権であること、また抵当権は単に債権の弁済の掴保という消極的な作用のみ ならず、物の交換価値を流動的に把握して母権的に金融市場における投資の媒介をなす意義を有するが、先取特権にはか かる積極的意義は存しないこと等を顧慮すれば、所有者抵当権と自己所有物⊥の先取特権とは、かなり意義・機能を異に すると言わねばならぬ。従ってこの両者の差異を更に究明すれば、約定担保物権殊に抵当権の本質と法定担保物権殊に先        ダ 取特権の本質の差異を探求する重要な鍵を見出すであらう。しかし本稿ではこれ・らの点についてはふれられていない。ま た本稿の論題と関連して、保険契約上の姉妹船約款︵ω翼露Q。三℃Ω舞。。①︶についても検討すべぎ多くの疑問がある。これら の点については、本稿を契機として大・万の御叱正を仰ぎ、他日補足を試みたいと老えている。       −︼九五九・九・一ー

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