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AIIBの設立背景と課題

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経済と経営 46−1・2(2016.3)

論 文>

AIIB の設立背景と課題

志 平

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が,2015年 12月 25日内に設立に必要な法的手 続きを終えて正式に発足した。2016年1月 16∼17日に初めての 会・理事会を開き,本格的に開業 している。 会・理事会で中国の元財政次官・金立群氏の初代 裁への就任を正式に決定したほか, 理事ら執行部の顔ぶれも決めている。欧州やアジアなどから 57カ国が 設メンバーとして参加を表 明しており,実際にこれまで全ての国が設立協定に署名した。さらに約 30カ国が加盟を希望してい るとしており,今後,加盟国の増加に伴う増資を検討する。すでに世界銀行(世銀)やアジア開発 銀行(ADB)などとの間で協調融資に向けた協議を進めており,2016年6月に第1号の融資の実現 をめざす。 日本の財務省は当初,先進7カ国(G7)の参加はないとタカをくくっていたが,ふたを開けて みれば,イギリスやドイツ,フランス,イタリアだけでなく,アジア太平洋地域の米国の同盟国で ある韓国やオーストラリアも 設メンバーに名を連ねた。日本は AIIB に参加すべきか否か,マスコ ミでは様々な意見が飛びかかっていたが,2015年3月に,日本政府は AIIB の 設メンバーとして は参加せず,最終的に参加するかどうかは,今後の統治の枠組みの 渉結果を待つ,という決定を 行った。 本稿では,そもそも中国が AIIB 設立に動いた動機は何か,AIIB の組織枠組みはどうのように設 計されているのか,どのような課題を抱えているのか, 察を行う。 1.AIIB 設立の経緯 中国は 2008年頃から, ASEAN+3 13カ国の枠組みで, アジアインフラ投資ファンド の設 立を毎年提案してきていた。しかし,日本側の組織である東アジア共同体協議会(CEAC)は,日本 政府の意を受けたこともあり,中国からそうした提案が出てくる度に,潰しかかっていた(山下英 次[2015])。アジア域内のインフラの充実のために,何らかの金融的な枠組みを設けようとの中国 のアイデアは,その限りでは,従来から一貫したものと言える。 2013年 10月,インドネシアのバリ島で開催された APEC 首脳会議で,習近平国家主席が AIIB の 構想を提唱した(図表1)。当初,中国が 50%まで出資の用意があると,中国の銀行という色彩が強 く,先進国を中心に,国際金融機関とは認められないだろうという懐疑論が大勢であった。 ところが,中国は参加者を募る過程で,出資比率が高すぎると言われると,それを引き下げるこ とに同意するなど,構想の内容は少しずつ変化していった。ただし,本部を北京に置き, 裁は中 ( ) 15 15

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国人を充てというのは譲らなかった。インドネシアが本部をジャカルタにと主張したが,一顧だに されなかった。 構想発表から1年後の 2014年 10月,設立発起国 21カ国が,AIIB 設立の覚書(MOU)に調印し た。しかし,21カ国のうち先進国はゼロという状況で,AIIB が重要な機関になるとは思われなかっ た。ところが, 設メンバーを決定する締め切りとされていた 2015年3月末まで,残すところ半月 という時点で,イギリスが急遽 渉参加を表明した。3月 12日の英国財務大臣オズボーンによる表 明は,大きな驚きをもって受け止められた。 その後,ドイツ,フランス,イタリア,韓国,オーストラリアも 渉参加を表明した。2015年4 月 15日,ヨーロッパのG7メンバーであるイギリス,ドイツ,フランス,イタリアを含む 57カ国 が, 設メンバーとして AIIB に参加することが決まり,6月 29日,北京の人民大会堂で調印式が 開催された。 最終的な参加表明の 57カ国は,ADB のメンバー国と 色はない。大きな違いは,日本・米国・ カナダが AIIB には参加していないことである。 図表2のとおり, 立メンバーには,G7から英仏独伊の4カ国,国連安全保障理事会の常任理 事国5カ国から中英仏露の4カ国,BRICS の全5カ国,ASEAN(東南アジア諸国連合)の全 10カ 国,G 20(主要 20カ国)から 14カ国などが含まれる。ADB のメンバーではないが,AIIB に参加 表明した国は,イラン,イスラエル,ヨルダン,クウェート,オマーン,カタール,サウジアラビ ア,UAE,エジプト,マルタ,ロシア,ブラジル,アイスランド,ポーランド,南アフリカである。 この中で,注目すべきはアラブの湾岸諸国,そしてブラジル・ロシア・南アフリカである。なお, 台湾は チャイニーズ・タイペイ の名称で ADB メンバーであるが,同名称で AIIB に加盟申請し たものの,中国に拒否されたとの報道がある。 さらに,イスラエルとイラン,イランとサウジアラビア,インドとパキスタンなど,歴 的に厳 経済と経営 46巻 1・2号 図表1 AIIB と 一帯一路 構想を巡る動き 2013年 9 月 7 日 習近平主席,カザフスタンで 新シルクロード経済ベルト 構想を提起 10月 3 日 習近平主席,インドネシアで 21世紀海上シルクロード と AIIB 設立を提唱 2014年 9 月 19日 習主席,訪印時に バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊 で合意 10月 24日 北京で,中国を含む 21カ国が AIIB 設立に合意 12月 29日 中国の政府系銀行などによる シルクロード基金 を設立 2015年 3 月 12日 英国が AIIB 参加を表明,欧州諸国が一斉に追随 4 月 2 日 習主席がパキスタンで, 中国・パキスタン経済回廊 計画へ 450億ドル供出を発表 4 月 23日 習主席がバンドン会議で,AIIB への意気込みを強調 5 月 2 日 中尾武彦 ADB 裁が年次 会で,AIIB との協調を表明 5 月 15日 李克強首相がインドのモディ首相と AIIB での協力で合意 5 月 21日 安倍晋三首相,アジアのインフラ整備へ5年で 1100億ドルを投じる方針を表明 6 月 29日 北京で,AIIB 設立協定の署名式開催,50カ国の代表が署名 7 月 2 日 中国財政部,金立群氏を AIIB 初代 裁候補に指名 11月 4 日 中国全人代(国会),AIIB の設立協定承認 12月 25日 AIIB が正式に発足 2016年 1 月 17日 AIIB 運営開始 出所:各種報道を基に作成。 ( ) 16 16

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しく対立してきた国々もそろって参加しており,AIIB は国際政治の観点からも注目される。 一方,2014年 11月,北京で開催された APEC 首脳会議の折,習近平は 一帯一路 (シルクロー ド経済圏と海の 21世紀海上シルクロード)構想を正式に打ち出した(図表3)。それは陸のシルク ロードと海のシルクロードからなる経済圏を意味し,中国から欧州に至る陸と海の2つのルートを 通じて,巨大経済圏を構築しようという野心的な構想である。 これを受けて,2014年 12月,中国は中央銀行である中国人民銀行が所管する資金規模 400億ドル の シルクロード基金 を設立した。これは中国独自の枠組みであり,2015年4月 20日,パキスタ AIIB の設立背景と課題 図表2 AIIB の 立メンバー(57カ国) アジア 東北アジア 中国,韓国,モンゴル 東南アジア インドネシア,ベトナム,カンボジア,シンガポール,タイ,フィリピン,ブ ルネイ,マレーシア,ミャンマー,ラオス 南アジア インド,スリランカ,ネパール,パキスタン,バングラデシュ,モルディブ 中央アジア アゼルバイジャン,ウズベキスタン,カザフスタン,キルギス,タジキスタン 中東・西アジア アラブ首長国連邦(UAE),イスラエル,イラン,エジプト,オマーン,カター ル,クウェート,サウジアラビア,トルコ,ヨルダン ヨーロッパ アイスランド,イギリス,イタリア,オーストリア,オランダ,グルジア,ス イス,スウェーデン,スペイン,デンマーク,ドイツ,ノルウェー,フィンラ ンド,フランス,ポーランド,ポルトガル,マルタ,ルクセンブルク,ロシア オセアニア オーストラリア,ニュージーランド アフリカ 南アフリカ アメリカ大陸 ブラジル (注)中国では,中東をアジアに含めている。 出所: エコノミスト 2015年5月 19日号,24頁 図表3 中国の 一帯一路 構想 ( ) 17 17 出所: 日経ビジネス 2015年 11月 23日号,37頁

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ンの水力発電所向けの 16.5億ドルを,第1号の融資案件として決定している。

また,2014年7月,ブラジルで開催された第6回 BRICS サミットにおいて,新開発銀行(NDB: New Development Bank,旧称 BRICS 銀行)と,緊急時外貨準備基金(CRA:Contingency Reserve Arrangement)の設立が合意された。NDB はインドが提案したものであり, 裁にはインド人が就 任し,本部は上海に置かれる。NDB は機能上,世銀(IBRD)と競合する。NDB の資金規模は 500 億ドル(各国が 100億ドルずつ拠出)であるが,CRA の基金規模は 1000億ドルで,そのうち中国 が 410億ドル,インド・ロシア・ブラジルが各 180億ドル,南アフリカが 50億ドルを拠出すること になっている。CRA の運用開始は 2016年と予定されているが,こちらは機能上,IMF と競合する。 このように,中国やインドなどを中心とする新興国主導の国際金融の枠組みが相次いで始動して, 国際金融システムは大きな転換点を迎えたといえるかもしれない(図表4)。 2.AIIB 設立の背景 AIIB 設立の国際的な背景については,3つを挙げておきたい。 第1は,アジアにおいて今後予想される膨大なインフラ資金需要である。2012年に,ADB がアジ アのインフラ需要が,2010∼20年の 11年間で,8兆ドルに上るという試算を発表してから,アジア ではインフラの供給に対する関心が高まっていた。単純平 で年間 7300億ドル弱である。それに対 し,ADB の年間投融資額は現在 130億ドル強にすぎず,2017年からそれが 1.5倍に増大するが,そ れでも年間約 200億ドルである。世銀と合わせても,量的に資金が大幅に不足することは否めない。 したがって,AIIB による融資提供は,既存の国際機関の補完になっても,競合関係にはない,と論 じることができる。その意味で,アジアに新たな国際開発銀行を設立する意味は充 にある。 第2は,現在の国際金融システムにおける不合理である。既存の国際金融機関の中で,世界銀行 とアジア開発銀行の役割は開発金融であり, 困削減を主な目的にしている。その融資について, 最大の出資者であるアメリカの意思が最大限に反映されている面は否定できない。またアメリカの 支配下にある IMF は, ワシントン・コンセンサス の中核を担ってきた。 ワシントン・コンセンサスとは,IMF・世界銀行,そして米国財務省の三者で合意された支援対 象国に適用される改革メニューを指す。資金支援する際,IMF は 構造調整プログラム の実行を 求めるのが常である。支援してほしければ構造改革を断行せよと迫る。救済される国には緊縮財政, 規制緩和や民営化など,型通りの市場原理主義的改革が要求される。 図表4 中国が主導する国際金融機関 AIIB NDB シルクロード基金 設 立 2015年6月 2014年7月 (設立合意) 2014年 12月 29日 資本規模 1000億ドル 500億ドル 400億ドル 目 的 域内およびアフリカでの インフラ整備 途上国のインフラ整備 シルクロード経済圏構想の 実現へのインフラ整備 出所:筆者作成 ( ) 18 18 経済と経営 46巻 1・2号

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1997年,アジア諸国が通貨危機に見舞われ,IMF に緊急融資を申し込んだ時,緊縮財政という厳 しいコンディショナリティ(制約条件)が強要され,危機が一層深刻化してしまった。IMF から支 援を受けた韓国は, IMF ショック と呼ばれた厳しい社会改革を強いられた。この時,日本は ア ジア通貨基金構想 を提唱したが,出資国に米国を入れなかったために,米国の逆鱗に触れ,構想 はあえなく 挫した。 IMF における現在の議決権シェアは,アメリカ 17.1%,日本 6.1%,ドイツ 6.0%,イギリス・ フランス両国が各 4.9%,中国が 3.7%の順になっている。ところが,IMF 理事会における重要事項 の決定には,85%以上の賛成が必要である。アメリカ以外の IMF 全加盟国 187カ国が賛成しても, 米国が反対すれば,その議案は IMF 理事会で通らない。このように,IMF では,アメリカが事実上, 単独拒否権(sole veto)を有している。 IMF で拒否権をもつのはアメリカだけであるが,一方,IMF のトップである専務理事は,ほぼ ヨーロッパ出身者の指定席である(現在の専務理事ラガルドはフランス出身)。また世界銀行の歴代 トップは米国人であり,ADB では日本が出資比率トップで,これまで歴代 裁ポストを独占してい る。 しかし,IMF の議決権シェアは,現在の世界における経済関係を反映していない(図表5)。欧米 の意向を強く反映される運営には,中国・ロシア・インドなどの新興国が不満を抱いている。経済 力に見合う影響力を持てるよう,IMF では新興国の出資割合引き上げが,以前から議論されている。 実は,2010年 12月の IMF 務会において,中国やインドのシェアを引き上げ,ヨーロッパ諸国 のそれを引き下げ,少しでも経済実態を反映したものに近づけようとする第 14次増資(2倍に増資) の決議はなされている。合意された内容は,中国の出資比率が,それまでの4%(6位)から 6.39% (米・日についで3位)へ躍進するというものである。これを,アメリカの議会が批准しないため に,4年以上も放置されている。IMF 改革がアメリカの拒否権に阻まれて棚上げになる中,経済規 模ではすでに世界第二位の中国が音頭をとって,AIIB 設立構想が動き始めた。 第3は,現行の国際通貨システムの問題である。米ドルが,事実上唯一の基軸通貨であることか ら,アメリカの節度を欠いた経済運営に歯止めがかからない。本来なら,ドルを牽制する有効かつ 安定的な枠組みが必要とされる。2015年4月 18日,IMF の国際通貨金融委員会において,中国人 ( ) 19 19 AIIB の設立背景と課題 図表5 世界名目 GDP の構成比推移 出所: 週刊東洋経済 2015年8月 22日号,41頁

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民銀行の周小川 裁は,人民元を IMF の SDR の構成通貨の1つに加えるべきと発言した。中国と しては,AIIB も人民元の国際的 用を促進する1つの手段と えている。事実として,2015年 11 月 30日,IMF は理事会で特別引き出し権(SDR)と呼ぶ準備通貨に,中国・人民元を加えることを 決定した(図表6)。ドル,ユーロ,英ポンド,円とともに元を 国際通貨 と認めることになる。 次に,AIIB 設立の国内的背景については,3つ挙げておきたい。 第1は,各産業 野における中国の過剰生産能力が放置できない状況となったために,その捌け 口を海外に求めるということである。鉄鋼,アルミ,ガラス,セメント,太陽光発電,風力発電, 自動車など,過剰生産能力を抱える 野は,かなり多数に及ぶ。その意味で,第二次世界大戦後の 米国のマーシャル・プランと似ている。マーシャル・プランは,1948∼51年の間に,合計 102∼136 億ドル,現在の貨幣価値では約 10倍の 1000∼1300億ドル規模である。 第2は,中国の輸出増強とそれによる 中所得国の罠 の回避である。経常収支が赤字基調にな ると,中所得国の罠に嵌めやすくなるので,このところ,輸出が不振な中国にとって,有効な輸出 増強策は欠かせない。 第3は,周辺国のインフラ整備は,中国のエネルギーや物資の輸送ルートの整備に繫がる。 3.AIIB の統治体制をめぐる問題 現時点において明らかになっている AIIB の概要は図表7の通りであるが,その統治体制を巡っ て日本では以下のような諸問題が指摘されている。 第1の問題は,議決権と拒否権に関するものである。参加国のシェアはまず,アジア諸国(オセ アニア,中央アジア,中東を含む)に 75%,それ以外の地域に 25%を割り当てた上で,基本的に各 国の経済規模に応じて定めている。そのため,中国の出資比率は 30.34%,議決権シェアは 26.06% に達する。他方,AIIB の理事会における重要事項の議決には,特定多数決が採用されるため,75% 以上の賛成が必要とされる。したがって,中国は事実上,単独拒否権を持つことになる。域内と域 外の比率を予め固定することで,中国が圧倒的な出資比率の1位を確保して,欧米の影響力を抑え る構造になっている。アメリカが参加しても,域外国群の中で欧州のシェアを食うことになるだけ で,中国のシェアには全く影響しない。ちなみに,ADB においては,単独拒否権を持っている国は ない。ただし,日米両国を合わせると,議決権シェアは 25.592%となるので,事実上,両国が共同 で拒否権を持っているといえる(図表8)。 第2の問題は,融資案件の審査体制である。世銀や ADB では,全ての融資案件について,本部に 常駐されている理事会が審査・決定している。これに対して,AIIB の理事は合計 12名とされるが, 図表6 SDR の構成比率(%) 米ドル ユーロ 日本円 英ポンド 人民元 現在 41.9 37.4 9.4 11.3 2016年 10月∼ 41.73 30.93 8.33 8.09 10.92 出所:新聞報道より作成。 ( ) 20 20 経済と経営 46巻 1・2号

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いずれも本部所在地となる北京には常駐せず各国にとどまり,必要に応じて電子メールで決裁する としている。 これまで ADB については官僚的で,融資が実現するまでに年月がかかりすぎるとの批判がある。 しかし理事を北京に常駐させないと,AIIB は中国独裁の運営となることが強く懸念される。理事会 を本部に常駐させなければ,理事には情報が届かない。融資の決定には AIIB の 裁,幹部,スタッ フの意向が強く反映されるであろう。 第3の問題点は,融資案件・条件の質の高さに関する懸念である。最大の出資国が,自国の 共 事業に国際金融機関の資金を動員するよう影響力を発揮するとなると,利益相反の問題が発生する。 また,融資先が中国でなくとも,中国が重要視するあるいは友好的と える国に対しては,融資条 件を緩くして,よい条件で融資するというような 政治的な利用 が行われるようになると大問題 である。中国以外の出資国にとっては,政治的な利用を抑えつつ,真に経済的に価値の高い案件を 発掘・融資していくことが重要である。このため,投資原則の確立と,最初の3年間の実績が重要 になってくる。 第4の問題は,既存の国際金融機関との関係である。中国は世銀や ADB の借り入れ国である(図 図表7 アジアインフラ投資銀行(AIIB)の概要 設立年 2015年 本部 北京(中国) 加盟国数 57カ国 資本金 1000億ドル 初代 裁の国籍 中国 金立群(元財政次官,ADB 副 裁歴任) 理事会 非常駐 出資比率上位5カ国 (議決権シェア) ① 中 国 30.34 (26.06) ② インド 8.4 ( 7.51) ③ ロシア 6.5 ( 5.93) ④ ドイツ 4.5 ( 4.15) ⑤ 韓 国 3.7 ( 3.50) ⑥ オーストラリア 3.7(3.46),⑦ フランス 3.4(3.19) ⑧ インドネシア 3.4(3.17),⑨ ブラジル 3.2(3.02) ⑩ イギリス 3.1(2.91) 主な借入国 一帯一路 関係諸国か? 出所:筆者作成。 図表8 ADB 主要加盟国の出資および議決権の比率(%,2014年末時点) 国 名 出資比率 議決権比率 国 名 出資比率 議決権比率 日本 15.677 12.840 オーストラリア 5.812 4.948 米国 15.567 12.752 カナダ 5.254 4.502 中国 6.473 5.477 インドネシア 5.131 4.404 インド 6.359 5.386 ドイツ 4.345 3.775 出所:ADB 年次報告 2014 より作成。 ( ) 21 21 AIIB の設立背景と課題

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表9)。一方で,AIIB では出資比率でトップの貸出国になる。国内の資金需要は世銀や ADB を通じ て,先進国から低利で借り入れながら,他方では AIIB を って,中国がリーダーシップをとって, さらに低所得国へのインフラ融資を行うというのでは,違和感がある。世銀や ADB は,中国を借り 入れ国から 卒業 (新規借り入れ停止)させることが重要になる。 第5の問題は,既存の国際機関との質的競争の問題である。AIIB が世銀や ADB よりも魅力的(借 り手に有利)な条件を提示するという,悪い競争が起きるかもしれない。あるいはリスクの高い案 件に貸し込んで,融資の焦げ付きを発生させるかもしれない。世銀や ADB は,開発金融には環境へ の影響の配慮,少数民族や低所得層への配慮など,世界のスタンダード(ベスト・プラクティス) があるとしている。これに対して,中国はベストな慣行などなく,もしベストなら,既存の国際機 関は改革の必要がなくなると主張している。ADB や世銀が AIIB を歓迎する一方で,既存機関との 協調融資を勧めているのは,この融資条件緩和競争を牽制しようという意図があるのであろう。融 資のノウハウなどがないために,AIIB は職員の採用も含めて,当初は世銀や ADB との協調融資は 歓迎すると思うが,ノウハウ吸収に数年かかるとして,その後は次第に世銀や ADB とは異なる独自 路線をとる可能性がある。 第6の問題点は,AIIB の活動は中国共産党の言論統制を受け,厳しい言論統制下において,国際 機関が 全に発展する余地があるのかという大問題である。国際機関は,実に様々かつ多様な報告 書を出さなければならない。最も中心的なテーマは,カントリー・リスクをどう見るかということ である。当然のことながら,政治的な 析も含まれる。AIIB が 表する報告書のすべてが,中国共 産党の検閲の対象になるであろう。また,中国では,大規模な国際会議は共産党の許可がなければ, 開催することすらできない。しかし,中国共産党の重要な会議が開催される時には,大きな国際会 議を開催してはならないことになっているようである。すなわち,中国では共産党の事情で,重要 な国際会議をタイムリーに開催することが阻まれることがある。 図表9 世界銀行(IBRD)とアジア開発銀行(ADB)の概要 世界銀行(IBRD) アジア開発銀行(ADB) 設立年 1945年 1966年 本部 ワシントン DC(米国) マニラ(フィリピン) 加盟国数 188カ国( 立時 28カ国) 67カ国・地域( 立時 31カ国) 投融資残高 1540億ドル (授権資本 2328億ドル) 558億ドル (授権資本 1638億ドル) 歴代 裁の国籍 米国 現在 ジム・ヨン・キム (ダートマス大学 長) 日本 現在 中尾武彦 (財務省財務官) 理事会 常駐 常駐 出資比率上位5カ国 米国,日本,中国,ドイツ, イギリス,フランス 日本,米国,中国,インド, オーストラリア 借入額上位5カ国 インド,中国,バングラデシュ, ベトナム,パキスタン インド,中国,ベトナム,インドネシア, バングラデシュ 出所: 週刊エコノミスト 2015.5.19,24頁を基に作成。 ( ) 22 22 経済と経営 46巻 1・2号

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批判への反論 以上のような日本やアメリカからの批判に対して,中国は反論もしている。中国は,AIIB が目指 すのは,ガバナンスがしっかりしている 開発銀行 タイプの世銀や ADB ではなく,インフラ投資 に対しての融資に特化している欧州投資銀行(EIB)であるとの説明を始めている。 EIB は,EU 加盟 28カ国が共同で運営する非営利の長期融資機関である(図表 10)。 立は 1958 年で,歴 は長く,本部はルクセンブルクにある。主に欧州内の経済成長と雇用 出に資するプロ ジェクトに対して,融資・保証・助言などを行っている。 EU 加盟国が集まって,EU 加盟国内に貸している(融資対象の 90%は EU 加盟国向け)というの は,様々な条約で縛った国同士,いわば仲間内で必要な投資を助け合うというもので,ガバナンス の欠如が大きな問題には発展しないといえる。 この EIB がモデル という中国の え方は,これまで日本ではあまり指摘されていない。世界 には,国際機関といえども,ガバナンスのきちんとした世銀や ADB などの 開発銀行 と,いわば ガバナンスがいい加減な仲間内の 投資銀行 がある。中国が 開発銀行 を目指さないといって いるのは,ガバナンスや透明性については,設立のハードルが低くなるからであろう。 さらに,既存の国際金融機関は先進国主導で作られたもので,その援助の過程で,先進国を利す る一面は否定できない。被援助国だった中国こそ,途上国・新興国の悩みを人一倍理解しているか ら,米国主導の既存の国際金融機関よりも積極的な役割を果たすことできると,中国が説明してい る。 4.日本は AIIB に参加すべきか 中国の財政部(財務省に相当)が,AIIB の構想を日本に初めて伝達したのは,2010年後半のこと であった。この時期の中国は,IMF での出資比率向上が難航していることに不満を高め,突破口を 探していた。この段階では,中国は日本をパートナーとして想定していた。様々なチャネルで何度 図表 10 欧州投資銀行(EIB)とイスラム開発銀行(IsDB) 欧州投資銀行(EIB) イスラム開発銀行(IsDB) 設立年 1958年 1975年 本部 ルクセンブルク(ルクセンブルク) ジッダ(サウジアラビア) 加盟国数 28カ国 56カ国 投融資残高 5490億ユーロ 134.3億 SDR 歴代 裁の国籍 独(現職),仏,伊,英,ベルギー サウジアラビア 理事会 非常駐 非常駐 出資比率上位5カ国 ドイツ,フランス,イタリア, イギリス,スペイン サウジアラビア,リビア,イラン, ナイジェリア,UAE 借入額上位5カ国 スペイン,イタリア,ドイツ, フランス,イギリス インドネシア,トルコ,ウズベキスタン, エジプト,イラン 出所:伊藤隆敏 AIIB をめぐる五つの問題 中央 論 2015年7月号,96頁 ( ) 23 23 AIIB の設立背景と課題

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か提案したものの,日本側からはほとんど反応がなかった。中国側は,国際金融ノウハウ不足を日 本に補ってもらおうと副 裁ポストを用意して参加を要請してきたが,日本側はこれを断っていた。 その後日本では,安全保障上の理由で中国をライバル視する立場から,AIIB に参加しない政治判 断がなされている。AIIB に参加するかどうかに関する政治判断に限って言えば,日本の官邸は感情 的になりすぎているように思われる。 平なガバナンス(統治)の確保や,理事会による個別案件の融資承認に問題が残る として, 財務省は早くから不参加を決めていた。副 理兼財務相の麻生太郎もその流れの中で,当面の参加 を見送る方針を表明した。これは米国の意向に うものでもあった。 安倍 理も菅官房長官も,AIIB に参加しない理由として,ガバナンスと透明性が確保されていな いことを挙げている。中国が資本金の約3割を出資すると表明しているから,ガバナンスが妨げら れると指摘されている。しかし,中国が多く出資しなければ,AIIB の設立は 挫するであろう。 中国主導で AIIB を運営していく最大の不安は,経験不足であると思う。そのゆえ,中国政府は繰 り返し,日本の参加を要請している。日本が AIIB のガバナンスを本当に心配しているとすれば,参 加してガバナンス強化を促していくべきであろう。 G7の4カ国が名を連ねることは,中国としては願ったりかなったりである。米政府は同盟国の 裏切りに怒りをあらわにした。米国が激怒するのを かっていてもなお,欧州のG7メンバー国が 参加を表明するだけの 磁力 が AIIB にはあったであろう。何よりも,AIIB が手掛けることにな る,アジアの道路や鉄道などのインフラ需要への足掛かりができるのは大きい。景気低迷にあえぐ 欧州としては,是が非でも取り込みたい巨大需要である。 さらに,欧州勢の AIIB 参加を決定づけたのが,欧州と中国の間に領土問題などが存在しないの で,地政学的なリスクがなかった点である。尖閣諸島の問題を抱える日本と異なり,純粋に経済的 な損得勘定で動ける利点が,欧州勢が次々と参加表明した背景に隠れているのである。 米国外 問題評議会は 2015年3月 20日に発表した論文で, 欧州で最も重要な4つの同盟国が, AIIB の 設メンバーになるとの決定は,ちょっとした外 的敗北ではなく,米国が構築した世界秩 序にボディブローのように効いてくる としてきた。さらに, AIIB に関する中国の策略の勝利は, もはや米国はゲームを独占できないことを示しており,国際関係の重力の中心は,西から東に移り つつある と覇権 代の可能性を示唆した。ワシントンには対中警戒派であっても,AIIB に参加し なかったことは失策であったという論者が少なくない。 欧州勢は潮目の変化を敏感に感じ取ったからこそ,中国に向いたのであろう。また,EU 諸国が 2008年のリーマンショックの際に,中国マネーの支援を受けた恩義や,巨大な中国市場の取り込み への思惑が絡み合ったと見るべきであろう。 しかし,注目すべきことであるが,AIIB への欧州勢の参加は,中国のメンツを大いに満足させた が,同時にうるさ型に内部から監視される煩わしさも背負い込んだ。議決権の 26.06%を握る中国 が,事実上の拒否権を持っているとはいえ,AIIB は自国の思うように差配できる機関ではなくなっ ている。 日米が入れば,中国が主導権を持つことへの反発を抑えられる上,ガバナンスへの懸念も払拭で きる。人材やノウハウの面でも心強い。この話に米国が乗るかどうかは,今後のアジア太平洋にお けるルール作りの大きな 岐点になるであろう。米中の壮大な駆け引きに,日本は否応なく巻き込 ( ) 24 24 経済と経営 46巻 1・2号

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まれることになる。 設メンバー国にはならないことを選択した日本の今後の関わり方は,どうあるべきであろうか。 立メンバーになっている欧州諸国やオーストラリアと緊密に情報 換することが重要であろう。 日本政府は,2015年5月 21日になって,アジアのインフラ整備に対して,13兆円の支援を行う ことを表明した。ADB と連携することで,量的にも十 ,質的にも高い理念を持つ資金供給をした い,としている。これは明らかに AIIB に対抗することを念頭に打ち出された方針である。日本がど のように,AIIB に向き合うのかという問題は,対中戦略からも,国際金融体制における日本の役割 を える上でも,重要な課題である。 参 文献 ADB 年次報告 2014 (http://www.adb.org/sites/default/files/institutional-document/174812/adb-annual-report-2014-jp. pdf) 伊藤隆敏 AIIB をめぐる五つの問題 中央 論 2015年7月号,90∼97頁 隆 中国経済と人民元の実力 AIIB 設立の狙い 中央 論 2015年7月号,98∼105頁 後藤謙次 中国主導の AIIB をめぐって日本政府が犯した致命的なミス 週刊ダイヤモンド 2015年4月 11日号,114∼115頁 佐々木実 ワシントン・コンセンサス の黄昏 国際金融体制に風 開ける AIIB 週刊金曜日 1042号 (2015.6.5),15頁 田代秀敏 アジアインフラ投資銀行(AIIB)中国の対外戦略を担う 初代 裁候補・金立群に高い評価 週刊エコノミスト 2015年5月 19日号,23∼24頁 山下英次 アジア・インフラ投資銀行(AIIB)を える 国際金融 1276号(2015.9.1),38∼45頁 世界をのみ込む新中華覇権の衝撃 週刊ダイヤモンド 2015年4月 11日号,32∼35頁 広がる中国経済圏 活路は西にあり 揺らぐ AIIB 対 TPP の構図 週刊東洋経済 2015年8月 22 日号,64∼67頁 , ? 2015年4月6日,82∼83頁 (AIIB) 2015年5期,32∼36頁 2015年第1期,48∼53頁 : ? 2015年1期,88∼99頁 ? 2015年第4期,33頁 ・ ・ 2015年第 21期,10∼12頁 2015年第3期,48∼63頁 2014年第 12期,44∼45頁 2015年第 12期,52∼54頁 2015年第 12期,58∼59頁 (本稿は平成 27年度学 法人札幌大学研究助成により行われた研究成果の一部である) ( ) 25 25 AIIB の設立背景と課題

参照

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