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は じ め に  簿記の歴史は,人々のくらしや商業の営みを知 る経済史の 1 つであり,思えばあのゲーテの書 物1にも登場する,まさに世界史そのものでもあ る。簿記史は,国際会計の歴史と表裏一体の関係 にある。簿記から会計学の発達へとその世界が広 がるにつれ,簿記(史)研究から各国の会計制度 の比較研究へと次第に研究対象はシフトしていっ た。その中でも特に 1970 年代から 80 年代は,世 界各国の会計制度に関する調査・比較研究が進む 中で,各国会計類型学説論議が活発化し,現実面 では,着実に各国基準の調和化が図られた時期で あり,会計史上,国際会計調和化の時代といって よい。そして今日の IT の飛躍的な発達によって 世界の資本市場がプラットフォーム化するや否や, 同質化・統合化の流れの中で会計基準の統一化が 焦眉の急となり,その実現に向けて各国が,いわ ば「国際列車」に乗り遅れまいと一斉に駆け乗っ てきた。  国際会計にゴールはない。しかし,国際会計は 今や,国際会計基準統一化という 1 つのステージ に到達した。 Ⅰ 会計の発達と国際会計の誕生 ――ミューラーの見解を手がかりに  会計発達史は,簿記の歴史を究明することから 始まった。簿記の歴史は経済史の一齣である。し たがって簿記・会計史における国際性の問題は, 各国経済の国際性そのものと密接に関連している。 このように考えると,国際会計の歴史,したがっ てまたその萌芽を探ることはまことに難しい問題 と思われる。ここでは,国際会計の歩みを振り返 るにあたり,「国際会計の父」と呼ぶにふさわし いミューラー(G. G. Mueller)の見解を頼りに考 察してみたい。彼は 1967 年に著した『国際会計 論』の序文において,会計の国内指向的傾向に関 して次のように述べている。  「本書の行間に完全性を読み取ろうとしても, それは無駄である。その理由は簡単である。文 句なく国際的遺産と認められるものがあるにも かかわらず,会計は過去数年間,単純にいって, 国際的諸局面とは没交渉であったからである。 会計以外の規律では国際的に作用する密接な関 係を確立してきたけれども,会計というものは その研究方法において外見上からも国内的であ る。」2  このように,当時の各国会計があたかも国内指 向的であったかのように述べている。逆にこのこ とは会計が国内的であったとしても深刻な問題が なかったことを裏付けている。同書が出版される 以前の 1950 年代後半から 60 年代にかけてのおよ そ 10 年間の国際的な動きについて彼は次のよう に述べている。  「国際的会計事象の新しい思想が現れ始めた のはこの最近の 10 年間に過ぎない。クレーイ エンホーフ氏のサンフランシスコのアメリカ公 認会計士協会 1959 年年次大会における有名な 演説が会計の新しい分野への足掛かりを作った。 それ以来,国際的話題に寄与する会計文献がお びただしく,また特に国際公認会計士の機構が

国 際 会 計 の 展 望

松 井 泰 則

 * まつい やすのり  立教大学経営学部教授

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増えてきたのであった。会計学会も国際委員会 を組織し,また,高度の学識者の協会が国内基 準より拡げて教育することの必要性に気づいて きた。」3  当時の国際会計は,まさに企業経済の国際化と 歩調をあわせるかのように大きく拡大していくこ ととなる。しかし,そもそも国際会計という分野 の研究対象に明確な境界線はなく,場合によって 広狭さまざまなテーマで論じられることとなる。 さらにこの点について彼の述べるところをたどっ てみたい。  「……しかしながら,国際会計の新しい分野 については,未だ明白な境界がつけられていな い。ある人は,あらゆる問題を含めようとする し,また,他の人は狭く特殊な場合に限定する。 おそらく,本書は,その境界線を若干今までよ り明瞭にすることに役立つであろう。国際的局 面をもつ作用から,その影響が拡大していくと いうのが著者の見解である。人間の家庭の地位 をよりよく理解するにはそれを外から眺めるこ とである。」4  このことはその後,国際会計は財務会計を中心 としながらも,他方において政治・経済さらには 社会全体にかかわるマクロ視点が重視され,今日, これが環境会計や社会会計,非営利会計さらには 会計教育に至るまでその範囲が拡大しているのを みると首肯できるようにも思われる。まさに 40 年前にミューラーが指摘したとおりである。要す るに,ミューラーは,国際会計として扱われてい る問題は,おしなべて国際のフェーズを扱ってい ることから,逆説的にいえば,国際会計は国内会 計すなわち企業会計そのものであることを主張し たかったのではなかろうか。 Ⅱ 国際会計の現状 ――会計基準の調和化から統合化への動き  EU では発行開示にかかわる「目論見書指令 (2003 年 12 月採択:2003/71/EC Directive)」および 継続開示にかかわる「透明性指令(2004 年 12 月 採択:2004/109/EC Directive)」にもとづき,2005 年 1 月より EU での IAS/IFRS の適用が義務付け られることで,EU 会計は新たな一歩を踏み出し た。この流れは EU 統合という大きな潮流の中で の出来事であったが,そこではどのような統一的 会計基準がどのレベルで適用されるのかが関心の 中心であった。結果としてみれば,連結財務諸表 を個別財務諸表と切り離して,前者に国際基準を 適用する方式を採用した。ただし,これを考察す るにおいて,一見すると,「EU 会計=IAS/IFRS」 のように捉えられがちだが,実は EU サイドでは, IAS/IFRSをいったんは採用(adoption)する形を とりながらも,個別基準ごとに承認(endorsement) を行い,そうして承認された IAS/IFRS を義務付 けるという,逆に言えば EU にとって不利益な基 準の採用は認めないといった政策的枠組みを装備 しており,厳密には「EU 会計=EUGAAP≒IAS/ IFRS」である点も見逃すわけにはいかない。  このように 2005 年より EU 資本市場では(通 貨がユーロに統一されたように),EU 各国の会計 基準を超えて,(連結財務諸表作成企業に対して) 国際会計基準が義務付けられることで国際会計基 準の重要性が従来に増して格段に高まった。  ここで調和化から統合化に至る最近の国際的動 向について簡単に振り返りたい。  資本市場のグローバル化に呼応して国際会計基 準の重要性が高まる中,2002 年 9 月に IASB と FASBとの間で,高品質で互換性のある会計基準 をお互いに共同で開発していこうという合意がな された。(この合意は,FASB の立地するノーウォー クという地名をとって「ノーウォーク合意」などと 呼ばれている。)これを機に両者間で基準の統合化 に向けた作業が短期的・長期的観点から進められ た。続く 2005 年 4 月には,国際会計基準に準拠 した財務諸表が米国資本市場でも通用しうるよう にする点に関して先の両者間で合意に達した。つ まり,このことは現在の米国市場で要求されてい る米国基準との差異調整表をなくそうとするもの であり,SEC 登録 EU 企業にとっては,2009 年 よりこれまでの自国と米国との両基準によるダブ ル・スタンダードから解放されることを意味して いる。(この合意はそのタイトル「会計基準共通化に 向けた具体的な取り組み;2006-2008 年ロードマップ 覚書」にちなんで「ロードマップ」などと呼ばれて いる。)そして 2006 年 2 月には,両者間で会計基 準のさらなる統合化を目指した合意がなされ,7 月には具体的な見直しプロジェクトが正式に取り 上げられた。

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 ストリート = リンティカムは,「IFRS は予想以 上に早くアメリカに上陸する」と題した論文の中 で今日の SEC の立場を次のように述べている。 すなわち,「SEC としては,① IFRS の改訂を注 視する,② IFRS と US/GAAP との間のコンバー ジェンスを推進する,③ SEC が問題視する基準 を差し替え,世界的に受け入れられる高品質な会 計基準の発展に貢献する,という姿勢をとってい る」5と説明する。ここでの議論は,アメリカに 上場する IFRS 適用会社の調整計算負担軽減論と してアメリカサイドから展開されているが,2007 年に入り,IAS/IFRS はアメリカ会計にも揺さぶ りをかけ始めたのである。具体的には,2007 年 8 月に SEC はコンセプト・リリースを公表し, US/GAAPに代えて IAS/IFRS を受け入れること を提案するまでに至っているのである。  こうした国際的な動きの中で,例えばオースト ラリアでは(部分的に追加パラグラフは設定してい る も の の ),IFRS1 を AASB1 と, ま た IAS1 は AASB101と読み替えることで統合化を図ってお り,またカナダでは 2006 年から 2011 年にかけて IFRSとの統合計画を発表している6 Ⅲ わが国の国際対応 ――「IASB 概念フレームワーク」との関連から  先に述べたように国際会計基準の最新の動向は, 米国会計基準との統合化作業の進行状況にある。 それでは,こうした国際動向に対してわが国会計 は,どのような対応をみせているのであろうか。  わが国では,先の IASC が IASB へ再編された のに伴い,2001 年 8 月に(財団法人)財務会計基 準機構が設立され,そのもとに ASBJ が設置され た。ASBJ は公認会計士,学者,実業界,証券取 引所(証券アナリスト)など多様な人材から構成 される。同機関の発足により,会計基準の設定主 体は官主導から民主導へと切り替えられた。 ASBJでは IFRS の開発に貢献していくために, IASBへの意見発信や IASB プロジェクトへの参 加など積極的に関与しようとしている。  ASBJ では,IFRS との統合化を目標に 2005 年 3月に共同プロジェクトを開始し,2006 年 1 月に は「日本基準と国際会計基準とのコンバージェン スへの取組みについて――CESR との同等性評価 に関する技術的助言を踏まえて――」を公表し, わが国の取組み姿勢を示した。他方,FASB との 間においても緊密な関係を保つために 2006 年 5 月から定期協議を開始している。こうした ASBJ の動きに対して 2006 年 7 月に企業会計審議会か ら「会計基準のコンバージェンスに向けて」(意 見書)が公表され,またこれを受けて,ASBJ で は 2006 年 10 月に国際会計基準とのコンバージェ ンスに関連する項目に関して「ASBJ プロジェク ト計画表」を打ち出した。実はこうしたわが国の 流れの背景には,EU との間での重要な関連があ る。つまり,日本基準と IAS/IFRS との同等性評 価(日本基準を IAS/IFRS の代替として認めるかどう か)に関する EU 側の結論が当初の予定から 2 年 伸び 2008 年春ごろとなりそうなことから,この 間に EU より指定された補正措置 26 項目を計画 的かつ可能な限り解消しておかねばならないとい う状況である。また,2007 年 8 月 8 日に ASBJ は IAS/IFRS とのコンバージェンスを達成するた めの「東京合意」として公表し,2008 年および 2011年の 2 段階に分けてコンバージェンスを完 了させるとしている。  このように国際的には,IASB と FASB との間 で会計基準の国際的統合化が進められる中で,わ が国の国際対応はどうあるべきか。この点に関し て,その基礎にある IASB 概念フレームワークに 焦点をあてて考察してみたい。  本フレームワークの役割は,すでに発表された, あるいはこれから発表される IFRS に対して,こ れら基準が全体から見てあるいは全体として矛盾 なく一貫性を有した理論性を確保するために必要 かつ核心的な枠組みとして存在する。IASB 概念 フレームワークは,船でいえば舵の役割を果たし ており,その方向を決定付けるものであるが,し ばしば,FASB 概念報告書やわが国の討議資料と 比較され議論されているところである7。ただし, このように IASB と FASB との会計基準は,1 つ の収束に向けて動き出してはいるが,これに関し て以下のような見解もあることを忘れてはならな い。ベンストン = ブロムウィッチ = ライタン = ワーゲンホッファーらは,国際的に統一されつつ ある今日の連結財務諸表情報に関して,「たとえ 2つの大きな基準の統合が望ましいものであり, またそれが達成されたとしても,単一のグローバ

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ル基準が世界的に施行されうることに対しては強 い疑問を抱かざるを得ない。」8と釘をさした上で, さらに「グローバル・スタンダードは,各国の多 様なコンテクストが存在する中で,会計報告目的 をすべて満足させるようなセットを実現しうるも のではない。」9と述べているように,企業情報を 広く多角的にとらえた上での各国間の違いを強調 する論調があることも認識しておく必要があろう。  こうした国際会計基準を支える枠組みをわが国 から捉えた場合,はたしてこの IASB の船舵のと る方向とわが国日本丸の進むべき方向とが全く一 致しているのかという点が問題である。これは本 質にかかわる問題であるといってよいだろう。つ まり,「目的適合性」が示しているように「情報 はそれが有用であるためには,意思決定のための 利用者の要求に適合するものでなければならな い」(概念フレームワーク par.26)という会計情報 ビジョン(英米型ビジョンあるいは資本市場型ビ ジョンといってもよいであろう)に対して,わが国 の国内全体の会計制度の方向として全面的に同一 の航路でよいのかという点に注意する必要があろ う。世界の会計基準の収束としてあるグローバル 基準のもつ目的と,各国内のすべての企業の会計 報告目的とが同一とはかぎらない点はいうまでも ない。  これに関して,ここで 1 つの象徴的な具体例と して包括利益について考察してみたい。まず,こ れまでの伝統的な利益と IASB/FASB の指向する 利益との関係を見ると図 1 のようになる。  ここにおいて IASB/FASB は共に将来的には, ③の方向に向かおうとしているが,これでよいの か,というテーマである。  「企業にとって利益とは何か」  ここでは議論しないが,企業活動としての努力 と成果の結果としての純利益①を軽視するような 計算システムに全面的に移行するという点には問 題がある。仮に,少なくとも国際企業がそうで あったとしても,大部分の国内(中小)企業に とって純利益①の金額は,本来の経営活動の努力 と成果の対応という観点から,また実際の確定決 算主義の計算構造との関連からみても決定的な意 味をもつといっても過言ではあるまい。  とはいえ,IASB の概念フレームワークに示さ れる質的特性は,現段階では,国際的な資本市場 における会計情報において具備すべき特性として 定着しつつあることは間違いないのであるから, むしろこれを前提的に受け入れた上で,わが国の 現実的対応を見据えていく必要がある。 Ⅳ そもそも国際会計とは ――ベルカウイの見解を手がかりに  ここである観点から国際会計を側面から考察し てみたい。すなわち,もし,国際会計というもの が,各国会計が交錯し合うメルティング・ポット そのものであると仮定するならば,その集合単位 としての各国の会計,例えば,「アメリカ会計と は何か」または「ロシア会計とは何か」などとい う問いかけに切り口をかえて考察してみたい。  「アメリカ会計とは何か」  この問いかけに対して,現行の SEC 規則や FASB基準についてそれぞれ詳細に説明すればそ の答えになるかといえば,それはあまりにも短絡 的過ぎよう。「日本とは」という説明に対して, その歴史的経緯抜きには語りえないのと同じであ る。とすれば,アメリカ会計の歴史とはいかなる ものか。  ここでベルカウイの示す時代的分類を簡単にみ てみたい。彼はその著書の中の「会計の歴史と発 展(第 1 章)」でアメリカ会計(原則)の発展を次 のように示している10。  ① 企業経営のための会計期(1900~33)  ② マーケット統制会計規制期(1933~59)  ③ プロフェッション会計期(1959~73)  ④ 基準設定を通じた会計政策期(1973~現在)  上記に示される分岐点の時期は,1929 年 10 月 24日(暗黒の木曜日)に端を発する「1933 年証券 法」および翌「34 年証券取引所法」にもとづく SECの誕生,AICPA の改称とそれに伴う APB 時 代,FASB 時代という大きなアメリカ会計潮流の 利益計算 「収益・費用」 フロー差額 (伝統的な)純利益 ① 「資産・負債」 ストック差額 包括利益 非リサイクリング③リサイクリング② 図 1 純利益と包括利益

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象徴的な変革時期である。こうした歴史的脈絡の 中に,実はアメリカ会計の本質を見出すことがで きる。現行の制度を現時点で平面的に理解するこ とと,上記の史的脈絡を理解した上で現代を解釈 することとの間の理解度には雲泥の差があると いってよい。こうした側面的な観察をたどる脈絡 にこそ国際会計の本質が潜んでいるのではないか と思われる。  さて,このように歴史認識の重要性を踏まえた 上で,今日の国際会計とはどのような会計なのか について考察するとき,ベルカウイの指摘は明解 である。彼は国際会計の研究領域の 3 つの次元に ついて次のように定義している11。  ① 連結会社会計  ② 各国比較会計  ③ 世界的会計  ベルカウイの分類は,今日の国際会計の全体像 を理解する上でまことにわかりやすい。  こうした国際会計領域に対するベルカウイの分 類に対して,今,研究面から解釈を加えるならば, 次のように表現することができるのではないだろ うか。  ① 連結会社会計とは,企業会計での財務情報 開示に関する最も中核に位置づけられる,会計情 報論的,会計計算構造論的および会計概念的研究 領域であり,  ② 各国比較会計とは,各国の会計実態に関す る国内政策的指向,したがって多様性(同時に類 型化)を追求する地道な調査研究領域であり,  ③ 世界的会計とは,国際ルールに関する国際 政策的指向,したがって統一性を追求する国際 (テーマによっては,グローバル)会計基準研究領 域である。  実は,上記①~③は,国際会計の研究領域を表 すとともに,時代的な潮流を示したものでもある。 まず,海外へ進出する企業の経済取引の拡大化が 多国籍企業の発達を生み,ここに連結会計の充実 化が迫られることとなった。このことは同時に, 進出先の国の会計制度に対する関心を高めていく こととなった。1970 ~ 80 年代にかけて,各国会 計制度の調査研究,各国会計制度の比較研究が加 速していった点も十分うなずける。そして,いよ いよ会計基準の国際的統一化時代が到来したので あった。 Ⅴ 企業観と利益計算 ――誰のための会計か  そもそも,ここで「会計とは何か」という問い かけに対して議論するつもりはない。あのリトル トンですら次のように自問している。  「数学に対しては数(number),幾何学には 点(point),物理学には力(force),天文学には 空間(space),生物学には生命(life),心理学 に は 意 識(consciousness), 論 理 学 に は 思 考 (thinking),倫理学には善(goodness),美学に は美(beauty),音楽には協和(consonance), 法 律 学 に は 正 義(justice), 政 治 学 に は 公 平 (equality),経済学には価値(values)があるの である。しからば会計学には……?」12  このように会計学固有の「核」となる概念とは, はたして何なのかに対して問いかけているのであ る。彼は,同書の中でその答えは「利益」なので はないかと示唆しながらも断定はしていなかった ように思われる。  「そもそも,会計は誰のために行うのか」  会計は,各人が,各組織が,なんとか「マネイ ジ(manage)」するために,つまり「どうにかう まくやっていく」ために必要な手段である。誰の ためでもなく,自分のために必要なツールなので ある。家計簿を付ける,会社が財務諸表を作成す る,公共団体が収支報告書を作成する……,どれ もこれもすべてそれぞれ各自が「どうにかうまく やっていく」ために必要なものである。ただし, その会計記録または報告書に関して,例えば家計 においては,父親から見た場合の良し悪しと母親 から見た場合の良し悪しとは異なるであろうし, 会社においては,株主から見た場合の良し悪し, 債権者から見た場合の良し悪し,従業員から見た 場合の良し悪しとは異なるし,さらに……である。 ただ,会計報告書は,その良し悪しは見方によっ て相違しているであろうが,結局はいずれのス テークホルダーのために作成されるかによってそ の見方は異なるということを強調しておきたい。  「誰のための会計か(会計観)」の問いは,「誰 のための企業か(企業観)」の問いに大きく関係 してくる。「誰のための企業か」という問いは, まさに時代的かつ相対的なテーマである。異なる

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企業観,したがってまた利益観は,企業利益を計 算する際の根底にある考え(会計思想)であり, 同時に企業主体論の議論に大きくかかわってくる (ここで企業主体論を持ち出すまでもないが)。  この点,すなわち利益観に関して考察してみた い。今,同一グループ内に複数の企業観(利益観) が存在したと仮定しよう。例えば,傘下にあるい くつかの会社のうち,ある会社は利益追求よりも むしろ強い社会性を求めることに重点を置くと いった場合のように,同一グループ内でもいくつ かの企業観が混在するとすれば,それは単一のグ ループ企業観とは異なる利益計算を派生させる。 すなわち,同一グループ内の企業であっても,本 国親会社と現地子会社間において,または各国企 業別に会計戦略上,例えば原価主義と時価主義と を共存させることは計算理論上ありうる。企業の 実体維持の観点からみた場合,A 国所在会社は伝 統的な取得原価主義計算に立脚した費用計算,B 国所在会社は実体資本維持計算に立脚した費用計 算,地域グループ別の費用配分など,これまた企 業維持戦略上,混在しうる。さらに国際社会貢献 (または環境保全など)の観点からみた場合,従来 の伝統的な収益概念やそのマイナス概念としての 費用概念から離れてみる必要もある。例えば,排 出権に見られるような新たな収益・費用要因の登 場や,他方,現地での病院や学校建設など対社会 的貢献コストに対してこれを負担概念として捉え, これまでの費用概念とは別の新たなコスト負担論 として提唱してみるのもおもしろい。特定企業へ の経済的支援は,特定企業保護との批判もあるか もしれないが,最近では議論の蚊帳の外に置かれ ている資本維持の計算構造的思考ではあるが,今 後,新たな企業の多様な生き方として国家レベル での政策的な会計戦略として資本維持計算構造論 が新風を巻き起こす可能性もある。もっともこう した問題は国際企業税務政策に直結する問題でも あるが。  会計は自分自身のために行うものであると先に 述べた。企業会計は企業自身の発展ためにあり, その企業の発展はひいては国の発展に結びつく。 誰のための会計か。突き詰めれば,それは国民・ 市民のための会計として理解しなければなるまい。 Ⅵ 国際会計を展望する  今後の国際会計ならびに国際企業情報ディスク ロージャーを展望する上で,以下の点に着目する 必要がある。  第 1 は,(これは国際財務会計の中心的な部分で はあるが)IAS/IFRSの更なる充実化である。こ の点での重要性については,ここではもはやこれ 以上言及しない。  第 2 は,企業(組織)対市民のコミュニケー ション世界の拡大である。コミュニケーションの 中心的な表舞台は資本市場であることは間違いな いが,インターネットの発達を引き合いに出すま でもなく,情報伝達ツールが時間的にも空間的に も,さらにはその情報量においても飛躍的に拡大 しているということに着目すべきである13。また, 情報発信者が企業のみならず,NGO 等,これま で多くはなかった非営利組織やパブリック・セク ターからの情報発信も増大するであろう点も重要 な動向である。  第 3 は,先にミューラーが指摘したように企業 情報内容が多様化していくという点である14。企 業はコスト・ベネフィットを視野に入れながら, 今後,財務・非財務情報を開示していこうとする であろう。企業の信頼性を高めるためには,さま ざまな斬新な情報の提供が考えられる。これに関 して,ベンストン = ブロムウィッチ = ライタン = ワーゲンホッファーは,AICPA の示す事業報告 書の例を引き合いに出しながら,より望ましい ディスクロージャーの競合的実務について述べて いる15。彼らは,こうした情報は本体となる財 務諸表情報に取って代わりうるものではないが, 補足的位置を保ちながら自発的発展によって実現 しうる16,とも述べている。これらは「投資家 その他の人にとって有用なディスクロージャーへ と淘汰されていくのであり,マーケットは企業に 対してそうした情報提供を行うようプレッシャー をかけていくのである。」17と結論付けている。 今日のビジネス・リポーティングに対する議論な らびに重要性の高まりは,まさにこのことの証で あると考えられる。  第 4 は,会計教育の国際的充実化である。ここ

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で意味するところは国際協調的バックアップの必 要性である。各国の経済的発達段階の相違によっ て,各国間の会計レベルで相当の開きがあること がわかる。国際会計研究を進めていくにあたって, 各国会計に対する地道な調査研究こそが国際会計 研究にとって不可欠な前提的データ原点であるこ とは述べた。今後の会計の国際的な発展を展望す るにあたり,現在,最も必要なことは,国際レベ ルから見て非常に遅れている国や地域の会計技術 ないし知識を向上させるための会計水準のレベル アップに向けた作業,つまり国際的観点からみた 会計教育の充実化である。国際会計(基準)の健 全かつ実質的な発展にとって,国際会計教育の必 要性が必然的に同時に重視される18  第 5 は,各国会計調査研究を今後も継続してい くことの重要性を再認識することである。今日で は IAS/IFRS が国際会計の代名詞のように取り扱 われているが,先に指摘したようにこれは大きな 1つの段階に過ぎない。したがって,今後とも各 国における企業を取り巻く個別の歴史的・経済的 状況を幅広く分析することが重要であり,その際, 各国調査研究の方法論において類型論的視点を忘 れてはならないのである。  今日,世界の資本市場は 1 つの会計基準に統合 されつつあるが,現実には世界の市場は,各国経 済のパーツの上に成立しているのであり,将来的 には国内産業保護を通じた各国間の会計政策が多 様化する,場合によっては相克するケースも十分 に予想される。その場合,会計政策を考察するに あたり,例えばアメリカからの要求に対して,わ が国としては,独自の路線をあせらず,会計類型 的にも関係の深いドイツやフランス,さらには EU基準という国際動向を観察しながら(たとえ 後発的であっても),慎重に進むべきであると考え る。 Ⅶ お わ り に  会計史学者のウルフは,会計の発達に関して次 の大きな 2 つの変化の波を指摘した。  「『スンマ』はやがて諸国語に翻訳され,短期 間のうちにヨーロッパ全土に知られるにいたっ た。……しかし,実際に簿記が今日普及してい るような形式をとるにいたるまでには,これに 先立ち 2 つの大きな変化を加えることが必要で あった。1 つは,一定した,そして一般に承認 された貨幣制度の制定(the establishment of a fixed and recognised coinage)であった。……他 の 1 つの改革は,16 世紀にいたるまで,会計 記入の際に通例用いられたローマ数字に代わっ て,いわゆるアラビア記数制度が採用されたこ と(the adoption of the so-called Arabic system of numerical notion)である。」19  確かに簿記史の観点からみて,この 2 つの事実 は商業および簿記の普及にとって決定的といえる 事象であったが,ここでさらに今日の会計の発達 を観察するならば,実際に国際会計が急速に普及 した上で決定的な事象として,先のウルフの記述 にもう 1 つの大きな変化を加える必要がある。こ れ は IT の 飛 躍 的 な 発 達(the rapid progress of

Information Technology)である。これによって, グローバルなマネジメントへの個人参加がいとも たやすく可能になった。すなわち,IT の発達が 今日の国際会計の発展に拍車をかけたのであった。  ウルフはまた,次のようにも述べている。  「……文明は商業の親であり,会計は商業の 子供である。したがって,会計は文明の孫に相 当することになる。これは,会計の歴史の研究 が極めて興味深く,かつ貴重となる理由である。 ……まことに会計は時代の鏡(Accountancy is

the mirror of the age)であって,このなかに,

われわれは国民の商業史および社会状態に多く の反映を見る。」20  ウルフによるこの記述は,まことに抽象的では あるが,国際会計の本質を説明する上で最も共鳴 しうる表現のひとつとして捉えることができる。  最後に,「会計の進化」という命題に関連して 会計記録の重要性を説いたリトルトンの言葉を引 用させていただくことで,「会計とは何か」を追 求する際の今後の視座を提供したいと考える。  「会計は外部環境との関係において,相関的 であり進化的である。会計上のテーマを産みだ すところのもろもろの事象はたえず変化しつつ ある。されば,既往の理念は時勢の変化するに つれて指導力を発揮し得なくなり,従前の方法 はあたらしい問題に当面すれば適応性を失う。 かくして,環境はあたらしい思考を産みだし,

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創造の才ある人を刺激してあたらしい方法を工 夫せしめるにいたる。このようなあたらしい思 考と方法は,やがて,周囲の環境を修正し始め る。その結果をわれわれは進歩と呼ぶ(注)。 ……(同書注)会計の学問と技術における進歩 は,企業経営の規模の拡張,構造の分化,活動 領域の拡大を可能ならしめた。逆に企業経営に おける諸変化は,会計知識と会計技術の進歩を 刺激した。如何なる会計記録が必要とせられる かは,企業の如何によってきまる。しかし,如 何なる企業が存立できるかは,その会計記録に よ っ て き ま る。(John Bauer in Encyclopaedia of the Social Science, V. 1, p. 404.)」21

 数学が数(number)なくしてはありえないよう に,会計学は(会計)記録なくしてありえない。 特にアカウンタビリティというコンテクストにお いて会計記録の意味は決定的である。もし,投資 意思決定情報の提供目的の下に会計記録から安易 に離脱するようなら,そこで展開される内容は会 計情報ではなく投資情報であるということになる。 前者が後者をどこまで含めるのかに関しては見解 の分かれるところである。 注       1 ゲーテ著,小宮訳(1957),50-51 頁。 2 Mueller(1967), p. 5.(訳書,4 頁。) 3 Mueller(1967), p. 5.(訳書,4 頁。) 4 Mueller(1967), p. 5.(訳書,4-5 頁。)

5 Street and Linthicum(2007), pp. xi-xvii.

6 Nobes and Parker, eds.(2006), p. 104.

7 IASC 概念フレームワークと,わが国の討議資料, FASB概念書を一覧表の形で比較し解説したものに,川 村(2005),58-71 頁がある。

8 Benston, Bromwich, Litan and Wagenhofer(2006), p. 255.

9 Benston, Bromwich, Litan and Wagenhofer(2006), p. 255. 同書は今日ある IAS/IFRS を前提としながらも,こ れからの国際財務報告のあり方に関して示唆の富んだ内 容を提示している。 10 Belkaoui(2005), pp. 6-12. 本稿では第 2 期の名称訳 を修正させていただいた。 11 Belkaoui(2005), pp. 14-19. 12 Littleton(1953), p. 18.(訳書,26 頁。) 13 IT と の 関 連 か ら 企 業 情 報 の 開 示 に 関 し て XBRL (eXtensible Business Reporting Language)が注目される。

これは多岐に関連する企業情報に関して,特にステーク ホルダーの立場を重視しつつ,より改良されたフォー マットの下に作成・流通そして利用できるように情報の 標準化を指向したもので,「公開会社,非公開会社,会 計専門家,監督機関,アナリスト,投資家,資本市場参 加者,ソフトウェア会社,情報提供会社など,財務情報 のサプライチェーンに関係するすべての当事者に,財務 情報提供のためのコストを削減させ,正確な財務情報を よりスピーディーに利用させることを可能にする」 (XBRL ホームページより)XML ベースの言語のことで ある。これに対する関心は現在大いに高まりつつある。 14 資本市場における意思決定のための情報の質を向上 させるための報告書として,現在,EBR(Enhanced Business Reporting)というテーマの下で AICPA を中心 に議論が進められている。これは意思決定に用いられる 情報の質および透明性を高めるために,各種の領域の関 係者が協力し合って望ましいあるべき事業報告書を検討 しようとするものである。

15 Benston, Bromwich, Litan and Wagenhofer(2006), p. 286.

16 Benston, Bromwich, Litan and Wagenhofer(2006), p. 286.

17 Benston, Bromwich, Litan and Wagenhofer(2006), p. 286. 18 国際会計教育に関して藤田幸男教授の言葉を引用し たい。   「国際会計教育とは,結局のところ,国際化時代にお いては,すべての問題が単に自分の属する社会や国家の 問題であるだけでなく,広く世界につながっている,と いうことを会計上の諸問題を通じて正しく理解させ,国 際協力の進展と国際平和の実現に貢献できる人間を育て ることにほかならないのである。」(藤田編,1994,399 頁。)   なお,アメリカの会計教育の取組みに関しては,藤田 編(1998)に歴史的経緯とともに詳しく紹介されている のでこれを参照されたい。 19 Woolf(1974), p. xxx.(訳書,10 頁。) 20 Woolf(1974), p. xix.(訳書,1 頁。) 21 Littleton(1933), p. 361.(訳書,490 頁。) 参考文献       川村義則(2005),「討議資料・FASB 概念書・IASB フレー ムワークの比較対照表」『企業会計』第 57 巻 1 号。 ゲーテ著,小宮豊隆訳(1957),『ウィルヘルム・マイス ターの徒弟時代(第 1 巻第 10 章)』上巻,岩波書店。 藤田幸男編(1994),『国際化時代と会計』中央経済社。 藤田幸男編(1998),『21 世紀の会計教育』白桃書房。 Benston, G. J., M.Bromwich, R. E. Litan and A.Wagenhofer

(2006), Worldwide Financial Reporting : The Development

and Future of Accounting Standards, Oxford University Press.

(9)

Littleton, A. C.(1933), Accounting Evolution to 1900, The American Institute Publishing Co..(片野一郎訳『リトル トン会計発達史』同文舘,1952 年。)

Littleton, A. C.(1953), Structure of Accounting Theory, American Accounting Association.(大塚敏郎訳『会計理 論の構造』東洋経済新報社,1955 年。)

Mueller, G. G.(1967), International Accounting, The Macmillan Company. (兼子春三監訳『国際会計論』ぺり かん社,1969 年。)

Nobes, C. W. and R. H. Parker, eds.(2006), Comparative

International Accounting, 9th ed., Philip Allan/St. Martin’s Press.

Street, D. L. and C. L. Linthicum(2007), “IFRS in the US : It May Come Sooner Than You Think : A Commentary,”

Journal of International Accounting Research, Vol. 6, No. 1. Woolf, A. H.(1974), A Short History of Accountants and

Accountancy, Nihon Shoseki.( 片 岡 義 雄・ 片 岡 泰 彦 訳 『ウルフ会計史』法政大学出版局,1977 年。)

参照

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