高専における3次元コンピュータグラフィックスの授業事例
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(2) Vol.2011-CG-142 No.9 2011/2/8. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 3. 3DCG 科目の内容 3DCG 科目では基礎となる理論や手法を理解し,グラフィックス API を使ったプログラ ミング方法を身につけることを目標とし, 「コンピュータグラフィックス I」, 「コンピュータ グラフィックス II」を開講している.さらに,学生の 3DCG 制作に対する期待を満たしな 図 1 学生用コンピュータのディスプレイ 2 台.右のディスプレイに学生 PC のデスクトップを表示(左図)するか 教員 PC のクローン画面を表示(右図)するかは右側ディスプレイのスイッチで切り替える. がら,情報処理技術者としての 3DCG の素養を身につけるための授業内容となるように意 識している.ここでは 3DCG を扱う 2 科目の授業内容と方法を述べる.. 3.1 「コンピュータグラフィックス I」の内容と方法 「コンピュータグラフィックス I」では 3DCG の理論やアルゴリズムを理解するために,. スライドと板書による説明を中心としている.授業内容はモデリングからレンダリングま. 3DCG アプリケーションを使った演習を前期に行い,通年で理論やアルゴリズムの講義を. でであり(表 2),アニメーションは扱っていない.学生の理解を深めるために,学習単元. 行っている.演習は,並行する講義の理解を深めることが目的で,3DCG アプリケーショ. に関係する計算問題や CG エンジニア検定エキスパートレベルの過去問3) を解く問題演習,. ンを用いてモデリングからレンダリングまでの過程を体験する内容である.. レポートを課している.CG 理論では,学生がそれまでに学んだ数学やコンピュータの知識. (1). 演習. を応用する例が多くあり,他科目との関連を意識させることを配慮している.また,モー. 前期 15 回は,3DCG ソフトの Autodesk 社 Maya Complete 2008 を用い 3DCG 制作演習. ションキャプチャスタジオを見学し,メディアコンテンツ制作におけるエンジニアの役割に. を行う.演習室のコンピュータ環境は,図 1 のように学生用コンピュータ 1 台について 2. ついて話を聞く機会を設けている.. 台のディスプレイがあり,これらをデュアルディスプレイとしての使用 (図 1 左) と,一方. 3.2 コンピュータグラフィックス II の内容と方法. は学生コンピュータの画面,他方は教員コンピュータのクローン画面として使用 (図 1 右). グラフィックス API(Open GL) を用いたプログラミングによる演習が中心の内容で,イ. することができる.そのため操作方法を指導する際には,スクリーンと学生の目の前にあ. ンタラクティブな CG 制作方法を理解することが目標である.初回授業で過去に受講した. るクローン画面に教員コンピュータの画面を写すことができ,ソフトのアイコンやコマン. 学生の作品を提示しながら学習内容を確認している.第 1 回目から第 7 回目の授業は教科. ドの小さな部分を指示することが容易である.また,学生個々に演習を進める場合にはデュ. 書 4) を用いて Open GL を使ったプログラミング方法を解説し(表 3),教科書の「課題」. アルディスプレイとしてデスクトップを広く使うことができ,ソフトウェア画面と操作方法. を次の授業までに提出させている.5 つの「課題」はロケットをモデリングすることから表. を記した電子テキストを同時に表示することが可能である.. 面属性や光源,カメラの設定,アニメーション,イベント処理まで段階的に処理を加えるよ. 演習内容は始めに NURBS,ポリゴン,サブディビジョンサーフェスのモデリング手法で. うになっている.プログラミング方法の解説では「自由制作でどんな作品を作るのか」を学. ティーカップなどを作成し,表面属性やライティングの設定方法,レンダリング操作を学ぶ (表 1).教員や電子テキストの説明どおりに操作することで作成を進め,各モデリング手. 表 1 「コンピュータグラフィックス I」でのソフトを使った演習の構成 演習内容 授業回数. 法の特徴を体験的に理解し,3DCG 制作過程を俯瞰する.次に自由制作と学生相互評価を. 1 2-3 4-6 7-9 10 11-14 15. 行う.自由制作の発表は,レンダリング結果とモデリング最終時の三面図,工夫した点など をまとめたポスターの展示で行い,他学生の作品に点数とコメントを付け提出させる.演習 最終回では学生相互評価の点数で高得点の学生を発表している.. (2). 講義. 通年 30 回の講義は CG 理論を体系的に網羅している CG-Arts 協会のテキスト 2) を用い,. 2. Maya の画面とオブジェクト NURBS モデリングによる「ティーカップ」の作成 ポリゴンモデリングによる「携帯電話」の作成 サブディビジョンサーフェスモデリングによる「ケーキセット」の作成 質感,光源と影の設定,レンダリング 自由制作 発表と相互評価. c 2011 Information Processing Society of Japan ⃝.
(3) Vol.2011-CG-142 No.9 2011/2/8. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 生に意識させ,作成する上でどのような手法が必要なのかを考えさせるようにしている.. 表 2 「コンピュータグラフィックス I」での講義の構成 授業回数 講義内容. 第 8 回目授業から 1 人から 3 人のグループでの自由制作である.情報技術者育成という. 1 2 3 4 5 6 7 8 9-10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27-28 29 30. 観点から複数人でプログラムを作り上げる体験をさせたいが,グループで集まる時間が授業 時以外にとれないことを考慮してグループ人数を決めている.プログラム作品は「OpenGL を用いること」「キーボードまたはマウスのイベント処理を含むこと」以外に制限はなく, 書籍やウェブでの例題を基にすることも,出典とどこが工夫した部分なのかを明らかにす れば可としている.最終授業でグループごとにプレゼンテーションツールを使った発表を行 い,個人ごとに担当箇所の仕様や解説をまとめたレポートを提出させている.発表をもとに 学生による相互評価の点数付けとコメントを提出させている.最終学年の必修科目であるこ とから,3DCG のプログラミングだけではなく,ひとつの作品を制作することで創造力を 養いたい,共同で課題解決するための工夫を学んでほしいという面もあり,プログラミング での自由制作に時間を費やしている.. 4. 授 業 評 価 演習と講義から成る「コンピュータグラフィックス I」の学習評価は演習での自由制作評 価が 20%,講義内容について 4 回の定期試験が 70%,問題演習に関するレポートが 10%の 割合で評価している.自由制作は作品についてモデリングの観点とそれ以外の観点により学 生の相互評価(50%)と教員による評価(50%)を行い,さらに授業への参加度を考慮して いる.学生は作品の表現技法を評価をしていと見られるが,演習の目的は理論をより深く理 解するための導入であるので,教員による作品の評価は授業中に扱った手法が理解できてい るとみなせれば一定の評価をしている.. 表3. ディジタルカメラモデル 2 次元座標変換 3 次元座標変換 投影変換 ビューイングパイプライン 問題演習 中間試験 形状モデル パラメトリック曲線 パラメトリック曲面 細分割曲面 その他の形状表現 バックフェースカリング 問題演習 スキャンライン法による隠面消去 Z バッファ法による隠面消去 レイトレーシング法による隠面消去 問題演習 シェーディングモデル 光源と反射 透過と屈折 問題演習 中間試験 影付け 大域照明 モーションキャプチャスタジオ見学 テクスチャマッピング 問題演習. プログラミング演習が中心の 「コンピュータグラフィックス II」の構成 授業回数 授業内容. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11-14 15. 3 次元図形の描画 隠面処理 モデリング アニメーション イベント処理 シェーディング 光源設定 テクスチャマッピング 質感設定 光源と影の設定, 自由制作の準備 自由制作 発表と相互評価. 2009 年度実施と 2010 年度実施の授業で学生が高く評価した作品の例はそれぞれ図 2,図 3 である.3DCG 制作技術を学ぶことを目的に本学科に入学した学生が多く,授業時間外に も制作に時間を費やしたり,授業では扱わなかった表現技法をソフトに付属するチュートリ. • たくさん作品を作る機会があって,操作に慣れることができた. アルや書籍を参考にするなど学生は積極的に制作に取り組んだ.また,発表や学生相互の評. • 最終的に作品を作れてよかった. 価があることで自由制作への意欲が高まり,他学生への評価コメントを集計して本人に返却. • 自由制作に授業時間をもう少し割いてほしい ソフトを使った演習の目的が理論をより深く理解するための導入であることを学生らは理. することで他学生がどのような視点で作品を評価したかを制作者が把握でき演習授業の学. 解しつつも演習でオリジナルの作品を制作したことは良かったと感じ,制作に多くの時間を. 生自身のふりかえりに役立っている.. 2009 年度演習授業のアンケートでの自由記述にはつぎのコメントがあった.. 費やしたいことがわかる.また,2008 年度講義授業のアンケートでの自由記述には「演習. • 基本的な技術や知識を習得しやすい授業だった. で体験していたので,講義の内容がわかりやすかった」という内容のコメントが複数あり,. • 何をどのように進めるかの説明が最初にあったので,授業内容が理解しやすかった. 演習を導入とする教育方法が理論の理解を助けていることがわかる.. 3. c 2011 Information Processing Society of Japan ⃝.
(4) Vol.2011-CG-142 No.9 2011/2/8. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. プログラミングの演習が中心となる「コンピュータグラフィックス II」の学習評価は 5 回 の課題 80%とプログラム作品 20%で評価している.課題は提出されたソースファイルの実 行形式がエラーなく動作するか,要求されている処理が動作しているかを確かめ,課された タスクごとに採点する.プログラム作品は学生の相互評価,教員による作品評価,授業への 参加度と提出された報告書で評価する.プログラム作品の評価はグループごとに行われ,学 生個別の評価は授業への参加度と報告書で評価することになる.2009 年度実施と 2010 年度 実施の授業で学生が高く評価したプログラム作品の例はそれぞれ図 4,図 5 である.2009 年度授業では自由制作の回にどのような作品にするのかを考え始めるグループが複数あり,. 図 2 2009 年度ソフトを使った授業での学生の作品例. 図 3 2010 年度ソフトを使った授業での学生の作品例. 授業時間を効率的に使ってプログラムを組むことができなかったり,最初の制作計画を大幅 に変更したグループがあった.そのことを踏まえ,2010 年度には初回授業で前年度の作品 を紹介し,どのようなプログラム作品が作りたいのかを早い時期に学生に意識させた.その 結果,自由制作初回からプログラムを組むグループが多く,全体として前年度を上回る完成 度であった.さらに,プログラミング方法を学ぶ前半の授業回も学生は集中して授業に取り 組んでいるように感じられ,自由制作へ向けての意識付けを授業の早い回から行うことで学 生の授業参加度を向上する効果があることがわかった.. 2009 年度授業について自由記述のアンケートで以下のコメントがあった. • グループ制作を通して技術力を高められた • 他の人の作品を見るのもいい刺激になった • 様々な講義と実習を行ってきた.最後に習った技術を生かしたグループ制作はとてもい い経験だった 図 4 2009 年度授業での学生のプログラム作 品例. • 毎回出される課題が適量だった • 課題が多くて結構しんどかった. 図 5 2010 年度授業での学生のプログラム作品例. 授業を欠席しがちな学生には課題が負担になるが,プログラミング方法の授業を復習する ためや自由制作を効率的に行うためには課題量は適切だと判断している.また,プログラミ. 5. ま と め. ングを苦手としている学生も,複数人でプログラムを組んだことや作品を完成させるための 過程を「いい経験だった」とコメントしていることから,課題解決のための何らかの工夫を. 本報では,沖縄工業高等専門学校メディア情報工学科の 3DCG を扱う科目「コンピュー. 学んだものと考えられる.発表で他グループ作品のアイデアを知ったり,サーバ上にある他. タグラフィックス I」, 「コンピュータグラフィックス II」で,理論とアルゴリズムの習得を. グループ作品を動作させたりソースファイルを読むことで実装に関する多くの工夫を知るこ. 目標とした演習と講義の授業事例を紹介し,成績評価方法と授業評価について報告した.こ. とが「いい刺激になった」とコメントしていることから,作品発表の機会は必要である.. れらの授業事例より,以下のことがわかった.. 4. (1). 3DCG 教育の導入としてのソフトを使った演習は理論やアルゴリズムの理解を助ける. (2). ソフトを使った演習やプログラミングの演習で自由制作を行う場合に,最初に授業の. c 2011 Information Processing Society of Japan ⃝.
(5) Vol.2011-CG-142 No.9 2011/2/8. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 目的や扱う処理を自由制作例を示しながら明確にすることで,学生の授業参加度が向 上し,自由制作を効率的に行える.また,作品の発表や学生相互の評価は授業を学生 自身が振り返る機会となっている.. (3). 複数人でプログラム作品を制作することは情報処理技術者育成の点からよい経験で ある.. これまでの授業では,授業評価のアンケート調査を計画的に行うことができず,定量的な 授業評価が困難であった.今後は定量的な授業評価を行いたい.また,講義部分の説明では 教科書付属の CD-ROM に掲載される図を利用しているが,3 次元空間での理論やアルゴリ ズムを黒板やスクリーンといった平面で説明することに苦慮することがあり,より適切に説 明するための副教材の作成を検討したい.. 参. 考. 文. 献. 1) 近藤邦雄:作品制作とプログラミングによるコンピュータグラフィックス教育,図学 研究,Vol.38, No.4, pp.3–10 (2004). 2) CG-ARTS 協会編:コンピュータグラフィックス,CG-ARTS 協会 (2008). 3) CG-ARTS 協会編:CG エンジニア検定 2 級・3 級公式問題集第一版,CG-ARTS 協 会 (2009). 4) 林 清隆:OpenGL による 3 次元 CG プログラミング,コロナ社 (2003).. 5. c 2011 Information Processing Society of Japan ⃝.
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