主要な研究成果
背 景
溶融炭酸塩形燃料電池(以下、MCFC と略記する)発電システムは、高い発電効率と環境負荷低減効果が 期待されることから、幅広い発電システムへの適用が可能な発電技術である。ただし、MCFC 発電システム の実用化の時点での寿命として 4 万時間が想定されており、この寿命目標を達成するための大きな課題として、 ニッケルによる内部短絡現象の抑制が挙げられる。現在、ニッケル短絡の抑制策として考えられる種々の方策 が提案されているが、最終的には、これらの方策を小型単セル試験に適用し、抑制策の有効性を実際の電池運 転条件下で確認する必要がある。一方、ニッケル短絡以外の寿命制約要因としては、電解質損失等による緩慢 な性能劣化が想定されるが、寿命制約要因を把握するためには、直接長期連続試験を行い、運転中のセル挙動 を検証する必要がある。目 的
小型単セルを用いたニッケル短絡寿命加速試験および長期間寿命確認試験を実施し、ニッケル短絡抑制策の 有効性を検証すると共に、長時間の運転実証データを蓄積し、長寿命化への見通しを得る。主な成果
1.ニッケル短絡加速寿命試験 ①ニッケル短絡加速寿命試験においては、ニッケル溶出低減策(① Fe/Mg をコーティングした新規カソー ド部材の採用、②炭酸塩にアルカリ土類(Ba、Ca)の添加、③ Li/Na=70/30 への変更)ならびにα-LiAlO2へのマトリクス材変更により、ニッケル短絡開始時間が延伸されることを検証した(表 1)。 ②上記の各効果が独立であるものと仮定し、各対策の延伸効果を乗算して計算されたニッケル短絡開始時間 は、約 36,500 時間となった。この結果は、上記の対策を実際に複合化した単セルにおけるニッケル短絡開 始時間* 1にほぼ一致し、ニッケル短絡抑制対策効果の乗算で表現できることがわかった。 ③マトリックス材のα-LiAlO2への変更により、従来のγ-LiAlO2と比較してニッケル短絡が発生するまでに 許容できるマトリクス中のニッケル析出量が増大することにより、長時間、ニッケル短絡抑制が可能にな ることが明らかとなった(図 1)。 ④α-LiAlO2をベースマトリクスとした場合を想定し、ニッケル短絡発生時間に対する電解質厚さ、カソー ド炭酸ガス分圧、運転温度の影響を明らかにした(図 2)。 2.長期寿命確認試験 長期寿命確認試験においては、セル電圧低下の主要因は、内部抵抗の経時増加であることを確認した。ま た、この内部抵抗値は電解質充填後、あるレベルまで回復することより、主としてセル内の電解質ロスが内 部抵抗の経時増加を引き起こしているものと推定された(図 3)。3 万時間以上の連続運転試験結果と当所が 開発した寿命予測手法* 2を適用した経時予測との一致により、MCFC の実時間での長期寿命を精度良く予 測可能となった(図 3)。 以上より、MCFC は実用に際し必要なニッケル短絡開始時間の 4 万時間以降へ延伸を見通し、更に最終的に は、37,000 時間を超える連続運転においてデータを取得し、MCFC が実用に耐えうる安定した性能および長期 寿命を維持できることが実証された。 なお、本研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構からの受託研究として実施した。 主担当者 エネルギー技術研究所 高温発電工学領域 主任研究員 浅野 浩一 関連報告書 ショートスタックによる信頼性評価─長寿命化研究─平成 15-16 年度委託業務成果報告書 90単セルによるMCFC長寿命化への見通し
* 1 :平成 14 年度委託業務成果報告書:複合効果を施した単セルにおいて、ニッケル短絡開始時間は約 37,000 時間で あった。 * 2 :麦倉、森田、電中研研究報告 W03029、2004 年 3 月。6.化石燃料発電/火力発電高効率化
91 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 電解質厚さ / cm T=923[K] PCO2=4.96[atm] 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 0 5 10 15 20 カソードCO2分圧 / atm ニッケル短絡開始時間 / h ニッケル短絡開始時間 / h T=923[K] L=0.1[cm] 5.60 5.80 6.00 6.20 1.00 1.05 1.10 1.15 1.20 T-1 / 10-3K-1 log( tsc PCO 2 1.05 L -1.84 / h atm 1.05 cm -1.84 ) PCO2=4.96[atm] ニッケル溶出抑制対策 試験番号 目的 Li/Na 電解質 組成 Ba/Ca 添加 カソード 電極 電解質保持板対策 電解質厚さ:1.3mm CO2分圧:0.08MPa におけるニッケル短絡 開始予測時間 12IP- 24 ベース試験 従来型 約14,500時間 12IP- 27 カソード改良 効果 60/40 − Mg/Fe 被覆 約20,300時間 (約1.4倍) 12IP- 26 電解質組成の 効果 − 約21,500時間 (約1.5倍) 12IP- 25 Ba/Ca の添加 効果 70/30 3/3 γ型LiAlO2をベース とした従来型 約25,600時間 (約1.2倍)* 12IP- 28 ∼37 電解質保持材の 変更効果 60/40 − 従来型 α型LiAlO2をヘ ゙ース とした改良型 約16,600時間 (約1.2倍) *:12IP-26との比較、他は12IP-24との比較 650 700 750 800 850 900 950 1000 1050 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000 0 50 100 150 200 250 300 350 400 開路電圧 出力電圧 内部抵抗 Pressure: 0.297MPa Temperature: 600oCCurrent density: 200mA/cm2
Fuel: H2/CO2/H2O=56/14/30% @Uf=60%
Oxidant: Air/CO2=90/10% @UO2/UCO2=11/40%+H2O=10%
予測値 650 700 750 800 850 900 950 1000 1050 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000 時間 / h 電圧 / m V 0 50 100 150 200 250 300 350 400 内部抵抗ロス / mV 電解質添加量 : 1.2g / 2g 電解質添加量 : 0.6g / 2g 電解質添加量 : 0.5g/ 2g 0 20 40 60 80 100 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 空孔体積 / cm3cm-2 Ni析出量 / mgcm -2 α-LiAlO2 γ-LiAlO2 P=0.592MPa、T=650℃ Ni短絡発生領域 Ni短絡抑制領域 表1 ニッケル短絡抑制効果加速寿命試験のまとめ Ni溶出低減策(①Fe/Mgをコーティングした新規カソード部材の採用、②炭酸塩にアルカリ土類 (Ba、Ca)の添加、③Li/Na=70/30への変更)ならびにα-LiAlO2へのマトリクス材変更により、 Ni短絡開始時間が延伸されることを検証した。 Ni短絡が発生するまでに許容できるマトリクス空 孔中のNi析出量が増大することにより、約1.2倍、 Ni短絡抑制が可能になることが明らかとなった。 ①セル電圧低下の主要因は、電解質ロスによって生 じる内部抵抗の経時増加であることを確認した。 ②MCFCの長期性能を精度良く予測可能となった。 α-LiAlO2をベースとしたニッケル短絡発生時間に対する電解質厚さ、カ ソード炭酸ガス分圧、運転温度の影響を明らかにした。 図2 ニッケル短絡発生時間と電解質厚み、カソードPco2、運転温度との関係 図3 長寿命確認試験の結果および 寿命予測値との比較 図1 Ni短絡後のマトリクス中の Ni析出量と空孔体積との関係