人間環境科学 第27巻 1~2 (2020) 1 令和元年度 人間環境科学研究所 活動報告 人間環境科学研究所長 柳 元和 2018年度に「一切しらべ」のシンポジウムを開催した後、人間環境科学研究所(以下、 人環研)では引き続き、自校教育、考現学、学習障害支援を取り上げるとともに、学際的 研究を支援して来た。例会では、高等学校教育の苦渋や体験型授業構築の難しさ等につい て取り上げた。12月の例会では第15回情報教育合同研究会(於 園田学園女子大学)の報 告をした。文部科学省初等中等教育局参事官から、プログラミング教育を例に、高大連携 の今後のあり方等について講演されたが、詳細は割愛する。年度最後の例会では、定年を 迎えられた大久保 純一郎先生を囲んで座談会を開催した。大久保先生の研究の中で人環 研として注目していたのは、「大学生の発達障害と精神保健」であり、健康心理学、特に "Positive Behavior Support"である。大学教育における支援のあり方について研究・実 践を積み上げて来られた大久保先生は、授業の受け方に対する反省を促す工夫と、毎日の 積み重ねのし方を理解してもらうことの重要性を強調された。毎日の積み重ねは、読む・ 書く・話すに集約されるが、フィードバックが特に大切なのは、書く力ではないかとのお 話は納得できるものであった。また大学全入時代にあっては、学ぶことの意味を見いだせ ない学生たちへ、温かい配慮が必要であることも強調されていた。
帝塚山大学令和元年度第1回FDフォーラムでは、University Identity (UI) 教育(自校 のイメージや教育内容を見直し、イメージアップを図ろうとする統合戦略のこと)が取り 上げられた。大阪経済大学学長(当時)徳永 光俊先生が講演され、学生たちとともに大 学を作り上げていこうとする情熱的な内容であったが、詳細はFD報告書を参照いただきた い。これに伴い、2019年度の人環研第1回シンポジウムでは教育問題以外の課題を取り上 げることとした。2017年度「お寺の鐘の音を科学する」を引き継ぎ、2019年度は「食感を 科学する」を開催した。 講演いただいたのは広島大学統合生命科学研究科 特任教授 櫻井 直樹先生である。櫻井 先生はNHKの「ためしてガッテン」に出演されたことがあるが、その裏話も含めて、楽し くご講演いただいた。スイカを鑑別する名人は、スイカを叩いた時の音でその美味しさを
2 知る。その不思議さに魅せられて櫻井先生はスイカの音の科学的探求をして来られた。ス イカ内部判定の測定原理の話は、弦のドレミの世界(一次元音階)から自然界の音(二次 元~三次元音階)にまで広がった。ドの1オクターブ上のドの周波数は倍になると私たち は教育されており、これを倍音と呼んでいる。しかし「倍音が整数倍でない世界」も存在 する。自然界の多くの音はそうであるし、和楽器(お琴や三味線)やジャズのサックス、 エレキギターなどの音もそうで、お寺の鐘の音もそうである。どうやらスイカの音による 美味しさの判定は、若者たちには難しいらしい。ディスカッションの中で、若者がもし人 工的な音(一次元音階)に慣れきって、自然界の音を雑音としか捉えられなくなっている としたら、我々の教育は本当に正しかったと言えるのだろうか、という疑問が出された。 これは、もしかすると、21世紀の教育の課題と言えるのかもしれない。 本紀要には、櫻井先生方から梵鐘の振動に関する論文を投稿いただいた。また宮本先生 方からは宇宙ステーションでの植物実験について第2報を投稿いただいた。医療系の話題 については、昨年度の「現代の死に方」に引き続き、「ウイルスの意味論」の書評を収載 した。コロナウイルス禍の中にあって参考になれば幸いである。