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差別化寡占下における過剰参入定理

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Academic year: 2021

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(1)

差別化寡占下における過剰参入定理

著者

藤原 憲二

雑誌名

経済学論究

63

4

ページ

49-57

発行年

2010-03-25

URL

http://hdl.handle.net/10236/3729

(2)

差別化寡占下における過剰参入定理

The Excess Entry Theorem in a

Differentiated Oligopoly

藤 原 憲 二  

Constructing a model of differentiated oligopoly with a quadratic subutility function, this paper explores under what conditions the excess entry theorem is established. We explicitly derive the threshold of the degree of product differentiation above (resp. below) which the theorem is valid (resp. invalid).

Kenji Fujiwara

  JEL:L13

キーワード:差別化寡占、過剰参入

Key words: differentiated oligopoly, excess entry

1 導入

標準的なミクロ経済学の教科書を開くと不完全競争の章では独占から説明 が始まり、同質財寡占と独占的競争へと説明が発展する。実際、産業組織論、 国際経済学、公共経済学、環境経済学など応用経済学の文献において不完全競 争を扱ったものを見ると、大半が独占、同質財寡占、独占的競争のいずれかの モデルに依拠している。 同質財寡占で最も用いられる頻度が高いのはクールノー寡占モデルであり、 独占的競争ではディキシット=スティグリッツ・モデルである1)。事実、 1970 * 本稿の土台となる研究は 2006 年度関西学院大学経済学研究会で報告された。その際に、河野 正道、新海哲哉、利光強、根岸紳、水野敬三(敬称略)の各教授より極めて有益なコメントを頂 いた。記して感謝の意を表する。 1) もうひとつのよく利用されるモデルは円環モデルや線街モデルと呼ばれる立地モデルである。そ れらの詳細は Shy (1997) を参照のこと。

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経済学論究第 63 巻第 4 号 年代後半に始まる不完全競争貿易理論における2つの重要な貢献は、クール ノー寡占モデルを用いた戦略的貿易政策理論とディキシット=スティグリッ ツ・モデルを用いた産業内貿易理論である2) だが一般に同質財寡占モデルと独占的競争モデルでは同じ問題を扱ってい ても全く異なる結論をもたらすことがある。その例としてよく知られている のがいわゆる過剰参入定理である。これは「企業の利潤がゼロになるところ で決まる企業数は、厚生を最大にする企業数よりも多くなってしまう」ことを いう。この定理はMankiw and Whinston (1986)らによって比較的一般的な

クールノー寡占モデルで成立することが知られている。だがDixit and Stiglitz (1977) は独占的競争モデルでは全く逆の結論、つまり市場均衡で決まる企業 数は社会的に望ましい水準よりも少ないことを証明している。 モデルが異なれば結論も異なるのは至極当然であるが、この正反対の結論に 決定的な役割を果たしているのが製品差別化があるかどうかである3)。同質財 寡占では文字通り差別化は存在しないが独占的競争では密接な代替材が数多く 存在すると想定される。そこで以下のような疑問がわいてくる。どの程度の製 品差別化ならば過剰または過小参入になるのか。この問いに答えるためには同 質財寡占と独占的競争の両方を特殊ケースとして含むようなモデルを構築する 必要がある。本稿ではこの問いに対してCellini, Lambertini and Ottaviano (2004,以下CLOと略す)のモデルを利用しながら解答を与えていく4)

本稿の構成は以下の通りである。第2節では基本モデルが提示され企業数

が所与である短期均衡が記述される。第3節では寡占産業に自由参入を認めゼ

ロ利潤が達成される均衡で決まる企業数を求める。第4節では厚生を最大化す

るという意味での社会的最適な企業数を求め、それを前節で求めた市場均衡と 2) 産業内貿易は寡占モデルでも発生することが知られており、Brander (1981), Brander and

Krugman (1983) がその嚆矢である。

3) クールノー寡占モデルとディキシット=スティグリッツ・モデルのもうひとつの違いは、前者で

は企業は生産量を戦略変数とするのに対して、後者では価格が戦略変数とされている点である。 差別化の有無に関係なく価格競争の方が均衡価格が低くなるという意味で競争的であることが知 られている(Singh and Vives, 1984, Cheng, 1985)。

4) CLO モデルは差別化財を離散的に扱っているが、Ottaviano, Tabuchi and Thisse (2002) は連続形モデルを考えている。

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比較する。本稿ではCLOモデルを過剰参入定理に応用するが、筆者は近時こ のモデルを応用して幾つかの問題を解明してきた。第5節では結論と本稿で提 示したモデルの幾つかの応用例を紹介する。

2 モデル:短期均衡

2財(差別化財・ニュメレール財)、1要素(労働)モデルを考える。両財 共に労働から生産され厳密性を失うことなく1単位の労働投入から1単位の ニュメレール財が生産されるとする。よってニュメレール財価格を1に設定 し、ニュメレール財が正量生産されている限り利潤最大化条件から賃金率も1 となる。 他方、差別化財はn > 1種類のバラエティ存在し、全てのバラエティを生 産する企業は同一の生産技術を有する5)。具体的にはx単位の生産を行うた めには cx + f 単位の労働投入が必要であるとする。ここでc > 0 は限界費 用、f > 0は固定費用を表す定数である。従って各企業は収穫逓増技術で生産 を行うために、自らのバラエティについては独占力を持つ。 消費者の選好は次のように特定化される。 u = αXxj− β− γ 2 X x2j− γ 2 “X xj ”2 +y, α > c > 0, β > γ > 0. (1) ここでuは効用、xi はバラエティiの消費量であり、yはニュメレール財の 消費量であるが、閉鎖経済を仮定するため同時に生産量も表す。この効用関数 で最も重要なパラメータはγ であり、それがゼロならば各バラエティは独立 (完全な差別化財)、γ → βならば各財は同質(完全代替)財とみなすことが できる。この効用関数は準線形であるから各差別化財の需要は所得には依存し ない。 予算制約下における効用最大化条件を求めると次のようになる。 pi= α− (β − γ)xi− γ X xj. (2) 5) 本稿のモデルは差別化財が離散的であるから、数学的には n は整数である。だが後の議論で

は n を連続変数であるかのように扱う。数学的には不正確だが、Dixit and Stiglitz (1977), Mankiw and Whinston (1986) などでは n が十分大きいと仮定することでこの数学的曖昧 さを擁護している。

(5)

経済学論究第 63 巻第 4 号 これが各企業の逆需要関数を与えるから各企業の利潤は次のように定義される。 πi≡ h α− c − (β − γ)xi− γ X xj i xi− f. ここから利潤最大化の1階条件は次のようになる6) ∂π ∂xi = α− c − 2(β − γ)xi− 2γxi− γ X j6=i xj = α− c − [2β + γ(n − 1)]x = 0. ここで2つ目の等式はxi= xj= xという対称均衡の仮定を用いている。従っ て利潤最大化をもたらす生産量は次のように求められる。 xN= α− c 2β + γ(n− 1). (3) ここで上添字N は短期均衡を表す。これを元の利潤の定義式に代入すると最 大化された利潤は以下のようになる。 πN= n α− c − [β + γ(n − 1)]xN o xN− f = β » α− c 2β + γ(n− 1) –2 − f. (4) ここまでの議論は企業数nを所与として進められてきたが、次節ではnは この均衡利潤がゼロになるところで決まると想定しnを内生化する。

3 長期均衡

前節では企業数が固定されている短期における均衡を導出したが、寡占産業 への参入・退出が自由で均衡利潤がゼロになる長期を考えると企業数はそのよ うなゼロ利潤条件から求められる。(4)をゼロとおきnについて解くと自由参 入均衡における企業数は次のように求められる。 nE = (α− c) q β f − 2β + γ γ . (5) ここで上添字E は長期均衡を表す。これは経済学的には1より大でなければ ならずそのためには次式が成立せねばならない。 6) 2 階条件も満たされている。

(6)

(α− c) s β f − 2β > 0 ⇐⇒ β < (α− c)2 4f . (6) このnE が経済厚生を最大化する企業数よりも大か小かが我々の関心である。 そこで次節では経済厚生を最大化する社会的最適解を求め、nE との比較を 行う。

4 過剰/過小参入定理

本稿では社会的に最適な企業数を求める。ここで求める解はいわゆる次善解 と呼ばれるものである。その理由は生産量の水準は各企業に決めさせ、政府は 企業数だけを決めると仮定するからである7)。全ての差別化財が同一生産量 x を選択した時の厚生は次のようになる。 u = αnx−β− γ 2 nx 2γ 2n 2 x2− npx + n(p − c)x − nf. ここで第1−4項は消費者余剰、残りのn(p− c)x − nf は寡占産業の利潤合 計を表す。これに(3)を代入すると次式を得る。 U (n)≡(α− c) 2 2 · n[3β + γ(n− 1)] 2β + γ(n− 1) − nf. 社会的最適解はこれを最大化するnとして定義される。そのための1階条件 は次のようになる。 U0(n) =(α−c) 2 2 · [3β + γ(2n−1)][2β + γ(n−1)]−2γn[3β + γ(n − 1)] [2β + γ(n−1)]3 −f = ∆(N ) 2[2β + γ(n− 1)]3. (7) ここでN≡ γn∆(N )≡ −2fN3− 6f(2β − γ)N2+ [(α− c)2(β− γ) − 6f(2β − γ)2]N +(2β− γ)[(α − c)2(3β− γ) − 2f(2β − γ)2]. (8) (7)は非常に複雑な多項式になっているからそれを満たす社会的最適なnを解 析的に求めることは極めて難しい。しかし我々の目的はそのような社会的最適 解とnE との大小関係を調べることであるから、nE (7)に代入したものが 7) これに対して最善解とは政府が企業数と生産量の両方を決める時の解として定義される。これ

(7)

経済学論究第 63 巻第 4 号 正(resp. 負)ならば過小参入(resp.過剰参入)と結論付けることができる8)。 以下では計算の煩雑さを少しでも減らすために(8)を用いる。(5)は NE ≡ γnE = (α− c) s β f − 2β + γ, と書直すことができるから、これを(8)に代入したもの、∆`NE´の正負を調 べればよい。煩雑な計算の結果、それを求めると次のようになる。 ∆“NE= (α− c)2 " s β f(β + γ)(α− c) + 2β(2β − γ) # = (α−c)2 ( −γ " 2β + s β f(α−c) # + β " 4β− s β f(α−c) #) . (9) ここで最終行の−γにかかる括弧内は正であるが、βにかかる括弧内の符号は 確定できない。そこでそのβにかかる括弧内の符号に応じて次のような結果 を得ることができる。 定理1.4β−pβ/f (α− c) < 0または同じことであるがβ < (α− c)2/16f であるとしよう。すると任意のγ∈ [0, β]について過剰参入となる。 証明. 上記の条件下においては(9)は常に負となることから定理が従う。証了. 定理2.4β−pβ/f (α− c) > 0または同じことであるが(α− c)2/4f > β > (α− c)2/16f であるとしよう9)。すると過剰参入( resp. 過小参入)は次の条 件下で成立する。 γ > β h 4β− q β f(α− c) i 2β + q β f(α− c) (10) (resp.) γ < βh4β− q β f(α− c) i 2β + q β f(α− c) . (11) 8) このためには U0(n) = 0 のための 2 階条件が満たされている必要があるが、それは β < γ(n− 1)/10 ならば満たされる。 9) この不等式の 1 つ目の不等号は (6) である。

(8)

証明. この場合(9)のβにかかる括弧内は正となる。従って∆`NE´< 0の ためには(10)が十分となる。(11)についても同様。 証了. 定理1・2によると過剰参入になるかどうかは2つのパラメータβ, γに強く 依存していることが分かる。まず定理1によるとβが十分小さいときには、必 ず過剰参入になる。βは大雑把にいうと逆需要曲線の傾きを表すものである。 他方、βがそれほど小さくないときにはγ が重要な役割を果たす。γβ に近い、すなわち差別化財が同質財に近いとすると過剰参入になる。実際、(9)

γ → β とすると必ず負になる。これは Mankiw and Whinston (1986), Suzumura and Kiyono (1987)らの過剰参入定理そのものである。他方、γ

βから大きく乖離している、つまり財が十分に差別化されていると過小参入に なる。極端な場合としてγ→ 0にすると(9)は正になることからもそのこと を確認することができる。 同じ製品差別化を扱ったモデルでもディキシット=スティグリッツ・モデル ではこのような結果は得られず必ず過小参入になる。その意味で本稿の議論は 同質財寡占下における過剰参入定理、独占的競争下における過小参入定理を理 解する上での便利なモデルを提供しているといえよう。

5 結論

本稿では2次の部分効用関数を仮定する差別化寡占モデルを構築して、過剰 参入定理が起こるかどうかは製品差別化の程度に強く依存していることを明ら かにし、過剰参入が起こるための製品差別化の程度の閾値を解析的に求めた。 本稿で提示したモデルは同じ製品差別化を扱うディキシット=スティグリッ ツ・モデルを特殊ケースとして含むものではないから、ディキシット=スティ グリッツ・モデルの代替モデルとは言えず、むしろそれを補完するモデルとみ なすべきである。以下ではそのモデルの幾つかの応用例を紹介することで、読 者にこのモデルの汎用性を知って頂くと共にそれを応用して様々な問題を解明 する契機になればと思う。 本稿のモデルが広く知られるようになった最大の貢献はOttaviano, Tabuchi

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経済学論究第 63 巻第 4 号

and Thisse (2002)である。彼らは本稿のモデルの連続形を用いて産業集積に

関してディキシット=スティグリッツ・モデルでは得られなかった結論を導 出している。Cellini, Lambertini and Ottaviano (2004)は本稿と全く同じモ デルを用いて、クールノー競争とベルトラン競争における解を比較している。 Fujiwara (2007) はこのモデルをMatsumura (1998)流の混合寡占モデルに 拡張し、参入がない短期と参入が自由な長期における最適民営化政策を導出 しておりそれらは短期・長期で全く異なった性質を持つことを証明している。 Fujiwara (2008)は国際貿易論に応用して、貿易開始による厚生効果が競争促 進効果とバラエティ増加効果に分解できることを明らかにしている。さらに Fujiwara (2009)は環境経済学に応用し、最適なピグー汚染税を短期・長期に 分けて導出している。 参考文献

[1] Brander J. A. (1981), ‘Intra-industry trade in identical commodities,’

Jour-nal of InternatioJour-nal Economics, 11, 1-14.

[2] Brander, J. A. and P. R. Krugman (1983), ‘A ‘reciprocal dumping’ model of international trade,’ Journal of International Economics, 15, 313-321. [3] Cellini, R., L. Lambertini and G. I. P. Ottaviano (2004), ‘Welfare in a

differentiated oligopoly with free entry: A cautionary note,’ Research in

Economics, 58, 125-133.

[4] Cheng, L. (1985), ‘Comparing Bertrand and Cournot equilibria: a geomet-ric approach,’ Rand Journal of Economics, 16, 146-152.

[5] Dixit, A. K. and J. E. Stiglitz (1977), ‘Monopolistic competition and opti-mum product diversity,’ American Economic Review, 67, 297-308. [6] Fujiwara, K. (2007), ‘Partial privatization in a differentiated mixed

oligopoly,’ Journal of Economics, 92, 51-65.

[7] Fujiwara (2008), ‘A decomposition of gains from trade in a differentiated oligopoly,’ Japan and the World Economy, 20, 326-337.

(10)

[8] Fujiwara (2009), ‘Environmental policies in a differentiated oligopoly re-visited,’ Resource and Energy Economics, 31, 239-247.

[9] Mankiw, G. N. and Whinston (1986), ‘Free entry and social inefficiency,’

Rand Journal of Economics, 17, 48-58.

[10] Matsumura, T. (1998), ‘Partial privatization in mixed duopoly,’ Journal

of Public Economics, 70, 473-483.

[11] Ottaviano, G. I. P., T. Tabuchi and J. Thisse (2002), ‘Agglomeration and trade revisited,’ International Economic Review, 43, 409-436.

[12] Shy, O. (1996), Industrial organization: theory and applications, MIT Press.

[13] Singh, N. and X. Vives (1984), ‘Price and quantity competition in a differ-entiated duopoly,’ Rand Journal of Economics, 15, 546-554.

[14] Suzumura, K. and K. Kiyono (1987), ‘Entry Barriers and Economic Wel-fare,’ Review of Economic Studies, 54, 157-167.

参照

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