<論説>刑訴法上の「強制の処分」概念について(1)
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(2) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. の よ うな 権 限 分 配 自体,両 法 が 基 礎 とす る刑 事 手 続 の 構 造 の 違 い に まで 遡 る様 々な 問 題 を 提 起 す る もの で あ るが,少 な くと も捜 査 の 実 行,特. に強 制. 処 分 に対 す る法 的 コ ン トロ ール の 重 要 性 は 旧刑 訴 法 よ りも現 行 法 の 方 が よ り高 ま っ た こ とを 示 す もの で あ る。 現 行 法 上,強 制 処 分 に対 す る法 的 コ ン トロ ール と して,捜 査 一般 に妥 当 す る比 例 原 則(必 要 性 及 び相 当性)に 加 え て,令 状 主 義 及 び強 制 処 分 法 定 主 義 が 予 定 され て い る。 す な わ ち,個 別 具 体 的 状 況 に お いて 市 民 の 自 由を 制 限 す る こ と(処 分)が 許 され るか と い う問 題 に加 え て,捜 査 機 関 は その 際 どの よ うな 手 続 に よ って 当該 処 分 を 行 うか と い う問 題 に対 し,強 制 処 分 につ いて は右 二 つ の 原 則 が 妥 当 し,捜 査 機 関 の 行 為 を コ ン トロ ール す る よ う に設 計 され て い るの で あ る。 この よ うな こ とか ら,捜 査 機 関 の 具 体 的 行 為 の 適 法 性 を 評 価 す る に あ た り,強 制 処 分 に該 当す るか 否 か と い う問 題 は,不 可 避 の もの とな る。 本 稿 は,こ の 刑 訴 法 上 の 強 制 処 分 概 念 につ いて,そ の 意 義 を 明 らか に し,そ の 該 当性 に関 す る基 準 を 提 示 した上 で,従 来,判 例 及 び学 説 に お いて 問 題 提 起 され て き た具 体 的 事 例 につ いて 検 討 を 加 え る こ とを 目的 とす る。 な お,こ の 問 題 を 検 討 す る に あ た り,講 学 上,強 制 処 分 と対 置 す る もの と して 任 意 処 分 と い う概 念 を 設 定 し,両 者 の 限 界 如 何 と い う観 点 か ら論 じ る の が一一 般 的 とな って い る(1)。しか し,こ の よ うな 概 念 の対 置 は,後 述 す る よ う に,や や 議 論 を 混 乱 させ て い る よ う に思 わ れ る。 法 規 定 上,強 制 処 分 は存 在 す るが,任 意 処 分 は存 在 しな い以 上,端 的 に,強 制 処 分 に該 当す るか 否 か,す な わ ち,強 制 処 分 該 当性 の み が 問 題 と され るべ きで あ り,そ の 際,あ え て 任 意 処 分 と い う概 念 を 持 ち 出す 必 要 はな い。 確 か に,犯 罪 捜 査 規 範 で は 「任 意 捜 査 」 と い う概 念 が 用 い られ て お り,こ れ を 強 制 捜 査, す な わ ち強 制 処 分 を 用 い た捜 査 と対 置 す る こ と は妥 当で あ る。 しか し,や (1)井 上 正 仁 「 強 制 処 分 と任 意 処 分 の 限 界」刑 訴 法 百 選(第8版)4頁(2005年)。. 2.
(3) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). は り後 述 す る と お り,刑 訴 法197条1項. 但 書 は,強 制 処 分 の 概 念 を 用 いて い. るの で あ り,こ れ は 同条 項 本 文 で い う捜 査 に付 随 す る もの と して 理 解 され るべ きで あ る こ とか ら,強 制 捜 査 と任 意 捜 査 との 概 念 の 対 置 か らパ ラ レル に,強 制 処 分 とい う概 念 に任 意 処 分 とい う概 念 が 対 置 され る わ け で は な い。 それ ゆえ,本 稿 で は,任 意 処 分 と い う概 念 を 用 いず,強 制 処 分 に対 し て 非 強 制 処 分 と い う概 念 を 対 置 させ て 用 い る こ と とす る(2)。. 二. 1.強. 総論的考察. 制 処分 法定主 義 の意義. 強 制 処 分 法 定 主 義 と令 状 主 義 と の 関. 係 前 述 の と お り,強 制 処 分 に固 有 の 法 的 コ ン トロー ル と して,強 制 処 分 法 定 主 義 と令 状 主 義 が 存 在 す るが,両 法 原 則 の 関 係 は如 何 に理 解 され るべ き か 。 この 点 は,刑 訴 法 に明 文 規 定 の な い処 分 に対 す る法 的 コ ン トロー ル の あ り方 を め ぐ り,強 制 処 分 概 念 を 比 較 的 広 く理 解 しよ う とす るか,又. は比. 較 的 狭 く理 解 しよ う とす るか で ア プ ロ ー チの 仕 方 に違 いを 生 じさせ る もの で あ る こ とか ら,強 制 処 分 該 当性 の 基 準 を 検 討 す る前 に,前 置 され るべ き 問 題 で あ る。 この 問 題 に関 して,令 状 主 義 を 重 視 す る見 解 と,両 法 原 則 を 独 立 の 関 係 に あ る と理 解 す る見 解 とで 対 立 が 見 られ る。. (1)令. 状主義重視説. 第 一一 の 見 解 は,強. 制 処 分 に 対 す る 法 的 コ ン トロ ー ル と して,憲. (2)三 井 誠 『 刑 事 手 続 法(1)(新 版)」79頁(1997年,有. 斐 閣)は,強. 法上の適. 制 捜 査 との 対. 置 にお いて 任 意 捜 査 で は な く 「非 強 制 捜 査 」 とい う概 念 を用 い る方 が 正 確 で あ る と述 べ るが,任 意 捜 査 の概 念 は犯 罪 捜 査 規 範 で用 い られ て い る概 念 で あ り, む しろ,本 文 記 載 の と お り,強 制 処 分 との対 置 に お い て 任意 処 分 で は な く 「非 強 制 処 分 」 とい う概 念 を 用 い る方 が 妥 当 で あ る と思 わ れ る。. 3.
(4) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. 正 手 続 保 障 規 定,特. に令 状 主 義 を 優 位 に お き,強 制 処 分 法 定 主 義 は,現 行. 刑 訴 法 が 立 法 され た 当時 に想 定 され た強 制 処 分 につ いて の 確 認 的 規 定 に過 ぎな い と理 解 す る見 解(3)であ る。 この 見 解 か ら は,現 行 刑 訴 法 の 立 法 当 時 に想 定 され て いな か っ た強 制 処 分(い わ ゆ る新 しい 強 制処 分)に つ い て は, 刑 訴 法197条1項. 但 書 の 適 用 は な く,も っぱ ら憲 法 レベ ル に お い て令 状 主. 義 の 趣 旨か らその 適 法 性 が 検 討 され る こ と にな る。 例 え ば,街 頭 で の 写 真 撮 影(後 述 で 検 討)に つ いて,こ れ を 強 制 処 分 で あ る と分 類 した上 で,こ の よ うな 新 しい強 制 処 分 も令 状 主 義 の 観 点 か ら実 質 的 に対 象 者 の 権 利 制 約 に お いて 合 理 的 な もの に と ど ま る限 りで 許 容 され る と主 張 され る。 この 見 解 の 代 表 的 論 者 で あ る 田宮 裕 は,警 察 官 が 街 頭 で の デ モ行 進 を 写 真 撮 影 す る行 為 につ い て,「 こ こで 注意 しな け れ ば な らな い の は,刑 訴 法 マ. マ. 197条 但 書 の い う 『強 制 の 処 分 』 の 意 義 で あ る。 写 真 撮 影 は 任 意 処 分 で は な く強 制 的 な 処 分 で は あ るが,同 条 の 強 制 処 分 で はな いの で あ る。 それ は こ う い う こ とを 意 味 す る。 す な わ ち,同 条 の 意 義 は,同 条 が 作 られ た 当時 の 状 況 を 前 提 す る。 も っ と正 確 に い う と,同 条 の おか れ た法 体 系 を 前 提 と す る。 そ こで の 強 制 処 分 と は,法 が 強 制 処 分 だ と考 え る もの,す な わ ち端 的 に いえ ば,法 が 強 制 処 分 と して 規 定 して い る もの お よ び それ に類 す る も の を意 味 す る もの で あ る。 したが って 同条 は,た ん に法 の 規 定 す る強 制 処 分 は,法 の 規 定 す る方 式 にの っ と って の み 許 され る と い って い るだ けで あ る。」 と述 べ,こ. の よ うな 行 為 の適 法 性 は,憲 法31条 及 び35条 に即 して 検. 討 され るべ き と主 張 す る。 具 体 的 に は,① 犯 罪 の あ る程 度 の 嫌 疑 が 存 在 す る こ と,② 当該 行 為 が 礼 譲 を も っ た社 会 的 に相 当な もの で あ る こ と,③ 証 拠 保 全 の 必 要 性 が 高 度 で あ る こ と,と い う基 準 に よ り判 断 され るべ き と主 張 され るq)。 (3)田 宮 裕 『刑 事 訴 訟 法(新 版)』71頁(1996年,有 (4)田 宮 裕 『捜 査 の 構 造 」258頁(1971年,有. 4. 斐 閣)。. 斐 閣 。 初 出 「犯 罪 捜 査 と写 真 撮 影 」/.
(5) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). 同 じ く渥 美 東 洋 は,い わ ゆ る強 制 採 尿 の 適 法 性 を 検 討 す るに あ た り,「憲 法35条 や33条 の 射 程 の 範 囲 と,刑 事 訴 訟 法 の 法 定 す る逮 捕 以 下 証 人 尋 問 ま で の いわ ゆ る強 制 処 分 の 射 程 範 囲 は違 う こ と にな る。 そ こで,刑 訴 法 の 強 制 処 分 法 定 主 義 と は,刑 訴 法 に予 定 した強 制 処 分 につ いて は,法 定 の 要 件 の 充 足 と手 続 の 履 践 が 求 め られ,そ れ 以 外 の 強 制 処 分 は憲 法33条 と35条 の 規 律 を 受 け,そ の 要 件 は その 強 制 処 分 の 性 質 と強 制 の 度 合 に よ って 決 ま る こ と に な るの で あ ろ う。」 と述 べ,強 制 採 尿 を適 法 と した 最 高 裁 判 例(最 決 昭 和55年10月23日 刑 集34巻5号300頁)は,「. 現 行 法 も 旧法 の 強 制 処 分 法. 定 主 義 を 憲 法 の 原 則 を 押 しの けて まで 押 し通 そ う と い う もの で はな く,典 型 的 な 強 制 処 分 は,基 準 を 法 定 す るの が 望 ま しい と い う立 法 政 策 を 表 明 し て い る もの 」 との 「解 釈 を 最 高 裁 判 所 が 採 る こ とを 」 示 唆 した もの で あ る と主 張 して い る(5)。 渥 美 は,通 信 傍 受 に 関 して も,通 信 傍 受 法 が制 定 され る前 の 段 階 に お いて,「 重 大 事 犯 に 限定 し,令 状 の有 効 期 間 を短 期 間 と し, 中間 報 告 義 務 を 課 し,捜 索 場 所 と押 収 会 話 の 特 定 に資 す る よ う に し,か か る活 動 が,最 終 手 段 で あ り,成 功 の 蓋 然 性 の 高 い こ とを 示 す 証 拠 の あ る場 合 に 限 って,裁 判 所 が令 状 を 発 す る方 策」 に つ いて,「 刑 訴 法 に規 定 は な くて も,憲 法 の 要 請 に も とつ くと し,裁 判 所 が この よ うな 方 策 を 創 出す こ と は許 され て い る と解 す べ きで あ る」 と述 べ,や. は り,刑 訴 法 に明 文 規 定. の な い強 制 処 分 につ いて,令 状 主 義 の 観 点 か ら検 討 され るべ き こ とを 主 張 す る(6)。 田宮 や 渥 美 の 見 解 に よ る と,刑 訴 法 に明 文 規 定 の な い捜 査 機 関 の 行 為 を 強 制 処 分 で あ る と しつ つ,そ の 法 的 コ ン トロ ール は憲 法 上 の 適 正 手 続 条 項 \ ジ ュ リ323号(1965年))。 (5)渥 美 東 洋 「刑 事 訴 訟 を 考 え る』4頁(1988年,日 (6)渥 美 東 洋 『捜 査 の原 理 」101頁(1979年,有. 本 評 論 社)。. 斐 閣。 初 出 「プ ライ ヴ ァ シー と刑. 事 訴 訟 」 日本 比 較 法 研 究 所20周 年 記 念 論 文 集 『比 較 法 の諸 問題 」(1972年,中 大 学 出 版 部))。. 5. 央.
(6) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. 及 び令 状 主 義 の 観 点 か ら及 ぼ され るべ き もの とな り,一 一 定の要件の下で許 容 され う る もの とな る。 この よ うな 見 解 は,学 説 上,特. に彼 らの 系 譜 に連 な る研 究 者 らに よ って. 継 承 され て い る。 椎 橋 隆 幸 は,憲 法35条 と強 制 処 分 法 定 主 義 との 関 係 につ いて,例 え ば, 明 文 で 法 定 され て いな い街 頭 で の デ モ行 進 に対 す る写 真 撮 影 の 適 法 性 を 判 断 す る 中で,「法 に定 め は な い が捜 査 に必 要 で,強 制 処 分 の 性 質 を 持 つ 行 為 は,そ の 行 為 の 強 制 の 程 度 や 捜 査 に お け る必 要 性 等 を 勘 案 して,そ の 処 分 を適 切 に規 律 で き る要 件 を 課 した うえ で 認 め るべ きで あ る」 と述 べ,そ の よ う に解 釈 す べ き理 由 と して,「 立 法 者 が 法 制 定 当 時 強 制 処 分 と考 え た 行 為 以 外 の 処 分 で あ って,そ の 後 の 社 会 の 進 展 に伴 って 捜 査 に必 要 な 強 制 の 処 分 が 出 て きた 場 合,197条1項. が そ の処 分 を一 切 認 め な い趣 旨 で あ る と. 解 す るの は合 理 的 な 解 釈 と は思 わ れ な い。 重 要 な 点 は,強 制 処 分 で あれ ば (盗聴 や写 真 撮 影 の場 合)憲 法35条 の規 律 を受 け る とい う こ とで あ る。」 と して,憲 法35条 の 母 法 と いわ れ る合 衆 国 憲 法 修 正4条 の 沿 革 及 び 同条 に関 す る判 例 の 展 開 か ら,自 説 の 妥 当性 を 基 礎 付 けて い る(7)。 中野 目善 則 は,刑 訴 法197条1項 マ. 但 書 に お け る強 制 処 分 法 定 主 義 の 解 釈. マ. につ い て,「 刑 訴 法198条1項. … … 但 書 の 規 定 は,『 強 制 処 分 法 定 主 義 』 を. 定 め た もの と解 され て きて い るが,こ の 規 定 は,憲 法 上,刑 訴 法 上 の 『強 制 』 に 当 た る あ らゆ る処 分 を 『法 定 』 され て いな けれ ば許 され な い とす る 趣 旨で はな い と解 す べ きで あ る。 つ ま り,刑 訴 法 上 定 めの あ る強 制 処 分 に 関 して は刑 訴 法 に従 って 行 わ れ な けれ ばな らな いが,刑 訴 法 上 定 めの な い 強 制 処 分 に関 して は,直 接 定 めて いな い と解 す べ きで あ り,刑 訴 法 に定 め の あ る強 制 処 分 以 外 の 強 制 処 分 は,そ の 強 制 処 分 の 自 由へ の 影 響 度 に応 じ (7)椎. 橋 隆 幸 「刑 事 弁 護 ・捜 査 の 理 論 」271頁(1993年,信. 学 化 」 ジ ュ リ852号(1986年))。. 6. 山 社 。 初 出 「捜 査 の 科.
(7) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). て,憲 法 及 との 関 連 で,規 律 を 受 け る こ と にな る」 と述 べ,そ の よ う に解 釈 す べ き理 由 と して,「 この よ うな 解 釈 が,時 代 の変 化 に 法 が そ の基 本 思 想,基 本 的 な フ ィ ロ ソ フ ィ ーを 維 持 しつ つ,柔 軟 に適 応 し,対 処 す る こ と を 可 能 にす る も の で あ ろ う。 す べ て を 硬 直 した 法 定 主 義 で 規 律 す る こ と は,議 会 へ の 過 大 な 期 待 で あ る と と も に,法 が 生 きた もの と して 機 能 す る こ とを 止 めて しま う こ と に もな る。」と して,三 権 分 立 を 基 調 とす る憲 法 の 趣 旨か ら自説 の 妥 当性 を 基 礎 付 けて い る(8)。 小 木 曽稜 は,強 制 処 分 権 限 が 原 則 と して 予 審 判 事 ら裁 判 官 の 手 に ゆだ ね られ て い た 旧法 まで の 法 制 と,警 察 官 等 捜 査 機 関 の 手 に ゆだ ね られ て い る 現 行 法 制 と で 強 制 処 分 法 定 主 義 の意 義 が 異 な る の で は な い か との 検 討 か ら,「裁 判 所 が従 来 の強 制 処 分 の基 準 を指 針 と し,新 た な 要 件 を 設 けて 明 文 の な い捜 査 活 動 に規 律 を 加 え,法 形 成 に参 加 す る こ とを 日本 の 憲 法 は禁 止 して い な い 」 と主 張 す る。 小 木 曽 は,そ の理 由 と して,「 具 体 的 な捜 査 の 必 要 に対 して 個 人 の 権 利 を どの よ う に保 障 す るか と い う観 点 か ら は,手 続 が 法 定 され て い る こ と よ りも,そ の 基 準 が どの よ う に定 め られ るか こそ が 問 わ れ な けれ ばな らな い」と述 べ,「国 の 活 動 か ら個 人 の 自 由を 保 障 す る に は,ま ず,そ の 活 動 の 具 体 的 な 基 準 ・要 件 が 適 正 で あ る こ とが 重 要 な の で あ り,裁 判 所 の 示 した基 準 が 正 し くな い と主 権 者 が 判 断 す る と き は,議 会 が それ を 変 更 す る こ とで,国 民 の 議 論 ・価 値 判 断 の場 は残 さ れ て い る」,「法 律 に定 めの な い処 分 が 許 され るか ど うか は,憲 法 に示 され た 基 準 を 充 た す こ とが で き るか ど うか で 決 ま る」 と して,裁 判 所 に よ る法 形 成 を 認 め る こ と も許 容 され るべ き と論 証 す る(9)。. (8)中 野 目善 則 「法 定 主 義 につ い て. 三 権 分 立 の観 点 か らの 検 討. 」 亜 大31. 巻1号139,151頁(1996年)。 (9)小 木 曽綾 「強 制 処 分 法 定 主 義 の現 代 的 意 義 」 駒 論58号125,128, (1999年)。. 7. 156,162頁.
(8) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. この よ う に して,強 制 処 分 に対 す る法 的 コ ン トロ ール につ いて,憲 法 レ ベ ル で の,特. に令 状 主 義 か らの 検 討 を 重 視 す る立 場 は,裁 判 所 に よ る法 形. 成,す な わ ち,刑 訴 法 に明 文 規 定 の な い強 制 処 分(新. しい強 制 処 分)を. も. 一 定 の 要 件 の 下 で 許 容 され るべ き と主 張 す る点 に特 徴 が あ る。 も っ と も, この よ うな 見 解 に対 して,通 説 的 見 解(後 述)か. らは,以 下 の よ うな 批 判. が 向 け られ る。 井 上 正 仁 は,憲 法31条 との 関係 で刑 訴 法197条1項. 但 書 を み る と き,そ こ. に実 質 的意 味 を 認 め る た め に は,「 国民 の 代 表 に よ る明 示 的 な選 択 を 体 言 す る法 律 」 に根 拠 規 定 が な い限 り当該 処 分 は許 され な い と解 釈 す るべ きで あ り,判 例 に よ る法 形 成 は,基 本 的 な 価 値 選 択 の 必 要 性 や,判 断 結 果 の 波 及 性 か ら妥 当で はな い と批 判 す る⑩。 井 戸 田侃 は,「 い わ ゆ る法 律事 項,つ ま り訴 訟 の 基 本 構 造 に関 す る事 項,及. び被 告 人 ・被 疑 者 の 重 要 な 利 害 に関. す る事 項 につ いて は,刑 訴 法 に も罪 刑 法 定 主 義 と い う刑 法 の 解 釈 原 理 を 容 れ る べ き で あ る」 と主 張 し,当 該 事 項 に つ い て は,「 裁 判 所 と い え ど 自 由 に法 創 造 す る こ と は許 され な い」 と して,刑 訴 法 に明 文 規 定 の な い新 しい 強 制 処 分 が許 容 され る余 地 を否 定 す る⑪。 久 岡 康 成 は,行 政 法 学 に お け る 個 人 の 自 由制 限 に対 す る法 律 の 留 保 理 論,強 制 処 分 法 定 主 義 に よ る令 状 等 の 手 続 の 明 定 と い った機 能 を 考 え る と,「 刑 事 手 続 き に 関 す る裁 判 に よ る 法 創 造 を,国 の 権 限 を 創 出す る方 向 で 考 え る こ と は難 し く… … 裁 判 に よ る 法 創 造 の 機 能 は,も っぱ ら 『少 数 者 』 の 利 益 に そ う方 向 で の み 考 え られ る べ き」 と主 張 す る⑫。. ⑩. 井 上 正 仁 『強 制 捜 査 と任 意 捜 査 』15頁(2006年,有. 斐 閣。 初 出 「任意 捜 査 と. 強 制 捜 査 の 区 別 」 松 尾 ・井 上 編 『刑 事 訴 訟 法 の 争 点(第3版)』(2002年))。 (ll)井 戸 田侃 「日本 の刑 事 法 に お け る特 色 」 天 野 他 編 「 裁 判 に よ る法 創 造 代 社 会 にお け る裁 判 の 機 能 ⑫. 』359,366頁(1989年,晃. 現. 洋 書 房)。. 久 岡 康 成 「刑 事 手 続 に お け る 裁 判 に よ る法 創 造 とデ ユ ー ・プ ロ セ ス」 立 命 243・244号253,274頁(1996年)。. 8.
(9) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). (2)独 立 関 係 説 これ に対 し,学 説 上,令 状 主 義 と強 制 処 分 法 定 主 義 と は独 立 の 関 係 に あ る と理 解 す る見 解 が,通 説 とな って い る。 この 見 解 は,前 者 は司 法 府 か ら の 規 制,後 者 は立 法 府 か らの 規 制 で あ り,両 者 の 機 能 は 自ず と異 な るの で あ るか ら,強 制 処 分 に関 して は,両 原 則 の要 請 を充 た さ な け れ ば な らな い, それ ゆえ,刑 訴 法 に明 文 規 定 の な い新 しい強 制 処 分 は,令 状 主 義 の 観 点 か らは と もか く,強 制 処 分 法 定 主 義 の 観 点 か らは許 容 され な い と主 張 す る。 この 見 解 は,多. くの 論 者 に よ り主 張 され るが,代 表 的 論 者 と して 次 の 者 を. 挙 げ る こ とが で き よ う。 三 井 誠 は,強 制 処 分 法 定 主 義 の 意 義 及 び 令 状 主 義 との そ の 関 係 に つ い て,「実 体 法 の原 理 で あ る罪 刑 法 定 主 義 に な ぞ らえ れ ば,こ こで い う「法 定 』 は,事 前 明 定 と い う 自 由主 義 ・人 権 主 義 お よ び それ を 国 民 の 代 表 が 定 め る と い う民 主 主 義 ・法 律 主 義 の 要 請 に基 盤 を お く… … 強 制 処 分 法 定 主 義 は, 運 用 上 の 枠 設 定(運 用 上 の 濫 用 規 制)と 強 制 処 分 内容 の 適 正 化(法 律 じた いの 明 確 ・適 正 さ)と い う二 重 の バ リア ー に よ り行 き過 ぎた 権 利 ・利 益 制 約 の 危 険 を 防 止 す る た めの 原 理 」で あ る と述 べ,「強 制 処 分 法 定 主 義 と令 状 主 義 とを 同視 す る見 解 」を 否 定 す る。 三 井 は,「 いか に憲 法 の 枠 内 に限 る と は いえ,法 律 の 定 めの な い 『運 用 』 に よ る強 制 処 分 の 活 用 は許 され な い」 と して,刑 訴 法 に定 め の な い新 しい強 制 処 分 は許 容 さ れ な い と主 張 す る(③ 。 井 上 正 仁 は,刑 訴 法197条1項. 但 書 を憲 法31条 と の関 係 で考 察 し,憲 法31. 条 の 「規 定 の 趣 旨 は,個 人 の 生 命 や 自 由な どの 重 要 な 権 利 ・利 益 を 奪 う処 分 で あ るの で,そ の 要 件 や 手 続 を 予 め法 律 で 明 示 して お くこ と に よ り,濫 用 を 防 こ う とす る もの だ と一 般 に解 さ れ て い る が,そ れ だ け に と どま ら ず,ま. さ に その よ う に重 要 な 国 民 の 権 利 ・利 益 を 奪 う処 分 で あ るの で,そ. も そ も その よ うな 処 分 を 用 い る こ とを 許 す か ど うか 自体,国 民 自身 が,そ ⑬. 三 井(前 掲 注(2))『刑 事 手 続 法(1)」79頁 。. 9.
(10) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. の 代 表 で あ る国 会 を 通 じて,意 識 的 か つ 明 示 的 に決 断 す べ きで あ る と い う 趣 旨 を も含 む もの と考 え るべ き」 と述 べ,強 制 処 分 法 定 主 義 と令 状 主 義 と の 関 係 につ いて,前 者 は 「そ も そ も刑 事 手 続 に お いて 当の 処 分 を 用 い る こ と を一 般 的 に許 す か 否 か の 判 断 を,誰 が どの よ うな 形 式 で 行 うか を 定 め る も の」,後 者 は 「許 す と した 場 合 の条 件 と手 続 を 規 律 す る もの」 で あ り, 両 者 は 「独 自の 意 義 を 持 つ 別 個 の 存 在 」 で あ る と主 張 す る。 井 上 は,そ の よ う な考 察 か ら,「人 の 重 要 な 権 利 ・利 益 を 本 人 の意 思 に反 して制 約 す る こ と を 内容 とす る強 制 処 分 は,国 民 の 代 表 に よ る明 示 的 な 選 択 を 体 言 す る 法律. な か で も,刑 事 手 続 に関 す る基 本 法 典 た る刑 事 訴 訟 法. 規 定 が な い限 り,行 う こ と は許 され な い」 と して,や. に根 拠. は り,刑 訴 法 に定 め. の な い新 しい強 制 処 分 の 許 容 性 を 否 定 す る⑭。 酒 巻 匡 は,憲 法31条 の 適 正 手 続 原 理 ・手 続 法 定 主 義 と強 制 処 分 法 定 主 義 の 意 義 を 考 察 す る に あ た り,強 制 処 分 法 定 主 義 は,憲 法31条 の 手 続 法 定 主 義 を受 け た規 定 で あ り,「 『強 制 の 処 分 』 につ いて は,国 民 代 表 で あ る国 会 の 制 定 す る実 質 的 意 味 の 『刑 事 訴 訟 法 』 に よ り,処 分 の 内容,要 件,手 続 が あ らか じめ一般 的 な 法 規 範 と して 定 立 され て いな けれ ばな らな い と い う の が その 中核 的 意 義 で あ る」 と述 べ,そ の 帰 結 と して,捜 査 機 関 が 法 律 に 特 別 の 根 拠 規 定 が な い その 性 質 上 「強 制 の 処 分 」 と評 価 しう る処 分 を 実 行 した 場 合 に は,直 は,さ. ち に 刑 事 訴 訟 法 上 違 法 と評 価 さ れ る と主 張 す る。 酒 巻. らに,手 続 法 定 原 則 は,捜 査 機 関 の み な らず,裁 判 所 ・司 法 府 の 活. 動 も統 制 す る原 理 で あ り,「 裁 判 所 が,令 状 審 査 ・発 付 の 機 会 や個 別 具 体 的 な 捜 査 機 関 の 活 動 に対 す る法 的 判 断 を 行 う に際 して,刑 事 手 続 法 規 ま た は憲 法 の 『解 釈 』 の 形 式 を 用 いて,法 律 に特 別 の 根 拠 規 定 の な い,し か し 性 質 上 『強 制 の 処 分 』 と評 価 し得 る処 分 の 内容,要 件,手 続 を 新 た に定 立 す るの と実 質 的 に異 な らな い判 断 を 行 う こ と」 も,や は り憲 法31条 に よ っ ω. 井 上(前 掲 注 ⑩)『 強 制 捜 査 と任 意 捜 査 」17頁 。. 10.
(11) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). て 禁 止 され て い る と述 べ て い る。 酒 巻 は,こ の 点 に つ い て,「刑 事 訴 訟 法 規 の 類 推 解 釈 は,強 制 処 分 法 定 主 義,ひ. いて は憲 法31条 に反 して 許 され な い. と い うべ きで あ る。 それ は,罪 刑 法 定 主 義 か ら類 推 解 釈 の 禁 止 が 導 か れ る の と 同様 で あ る」 と説 明 して い る⑮。. (3)判. 例. 他 方,最 高 裁 判 例 は,強 制 処 分 法 定 主 義 と令 状 主 義 との 関 係 につ いて, 明 示 で 判 断 を 示 した もの は見 当 た らな い。 換 言 す る と,明 示 で,具 体 的 事 例 で 問 題 とな っ た捜 査 機 関 の 行 為 を 刑 訴 法 上 規 定 の な い新 しい強 制 処 分 で あ る と位 置 づ け た上 で,そ の 許 容 性 が 判 断 され た例 はな い。 も っ と も,街 頭 で の デ モ行 進 の 状 況 を 警 察 官 が 写 真 撮 影 した行 為 を 適 法 と判 断 した 最 大 判 昭 和44年12月24日 刑 集23巻12号1625頁. は,こ の 問 題 につ いて 学 説 にお け. る議 論 の 端 緒 とな っ た事 例 で あ り,こ こで 概 観 して お こ う。 本 件 被 告 人 は,事 件 当時,私 立 大 学 生 で あ り,京 都 府 学 連 主 催 の デ モ行 進 に参 加 して い た際,途. 中で,京 都 府 公 安 委 員 会 の 与 え た 許 可 条 件 に違 反. した。 京 都 府 警A巡 査 は,あ. らか じめ許 可 条 件 違 反 等 の 視 察 ・採 証 を 命 じ. られ,私 服 で デ モ行 進 に 同行 して い たが,被 告 人 の 許 可 条 件 違 反 の 状 況 を 現 認 し,デ モ行 進 の 状 況 及 び違 反 者 を 確 認 す る た め,集 団 の 先 頭 部 分 の 行 進 状 況 を 写 真 撮 影 した。 これ に対 し,被 告 人 は,「 ど この カ メ ラ マ ンか 」 と難 詰 抗 議 し,A巡. 査 が これ を無 視 す る挙 動 に 出 た こ とか ら これ に憤 慨. し,デ モ隊 員 が 持 って い た旗 竿 を 取 り上 げて,そ の 根 元 の 方 でA巡 査 に暴 行 を 加 え,同 人 に治 療 約1週 間 を 要 す る傷 害 を 与 え た 。 被 告 人 は,デ モ行 進 許 可 条 件 違 反 に加 え て,傷 害 罪 及 び公 務 執 行 妨 害 罪 で 起 訴 され た た め, ⑮. 酒巻 匡 「 刑 事 手 続 法 の諸 問 題 59,60頁(2004年)。. 捜 査 に 対 す る法 的 規 律 の構 造(1)」法 教283号. な お,酒 巻 匡 「強 制 処 分 法 定 主 義 」 法 教197号(1997年). は,「197条 に い う 「こ の法 律 』 を刑 事 訴 訟 法 典 に 限 る理 由 は な い の で,新 た な 強 制 処 分 を 特 別 法 で 設 け る こ と は可 能 で あ ろ う」 と述 べ て い た 。. 11.
(12) 近畿大学法学. 裁 判 で は,A巡. 第56巻 第3号. 査 に よ る写 真 撮 影 行 為 の 適 法 性 が 問 題 とな っ た。 一一 審及 び. 控 訴 審 は,本 件 写 真 撮 影 行 為 を,任 意 処 分 で あ る と した 上 で,「 人 に た いす る写 真 撮 影 が 前 記 の 意 味 に お け る強 制 処 分 にわ た らず,捜 査 の た め に必 要 で あ り,か つ,公 共 の 福 祉 の 要 請 す る限 度 を 超 え な い もの と して 一般 的 に 容 認 され る方 法 に よ る捜 査 行 為 で あ る と き は,被 写 体 た る個 人 の 意 思 いか ん にか かわ りな く,こ れ をな し得 る もの とい わね ば な らな い。」(一一 審),「 人 に は所 論 の 如 き 肖像 権 が 認 め られ る と して も,現 に犯 罪 が 行 わ れ て お る場 合 に は現 行 犯 処 分 に準 じて,被 疑 者 の 意 思 に反 して も捜 査 の た めの 写 真 撮 影 は許 され る もの と解 す る の が相 当 で あ る」(控 訴 審)と 判 示 し,本 件 状 況 に お い て は 適 法 に 行 わ れ た もの と結 論 づ け た。 これ に 対 し,被 告 人 側 は,本 件 写 真 撮 影 は強 制 処 分 で あ り,無 令 状 で これ を 行 う こ と は令 状 主 義 に反 す る,こ の こ と は刑 訴 法218条2項. の 反 対 解 釈 か ら も明 らか で あ る等. と して 上 告 した。 最 高 裁 大 法 廷 は,以 下 の とお り判 示 し,上 告 を棄 却 した。. 「憲 法13条 は,『 す べ て 国 民 は,個 人 と して尊 重 さ れ る。 生 命,自. 由及び幸福追. 求 に対 す る国 民 の権 利 につ い て は,公 共 の福 祉 に反 しな い 限 り,立 法 そ の 他 の 国 政 の 上 で,最 大 の 尊 重 を 必 要 とす る。」 と規 定 して い るの で あ って,こ れ は, 国 民 の 私 生 活 上 の 自 由が,警 察 権 等 の 国家 権 力 の行 使 に 対 して も保 護 され るべ き こ と を規 定 して い る もの と い うこ と が で き る。 そ して,個 人 の 私 生 活 上 の 自 由の 一・ つ と して,何 人 も,そ の承 諾 な しに,み だ りに そ の 容 ぼ う ・姿 態(以 下 「容 ぼ う等 」 と い う。)を 撮 影 さ れ な い 自 由 を有 す る もの とい うべ き で あ る。 こ れ を 肖像 権 と称 す るか ど う か は別 と して,少 な く と も,警 察 官 が,正 当 な 理 由 もな いの に,個 人 の容 ぼ う等 を撮 影 す る こ とは,憲 法13条 の 趣 旨に 反 し,許 さ れ な い もの と い わな けれ ば な らな い。 しか しな が ら,個 人 の 有 す る右 自由 も, 国 家 権 力 の 行 使 か ら無 制 限 に保 護 さ れ る わ け で な く,公 共 の 福 祉 の た め 必 要 の あ る場 合 に は相 当の 制 限 を受 け る こ と は 同条 の 規定 に照 ら して 明 らか で あ る。. 12.
(13) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). そ して,犯 罪 を 捜 査 す る こ と は,公 共 の福 祉 の た め警 察 に与 え られ た 国 家 作 用 の 一 つ で あ り,警 察 に は これ を 遂 行 す べ き責 務 が あ るの で あ るか ら(警 察 法2 条1項 参 照),警 察 官 が犯 罪 捜 査 の必 要 上 写 真 を撮 影 す る 際,そ の 対 象 の 中 に犯 人 の み な らず 第 三 者 で あ る個 人 の容 ぼ う等 が含 ま れ て も,こ れ が 許 容 され る場 合 が あ り う る もの とい わ な けれ ば な らな い 。[原 文 改 行]そ こで,そ の 許 容 され る限 度 につ いて 考 察 す る と,身 体 の拘 束 を受 け て い る被 疑者 の 写 真 撮 影 を 規 定 した 刑 訴 法218条2項. の よ うな 場 合 の ほか,次 の よ うな場 合 に は,撮 影 され る本. 人 の 同 意 が な く,ま た裁 判 官 の令 状 が な くて も,警 察 官 に よ る個 人 の 容 ぼ う等 の 撮 影 が 許 容 され る も の と解 す べ き で あ る。 す な わ ち,現 に 犯 罪 が 行 な わ れ も し くは行 な わ れ たの ち 間が な い と認 め られ る場 合 で あ って,し か も証 拠 保 全 の 必 要 性 お よ び緊 急 性 が あ り,か つ そ の撮 影 が一 般 的 に許 容 され る限 度 を こえ な い相 当 な 方 法 を も って 行 な わ れ る とき で あ る。 この よ うな場 合 に 行 な わ れ る警 察 官 に よ る写 真 撮 影 は,そ の対 象 の 中 に,犯 人 の容 ぼ う等 の ほ か,犯 人 の 身 辺 また は被 写 体 と され た物 件 の近 くに い た た め これ を 除外 で き な い 状 況 にあ る第 三 者 で あ る個 人 の容 ぼ う等 を含 む こ とに な って も,憲 法13条,35条. に 違 反 しな. い もの と解 す べ きで あ る。」. 最 高 裁 は,上 記 判 示 の と お り,本 件 写 真 撮 影 行 為 を 刑 訴 法 上 の 強 制 処 分 に該 当す るか 否 か につ いて 明 示 す る こ とな く,も っぱ ら憲 法 レベ ル で そ の 許 容 性 を 判 断 した。 この 点 につ いて,最 高 裁 調 査 官 解 説(海 老 原 震 一)は, 「捜 査 の 手 段 と して の 写 真 撮 影 は,刑 訴 法 の 予 想 しな か った と ころ で あ る か ら,こ れ を 強 制 処 分 で あ る とか 任 意 捜 査 で あ る とか 云 い切 って しま う こ とな く,憲 法 の 精 神 を 勘 案 して,適. 当な 基 準 を 定 め るの が 相 当 」 で あ る と. 説 明 した こ とか ら⑯,学 説 上,街 頭 で の デ モ行 進 を 写 真 撮 影 す る行 為 の 適 法 性 を 如 何 に判 断 す るか につ いて,大 ㈹. きな 議 論 を 惹 起 す る こ と にな った 。. 海 老 原 震 一 ・昭 和44年 度 最 判 解 刑 事 篇479,493頁(1970年)。. 13.
(14) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. 本 件 の よ うな 形 態 で の 写 真 撮 影 が 強 制 処 分 に該 当す るか 否 か につ いて の 問 題 は,後 述 で 詳 細 に検 討 す る こ と とす る。. (4)若 干 の 検 討 以 上 の と お り,昭 和44年 最 大 判 を 嗜 矢 と して,強 制 処 分 に対 す る法 的 コ ン トロ ール で あ る強 制 処 分 法 定 主 義 と令 状 主 義 の 関 係 を 如 何 に理 解 す るか を め ぐ り,刑 訴 法 上 に明 文 規 定 の な い新 しい強 制 処 分 の 許 容 性 を 争 点 と し て,学 説 上 活 発 に議 論 され て き た。 こ こで,こ の 問 題 につ いて,若 干 の 検 討 を加 え て お き た い。 まず,捜 査 に あ た り,特 定 の 市 民 が,如 何 な る場 面 で,如 何 な る権 利 ・ 利 益 につ いて 制 約 を 受 け るか と い う実 体 的 観 点 か らは,憲 法 レベ ル で の 考 察 が 必 要 で あ る。 市 民 が 憲 法 よ り保 障 され るべ き権 利 ・利 益 は,常 に その す べ て が 絶 対 的 に保 障 され る と い う もの で はな く,一 一 定の合理的な理 由に 基 づ く制 約 を 受 け う る こ と は否 定 で きな い。 しか し,そ の よ うな 権 利 ・利 益 は,「 公 共 の 福 祉 に 反 しな い 限 り,立 法 そ の他 の 国 政 の 上 で,最 大 の 尊 重 」 が な さ れ な け れ ば な らず(憲 法13条),そ. の 制 約 に あ た って は,そ れ. に よ って 達 成 され るべ き利 益 との 関 係 に お いて,合 理 的 な バ ラ ン スが 図 ら れ な けれ ばな らな い。 その 意 味 で は,令 状 主 義 重 視 説 が 考 え る よ う に,少 な くと も憲 法 レベ ル に お け る権 利 ・利 益 制 約 の 当否 に あ た り,下 位 法 で あ る刑 訴 法 の 解 釈 も,憲 法 の 許 容 す る範 囲 に お いて 合 理 的 な 結 論 を 追 求 す る よ う方 向 付 け られ な けれ ばな らな い。 しか し,憲 法 は,国 家 が 市 民 の 権 利 ・利 益 に制 約 を 加 え る こ との 当否 と い う,実 体 的 な 衡 量 の み な らず,仮. に具 体 的 場 面 に お いて 権 利 ・利 益 の 制. 約 が 許 容 され る と きで も,な お,当 該 行 為 が 手 続 的 に適 正 な もの と して 実 施 さ れ る こ と も要 求 して い る。 刑 事 手 続 に 関 す る基 本 法 で あ る 憲 法31条 は,明 示 で 手 続 の 法 定 を 要 求 して い るが,同 条 の 解 釈 と して,そ 14. こで い う.
(15) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). 手 続 が 適 正 な もの で あ る こ とが 要 求 され る こ と に争 い はな い。 す な わ ち, 国 家 は,市 民 の 権 利 ・利 益 の 制 約 に あ た り,当 該 制 約 の 可 否 の み な らず, その 仕 方 に お いて も憲 法 に拘 束 を 受 け るの で あ る。 そ れ ゆえ,刑 訴 法 上 の 強 制 処 分 に関 す る法 的 コ ン トロ ール に関 して も,憲 法31条 の 解 釈 如 何 が 決 定 的 で あ る。 そ こで 改 めて 憲 法31条 を 確 認 す る と,同 条 は,市 民 が 刑 事 制 裁 を 受 け る に あ た っ て,そ. の 手 続 が 適 正 に 行 わ れ る べ き こ と を 保 障 す る(広 義 の. デ ュ ー ・プ ロセ ス)。 本 条 は,そ の手 段 と して,前 述 の と お り,① 手 続 の 法 定 性(手 続 法 定 原 則)と,②. 手 続 の 適 正 性(狭 義 の デ ュー ・プ ロセ ス). を 要 求 す る。 まず,① 手 続 法 定 原 則 は,憲 法 の 一般 原 則 で あ る,市 民 の 権 利 ・利 益 を 実 質 的 に制 約 す る に あ た って は法 律 に よ る根 拠 が 必 要 で あ る とす る 「法 律 の 留 保 」 は,当 然 な が ら,市 民 の 権 利 ・利 益 へ の 最 も切 実 な 介 入 とな る刑 事 手 続 に お いて も 当然 に妥 当す るべ き こ とを 定 めた もの で あ る。 この よ う な 観 点 か ら刑 訴 法 の 規 定 を み る と,刑 訴 法197条1項. が,捜 査 に あた って の. 総 則 的 ・包 括 的 な 授 権 規 定 で あ る こ とが 確 認 され る。 す な わ ち,同 条 項 本 文 は,捜 査 を 行 う に あ た り 「目的 を 達 成 す る た め必 要 な 取 調 」 を 許 容 して い るが,こ れ は,任 意 捜 査 の み な らず 強 制 処 分 を 用 いた 強 制 捜 査 も含 めた 包 括 的 な授 権 規 定 で あ る と解 され る⑰。 も ち ろん,捜 査 を行 うに あ た り, 比 例 原 則 が 妥 当す る こ とか ら,任 意 捜 査 が 原 則 と され るべ きで あ るが,本 文 規 定 は,こ れ に よ り,必 要 が あれ ば強 制 捜 査 も行 い う る こ とを 定 めた も の で あ る こ と も否 定 で きな い。 も っ と も,刑 訴 法197条1項. は,さ ら にそ の. 但 書 に お い て,「 強 制 の 処 分 は,こ の法 律 に特 別 の定 の あ る場 合 で な けれ. ⑰. これ に対 し,刑 訴 法197条1項. の 構 造 につ いて,本 文 を 任 意 捜 査,但 書 を 強 制. 捜 査 に関 す る規 定 で あ る と理 解 す る 見解 が 多数 説 とな って い る(香 城 敏 麿 「判 例 解 説 」 昭 和51年 度 最 判 解 刑 事 篇64,69頁(1980年))。. 15.
(16) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. ば,こ れ を す る こ とが で きな い」 と規 定 し,こ れ に よ って 強 制 処 分 法 定 主 義 を宣 言 す る。 す な わ ち,こ の 但 書 規 定 は,本 文 で 一般 的 に許 容 され た捜 査 活 動 に つ い て,「 強 制 の 処 分 」 を使 用 す る こ とに 制 限 を 課 し,こ の 法 律 (す な わ ち刑 訴 法)に 特 別 の 根 拠 規 定 を お か な け れ ば 使 用 制 限 は解 除 され な い と い う こ とを 意 味 す る。 そ して,刑 訴 法197条1項. は,こ の よ うな 本 文. と但 書 とが あ い ま って,憲 法31条 に よ る手 続 法 定 原 則 を 具 体 化 して い るの で あ り,刑 訴 法197条1項. 全 体 が憲 法31条 違 反 で あ る と い わ な い 限 り,そ の. 規 定 内容 に例 外 を 認 め る こ と は,憲 法 上 許 され な い と いわ な けれ ばな らな い。 その 意 味 で,新. しい強 制 処 分 を 想 定 し,こ れ につ いて は強 制 処 分 法 定. 主 義 の規 律 を 受 け な い とす る令 状 主 義 重 視 説 は,憲 法31条 と刑 訴 法197条 1項 との 関 係 を 見 誤 る もの で あ り,妥 当で はな い。 次 に,② 手 続 の 適 正 性 か らも,令 状 主 義 重 視 説 は,令 状 主 義 自体 を 完 結 的 な 目的 と位 置 づ け る点 で 妥 当で はな い。 す な わ ち,憲 法31条 は,前 述 の と お り,適 正 手 続 を も保 障 す べ き もの と理 解 され るが,そ の実 質 的 内容 は, 憲 法32条 以 下 及 び刑 訴 法 の 各 規 定 に具 体 化 され て い る。 す な わ ち,令 状 主 義 は,そ れ 自体 が 目的 で あ るの で はな く,手 続 が 適 正 で あ る た めの 一一 手段 と して 位 置 づ け られ な けれ ばな らな い。 す な わ ち,令 状 主 義 は,逮 捕 や 捜 索 押 収 と い っ た典 型 的 な 強 制 処 分 に関 して は,一 一 部 の 例 外 を 除 いて,事 前 に裁 判 官 に よ る司 法 審 査 を 得 た上 で な けれ ば これ を 行 う こ とが で きな い も の と定 め,こ れ に よ って 強 制 処 分 に対 す る法 的(司 法 的)コ. ン トロ ール を. 及 ぼす もの で あ るが,手 続 の 適 正 性 は これ に尽 き る もの で はな い。 取 調 に 際 して 拷 問 等 を 禁 止 し黙 秘 権 を 保 障 す る こ と(憲 法36条,38条1項,2 項),身 柄 拘 束 に 際 して の弁 護 人 依 頼 権 の保 障(憲 法34条),刑 対 す る 諸 権 利 の保 障(憲 法37条),一. 事被告人 に. 事 不 再 理 の 保 障(憲 法39条)な. ど憲. 法 に列 挙 され た諸 規 定 を み るだ けで も,手 続 の 適 正 性 が 令 状 主 義 の み に よ るの で はな い こ とが 伺 わ れ る。 逮 捕 勾 留 に関 す る時 間 制 限(刑 訴 法203条 乃 16.
(17) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). 至208条)な. ど,刑 訴 法 に列 挙 さ れ た諸 規 定 も,全 体 と して,手 続 の適 正. 性 を 担 保 す る もの と いえ よ う。 この よ うな 観 点 か ら は,手 続 内容 の 適 正 性 は,特 に強 制 処 分 に関 して は,事 前 の 司 法 審 査 を 原 則 的 に要 求 す る令 状 主 義 に加 え て,捜 査 機 関 が 市 民 の 権 利 ・利 益 を 制 約 す る に あた って そ れ を ど の よ うな 手 続 で 行 うべ きか を 法 定 す る こ と,す な わ ち,適 正 内容 の 手 続 が 法 定 され て い る こ とを 要 求 す る もの と解 され る。 す な わ ち,こ こで も,強 制 処 分 法 定 主 義 は,単 に,令 状 主 義 を 担 保 す る と い う機 能 に と ど ま るの で はな く,強 制 処 分 を 行 う に あ た って それ 以 外 に も留 意 され な けれ ばな らな い手 続 の 方 式 を 厳 格 に法 定 して お くこ と に よ り,手 続 内容 の 適 正 性 を 保 障 す るべ き法 原 則 な の で あ る。 強 制 処 分 は,非 強 制 処 分 と は異 な り,手 続 の 細 目を 捜 査 機 関 の 裁 量(及. び比 例 原 則 に よ る実 質 的 衡 量)に. ゆだ ね るの で. はな く,予 め立 法 に よ り明 確 に規 定 して お くこ と に眼 目が あ り,こ の 点 に お いて ま さ に,手 続 の 法 定 性 は,適 正 手 続 保 障 及 び法 治 国 家 的 刑 事 手 続 保 障 の 中核 を な す もの と いわ な けれ ばな らな い。 以 上 の 考 察 か らは,強 制 処 分 法 定 主 義 は,単 に刑 訴 法 上 の 要 請 に と ど ま るの で はな く,憲 法31条 に基 づ く適 正 手 続 保 障(手 続 法 定 原 則 及 び手 続 の 適 正 性)の 観 点 か ら要 請 され る法 原 則 で あ り,強 制 処 分 を 行 う に あた って 遵 守 され るべ き絶 対 的 な もの と して 存 在 して い るの で あ る。 つ ま り,強 制 処 分 を 行 う に あ た り,憲 法 及 び刑 訴 法 の 諸 規 定 にみ る よ う に,令 状 を 不 要 とす る場 合 は あ るが(つ ま り,令 状 要 件 の 採 否 は,憲 法 所 定 の場 合 を 除 き, 立 法 者 の判 断 に ゆ だ ね られ る),授 権 規 定 及 び実 施 規 定 を 不 要 とす る場 合 はな い。 この よ う に して,強 制 処 分 法 定 主 義 は,令 状 主 義 との 関 係 にお い て,そ の 下 位 に おか れ るべ きで はな いだ けで な く,そ の 上 位 に位 置 づ け ら れ るべ き もの で あ る と解 され る(「 強 制 処 分 法 定 主 義 重 視 説 」)。. 17.
(18) 近畿大学法学. 2.強. 第56巻 第3号. 制 処 分 該 当性 の 具 体 的 基 準. 次 に,刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 につ いて,そ の 該 当性 を 判 断 す る た め の 具 体 的 基 準 を 検 討 す る。 この 問 題 につ いて,従 来,主 の 行 為 態 様 に着 目す る見 解(形 式 的 基 準)と,処. と して 捜 査 機 関 側. 分 を 受 け る側 の 権 利 ・利. 益 へ の 侵 害 性(実 質 的 基 準)に 着 目す る見 解 とが 対 立 して き た。. (1)形 式 的 基 準 第 一 の 見 解 は,捜 査 機 関 側 の 行 為 態 様 に着 目 し,直 接 強 制(直 接 的 ・有 形 的 な 実 力 行 使)及. び間 接 強 制(制 裁 を 予 定 した義 務 付 け)を 伴 う処 分 が. 強 制 処 分 に あ た る とす る見 解 で あ る。 後 述 す る被 処 分 者 側 の 権 利 ・利 益 侵 害 へ 着 目す る ア プ ロ ー チが,い わ ば実 質 的 基 準 と評 価 しう る こ とか ら,本 説 は,捜 査 機 関 側 の 行 為 態 様 と い う形 式 的 基 準 に よ る もの と い って よ いだ ろ う。 この 見 解 は,旧 法 当時 に お いて 学 説 上 支 配 的 とな って い た もの で あ る。 例 え ば,小 野 清 一一 郎 は,強 制 処 分 と は,狭 義 に お いて は 「人 又 は物 に対 し て 物 理 的 力 を 及 ぼ し得 る場 合 」(例 え ば,勾 引,勾 留,押 収,捜. 索),広 義. に お い て は 「或 る特 別 の 義 務 を命 ず る場 合 を含 む」(例 え ば,召 喚,提. 出. 命 令)と 述 べ て い る(18)。 も っ と も,旧 法 当 時,強 制 処 分 の権 限 は,基 本 的 に予 審 判 事 等 の 裁 判 官 に あ り,捜 査 機 関 に よ る強 制 処 分 を 特 に問 題 とす る 必 要 は,少 な くと も理 論 上 は,現 行 法 よ り も著 し く小 さか った。 そ れ ゆ え, 強 制 処 分 該 当性 の 基 準 につ いて も,既 存 の 法 定 され た制 度 を 説 明 付 け る も の で あれ ば足 りた と いえ よ う。 こ の よ う な 形 式 的 基 準 は,現 行 法 の 時 代 に 入 って も,し ば ら く有 力 で あ っ た。 主 だ っ た教 科 書 を 概 観 す る と,例 え ば,「相 手 方 に義 務 を 負 わ せ る. ㈹. 小 野 清 一 郎 『刑 事 訴 訟 法 講 義(全 訂 第3版)』237頁(1933年,有. 18. 斐 閣)。.
(19) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). 場 合 」(平 場 安 治 ⑲),「直 接 的 に物 理 的 な力 を加 え る場 合 と,あ る こ とを 命 じ相 手 方 に そ れ に応 ず べ き 法 的 義 務 を 課 す る に と ど ま る 場 合(両 者 を 含 む)」(高 田卓 爾 ⑳),「物 理 的 な 強 制 だ け で な く,観 念 的 な 義 務 を 負 わ せ る 場 合 も含 む 」(平 野 龍 一 ⑳)と い った記 述 に と どま り,そ れ 以 上 の 基 礎 付 け が な され る ことな く,現 行 法 既 存 の各 処分 の説 明 に移 るのが 通例 で あ った。 も っ と も,こ の よ うな 見 解 か らは,例 え ば,職 務 質 問 に際 し対 象 者 が 質 問 を 拒 否 して 立 ち去 ろ う と した場 合,警 察 官 は,腕 に手 を か けて 引 き留 め る行 為 は,物 理 力 ・有 形 力 の 行 使 と して も はや 強 制 処 分 に あた り,許 され な い と い う こ と にな る。 しか し,警 職 法2条1項. で は,「停 止 させ て 質 問 す. る こ とが で き る」 と規 定 され て お り,有 形 力 行 使 を 一 切 許 さな い と解 す る の は妥 当で はな い と し,警 察 官 に よ る暴 力 と も,強 制 と も い いが た い 「実 力 」 の 行 使 は,少 な くと も強 制 処 分 の 範 疇 か ら除 外 され るべ き との 見 解 が 主 張 さ れ る に い た る⑳。 この よ うな見 解 は,従 来 の 通 説 的 見 解 が有 形 力 行 使 の 有 無 を 問 題 と して き たの に対 し,そ の 幅 を 認 め,有 形 力 行 使 の 程 度 に 着 目す る見 解 で あ る と いえ よ う。. (2)実 質 的 基 準 これ に対 し,現 在,学 説 上 支 配 的 とな って い るの が,捜 査 機 関 側 の 行 為 態 様 に加 え て,又. は専 ら,被 処 分 者 側 の 権 利 ・利 益 の 侵 害 性 に着 目す る見. 解 で あ る。 この 見 解 は,昭 和51年 最 決(後 述)を 機 縁 と して,学 説 上 普 及 した もの で あ るが,プ. ラ イバ シ ー等 の 無 形 的 な 権 利 ・利 益 が 重 要 視 され る. につ れ,通 信 傍 受 や 身 分 秘 匿 的 捜 査 な ど隠 密 的 又 は詐 術 的 な 捜 査 手 段 も, 対 象 者 の 側 か らす る と権 利 ・利 益 の 侵 害 に お いて 異 な る と こ ろ はな い こ と ⑲. 平 場 安 治 「刑 事 訴 訟 法 講 義(改 訂 版)」339頁(1954年,有. ⑳. 高 田卓 爾 「刑 事 訴 訟 法(2訂. ⑳. 平 野 龍 一 「刑 事 訴 訟 法 」82頁(1958年,有. ⑳. 出射 義 夫 「任 意 ・実 力 ・強 制 」 ジ ュ リ65号14頁(1954年)。. 版)」143(1984年,青. 19. 斐 閣)。. 林 書 院)。. 斐 閣)。.
(20) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. に着 目 され た こ と に よ る。 も っ と も,こ の 実 質 的 基 準 説 も,そ の 意 味 内容 に お いて 統 一一 で はな い。 第 一 に,被 処 分 者 の 権 利 ・利 益 の 侵 害 又 は その 危 険 が あ る場 合 に,強 制 処 分 該 当性 を 認 め る見 解 が あ る。 例 え ば,光 藤 景 咬 は,判 例(後 述 昭 和51 年 最 決)の 見 解 に よ る と,被 処 分 者 の 法 益 を 相 当程 度 侵 害 す る もの も任 意 処 分 と され る こ と とな るが,い. っ たん 任 意 処 分 に分 類 され る と 「一般 的 に. 許 容 され た上 で しぼ りが か け られ る と考 え られ 易 い」 た め,必 要 性,緊 急 性,相. 当性 に よ る限 定 機 能 も きわ めて 微 弱 な もの とな る こ とか ら,「権 利 ・. 法 益 の 侵 害 又 は侵 害 の 危 険 が あ る ば あ い は,で き るだ け強 制 処 分 と して 捉 え,一 般 的 に禁 止 され るが 例 外 的 に許 容 され る と して その 要 件 や 手 続 を 厳 格 に考 え て ゆ く方 が,憲 法31条 の 適 正 手 続 の 保 障 の 趣 旨か ら して 一般 的 に 妥 当な 方 法 」(下 線 辻 本,以 下 同 じ)で あ る と主 張 す る㈱。 山本 正 樹 は,や は り権 利 侵 害 ・危 殆 化 は 有 形 力 行 使 の 場 面 に 限 られ な い との 理 解 か ら, 「強 制 処 分 と は,従 来 の 強 制 力(有 形 力 の 行 使 も含 む)を 伴 う場 合 を 中 心 に して,憲 法 に よ り認 め られ た権 利 侵 害 と い う共 通 項 に よ りその 外 延 が 広 げ られ た もの と考 え るべ きで あ る。」 と主 張 す る⑳。 これ に対 し,第 二 に,権 利 ・利 益 侵 害 の 程 度 又 は その 質 を 問 う見 解 が あ る。 す な わ ち,こ の 見 解 は,第 一一 説 が 権 利 ・利 益 侵 害(又. は その 危 険)の. 存 否 に よ り決 定 し,比 較 的 広 く強 制 処 分 を 理 解 す るの に対 し,こ れ を 限 定 す るべ く,権 利 ・利 益 侵 害 の 程 度 に着 目 し,そ の 実 質 的 な 侵 害 性 を 強 制 処 分 該 当性 の 基 準 とす る もの で あ る。 例 え ば,井 上 正 仁 は,「相 手 の 意 思 に反 す る と い うだ けで,直. ち に強 制 処 分 で あ る と は いえ ま い。 客 観 的 にみ て 何. ら保 護 され るべ き権 利 や 利 益 の 侵 害 もな いの に,た だ 当事 者 の 意 思 に反 す. ㈱. 光 藤 景 咬 『刑 事 訴 訟 法1」28頁(2007年,成. ⑳. 山 本 正 樹 「強 制 処 分 法 定 主 義 と強 制 処 分 」『中山 研 一 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集(第 5巻)刑. 法 の 展 開 」65,76頁(1997年,成. 20. 文 堂)。 文 堂)。.
(21) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). るか らと い うだ けで,刑 事 訴 訟 法 上 の 特 別 の 根 拠 規 定 を 必 要 とす るの は, 過 当な 要 求 」で あ る と述 べ,「 お よ そ何 らか の 権 利 や 利 益 の 制 約 が あれ ば強 制 処 分 だ と い うわ けで はな く,や は り,そ の よ うな 法 定 の 厳 格 な 要 件 ・手 続 に よ って 保 護 す る必 要 の あ る ほ ど重 要 な 権 利 ・利 益 に対 す る実 質 的 な 侵 害 な い し制 約 を 伴 う場 合 に は じめて,強 制 処 分 と い う こ と にな る」 と主 張 す る。 井 上 の 見 解 は,重 要 な 権 利 ・利 益 の 侵 害 ・制 約 に着 目す る もの で あ るが,井 上 自身 が 述 壊 す る よ う に,権 利 ・利 益 侵 害 の 「程 度 」 を 考 慮 す る と い うの で はな く,侵 害 ・制 約 され る権 利 ・利 益 の 「質 」 に着 目 して,「 重 要 な権 利 ・利 益 」 の 侵 害 ・制 約 の 有 無 を 問 う もの で あ る⑳。 他 方,三. 井誠. は,「捜 査 は,進 ん で協 力 す る場 合 は別 と して,ど の よ うな 処 分 で あれ 大 な り小 な り相 手 方 の 権 利 ・利 益 を 制 約 す る面 が あ る こ と は否 定 で きな い。 し たが って,程 度 を 考 慮 しな けれ ば大 部 分 の 捜 査 活 動 が 強 制 処 分 の 範 疇 に入 る こ と に もな りか ね な い。」 と述 べ,や は り,「 相 手 方 の 権 利 ・利 益 を 実 質 的 に侵 害 ・危 殆 化 す る処 分 で あ るか 否 か を 一般 的 な メル クマ ー ル とす るの が 妥 当で あ ろ う」 と主 張 す る。 三 井 の 見 解 は,井 上 と 同様,単 な る権 利 ・ 利 益 侵 害 の 有 無 だ けで な く,そ れ が 実 質 的 な もの で あ る こ とを 要 求 す る も の で あ るが,井 上 と は異 な り,権 利 ・利 益 侵 害(乃 至 そ の 危 険)の 程 度 を 問 う もの で あ る こ と に注 意 が 必 要 で あ る⑳。. (3)判. 例. 強 制 処 分 該 当性 が 問 題 とな っ た事 例 は多 数 にの ぼ るが,個 別 の 検 討 は後 述 に譲 り,こ こで は,総 論 的 考 察 と して 特 に重 要 な 事 例 を 概 観 して お く。 ㈲ ⑳. 井 上(前 掲 注 ⑩)『 強 制 捜 査 と任 意 捜 査 』10頁 。 三 井(前 掲 注(2))『刑 事 手 続 法(1)」80頁。 例 え ば,尾 行 や 張 り込 み と い った 捜 査 手 段 は,井 上 説 か ら は,質 的 に強 制 処 分 で は な い と され るの に 対 し,三 井 説 か ら は,そ の期 間 が 長 期 に わ た る な ど一 定 程 度 を超 え る場合 に は 強 制 処 分 に該 当 す る と され る点 に,両 説 の 違 いが 認 め られ よ う。. 21.
(22) 近畿大学法学. ①. 第56巻 第3号. 最 決 昭 和29年7月15日. 刑 集8巻7号1137頁. 本 件 は,被 告 人 は,夜 間 道 路 上 で 警 ら中の 警 察 官 か ら職 務 質 問 を 受 け, 巡 査 駐 在 所 に任 意 同行 され 所 持 品 等 につ き質 問 を 受 けて い た途 中で 隙 を み て 逃 出 したが,警 察 官 が 更 に質 問 を 続 行 す るべ く追 跡 して 背 後 か ら腕 に手 をか け停 止 させ た際,警 察 官 に暴 行 を 加 え た た め,公 務 執 行 妨 害 の 現 行 犯 で 逮 捕 され た と い う事 例 で あ る。 特 に,被 告 人 が 逃 出 した後,追 跡 し,背 後 か ら手 を か け る と い う有 形 力 が 行 使 され た点 が,強 制 処 分 に あ た るか が 問 題 とな っ た。 第 一一 審 は,「 被 告 人 を現 行 犯 人 若 し くは 緊 急 逮 捕 を 要 す る犯 人 と認 め る べ き理 由 もな く,H巡 ら,H巡. 査 等 も その よ う に認 めて いな い こ とが 認 め られ るか. 査 等 は も早 引続 き被 告 人 に対 し職 務 質 問 を続 行 し得 べ き で は な. く,(こ の こ とは 刑 事 訴 訟 法 第198条 第1項. 但 書 の 趣 旨 か ら も明 らか で あ. る。)い わ ん や 実 力 を行 使 し得 な い こ と は い うま で もな い。 然 る にH巡 査 は懸 命 に逃 げ る被 告 人 を 約130メ ー トル 追 っ て追 い つ き,同 人 を 引止 め よ う と して その 体 に手 を か け逮 捕 的 行 為 に 出 たの で あ るか ら,右 は適 法 な 職 務 行 為 の 範 囲 を 逸 脱 し,違 法 で あ る。」 と判 示 し,公 務 執 行 妨 害 罪 の 成 立 を否 定 した。 これ に対 し,控 訴 審 は,「停 止 させ る に必 要 な 手 段 方 法 は客 観 的 に妥 当で あ る と判 断 され る適 切 な 手 段 方 法 を 選 ぶ べ く,決 して 暴 行 に亘 るべ き態 度 に 出づ べ きで な い こ と は勿 論 の こ とで あ るが 斯 か る手 段 方 法 で あ る 限 り多 少 の 実 力 を 加 え る こ と も正 当 性 の あ る職 務 執 行 上 の 方 法 で あ る」 と判 示 し,一 審 判 決 を 破 棄 し,自 判 の うえ 有 罪 と した。 これ に対 し, 被 告 人 側 が 上 告 したが,最 高 裁 は,特 段 の 判 示 な く原 判 決 を 支 持 し,上 告 を棄 却 した。 本 件 で は,第 一一 審 と控 訴 審(及. び上 告 審)と で 結 論 が 分 か れ た。 その 理. 由 は,第 一審 は,強 制 に至 らな い 「実 力 」 の 行 使 を 許 され な い もの と し, いわ ば有 形 力 行 使 の 有 無 を 問 う もの で あ っ たの に対 し,控 訴 審 は,有 形 力 22.
(23) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). 行 使 の 程 度 を 問 題 と し,強 制 に至 らな い実 力 の 行 使 を 許 容 す る と い う点 に あ る。 最 高 裁 は,控 訴 審 の 結 論 を 支 持 した もの で あ り,こ の 時 点 で は,強 制 に至 らな い実 力 を 許 容 す る立 場 で あ っ た と評 価 で き よ う。 も っ と も,か か る結 論 に対 し,調 査 官 解 説(寺 尾 正 二)は,被. 告 人 が 逃 出 した 後,な お. も警 察 官 が 追 跡 して 質 問 を 続 行 しよ う と した点 は,も はや 正 当 な 公 務 執 行 と は いえ ず,仮. に 「質 問 続 行 を 続 行 しう る,従 って そ の た めの 停 止 措 置 を. と り うる と解 して も,被 告 人 と して は130メ ー トル も追 い か け られ て 身 体 に手 を か け られ たの で あ るか ら,逮 捕 され る もの と誤 信 して 反 抗 した と認 め る こ とが 妥 当で あ り,か く誤 信 した こ と につ き過 失 もな か った とみ られ る」(誤 想 防 衛 と して 責 任 阻却 を 認 め う る)と 述 べ,実 力 行 使 を許 容 す る 見 解 の 不 確 実 さを 指 摘 して い る⑳。. ②. 最 大 判 昭 和44年12月24日 刑 集23巻12号1625頁(前. 本 件 は,前 述(二1(3))の. 掲). と お り,街 頭 で の デ モ行 進 に際 し許 可 条 件 に. 違 反 す る と い う現 行 犯 状 況 が 生 じた こ とか ら,同 行 して いた 私 服 警 察 官 が そ の状 況 を証 拠 と して 保 全 す る た め写 真 撮 影 した行 為 の 適 法 性 が 問題 と な っ た事 例 で あ る。 か か る行 為 の 評 価 につ き,第 一 審 で は,強 制 処 分 該 当 性 が 否 定 され たの に対 し,控 訴 審 で は,任 意 処 分 で あ る と しつ つ 現 行 犯 処 分 に 準 じて許 容 さ れ る と判 示 さ れ た こ とか ら,最 高 裁 の 判 断 が 注 目 され た。 す な わ ち,も っぱ ら捜 査 機 関 側 の 行 為 態 様 に着 目 し,被 処 分 者 に対 す る有 形 力 行 使 の 有 無(乃 至 その 程 度)が 問 わ れ るな ら ば,本 件 の よ う に, いわ ば無 形 の 権 利 ・利 益 で あ る プ ラ イバ シ ー権(肖 像 権)に 対 す る侵 害 は お よ そ強 制 処 分 に は あ た らな いの で はな いか が,正 面 か ら問 わ れ る こ と と な っ たの で あ る。 も っ と も,最 高 裁 大 法 廷 は,強 制 処 分 該 当 性 の 判 断 に は 立 入 らず,も ⑳. っぱ ら憲 法 レベ ル で の 許 容 性 判 断 に終 始 した こ とか ら,こ の. 寺 尾 正 二 ・昭 和29年 度 最 判 解 刑 事 篇191,197頁(1955年)。. 23.
(24) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. 時 点 で の 最 高 裁 の 立 場 は,明 確 で はな い。. ③. 最 決 昭 和51年3月16日. 刑 集30巻2号187頁. 本 件 は,警 察 官 が,酒 酔 い運 転 の 容 疑 が 濃 厚 で あ る被 疑 者 を その 同意 を 得 て 警 察 署 に任 意 同行 し,同 人 の 父 親 を 呼 び呼 気 検 査 に応 じる よ う説 得 を 続 け る う ち に,被 疑 者 は母 親 が 警 察 署 に来 れ ば これ に応 じる 旨を 述 べ たの で,被 疑 者 の 父 親 に その 連 絡 を 依 頼 して 母 親 が 来 署 す るの を 待 って い た と こ ろ,被 疑 者 が 急 に退 室 しよ う と した た め,そ の 左 斜 め前 に立 ち,両 手 で そ の左 手 首 を 掴 ん だ こ と か ら,被 疑 者 が こ れ を 暴 行 に よ っ て 妨 害 した た め,公 務 執 行 妨 害 罪 で 現 行 犯 逮 捕 され た と い う事 例 で あ る。 特 に,任 意 同 行 ・取 調 に際 して,取 調 を 続 行 す る た め に警 察 官 が 右 態 様 の 有 形 力 を 行 使 す る こ とが,強 制処 分(逮 捕)に 該 当す るの で はな いか が 問 題 とな っ た。 第 一 審 は,「右 制 止 行 為 は,職 務 の執 行 と して な され た もの の,任 意 捜 査 の 限 界 を こえ,任 意 と は称 しな が ら実 質 上 逮 捕 す るの と 同様 の 効 果 を 得 よ う と す る強 制 力 の 行 使 と い うべ きで あ って,違 法 た るを 免 れ な い」 と判 示 し, 公 務 執 行 妨 害 罪 の 成 立 を 否 定 した。 これ に対 し,控 訴 審 は,「任 意 捜 査 の 手 続 に お いて は,強 制 にわ た る こ と は許 され な いの は 当然 で あ るが,具 体 的 事 案 に お いて,通 常 の 方 法 に よ って は所 期 の 説 得 の 効 果 が あ げえ な い状 況 が 存 し,か つ,捜 査 上 緊 急 の 必 要 性 が 認 め られ る た め,や む な く軽 度 の 実 力 を用 い た と して も,こ れ が 直 ち に任 意 捜 査 の 適 法 性 の 限 界 を 超 え る強 制 力 の 行 使 と は いえ な い場 合 が あ る と解 され,そ. う とす れ ば,そ の 限 界 は,. 実 力 行 使 が 当該 事 案 に お け る捜 査 の 必 要 性,緊 急 性 に即 して 客 観 的 に相 当 と認 め られ るか 否 か に よ って 決 す るの が 相 当 と考 え られ る」 と判 示 し,本 件 警 察 官 の 制 止 行 為 は適 法 で あ っ た(公 務 執 行 妨 害 罪 が 成 立 す る)と 結 論 づ け た。 これ に対 し,被 告 人 側 が 上 告 した と こ ろ,最 高 裁 は,以 下 の よ う に判 示 し,上 告 を 棄 却 した。 24.
(25) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). 「捜 査 に お い て 強 制 手 段 を用 い る こ と は,法 律 の 根 拠 規 定 が あ る場 合 に 限 り許 容 され る も ので あ る。 しか しな が ら,こ こ に い う強 制手 段 とは,有 形 力 の 行 使 を 伴 う手 段 を意 味 す る もの で は な く,個 人 の意 思 を 制圧 し,身 体,住 居,財 産 等 に制 約 を 加 え て 強 制 的 に捜 査 目 的 を実 現 す る行 為 な ど,特 別 の 根 拠 規 定 が な けれ ば 許 容 す る こ とが 相 当 で な い手 段 を意 味 す る もの で あ って,右 の 程 度 に至 らな い有 形 力 の 行 使 は,任 意 捜 査 に お い て も許 容 され る場合 が あ る とい わ な け れ ばな らな い。 ただ,強 制 手 段 に あ た らな い有 形 力 の行 使 で あ って も,何 らか の 法 益 を侵 害 し又 は侵 害 す る お そ れ が あ る の で あ るか ら,状 況 の い か ん を 問 わ ず 常 に許 容 され る もの と解 す る の は相 当 で な く,必 要性,緊. 急 性 な ど も考 慮 し. た うえ,具 体 的 状 況 の もと で相 当 と認 め られ る 限度 に お い て 許 容 され る もの と 解 す べ きで あ る。」. 以 上 の と お り,本 件 は,任 意 捜 査 の 段 階 に お け る有 形 力 の 行 使 が 許 容 さ れ るか につ いて,最 高 裁 と して 初 めて 正 面 か ら判 断 し,そ の 基 準 を 提 示 し た点 に意 義 が 認 め られ る。 任 意 捜 査 の 限 界 につ いて 述 べ られ た 判 示 後 半 部 分 も重 要 で あ るが,本 稿 の テ ー マ との 関 係 で は,強 制 処 分 該 当 性 につ いて 判 示 され た前 半 部 分 が 重 要 で あ る。 この 点 につ いて,本 件 第 一 審 は,実 質 上 逮 捕 と 同様 の 効 果 を 得 よ う とす る強 制 力 の 行 使 で あ る と して いた の に対 し,控 訴 審 及 び最 高 裁 は,強 制 処 分 該 当性 を 否 定 した 。 そ の 理 由 は,最 高 裁 の 判 示 部 分 に表 れ て い る よ う に,す べ て の 有 形 力 行 使 が 強 制 処 分 に該 当 す るわ けで はな く,「個 人 の意 思 を制 圧 」 して,「 身 体,住 居,財 産 等 に制 約 」 を 加 え る行 為 に限 定 され る こ と に よ る。 本 最 高 裁 決 定 は,強 制 処 分 該 当性 に関 す る基 準 を 明 示 した点 に お いて,そ の 後 の 裁 判 実 務 を 主 導 す る役 割 を 担 って お り,学 説 か らの 検 討 に お いて も,常 に検 討 の 姐 上 にお か れ る ほ どの 重 要 な もの と して 位 置 づ け られ て い る。 本 決 定 の 強 制 処 分 該 当性 に関 す る判 示 につ いて,調 査 官 解 説(香 城 敏 麿) 25.
(26) 近畿大学法学. 第56巻 第3号. は,「 一 般 に は違 法 と され る行 為 で あ るか ら こ そ特 別 の 根 拠 規 定 が必 要 と な るの で あ って,こ の 点 こ そが 『強 制 の 処 分 』 を 決 定 す る メル ク マ ール で あ る」,「抽 象 的 な 捜 査 根 拠 規 定 に基 づ いて は捜 査 の 必 要 性 な どの 具 体 的 状 況 が ど うで あ って も許 され な い捜 査 方 法 で あ って,内 容 か らい う と,個 人 の 意 思 を 制 圧 して,一 般 に は個 人 の 身 体,財 産 等 に対 す る違 法 な 侵 害 と さ れ る行 為 を 強 制 的 に 実 現 す る捜 査 方 法 で あ る」 と解 説 して い る。 す な わ ち,捜 査 の 必 要 性,緊 急 性 な ど具 体 的 状 況 を 捨 象 し,特 別 の 根 拠 規 定 が な い限 り,そ の 手 段 を 許 容 す る こ とが 相 当で な い よ うな 類 型 的 事 情 が 認 め ら れ る こ とが,強 制 処 分 該 当性 の 問 題 で あ る㈱。 本 決 定 の 評 価 と して,学 説 上,有 形 力 行 使 の 有 無 と い う基 準 を 明 確 に否 定 した点 を 捉 え て,む. しろ,個 人 の 意 思 を 制 圧 して 一一 定程度の実質的な権. 利 ・利 益 の 侵 害 が あ っ た点 に着 目す る もの で あ る と して,前 述(2)の実 質 的 基 準 説,と りわ けそ の 第二 の見 解 か ら支 持 され て い る。 しか し,本 決 定 は, 具 体 的 事 実 と個 人 の 意 思 を 制 圧 す る との 判 示 部 分 とを 関 係 付 け るな らば, 有 形 力 の 行 使 が あ っ た と して も それ だ けで 直 ち に強 制 処 分 に あ た る と い う わ けで はな い と い う こ とを 述 べ た に過 ぎず,有 形 力 の 行 使 が 全 くな い場 合 で も実 質 的 な 権 利 ・利 益 の 侵 害 が あれ ば強 制 処 分 に該 当す る と い う こ とを 述 べ た もの で はな い。 それ ゆえ,前 述(1)の形 式 的 基 準 説 の う ち第 二 の 見 解 と親 近 性 を もつ もの と評 価 す る こ と も,な お理 論 的 に は可 能 で あ る よ う に 思 わ れ る。 従 って,本 決 定 に よ って も,な お,通 信 傍 受 や お と り捜 査 な ど, 被 処 分 者 に対 す る直 接 の 有 形 力 行 使 を 一切 伴 わ な い(つ ま り,最 決 昭 和51 年 が い う 「意 思 の 制 圧 」 を 伴 わ な い)隠 密 的 又 は詐 術 的 な 行 為 が,被 処 分 者 の 権 利 ・利 益 の 侵 害 性 ゆえ に強 制 処 分 と い い う るか と い う問 題(実 質 的 基 準 説 は,む. しろ この よ うな 事 例 を 念 頭 に主 張 され た と い って よ い)は,. な お残 され た ま ま とな っ た。 ⑳. 香 城(前 掲 注 ⑰)昭 和51年 度 最 判 解69頁 。. 26.
(27) 刑 訴 法 上 の 「強 制 の 処 分 」 概 念 につ い て(1). ④. 最 決 平 成11年12月16日 刑 集53巻9号1327頁. 本 件 は,警 察 官 らが,覚 せ い剤 取 締 法 違 反(覚 せ い剤 譲 渡 行 為)の 被 疑 事 実 に よ り裁 判 所 か ら検 証 令 状 の 発 付 を 受 け,被 疑 者 自宅 に設 置 され た 電 話 か ら受 発 信 され る通 話 を,NTT施. 設 内 に あ る機 器 か ら傍 受 す る こ と に. よ り得 られ た情 報 が,被 告 人 に よ る覚 せ い剤 取 引 の 状 況 を 立 証 す るた めの 証 拠 と して 提 出 され た た め,違 法 収 集 証 拠 排 除 法 則 の 適 用 を め ぐ り,右 捜 査 手 段 の 適 法 性 が 問 題 とな っ た事 例 で あ る。 本 件 は,事 前 に令 状 が 得 られ て い た た め,憲 法 レベ ル で の 許 容 性 に加 え て,通 信 傍 受 が 刑 訴 法 所 定 の 検 証 に該 当す るか が 問 題 とな り,強 制 処 分 該 当性 自体 が 正 面 か ら問 題 とな っ たわ けで はな い。 も っ と も,「電 話 傍 受 につ い て み る と,電 話 が 犯 罪 の 手 段 と して 重 要 な 役 割 を 果 たす な ど,通 話 者 が 通 信 の 秘 密 な どを 正 当 に主 張 しえ な い状 況 が 認 め られ る場 合 に は,犯 罪 捜 査 の た め,犯 罪 の 重 要 性 や,他 の 手 段 に よ る こ との 困 難 性 な どを 考 慮 した上,憲 法35条,31条. の 法 意 に照 ら し,裁 判 官 の. 発 す る令 状 に基 づ いて,捜 査 機 関 が 電 話 傍 受 す る こ と も憲 法 上 許 され る」 (一一 審),「 通 信 の 秘 密 や個 人 の プ ラ イ バ シー が 侵 害 さ れ るお そ れ の程 度 を 考 慮 しつ つ,犯 罪 の 重 大 性,嫌 疑 の 明 白性,証 拠 方 法 と して の 重 要 性 及 び 必 要 性,他 の 手 段 を 用 い る こ との 困 難 性 等 の 状 況 に照 ら して,真. にや む を. 得 な い と認 め られ る場 合,す な わ ち,必 要 性 ・相 当 性 が 認 め られ る場 合 に は,強 制 処 分 と して 電 話 傍 受 等 を 行 う こ と は,そ の 実 施 に当 た って,憲 法 13条 ・21条2項. ・31条 ・35条及 び 刑 訴 法197条1項. ・222条1項. ・110条 の. 法 意 に従 っ た手 続 の 要 件(以 下 「適 正 手 続 要 件 」 と い う)を 充 た して 行 う 限 り,憲 法 上 も法 律 上 も許 され て よ い」(控 訴 審)と. い った 判 示 に み られ. る よ う に,当 時,少 な くと も実 務 上 は,被 処 分 者 に秘 匿 して 行 わ れ る処 分 も強 制 処 分 に あ た りう る との 理 解 を 前 提 に,通 信 の 秘 密 と い う重 要 な 憲 法 上 の利 益 を制 約 す る場 合 には強 制 処 分 に該 当す る との見 解 が浸 透 して い た。 27.
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