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音韻意識に困難を持つ発達性読み書き障害児の指導方法に関する研究 : KSの指導プロセスの分析を通して

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†障害児教育専攻 障害児教育専修 指導教員:窪島 務 原 著 論 文

音韻意識に困難を持つ発達性読み書き障害児の

指導方法に関する研究

―― KS の指導プロセスの分析を通して ――

Research on Educational Treatment of the Boy with Difficulty

in Phonological Awareness, Reading and Spelling

―― Analyze from KSʼ Teaching Process ――

Noriko NOGUCHI

Abstract

The current research analyzed the teaching for process a developmental dyslexic and dysgraphic boy (elementary school 3rd grade) was guided reading and writing for 2 years in order to research instruction methods for such children. This boy has difficulty with phonological awareness and working memory, as well as DCD (developmental coordination disorder). The target for each of the 4 learning periods were as follows. Period 1 : To understand the connection between written characters and their sound ; period 2 : To acquire 20 1st grade level kanji characters and read seion hiragana (unvoiced syllables) ; period 3 : To be able to read hiragana words ; period 4 : To increase word lexicon. The features and validity of teaching methods which work on development of personality while idiosyncratic cognitive function in the brain were considered. The effectiveness of kanji use on improvement of phonological awareness and hiragana reading and spelling ability was also examined.

Key words : dyslexia, phonological awareness, double route cascaded model, automatisation, multi sensory method は じ め に 発達性読み書き障害の定義は専門家たちの間 でも共通のものがなく,いわゆるカオス状態と なっている。そして,こういった子どもたちは, 特異的な認知特性を持ち,現場の教師や支援に 関わる人たちによく理解されていないことが多 く,指導方法が分からないままに支援活動が行 われているのが現状である。読み書き障害と いっても一律ではなく,それぞれの子どもの認 知特性が異なるためそれに合わせた指導方法を 実施していくことが大切である。しかし,現時 点では,神経心理学や認知心理学の分野での事 例研究の段階であり,一貫した指導方法はまだ 確立されておらず,試行錯誤の現状である。認 知特性を考慮した指導は,読み書き障害の子ど

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もたちに,ある一定の期間で成果をもたらして はいるが,訓練的な側面が強く,それが子ども の人格の発達にまで届くようなものにはなって いない。子どもたち一人一人が抱える特異的な 認知特性を十分に生かしながら,子どもの人格 発達にも働きかける教育的指導法を,音韻意識 に困難を持つ発達性読み書き障害児の 1 事例の 指導プロセスの分析を通して考える。 第 1 章 先行研究の検討 1.音韻意識について アルファベット圏において,音韻意識の障害 は,発達性読み書き障害 (dyslexia) の中心的 な原因論の一つとなっている。日本語において も,平仮名の読みを習得する場合,アルファベ ト圏と同様に音韻意識が重要な基盤となってい る。 子どもの仮名文字の読み習得と音節分析の研 究をしている天野 (2005) は,「積み木や指を 使ってその単語がいくつの拍から成り立ってい るかを分解できるようになり,次にその単語の 一番初めの音である語頭音が何であるかを抽出 することができるようになれば,仮名文字の読 みを導入し,子どもがそれを学習することが可 能である1)」と言っているように,ある一定の 音韻意識のレベルに達していないと平仮名を学 習し,それを習得することはできない。つまり 文字を習得するためには,まず音韻意識が備 わっている必要がある。一般的には,この能力 は,自然と獲得されていくものであり,4 歳の 前半から後半にかけて発達する。高橋 (1997) は,わらべうた,童謡,なぞなぞ,しりとりな どの言葉遊びと音韻意識とは密接な関係があり, 周囲の大人との日常生活でのとりとめのない会 話の中に言葉遊びの要素が埋め込まれているこ とを指摘している2) 2.平仮名の読み書き指導について 平仮名の読み書き指導としては,次の指導が 実施されている。①音韻認識・語彙・呼称に困 難を持ち,文字―音対応を学習できない発達性 ディスレクシアに対して,言語情報を介在させ ることによって,文字と音韻表象の対応を学習 させる仮名キーワード法 (「りす」の「り」「ま くら」の「ま」) を用いた研究3) (大石 1997), ②視覚的に全体を把握することは得意で,部分 から全体を構成することと聴覚的な継次処理に 特異的な困難を示す境界領域にある症例に対し て,分化結果や排他律を用いた指導4) (坂本・ 前川ら 2004),③仮名書字指導としては,視 覚的認知,視覚的記憶力に障害を認めた一方で 音声言語の記憶力が良好であった症例に対して, 音としての五十音表を活用する方法5,6) (春原, 2004・宇野,2003),④平仮名読みに困難を示 した 2 事例への読み指導として,50 音表の暗 唱 と 対 連 合 学 習 を 用 い て の 指 導7) (松 本, 2005),⑤聴覚性の短期記憶の弱さ,抽象的な 視覚刺激の探索や短期記憶の困難さを持つ症例 に対して形態言語化法・形態イメージ法・文字 と音との対応ではキーワード対応法8) (服部 2002) などである。また,刺激等価性パラダイ ムに基づいて平仮名指導モデルの考案9) (森田, 1997),LD 児のためのひらがな・漢字支援― 個別指導に生かす書字教材10) (小池ら,2003), 読み書き入門教育プログラムの開発11) (天野, 2006) など CD-ROM 教材の開発も行われてい る。 3.漢字の読み書き指導について 漢字の読み書き指導としては,次の指導が実 施されている。①意味ルートは困難性がない ディスレクシア児に,意味的文脈の中で漢字の 音読を学習する方法, (例えば「花」について は,「さくらの□がさきました」,「かびんに□ をいけました」など 5,6 種の文を準備し,□ に漢字を選んで入れさせ,音読させる3)大石 1997),②音韻認識力や視覚的認知,視覚的記 憶力に低下を認め,音声言語の記憶力が良好で あった 3 例に対して,行われたバイパス的な聴 覚法 (漢字の成り立ちを音声言語化して覚える 方法12)春原・宇野ら,2005),③漢字形態の構 成要素を視覚的に分節化して捉えることやそれ らを空間的に配列する構成行為のまずさが,漢 字視写の困難をもたらしている 4 年生の男児に つ い て,画 要 素 を 言 語 化 す る 方 法13) (佐 藤 1997),④図柄の模写力や再構成力は年齢相応 であるが,視覚的な記憶特に幾何学図形の組み

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合わせによる図柄の記憶に困難を持つ書き障害 児の事例において,文字の形をパターン化する 方法14) (水野 1998),⑤書き困難のみを持ち, 各画要素の運動イメージ記憶が良好なディスレ クシア児を対象として,漢字の形の熟知情報提 示による書字学習指導法15) (高橋 ,2008),⑥ 「ことばの意味を視覚的に頭の中に作り上げる」 ことに十分な時間をかけ,次に概念がはっきり しているかどうかを確認しながらその視覚的イ メージを粘土を使って目に見える立体的な形に し,粘土で文字を作る粘土課題による指導16) (窪島 2005),⑦日本語文字の書字障害の認知 のメカニズムと指導の在り方について実証的研 究と臨床的研究により,読み書きを指導するう えで,子どもにストレスを与えずに楽しみなが ら学習できる CD 教材の開発10) (小池ら 2003), などである。 第 2 章 目的と方法 1.目 的 音韻意識に困難を持つ発達性読み書き障害児 の個別指導を通して,認知機能特性を考慮しつ つ,人格発達の土台に働きかける指導の特徴と 有効性を明らかにすることを第一の目的とする。 第二に,特に漢字指導を併用し,その音韻意識 やかな文字の読み書きの発達に及ぼす影響と有 効性についても検討する。 2.方 法 (1) 研究方法 研究方法として主に実践的事例研究法を採用 しつつ,その中で実験的研究法も加えていく。 (2) 対 象 ①生育暦 分娩時,24 時間の微弱陣痛のため陣痛促進 剤の投与有り,その他の異常は特になく,出生。 第一子,男子。初歩は 1 歳 2ヶ月,言葉の面や 発達のことで健診等で特に指摘を受けることは なかったが,保育所にて年少保育時に,はさみ の使い方など不器用さがあることを指摘され, 児童相談所にて発達診断を受ける。4 歳 8ヶ月 時,新版 K 式では,認知・適応 (発達年齢 4: 1,発達指数 88),言語・社会 (発達年齢 3:2, 発達指数 68),総合 (発達年齢 3:7,発達指数 77),全体的なアセスメントとしては,境界線 級の発達と評価されているが,絵画語彙検査で は語彙年齢 6 歳 7 カ月で評価点優レベル,質問 応答関係検査は,年齢相応の能力であった。日 常的な言葉の応答能力は年齢相応で,知的発達 の顕著な遅れは認められないが発達のアンバラ ンスがあると診断されている。 (2) 読み書き障害の診断 アセスメントの結果,2007 年 2 月の WISC-Ⅲ で は VIQ75,PIQ60,FIQ64,群 指 数 で は VC80,PO64,FD79,PS55,下位検査では符 号 3,記号 1 で,処理速度と知覚統合に弱さが ある。Rey 複雑図形では,模写 19,直後再生 19,遅延再生 12 (構造化法) で細部には視点 が向いているが,全体としての視点にかけてい る。ベンダーゲシュタルト合計得点 11 と空間 認知能力,視覚的認知能力や微細運動に弱さが 見られる。2008 年 3 月の WISC-Ⅲでは,数値 的にはすべてが少しずつ伸びているものの,符 号 1,記号 4 と落ち込んでおり,処理速度の弱 さがみられる。絵画語彙検査では,評価点 13 で中の上と語彙は豊富でよく理解している。 K-ABC 検査で認知特性を検討した結果,同時 処理,継次処理に有意差は認められなかった。 2006 年 3 月の音韻検査では,分解・抽出・逆 唱・抹消・どれもできない状態で,天野氏のい う音節分析Ⅰの① (積木・図版・指等の物的支

VIQ : 82 PIQ : 64 FIQ : 71 VC : 91 PO : 72 FD : 76 PS : 58 知識 8 類似 9 算数 2 単語 9 理解 8 数唱 10 完成 5 符号 1 配列 6 積木 4 組合 8 記号 4 迷路 5 VIQ : 76 PIQ : 60 FIQ : 64

VC : 80 PO : 64 FD : 79 PS : 55 知識 5 類似 4 算数 4 単語 9 理解 9 数唱 9 完成 6 符号 3 配列 4 積木 4 組合 4 記号 1 迷路 1 WISC-Ⅲ 2007 2008 表 1

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えを必要とする対象的行為の水準で,かつ語の 分解が全くできない1)) のレベルであった。 S 児の持つ困難さとしては①音韻意識の弱さ ②視覚情報処理の弱さ③ワーキングメモリの弱 さ④ DCD (発達性協調運動障害) 等が上げら れ,これらの認知能力の弱さがが読み書きの困 難さの原因となっている。 (3) 指導期間 2007 年 4 月〜2008 年 12 月 S 児:小学校 2 年生〜小学校 3 年生 第 3 章 指導計画・指導経過 1.第Ⅰ期 (2007 年 4 月〜9 月) (1) 指導目標 フリスの読みの発達段階モデルにおいて,ロ ゴ文字段階であり,音韻意識が形成されておら ず,前音韻意識段階にあり,文字の図形的特徴 を手がかりに読んでいるため,音韻意識の発達 を促し,1 音 1 文字対応ができるようになる事, すなわち文字と音との対応関係を獲得すること を目標とした。 (2) 指導内容・指導経過 ①ことばあつめすごろく (語頭音で言葉さがし・音 韻分解・語彙を増やす) 初めは,音韻分 解がうまくいかな いことが目立った が,徐々に音韻分 解でのミスは,減 少し,6 モーラの 語 (え ん ど う ま め), 拗 音 (う ちゅう・あかちゃん) も正しくモーラで拍を取 り分解が可能となった。単語想起困難があるた め,できるだけ単純明快な絵カードを作成し視 覚的補助として使用した。 ②しりとり 4 月時点では,しりとりはできない (語尾音 取り出せない ○のつく単語取り出せない) た め,絵しりとりを実施したが,「りす」→「すず め」「す」やから「すいか」というようにつな がり,語尾音が捉えられない時や,○のつく語 彙が出てこないことが多かった。5 回目の指導 で,絵に関係 なくしりとり を続け,9 単 語続けること ができた。的 確に語尾音を 取り出し,そ の文字の付く 単語にアクセ スしていく速度も上がってきた。 ③絵と漢字のマッチング 3 回目より マッチングを 開始した。漢 字は表意的性 質をもつ文字 であるため, 音韻ルートに 頼 ら ず 意 味 ルートからアクセスすることができ,S にとっ てはひらがなよりも表象として入りやすい。1 回につき 2〜3 文字,1 年生漢字で 1 文字 1 音 のものを取り上げた。 (目・手・木・火・日・ 子・田・毛) マッチングをした後に「これは何?」と漢字 を見せて聞いていくと「毛」を「髪の毛」と答 え,漢字を読むというより意味とつなげている ことがわかる。 (3) 第Ⅰ期終了時の評価 音韻意識に関してことばあつめすごろくやし りとりの課題により,音韻分解,語頭音・語尾 音の抽出がほぼ完全にできるようになったと評 価できる。目標とした音と文字との 1 対 1 対応 を獲得することができ,天野の音韻分析のⅠの ④のレベル (積木・図版・指等の物的支えを必 要とする段階で,語頭音の抽出が完全だが,語 尾,語中音が不完全) に達することができた。 S 児は音韻に困難を持っているが,表意的性 格を有する漢字は,読みやすいという特徴があ る。そこで,1 年生漢字で 1 文字 1 音のものを 選び,漢字と絵 (意味) のマッチングを実施す ることにより,音と文字との 1 対 1 対応の獲得 を促す一つの手立てとしたことは,認知特性を 生かす面で一定評価することができる。 写真 1 写真 2 写真 3

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2.第Ⅱ期 (2007 年 9 月〜2 月) (1) 指導目標 第Ⅰ期の指導により,音韻分解や,語頭音・ 語尾音の抽出ができるようになり,天野の言う 音韻分析レベル (2005 天野) がⅠの④ (積木・ 図版・指等の物的支えを必要とし,語頭音の抽 出が完全だが,語尾,語中音が不完全) に達し た。8 月の平仮名読みの検査では,仮名 1 文字 読みで 35 文字を読むことができるようになっ た。引き続き音韻意識の発達を促すとともに粘 土による文字指導も本格的に導入していく。 「字を読んだり書いたりすることが楽しんで できるようになる」ことを大きな目標とし,具 体的な目標として「2 年生の 3 月までにひらが な清音の読み書きができるようになる。漢字に 関しても 1 年生漢字 20 文字を習得する」こと を上げた。 (2) 指導内容・指導経過 ①まんなかなんだ (語中音の抽出) 3 モーラの単 語を 3 つ描いた 版を作り,その 上で独楽を回し 止まった絵の単 語の語中音を選 び出す課題を設 定した。タヌキ の絵の所で独楽 が止まると,S は,手や机をたたいたり,指を 折ったりという支えを使って語中音を見つける 事を理解した。その後,語中音は抽出できるよ うになったため,「“ひなまつり”2 番目の音な んだ」というように課題をレベルアップさせた。 「あかおに」「エリザベス」「コンパス」「かいぞ くせん」など 4〜5 モーラの語からどの音も抽 出を完全に行うことができ,天野の言うⅠの⑤ (積木・図版・指等の支えを必要とするが,ど の位置の音も完全に抽出できる) の段階まで到 達することができた。 ②さかさことば (2 モーラの単語の逆唱) 2 モーラの単語の逆唱ができないため,色の 異なるペットボトルのキャップを支えとして使 用し,しっかりと注意を向けさせた上で,まず 指導者が「は」と言いながらキャップを 1 つ置 き,「こ」と言いながら 2 つ目のキャップを置 く。そして,2 番目のキャップを指さすと S は, 「こ」と答え,次に 1 番目のキャップを指さす と「は」と答えた。この場合,色とキャップの 二重の支えとなっている。その後「はこ」で S に一度練習させ,「なす」「へび」の逆唱を実施 すると正解となった。次の回で,支えを 1 つ減 らし無地の積木を使用し「はた」の逆唱をはじ めに指導者が実施し,次に S が練習し,その 後,「ふね」の逆唱を実施すると「ねふ」と正 解を得る。そして,次の粘土課題で「雨」を課 題文字にすると,「あめ めあ」と自ら逆唱し ている。次のセッションでは,2 モーラの単語 の逆唱は何の抵抗もなくスピーディーにやって のけ,3 問とも正解を得た。 ③字を書く (平仮名がどれくらい書けるか確認) 平仮名を読む (1 文字読みで単語読みはまだ 不可) ことはできるようになっているが,書き はどの程度か確認していく。テストのようにし たのでは,書こうとしないためこれも①と同様 にこまを使用して,実施。1 セッションにつき 2〜3 単語実施する。 ④粘土文字 (漢字の文字指導) 音韻意識がレベルアップしてきており,意味 ルートを直接使う表意的性格を有する漢字の指 導を本格的に開始していく。滋賀大 KIDS カ レッジの指導法多感覚指導法17) (マルチセン ソリーメソッド) に基づき実施する。指導の具 体的プロセスは次の通りである。ⅰ身体の意識 化とリラックスⅱことばの (意味の) イメージ を思い浮かべ形に するⅲ「意味」の イメージを具体的 な形にするⅳ文字 を粘土で作るⅴ鉛 筆で文字を書くⅰ 〜 ⅴ で 1 時 間 に 1〜2 個 の 漢 字 を 作って終わる。 9 月から本格的 に粘土文字の指導 を導入した。この 頃よりイメージ作 品も文字も字らし 写真 4 写真 5 写真 6

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くなってきている。以下粘土課題による S の イメージ作品と粘土文字及び書字を何点か示す。 (4) 第Ⅱ期終了時の評価 ①音韻意識 音韻分解は言葉集めすごろくの成果で完璧に できるようになっており,音韻抽出もどの位置 の音も完全に抽出でき,レベルアップした。音 韻同定・逆唱・削除に関しては,2 音節はでき るがそれ以上は難しい。ゲーム的な遊びの要素 を取り入れ,独楽を使ったことで,楽しみなが ら学習することができ急速な発達ではないが, 音韻意識は伸びてきている。 ②平仮名の読み書き 平仮名 1 文字読みでは,35 文字を読むこと ができているが,単語読みはできておらず (自 動化されていない),逐字読みの段階である。 平仮名の書きに関しては,1 文字書きでは 21 文字書字可能なことを確認できた。名前の「○ じ○○」は書けても「にじ」の「じ」を書くこ とができないことより,まだ名前は一つの固ま りで捉えており,文字 1 文字ずつの組合せで単 語が成り立ち,「○じ○○」の「じ」と「にじ」 の「じ」は同じである事は理解できていない。 書くことに対してロゴ段階である。 ③漢字の読み書き 脳の処理過程において,二重ルートカスケー ドモデル18) (1993 Coltheart ら) で漢字の音 読過程と平仮名 1 文字の音読過程を検討した場 合,平仮名 1 文字は何の意味をも持たないため 非レキシカルルート (「形態素―音素規則シス テム」を中心とする右側をはしるルート) を通 り音読されるが,形態素文字である漢字は,表 語的性格を有しているためレキシカルルート (「意味システム」を中心とする左側をはしる ルート) を通じて音読することが可能となる。 通常の場合この二つのルートは,バランスよく 処理され音読に至るが,この事例の場合,非レ キシカルルートに困難があるため,意味を持た ず非レキシカルルートを主に使用しなければな らない平仮名 1 文字読みの場合は,読みづらく なる。一方,一文字でも意味を持つ漢字におい ては,レキシカルルートがスムーズに流れ音読 できることに繋がる。 ある程度音韻意識が備わってきた段階で,平 仮名文字だけでなく漢字を中心に課題を組んで いくことは,音韻意識に困難性のある本児には 有効に働くと推察される。また,平仮名ではな く漢字を学習しているということが,学年相応 のプライドを保つためにも有効に働き,学習意 欲の向上へと繋がっていくと考えられる。 ④ DCD (発達性協調運動障害) S 児は文字を書いたり絵を描いたりするとき, お箸・スプーンの使用は左手で行うが,はさみ を使ったり独楽を回したりボールを投げること は,右手で行い,どちらが利き手なのか分化し ていない状態がまだ続いている。 平仮名の「こ」を書いた時に左手では,鏡文 字になり,右手では「こ」と正しく書けている。 図 1

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手の LC 運動19) (1980 林) の観点から,右手 で書いた方が,誤り無くスムーズに書けるので はないかと考え,文字を書くことを右手に集中 させることも考えたが,ある時点で平仮名の 「と」を書いた時に左手では「と」と正しく書 け,右手では鏡映文字になったことにより,こ れに関しては保留の状態とした。 3.第Ⅲ期 (2008 年 4 月〜8 月) (1) 指導目標 2008 年 3 月末の状態として, 音韻分析Ⅰ の⑤と音韻意識もかなりのレベルアップが図ら れ,平仮名清音一文字読みはほぼ読むことがで きるが,単語読みをすることは,2 音節語でも できない。「た い こ」と逐字読みで読んだ 後すぐに「たいこ」と意味を読み取ることはで きているが,まだ自動化はできていない。 4 月からの第一の課題としては単語読みがで きるようになることをあげる。(自動化を計る) (2) 指導内容・指導経過 ①字を読む・字を書く (平仮名を読んだり書いたり する) 平仮名単語をどのくらい読んだり書いたりす ることができるかを確認する。テストという形 で何十問も問題をこなすことはできにくいため, 毎回の指導時に 1〜2 単語確認していく。こま を使ったり,絵を描くという遊びの要素を入れ ながら実施した。 ②なぞなぞクイズ 音韻と関連しているような問題を選んで出し ていく。例えば「魚の真ん中についている虫 なーんだ?」は,「さかな」という単語の語中 音を抽出することとそれが,虫の名前であるか どうかを確認しつつ,答えを出さなければなら ない。音韻操作とワーキングメモリを使っての 課題となる。 「イギリスの下のほうに住んでいる動物なー に」というクイズは,「イギリス 下のほう」 とヒントを出すと S「ああー分かった。りす」 と答え,「先生,お母さんに言わんといてや。 『イギリスの下に…』のやつ。車の中でお母さ んに言うんや。」と興味を持って,楽しみなが ら取り組んでいる。 ③さかさことば 第Ⅱ期で 2 モーラの逆唱は可能となったが, 3 モーラ以上に関してはなかなか正答がえられ ないため続行した。 ④読んで選んで (単語読み課題で,一文字読みのでき る平仮名文字を使用して 2〜3 音節の単語を読む) 通常,文字 (単語) は文字の視覚的形態,音 韻的側面 (読み),単語の意味の 3 つの要素を かならずもっており,どれか一つかけても文字 (単語) の体をなさない。この 3 つの繋がりを 強めるために,まず,絵カードを 5 種類置く (ex.うさぎ たぬき りんご ねずみつく え)。次に「たぬき」と書いたカードを見せる。 そしてそれを 読ませる (音 と文字をつな げ る)。最 後 に,「たぬき」 に合う絵カー ドを取らせる (音と意味を つなげ,字と 意味も繋がる)。 文字を見て単語と認知し,意味に繋げ発話す る過程を絵で仲介することにより自動化しやす くする。単語は名詞だけでなく動詞などもいれ ていく。 2 モーラ 1 回目「あ り」「あ」と「り」の 間 5 秒「か に」「か」と「に」の間 2 秒「う ま」「う」と「ま」の間 1 秒であったが,4 回 目の指導 (5/17) より,1 音と 1 音の間が 1 秒 以下になってきたため,ビデオより音を取り出 しそれを音声の波形に変えて,単語の 1 音と 1 音の間がどれくらいの長さがあるかを調べるこ とにした。 ⑤音・平仮名・漢字・意味(絵)あわせ(同じ音の漢字 と平仮名とそれが表すもの「意味」をあわせる) 文字の視覚的形態,音韻的側面 (読み),単 語の意味の 3 つの要素を強めるために漢字を媒 体として用いている。まず,3 枚 1 セットの カ ー ド を ま く。(ex. め 目 目 の 絵 き 木 木の絵て 手 手の絵 ね 根 根の絵…の カードをばらばらにまく。ただし,字の向きが 正しくなるように並べる。) 次に指導者 (T) 写真 7

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が言う音のカード を 3 枚 1 セ ッ ト (平 仮 名 カ ー ド・ 漢字カード・絵) で取っていく。 *粘土課題で実施 した単語 (漢字) をどんどん追加し ていく。課題で S がイメージした作品の写真を絵カードとして用 いる。1〜3 回までは漢字と絵を取ってから最 後に平仮名を探して取っていたがその後,漢字 を先に取るか平仮名を先に取るかはセッション によって違いはあるが,半々の割合で取ってお り,平仮名の読み(1 文字読み,単語読みを含 めて) に慣れてきていると言える。3 枚のカー ドのマッチングは,ほとんどミスすることはな い。 ⑥粘土課題 第Ⅲ期では,いずれのセッションにおいても 粘土課題は,熱心に取り組むことができている。 (4) 第Ⅲ期終了時の評価 ①平仮名文字の読み書き 2007/8 月〜2008/8 月において,平仮名 1 文 字清音の読みを検討してみると,2007・2008 年とも正答を得られなかった文字として「なれ ねわやふ」が上げられる。「な」は 2007 年では 「む」と,2008 年では「は」と読み,見方によ れば「む」も「は」もどちらの文字も「な」と 似 て い る。2008 年 で は「ね」を「る」と, 「そ」を「れ」と読んでいる。「ね」は「る」を 左へ 90 度,「そ」は「れ」を右へ 90 度回転さ せた物に似ている。これらの平仮名文字は通常 の子どもたちにとっても,獲得しにくい文字と して上げられる。 「ふ」と「ね」は 1 文字ずつではどちらの文 字も読むことはできないが,A 指導 (「船」の 漢字粘土指導の後,次のセッションで 15〜20 枚のカードから,3 枚のカード,「船」「ふね」 「S が作ったイメージの粘土作品」を合わせる 課題) の結果 8 月末には「ふね」と単語読みが できている。これは,sight word reading ロゴ 段階Ⅱ (窪島 2004)16)に達しており,仮名文字 段階が完了してから漢字に移行するという理解 ではなく,ある程度の平仮名が獲得されたなら ば音韻意識の発達が未完成であっても,漢字の 書き指導を中心に実施していくことの有効性が 示されている。 ②音韻意識とワーキングメモリ 音韻意識に関して,細かく見ていくと分解に ついてはほぼ完全に実施することが可能であり, 特殊音節の拗音・長音・撥音についてもモーラ 段階での分解が可能である。促音に関してのみ 音節での分解となる。逆唱では,2 モーラの逆 唱は支えなしで可能であり,「あめ めあ」「い ぬ ぬい」「ふね ねふ」など出てきた単語を 遊び感覚で自分から逆唱している。2 モーラ段 階での逆唱は負担にならないなどレベルアップ している。3 モーラに関しては,ミスのパター ンが決まっており,続けて指導の必要がある。 抹消・同定などに置いても遊びの中で続けて指 導していく。 ワーキングメモリに関しては,なぞなぞクイ ズにおいて,しっかりと問いを頭の中に記憶し つつ,答えを出すために音韻操作を行い,音韻 の抽出や逆唱をし,答えを導き出すことができ るようになってきたことは評価できる。 ③平仮名単語読み 2 モーラの平仮名単語読みにおいては,8 月 末時点で「ちち」「ふね」の 2 単語が完全な単 語読みになっており,他の単語も語頭が発音さ れた後から語尾が発音されるまでの時間間隔は, 0.2〜0.7 秒と短縮されてきている。新しい 2 モーラの単語も 0.2〜1.8 秒の間に読むことがで きており,単語読みに近い状態になっている。 ④漢字の読み書き 2007/9〜2008/8 までに粘土課題として学習 してきた文字が習得できているかどうかを確認 していく必要がある。 4.第Ⅳ期 2008/9〜12 (1) 指導目標 4 月からの第一の課題としては単語読みがで きるようになる (自動化を計る) ことをあげ指 導を実施してきたことにより,2 音節単語にお いては,「ちち」「ふね」など単語読みができる ものが出現してきた。二重ルートカスケードモ デルの理論に沿った指導法の有効性の仮説を立 写真 8

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て実施した実験的指導では,滋賀大キッズカ レッジで行っている粘土課題で学習した漢字と そのイメージ作品を利用して,その単語の平仮 名読みを習得しようとする A 指導の有効性が 示された (P. 8〜P. 9 参照)。成人の失読失書の 場合は,何らかの原因で障害を起こすまでに形 成されていたレキシコンが存在するが,発達性 読み書き障害では,レキシコンが十分に形成さ れていないため,その形成が必要となってくる。 よって第Ⅳ期では指導法 A による単語レキシ コンを増加させることを目標とする。具体的に は「漢字の粘土指導を中心に行い,漢字の獲得 とともに,平仮名においても単語読みができる 語を増やしていく」ことを目標とする。 (2) 指導内容 ①課題すごろく 一般的な双六と同じで止まったところにやる べき事,例えば「かにの反対なーんだ?」「と んぼ 2 番目の音なーんだ?」「漢字を 1 つ読 む」「お母さんに,手紙を書く」「きゅ のつく ものなーんだ?」「蛙のまねをする」「1 回やす み」などが指示してあり,それに従う。 3 年生になり,学校での学習内容が抽象化し, みんなと同じように教室での学習にはついて行 き辛くなっており,夏休み中はそれなりに自由 に過ごせていたが,9 月に入り学校が始まると, 「なんで僕だけこんな勉強せんとあかんのか」 と自分が他の子どもたちのように字が読めない ことに対する劣等感やがんばっているのにでき ないという自尊心のなさから,学習課題に集中 することができにくくなった。そのため,詰め たカリキュラムではなく,ゆったりコースに戻 し,S が自信を持ってできる課題をいくつか取 り入れ,学ぶことの楽しさと喜びを味わえるよ うに S のすきな双六課題に今までの音韻課題 や全く関係のない面白いことも取り入れた双六 ゲームを作成し,遊びながら課題を行うことが できるようにした。「おかあさんへ手紙を書く」 に止まったときは,字を書くことを嫌がりもせ ず書く内容をすぐに思いつき「おかあさんえ はやくかえてください」と書いた。促音が抜け たり,「へ」が「え」になっていたりするが, 「○はどう書くの?」と分からない文字を聞く こともなくすらすらと書き上げた。 ②音字絵あわせカード 第Ⅲ期と同様に実施するが,S だけが一人で 取るのでは苦痛になるため,指導者も加わり楽 しみながら行えるようにした。ミスの少ない課 題ではあるが,カードの枚数が増加してくると 「星」と「池」を混同していたり,「子」を見て, 「ひと」と読んだりすることがあった。これま でに学習してきた漢字をどれくらい覚えており, 読むことができるかを確認するために,漢字 カードを裏向けに積み上げ,めくったカードを S と T が交互に読んでいくというゲーム方式 での漢字の読み確認を実施した結果,読みエ ラーの漢字は「刀・子・上・父・足・歩・魚」, わからなかった漢字「牛・池・米・岩」,正解 した漢字「星・足・馬・水・糸・森・人・空・ 耳・口・雨・右・花・男・火・木・目・田・ 手・肉・刀・船」で あ り,読 み エ ラ ー で は, 「刀をつち」「子をこども」「上をつち」「父を こ」「船をうみ」「足をはしる」「歩をあか・は しる・あお」「魚をうま」と読み,意味性のエ ラーや形態的エラーが見られた。 ③粘土課題 (滋賀大 KIDS カレッジの指導法に基づ き実施する。) (4) 第Ⅳ期終了時の評価 9 月はどの課題に対してもやる気が起こらず, 学習することに対して拒否反応的であったため, 学ぶことの楽しさと喜びを味わえるように課題 を改良したが,その中ですごろくでの「お母さ んへの手紙」をすらすらと書きあげたことや指 を使うことなしでの単語の逆唱,そして S 児 が「漢字の問題を出す」など,S 児の思わぬ成 果を見ることができた。S 児の認知特性に合っ た課題を追求しつつ,常に子どもが主体となる ような教育的な指導を考え,実施していくこと が子どもの発達につながるものとなる。 第 4 章 漢字を用いた実験的指導の分析 1.漢字と平仮名の関係 二重ルートモデルのコンピュータバージョン である二重ルートカスケードモデルでは,「読 み」において,意味に直接至るレキシカルルー トと単語を音素 (音節) に分解し文字素に変換 し,単語音に変換するルート通常「音韻ルー

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ト」と呼ばれる経路の二つがバランスよく処理 され音読に至る17)。S 児のように,逐字読みに なることの構造性を二重ルートカスケードモデ ルによって考えると,文字―検知器から視覚的 単語検知器に繋がるルート (レキシカル・ルー ト) に困難性があり,スピーディーに繋がらな いため文字―検知器から形態素音素規則システ ム (非レキシカル・ルート) が有利に働き,次 に音素システム→音韻出力レキシコン→意味シ ステムに至りここで音からなる単語の意味を理 解し,もう一度逆に意味システム→音韻出力レ キシコン→音素システムを経由し発話に繋がる と考えられる。文字を読む場合,通常我々は, レキシカルルート (意味ルート) の滝が流れる ように連続的に情報を伝達し活性化する機能で 単語を見るとすぐにそれが何を意味しているの かを理解することができる。表音文字である平 仮名の読みにおいては,初期段階で,非レキシ カル・ルート (音韻ルート) を利用しその後親 密語に対してはレキシカル・ルート (意味ルー ト) を利用して読むことになる。 音韻ルートに困難がある S 児にとって,形 態素文字 (表音のみならず表意的性格がある) である漢字は平仮名よりもわかりやすく,文字 (漢字) と音と意味は比較的結びつきやすい。 そこで,表音文字である平仮名の単語読みを獲 得するために漢字を媒体として用いることを試 みる。単語読みを獲得するために,平仮名のみ を用いた場合と漢字をその媒体として用いた場 合とでは獲得の仕方がどう変化するかを,下記 の方法により実験的指導を行い,比較検討する。 2.方 法 通常の滋賀大 KIDS カレッジの粘土文字指導 法 (①ことばの (意味の) イメージを思い浮か べ形にする②粘土を用いて「意味」のイメージ を具体的な形にする③文字を粘土で作る④鉛筆 で文字を書く) に,少し変化させた粘土指導と 指導した文字を使用し新たな指導を加えて実施 する。平仮名の単語読みを促すために,平仮名 のみを用いた場合と漢字をその媒体として用い た場合とでは獲得の仕方がどう変化するかを表 2 の ABC 指導を用いて比較する。 3.期 間 2008 年 4 月〜8 月の第Ⅲ期で実施 4.比較方法 ABC 指導での平仮名単語が読めるかどうか 比較する。1 枚に 1 単語を書いたカードを提示 しそれの読み方,読む時間 (第一音が出るまで の時間,第 1 音と 2 音の間の時間,読み終わる までの時間など),読めた数などの比較を行う。 時間の測定法は,S 児が単語読みをするのをビ デオに撮り,それを音声波形に変えて測定する。 種 類 牛うし・足あし・町まち・岩い わ・魚さかな ほん・とり・きく・した・はしる 上・家・船・父・車 課 題 音・字・意味 (絵) あわせ 同じ音の漢字と平仮名とそれが 表すもの (意味) をあわせる 読んで選んで 単語読み課題として,一文字では読 む こ と の で き る 文 字 を 使 用 し て 2〜3 音節の単語を読む 音・字・意味 (絵) あわせ 同じ音の漢字と平仮名とそれが表すも の (意味) をあわせる 指 導 後 A 指導 B 指導 C 指導 表 2 A の指導理論の上に平仮名の 書き指導をプラスさせたもの 平仮名単語読みを獲得するために, 平仮名の書き指導である粘土指導を 実施。その後その文字が単語として 読めるように,文字カードを読ま せ,音と意味を繋げるために,それ が表す絵カードを選ぶ課題 平仮名の単語読みを獲得するために漢 字を媒体として用いる。まず,漢字の 書き指導として粘土文字を実施。通常, 文字 (単語) は文字の視覚的形態,音 韻的側面 (読み),単語の意味の 3 つの 要素をかならずもっており,どれ一つ かけても文字 (単語) の体をなさない。 3 つの要素を合わせる課題 目 的 と 理 論 漢字と平仮名の両方で粘土文字 をつくる。 平仮名で粘土文字を作る 漢字で粘土文字を作る

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5.結果・比較分析 平仮名の単語読みを促すために,平仮名のみ を用いた場合と漢字をその媒体として用いた場 合とでは獲得の仕方がどう変化するかを比較し た結果,第 1 回目の検査は ABC 指導の中でど の指導がもっとも効果的と言うことはできない ようなばらつきが見られたが,「ほん」「とり」 の単語の 1 音と 2 音の間の時間が短いことより, 比較的 B 指導 (平仮名) が効果的と見ること ができる。第 2 回目の検査では「ちち」「ふね」 が単語読みになっており,時間の短さでは①〜 ③までを A 指導 (漢字) が占めていること, A 指導の単語は読みのエラーがみられなかっ たこと 3 モーラ単語では,A 指導の単語のみ 読めていることより,A 指導つまり漢字の粘 土指導を実施したものが平仮名の単語読みに効 果的であったという結果が得られた。第 3 回目 の検査は,「うーえー」「まーちー」「ちーち」 と全ての単語をのばしてよんでいるため正確な 値とはいえないが,2 回目と同様 A 指導の単 語が短時間で読めており,A 指導では読みエ ラーは無いことから A 指導がもっとも効果的 で有る。 第 5 章 総 合 考 察 1.認知特性と指導方法の関係 本症例の認知特性が,①音―文字の 1 対 1 対 応ができていないなどの音韻意識の困難性②視 覚情報処理に困難性 (符号 3 記号 1) があり, 聴覚的記憶においては困難性はないということ を念頭に置き,本症例の指導内容と成果を第 1 章で取り上げた先行研究と比較考察してみる。 春原5) (2004)・宇野6) (2003) らは,視覚的 認知,視覚的記憶力に障害を認めた一方で音声 言語の記憶力が良好であった症例に対して,音 としての五十音表を活用し,平仮名の書字訓練 を実施しているが,この場合,音と文字の 1 対 1 対応や音韻の分解・抽出などある程度の音韻 意識が整っていたものと考えられる。また,松 本7) (2005) の 50 音表の暗唱と対連合学習を 用いての指導では,音韻意識の遅れを示す,あ るいはロゴグラフィック段階の 1 症例では大き な改善にはならない結果を得ている。大石3) (1997) の文字―音対応を学習できない発達性 ディスレクシアに対して,言語情報を介在させ ることによって,文字と音韻表象の対応を学習 させる仮名キーワード法では,媒介としたキー ワードが,単語を読むことではマイナスに働き, 単語読みの自動化には繋がらなかった。 S 児においては,音韻意識の困難性があった ため,平仮名文字の読み書きの導入以前に音韻 意識を獲得させる必要性があった。天野が指摘 するように,音韻の分解・抽出を中心に指導を 行った。子どもが楽しみながら,遊びやゲーム 感覚で音韻意識を獲得できるように,言葉集め すごろくゲームでの音韻分解,独楽を使用して の音韻抽出やしりとり遊びなど指導法を考慮し た。 2007 年 4 月から指導を開始した後,平仮名 の読み書き指導を実施していないが,4ヶ月後 の 8 月には平仮名清音 1 文字読みで 35 文字を 読むことができたのは,学校では気付かれない 読み書きの根底の基礎能力である音韻意識 (ま ずは分解と抽出) の発達をはかることにより, 音と文字の 1 対 1 対応を獲得することを中心に 据えたキッズカレッジでの個別指導が,学校で 実施している平仮名カードを用いてのカルタや 単語つくり指導 (個別指導で 1 日 1 時間,国語 と算数で 2 時間) の効果を少しずつ上げていく 結果へと繋がり,8 月には平仮名清音 1 文字読 みを 8 割程度読めるような結果になったと考え られる。S 児において,音韻指導 (2006 年か ら実施している) なしに,平仮名の文字指導を した場合はこのような結果は得られなかったと 推測される。 S 児の場合左角回を中心とする音韻処理ルー トは困難性があるが,側頭葉後下部を中心とす る視覚処理から意味に繋げるルートを介しての 理解が保たれていること,そして,日本の文字 教育は,ひらがな,カタカナ,漢字の順で行わ れ「漢字よりも平仮名の方がやさしい」という 固定観念があるが,実は平仮名表記より漢字表 記のほうが習得されやすいという研究19,20) (長谷川 1988,1990) もあるように,平仮名を取 得しなければ漢字学習に取り組めないわけでは なく,S 児の認知特性の強い部分を活用し,漢 字学習を重点的に実施した。

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漢字の書きの指導では,春原らの実施した聴 覚法があるが,親「木の上に立って見ているの が親」とする場合,木や立つや見るの漢字をす でにマスター出来ていなければならず,S 児の ように 1・2 年生漢字でつまずいている者に とっては,段階が進むまでは用いることはでき ない。 滋賀大キッズカレッジで行っている漢字の書 き指導は,漢字を音で聴き,漢字の意味をイ メージとして粘土で作り (意味を言葉で説明す るのではないため子どもが混乱しない),漢字 の形態そのものも粘土で作るため,意味と形と 音が結びつきやすい。この方法で漢字指導を実 施 し,S 児 の 獲 得 す る こ と が で き た 漢 字 は 2008 年 12 月時点で読み1 年生漢字 60 文字 (80 文字すべての読み課題を実施),2 年生漢字 8 文字 (粘土文字課題として実施したものでの 読み課題を実施),書き 40 文字 (書きとりテス トを実施したわけではないが今までの指導で S 児が書いた文字) となった。 2.「安心と自尊心」の実践的意義 本症例 S 児の指導において,レキシカル ルートがうまく繋がっていく特性を生かし,音 と文字と意味の 3 つのつながりを強めることを, 漢字の書き指導や平仮名の単語読みの指導に実 験的に強化して取り入れた際,S 児にとっては 詰めた指導であったことと認知特性にのみ捕ら われ過ぎ,楽しんで読み書きの学習をすること が置き去りにされていたこと,夏休みが終わり 学校での拘束された日々が始まったことがあり ストレスがたまり,集中して学習に取り組むこ とができにくくなった。そのため,課題の数を 減らしたり,指導内容を S 児が得意とし必ず できる段階のものにレベルを下げて様子を見る が,今まで集中できていた粘土課題にすら力が 入らない状態になった。「楽しんで読んだり書 いたりできるようになる」ことを再度重点的に 意識しながらの指導内容に変えることとし,学 ぶことの楽しさと喜びを味わえるように課題を 改良した結果,課題すごろくでは「お母さんへ の手紙」をすらすらと書きあげ,また S 児自 らが「漢字の問題を出す」などの変化があった。 こういった指導こそが,教育的な指導であり, 「安心と自尊心」を最大限に生かしたものとい える。指導者 (T) が「漢字のテストやるよ」 といって書かせたものとは全く異なり,自分の 頭の中を整理して問題を出し,「T が読めない かもしれないぞ」という楽しみも持ちつつ行う ことができた。また,漢字カード年末大勝負で は,読めた文字は 80 字中 60 字で 1 年生漢字 75% を読むことができている。この勝負に 勝ったこと,たくさんの漢字を読めたことが誇 らしく,お父さんがお迎えに来られた時に,自 分の取ったカードをもう一度お父さんの前でぜ んぶ読んでくれた。読んだり書いたりすること を意欲的に取り組むようになってきている。 同じ課題であっても,子どものやる気を引き 出せた時,子どもは主体となりどんどん力を出 し良い結果に結びついていく。認知特性にこだ わりつつも,それを子どもと指導の中で教育的 にどのように取り入れていくのかが重要な鍵に なる。楽しんで読んだり書いたりできるように なることは,文字の書き方だけを指導された時 よりも発達を含んだより大きなものを獲得する ことができ,次の発達へとつながっていく。現 時点では個々の認知特性に合う指導を模索して いる段階ではあるが,解明されてきたことを十 分に生かしながら教育的指導の確立を目指して いく必要がある。 3.平仮名と漢字獲得のプロセスについての 考察 S 児は音韻に困難を持っているがそれに比較 すると表意的性格を有する漢字は,読みやすい という特徴がある。音と文字の 1 対 1 対応を獲 得できていない時に,この特徴を利用した指導 を実施した。すなわち,1 文字 1 音の 1 年生漢 字を用い,漢字と絵 (意味) のマッチングを行 う指導は,その字がある意味を表わし,かつ 1 つの音で表わされていることへと繋がり,認知 特性を生かす面で一定評価することができる。 また,S 児にとっては,形態素文字 (表音の みならず表意的性格がある) である漢字は平仮 名よりもわかりやすく,文字 (漢字) と音と意 味は比較的結びつきやすい。そこで,表音文字 である平仮名の単語読みを獲得するために漢字 を媒体として用いることを試みた。平仮名の単

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語読みを促すために,平仮名のみを用いた場合 と漢字をその媒体として用いた場合とでは獲得 の仕方がどう変化するかを比較した結果,漢字 を媒体とした「ふね」「ちち」の 2 単語は,単 語読みができるようになり,漢字を媒体として 用いた方が単語読みになりやすいという結果を 得た。漢字・平仮名・粘土イメージ作品 (意 味) の 3 つを 1 セットとしたカード指導が有効 的に働く可能性が大きいことが示唆された。 「ふね」に関しては,平仮名 1 音の「ふ」と 「ね」では S 児は読むことはできないが,漢字 を用いることによって,「ふね」と平仮名単語 読みが可能となったことは,意味・音・文字を 結びつけることの重要性を示しており,この点 でも漢字を媒体として用いることの有効性が示 されている。 4.今後の課題 S 児だけではなく読み・書き・算数困難をか かえる子どもたちが,その認知特性に合った教 育を受けられるような制度を早く作り上げてい く必要がある。まず,読み書き算数障害につい ての研究を神経心理,認知心理,医学,教育学 の分野でより一層進めるとともに,専門的な知 識と経験を持つ指導者の養成と一般教師への知 識の普及が必要である。これは安上がりで短期 間に養成できるものではなく,かなりの専門的 な能力が必要となる。発達性読み書き算数障害 については解明されていないことが多く,さほ ど多くの指導方法がなされているわけではない ことが分かった。認知特性に合った詳細なプロ グラムができるためには,数多くの事例研究が なされ,それに基づいた教育的なプログラムの 構築をめざして研究を進める必要がある。 引 用 文 献 1 ) 天野 清 (2005) かな文字の読み・書きの習得 と音韻 (節) 分析の役割,教育学論集,145-203 2 ) 高橋 登 (2001) 文字の知識と音韻意識,こと ばの発達入門,秦野悦子編,大修館書店,196-218 3 ) 大石敬子 (1997) 読み障害児 3 例における読み の障害機構の検討―話し言葉を通して―,LD ―研究と実践―,第 6 巻第 1 号,31-44 4 ) 坂本真紀・前川久男等 (2004) 聴覚的な継次処 理に特異的な困難を示す男児に対するひらが な読み指導,LD 研究,第 13 巻第 1 号,3-12 5 ) 春原則子・宇野 彰・金子真人 (2004) 発達性 読み書き障害児に対する障害構造に即した訓 練について―その方法と適応―,発達障害研 究,77-84 6 ) 宇野 彰・金子真人・春原則子 (2003) 学習障 害児に対するバイパス法の開発,発達障害研 究,第 24 巻第 4 号,16-24 7 ) 松本敏治 (2005) ひらがな読みに困難を示した 2 事例への読み指導―50 音表暗唱と対連合学 習を用いて―,弘前大学教育学部紀要,第 94 号,73-80 8 ) 服部美佳子 (2002) 平仮名の読みに著しい困難 を示す児童への指導に関する事例研究.教育 心理学研究,第 50 巻第 4 号,476-486 9 ) 森田陽人他 (1997) 平仮名読みに困難を示す児 童の読み獲得の援助,LD(学習障害) ―研究 と実践―,5(2),49-62 10) 小池敏英・雲井未歓・窪島 務 (2003) LD 児 のためのひらがな・漢字支援,あいり出版 11) 天野 清 (2006) 学習障害の予防教育への探求 ―読み・書き入門教育プログラムの開発,中 央大学出版部 12) 春原則子・宇野 彰・金子真人 (2005) 発達性 読み書き障害児における実験的漢字書字訓練 ―認知機能特性に基づいた訓練方法の効力―, 音声言語医学 46:10,10-15 13) 佐藤 暁 (1997) 構成行為及び視覚的記憶に困 難を示す学習障害児における漢字の書字指導 と学習課程の検討,特殊教育学研究,34(5), 23-28 14) 水野 薫 (1998) 形の記憶に特異な困難を示し た書字障害児の指導,LD―研究と実践―,第 6 巻第 2 号,67-75 15) 高橋久美他 (2008) 漢字の形の熟知情報呈示に 基づく書字指導に関する研究−書字困難のみ を持つ LD 児に関する検討―LD 研究,第 17 巻第 1 号,97-103 16) 窪島 務 (2005)読み書きの苦手を克服する子 どもたち.文理閣 17) 窪島 務 (2008) 読み書き障害の概念,アセス メント,診断と教育的指導の理解,障害者問 題研究,35(4),2-13 18) 林 建造 (1980) 幼児の成長と文字指導,幼児 と文字,保育学年報,フレーベル館,127-140 19) 長谷川芳典 (1988) 2 歳児における漢字の読み の学習課程,長崎医療技術短期大学部紀要,2, 139-150 20) 長谷川芳典 (1990) 3 歳児における漢字熟語の 読みと生成,行動分析学研究,4,1-18

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