社会史研究に基づく歴史授業構成 (III) : 集合心性に着目した「土一揆」の授業構成と実践分析
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(2) 158. い, 184人から回答を得た。その内容および結果は次のとおりである。 【結果】 問1 「-撹(いっき)」ということばを聞いたことがありま 問1ア183人 ima イ1人(留学生) アあるイない 問2 問2 1で「アある」と答えた人に、お聞きします。 (1)ア172人 (1)そのことばを初めて聞いたのはいっ頃ですか。 イ9人 ア小学校イ中学校り高校 ウ,エ0人 エその他( ) (2)ア165人 (2)誰(何)を通じて聞き(知り)ましたか。. イ5人 ウ12人 エ1人. ア教科書(授業)イ学習参考書(塾など) ウ漫画、TVエその他(. ). 問3 「土-按」について、お聞きします。. 問3 (1)ア0人 イ0人. (1)土-按が多発したのは、いっ頃だと思いますか。 ア奈良時代イ平安時代ウ鎌倉時代 工室町時代オ江戸時代力明治時代 キわからない (2)あなたのイメ-ジする土-按とはどんなものですか。 (. ). (3)土-按で農民が徳政(借金の帳消し)を要求したこと について、どう思いますか。 ア農民の立場は理解できるし、要求も正当である。 イ農民の立場は理解できるが、要求は不当である。 ウ農民の立場も理解できないし、要求も不当である。 エわからないオその他(. ). ウ22人(12.0%) エ87人(47.5%) オ44人(24.0%) カ1人 キ29人(15.8%) (2)後記 (3)ア60人(32.8%) イ90人(49.2%) ウ0人 エ33人(18.0%) オ0人. この結果からみるかぎり,大半の者が小学校時代の授業を通して「-授」について知っ たことがわかる。従って,高校で日本史を受講した者にとっては,小・中・高とこれまで に少なくとも3度は-按を学習したことになる。しかし,認識の正確さとなると,例えば 土一校の時代を室町時代と答えた者が50%に達しないことからもわかるように,多分に怪 しくなる。そこで,問3の(2)から土-按のイメージについて分析してみたい。自由記述の 内容を,いくつかの概念群に整理すると,次のようになる。数字は延べ人数を示す。 ・農民,土民(民衆,百姓,貧困層,地侍などを含む143人 ・反抗,反乱,暴動(領主・富者層への反抗,怒りの爆発など139人 51人 ・生活苦(貧困,不作,生活への不満,年貢の圧迫など) 45人 ・集団(結集,団結,寄り合いなど) 34人 ・武力の行使(鎌,鍬などの農具や竹槍を武器に立ち上がる) 16人 ・徳政要求(借金の棒引きなど) 11人 ・決死の行為(最終の手段など) 4人 ・その他 これを見ると,かれらの-撰イメージが驚くほどよく似ていることに気づく。すなわち,.
(3) 社会史研究に基づく歴史授業構成(Ⅲ). 159. 生活苦に陥 った農民が集団で鎌や鍬を手に立ち上がり、支配層に対 し暴動を起 こした0. というものである。徳政に言及したものは少なく,ほとんど江戸時代の百姓-按や打ち壊 しのイメ-ジと変わらないOこのイメージを支えていると考えられるのが, (農民-貧困 (みじめ) -団結-暴動)といった短絡的な論理である。この論理の行き着くところは, 英雄的な民衆観(抑圧された農民が支配層に対して勇敢に立ち上がる)か,愚民観(所詮 農民は貧しく集団でないと何もできない)かのいずれかであろう.だが,歴史上の農民の 姿は,そう簡単に割り切れるものではない。 -按に立ち上がった農民は,本当に貧しくみ じめであったのか。また,農民は果たして暴動のために団結したのか。これらの問いに答 えるためにも,まずは, -撲像そのものの再検討が求められる。 次に土-按に関しては,農民の徳政要求をどうとらえるかが問題になる。だが,数字を 見るかぎりその点がきわめて弱い。土-按の意味ではなく,イメージを問うたことに原因 があるのかもしれないが,かれらの土-按認識自体にも問題があろう。問3の(3)でも,農 民の立場は理解できるが,徳政要求は不当だとする見方が約50%を占めている。生活の苦 しいのはわかるが,借金の棒引きとは虫がよすぎると言うのだろう。徳政観念を欠いた撲イメージからすれば,当然の帰結である.他方,農民の立場も理解できるし,徳政要求 も正当だとする見方がそれに次ぎ,約30%を占めている。おそらく徳政の観念を理解した 上での回答ではなく,単純な民衆史観のなせるわざであろう。歴史を動かすのは常に民衆 のたたかいであり,徳政要求も民衆のたたかいであるがゆえに正当だと言うのである。だ が,それはあくまで後世に視点を置いた一つの評価にすぎない。当時の農民たちは一体ど んな気持ち(正当性の根拠)で徳政を要求したのか,それが問題なのである。まさに, 按と徳政をめぐる中世の農民の心性が問われていると言える。 (2)歴史教科書における土-授記述 先のアンケート結果を見てもわかるように,大学生の土-授認識の形成において,最大 の役割を果たしたと考えられるのが教科書ないし授業である。そこで,まずは教科書の記 述内容を分析する。分析の対象としたのは,昭和61年ないし62年発行の教科書,小学校6 年上5冊,中学校歴史的分野7冊,高校日本史13冊である3)。教育課程の改訂にともない, すでに小学校用の新しい教科書も出版されているが,ここでは中学・高校との比較を考慮 し,旧課程の教科書を分析した。具体的には,土-按に関する記述を大きく背景の説明と 行為の説明とに二分し,さらにそれぞれの記述を構成する要素を概念群に整理するという 方法をとった。結果を示せば,次のとおりである。 【小学校教科書】 土 一 按 の 背 景 に 関 す る要 素. 土 一 按 の行 為 に 関 す る要 素. 出版社 飢鐸. 年貢. 借金. (⊃. ○. ○. ○. 〇 〇. ○. C -. 大 書 兼 吉. 〇. 中 教 学 図 教 育. 民 衆の 力 ○. 農民 ○. ○ ○‥. 集団. 武器. 反抗. 〇. ○. ○. 一 ○ 〇 〇. * 「村に住む武士とともに」と地侍に言及。 **正確には「村」。. 年貢 軽減 借 金取 消 ○. ○. ○. ○. ○. ○ ○. ○. ○.
(4) 160. 【中学校教科書】 出 版 社. 背. 景. 主. 飢. 午. 自. 商. 農. 局. 鍾. 負. 袷. 莱. 氏. 鰭. 中 教. 〇. ○. 学 図. ○. 〇. 教 育 ○.. ○. 大 書 ○. 東 書. ○. 形. 態. と. 商 工 業 者. 柑. 交. 武. 結. 捗. 器. ○. 〇. 〇. 〇. 〇. ○. 〇. 日 書. 清 水. 体. ○. 〇‥ ○. 行. 動 餐. 要. 高 刺 質 し. 破借 金 証 * *. 翠. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. ○. 〇. ○. 徳 政. 〇. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. ○. 〇. 〇. 〇. ○. 〇. 堊 良 軽 減. 蝣 *K TJ 〇. ○. ○. 求. 〇. 〇. * 「民衆も力を強め」と民衆の成長に言及。 辛 *別に「有力な農民や国人」ともある。 【高校教科書】. 出 版 社. 背. 景. 主. 体. 形. 態. と. 行. 借. 土. 惣. 農 一馬. 団. 武. 金. 地. 村. 氏. 結. 力. 第 一. ○. 〇. 学 図. ○. 〇. 実 A. ○. 〇. ○. 〇. ○. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇‥. 〇. 〇. 〇. 〇. 重 秩. 実 B. 貨 幣 経 済. 〇. ○. 自 由. 〇. 三 A. 〇. 〇. 〇. 三 B. 〇. 〇. 三 C. 〇. 〇. 〇. ○‥.. 〇. 〇. 〇. 清 水. 〇. TJi #. 襲 響. 要 証 文 破 秦. C ○ 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 山 B ..‥. 〇 〇. 〇. 〇. 〇 〇. 〇. 〇. 〇. 徳 政 Au. 隻 良 餐 減. 守 58 排 除. 〇. 〇. ○. 〇. ○. 〇. 〇. 〇 〇 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 求. 〇. 〇. 山 A. 山 C. 鰭. rUi 刺 實 し. 動. 〇. 〇 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇. ○. 〇. ○.
(5) 社会史研究に基づく歴史授業構成(Ⅲ). ifill. 辛 「-按とは特定の目的を持って共同の行動を約束すること」と定義している。 * *別に「村の代表者である土豪」とある。 *** 「都市の住民などともいっしょになって」とある。 * * * *国人-按の注に、 「中世の人々は、ふつうの状態ではなしえない目的を実現するために、 神仏に誓約して一致団結した状態(一味同心)の集団をしばしば結成した。これを-按 といい、この時代には、国人-按のはかに土-按など種々の-按が結ばれたO」とある。. これらの表から明らかになるのは,小・中・高のどの段階においても,土-按の基本的 な論理に変わりはないことである。すなわち,土-按の背景として,一方で重い年貢と借 金といった農民の窮状が,他方で惣村に象徴される民衆の成長が指摘される。続いて,土 -按の形態や行動として集団性,武装性,戦闘性が,土-按の要求項目として主に徳政の 実施(借金取消)と年貢の軽減が掲げられる。学校段階が上がるにつれて変化するのは, 用語の難解さと,説明の詳細さだけである。また注目すべきは,そうした教科書の土-授 記述と,先に見た大学生の土-撰像とが酷似していることである.ここから,一般的な土 -授認識の形成における教科書(授業)の影響をはっきりと確認することができる。高校 の教科書の中には(上表の「山B」の注を参照), -按についての新しい解釈を示したも のも見受けられるが,全体から見ればごく少数であり,しかも欄外の注での扱いにとどまっ ている。また,徳政の観念について社会史的視野(集合心性)から説明したものも見られ ない。 (3)先行授業実践における七一按の扱い ここでは,土-撹(国一校も一部含む)に関する小・中学校の授業実践を取り上げ,そ こにおける説明の論理,すなわちいかなる問い(発問)により,いかなる回答(認識内容) を引き出そうとしているのかを分析する。対象から高校の日本史を除外したのは,先の教 科書分析を見ても実質的な土-授記述の論理に違いが見られなかったこと,また高校では 日本史の授業を受講しない生徒もかなりいる(先述のアンケートに答えた大学生の場合, 184人中63人が受講していない)ことを考慮したためである。しかもアンケート結果の分 析によれば,高校でE]本史を受講した者としなかった者との間に,土-按に関するイメー ジの差は全く感じられないことから,一般的な土-授認識は小・中学校の間に形成される と考えられる。 収集した授業は小学校11事例,中学校17事例と数的に限られるが4),土-撲授業の一般 的傾向を把握することはできよう。分析結果を示せば,次のようになる。発問は主要なも のに限定し(数字は授業の延べ数),認識内容も典型的な命題の形に整理した。. 発. 問. (発 問 の性 格). なぜ , この 時 代 に土 一 按 は多 発 した の か0 なぜ 人 々 は一 按 を起 こ した の か 0 (土 一 按 の 原 因 ,背 景 を求 め る問 い). 期待 され る認 識 内容 惣 の結 成 な どで 力 を 強 め た民 衆 は , 年 貢 軽 減 や 徳 政令発 布 を求 め て立 ち上 が った○. 室 町 時 代 の民 衆 は 自分 た ちの 願 いの 実 現 の た 民 衆 は寄 り合 い を 開 い て め に ど う した か 0 団 結 し, 生 活 を 守 る た め (民 衆 の原臥 、か ら考 え させ る問 い) に一按 を 起 こ した0. 小. 中. 2. 6. 2. 2.
(6) 162. 民衆 の一按 を起 こす力 はどこか ら生 まれて き 高 まる農業 生 産力 , 自治 たのか。 なぜ一按 を起 こす ことがで きたか0 に よる村 の団 結力 , 武 力 (民衆 の力 の根拠 を求め る問い) が, 民衆 の力の源泉 となつ tzc なぜ土一按 は土倉 . 酒屋 . 寺院な どを襲 った 借 金 に苦 しむ民衆 は, 鰭 用書の破棄 を求 めて土倉 . のか0 I (土一按 の目的 を求 め る問 い) 酒屋 な どの高利 貸 しを襲 った○ 土一按 はどのよ うに展 開 されたか0 土一按 とはどん な事件 だ つたか0 (土一按 の主体 . 昌的 . 行為内容 を求 め る問 い). 農民 , 馬 借, 地 侍 は不 法 な代 官 の排 斥 や年 貢 の軽 減, 徳 政 を求 め一 按 を起 こ した。. 土一按 の結果 はど うな ったか0 (土一 按の結果 . 影響 を求 める問 い). 土一按 に よ り民 衆 は徳 政 を勝 ち取 り, また 時 に は 守護を排斥 して 自治を行 っ た0. 土一按 の起 きたの はどのよ うな時代 だつたの 土一按 の時代 は荘 園制 の か0 土一按 に どんな意義 があるか0 解体期 であ り, ま た全 国 (土一按 の意義を求 める問い) 的な民衆 蜂起の時代であっ た0 自分 が幕府の立場で あ った ら, 徳政令 を出す か, 一 按を鎮圧 す るか0 (子 ど もに意思 決定 を求 め る問 い). 6. 5. 3. 1. 1. 7. 2. 1. 0. 2. 0. 1. この表から明らかになるのは,小学校段階では-按を起こした民衆の力を問う授業が最 も多いことである。 -按の原因・背景を問う場合でも,中学校では「なぜ-按が起こったか」 と-按を主語にするのに対し,小学校では「なぜ人々は-按を起こしたか」と民衆を主語 にしているOそのことは,民衆の原臥1から土-按を考えさせたり,民衆の生活に焦点を当 てて-按の目的や結果を問う場合にもあてはまる。貝体的な人物や人間集団を取り上げ, かれらの願いや行為の意図から歴史に迫ろうとするのは,小学校の歴史学習の一つの特徴 である。他方,中学校段階では士-按という事件を全体的にとらえさせようとする傾向が 指摘できる。それは, 「土-按はどのように展開されたか」という問いや, 「なぜこの時代 に土-按は多発したか」という問いに端的に表われている。どのようにと問われれば,紘 局年代順に土-按の経過を説明するか,あるいは背景・契機・経過・結果・影響などに分 けて説明することになる.また,なぜ土一校が起ったかと問われれば,その背景なり原因 を総合的に説明せざるをえない。時代の特色をとらえさせようとする中学校歴史学習の特 徴の現れと言えよう。 では,問題はどこにあるのか。まず,第一に「-按とは何か」という問いがないことで ある。つまり,一校の明確な定義をしないまま,その背景や原因,主体,目的などを学ば せようとしている。それほど, -按とは自明のことであろうか。確かに,教科書や年表を 見れば,正長の土-按や山城国一校についての記述があり,場合によっては-按の挿絵な どが掲載されている。だが,それらは一校の一面にすぎないのである。近年の社会史研究 によれば, -按とは本来「起こす」ものではなく「結ぶ」ものだと言う5)。事件なら起こ.
(7) 社会史研究に基づく歴史授業構成(Ⅲ). 163. すと言えるが,結ぶとは言えまい。人間同士が結ぶものと言えば,約束ないしは誓いであ ろう。そこにこそ,中世における-撰の固有の意味があるのである。 第二に,土-按の本質が徳政要求にあることが明確にとらえられていないことである。 百姓一校と異なる土一按の特質は,主体としての農民の階層的多様性(近世的な身分制確 立以前の広範な農民層と地侍,馬借など)と,徳政にあると言ってよい6ノ。従って, 「なぜ 土-按が多発したか」 「土-按は何を求めたか」と並んで, 「土民とはいったい何か」 「な ぜ徳政要求がまかりとおったのか」という問いが不可欠なのである。とくに最後の問いは 重視したいO今から15年ほど前,本間昇は自らの土-按の授業について報告し,子どもた ちの大半が農民の徳政要求を言語道断のことと主張したことにショックを受けたと述べて いる7)。だが, 「借りたものは返すのがあたりまえでしょ」と言う小学生の言い分こそ,今 の世の中ではごく普通なのではあるまいか。 「被支配者が,権力の横暴に抵抗し,世の中 を変えてきた闘争の進歩的意義を強調」するのは,本間氏の個人的な見方にすぎない。む しろ,現代的観点からしたら言語道断とも思えるような要求が,なぜ堂々となされたのか にこそ注目すべきであろう。そのためには,中世民衆の徳政観念が解明されねばならない。 (原田智仁) 3社会史に基づく土一按理論と授業モデル (1)集合心性に着目した土-授理論 土一校の社会史,とりわけ集合心性にまでふみこんだ-撲研究,徳政研究と言えば,勝 俣鎮夫と笠松宏至の研究が注目される8'。ここでは,主に勝俣氏の研究に依拠しながら, 社会史に基づく土-按の理論について考察する。ただし,それはあくまで後の授業モデル 作成のための準備的考察であり,勝俣理論のトータルな分析を意図するものではない。そ の意味で,上述の二つの問い,すなわち「一校とは何か」 「なぜ徳政要求がまかりとおっ たのか」に対する回答を求めることをねらいとしている。 -按を通して基層の集合心性を探ろうとする勝俣氏は,まず-按の正当性と特殊な力の 根拠を明らかにするOそこで用いられるのが, 「一味神水」 「一味同心」の概念である。一 校は単なる目的集団ではなく, 「一味神水」という手続きを経て, 「一味同心」という連帯 の心性を獲得した非日常的な集団をさす。 「一味神水」とは,神前において-按の構成員 が,起請文を焼いた灰を神水に混ぜ,皆で回し飲みをすることである。いわば神との共飲 共食であり,それによって神との契約,神を媒介とした人と人との契約が成立する。こう して生まれた「一味同心」の連帯の心性こそ, -按の正当性と特殊な力の根拠となると言 うのである。 さらに,中世後期に見られた「土民こそが徳政を要求する権利をもっ」という主張に着 目し,その根拠を解き明かす。中世において徳政は復活・再生を意味し,もとへ戻る,あ るべき姿に戻すことであると考えられていた.土-按の徳政要求は,土地を開墾すること で土地に生命を与え,本主のもとから所有が移転した土地を本主が取り戻すことで土地が 息を吹き返すという「地発(ジオコシ)」の観念や慣行を前提として行われた。つまり農 民がそれを主張しえた背景には,農民の耕作地に対する所有意識の確立と,それを通して の百姓身分の形成があったと言うのである。またそうした徳政観念からすれば,土-按の 徳政要求が単なる債務の破棄ではなく,世の再生・復活を迫る世直しの性格も併せもって いたことが明らかになるO天下一同の徳政を要求した嘉吉の土-按は,その例証となろうO (2)授業モデル「土-按と徳政」のねらいと構造 ここでは,上記の土-授理論を組み込んだ中学校歴史的分野の授業モデル「土一校と徳.
(8) 164. 政」 (3時間相当)を提示する9)。この授業モデルの直接のねらいは,中学生の一般的な土 -授認識,徳政観の修正を図ることにある。しかし,完全な投げ入れ教材として開発する のではなく,通常の通史的な授業の流れに位置づけて学習できるよう配慮した。そのため に,集合心性の視点だけでなく,時代との関わりも重視した。とくに土-按をめぐる農民, 土倉,幕府の関係については,脇田晴子らの研究を参考にした10)。 1.目標:中世民衆の集合心性を手がかりに,土-按の意味を探求する。 2.主要な問いの構造 土-按の土とは何をさすか。 ○土-按とは何か。 -按とはいったい何か。 ◎室町時代の農民は :芸ol 。草J 徳政とは何か。 なぜ土-按を結び なぜ室町時代になって貨幣の 徳政を要求したの ○なぜ農民が借金を負し 流通量が増えたのか。 か。 むようになったのか。 農民は誰から借金したのか。. (第2時). 、1. 借金が返せない場合,農民は どうなったか。 ○なぜ農民は徳政を要求し- ・農民は徳政をどう考えたか。 えたのか。 (第3時) なぜ幕府や領主は農民の要求 ○幕府や領主は農民の徳政 を認め徳政令を発布したのか。 要求にどう対処したか。 なぜ幕府や領主は土-按を鎮 (第3時) 圧し,土倉を保護したのか。. ◎なぜ室町時代には 徳政がまかりとお っていたのか。. 3.主要な知識の構造(上記の○の問いに対応し,各時の到達目標に該当) ①土-按とは一味神水により成立した農民の団結であり,徳政を要求した。 ②農業生産力の発展にともなう商品経済の浸透と,農民の自治意識の高まりによる惣の 成立は,農民や惣に貨幣を必要とさせるようになり,借金を負いこむことにもなった。 ③室町時代の農民は,徳政を仮死状態の土地(物)に生命を軽らせることと考え,本来 の持ち主(耕作者)が土地を取り戻すことは正当な行為と見なしていた。 ④封建的土地所有に立脚する幕府や領主にとって,農民の要求も無視できず徳政令を発 布した。だが土倉の税への依存度も大きく,基本的には-按を鎮圧しようとした。 (幕府・領主と農民,土倉の関係) 慕 (. 身. 分. 府 的. 地. 主 所. 育. 権. ) :!i-S咋=y^. 税対. 領. 抗. 課. 土. .. 土倉. 農民. (私有権). (土地耕作権). 私徳政要求.
(9) 社会史研究に基づく歴史授業構成(Ⅲ). 165. 4.授業モデル 発. 間. 説. 明. 教授 . 学習活動. 資. 料. 予想 され る生徒の回答ない し認識 A. 第. 1. 室町時代 とはどんな時代だ ったのだ ろ う0 教 科 書の年表か らわかることを答え なさい0. 1. T. 発問 し指名. P. 答える. 折込 み年 表. . 教科書の. T. 資料提示. ① お もな 土. P. 資料で確認. 一校 年表. T. 課題提起. . 南北朝の対 (1-、最初 の土 .一校、 応仁 の乱、山城ijl一探、 加 賀一 向 一 接 など、戦乱や一校がE]立つO. 時 2. このようなところか ら、室町時代 は 「 一 按 の時 代」 と言われています0 資料① を見て くだ さい0 土一 一 按 か毎年のよ うに起 こっています0 円 l一 按や. 導. . 室町時代 にはとくに土一 按 が頻 I 発 してい る0. 一 向一接 も土一校の発展 した ものと考えられ ます 0 では、土一操とはい った い何 だろ う0 この問題 を 今 E= ま考えてみま しよう0. 入. 3. まず、土一撰の土 とは何 のことなのかな0. 4. 次に、一按 とは何だ ろ う0 - 探 と聞 いて どん な イメ一 ジを もつか、各 自カ一 ドに書 きな さい0 では、発表 して もらいま しようO. 展. 5. みんなの イメI ジでは農民の暴動 とい うのが 多 いよ うですが、本当 はど うだ ったんだ ろう0 実 は、 これが一按 のよ うすを措 いた絵 です0 こ. T. 発問 し指名. P. 答える. T. カI ド自 己布. P. カー ド記入. . 苦 しい生活 に耐 え きれな くな つ. T. 7一 8 人指名. た農民 たちが、栗岡で領 + A-な ど看. P. 答え る. T. 資料提示. ② 一按 を桔. . 神社 の境 内で集会を開いている0. T. 発問 し指名. ぶ 人 々 (一. お椀 で水を飲んでいる人 がい る0. P. 答え る. 味 神水 ) の. 皆 そろって笠をかぶって い る0 何. 絵. か大事 な話合 いの最 中のようだ。. れを見て気づ いた ことを発 表 して くだ さい0 6. 7. 農民た ちが神社 に集 ま り、神泉 の水 を回 し飲 み. T. 考え させる. して いるところです0 い った い何 のた めに こん な. T. 2-3 人指名. ことを して いるのだ ろ う0. P. 答え る. T. 説明 し再度. これ とよく似 た儀式 は、今で も結 婚式 の神 前 で. . 土民 とは、土着 の人 、 主 と して 農民を さす0. の夫婦固めの杯 などに見 ることがで きます 0 そ う. 襲 った暴動0. . 何 かの誓 いをtT.てる こと0 団結 す ること、 など0. 課題提起. す ると、一校 とはい ったい何を意味す るのだろう0 一撰 というの は一 味とか同心 とい う言 糞 と同 じ - T. 8. 説明 し板書. . - 撲 = 団結 (一 味、ー 司心). く、Efl結す るこ とを意 味 します0 つま り、 一校. ↓. (団結) のあか しと して人 々は神社 に集 ま り、誓 い. 土 一探 = 一味神水により成 立 した. の文書 に署名 した後 、その紙 を燃 や して神泉 の 水. 農上 藍の団結. に混ぜ、皆で回 し飲 み したのです。 こ うした行 為 は一味神水 と言わ れます0 9. こん なに して まで同結す るとい うの は余 程の こ. T. 発間 し指名. ①お もな 土. とだ と患 うんだけど、一体何 のため に土 一 按 は結. P. 答 える. 】 撰年表. ばれ たのだ ろう0 資料 ①か ら考 えてみよ うO 10 開. とくに徳政 の要求 が多 いで すね。 こん な ところ. . 徳政、年貢反対、守 護 に反抗 な どがあるが、と くに徳政が多いO. T. 説 明 し板書. 徳政 とは何 だろ う0 鎌倉時代 に有名 な徳政 令 が出. T. 発 問 し指名. されて いますねO どんな内容 だ ったかな0. P. 答 える. . 土一校-.l徳政を要求 (徳政一撰). か ら土一校 はまた徳政一按 とも言われ ますO で は. 11. もう一度 資料 で確認 してみ よ う0. T. これは幕 肘が後家人 を救 うために 出 した もので. . 幕府が武士を救 うた め に、 借金 の棒引 きな どを命 じた0. 資料提示 し. ③永 仁 徳 政. 説明. A ll. . すで に売却 . 質入 れ した土 地 の 無償返還、借金の帳消 しな どO. すが、今度 は農民 たち もそれを要求 するようになつ たのです0. ま と. 12. 13 め. 以上 のことをみ とめ ると、土 一按 と はどの よ う. に説明 したらよいですか0 今 E]の学 習で、「 わ かった!lj と思 うこと を力 l ドに書 いて くださいO. T. 発問 し指名. P. 答える. P. カl ド言 己入. T. カ一 ド回収. . 土一按 とは、室町 時代 の農 民 が 徳政 を求 めて団結 したものである0.
(10) 166. 発 1. 間. 説. 明. 土I 按 が徳政を求 めたとい うことは、 農民 に借. *. 金 があ った ことを意味 しますQ 今日 はなぜ農 比が. 2. 借金す るようにな ったのか、 またその結果どうなつ. 時. 教授 . 学習活動. 資. 料. T. 課題提起. T. 発間 し指名. P. 予想を発表. .T. 資料を提示. ④貨幣流通. し発問. B ^. 予想され る生徒の回答 ない し認識. たのか を考 えてみ ましよう0 2. なぜ農民 は借金な どしたんだ ろうO. 導 この資料④ か らわか ることはありませんか0. 入. P. 3. なぜ、室 町時代にな って とくに貨幣 の流 通量 が 増えたのだ ろ う0. . お金が 要るか ら。 不 作 で年 貢 が 払え なくなったか ら、な ど0. 答える. T. 発問. T. 教科 書をも. . 生産力 の発展 →商品 桂済 の 進展. とに説明 し. →年貢が金納 に→貧富 の差 拡 大→. 板書 4. 5 m. 忠K も(8 *. T. 資料提示. ⑤ 山城 閃 小. P. 答 える. tfH -.:n 借株. なぜ、村が借金 など したんだ ろう0. T. 問題提起. この頃 の村 は生 産力の発展を背景 に惣 とい う自. T. 貧 しくなった人だけが借金 したんだろ うか。. . 鎌倉時 代の後半か ら室 町時 代 に かけて貨 幣の流通量が増えて いるD. l 晟上 i:個人 で借金す る こと もあ っ たが、村 単位の場 合が多か った。. 教科書 をも. . 生産力の発展→ 村の 自治 の 高 ま. 治的 なまとま りを作 って いましたD 惣 で は領 主へ. とに説 明 し. り (惣の成 立) ‥.年 貢 の共 同 うけ. の年貢 を共 同で請け負 った り、用水 を管理 した り. 板書. おい. す るために、 多朝の費用が必要 でしたD その ため 土地 を拘保 に借 金す ることが多 くな ったのです0 6. 上. 発問 し指名. 以上の ことか ら、なぜ農民 (村) が借金 を負 い こむよ うになったのか説明 しな さい0. - 生産力の発展 によ る商品 経済 の P. 答 える. T. 発問 し指名. 進展 と村の 自治 の高 ま りを背景 に、 竿芸芸讐. 7. で は、農民 たちはい った い誰か らお金 を借 りた んだ ろう0. 8. この時代 の金 持ちで、金貸 しをして いたの はど んな人たちだ ろう。 教科 書を見て考えてみようD. 9. 土倉 とは、壁土 で塗込めた蔵 に質 苧‥ を入 れた と. P. 予想 を発表. T. 発問 し指名. P. 答え る. T. ころか ら名付 け られま した0 当時の京 都 には どの. 資料提示 し 説明 する. 位の数の土倉や酒屋 があ ったのだろ うか0 開 10. 芸霊冒 芸霊. 芸0 t Jつ. . 室町時代 には土 倉や 酒屋 な どが 高 利貸 しを して いた0 .φ卓!サ'"> 負 . 酒屋 の. . 京都 には土倉 . 酒屋 と も300軒を こす数があ った0. 分布図. 借金は簡 単に返 せたのだろ うかQ も し返 せ ない. T. 考 えさせる. (年率. T. 資料提示. ⑦土 倉 の 土. 60 96) の利息を支払わな ければ ならず、農民にとつ. T. 説明 し板書. 地 集積. 場合はど うな ったんだろ う0 土倉や酒屋か らお金 を借 りると、月 5 %. て借金の返済 は大変 な ことで したD その結 果、 農. . 農民の借金 (土地 を担保 ) → 土 倉、酒屋 (高利貸 し) に土地集 積. 民の中には担保 と しての土地 を失 う者が増 え、 逆 に土倉は土地を集積 して繁栄 していきま したO. 11. 12. と. 以上の ことか ら、農民 たちはなぜ土.一 一 接 を結ん. で徳政 を要求 したのか、説明 して ください0. ま. また、資料①を見て、土一接 が頻 発 した のが あ. T. 発間 し指名. . 土地を失 った農民 たち は、 生 活. P. 答え る. のために閥結 して徳政 を求 めた0. T. 問題提起. ① お も な土. る地域 に集中 して いることの意味 を考 えよう0. P. 考え る. 一 撰年表. 土 一撰はどんな地域 に多 く起 きていますか0. T. SfKilL 指も. P. 答え る. T. 発問 L 指名. P. 答え る. P. カー ド記入. それはなぜですか0 説明 して ください。 め 13. 今日の学習で 「 わか った」 ことを書 いて下 さい0. . 土】按 は京都 . 奈 良一 帯 に集 中 的に起 きて いる0 . 土一 一 按 は、商品経 済が 発達 し土 倉の多い畿内一帯 に頻発 した0 -.
(11) 167. 社会史研究に基づく歴史授業構成(Ⅲ). 骨. 罪. 1 3 時. 説. 教授 .学 習清動. 叫. 資. 料. 予想 される生徒 の回答 ない し認識. -. これ まで、 土】襟 とは何か、 なぜ農民 は借 金 し たの かを考 えてきま したが、 今日は まず土一 按 の. T. 資料提示. ③嘉 占 の 土 ,. 具体例 を見ることか ら始め よう0. T. 資料朗読 と. 一授 (建 内. 語句 の説 明. 言 己). 2 導. IS]. 度拭 たちが閲結 して土倉 に迫 り、そ れに土 倉側 が対抗 する様子がよ くわ か りますね0 それ に して. T. 課題提起. も、 なぜ農民は徳政 を要求 する ことが で きたの だ ろう0 初めに この間題 を考 えてみたいと恩 いますO. 入. I 仮 に皆が土倉だ と して考 え ましよう0 農 民 に上 …T. 3. 地 を担保にお金を貸 しま した。 ところが 、 農民 た. l. カ- ド配布. P. カ- ド言 己人. では、意見を発表 して もらい ましよう0. T. 5、 6人指名. あ り、応 じられない0 農民 の気 持. P. 答える. はわか るが、要求は不当だ、 など。. なぜ、 そん な不 当 とも思われ る徳 政要求 が操 り. T. 考えさせる. T. 資料提示 し. ⑨ 中世 の徳. 朗言 完させる. 政思想. ちが集印でその借金 をと り消 しに しろ とか、 売 っ た土地をただで返せ と言 って きた らど うしますか。 農⊥ 丈の要求 はもっと もだ と思い ますか0 み ん なの . 農h :の要求 はあま りに一 方的 で. 意見をカー ドに書 いて くだ さい。 展. 4. 返 しで きたんだ ろ うか。. . 土地を本来の持ち+ : (農民 ) に 取 り戻すのは仮死状態 の土 地 を廷 せ るTE 当な行為 と考え られて いた。. 5. だか ら農民 は堂 々 と徳政 を要求で きたんですねO しか し資料(富で 見たよ うに、土倉側 は それ を認め. T. 発問 し指名. ず対抗 しようと しま した0 で は、幕 府や領 主は 土. P. 答える. i . 幕仰 ま土倉を支持 し一按 を銭 ff しよ うとした0 農民 を支持 し徳 政. 一按に対 しどん な態 度を とつた と思 いますか0 6. どちらが 正 しいだろ うか0 土倉 を支持 したと思. 令を発 布 した、 など0 T. う人O 農民を支持 した と思 う人0. 7. で はまた資料(丑を見てみ よう0 士 一按 の結 果 は ど うな って います か0. 8. それぞれに 挙手させる. P. 挙手する. T. 党閥 し指名. .£お も な土 l. . 徳政令が出された場 合 と、 鏡 ff. P. 答える. 一校年表. された場合 の両面 がある0. つ まり、幕村 や領主 は農民 の側 に17-つ場 合 と、 土倉側 に立つ場合 の両方が あったんですね。 なぜ、 T. 考え させる. そんな ことになったんだ ろう。 9. まず、幕府が土倉 を支持 したの はなぜだろ うC-. 10. では この資料⑩ で確 かめ ましよう0. 開. . 土倉はお金持ちだか ら0 徳政 を. T. 発間 し指名. P. 答える. T. 賢料提示. ⑩ 幕村 の財. T. 説明す る. 蘇. 認めていた ら経済が混乱す るか ら0 . 幕府に とって、土倉 や酒 Lglか ら I 】の税金は重要な財源 であ つた か ら. 保護することが必要であったO. 11次に、幕府が農民の要求を支持したのはなぜだ ろう。. T考えさせる T説明する. ・中世社会では領主の土地を農民 が耕作して年貢を納めていたから、 農民が土地を失うことを幕府や領 主も座視できなかったo. 12最後に、土一校と徳政をめぐる幕府・領主.と農. T説明する. 稗K't・軸I. (身分的土地所有権). 民、土倉の三者の関係を図を使って説明しよう。. 13今E]の学習で、 「わかった'」と思うことをカー ドに書いてください。. Pカード記入. \仙川?-','{. HHM-'f陥子\.
(12) 168. 4授業の分析と評価 (1)授業実践の概要と分析の方法 先のモデルに基づく授業を, 1992年7月15日(第1時)・16日(第2時) -17日(第3 時)の3日間,筆者の勤務する福岡県糸島郡志摩町立志摩中学校の2年4組(生徒数36名) を対象に実施した。ちょうど鎌倉時代の学習が終了し,これから室町時代に入る最初の段 階に位置づけた。普段は活発な意見が飛び交う楽しい学級であるが,慣れない研究授業で あるせいか子どもも緊張し,全般的に固さが見られたのが残念である。以下,各時間の子 どもの反応および認識の変容の分析を中心に,授業とモデルの評価を行う。 子どもの反応については発言内容を,また認識の変容に関しては,各時間の初めと終わ りに(正確な配布の時期と指示内容については,授業モデルを参照)各自に記録させた個 人カードを分析することで,明らかにする。個人カードの分析に当たっては,記述内容を 主要な概念ないし命題ごとに整理し,その結果を数字(延べ人数)で示すことにする。 (2)第1時の分析と評価 第1時では, -撲について, 「農民が幕府に年貢を減らせと要求し,反乱を起こす。」な いしは「鎌や鍬などの農具を持ち,集団で押しかける。」といった反乱や戦いのイメージ を措く子どもが圧倒的に多い。それは大学生の一校イメージと見事に重なってくる。だが 授業の終わりに書かせた感想では, 「一味神水」に触れた者が多く, -按を団結という側 面でとらえることができている。また,室町時代に一校が頻発したことや,江戸時代の年 貢減免要求とは異なり,徳政を求める-按が多かったことなどについて大半の者が理解し ており,正確な土-授像が形成されたものと判断される。 〔-按のイメージ〕 〔1時間目の学習でわかったこと〕 反抗、反乱、反発 年貢反対、生活防衛. -撰は一味神水により成立した (-按を結ぶために儀式を行う). 戦い(武器や農具をもって、押. -按は農民の団結をさす. しかける). 室町時代は-按が多かった. 実力行使(放火、物を奪う). 徳政を求める-撰が多かった. 協力、団結、集団. その他(徳政は借金の取消し、徳政は土地. その他(勇気、差別). を取り返す、農民は苦しかった). (3)第2時の分析と評価 第2時では,農民が惣という自治組 織を形成したこと,農民が個人だけで なく村単位で借金をしたことについて よく理解している。授業中の反応を見 ても,室町時代には農民が用水や山野 の管理,年貢の村請け,惣錠など共同 で自治を行うようになったことは理解 できていると判断される。 「なぜ村が 借金したのだろう」という発問にもす ぐに反応があった。しかし,生産力の. 〔2時間目の学習でわかったこと〕 土倉や酒屋が農民に金を貸した 金を貸せる金持ち(高利賃)が出てきた 土倉や酒屋は土地を集めた 農民は借金をして土地をなくした 農民は惣をっくり自立してきた 農民だけでなく村も借金した.
(13) 社会史研究に基づく歴史授業構成(Ⅲ). 向上によって農民の自治が可能になっ た側面の把握が弱いため,豊かな都市・ 土倉と貧しい農村・農民という図式を 措かせてしまった感がある。. 169. いっの時代も農民の生活は苦しい 大金持ちになった人や損をした人がいた (昔も借金する人や金を貸す人がいた). 米から金に代わっていった (4)第3時の分析と評価 第3時では,農民の徳政要求につい その他(幕府はせこい) て, 「農民のわがまま」という意見が 3分の2を占め,そ'の理由として「借りたものは返すべき」 「貸した方はたまったもので はない」といった現代の私的所有権に基づく意見が主流をなしている。 「しかたがない」 と答えた9人も,農民の生活の苦しさを主な理由としており,農民の要求を正当として土 -按を積極的に支持する意見は見られなかった。この時まで授業の中で幕府のことには触 れていないにもかかわらず,幕府の責任を追求する意見が2つあった。これは,農民は支 配されるものという意識が根憩いことを示している。ところが同じ子どもが, 「農民はけっ こう憩い」と授業の終わりの感想に書いており,農民に対する認識を改めている. 〔農民の徳政要求についての見方〕 〔3時間目の学習でわかったこと〕 農民 のわが まま. 哩. 農民 が金 を借 りるか らいけない. 3. 借 りた ものを返 さないのが悪 い. 6. 買 った者の土地にな るのは当然. 5. 由l 貸 した方 はたま った もの じゃな い 理由 な し しかたが ない 哩 由. 22. 1 7 9. 幕府の対応について ・幕府は都合のいい方の味方をする ・幕府は要領がいい。せこい ・両方の板挟みになって困ったろう ・土倉を保護するかわりに税をとる ・幕府は土民の味方もするんだな 農民について ・農民はけっこう強い。団結の力. 農民 だ つて生 活が苦 しい. 7. ・農民は年貢が納められなくなった. 返せ ないよ うに したの は土倉. 1. ・農民には耕作権がある. それ な りの事 情があ る. 1. そ の他の意 見 ( もとを ただせば幕府の重税 が悪 い0 幕 府 は農民 の味方 を してい る0 農民 に土地 は絶対 いるが、土 倉はただのわが まま0 農民 も金 を借 りない方 が よい0). 5. 土倉について ・土倉は農民に腹を立てていた ・土倉は金で-按の鎮圧を頼む ・土倉は損をした. 徳政について ・徳政とは本来の持ち主に返すこと ・土地には魂が宿っている ・売買の考え方が昔と今ではちがう 幕府と農民の関係. 授業の終わりの感想には,幕府の対応に目を向けたものが最も多く, 36%あった。この 中では,幕府が土倉と農民との両方をうまく利用していて要領がいいととらえる子どもが ほとんどだが, 「土民の味方もするんだな」と幕府が農民を弾圧し,絞りとることばかり 行っていたという認識を改めている。農民については,生活の苦しさや貧しさだけでなく,.
(14) 170. 団結の強さと耕作権の主張にも着目している。 また,徳政に関する感想が多く,徳政要求が農民のわがままであるという意識は捨て切 れないものの,今とは考え方自体が異なることを認識している。中世では物や土地に魂が 宿っていると考えられていたことや,売買に対する基本的な考え方が今とはちがうことに 関心を示した者が4名いた。私的所有観念と貨幣経済が極度に発達している現代社会の中 にあって,中世民衆の心性を理解するのは容易ではない。この授業でも,子どもたちが農 民の心性を完全に理解したとは言い切れないが,物事に対する考え方や社会常識そのもの が現代とは異なることに関心をもち,その中で農民の行為について考えようとしたことは 確かである。その点で,授業モデルの意図はほぼ達成されたものと評価する。 (5)授業モデルの問題点 ここでは,実践を通じて明らかになった授業モデルの問題点を指摘する。第一は, 「按とは何か」の探求がやや抽象的に流れたことである。その理由は,貝体的な-按の事例 を取り上げずに,ただ資料②の絵(「-按を結ぶ人々」)からのみ-按の意味を探らせよう とした点にあったようである。その絵は-味神水を描いたもので11)子どもたちの関心を 引くのに十分と思われたが,研究授業での緊張感もあってか期待したような回答は出され なかった。やはり何らかの異体的な-按と関連づけた資料の提示が必要であろう。 第二は,第一の問題と関連するが,子どもに一味神水の意味を十分に把握させることが できなかったと思われることである.確かに,個人カードで一味神水に触れた者は多いが, それも用語のレベルにとどまっており,神との結びつきによる一校の特別の力については 理解できていないようである。 「何のためにこんなことをしたのだろう」という問いに対 する説明として,今にも残る神前結婚での夫婦固めの杯や直会(ナオライ)の風習などに 触れたが,子どもにはそうした体験や見聞が少なく,必ずしも説得的な説明にならなかっ た。過去の人々の心性に迫るには,今の子どもたちの体験や関心と結びつく資料・説明が 不可欠であり,その点での工夫が痛感された。 第三は,幕府が農民を保護し,徳政令を発布することがあった理由を十分に理解させら れなかったことである。授業モデルでは, 「徳政」を幕府・領主階級,土倉,農民の三者 がそれぞれの立場でどのようにとらえていたかを明らかにし,三者の所有観念のちがいを 対比させることを一つのねらいとしていた。子どもは土倉の立場と幕府が土倉を保護した 理由は理解したが,幕府が農民を保護することで,従来の身分的所有権を維持していこう としたことについては理解できていない。また,農民の耕作権と領主の土地所有権の関係 があいまいなため, 「土地を売る」あるいは「土地を担保に金を借りる」ことの実態がつ かめていない。これは荘園制のしくみの理解を前提としたとらえ方であり,中学生の段階 ではむずかしいのではないかと思われる。く別府陽子) 5おわリに 本研究では,まず一般的な土-撲認識の実態を明らかにし,その問題性を指摘した。次 いで,土-撰認識の問題性をただすには,民衆の集合心性に着目することが有効ではない かとの仮説のもとに授業モデルを作成し,実験授業を行った。その結果,発問や資料に工 夫の必要が認められたものの,仮説の有効性はほぼ検証された。今後は,土一校に関する よりよい授業モデルづくりに努めるとともに,社会史研究の成果をふまえた歴史授業構成 について一層の研究を進めたい。もとより,社会史が歴史認識や歴史像の組み替えに万能 なわけではない。しかし,日常性への問いを重視するその姿勢は,歴史教師にとってのみ ならず,子どもたちにとっても魅力的にちがいない。く原田智仁).
(15) 社会史研究に基づく歴史授業構成(Ⅲ). 171. 【注】 1)二宮宏之『全体を見る眼と歴史家たち』木鐸社1986, p.75 2)原田智仁「社会史研究に基づく歴史授業構成( I)一阿部謹也の伝説研究の方法を手 がかりに-」 (兵庫教育大学学校教育研究センタ-編『学校教育学研究』第3巻, 1991) 原田智仁「社会史研究に基づく歴史授業構成(n) -近藤和彦のpopular politics の研究を手がかりに-」 (『兵庫教育大学研究紀要』第12巻, 1992) 3)教科書会社略称:中教(中教出版),学図(学校図書),教育(教育出版),大書(大 阪書籍),東書(東京書籍),自書(日本書籍),清水(清水書院),第-- (罪-学習社), 実(実教出版),自由(自由書房),三(三省堂),山(山川出版社) 4)授業者名と出典のみ示す。小学校の事例:湯山厚(『歴史地理教育』 1955),山本興人 (『歴史地理教育』 1959),鈴木喜代春(『社会科検証学習』 1968),山下国章(『小学校E] 本史学習のカギ』 1976),歴教協(『たのしくわかる社会科6年の授業』 1978),本間昇 (『小学校歴史学習の展開』 1980),桧垣公明(『社会科到達度評価事例集小学6年』 19 83),西浦弘望(『歴史地理教育』 1985),杉浦茂(同左, 1985),西尾- (『第4期教育 技術の法則化39』 1987),三浦憲子(秋田大学附属小研究授業, 1987)。 中学校の事例:奥田尚五(『歴史地理教育』 1955),岩田健(同左, 1968),工藤尭(同左, 1972),並木茂文(『範例方式による中学校社会科指導細案』 1974),歴教協(『たのしく わかる社会科中学歴史の授業』 1978),原忠彦(『中学校の歴史教育』 1979),市川延彦 (『月刊歴史教育』 1980),歴教協(『新版100時間の日本史学習』 1980),山本節子(『月 刊歴史教育』 1981),樋口恢武(同左, 1982),遠藤文雄(『歴史教科書を活用したわか る煙業の創造』 1984),安井俊夫(『発言をひきだす社会科の授業』 1986),武田章(『歴 史地理教育』 1989),中原隆『中学校社会個を生かす課題学習とは』 1990),田宮弘宣 (鹿児島大学附属小研究授業, 1990),清水雅裕(『現代社会科教育実践講座・ 9』 1991), 三橋正洋(第24回全国中学校社会科研究会宮崎大会,公開授業, 1991) 5)勝俣鎮夫『-撰』岩波書店, 1982 6)黒川直別「土-按の時代」 (稲垣泰彦・戸田芳実編『土-按と内乱』三省堂, 1975) 7)本間昇「言語道断な徳政-小学生と土-撹-」 (『歴史地理教育』 1977.9) 8)勝俣鎮夫『戦国法成立史論』東大出版会, 1979,同『-按』岩波書店, 1982 笠松宏至『日本中世法史論』東大出版会, 1979,同『徳政令』岩波書店, 1983 9)本授業モデルの作成に当り,現兵庫教育大学大学院生秋元直樹,二井正浩,西端幸信, 野村秀樹,岩瀬康幸,川上周二,栗栖卓男の諸氏から多大なご協力をいただいた。 10)脇田晴子『室町時代』中央公論社,永原慶二『内乱と民衆の世紀』小学館など ll)勝俣鎮夫文,宮下実絵『戦国時代の村の生活』岩波書店1988, pp.26-27 【付記】 土-按の理論研究ならびに授業資料の蒐集の過程において,本学社会系教育講座の河村 昭一先生には多大なご教示をいただいた。記して感謝の意を表したい..
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