博士論文
アイスホッケー選手の競技力向上に向けた
精神生理学的アプローチについて
(
A psychophysiological approach for improving
the competitive skills of ice hockey players)
2019 年 3 月
立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科
スポーツ健康科学専攻博士課程後期課程
立命館大学審査博士学位論文
アイスホッケー選手の競技力向上に向けた
精神生理学的アプローチについて
(
A psychophysiological approach for improving
the competitive skills of ice hockey players)
2019 年 3 月
March 2019
立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科
スポーツ健康科学専攻博士課程後期課程
Doctoral Program in Sport and Health Science
Graduate School of Sport and Health Science
Ritsumeikan University
今川 新悟
IMAGAWA Shingo
研究指導教員: 佐久間 春夫教授
Supevisor: Professor SAKUMA Haruo
博士論文要旨
論文題名:アイスホッケー選手の競技力向上に向けた
精神生理学的アプローチについて
立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科 スポーツ健康科学専攻博士課程後期課程 イマガワ シンゴ 今川 新悟 背景 昨今,世界レベルの競技場面においては,技術面や体力面の強化以上に実力を発揮 するための心理面の強化が重要視されてきている.しかしながら,心理面を強化する メンタルトレーニング(Mental Training:MT)の有用性については,効果を客観的に評 価する指標が未だ定まっていない.また,パフォーマンスとの関連を説明できる心理 的・生理的指標に関しては未だ明らかではないことから,競技やポジションの特徴に 応じた効果的な MT は実施されてきていない. 目的 アイスホッケー競技およびポジションに特化した MT プログラムの開発に必要なエビ デンスを得るために,アイスホッケー競技のパフォーマンス向上に必要なメンタルス キルの 1 つであるセルフトーク(Self-Talk : ST) の有用性と,パフォーマンスと密接 に係っている認知スキルの特徴について,脳波を用いた精神生理学的な観点から明ら かにすることを目的とした. 方法 研究課題 1 では,ST の即時的な効果について,脳波(Electroencephalogram : EEG) を用いた精神生理学的な観点から明らかにした. 研究課題 2 では,アイスホッケー選手を対象に,2 ヶ月間の ST による介入を行い, 経時的な効果について,心理的競技能力検査(DIPCA.3)および ST 使用頻度調査,内省 報告により明らかにした. 研究課題 3 では,アイスホッケー選手の認知スキルの特徴について,メンタルロー テーション課題を用いて脳波による精神生理学的観点から明らかにした.研究課題3-1 においては,生理指標である Rotation related negativity(RRN)を導出し,その 振幅と課題難易度別の正答率や反応時間との対応関係について検証し,研究課題 3-2 においては,随伴性陰性変動(Contingent negative variation : CNV)を導出し,その 振幅と課題の前半および後半における正答率や反応時間との対応関係について検証し た.
研究課題 4 では,アイスホッケー選手の認知スキルの特徴について,サビタイジン グ課題を用いて,事象関連電位(event-related brain potentials : ERP)と正答率 や反応時間との対応関係について検証した. 結果 研究課題 1 では,ポジティブな ST の使用が,脳活動の活性化に効果的であり,パフ ォーマンスの発揮につながる可能性を,生理指標である脳波によって客観的に明らか にした. 研究課題 2 では,ポジティブな ST を用いた介入により,ST の内容が改善され,心 理的競技能力の向上がみられたことから,アイスホッケー競技における心理面の強化 に有効な技法であることが示された. 研究課題3では,研究課題3-1の課題難易度別および研究課題3-2の時間の効果別のい ずれにおいても,アイスホッケー選手は正確性よりも速さを優先することが示され た.一方で,ゴールキーパーのみ速さを優先させながら正確性も重視している傾向が みられた. 研究課題 4 では,コントロール群と比較して,アイスホッケー選手が課題に対する 反応時間が短いことが示唆された.また,ゴールキーパーのみシルエットの多い試行 時の正答率が高い傾向が示された. 結論 本研究では,アイスホッケー選手における ST の有用性および認知スキルの特徴につ いて,精神生理学的な観点から明らかにした.さらに,認知的側面からポジションご とに求められるパフォーマンスの特徴について,生理指標である脳波を用いて客観的 に明らかにした.本研究結果に基づき,種目ごとの MT プログラムを開発する上での重 要なエビデンスを提供することができた.
Abstract of Doctoral Thesis
Title:A psychophysiological approach for improving the
competitive skills of ice hockey players
Doctoral Program in Sport and Health Science Graduate School of Sport and Health Science Ritsumeikan University
イマガワ シンゴ IMAGAWA Shingo
Introduction
To date,the usefulness of mental training (MT) has only been evaluated objectively,no fixed indicators exist for objective evaluation,and the relationship between psychological
strengthening and performance is unclear.
Purpose
1: To clarify the effect and mechanism of self-talk (ST). 2: To clarify the cognitive characteristics of ice hockey athletes.
Study Methods
1: Examine the psychophysiological effects of ST.
2: Examine the effectiveness of ST on ice hockey athletes’ competition performance.
3: Determine the underlying cognitive processes in ice hockey athletes during a mental rotation task by using 1) rotation-related negativity and 2) contingent negative variation.
4: Clarify the subitizing performance of ice hockey athletes and how it differs by their position by using the N2 and P3 event-related potential (ERP) components.
Study Results
1: The findings suggest that the use of positive ST may improve task performance.Furthermore, the effect of MT techniques such as ST could be evaluated more objectively in this study than in previous studies because of using electroencephalography.
2: The findings suggest that the use of positive ST improves psychological skill and enhances the performance of ice hockey players,thereby providing evidence for the positive effects of using ST on ice hockey players’ cognition.
3: Ice hockey players responded less accurately but faster than did those in the control group, suggesting that the cognitive skills of ice hockey players can be assessed by using the task performance of and psychophysiological response to mental rotation.
4: Ice hockey players had faster subitizing than did non-athlete controls.Accuracy among the ice hockey players was higher in trials with a greater number of silhouettes,especially among goalkeepers.
Conclusions
We clarified,from a psychophysiological perspective,the grasp cognitive characteristics and influence of MT techniques such as ST on the mental performance of ice hockey players.
論文一覧
本博士学位申請論文は, 以下の副論文をまとめたものである. 【副論文】 研究課題1 1.今川新悟, 松本清, 佐久間春夫 セルフトークの精神生理学的効果について,バイオフィードバック研究
, 45, 25-32, 2018. 研究課題22.Shingo IMAGAWA, and Haruo SAKUMA
The Effects of Self-Talk on Psychological Skill of Ice Hockey Players, International
Conference on Social, Education and Management Engineering, 528-531, 2014.
研究課題3-1 3.松本清, 今川新悟, 佐久間春夫 オープンスキル種目選手のメンタルローテーションの認知スキル:事象関連電 位を用いた評価の試み,
バイオフィードバック研究
, 44, 29-36, 2017. 【関連論文】 4.和智道生, 亀井誠生, 福原祐介, 今川新悟, 高村祐介, 伊坂忠夫 ACL 再建術後および半月板部分切除術後の心理・栄養学的変化について,京都
滋賀体育学研究
, 33, 1-6, 2017.目次
本研究における用語の操作的な定義 ... 1 第 1 章 序論 ... 3 第1 節 研究の背景 ... 3 1. アイスホッケー競技の現状 ... 3 1-1. 日本のアイスホッケーにおける課題 ... 3 1-2. アイスホッケー競技における競技力向上のための研究 ... 5 1-3. 運動スキルの側面からみたアイスホッケー競技の競技特性 ... 8 2. オープンスキル種目における認知スキルの重要性 ... 10 3. メンタルスキルと認知スキルとの関連 ... 12 4. オープンスキル種目におけるメンタルスキルのトレーニングに関する研究動向 ... 14 5. 競技種目の特性に応じたメンタルトレーニングの開発 ... 17 6. 指導現場に取り入れやすい代表的なメンタルスキル(セルフトーク) ... 18 7. 心理面と精神生理学との関係 客観的な指標として ... 21 第2 節 研究の目的と構成 ... 24 第3 節 研究の意義 ... 27 第 2 章 セルフトークの精神生理学的効果の検討(研究課題 1) ... 29 第1 節緒言 ... 29 第2 節方法 ... 33 第3 節結果 ... 35 第4 節考察 ... 41第5 節結論 ... 43 第 3 章 アイスホッケー選手におけるセルフトークの心理的競技能力への影響(研究課 題 2) ... 44 第1 節緒言 ... 44 第2 節方法 ... 46 第3 節結果 ... 49 第4 節考察 ... 54 第5 節結論 ... 58 第 4 章 アイスホッケー選手のメンタルローテーションの認知スキル(研究課題 3-1) 59 第1 節緒言 ... 59 第2 節方法 ... 62 第3 節結果 ... 65 第4 節考察 ... 70 第5 節結論 ... 74 第 5 章 メンタルローテーション課題におけるアイスホッケー選手の行動的および認知 的特徴:課題成績と随伴性陰性変動(CNV)を用いた予備的検討(研究課題 3-2) ... 75 第1 節緒言 ... 75 第2 節方法 ... 77 第3 節結果 ... 80 第4 節考察 ... 84
第5 節結論 ... 86 第 6 章 アイスホッケー選手におけるサビタイジング能力評価の検討(研究課題 4) ... 87 第1 節緒言 ... 87 第2 節方法 ... 91 第3 節結果 ... 95 第4 節考察 ... 106 第5 節結論 ... 109 第 7 章 総合討論 ... 110 第 8 章 結論 ... 119 引用文献 ... 120 謝辞 ... 136
1 本研究における用語の操作的な定義 メンタルスキル ・・・心理面の能力の向上を目的とした技法.「目標設定」や「イメージ法」など,メンタ ルトレーニング(MT)の心理技法(村上ら, 2010)と定義されている.同義の言葉で 「心理的要素」や「心理スキル」を使っている先行研究もあるが,本論文において は,メンタルスキルで統一することとする.また,メンタルスキルによって獲得・向 上する「競技意欲」や「モチベーション」などの心理的能力は,「心理的スキル」(村 上ら, 2010)や「心理的競技能力」(徳永・橋本, 2000),「心理的要因」(西村, 1998) といった似た言葉が使われるケースもあるが,メンタルスキルとは明確に切り分け て定義する. メンタルトレーニング(MT) ・・・医療における治療目的ではなく,スポーツにおける競技力向上を目的とした心理サ ポート.メンタルスキルを活用して行う計画的で教育的な活動(村上ら, 2010).個 人面談におけるカウンセリングも実施される. セルフトーク(ST) ・・・MT において実施されるメンタルスキルの 1 つ.Self-Efficacy Theory の主要要素の一 つである言語的説得と連携するメンタルスキルであり,臨床心理学の分野において も自己教示法として治療法に活用されている.ST には様々なアプローチ法があり, 代表的なものの1 つとしてアファーメーション(Affirmations)では,“私は・・・だ” “ 私は・・・できる”など,自己肯定を述べる文章を作成する.リフレーミング (Reframing)では,1 つの同じ場面に対して,今までの枠組みを外して違う角度か ら物事を見直すことによって,一見ネガティブに映る物事の別の側面を捉えること を助ける手法である.ネガティブな内容の ST をポジティブな ST に変換する手法
(Negative-to-Positive Self Talk Strategies)もある.教示的 ST(例えば,初心者が「手
首を曲げない」や「右足から動かす」など,教示的な内容を発するST)使用時には,
正確性を問うような調整課題(決まった場所にボールを打ち返す(Yannis & Robert, 2000)など)でのパフォーマンスにおいて,パフォーマンスの向上が報告されてい る.また,動機づけST(「さあ頑張るぞ」や「できるできる」など,動機づけをする 内容を発するST)使用時には,状況を判断するような課題(選択反応時間(Boroujeni & Ghaheri, 2011)など)において,パフォーマンスの向上が報告されている.上記を 踏まえて,本研究ではアイスホッケーの競技特性を踏まえて,ポジティブST には動 機づけST の言葉だけを含めることと定義する. 認知スキル ・・・本論文ではスポーツにおけるゲームの状況を認知し,その状況に最適なプレーが選 択できるスキル(田中, 2004)やボールゲームにおける洗練された効率的な動作の発 現に関与する認知機能(山崎, 2012)と定義されている.また,田中(2004)は「認
2 知スキルの中核をなすのは,意思決定や状況判断の能力」と述べていることから, 認知スキルには「意思決定」や「状況判断」の意味も含まれると考えられる.本研究 で用いる「認知スキル」は,「直面している状況において情報を収集し,収集した情 報を用いて最適なプレーを選択し,決定すること」と定義する. サビタイジング ・・・提示された複数の視覚刺激の数量を把握するとき,対象が少ない数(1~4 個)の視 覚刺激であれば,瞬時に自動的に個数を捉えることができるが,対象がそれ以上の 数量の場合には対象を1 つずつ数えることになる.前者の方法をサビタイジング,
後者をカウンティングという(e.g., Akin & Chase, 1978; Oyama et al., 1981).環境が絶 えず変化するオープンスキル種目であるアイスホッケー競技において,変化し続け る敵や味方の選手の位置関係等の状況を把握する際には,このサビタイジングの能 力が関与すると考えられる.本研究では,サビタイジングを競技力の構成要素のひ とつと定義する. メンタルローテーション ・・・対象の向きや傾きの程度を認知するために,対象の心的な回転を視覚イメージの中 で行うこと(Shepard & Metzler, 1971).サビタイジングと同様に,アイスホッケー競 技中の状況把握の際に,他選手の身体の向きや傾きといったことがその選手の次の 行動を予測する手がかりとなり得ることから,メンタルローテーションの能力も重 要であると考えられる.本研究では,メンタルローテーションも競技力の構成要素 のひとつと定義する.
3 第1 章 序論 第1 節 研究の背景 1. アイスホッケー競技の現状 1-1. 日本のアイスホッケーにおける課題 アイスホッケー競技は,2010 年に開催されたバンクーバー冬季オリンピックにおいて, 日本代表が男女ともに出場できなかった唯一の競技である.男子日本代表チームにおいて は,自国開催枠で出場した長野オリンピック(1998 年開催)を除くと,レークプラシッド オリンピック(1980 年開催)以来,38 年間一度も出場していない.また,過去 14 年間の 世界ランキングにおいても,2004 年の 15 位をピークに,2018 年 10 月現在は 23 位まで下 がり,年々世界との実力差が広がってきている.オリンピック出場に向けた競技力向上と 競技者人口の増加は,日本アイスホッケー連盟において長年の大きな課題となっている. その対策の手立てとして,近年では「アイスホッケー競技力向上講習事業」を強化し, 年間の事業計画の1 つとして位置づけて,年代別のエリートキャンプやアイスホッケース クール等を開催している.また,アイスホッケー日本代表チームにおいては,日本代表に 必要なスキルや能力として8 つの選考基準項目を掲げている(Table 1). Table 1. アイスホッケー日本代表の選手選考基準項目 (公認アイスホッケー指導員養成講習資料[2010]を参考に筆者が作成)
4 上記8 つの選考基準項目の中には,「ハート」や「性格」「判断力」「精神力」「メンタル でのタフさ」「プレッシャーへの強さ」「集中力」といった心理面の能力が多く含まれてい る.試合本番での様々なプレッシャーに打ち勝ち,実力を発揮することができる「心理面」 は,特に重要な能力であると位置づけられているといえる.しかしながら,男子日本代表 においては,心理面のサポートスタッフを配置する等の対策はとられておらず,心理面に 関する強化はほとんど実施されていない. 現状では,日本代表としての必要な競技スキルや身体的能力に注目して,早い段階から 才能のある選手を発掘し,時間をかけて未来の日本代表を育成することでアイスホッケー の競技力向上を目指しているが,少子化や「日本アイスホッケーリーグ」閉幕等の影響は 大きく,成果につながっていない.また,改めて日本代表の選考基準項目(Table 1)をみ てみると,「ホッケーセンス」や「判断力」「ハート(熱意)」「メンタルでのタフさ」とい った抽象的で曖昧な表現も多く,実際の選手選考においてもその選考基準を関係者間で統 一されている状況とはいえない.指導者による主観的な評価もしくは客観的に評価しやす い技術・体力レベルの評価により選手選考を行っている現状であり,心理面を選手選考の 重要な基準として運用するためにも客観的な指標の確立が必要である. さらに,心理面の強化方法が確立されていないことや,客観的なトレーニング効果が客 観的に捉えにくいこともあり,男子日本代表をはじめとする競技現場では心理面への指導 は行われていないという課題もある.今後も少子化や競技離れによって,競技人口はさら に減っていくことが予想されることから,これまで以上に「育成」が重要な課題となって いる.特に心理面においては,強化法や客観的な指標を確立したものを指導現場で実践し,
5 効果検証してまた現場に返していくといったサイクルを通じて,経験や知識を蓄積してい くことが必要であると考えられる. 1-2. アイスホッケー競技における競技力向上のための研究 日本国内において,アイスホッケーはマイナースポーツであるため,アイスホッケー競 技を対象とした競技力向上のための研究は非常に少ない.近年の研究では,アイスホッケ ーのゴールキーパーを対象とした選手育成の教育学的観点からの指導法の研究(宮崎, 2009, 2010),ゴールキーパーのトレーニング方法論に関する研究(宮門ら, 2007),アイスホッケ ー選手の身体組成やレジスタンストレーニングの研究(葛原ら, 2009, 2011),安全面からの マウスガードと競技力との関係の研究(三本木・工藤, 2013)が行われている. 過去には,長野オリンピックでのチーム成績とチームペナルティーとの関係についての 研究(宮﨑ら, 1998)や,アイスホッケー選手のダッシュ力に着目した脚パワーについての 研究(e.g., 並木ら, 1980; 宮﨑ら, 1986),アイスホッケー競技の特性に合わせたトレーニン グ法に関する研究(永井ら, 1976)が行われてきた. しかし,アイスホッケー選手に心理面からアプローチした研究は,日本国内では行われ ていない.1998 年長野冬季オリンピックに向け冬季種目の競技力向上を目的に心理面から アプローチした研究(日本オリンピック委員会スポーツ医・科学研究報告, 1996, 1997, 1998) においても,リュージュ,ボブスレー,フィギュアスケート,スキー競技を対象としてお り,アイスホッケー競技に関する研究は行われなかった. 一方,国外では,心理面からアプローチした研究が複数行われている.Rogerson et al.(2002) が,アイスホッケーのゴールキーパー5 名を対象とし,メンタルスキルの 1 つである「Self-Talk」と「Centering」による介入を 6 ヶ月間実施したところ,介入直後からゴールキーパー
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のシュートセーブ率が向上し,その後も向上したままのセーブ率を維持したと報告してい る.Ryan & Krista(2006)は,アイスホッケーのゴールキーパーに必要な心理的要素とし て,「Concentration」「Arousal Control」「Imagery」「Self-Talk」の 4 項目を挙げている.他に も,Olsson et al.(2013)は,アイスホッケー未経験者とトップ選手を対象に,選手がシュ ートする直前の映像を両群の参加者に見せ,その後のイメージ再生能力の違いについて, fMRI を用いて調査を行っている.Desmond(2004)は,アイスホッケー競技における戦術・ 戦略に関するシミュレーション学習について検討し,シミュレーション学習は競技力を高 めるための重要な要素である認知スキルを向上させることを示し,今後は認知スキルが競 技力を高めるメカニズムを解明する必要があると主張している.Lundgren et al.(2018)は, 認知行動療法の技法である「Mindfulness」を測定する調査票を開発し,そのスコアと試合 における得点やアシストといったパフォーマンスとの関連について検討し,「Mindfulness」 と試合におけるパフォーマンスは密接に関連していることを明らかにした. このように,国外においてはアイスホッケー選手の特性だけでなく,競技自体の特性も 少しずつ明らかになってきているが,先行研究が少ないため,心理面がパフォーマンスに 及ぼす影響に関するメカニズムを把握するまでには至っていない. アイスホッケー競技における心理面の重要性について,Miller(2001)は,体と体が激し くぶつかるアイスホッケー競技において,フィジカル面と技術面が重要視され,心理面は 軽視されがちであることを指摘した.そのうえで,エリートアイスホッケー選手になるた めには心理面の強化が必要不可欠であると述べ,アイスホッケー選手が試合で勝つための 基本的な心理条件および必要なメンタルスキルについてまとめている(Table 2, Table 3).
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Table 2. アイスホッケーの試合で勝つための基本的な心理条件(Miller, 2001)
Table 3. アイスホッケー選手に必要なメンタルスキル(Miller, 2001)
以上のように,試合で勝つための基本的な心理条件をクリアできるメンタルスキルを身 につけるためには,「Goal-setting」や「Engaging in positive self-talk」などのメンタルスキル
トレーニングが必要であるとしている.また,Ryan & Krista(2006)は,アイスホッケーの
ゴールキーパーに必要なメンタルスキルを Table 4 のようにまとめている.アイスホッケ
ー選手に必要なメンタルスキル(Table 2, Table 3)に含まれているスキルではあるが,ゴー
ルキーパーのポジション特性上,特に必要なメンタルスキルであると述べられており,ポ ジションの違いによっても求められるメンタルスキルが異なるとも考えられる.
Table 4. アイスホッケーのゴールキーパーに必要なメンタルスキル(Ryan & Krista, 2006)
1. Concentration 2. Arousal Control 3. Imagery 4. Self-Talk
8 以上のように,アイスホッケー競技においてもメンタルスキルは,パフォーマンスに係 わる重要なスキルとされている.しかし,上述の心理要素やメンタルスキルは,他の競技 でも必要とされている一般的なものであり,アイスホッケー競技のどのパフォーマンスを 向上させるのか,どの場面で必要となるのかなど,詳細についてはまだ明らかになってい ない.また,競技時間や競技タイプ(強度など)が異なることにより,要求されるメンタ ルスキルも異なり(Taylor, 1995),ポジションによって求められるメンタルスキルが異なる と考えられるため,競技種目ごとだけでなく,ポジションごとに必要なメンタルスキルも 把握する必要がある.日本代表チームでも求められている資質(Table 1)として,心理面 やホッケーセンス,判断力等を挙げていることから,これらの能力を客観的に評価し,選 考基準として運用できるよう整備することが必要である.さらに選手育成の観点からは, 心理面の向上のために,指導現場で取り入れやすく簡便で,かつパフォーマンスとの関連 がみえやすいトレーニング方法を確立する必要がある. 1-3. 運動スキルの側面からみたアイスホッケー競技の競技特性 アイスホッケー競技では,選手にはスピーディーな試合展開の中で,ボディーコンタク ト(体のぶつかり合い)やプレー中の選手の自由な交代も認められているため,常に変化 する相手や味方の状況を瞬時に把握しながらプレーする能力が求められている. 運動スキルの分類として,選手の置かれる環境の安定性および予測可能性の観点から, オープンスキルとクローズドスキルに大別されており(Poulton, 1957),アイスホッケー競 技はオープンスキルに分類される.オープンスキルは,相手や味方の位置など環境が絶え ず変化する予測不可能な環境のもとで行われるものであり,視覚情報を認知し,次の変化 を予測し,行動を選択することが連続的に行われている(e.g., 中川, 1984; Schmidt, 1994).
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Allard & Starkes(1991)は,運動スキルの側面からオープンスキルとクローズドスキルを Table 5 のように大別している.
Table 5. オープンスキルとクローズドスキルの違いについて(Allard & Starkes, 1991)
オープンスキル クローズドスキル 対戦相手と相対している場合に一連の運動パターン がどれほど効果的であるかが問われる 例)サッカー,バスケットボール,バレーボール, 柔道,剣道,レスリング,テニスなど あらかじめ決められた標準的な運動パターンをどの 程度信頼性高く一貫して再現できるかが問われる 例)器械体操,水泳,アーチェリー,バスケットボ ールのフリースロー,ラグビーのゴールキックな ど 例えば,オープンスキル種目の競技中の選手は,相手や味方の身体の一部分あるいは使 用している道具の向きや傾きを手がかりにして,次に起こること(相手や味方の行動やボ ールの落下位置など)を予測している(加藤・福田, 2002; Martell & Vickers, 2004; 三好ら, 2012; Panchuk & Vickers, 2006).また,オープンスキル種目であるボールゲームにおける洗 練された効率的な動作の発現には,正確で素早い認知機能が関与している(山崎, 2012). 実際のオープンスキル種目の選手指導の場面においても,競技力向上のためには,運動ス キルとともに認知スキルの向上も重要であると考えられている(e.g., 中川, 1986; Scanlan et al., 2014; 関口・村木, 2006; Williams, 2000). 指導の観点からも運動スキルと同等に認知スキルの強化が求められており,認知スキル の優劣がゲームパフォーマンスに大きな影響を与えていると考えられる.オープンスキル 種目の選手の特徴として,感覚刺激を用いた単純反応課題での反応の速さや,熟練した選 手の競技種目に関連した選択反応課題の正答率の高さなどがこれまでに報告されている (e.g., Bańkosz et al., 2013; Giglia et al., 2011; Huijgen et al., 2015; 松竹ら, 2015; Nuri et al., 2013).
10 以上のように,オープンスキル種目の競技特性からも,アイスホッケー競技において, 相手より優位にゲームを進行していくためには,瞬時に状況を把握し次のプレーを予測し ながら判断する能力が求められ,認知スキルがパフォーマンスを決定する重要なスキルで あると考えられる. 2. オープンスキル種目における認知スキルの重要性 オープンスキル種目を対象とした認知スキルに関して,ボールゲームを対象とした研究 (田中, 2003)では,卓越したパフォーマンスを発揮するためには,熟練した運動スキルが 求められることと同時に,高度な認知スキルを備えている必要があり,優れた運動スキル を有していても,いつ,どのような状況で使用すべきかという意思決定能力がなければ, 有効なパフォーマンスにはつながらないことが示されている.したがって,認知スキルは, 直面している状況において情報を収集するだけではなく,収集した情報を用いて最適なプ レーを選択し決定する,意思決定能力までも包括するものと考えられる. この認知スキルに関連して,状況判断を行う能力の優劣が,選手のパフォーマンスを評 価する基準の一つとしてなり得るとされている(小泉・前田, 2005).ここでの「状況判断」 とは,感覚器から情報を入力し,中枢の処理システムを経てプレーが実行されるという一 連の情報処理過程と考えることができる(田中, 2003).中川(1984)は,オープンスキル 種目であるボールゲームにおける状況判断過程に関する概念的モデルを Fig. 1 のようにま とめている.
11 Fig. 1 状況判断過程の概念的モデル(中川, 1984)を参考に筆者作成 Fig. 1 のモデルでは, ボールゲームにおける状況判断は,「外的ゲーム状況を選択的に注 意してから,ゲーム状況を認知,予測し,遂行するプレーに関して決定を下すこと」であ ると定義している.状況判断の過程を構成する精神過程における能力として,(1)外的ゲ ーム状況に対する選択的注意能力,(2)ゲーム状況の認知能力,(3)ゲーム状況の予測能 力,(4)プレーあるいはプレーの方針の意思決定能力,以上の 4 つが挙げられている.田 中(2003)はこの状況判断について,認知スキルを高めることが,そのプレーヤーの運動 スキル,さらにはゲームでのパフォーマンスの向上につながると述べている. しかしながら,それぞれの競技によって競技時間や競技タイプ(強度など)が異なり, 要求されるメンタルスキルも異なるため,その競技特性に応じたトレーニングを行うこと が重要である(Taylor, 1995).認知スキルに関しても,アイスホッケーの競技特性に応じた 適切なトレーニングが必要であると考えられ,認知スキルに関する指導を行うためにも, アイスホッケー競技における認知スキルの特徴を把握した上で,各選手の水準や特徴を知 る必要があり,認知スキルの定量的な評価方法が必要だと考えられる. 「メンタルローテーション」は,対象の向きや傾きの程度を認知するために心的な回転 を視覚イメージの中で行うことである(Shepard & Metzler, 1971).アイスホッケーの競技場
12 面では,敵や味方選手の位置関係等の状況は絶えず変化するが,それらを把握する際に, 例えば,他の選手の視線や身体の向き・傾きあるいはその角度・程度といったことは,他 の選手の行動の意図を推測する重要な手がかりとなる.したがって,メンタルローテーシ ョンは,競技場面において,状況を把握しながら次のプレーを予測する際に使用される能 力であると推測される. 「サビタイジング」は,対象が少ない数(1~4個)の視覚刺激であれば,瞬時に自動的
に個数を捉える能力である(e.g., Akin & Chase, 1978; Oyama et al., 1981).メンタルローテー ションと同様に,アイスホッケー競技では絶えず変化する環境・状況を把握する際に,一 目でできるだけ早く正確に視野内の敵や味方の人数や位置関係を把握できれば,その分早 く次の行動を起こすことができ,相手より優位に立って競技を進行することができる.し たがって,選手は相手や味方の動きを瞬時に把握するために,相手や味方の位置や人数を, 常に瞬時に把握するサビタイジング能力を習得していることが推測される. メンタルローテーションやサビタイジングの能力は,これまでも反応時間(反応の速さ) や正答率(正確性)といった課題成績を用いて,数値化され評価されてきたことから,こ れらの課題を用いることによって,アイスホッケー競技における認知スキルの特徴や必要 とされている能力の客観的・定量的評価が可能となると考えられる. 3. メンタルスキルと認知スキルとの関連 認知を「現実の受け取り方」や「ものの見方」である「思考」と定義している臨床心理 学の分野においては,思考は気分・行動と強い関連があり,何かの出来事があったときに 瞬間的に浮かぶ考えやイメージである「自動思考」によって,気分・感情が影響され行動 につながるとされている(熊野ら, 2016).
13 認知と行動との関連については,海保(2000)が以下のようにまとめている. 「瞬間情 報処理」は重要で,4 つの特徴(「目標性・一貫性」「即応性・適応性」「無意識性・自動 性」「省資源性・効率性」)を持つものである.瞬間情報処理とは,人が一瞬の認識と行動 でその瞬間,瞬間を判断し,行動している情報処理過程のことであり,無意識性が特性の 1 つである.この無意識性が特性であるならば,認知の際の意識的な努力による最適化は 期待できず,その瞬間に至るまでの意識的な努力が必要である. 人間の判断処理のプロセ スについて,Fig. 2 に示す. Fig. 2 人間の判断処理プロセス(海保, 2000) 意識的な努力の1 つとして,認知や情動,行動の制御を意識的に行う「セルフコントロ ール」が挙げられる(内山, 1986).身体と情動は密接に関係しており,緊張や焦りなどの 負の情動によって自律神経系の反応が生起し,筋緊張が上昇する.また,認知の仕方と情 動も密接に関係している.例えば,近い未来の行動の結果に対して不安を感じると,その 否定的な行動の結果予測によって,現在の行動が規制されてしまう.これらの情動は「言
14 葉」や「イメージ」を使うことでネガティブな方向からポジティブな方向へとコントロー ルすることができる(内山, 1986).大久保(2011)は,スポーツの試合において,選手た ちは試合の勝敗を左右するような重要なポイントに直面した時など,さまざまな強いプレ ッシャーに見舞われているが,そのようなプレッシャーのかかる状況下で,普段の実力を 発揮できるかできないかは,人格特性や注意力の影響を受けると述べている.このよう に,競技場面における強いプレッシャーなどにより,不安や焦りといった負の情動は認知 や予測に大きな影響を与え,その後の行動が規制されていることは明らかである.そのた め,メンタルスキルと認知スキルは密接に関連しており,メンタルスキルによって情動を コントロールし,その後の認知や予測、判断といった情報処理をいかにスムーズに行うか が重要であると考えられる. 4. オープンスキル種目におけるメンタルスキルのトレーニングに関する研究動向 スポーツ選手の競技力向上を目的とした,メンタルスキルを活用して行う計画的で教育 的な活動は,メンタルトレーニング(以下,MT)と呼ばれている(村上ら, 2010).近年で は,オープンスキル種目を対象としたMT 研究が盛んに行われており,その効果について 明らかにされてきている. スポーツ選手に必要な複数のメンタルスキルをプログラム化しているMT プログラムに よる研究(前川ら, 2005)においては,大学柔道選手を対象として 2 ヶ月間の MT による介 入を行ったところ,主観的な評価では練習への取り組み姿勢が積極的になり,闘争心が増 し,実力が発揮できるように変容したが,競技成績の向上はみられなかったと報告されて いる.阿江ら(2012)は,チームスポーツを対象に 2 年にも渡るトレーニング指導と面接 による介入を行ったところ,介入回数を追うごとにサポートへの関心が高まり,活気があ
15 り良好な感情状態となった.しかし,介入回数が少なかったため(2 年間で全 5 回),個人 のパフォーマンスに影響を与えるところまでは十分に係われず,競技成績につながったと は言い難いと報告している.クローズドスキルである弓道の高校生の選手を対象とした研 究(徳永ら, 2007)では,1 ヶ月間の講義形式の指導を行った結果,直近の試合での実力発 揮にはつながらなかったが,MT による心理的能力の向上とその後の大会での実力発揮が 認められている. このようにMT プログラムによる介入は,心理的能力を向上させるが,短期間および介 入頻度が少ない場合,競技成績の向上には至りにくいことが考えられる.一方で,パフォ ーマンスを評価しやすいクローズドスキル種目に関しては,1 ヶ月の介入期間でもその後 のパフォーマンスにおける実力発揮が認められている.このことは,記録やタイムを争う 個人スポーツ・クローズドスキル種目であれば,その成果を記録などの数値で客観的・定 量的に捉えることができるため,選手本人が比較的早い段階で効果を実感できることが大 きいと考えられる. 反対に,対戦相手によって勝敗が大きく左右されるチームスポーツ・オープンスキル種 目では,単に獲得した得点や勝敗だけでは個々の選手の競技パフォーマンスを評価するこ とが難しいことから(橋本・徳永, 2000),これまでの測定法では短期間の介入による細か なパフォーマンスの変化を捉えられていないと考えられる.個別のメンタルスキルを用い たサッカーを対象とした研究(Tohid et al., 2012)においては,男子サッカー選手に対する 2 ヶ月間のイメージトレーニングによる介入により,試合におけるパスの成功率が向上し たと報告されている.このことから,オープンスキル種目のチームスポーツであっても, パフォーマンスの変化を定量化して客観的に捉えることができる指標を設定することは,
16 MT の効果を強化するにあたって重要なポイントとなると考えられる.上記の先行研究に おけるMT の効果については,Table 6 に示す. Table 6. 先行研究における MT による効果 Taylor(1995)は,それぞれの競技によって競技時間や競技タイプ(強度など)が異なり, 要求される心理的能力も異なることから,その競技特性に応じたMT を行うことが重要で あると述べている.個別のメンタルスキルの向上を目的としたトレーニングでは,対象と なる競技で要求される競技特性に応じたトレーニングを実施する際に,具体的な数値目標 などを立てることで選手にも指導者にもトレーニングの効果が見えやすく,短期間の介入 でも心理的競技能力の向上につながると考えられる. 一方で,MT の介入期間や実施回数,実施されるプログラム内容,効果の検証方法は様々 で,パフォーマンスの向上までは至らなかったとするケースも散見される.これらの先行 研究における効果検証に関しても質問紙による主観的な報告が多く,標準的な手法が確立 されているとはいえず,心理面を強化するメンタルスキルをトレーニングとして成果を求 めるということであれば,競技パフォーマンスの特徴に応じたメンタルスキルを使用し, 標準的な手法により客観的な指標で効果検証を行う必要がある. 競技種目 介入方法(形式) 介入期間 介入回数 効果 弓道 (徳永ら, 2007) MT・プログラム(講義・実践) 1ヶ月 6 回 心理的能力の向上 (記載なし) (阿江ら, 2012) MT・プログラム(講義・面接) 2 年間 5 回 サポートへの関心・活気の向 上 柔道 (前川ら, 2005) リラクセーション・サイキングアップ・ メディテーション(講義・実践) 2 ヶ月 16 回 積極的なプレースタイルへ の変容 サッカー (Tohid, et al., 2012) イメージトレーニング(実践) 2 ヶ月 60 回 パスの精度の向上
17 5. 競技種目の特性に応じたメンタルトレーニングの開発 前述のように,競技によって競技時間や競技タイプ(強度など)が異なり,要求される 心理的能力も異なることから(Taylor, 1995),その競技特性に応じた MT を行うことが重 要である.心理的ストレス下におけるゴルフパッティングに特化したMT プログラムの 開発に関する研究では(長谷川, 2018),「あがり」を防ぐための緊張・不安の制御を目的 とするイメージ技法を用いた「認知トレーニング」と,身体不安の低減を目的とするリラ クセーション技法を用いた「対処行動トレーニング」の2 種の MT トレーニングの効用 性を検証している.結果として,「認知トレーニング」は「あがり」に,「対処行動トレー ニング」は「競技失敗不安」と「あがり」に有効である可能性が示唆されたと報告されて いる.クレー射撃選手を対象として競技中の脳波を測定した研究では,競技パフォーマン スの向上には,準備段階における安定集中状態から瞬間的反応動作に適した緊張状態へと 移行する心理的過程の習慣化が必要であると報告されている(本田・東山, 2003). このように,競技のパフォーマンスに直結するMT プログラムの開発は,競技力を向 上するためにも非常に重要である.しかし,競技パフォーマンスに効果的なMT の実施 方法に関する研究事例は少なく,日本では指導者側と選手側各々が試行錯誤しながら実施 しているという状況が少なくない(本田・東山, 2003).このような背景として,短期的な MT では指標が確立されておらず,効果の確認が困難であることや,年単位での長期間の MT を指導者側と選手側の両者とも敬遠する意識があるといわれている(本田・東山, 2003).また,計画された MT トレーニングに参加した場合でも,計画の未達成や辞退者 が生じることから,参加者が継続しやすい実施方法とサポート体制の構築が必要である (長谷川, 2018).
18 上記のように研究事例が少ない中で,MT の実施方法に関する手がかりを得るために は,トレーニング実施対象となる各選手の個人特性や競技特性の実態を把握し,熟知する ことが第一に必要である(本田・東山, 2003).競技特性の把握に関して, 生理指標である 心拍数は,従来の主観的な判断に基づく質問紙法による調査に比べ,選手の心理状態や競 技特性を解明するための客観性を備えた手がかりになると報告されている(東山ら, 2001).また,生理指標の中でも脳波測定は,他の生理指標である心拍や皮膚温等の測定 と比較すると,競技者の意識の覚醒度や集中度のより詳細な客観的評価が可能であると報 告されている(本田・東山, 2003). 上記を踏まえると,アイスホッケー競技のパフォーマンスの特徴に応じたMT プログ ラムを開発するためには,競技特性の実態について生理指標(特に脳波)を用いて把握す ることが必要である.また,MT プログラムを構成する上でも,反応や動作前の準備段階 で必要なメンタルスキルによる「認知トレーニング」や反応や動作中に必要なメンタルス キルによる「対処行動トレーニング」といった,それぞれの競技場面において必要なメン タルスキルを取り入れることが重要である. 6. 指導現場に取り入れやすい代表的なメンタルスキル(セルフトーク) 先述のMT の内容にも含まれているセルフトーク(以下 ,ST)は,自分自身と話をす ることであり,自分で自分に自己暗示をかけていく方法で,自分に言い聞かせるように, また独り言を言うように自分と話をするものである(高妻, 2003).同じ言葉を繰り返すこ とには,その言葉に意識を集中し,集中力を高める意図,その言葉の意味を「暗示」して いくという意図があり,それが良いプレーや気持ちの切り替えとなり,試合での成功の可 能性を高めることにつながる(高妻, 2002).
19 実際に,スポーツ選手がつぶやくように自分に語りかけている様子をよく目にするよう に,ST はメンタルスキルとして習得するだけでなく,競技経験の中で自然に身につけてい る場合も多い.MT が指導現場で取り入れられない理由の 1 つとして,「目に見えないこと を指導する難しさ」が挙げられる.コントロールしにくい心を直接コントロールするより も,コントロールしやすい言葉をコントロールする方が容易であり(新畑・関谷, 2001), 比較的簡易に実施できるST は,臨床心理学の分野で認知療法・認知行動療法における治 療法として活用されている.スポーツの競技場面でも利用されやすく,指導現場でも取り 入れやすい技法であるといえる. Luria(1961)は発達理論の中で,大人の言語が子どもの行動を統制する段階から,子ど も自身の外言によって自らの行動を効果的に制御する段階を経て,子ども自身の内言が子 どもの行為を制御するようになる段階へと発達していくと述べている.したがって,ST は 子どもにも実施しやすく,他者が介入しやすい技法であることがわかる.これをスポーツ の競技場面に置き換えると,指導者(他者)の言葉 選手(自分)の外言 内言という一 連の内化(自分自身の認知過程内に取り入れること)の過程によって,言語が思考へと変 化していき,選手自身の内言によって自分自身の行動を制御することができるようになる と考えられる. Gill et al.(2017)は,効果的な ST の内容について,「思考の転換」や「ネガティブな感 情の否定」など,Table 7 に整理している.
Table 7. ST の内容(Gill et al., 2017) Thought Stopping 思考を止める
Changing negative thoughts to positive ネガティブな言葉をポジティブに置き換える
Countering ネガティブな感情を否定すること
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Tod et al.(2011)によってまとめられた ST の systematic review によると,ポジティブな
内容のST はパフォーマンスを向上させ,教示的 ST(instructional self-talk),動機づけ ST
(motivational self-talk)は課題の特徴によって効果が異なり,ネガティブな ST はパフォー
マンスに影響を与えないという.教示的ST(例えば,初心者が「手首を曲げない」や「右
足から動かす」など,教示的な内容を発するST)使用時には,正確性を問うような調整課
題(決まった場所にボールを打ち返す(Yannis & Robert, 2000)など)でのパフォーマンス
において,パフォーマンスの向上が報告されている.また,動機づけST(「さあ頑張るぞ」
や「できるできる」など,動機づけをする内容を発するST)使用時には,状況を判断する
ような課題(選択反応時間(Boroujeni & Ghaheri, 2011)など)において,パフォーマンス
の向上が報告されている. またST は,他の学問分野でも使用されており,臨床心理学の分野では自己教示法とし て,認知療法・認知行動療法における治療法のひとつとして活用されている.認知療法・ 認知行動療法は,ある出来事に対しての認知(受け取り方やものの見方)に働きかけて, 心のストレスを軽減していく治療法である.認知には何かの出来事に対して,瞬間的に浮 かぶ考えやイメージ(自動思考)があり,それによって,いろいろな気持ちが動き行動す ることになる.自己教示法では,自分自身に言葉を言い聞かせることによって,自動思考 に働きかけて考え方を変えることに役立てている. 以上のようにST は,スポーツに限らず発達や臨床心理の分野でも取り入れられ,年齢 問わず実施ができることや,第三者によって介入しやすいという特徴がある.比較的簡便 で誰にでも実施できるST は,スポーツの指導現場においても導入しやすいメンタルスキ ルであり,一方ではアイスホッケー競技においても必要な要素として心理面が挙げられて
21 いる.したがって,ST による MT はアイスホッケー競技のパフォーマンスにも好ましい効 果をもたらすことが期待できる. ST の効果については,これまでパフォーマンス(行動)指標や質問紙による検証が多く 行われてきたが,その効果に至った機序を明らかにするためには,ST を行っている最中の 変化を定量化できる生理指標が有用であると考えられる.心拍と血圧と質問紙を用いて検 証を行った研究(立谷, 2008)では,ポジティブ ST の効果について,質問紙では効果がみ られたが,生理指標では違いがみられなかったと報告されている.今後の課題として,脳 波や脈拍などの他の生理指標を用いた詳細な検討が必要であると述べているように,ST の 効果については,自律神経系に加え中枢神経系の生理指標を用いた,より客観的・定量的 な検証方法の確立が求められている. 7. 心理面と精神生理学との関係 客観的な指標として MT の技法を習得することに関しては,バイオフィードバック(bio feedback; 以下 BF) を用いた研究が進められている.BF は,医療現場において,患者の様々な症状改善のため の臨床的介入のアプローチ方法の1 つとして活用されている.また,スポーツ選手の集中 力向上や自己コントロール能力の向上など,競技力向上に用いられている場合もある (Muench, 2008). トップアスリートが呼吸法習得時にStress Eraser(呼吸 BF デバイス)を用いてトレーニ ングを実施した研究(笹塲・佐久間, 2014)や,学生アスリートが自律訓練法習得時にサー モトレーサーを用いてトレーニングを実施した研究(高井, 2011),漸進的筋弛緩法のトレ ーニング効果について筋電位を用いて評価した研究(秋葉ら, 2013)などがある.これらの 研究において,MT の対象者による主観評価と生理応答を用いた客観的な評価との対応関
22 係を検討するにあたって,生理指標の変化をMT による効果が反映されているものとして, 数値やグラフ、色やイラストなどのイメージに置き換えて“可視化”しているのが特徴であ るといえる.トレーニングの効果を可視化することによって,対象者にも目標設定がしや すくなりトレーニングへの動機づけの向上や継続促進とつながった結果,トレーニング効 果の向上が認められたことから,生理指標を用いた客観的な評価がMT の効果を高めると 結論づけている. また,オープンスキル競技を対象とした選択反応時間を検証した研究(熊谷ら, 2018)に おいては,生理指標である事象関連電位(event-related potencial: ERP)と行動指標である反 応時間を併用して,オープンスキル競技の認知的特徴の抽出を試みている.コントロール 群よりもアスリート群の方が有意に短い反応時間であったことと合わせて,アスリート群 の反応が早かったのは,アスリート群においてERP の成分である P3 の振幅が,難しい課 題の時に増幅していたことから,提示刺激により多くの注意を向けていたことが要因のひ とつと考えられることを報告している.このことは,アスリートの認知情報処理能力の特 性を示す一つの知見となり,情報処理能力の評価においてERP の測定は有効なものである ことを示したといえる. このようにMT の効果については,生理指標を用いて検証されつつあるが,MT による 心理面の強化と競技パフォーマンスとの関係についてはまだ解明されていない. スポーツの分野以外における心理面と精神生理学との関係について,人の社会的な行動 からアプローチする領域はSocial Psychophysiology(社会生理心理学)と呼ばれ(Buck, 2000), 社会的行動の背景にある動機づけ(Motivation),感情(Emotion),認知(Cognition)の MEC を,生理的反応から推測することを試みている.このMEC のうち,動機づけ(M)と感情 (E)については,脳波や fMRI,筋電図など様々な生理指標を用いた研究が進んできてお
23
り,先行研究により解明されつつある.一方,認知(C)については,生理学的観点からの 研究がまだ十分になされていない.高い時間分解能を必要とする認知研究においては,脳 波(electroencephalogram: EEG)や ERP が有効な精神生理学的指標となると考えられてい る. 脳波は,脳の神経細胞の集団が示す持続的な電気活動であると考えられている.Berger (1929)によって最初に報告されたのが,閉眼安静時に 8 – 13 Hz の正弦波に近い電位変動 で,現在も「α 波」として広く知られている.精神的に興奮したり懸命に考えごとをした りするとα 波は減少し,代わりに細かく速い電位変動である β 波(13 – 20 Hz)が出現す る.一方,事象関連電位は,何らかの事象の生起に応じて観察される一過性の脳電位変化 である.視覚・聴覚・体性感覚等の感覚器への刺激に誘発される電位であり,知覚・注意・ 認知といった心理過程によっても惹起される電位である(沖田・諸富, 1998). これまで,人の心の状態や情報処理過程は,目で見て確かめることはできないため,心 理学の領域では,反応時間(RT)や誤答率等の行動指標を用いて,多くの研究成果を上げ てきた.しかし,出力された結果からその情報処理過程を推測するが,課題が複雑になり 並行処理がなされると推定が困難となる.その点,EEG や ERP は,脳の情報処理の進行中 に記録が可能であり,情報処理活動に対応する脳波や事象関連電位の変化が特定されるこ とによって,時間経過とともに処理活動の分析が可能となる.脳波や事象関連電位を指標 として用いたスポーツの競技場面における研究もなされてきており(e.g., 松本・佐久間, 2011; Hamaguchi et al., 2014),また,情報処理能力の評価において ERP の測定は有効なも
のであると報告されていることから(熊谷ら, 2018),MT および認知過程とスポーツにお
けるパフォーマンスとの関係を解明するには,脳波や事象関連電位を用いて脳の動きを把 握することが重要であると考えられる.
24 第2 節 研究の目的と構成 これまでのアイスホッケー競技における心理面の研究報告は,すべて国外である.その ため,今後は,我が国においてアイスホッケーの競技力向上に向けた強化策を検討する上 でも,心理面の強化とパフォーマンスとの関連を明らかにすることが必要であると言える. アイスホッケー競技を始めとするオープンスキル種目において,従来の先行研究では,選 手の主観評価に基づいた効果検証が多く,より客観的な指標による効果検証の方法につい てはまだ確立されていない.アイスホッケー競技のパフォーマンス向上に必要な要素であ る「ホッケーセンス」や「判断力」「ハート(熱意)」「メンタルでのタフさ」といった抽象 的で曖昧な表現について,具体的なメンタルスキルに落とし込み,トレーニングとして実 施した上で,その効果について客観的に評価する指標を確立する必要がある. また,アイスホッケー競技においては,「Self-Talk」や「Imagery」など,様々なメンタル スキルが有効であるといわれているが,どのメンタルスキルがどのような機序で,どのパ フォーマンスの向上につながっているのかもまだ明らかになっていない.アイスホッケー 競技の競技特性を把握した上で,パフォーマンス向上につながるメンタルスキルの有効性 について客観的な指標で明らかにすることが重要であると考えられる. そこで本研究では,先行研究でアイスホッケー競技のパフォーマンス向上に必要なメン タルスキルといわれているものの中でも,比較的簡便で実施しやすく,指導の現場でも取 り入れやすいST による介入を行い,脳波を用いた精神生理学的な指標と行動指標として のパフォーマンスの観点から検証する.また,競技種目によって競技特性が異なることか ら,アイスホッケー競技のパフォーマンスとも密接に係わっている認知スキルを用いて競 技およびポジションの特徴を明らかにする.認知スキルについては,「メンタルローテーシ ョン課題」と「サビタイジング課題」の2 つの課題を用いて検証する.
25 以上のことから,メンタルスキルであるST の効果を精神生理学的な指標を用いて客観 的に明らかにした上で,アイスホッケー競技およびポジションにおける認知スキルの特徴 を明らかにした上で, 競技特性およびポジション特性に応じた MT を検討する上でのエビ デンスを提供することを目的とした. 本研究で得られた知見については,これまで客観的な指標が確立されていなかったメン タルスキルにおける一例として,ST 以外のメンタルスキルにも応用可能であると考えられ る.また,競技およびポジションの認知的側面からの特徴を踏まえた有効的なMT プログ ラムを検討する上での重要なエビデンスとなる.さらに他のオープンスキル種目への汎用 性についても検討する. これらの目的を達成するために,以下の4 つの研究課題を設け,それぞれの実験から得 られた知見をもとに総合考察を行い,本研究の社会的有用性を述べ結論とする.なお,本 研究における各研究課題の構成をFig. 3 に示す. Fig. 3 本論文の構成
26 研究課題1 では,アイスホッケー選手に必要なメンタルスキルである ST の有効性につ いて,精神生理学的指標である脳波を用いて明らかにする. 研究課題2 では,アイスホッケー選手を対象とし,選手個人の心理的特性の把握を行っ た上で,ST による 2 ヶ月間の介入を行い,心理面やパフォーマンスに与える影響について 明らかにする. 研究課題3 では,アイスホッケー選手のパフォーマンスと関連があると予想される認知 スキルの側面から,競技特性およびポジション特性についてメンタルローテーション課題 を用いて明らかにする.研究課題3-1 では,アイスホッケー選手を対象にメンタルローテ ーション課題中の脳波を記録して,メンタルローテーションに関連する ERP 成分である
RRN(Rotation related negativity)を導出し,提示刺激の回転角度が小さい条件と大きい条件
に分けて,課題の正答率および反応時間,RRN 振幅を算出し,競技およびポジションの課 題難易度における特徴について明らかにする.研究課題3-2 では,アイスホッケー選手を 対象にメンタルローテーション課題中の脳波を記録して,記録した脳波からCNV を導出 し,課題を前半と後半に分けて,それぞれの課題の正答率および反応時間,CNV 振幅を算 出し,競技およびポジションの時間の効果における特徴について明らかにする. 研究課題4 では,アイスホッケー選手の認知スキルについて,サビタイジング課題中の 脳波を測定し,ERP 成分である N2 と P3 の振幅により,視空間的な視覚過程における競技 およびポジションの特徴を明らかにする.
27 第3 節 研究の意義 近年では,MT による心理面の強化や選手の心理状態の把握など,研究が進んできてお り,徐々に選手の心理面について明らかとなってきている.しかしながら,MT プログラ ムとして,競技種目に係わらず一律のトレーニングを実施しているものや,トレーニング 効果を質問紙や内省報告など主観的な評価による効果検証にとどまっているものが多く, メンタルスキルの効果を客観的・定量的に示す指標については確立されていない.メンタ ルスキルの有効性について,精神生理学的な指標を用いて客観的・定量的に明らかにする ことと,パフォーマンスとの関係が深い認知的な観点から競技およびポジション特性を明 らかにすることは,これまで重要な課題とされてきた.目に見えにくい心理面を扱う特殊 性から,競技やポジションにおけるパフォーマンスの違いやMT の効果について,実証性 の高い客観的な指標による裏付けが重要な意義を持つと考えられる. したがって,上記の研究課題の検証により,アイスホッケー競技およびポジションの違 いにおける認知スキルの特徴ならびにメンタルスキルであるST の効果について,精神生 理学的な観点からアプローチすることは新たな手法であり,競技特性・ポジション特性に 応じた実証的なMT プログラムを検討するための有益なエビデンスとなることが期待され る. 本研究によって得られた結果は,これまでの指導者の経験的知見に加えて,競技および ポジション特性に応じたMT を検討する上での有益なエビデンスとなり,新たな視点での 指導が可能となると考えられる.競技・ポジションごとの認知スキルの特徴を把握した上 で,パフォーマンスに有効なメンタルスキルをプログラム化し,トレーニング効果をより 客観的な指標によってモニタリングしながらの指導が可能となる.そして,将来的にこれ
28
らのことは,アイスホッケー競技のみならず,他のオープンスキル種目にも応用すること が可能であると考えられる.
29 第2 章 セルフトークの精神生理学的効果の検討(研究課題1) 第1 節 緒言 競技パフォーマンスを向上させるためには,「心」「技」「体」の3 つの要因をバラン スよく向上させる必要がある.しかし,心理面の強化は,技術面や体力面の過剰なトレー ニングの過程で図られるものであり(西村, 1998),練習や試合を体験することで自然に習 得されていく能力であるとされてきた(徳永ら, 2000).このことから,心理的要因のトレ ーニングは,他の要因のトレーニングと比べて大幅に遅れをとっており(西村, 1998),ス ポーツの指導現場でもあまり取り入れられてこなかった.その大きな要因として,心理面 のトレーニングとしてのMT の効果やトレーニング方法などに関して発展途上にあること, また,評価方法について実施者の主観的な記述が多く,客観的・定量的なデータによる評 価がほとんどないことが指摘されている(阿江ら, 2012). 橋本・徳永(2000)は,記録やタイムを争う個人スポーツであれば,その数値の変動が MT の効果として客観的に捉えることもできるが,対戦相手によって勝敗が大きく左右さ れるチームスポーツでは,単に獲得した得点や勝敗だけで個々の選手の競技パフォーマン スへの効果を特定することは難しいと述べている.このように,MT の効果が客観的な指 標で捉えることが難しく,パフォーマンスの向上に直接つながっているという実感がわき にくいことが,トレーニングとして定着していない要因となっていると考えられる. 一方で,スポーツの分野でも少数ではあるが,生体の自律神経系の反応を主とする生理 学的な変化を指標とするバイオフィードバックを用いたMT が行われてきている. 呼吸法を習得する際に, ストレスマネジメントデバイスの Stress Eraser を用いた事例(笹 塲・佐久間, 2014)では, 指先から測定される心拍数に基づき副交感神経の優位な状態を確