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もっとやさしい開発経済学 第10回 ジェンダーと開発 -- 貧困の女性化 (連載)

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もっとやさしい開発経済学 第10回 ジェンダーと開

発 -- 貧困の女性化 (連載)

著者

野上 裕生

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

156

ページ

38-39

発行年

2008-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004928

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.56(2008. 9)― 8

●「

」と

  貧 困 削 減 は 開 発 援 助 の 世 界 の 最 重 要 課 題 で す が 、 女 性 と 貧 困 と は 深 い 関 わ り が あ り ま す 。 栄 養 不 足 や 過 重 労 働 、 教 育 機 会 の 不 足 や 虐 待 と い っ た 貧 困 の 様 々 な 現 象 が 女 性 に と っ て 深 刻 な 問 題 と な っ て き ま し た 。   現 実 の 社 会 で 見 ら れ る 男 性 と 女 性 の 活 動 や 生 活 様 式 の 違 い は 、 必 ず し も 生 物 学 的 な 性 差 に よ る と は 限 り ま せ ん 。 生 物 学 的 に 見 る と 、 女 性 は 子 ど も を 産 む こ と が で き ま す し 、 男 性 よ り 長 く 生 き る 傾 向 が あ り ま す 。 し か し 開 発 途 上 国 の 中 に は 男 性 と 女 性 の 平 均 寿 命 の 違 い が あ ま り な い 国 も あ り ま す 。 こ れ は 社 会 的 要 因 に よ っ て 、 男 女 の 寿 命 が 影 響 を 受 け て い る 一 例 と 考 え ら れ ま す 。 ま た 女 性 の 活 動 は 常 に 家 庭 を 中 心 に し て い る と 考 え ら れ が ち で す が 、 近 代 化 開 始 以 降 の 日 本 の 貧 困 層 や 庶 民 の 生 活 を 描 い た ル ポ ル タ ー ジ ュ で あ る 『 日 本 の 下 層 社 会 』( 横 山 源 之 助 ) で は 、 全 国 の 五 〇 人 以 上 雇 用 の 工 場 の 職 工 を 調 べ 、 女 性 の 比 重 が 小 さ い も の で は な い こ と を 報 告 し て い ま す 。 生 物 学 的 な 性 ( sex ) に よ る 差 と は 別 に 社 会 が 作 り 出 す 観 念 や そ こ か ら 形 成 さ れ る 男 女 の 生 き 方 の 違 い で あ る 「 ジ ェ ン ダ ー 」( gender ) こ そ 、 貧 困 や 不 平 等 を 見 る と き に は 重 要 と な っ て き ま す 。

  ジ ェ ン ダ ー の 不 平 等 は 健 康 、 労 働 あ る い は 教 育 の 領 域 で 見 ら れ ま す 。 た と え ば 南 ア ジ ア は 男 性 の 数 が 女 性 の 数 よ り も 多 い と い う 点 で 特 異 な 地 域 で す 。『 南 ア ジ ア の 人 間 開 発 二 〇 〇 〇 』 に よ る と 、 南 ア ジ ア 以 外 の 世 界 全 体 で は 男 性 一 〇 〇 人 に 対 し て 女 性 の 人 口 比 率 は 一 〇 六 人 で す が 、 南 ア ジ ア で は 九 四 人 に と ど ま っ て い ま す 。 こ れ は 女 性 の 幼 少 期 ・ 若 年 期 に お け る 死 亡 率 が 高 い た め で す 。 こ の 地 域 で は 女 性 に 発 言 力 が な く 、 自 分 や 娘 に 対 し て 時 宜 に 適 っ た 医 療 的 処 置 を 求 め る こ と が で き な い こ と 、 女 性 は 子 ど も の 頃 か ら 十 分 な 栄 養 を 与 え ら れ な い こ と 、 五 歳 以 下 の 子 ど も ( 乳 幼 児 ) の 死 亡 率 に つ い て は 、 疾 病 や 栄 養 不 良 の た め 、 女 性 の 方 が 高 い こ と な ど の 事 情 が 影 響 し て い ま す 。 そ の た め 、 生 物 学 的 に 見 れ ば 女 性 は 平 均 し て 男 性 よ り 五 年 程 度 長 生 き す る そ う で す が 、 南 ア ジ ア で は 女 性 が 男 性 よ り 三 年 し か 長 く 生 き る こ と が で き ま せ ん 。   女 性 の 経 済 へ の 貢 献 が 過 小 評 価 さ れ る と い う 形 で も ジ ェ ン ダ ー 不 平 等 は 生 じ て い ま す 。 一 般 に 労 働 力 調 査 や 事 業 所 調 査 は 正 規 の 経 済 活 動 し か 捉 え な い 傾 向 が 強 い の で 、 非 正 規 労 働 に 従 事 し や す い 女 性 の 経 済 活 動 が 過 小 評 価 さ れ る こ と が 多 く な り ま す 。 ま た 、 食 料 生 産 を は じ め と し て 、 世 帯 員 の 生 活 に 必 要 な 物 ・ サ ー ビ ス は 男 性 よ り も 女 性 に よ っ て 生 産 さ れ る 傾 向 が あ り ま す が 、 こ れ ら の 仕 事 は 国 民 経 済 計 算 ( S N A ) に 代 表 さ れ る 経 済 統 計 で は 過 小 評 価 さ れ る 傾 向 が あ り ま す 。 さ ら に 、 女 性 は S N A に 含 ま れ な い 無 報 酬 の 家 庭 内 労 働 や 地 域 社 会 で の 仕 事 に お い て 重 要 な 部 分 を 担 っ て い る と 思 わ れ ま す が 、 こ れ ら の 活 動 も 政 府 の 統 計 で は 過 小 に 報 告 さ れ る 傾 向 が あ り ま す 。 女 性 と 男 性 の 経 済 に 対 す る 貢 献 を 正 確 に 把 握 す る た め に は 統 計 デ ー タ の 収 集 方 法 を 改 善 す る と と も に 、 無 報 酬 の 労 働 の 量 的 測 定 の た め 、 経 常 的 に 生 活 時 間 の 調 査 を 行 う こ と も 必 要 に な り ま す 。

開発経済

も っ と や さ し い

連 載 第

10

と開発

貧困

女性化



野上裕生

(3)

9 ―アジ研ワールド・トレンド No.56(2008. 9)

  開 発 途 上 国 の ジ ェ ン ダ ー 格 差 を 形 成 し て い る 要 因 は 実 に 様 々 で あ り 、 家 計 内 の 要 因 と 家 計 外 の 社 会 的 要 因 が 複 雑 に 連 関 し て い る と 考 え ら れ ま す 。   ま ず 、 家 庭 外 の 雇 用 機 会 や 賃 金 に は 大 き な ジ ェ ン ダ ー 間 格 差 が 存 在 し ま す 。 あ る 個 人 の 女 性 の 能 力 が 男 性 と 全 く 変 わ り な く て も 、 企 業 が 労 働 者 の 資 質 を 正 確 に 把 握 す る こ と が 難 し い 場 合 に は 、「 女 性 は 平 均 し て 勤 続 期 間 が 短 い 」 と い っ た 指 標 に 基 づ い て 、 男 性 を よ り 多 く 採 用 す る 、 あ る い は 男 性 に 対 し 積 極 的 な 技 術 訓 練 を 行 う と い う 「 統 計 的 な 」 差 別 が 行 わ れ る こ と が あ り ま す 。   こ の よ う に 雇 用 主 に よ る 差 別 に 加 え 、 家 庭 内 に お い て も ジ ェ ン ダ ー 格 差 が 生 じ て い ま す 。 た と え ば 男 子 が 老 齢 の 親 の 面 倒 を 見 る こ と が 慣 習 と な っ て い た り 、 女 性 が 地 域 の 社 会 的 ル ー ル に よ っ て 生 産 活 動 に 従 事 で き ず 、 単 純 な 肉 体 労 働 や 家 庭 内 の 労 働 し か で き な い よ う な 社 会 で は 、 女 子 教 育 に 対 す る 投 資 が 抑 制 さ れ が ち で す 。 さ ら に 、 女 性 が 自 立 し て 生 き て い く 条 件 が 整 備 さ れ て い な い 社 会 で は 、 家 庭 内 で の 女 性 の 発 言 力 や 経 済 的 境 遇 ( 家 計 内 分 配 ) も 女 性 に は 不 利 に な り が ち で す 。 女 性 が よ り 長 期 間 の 教 育 を 受 け た り 、 自 分 の 受 け た 教 育 を 生 産 的 に 十 分 に 活 用 す る た め に は 、 近 代 的 な 技 術 を 応 用 し た 農 業 経 営 、 農 業 外 ・ 家 計 外 の 仕 事 等 に も 参 加 で き る よ う に 、 地 域 の 文 化 的 条 件 に 配 慮 し た 制 度 を 作 る 必 要 が あ り ま す 。

  開 発 政 策 で 女 性 ・ ジ ェ ン ダ ー に 配 慮 す る に は 二 つ の 留 意 点 が あ り ま す 。   第 一 に 、 男 女 差 別 を な く し 、 女 性 の ニ ー ズ を 充 た す こ と を 政 策 の 明 確 な 目 的 に す る こ と で す 。 ジ ェ ン ダ ー 格 差 に は 様 々 な 要 因 が 相 互 補 完 的 に 作 用 し て い る の で 、 そ の 是 正 に も 法 制 度 、 経 済 政 策 、 社 会 的 な 偏 見 へ の 対 策 な ど 、 様 々 な 方 面 か ら 取 り 組 ま な く て は な り ま せ ん 。 法 律 に よ っ て 「 差 別 は 悪 い 」 と 明 確 に 宣 言 す る と 同 時 に 、「 差 別 を 続 け て も 意 味 が な い 」 と 社 会 に 思 わ せ る 工 夫 が 必 要 で す 。 そ れ に 加 え て 政 策 実 行 の 際 に は 、 女 性 が ジ ェ ン ダ ー に 基 づ い て 担 っ て い る 生 産 ・ 再 生 産 活 動 や 地 域 共 同 体 の 運 営 等 の 肉 体 的 負 担 を 考 慮 に 入 れ る 必 要 が あ り ま す 。 貧 困 対 策 の 一 環 と し て 、 女 性 に 新 た な 労 働 機 会 を 提 供 し た と こ ろ 、 女 性 が 既 に 重 労 働 を 担 っ て い た た め 、 過 重 労 働 に 陥 っ た り 、 家 事 の 時 間 が 減 っ て し ま い 、 女 性 の 生 活 を さ ら に 苦 し め て し ま っ た 、 と い う よ う な 失 敗 を 防 ぐ た め で す 。   第 二 は 開 発 目 標 の 達 成 の た め に 女 性 を 活 用 す る 方 が 有 効 で あ る 場 合 、 あ る い は 既 に 女 性 に よ っ て の み 担 わ れ て い る 活 動 が 多 い と い う こ と で す 。 開 発 途 上 国 の 、 特 に 農 村 部 で は 、 水 く み や 洗 濯 、 あ る い は 燃 料 確 保 の た め の 薪 集 め は 主 に 、 女 性 が 担 っ て い る と 言 わ れ て い ま す 。 こ の よ う に 女 性 の 労 働 が 自 然 環 境 ( 水 や 森 林 等 ) と 関 係 し て い る こ と が 多 い の で 、 環 境 保 全 の 担 い 手 と し て 女 性 の 役 割 に 期 待 が か か っ て い ま す 。

  先 進 国 や 開 発 途 上 国 で も 経 済 成 長 や 女 性 の 労 働 力 参 加 が 進 む 一 方 で 、 女 性 労 働 者 や 女 性 世 帯 の 境 遇 が な か な か 改 善 さ れ な い ケ ー ス も 多 く 、 最 近 で は 「 貧 困 の 女 性 化 」 ( feminization  of  poverty ) と い う 言 葉 も 使 わ れ て い ま す 。 本 来 、 女 性 の 健 康 や 知 識 、 能 力 は 子 ど も の 健 康 や 教 育 、 あ る い は 家 族 の 介 護 と い っ た 仕 事 と 結 び つ い て い る こ と が 多 い の で 、 女 性 に 対 す る 人 的 投 資 の 社 会 的 効 果 は 潜 在 的 に は 大 き く 、 長 期 的 な 経 済 発 展 の た め に も 有 効 で あ る と 考 え ら れ ま す 。 こ の よ う に 、 ジ ェ ン ダ ー の 問 題 は 、 平 等 や 人 権 と い う 観 点 か ら も 、 ま た 貧 困 削 減 や 経 済 発 展 と い う 観 点 か ら も 非 常 に 重 要 な テ ー マ な の で す 。 ( の が み  ひ ろ き / ア ジ ア 経 済 研 究 所 国 際 交 流 ・ 研 修 室 ) 本 稿 が 依 拠 し た 資 料 や 文 献 は 野 上 裕 生 「 人 間 開 発 と ジ ェ ン ダ ー 」( 朽 木 昭 文 ・ 野 上 裕 生 ・ 山 形 辰 史 編 『 テ キ ス ト ブ ッ ク 開 発 経 済 学 ( 新 版 )』 有 斐 閣 、 二 〇 〇 四 年 、 第 一 八 章 ) を 参 照 し て 下 さ い 。

参照

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