海洋構造物係留用アンカーの把駐力評価に関する研究
学生会員 福 元 佑 輔* 正 会 員 前 田 正 広**正 会 員 吉 川 孝 男**
Assessments of the holding power of anchors for mooring the offshore structures
by Yusuke Fukumoto, StudentMember Masahiro Maeda, Member
Takao Yoshikawa, Member
Key Words: Mooring, Anchor, Offshore structure
1. 緒 言 日本は世界第 6 位の EEZ(排他的経済水域)の面積を 有し、その海底下において多くの資源の存在が明らかと なりつつある。将来的にはこれらを我が国自前の技術で 採取できるようになることが望まれる。ところで、近年 の海洋開発では様々な水深や海象条件に対応し、移動性 に優れる FPSO 等の海洋浮体構造物の利用が普及してい る。海洋浮体構造物の基礎的な課題の一つとして係留が ある。長期間に渡る海洋開発では、エネルギー消費など の観点から、スラスター等を用いる動的係留よりもアン カー等を用いる機械式係留が望まれる。しかしながら、 日本ではこれまで大深海域(水深 500m 以上)の係留系に 関する研究開発があまりなされておらず、特に高把駐力 アンカーに関しては海外に依存しているのが現状である。 今後日本で海洋開発を推進するにあたり、アンカーに関 する知見を蓄積していく必要があると考えられる。 従来のアンカー形状は、ほとんどの場合、実験的ある いは経験的に決定されてきた。また、従来の把駐力の研 究においては、石塚らの研究など1),2),の模型実験によるア ンカーの把駐力データの取得、日當らによる実海域にお ける実験 4)、佐藤らによる把駐力に関する力学的考察 5),6),7),8),9),10)が行われてきたが、実験と解析を結びつけた研 究報告は関田らによる研究 11)などごく少数である。そこ で本研究では、平板型ドラッグアンカーを対象とし、最 適なアンカー形状を推定する手法の構築を目的として、 その比較検証用のデータの獲得を行った。 Fig.1 にアンカーの各部名称を示す。
Fig.1 Name of each part of the anchor (Source:Sotra Anchor & Chain AS HP, AC-14 )
2. 模型実験による把駐力データの獲得 2.1 実験装置および実験方法 Fig.2 に 示 し た 実 験 装 置 に つ い て 説 明 す る 。 長 さ 3600mm、幅 900mm、深さ 540mm の木製の砂槽を製作し、 その中に深さ 500mm のところまで海底を模した砂を投入 した。その上にアンカーモデルをおき、これをワイヤー でクレーンに接続し、滑車を介すことで水平に引っ張り、 滑車とクレーンの間に設置した荷重計により把駐力を計 測 し た 。 な お 、 ク レ ー ン の 引 張 速 度 は 1.9cm/sec と 12.3cm/sec を選定することが可能である。 Fig.3 に示したアンカーモデルはフルーク部分、シャン ク部分ともに鋼製で、ボルトによる着脱式とした。これ により、フルーク部分の形状やシャンク角を変更するこ とを可能とした。また今回は力学的考察や数値シミュレ ーションへの応用を考慮し、140mm×280mm の長方形平 板をフルークの基本形状とした。基本形状のフルーク重 量は 1850g である。また、最大把駐力計測後にステンレ ス定規を砂に挿入することで貫入深さを計測し、静かに アンカーの上部の砂を取り除きシャンクの角度を計測す ることで水平方向に対するフルーク面の角度を算出した。 また底質には購入した海砂を使用した。土性は粗砂主 体の砂土である。底質の物性値として、砂の湿潤密度γt は 0.00128[kg/cm3] 、砂とフルークとの摩擦角δは 35°、 砂の安息角φは 35°であった。
Fig.2 Equipment of experiment
Fig.3 Model of experiment * 九州大学工学府海洋システム工学専攻 ** 九州大学工学研究院海洋システム工学部門 Shank Fluke Shank angle 原稿受付 平成28 年 3 月 25 日 春季講演会において講演 平成28 年 5 月 26, 27 日
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日本船舶海洋工学会日本船舶海洋工学会講演会論文集 第 22 号
論文番号 2016S-GS2-8
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2.1 実験結果 本実験では以下の9 項目をパラメータとして計測した。 (1) シャンク角 (2) フルーク面積 (3) フルークアスペクト比 (4) フルーク厚さ (5) フルーク重量 (6) フルーク先端角度 (7) シャンク長さ (8) シャンク取付位置 (9) 牽引速度 計測結果全体を通して得られた知見は以下である。 ① 牽引距離が大きくなるにつれてアンカーは土壌に貫 入していき、それに伴って把駐力が増加する。 ② 各条件に対して把駐力はある一定値(最大把駐力) に収束する。 ③ 最大把駐力計測後の最終的なフルーク面角度はパラ メータに依らず一定値(0°)に収束する。 続いてパラメータごとの計測結果を簡単に記す。 まず、(1)シャンク角は 0°から 5°刻みで増加させて 実験を行った。ただし、30°以降はアンカーの姿勢が不 安定となり横回転を始めたため、25°までの計測である。 Fig.4 はシャンク角ごとに牽引距離と把駐力の関係を、 Fig.5 は最大把駐力を計測した地点でのシャンク角とア ンカーの貫入深さの関係を、Fig.6 はシャンク角とフルー ク面角度の関係を示している。Fig.4 からシャンク角が大 きくなるにつれて把駐力が増大していることがわかる。 Fig.5 からシャンク角が大きくなるにつれて貫入深さも 増加しており、それが把駐力増大の要因になっていると 考えられる。Fig.6 を見るとシャンク角 15°まではフル ーク面角度はほぼ0°に漸近しているが、シャンク角 20°からフルーク面角度の絶対値が大きくなっており、 Fig.5 を見るとシャンク角 20°以降のグ最大把駐力の上 がり方が、15°までの傾向より小さくなっている。これ らの原因として、実験砂槽が短く、計測距離の間に最大 把駐力まで達していないことが考えられる。
Fig.4 Relationship between the holding power and the traction distance
Fig.5 Relationship between the max holding power and the shank angle
Fig.6 Relationship between the fluke face angle and the shank angle
(2)フルーク面積については、フルーク面積 38400cm2、 60000cm2、84000cm2と変化させて試験を行った。なお、 アスペクト比(フルーク長さとフルーク幅の比)は 2:3 である。Fig.7 は把駐力をフルーク面積で除した係数と牽 引距離の関係を示したもの、Fig.8 は各フルーク面積の最 大貫入深さの関係を示す。Fig.7 よりフルーク面積の比例 関係以上に把駐力が増加することがわかった。これは Fig.8 に示すようにフルーク面積が増加すると貫入深さ が増加するためであると考えられる。
Fig.7 Relationship between the holding power / the fluke area and the traction distance
Fig.8 Relationship between the max penetration depth and the fluke area
(5)フルーク重量については、鋼製 1850g、アルミ製 600g と変化させて試験を行った。フルーク重量が大きい ほど把駐力は増加すると予想されたが、把駐力に影響す るフルーク上の砂の重量に比べてフルーク重量が小さい ことから各値に変化は見られなかった。 (6)フルーク先端角度については、先端を 30°にカット したフルーク鋼板を、カット面を上側に向けて取り付け た場合を「プラス30°」、カット面を下側に向けて取り 付けた場合を「マイナス30°」とし、さらにカット無し の通常のフルーク鋼板「0°」の 3 つの場合について計測 した(Fig.9)。把駐力、貫入深さともに、0°、プラス 30°、 マイナス30°の順に大きかった。これは先端形状がアン カーの貫入しやすさに影響することを示す。しかし、力
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学的考察によるこの原因の究明には至っていない。
plus 30°
0°
minus 30°
Fig.9 Tip angle of fluke
(7)シャンク長さは、160mm、240mm、360mm の場合 について計測した。これにより、Fig.10 に示すようにシ ャンク長さが大きい方の貫入深さが増大し、把駐力が大 きくなることがわかった。
Fig.10 Relationship between the holding power and the traction distance
(8)シャンク取付位置については、Fig.11 のように、シ ャンクをフルーク鋼板の先端から3/4 の位置に取り付け た「75%位置」と、1/2 の位置に取り付けた「50%位置」 について計測した。これにより、Fig.12 が示すように 75% 位置の方がより深く貫入し、それに伴ってより大きい把 駐力を得られることがわかった。 75% location 50% location 70mm 70mm 35mm 105mm
Fig.11 Installation location of the shank
Fig.12 Relationship between the holding power and the traction distance
(1)、(7)、(8)により、フルーク重心周りの右回りモーメ ントが大きいほどアンカーの貫入深さが大きくなる傾向 にあるとの結果であった。 (3)フルークアスペクト比については 1:1、2:3、1:2 の 場合について、(4)フルーク厚さは 3.2mm、6.0mm、 9.0mm の場合について、(9)牽引速度は 1.9 ㎝/sec、 12.3cm/sec の場合について計測したが、これらのパラメ ータの影響は表れなかった。 3. 有限要素法を用いた試計算 3. 1 解析の概要 本項では、陽解法有限要素解析ソルバーである LS-DYNA を用いて、把駐力の推定が可能かどうかを調べるために 実施した試計算について説明する。 まず解析モデルについて説明する。土壌モデルは縦 200mm、横 600mm で、実験で用いた砂の物性値(Table.1) を有するラグランジュ要素である。アンカーは簡単のた め、フルーク部分のみをモデル化した。フルーク厚さ 5mm、 フルーク長さ 140mm とし、軟鋼の物性値を有するラグラ ンジュ要素である。実験値から砂槽の深さ 140mm の位置 にフルーク面角度 0°で配置している。なお、アンカー、 土壌の各モデルともに、分割幅は板厚と同等の 5mm のメ ッシュ分割を施している。また、アンカー、土壌ともに ソリッド要素を用い、アンカー幅方向に 1 要素のモデル である。 境界条件については、左右壁において x 軸方向変位固 定、前後壁において y 軸方向固定、底面において z 軸方 向変位固定とし、槽に入った砂を表現している。 また、アンカーと土壌の間で、実験で用いた砂と鋼の 摩擦角 35°に相当する摩擦を考慮している。 以上のモデルに、重力及び 0.1 秒で 5mm のx軸方向の 強制変位を等速で与え、その時の牽引力を把駐力として 算出した。
Table.1 Property of soil Property Values Densityγt 1.28×10-9[t/m2]
Angle of reposeδ 35[°] Angle of friction to Flukeφ 35[°]
Fig.13 Analysis model
3. 2 解析結果 本計算は計算途中でリメッシュするなどの要素のつぶ れに対する対策を講じておらず、変形が進行すると計算 が破たんしてしまうため、アンカーが動き始めるときの 牽引方向の力に着目した。強制変位を等速で与えている ため、計算直後は加速度が一定となるまで力が不安定と なる。よって、力が安定した地点での力を対象として実 験値と比較した。なお、計算値は実験で用いたアンカー 幅 280mm と同等になるように換算している。比較結果 をTable.2 に示す。
x
z
y
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Table.2 Comparison between the values of the experiment and the calculation A;Experiment [kN] B:Calculation [kN] Error B/A 0.309 0.084 0.272 Table.2 を見ると、実験値と比べ計算値が約 1/4 と小さ い。考えられる原因として、本試計算では、実験におけ る最大貫入時のフルークの挙動を再現しx 軸方向に強制 変位を与えたため、フルークと砂の摩擦力およびフルー クの砂への貫入抗力のみが算出されている点が挙げられ る。実際はシャンク先端が斜め右上方向に牽引されてい るため、フルークと砂のすべり面によって形成される砂 塊の重量の牽引方向成分および砂塊側面の土壌とのせん 断力も考慮しなければならない。したがって、シミュレ ーション計算により把駐力を推定するため、実現象を正 確に再現するためにはシャンクをモデル化し、牽引方向 を同定する必要がある。 さらに、本試計算ではアンカーの動き始めに着目した が、アンカーの移動が進行するとメッシュの変形が大き くなり、定常状態になるまで計算できていない可能性も ある。そのため、土壌モデルの要素の変形に対してリメ ッシュを行いながら計算することが必要である。今後メ ッシュの大変形に対応できる計算を行い、最大把駐力の 計算のみならず、牽引によるアンカー挙動の追跡ができ るようにしていきたい。 4. 結言 模型実験により得られた平板型ドラッグアンカーの把 駐力に関する知見を以下にまとめる。 (1) 牽引距離が大きくなるにつれてアンカーは土壌に貫 入していき、それに伴って把駐力が増加する。 (2) 各条件に対して把駐力はある一定値(最大把駐力) に収束する。 (3) 最大把駐力計測後の最終的なフルーク面角度はパラ メータに依らず一定値(0°)に収束する。 (4) シャンク角、フルーク面積、シャンク長さの増加に 伴い、貫入深さおよび把駐力は増加する。 (5) シャンク取付位置のフルーク先端部からの距離が大 きいほど貫入深さおよび把駐力は増加する。 (6) フルークアスペクト比、フルーク厚さ、フルーク重 量、牽引速度の貫入深さおよび把駐力への影響は小 さい。 また、有限要素法を用いてアンカーの把駐力を2 次元 計算によって求めたが、その結果をまとめると以下のよ うになる。 (1) 本研究で用いた手法を用いて計算すると、実験値と 比べて1/4 の小さい値の計算結果が得られた。 (2) 精度のよい解析結果を得るための改善点として以下 に列挙する。 ① シャンクをモデル化し、実現象における牽引を 正確に再現し、牽引方向を同定することで、砂 塊の重量の牽引方向成分および砂塊側面の土 壌とのせん断力を考慮する。 ② 土壌モデルの要素の変形に対してリメッシュ して計算する。 ③ 3 次元モデルを用いる。 また、今後課題として以下の項目に取り組む予定であ る。 (1) FE 解析の高精度化あるいは個別要素法を用いたシ ミュレーションプログラムの開発によるアンカーの 挙動、把駐力および土壌のすべり面の推定 (2) 模型実験およびシミュレーション計算により得られ た知見を基にした、アンカー挙動および把駐力の推 定に関する力学的考察と把駐力の簡易評価式の提案。 参 考 文 献 1) 石塚浩次,林田善久:高把駐力アンカーの模型実験, 日本造船学会論文集, 第 192 号, pp.321-330, 2001. 2) 中村彰一,本田敬之輔:アンカーの把駐性向上に関す る模型実験, 造船出版社, 2002. 3) 日當博喜,道本順一,林睦,西村知久:実海域における錨 の把駐性能の検証, 海上保安庁研究成果報告書,2009. 4) 佐藤治夫: 錨の把駐性能に関する一考察,「海-自然 と 文 化 」 東 海 大 学 紀 要 海 洋 学 部 , 第 3 巻 第 3 号,pp.31-39,2005. 5) 翁長一彦:アンカーの把駐力に関する理論的考察,船 舶技術研究所報告 第 4 巻 第 6 号研究報告 1968. 6) Marshall Nissim : THE USE OF ANCHORS IN
OFFSHORE PETROLEUM OPERATIIONS, GULF PUBLISHING COMPANY ,1984
7) 関田欣治,吉成岳彦,鈴木英之,大川豊:浮体式風力発電 施設の係留のための平板型アンカーに関する貫入模 型実験とその解析, 海洋開発論文集,第 20 巻,2004.