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害虫発生時期予測手法の開発:オオタバコガを例に

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Academic year: 2021

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Vol. 45,No. 2,113‒115 (2020) 日本農薬学会誌 ●●●タイトル●●● 45(2), 113‒115 (2020)113

害虫発生時期予測手法の開発:オオタバコガを例に

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金 子 修 治*

地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所 (2020年5月28日受理)

Forecast of peak dates of adult emergence in Helicoverpa armigera in Osaka Prefecture

Shuji Kaneko

Research Institute of Environment, Agriculture and Fisheries, Osaka Prefecture, Shakudo 442, Habikino, Osaka 5830862, Japan

   

Keywords:computer simulation, Helicoverpa armigera, JPP-NET, peak emergence dates, total effective temperature.

はじめに:オオタバコガの発生予察

オオタバコガHelicoverpa armigera(Hübner)(チョウ目: ヤガ科)は,ナスやトマト,キクなどの野菜や花きの重要害 虫で,初夏から秋にかけて多く発生し,幼虫が葉や果実,花 等を食害して収穫量や商品価値を低下させる.1,2)本種の被害 を効率的に防ぐためには,殺虫剤に対する感受性が高い若齢 幼虫の発生最盛期を正確に把握し,その時期に殺虫剤を施用 することが重要である. 本種においては,若齢幼虫の発生最盛期は,その親世代の 成虫の発生最盛日の7‒10日後と推定される.現在,本種成 虫の発生最盛日は,主にフェロモントラップを用いた雄成虫 の誘殺消長調査に基づいて推定されている.3,4)しかし,フェ ロモントラップ調査では,雄成虫の誘殺数が増加した後に減 少して初めて誘殺ピーク日が把握できることから,通常実施 されている1週間間隔の調査では,誘殺ピーク日の把握が遅 れることも想定され,若齢幼虫の発生最盛期を逃す場合があ る.とはいえ,フェロモントラップは生産現地の圃場に設置 するため,1週間より短い間隔での調査は難しい. オオタバコガの発生時期予測 シミュレーションモデルの作成 筆者らは,オオタバコガの若齢幼虫の発生最盛期を事前に 予測するため,その成虫の発生最盛日を気温データに基づ き予測するシミュレーションモデルを作成した.5)本モデル は,一般社団法人日本植物防疫協会が運用する会員制サービ ス「JPP-NET」がインターネット上で提供するコンピュータ プログラム「有効積算温度計算シミュレーションversion2」 を利用する.また,このコンピュータプログラムでは,気象 庁が運用するアメダス(AMeDAS:地域気象観測システム) の各観測地点における気温データを活用する. なお,現在,本コンピュータプログラムでは,チャやカ ンキツ,カキなどの重要害虫であるチャノキイロアザミウ マScirtothrips dorsalis Hood(アザミウマ目:アザミウマ科) の成虫の発生最盛日の予測を行うことが可能となっており, 各都道府県が発表する病害虫発生予察情報等において利用さ れている.また,チャの重要害虫であるクワシロカイガラム シPseudaulacaspis pentagona(Targioni)(カメムシ目:マル カイガラムシ科)では幼虫の孵化最盛日の予測が可能となっ ている.一方で,チョウ目害虫については,本研究による利 用が初めての事例である. オオタバコガでは,「有効積算温度計算シミュレーション version2」において,本種の各世代(越冬世代から第4世代) の各発育ステージ(卵,幼虫,蛹,産卵前成虫)における発 DOI: 10.1584/jpestics.W20-19 #45回大会シンポジウムを取りまとめた解説 *〒583‒0862 大阪府羽曳野市尺度442 E-mail: [email protected] © 日本農薬学会

ミニレビュー

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114 金子修治 日本農薬学会誌 育パラメータ(発育零点,発育上限温度,発育停止温度,有 効積算温度)を,各発育ステージの期間と気温との関係等に 関する研究6‒9)に基づいて設定し,各世代の成虫の羽化最盛 日(以下,羽化ピーク日)を予測するモデルを作成した. 発生時期予測シミュレーションモデルの適合性の検討 2009‒2016年の各年において,大阪府羽曳野市にある大阪 府立環境農林水産総合研究所(以下,研究所)で調査された 本種のフェロモントラップによる雄成虫の誘殺ピーク日と本 シミュレーションモデルが予測した成虫の羽化ピーク日との 比較により,本モデルの適合性を検討した.5) 研究所に設置したフェロモントラップでは,雄成虫の誘殺 ピーク日をより正確に把握するため,その誘殺数は3‒5日間 隔で調査した.また,誘殺ピーク日を求める際には,誘殺数 をその調査間隔(日数)で割ることで,その調査間隔中の各 日における1日あたりの平均誘殺数を算出し,さらに,各日 とその前日および翌日のそれぞれにおける1日あたりの平均 誘殺数から3日間の平均値を算出し,それを各日の誘殺数と した. 本シミュレーションモデルが予測した成虫の羽化ピーク日 (以下,羽化ピーク予測日)とフェロモントラップによる雄 成虫の誘殺ピーク日(以下,誘殺ピーク実測日)との差は, 全比較36回のうち24回(66.7%)で前後5日以内に収まっ た(表1).この結果から,本シミュレーションモデルは, 研究所における本種成虫の羽化ピーク日の予測において概ね 適合していると考えられた. ただし,越冬世代では,検証した8年のうち,誘殺ピーク 実測日と比べて羽化ピーク予測日が6日以上遅い年が4年あ り,誘殺ピーク実測日と羽化ピーク予測日との誤差も平均で 6.0日と大きかった(表1).このため,越冬世代成虫につい ては,本モデルの適合性は低いと考えられた.なお,この一 因として,本種成虫は長距離移動する10)ことから,研究所 で5月に誘殺された雄成虫の多くは,研究所よりも南方でよ り早い時期に羽化し飛来した個体であった可能性が考えられ た. 発生時期予測シミュレーションモデルの活用事例 この適合性の結果を受けて,大阪府環境農林水産部農政 室推進課病害虫防除グループが発表した平成30年度病害虫 発生予察情報の7月予報から9月予報において,本シミュ レーションモデルを用いて予測した本種第1世代から第3世 代の成虫の発生最盛期(表2)とその次世代の幼虫の防除適 期(若齢幼虫の発生最盛期)が掲載された.各世代における 成虫の発生最盛期の予測は,研究所に設置したフェロモント ラップでのその一つ前の世代の雄成虫の誘殺ピーク実測日を 起点として本シミュレーションモデルで算出した当該世代 成虫の羽化ピーク予測日に基づいた.なお,この算出の際に は,大阪府内各地のアメダス観測地点における気温データ (毎正時)を利用し,本シミュレーションモデルを操作した 日の前日まではその年の実測値を,操作した日以降は平年値 を用いた. その結果,各世代において,予測された成虫の発生最盛期 表1. 大阪府立環境農林水産総合研究所※(大阪府羽曳野市)におけるフェロモントラップによるオオタバコガ雄成虫の誘殺ピーク実測日と 本シミュレーションモデルが算出した羽化ピーク予測日との各世代での比較:表中の数字は誘殺ピーク実測日から羽化ピーク予測日を引い た日数を示す(金子ら(2017)より関西病虫害研究会の承諾を得て転載) 世代 年 誤差の平均*1 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 越冬 3 5 −9 −1 −14 −6 −6 −4 6.0 第1 −7 0 0 7 0 −1 −6 −6 3.4 第2 2 −9 −4 3 5 0 2 −1 3.3 第3 −5 11 5 0 5 −3 9 9 5.9 第4 n.c. 0 4 n.c. −5 n.d. n.d. 5 3.5*2 ※ 20092011年は「大阪府環境農林水産総合研究所食とみどり技術センター」.n.c.:誘殺ピーク日が確認されたが,羽化ピーク予測日は算出さ れなかった.n.d.:誘殺ピーク日が確認されず,羽化ピーク予測日も算出されなかった.*1誘殺ピーク実測日から羽化ピーク予測日を引いた日数 の絶対値の平均値.*2誘殺ピーク日と羽化ピーク予測日との差が算出された年のみの平均値.2. 大阪府環境農林水産部病害虫防除グループが発表した平 成30年度病害虫発生予察情報における本シミュレーションモデ ルを用いて予測したオオタバコガ成虫の各世代の発生最盛期と 大阪府立環境農林水産総合研究所(大阪府羽曳野市)に設置した フェロモントラップによる雄成虫の誘殺ピーク実測日 予察情報 オオタバコガ世代 予測した成虫の発生最盛期 (大阪府内) 雄成虫の誘殺 ピーク実測日 (羽曳野市) 7月予報 第1 6月末‒7月初 6月24日 8月予報 第2 7月26日頃 7月29日 9月予報 第3 8月末 8月27日

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Vol. 45,No. 2,113‒115 (2020) ●●●タイトル●●● 115 は,その後調査したフェロモントラップにおける雄成虫の誘 殺ピーク実測日とおおむね一致した(表2).このことから, 本シミュレーションモデルは,本種成虫の発生最盛期の予測 に概ね有効であることが示唆された. 今後も,大阪府が発表する病害虫発生予察情報の予報にお いて,本シミュレーションモデルを用いて予測された本種成 虫の発生最盛期を掲載し,フェロモントラップにおける雄成 虫の誘殺ピーク実測日との比較を数年にわたり積み重ねるこ とで,本モデルの有効性をさらに検証する予定である. 引 用 文 献 1) 浜村徹三:植物防疫52, 407‒413 (1998). 2) 浜村徹三:植物防疫54, 278‒286 (2000). 3) 國 友 義 博, 佐 幸 歌 菜, 天 野 絵 美: 関 東 病 虫 研 報53, 119‒122 (2006). 4) 砂池利浩,西濵絢子,井奥由子,那須義次,岡田清嗣,柴尾  学,田中 寛:関西病虫研報54, 89‒92 (2012). 5) 金子修治,城塚可奈子,柴尾 学:関西病虫研報59, 105‒108 (2017).

6) M. F. A. Jallow and M. Matsumura: Appl. Entomol. Zool. 36, 427‒ 430 (2001).

7) Casimero, V. V.:オオタバコガの幼虫の発育,繁殖形質および飛 翔活動性に関する研究.岡山大学博士論文(2001).

8) G. K. Mironidis and M. Savopoulou-Soultani: Environ. Entomol. 37, 16‒28 (2008).

9) Z. Liu, P. Gong, K. Wu, J. Sun and D. Li: J. Insect Physiol. 52, 1012‒ 1020 (2006). 10) 清水 健:地球温暖化と南方性害虫,積木久明編,北隆館,pp. 220‒231, 2011. 略 歴 金子修治(かねこ しゅうじ) 生年月日:1969年4月2日 最終学歴:京都大学大学院理学研究科博士後期課程中退 研究テーマまたは主な職歴:アブラムシとアリと天敵の関係 趣味:釣り ミニレビュー 115

参照

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