Ⅰ.目 的
摂食障害(Eating Disorder: ED)は難治性の疾患で1), 神経性やせ症(Anorexia Nervosa: AN),神経性過食症 (Bulimia Ner vosa: BN),過 食 性 障 害(Binge-Eating Disorder: BED)の 3 つに大別される2)。ED の治療で は,チーム医療が望まれ3~5),管理栄養士はチームの一 員として栄養療法や栄養指導を担っている6,7)。ED の中 でも AN は,思春期・青年期に好発し,月経異常や低身 長等の重大な後遺症を残す疾患であり,治療の優先事項 は早期の栄養改善である6)。
一方,自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は,社会的コミュニケーションおよび対人相互性 反応の障害,興味の限局と常同的・反復的行動を主徴と する障害で8),中でも対人関係や社会的機能の拙劣さ, ストレス時の拒食反応,食事へのこだわりは,ED と共 通することが知られている7)。精神医学の分野でも,AN を含む ED と ASD の合併については,近年の ASD の 疾患概念の拡大や有病率の増加等から注目を集め始めた
ばかりである9)。ED と ASD の関係については,ED の 10~20%に ASD が合併し9)合併例は予後不良であるこ と10~12),知的障害の無い高機能 ASD 女児が思春期に AN を発症することが多いことが明らかにされている13,14)。 思春期に AN を発症した高機能 ASD 女児への治療では, その後の後遺症を最小限にとどめるためにも,特に早期 の栄養改善が必要であり栄養指導は重要となるが,AN と ASD 合併例への詳細な栄養指導の報告は少ない。ED と ASD 合併例の治療では,患者の痩身願望や肥満恐怖 では説明の出来ない食事へのこだわり9),指示の伝わり にくさ15),行動変容の困難さ9)等の症状により,ASD の 特性に着目した対応が必要とされている9,15)。そこで, 思春期に AN を発症した高機能 ASD 女児 2 症例におい て,ASD の特性に着目した栄養指導を実施したので,報 告する。
摂食障害と自閉スペクトラム症合併 2 症例への
栄養指導
佐藤 安貴
*
1,*
2,正木 慎也
*
3,梅本 萌李
*
4,山本 浩貴
*
5,
小山田正人
*
6 *1北海道立緑ヶ丘病院栄養指導部門 *2藤女子大学 QOL 研究所 *3北海道立緑ヶ丘病院精神科 *4北海道立精神保健福祉センター *5社会福祉法人北海道社会事業協会帯広病院精神科・診療内科 *6藤女子大学人間生活学部食物栄養学科 【目的】摂食障害は,若年女子に好発する難治性の疾患で,治療の優先事項は栄養改善である。摂食障害の10~20%に自閉スペクトラ ム症が合併し,合併例は予後不良例が多く,治療では自閉スペクトラム症の特性に着目した対応が必要となる。摂食障害を発症し入院 した自閉スペクトラム症女児 2 症例に,チーム医療の一環として自閉スペクトラム症の特性に着目した栄養指導を実施したので,報告 する。 【方法】対象は,摂食障害治療を目的に精神科病院へ入院した自閉スペクトラム症の15歳女児 2 名である。症例 1 は,体重管理の厳し い審美系スポーツの選手で,過剰な運動と食事制限から低体重となり入院した。症例 2 は,ストレス時に拒食反応を示す病態で,拒食 による急激な体重減少で入院した。管理栄養士は,自閉スペクトラム症の特性に着目し, 1 )褒めて労う, 2 )視覚情報の利用, 3 ) 具体的説明の繰り返しを基本に栄養指導を行った。 【結果】症例 1 は, 1 週間毎に増加する食事を全量摂取するとともに,活動量を減少させることにより,目標体重を達成した。症例 2 は,拒食が消失し目標体重を達成した。 【結論】摂食障害と自閉スペクトラム症合併 2 症例において,自閉スペクトラム症の特性に着目した 1 )褒めて労う, 2 )視覚情報の 利用, 3 )具体的説明の繰り返しを基本とした栄養指導の有用性が示唆された。 栄養学雑誌,Vol.79 No.2 90-102(2021) キーワード: 摂食障害,栄養指導,自閉スペクトラム症実践活動報告
連絡先:佐藤安貴 〒080-0334 北海道河東郡音更町緑が丘 1 番地 北海道立緑ヶ丘病院栄養指導部門 電話 0155(42)3377 FAX 0155(42)4233 E-mail [email protected]Ⅱ.活動内容
1 .対 象 対象は,AN と ASD 合併女児 2 症例である。 1 )症例 1 (1)患者情報 15歳女児で,臨床診断は AN と,高機能 ASD である。 13 歳 時 に 受 け た 児 童 向 け ウ ェ ク ス ラ ー式 知 能 検 査 (Wechsler Intelligence Scale for Children:以下 WISC)- Ⅲでは,知能指数は106と平均の判定であった。判定者か らのコメント欄には,言葉の理解が苦手で視覚理解が得 意と記載されていた。患者は,小学校中学年時に手洗い 等の強迫的行動が出現し,ASD の診断を受けた。母親か らの情報により,強迫的行動の始まりは,患者が審美系 スポーツクラブに加えて運動クラブでの活動を始め,学 校では体育に熱心に取り組み,活動量が増加した時期と 一致していたことが判明した。患者は,A精神科病院で 外来治療を受けていたが,中学校へ進学後に症状が落ち 着くと自己判断で通院を中断した。入院の前年 7 月,患 者は体重が 40.0 kg を超えると指導者から厳しく減量の 指示を受け,自宅で座らなくなり学校では休み時間に校 内を歩き回るようになった。食事では,米飯等の主食を 極端に制限し,油を摂取しなくなった。患者は, 2 ヶ月 間で体重が 41.0 kg から 33.0 kg に減少して月経が停止 し,母親に伴われてA精神科病院を再受診した。主治医 は,体重 30.0 kg 未満もしくは検査結果に異常が見られ たら入院になると患者に説明し,管理栄養士に栄養指導 の指示を出した。栄養指導を受けた患者は,管理栄養士 に摂取量の増加を約束したが,実行しなかった。X年 1 月,患者は体重が 29.0 kg 台に減少し,肝機能が悪化, 徐脈となりA精神科病院に入院した。 (2)入院時所見 身長は 146.0 cm で平均-2 SD16),体重は患者が受診 直前に 1 l 飲水しており約 1.0 kg 増加の 31.0 kg で IBW (Ideal Body Weight)7) 44.8 kg の69.2%,心拍数は40 回/分,軽度肝機能障害,脱毛症,産毛増加,低身長と 伸びの不良がみられた(図 1 )。 (3)治療計画および栄養指導計画 治療計画および栄養指導計画を表 1 に示す。目標体重 を,運動制限が原則解除となる75% IBW 以上7)かつ達 成可能な値として主治医と管理栄養士で検討し設定し た。具体的には,入院時体重 31.0 kg から受診直前の飲 水分約 1.0 kg を減じ, 1 週間に 0.5~1.0 kg 増加3,17) を想定し 8 週間後に 34.0 kg と算出した。 2 )症例 2 (1)患者情報 15歳女児で,臨床診断は低体重以外の AN の基準を満 たす病態2)である非定型 AN と高機能 ASD である。15 歳時に受けた児童向けウェクスラー式知能検査(WISC-Ⅳ)では,知能指数76で,判定は低い~平均の下であっ た。判定者からのコメント欄には,言語理解および視覚 理解の両方が不得意なため,説明は簡潔に解りやすい視 覚情報を活用し繰り返すと良いと記載されていた。患者 は,中学校入学による環境変化がストレスとなり,拒食 や自傷行為が出現して ASD の診断を受けた。以降の 2 年間,患者はこれらの行為によりA精神科病院への入退 院を 7 回経験した。患者の拒食や自傷行為は,寂しさや 思い通りにならない等の理由で出現し,入院中も退院後 も繰り返された。Y年 5 月,患者は食べすぎが原因で嘔 吐したのを契機に「食べるのも飲むのも怖い」と言って 拒食を始め,痩せ願望も出現した。拒食開始から10日 目,患者は体重が 4.0 kg 減少して下肢脱力を認め,A精 神科病院に 8 回目の入院に至った。 (2)入院時所見 身長は 154.6 cm で平均-0.5 SD,体重は 59.0 kg で IBW 49.6 kg の119.0%,身長の伸びに不良がみられた (図 2 )。 -●- 身長 -■- 体重 + +2SD 身長 身長(cm) 体重体重(kg) + + + +2SD2SD +2SD2SD + +1SD --1SD -1SD 1SD -2SD -2SD 2SD 2SD -3SD + +2SD + +1SD --1SD --2SD 年齢 年齢( 年齢(年年年年) ↑ ↑ ASD ASD 診 診 断 ↑ ↑ 減 減 量 量 開 開 始 ↑ ↑ 減 ↑ 量 減 減 減 量 ↑ ↑ 入 開 開 開 始 量 量 量 開 入 入 院 図 1 症例 1 成長曲線(3)治療計画および栄養指導計画 治療計画および栄養指導計画を表 1 に示す。主治医 は,標準範囲で無理なく減量できる値として目標体重を 57.0~58.0 kg と設定した。 2 .ASD の特性に着目した栄養指導 栄養指導では,ASD の特性に着目し, 1 )褒めて労 う15,18~20), 2 )視覚情報の利用18~21), 3 )具体的説明 の繰り返し18~20),という一連の対応で実施した(表 1 )。ED 患者の栄養指導で重要な信頼関係の構築も行っ た。具体的には,患者の食行動や考えを否定せず傾聴 し22~25),食べることへの不安を理解して25~27)共感を示 した23,24)。ASD のこだわりが強く摂取が困難であると推 測された場合にのみ,患者の苦手な食材に対する除去等 の対応を実施した。 3 .倫理的配慮 本研究は,ヘルシンキ宣言(1964年承認,2013年修正) の精神に則り,北海道立緑ヶ丘病院研究に関する倫理部 会(平成29年第 1 号)において承認を得て行った。本人 及び保護者には,論文執筆計画後に口頭と文書でイン フォームド・コンセントを得た。 -●- 身長 -■- 体重 + +2SD 身長 身長(cm) 体重体重(kg) + + 2SD 2SD + +2SD + + +1SD --1SD -1SD 1SD 1SD -2SD -2SD 2SD -3SD + +2SD + +1SD -1SD -2SD 年齢 年齢( 年齢(年年年年) ↑ ↑ ASD ASD 診 診 断 -↑ ↑ ↑ 拒 -拒 拒 拒 食 食 食 10 10 日 日 目 目 入 入 院 図 2 症例 2 成長曲線 表 1 治療計画および栄養指導計画 項 目 症 例 1 症 例 2 治療計画 ・期間と治療の枠組み 8 週間の行動制限療法 12週間の行動制限療法 ・行動制限療法の流れ ( 1 ~ 3 を 1 週間サイクル) 1 .月曜日:栄養指導,次の食事の決定2 .火曜日:チームカンファレンス,情報共有 1 .水曜日:栄養指導,次の食事の決定2 .木曜日:チームカンファレンス,情報共有 栄養士は,経過図を作成し経過説明を行う 症例 1 と同じ 3 .カンファレンス終了後,食事や制限の変更を実施 患者が目標達成していたら食事を変更し制限を 1 つ解除する ・チーム構成員 主治医,管理栄養士,看護師 主治医,管理栄養士,看護師,保育士 ・患者の行動制限 外出・外泊・娯楽(テレビやゲーム,携帯電話等)・勉強の禁止 外出・外泊・携帯電話の禁止 ・患者の目標 30分以内の食事の全量摂取と安静 食事の 4 分の 1 以上の摂取と食後30分の食堂待機 ・入院環境 監視カメラとトイレ付きの救急病棟保護室(個室)を施錠で使用 児童病棟の多床室を開錠で使用 ・空腹時血糖測定 月曜日:起床後朝食前に実施 主治医が必要時指示 70 mg/dl 以下で50%ブドウ糖液静脈注射 ・採血 月曜日: 6 時 主治医が必要時指示 ・体重測定 月曜日:起床後朝食前の排尿後 月曜日と木曜日:起床後朝食前の排尿後 栄養指導計画 ・栄養指導の流れ ( 1 ~ 4 を 1 週間サイクル) 1 .情報収集(診療録・看護記録等),主治医と検討(指導内容確認) 症例 1 と同じ 2 .栄養指導実施 3 .主治医と検討(食事や行動制限の変更検討と決定) 4 .チームカンファレンスで報告と検討,変更内容の周知等 ・栄養指導の基本 1 .AN の病態および適正体重や栄養摂取の必要性の指導 2 .食事のエネルギー量増加方法の検討 3 .患者の不安や疑問への対処 ・ASD の特性に合わせた 対応 1 .褒めて労う(できていることを探して褒める)2 .視覚情報の利用(検査結果やイラスト,図の活用) 3 .具体的説明の繰り返し(説明は解りやすい言葉の短文)
・食事計画 1 .800 kcal で開始し 1 週間毎に 200~400 kcal 増加 1 .1,000 kcal で開始(米飯恐怖のため主食はパン) 2 . 間食禁止(エネルギー量を増加するために,治療の一環として
用いるのは良い) 2 .段階的に 1,500 kcal まで増加3 .15時に菓子を中皿 1 つと嗜好飲料カップ 1 杯 ・退院時の目標体重 34.0 kg(75.9% IBW) 57.0~58.0 kg(114.9~116.9% IBW)
Ⅲ.活動成果
1 .症 例 1 管理栄養士および他職種が患者に行った具体的な対応 を表 2 に,入院経過を表 3 に示す。 入院初日 管理栄養士は患者に,行動制限の枠組みに基づく栄養 指導や食事療法について説明した。特に開始食について は,低栄養後の急激な栄養摂取により電解質異常が出現 するリフィーディング症候群28)予防のため,低エネル ギー量のエネルギーコントロール(Energy Control: EC) 食 800 kcal になることを説明した。さらに,油を避けて きた患者が揚げ物料理を残すことで食事の全量摂取達成 が困難になることを推測し,揚げ物料理の禁止(以下, 揚げ物禁止)の対応を提案して加えた(表 2 ,入院初日 参照)。EC 食 800 kcal は,少ない量しか食べていなかっ た患者が,通常量の食事を多く感じることで起こる体重 増加への恐怖心の増大を防ぐため,EC 食 1,600 kcal の 料理を 2 分の 1 量で提供する方法を用いた。 1 週目 患者は,800 kcal の EC 食を全量摂取したが一口量が 少なく,油を使用した料理は一口毎に箸で押さえて油を 絞るため,摂取に40分を費やし目標摂取時間の30分を超 過した。さらに患者は,安静を守れずストレッチやジャ ンプなどの運動(以下,運動行為)を繰り返し,看護師 に制止された(表 2 , 1 週目参照)。早朝測定の空腹時血 糖値が 1 週間に 3 度 70 mg/dl 以下となり,ブドウ糖の 静脈注射が 3 回施行された。 2 週目 体重は 1.4 kg 減少した(以降体重は, 1 週間毎の増減 を示す)。食事は,目標エネルギー量を 1,200 kcal(EC 食 1,200 kcal)に変更し,揚げ物禁止は継続した(表 2 , 2 週目参照)。食事の変更後,患者は全量摂取した が,摂取時間が延び運動行為が増加した。 3 週目 体重は 0.1 kg 増加した。血液検査の結果では,アスパ ラギン酸アミノ基転移酵素(Aspartate Transaminase: AST)29)とアラニンアミノ基転移酵素(Alanine Transam-inase: ALT)29)に加えて,激しい運動時に高値を示すクレ ア チ ン ホ ス ホ キ ナ ー ゼ(Creatinine Phosphokinase: CPK)29)が上昇した。これらの結果について患者は,検 査値の悪化の理由を管理栄養士に質問した。管理栄養士 は,患者に検査結果の数値と成長曲線を示して,検査値 の悪化要因,月経再来に必要な体重7),低栄養による身 長の伸びの阻害リスク30)を説明した。そして,体重回復 の必要性を伝えて目標エネルギー量の増加を提案した。 患者の成長曲線では, 9 ~11歳の体重増加が鈍化した時 期に身長が-1SD から-2SD に低下し,15歳時の急激な 体重減少後に身長の伸びが停止していた。患者は検査結 果と目標エネルギー量への質問を繰り返したが,成長曲 線に対しては,即座に希望する身長の値を述べ,質問を しなかった。食事は,目標エネルギー量を 1,640 kcal (EC 食 1,440 kcal に濃厚流動食 200 kcal)に変更し,揚 げ物禁止は解除した。カンファレンスでは,患者に運動 行為を制限するための対策が検討された。主治医は,患 者の自室のみであった行動範囲を,車いす使用を条件に 病棟ホールまで拡大して「車いすに座り立たない」とい う具体的指示を患者の目標に加えた。さらに主治医は, 患者の摂取速度を促す声かけと,患者の良い部分を褒め る対応を看護師に指示した。患者は,車いすの使用と看 護師の声かけが開始されると,運動行為を行わなくな り,油を絞る行為は継続したものの目標摂取時間内の食 事の全量摂取を達成した(表 2 , 3 週目参照)。 4 週目 体重は 1.1 kg 増加し,AST と ALT 及び CPK が改善 し始めた。食事は,目標エネルギー量を 1,870 kcal(EC 食 1,670 kcal に濃厚流動食 200 kcal)に変更した。患者 は,目標摂取時間内での全量摂取を継続した。患者の運 動行為が車いすを降りる自室で続いていたため,主治医 は,運動行為毎に成分栄養剤を 2 缶(エンシュアリキッ ド 250 kcal/缶:以下,エンシュア)を摂取することを患 者の目標として加えた(表 2 , 4 週目参照)。 5 週目 体重は 0.5 kg 増加し,AST と ALT は減少し CPK は 改善した。患者は,数値の改善を喜んだ。食事は,目標 エネルギー量を 2,120 kcal(常食 1,770 kcal に濃厚流動 食 200 kcal と栄養補助食品 150 kcal)に変更した。患者 は全量摂取を継続したが,運動行為を 2 度行いエンシュ アが処方された。患者は,エンシュアを準備されると泣 いて摂取を拒否したが,摂取時間を測定するタイマーの スイッチが押されると,直ぐに飲み始め時間内に全量を 摂取した。患者は,治療の一環で行ったエンシュアの処 方への不満を何度も母親に訴えた。母親の希望により, 主治医による患者,母親との面談が行われた。患者は, この面談後「注意が増えたのもエンシュアを飲むことに なったのも私の運動行為が原因だったのですね」と主治 医に述べた(表 2 , 5 週目参照)。 6 週目 体重は 0.8 kg 増加し,血液検査の結果は改善傾向を示 した。食事は,目標エネルギー量を 2,500 kcal(学齢児表 2 症例 1 管理栄養士および他職種が患者に行った具体的対応 時期 患者の発言・行動 管理栄養士及び他職種†の発言・行動 方法別‡ ①から順に進む。「 」は,発言を示す。 入院 初日 ②「最初から高カロリーの食事にしてくれませんか。全部食べ ますから。早く体重増やして退院したいんですよね」 ① 栄:「食事は,低カロリーで分量も通常の半量になっています。辛いと思いますが,思い切って全部食べてください。回 復への近道ですよ」 具 ④「わかりました。全部食べて早く体重増やして退院します」 ③ 栄:「入院して辛いのに,えらいですね。けれど,先ほど説 明した通り高カロリーの食事は医学的に出せないので,800 kcalから始めますね」 褒 ⑥「回復した人は,揚げ物食べていますよね。早く回復して退 院したいので,揚げ物料理も出してください」 ⑤ 栄:「提案ですが,最初は揚げ物料理を出さない対応をしようと思います。油を避けてきた患者さんは,辛くて食べられ ないことが多いので」 褒 ⑧ 無言で栄養士を見る。 ⑦ 栄:「全部食べるだけでも大変だと思います。頑張りすぎな くても良いのですよ。揚げ物料理は,後からでも始められる ので禁止で始めましょう」 褒 1 週目 ② 看護師の声掛けで運動行為を止めるが,看護師が去ると再開した。 ① 看:(運動行為の発見時)「ベッドに座っていてください。立たないでくださいね」 具 2 週目 ②「えっ,もう高カロリー食になるのですか」 ① 栄「次の食事から 400 kcal 増加した 1,200 kcal になります。 2 分の 1 の盛り付けではなくなるので盛り付け量が現在の 2 倍になります」 具 ④「早く回復して退院したいので揚げ物料理をだしてください」 ③ 栄:「1,200 kcal は,必要量の約半分です。この量は,まだ 身体に不足の量なのですよ」 具 ⑥ 無言で栄養士を見る。 ⑤ 栄:「本当に,頑張り屋さんなんですね。いつでも再開でき ます。今はまだ継続しましょう」 褒 3 週目 ①「全量摂取しているのに,なぜ体重が増えないのですか」 ② 栄:「クレアチンホスホキナーゼ(Creatinine Phosphokinase: CPK)は,激しい運動で上昇します。CPK の横の(H)は正 常値より高いことを示しています。活動量が多かったと思わ れます」 視・具 ③「こんなに動いてないのに,なぜですか」 ④ 栄:「そうだったのですね。けれど,CPK が高いということ は,さらに動かない必要があるということなんです」 褒 ⑤(返答なし)「AST と ALT には,なぜ(H)がついているの ですか」 ⑥ 栄:「運動量が多いと筋肉と肝臓が壊れて悪化する数値です。運動量が多いのでしょう」 具 ⑦ 無言 ⑧ 栄:(患者の成長曲線を示して解釈を説明後)「背を伸ばすた めには食べる,月経再来のためには体重回復が大切です」(伸 ばすためという言葉は,退院まで何度も繰り返し使用した) 具 ⑨(返答なし)「身長は,今のままでは困ります。150 cm は欲 しいですね」 ⑩ 栄:「背を伸ばすためには食べましょう。次の食事から 400 kcal増加します。米飯の増加を抑えられるよう,濃厚流動食 を付ける方法が良いと思うのですが」 具 ⑪「400 kcal も増やすんですか。友達みんな,今の私の食事よ り少ないですよ。なぜ私だけ増やさなきゃだめなのですか」 ⑫ 栄:「今の食事は,必要量の約半分です。当院の15歳女児の基準は 2,000 kcal です(治療食基準を示し)。お友達のこと は,情報がないので解りません」 視・具 ⑬(自分,同年代女子,活動量別のエネルギー必要量の質問を 繰り返した後)「今度は絶対に体重増えますよね」と述べて 了承した。 ⑭ 栄:質問毎に目前で計算して数値を示し,現在の量が不足で あることを伝えた。 視・具 ⑯ 運動行為は,車いすを使用すると行わなくなった。食事は, 目標時間内に摂取できるようになった。 ⑮ 主:患者目標に「車いすに座り立たない」を追加した。看護師に,患者の摂食速度を促す声かけ(例えば,「もっと一口 を大きく,あと〇分」「頑張ったね」等)と,患者を褒める 対応(例えば,歯磨きが丁寧等良い部分を探して褒める)を 指示した。 褒・具 4 週目 ②「早く治りたいので,もう運動はしません」 ① 主:「運動をするとエネルギー消費量が増加して回復が遅れます。消費した分を補うため,エンシュアを 2 缶(15分以内) 出しますから飲んでください。回復のためです」 褒・具 5 週目 ②「いやだ,これぐらいいいでしょ」と泣き叫び,枕を看護師 に投げつけた。 ① 看:(運動行為発見後,エンシュアをサイドテーブルに置き)「15分以内に飲んでください」 具 ④ タイマーのスイッチを押すと,エンシュアを手に取り15分以 内に飲んだ。 ③ 看:(患者にタイマーを見せて患者の注意を引き)「ではタイマーのスイッチを押します」 視 ⑥(母親と主治医の話し合いの光景を見ながら聞いていた患者 は,主治医の説明後に)「注意が増えたのもエンシュアを飲 むことになったのも私の運動行為が原因だったのですね」と 述べた。 ⑤ 母親は,面談で主治医に対して治療の一環で実施した声掛け やエンシュア等の処方を「注意と罰しか与えない不適切な治 療」と述べた。主治医は,患者が同席する場でこれまでの治 療経過を母親に丁寧に説明した。 視・具 6 週目 ② おかずの違いを確認後,了承した。繰り返しの質問はなかった。 ① 栄:「次の食事は,おかずでカロリーが増える学齢児食に変えて 2,500 kcal にしようと思います」 具 7 週目 ②「体重増加が怖くて運動をしてしまった」と述べ,エンシュアを摂取した。 ① 看:運動行為を発見し,エンシュアを患者に渡した。 具 † 「栄」は管理栄養士,「看」は 看護師,「主」は 主治医を示す 管理栄養士が語る言葉や極端な表現については,主治医の了承を得ている ‡ 褒めて労う,視覚情報の利用,具体的説明の繰り返しの方法の別のことを示す 「褒」は褒めて労う,「視」は視覚情報の利用,「具」は具体的説明の繰り返しを示す
表 3 症例 1 入院経過表 1 週目 2 週目 3 週目 4 週目 5 週目 6 週目 7 週目 8 週目初日 体重( kg) † 31. 0 29. 6 29. 7 30. 8 31. 3 32. 1 33. 2 34. 4 目標エネルギー量 (kcal/ 日) 800 1, 200 1, 640 1, 870 2, 120 2, 500 2, 800 2, 800 摂取エネルギー量 kcal/( 日) ‡ 853 ± 53 1, 234 ± 63 1, 689 ± 24 1, 881 ± 31 2, 292 ± 229 2, 586 ± 186 2, 871 ± 189 2, 800 ± 0 摂取エネルギー量内訳 治療食 EC 食 800 kcal EC 食 1, 200 kcal EC 食 1, 440 kcal + メイバランスミニ || 1 本(19時) EC 食 1, 670 kcal + メイバランスミニ || 1 本(19時) 常食 1,770 kcal + メイバランスミニ || 1 本(19時) + アイソカルジェリー HC ||(朝 1 個) 学齢児食 2,000 kcal + メイバランスミニ || 1 本(19時) + アイソカルジェリー HC ||(朝昼各 1 個) 学齢児食 2,150 kcal + メイバランスミニ || 1 本(19時) + アイソカルジェリー HC ||( 朝 昼 各 1 個 )+ 間食 || 学齢児食 2,150 kcal + メイバランスミニ || 1 本(19時) + アイソカルジェリー HC ||( 朝 昼 各 1 個 )+ 間食 || エンシュア リキッド 250 kcal/ 缶 無し 無し 無し 無し 4 缶/週 2 缶/週 2 缶/週 無し 50%ブドウ糖液 40 m l 3 回/週 1 回/週 無し 無し 1 回/週 無し 無し 無し 血清 AST 値( U/ l) 81( H ) § 79( H ) § 146( H ) § 61( H ) § 44( H ) § 29 30 26 血清 ALT 値( U/ l) 171( H ) § 191( H ) § 360( H ) § 209( H ) § 140( H ) § 77( H ) § 62( H ) § 44( H ) § 血清 CPK 値( U/ l) 99 70 377( H ) § 177( H ) § 113 73 55 54 † 体重は,看護師が測定し診療録に記録した数値を記載した。 ‡ 摂取エネルギー量は,看護師が診療録に記録した摂取量を元に管理栄養士が計算し, 1 週間毎の平均値±標準偏差で記載した。 § ( H )は, A 精神科病院の基準より高いことを示す。 A 病院の基準は AST 13 -33 U/ l, ALT 8-42 U/ l, CPK 45 -163 U/ l。 || メイバランスミニ(本文中の濃厚流動食)は,200 kcal/ 本。アイソカルジェリー HC (本文中の栄養補助食品)は,150 kcal/ 個。間食は,150 kcal/ 日。
食 2,000 kcal に濃厚流動食 200 kcal と栄養補助食品 300 kcal)に変更した(表 2 , 6 週目参照)。患者は全量摂取 を継続したが,運動行為を 1 度行い泣いてエンシュアを 摂取した。 7 週目 体重は 1.1 kg 増加した。食事は,目標エネルギー量を 2,800 kcal(学齢児食 2,150 kcal に濃厚流動食 200 kcal と栄養補助食品 300 kcal と間食 150 kcal)に変更した。 患者は全量摂取を継続したが,運動行為を 1 度行い,今 回は泣かずにエンシュアを摂取した(表 2 , 7 週目参照)。 8 週目初日 患者は,体重が 1.2 kg 増加し目標体重を達成して退院 した。退院後,患者は食事制限と過活動を再開したが, 外来栄養指導時に管理栄養士から悪化した検査結果の数 値を示されると,その後に食事の摂取量が増加し,体重 も徐々に増加した。 2 .症 例 2 管理栄養士および他職種が患者に行った具体的な対応 を表 4 に,入院経過を表 5 に示す。 入院初日 症例 2 が入院した児童病棟は,入院患者が本症例 1 名 表 4 症例 2 管理栄養士および他職種が患者に行った具体的対応 時期 患者の発言・行動 管理栄養士及び他職種†の発言・行動 方法別‡ ①から順に進む。「 」は,発言を示す。 入院 初日 ② 世間話には笑顔で応答するが,食事は箸でつつくのみで口に 運ばない。 ① 看:「頑張って」「美味しそうだね」 褒 ④ 全ての器から,5 mm 角程度ずつを摂取した。 ③ 栄:「全ての器から一口ずつで良いから食べてみようか。色々 な栄養素がとれるよ」 具 ⑥ 微笑む。 ⑤ 栄,看:「えらいね,頑張ったね」 褒 1 週目 ②「先生に点滴を打たせないために食べる」以降,全量摂取を 開始した。 ① 看:「こんなにあざができてかわいそうに。もう先生に点滴させたくないよ」 褒 ④ 微笑む。 ③ 栄:「全部食べてること聞いたよ。先生もすごく驚いて喜ん でいた」 褒 2 週目 ②「する,バランス食の勉強したい」 ① 栄:「〇〇さんの夢は,綺麗になることだよね。プロのモデ ルさんは,綺麗のために栄養バランスのとれた食事をしてる と聞くよ。〇〇さんも,バランス食で綺麗になるを目標にし て バランス食の勉強しませんか」 具 ④ 真剣な表情で,料理カードを並べて主食・主菜・副菜の揃う バランス食の献立を並べた。 ③ 栄:(料理カードを活用し,主食・主菜・副菜の揃うバランス食の献立の立て方を説明後)「この料理カードで,お友達 とカフェでランチする時のバランス食献立を立ててください」 視・具 ⑥ 微笑む。以降,毎週バランス食の指導を実施した。患者は, 様々な設定場面毎のバランス食の献立作成を約 500 kcal で 行えるようになり,栄養士が称賛すると笑顔になった。 ⑤ 栄:「ちゃんとバランス食になっていますね。一回で覚えら れてすごいなあ」(以降は, 1 食約 500 kcal 程度で立てられ るよう指導した) 褒 ⑧「する,宣言する。1,500 kcal にしますって言う」 ⑦ 栄:「先生から,〇〇さんの希望を聞いて食事を増加する指 示が出ているの。また先生を驚かせたいね。自分から先生に 増やす宣言するのはどうかな」 褒 ⑩ 微笑む。 ⑨ 栄:「もう 1,500 kcal だなんて,えらいなあ」 褒 ⑫「食べるのはできるようになったけど,飲むことはずっと怖 いの」 ⑪ 栄:(検査結果の数値を示し)「水分不足で脱水傾向にあるの。飲める水分ないかな」 視 ⑭「野菜ジュースは飲める。大好き」 ⑬ 栄:「野菜ジュースは,ビタミンやミネラルが豊富で綺麗に なることに役立つのよ。食事につけるから飲んでみませんか」 具 3 週目 ② 水飲みテストでは,水を数口摂取し笑顔でゲームに参加し た。模造紙のグラフを作成後は,飲水量が増加した。 ① 保:病棟スタッフも参加し,色々なメーカーの水をカップに入れ,各自味見をしてメーカーを当てるゲームを実施した。 模造紙に 1 日の最高が 1,000 ml で 100~150 ml 毎にメモリ がついたグラフを作成した。患者の飲水量がメモリに達する と褒めて患者の好きな野球選手のシールを貼った。 褒・視・具 5 週目 ①「報告があります。ご飯が食べられるようになりました」 ② 栄,看,保,主:「すごい,驚いた。えらいなあ」 褒 7 週目 ② その場でにんじんを食べ,以降も残さなくなった。一方で, 他の患者が入院すると「音が気になる」と述べて食事の摂取 量が減少した。 ① 栄:(食事中,にんじんを残していたのを見て)「にんじん は,カロテンが豊富で美容に良いのにもったいないよ」 褒 ④ 全量摂取を始めた。 ③ 栄:「嫌なことがあっても食べていてえらいなあ。綺麗のた めに,拒食が良くないとわかってるのですね。さすがですね」 褒 8 週目 ② 笑顔。④「そっか,わかりました」 ① 栄:「外泊ができなくても食べていてえらいなあ」③ 栄:(検査結果の軽度の異常値を示し)「異常値が出ているか 褒 ら,安静が必要で外泊はできないのよ」 褒・視 † 「栄」は管理栄養士,「看」は 看護師,「保」は保育士,「主」は 主治医を示す 管理栄養士が語る言葉や極端な表現については,主治医の了承を得ている ‡ 褒めて労う,視覚情報の利用,具体的説明の繰り返しの方法の別のことを示す 「褒」は褒めて労う,「視」は視覚情報の利用,「具」は具体的説明の繰り返しを示す
表 5 症例 2 入院経過表 1 週目 2 週目 3 週目 4 週目 5 週目 6 週目 7 週目 8 週目 9 週目 体重( kg ) † 59. 0 58. 6 57. 8 58. 0 59. 2 58. 2 57. 6 56. 8 57. 0 目標エネルギー量 (kcal/ 日) 1, 000 1, 620 1, 620 1, 500 1, 400 1, 400 1, 400 1, 400 1, 400 摂取エネルギー量 (kcal/ 日) ‡ 606 ± 303 1, 504 ± 258 1, 643 ± 160 1, 523 ± 191 1, 399 ± 180 1, 497 ± 5 1, 364 ± 176 1, 463 ± 88 1, 445 ± 64 摂取エネルギー量内訳 治療食 常食(パン) 1,000 kcal 常食(パン) 1,500 kcal + 野菜ジュース (3食 各1本 ) 常食(パン) 1,500 kcal + 野菜ジュース (3食 各1本 ) 常食(パン) 1,500 kcal 常食(米飯) 1,400 kcal 常食(米飯) 1,400 kcal 常食(米飯) 1,400 kcal 常食(米飯) 1,400 kcal 常食(米飯) 1,400 kcal ビーフリード 210 kcal/ 500 m l 7 回/週 無し 無し 無し 無し 無し 無し 無し 無し 間食平均 100 kcal/ 日 無し 有り 有り 有り 有り 有り 有り 有り 有り 血清 AST 値( U/ l) 19 14 16 16 11( L) § 血清 ALT 値( U/ l) 15 9 12 8 7( L) § 血清 BUN 値( mg/d l) 14. 5 21. 1( H ) § 11. 2 10. 9 9 .5 † 体重は,看護師が測定し診療録に記録した数値を記載した。 ‡ 摂取エネルギー量は,看護師が診療録に記録した摂取量を元に管理栄養士が計算し, 1 週間毎の平均値±標準偏差で記載した。 § ( H)は, A 精神科病院の基準より高いことを, ( L)は低いことを示す。 A 病院の基準は, AST 13 -33 U/ l, ALT 8-42 U/ l, BUN 8.0 -20. 0 U/ l。
のみと他の患者は不在であった。食事については,以前 より患者は愛読雑誌の米飯と肥満を結びつける記事を読 み,「ご飯は怖い」と述べて,米飯を拒否していたため, 主治医は主食がパンの常食に決めた。1,000 kcal の設定 は,全体量を減らすことで,治療計画時の患者の目標で ある食事の 4 分の 1 以上の摂取を達成しやすくする目的 であった。入院初日の夕食時,管理栄養士は看護師と共 に患者に付き添い,摂取を促す声かけを行った(表 4 , 入院初日参照)。 1 週目 患者は,食事摂取量が目標摂取量以下だったことから 点滴が施行されると,点滴を抜去し腕に多くのあざがで きた。 4 日目,あざに気がついた看護師が患者にいたわ りの言葉をかけた後,患者は苦手な野菜以外の食事の全 量摂取を始めた(表 4 , 1 週目参照)。 2 週目 体重は 0.4 kg 減少し,血液検査では尿素窒素(Blood Urea Nitrogen: BUN)29)が上昇した。患者は,食事は汁 物も全て摂取していたが,食事以外の水分摂取を拒否し ていた。管理栄養士は,患者に実物大・そのまんま料理 カード31)(以下,料理カード)を活用した 1 日 3 食で主 食・主菜・副菜の揃うバランスの良い食事(以下,バラ ンス食)の指導(表 6 )を行った。患者は,バランス食 の献立作成の覚えが良く,指導を重ねる度に献立の作成 速度が早くなり,管理栄養士が称賛すると笑顔になっ た。食事は,患者が自ら 1,500 kcal 食を希望したことか ら,管理栄養士は水分量増加のため野菜ジュースの付加 を提案し,目標エネルギー量を 1,620 kcal(主食がパン の常食 1,500 kcal に野菜ジュース 120 kcal)に変更した (表4, 2週目参照)。食事の変更後,患者は全量摂取を継 続した。 3 週目 体重は 0.8 kg 減少し,BUN は改善した。管理栄養士 は,患者の水分摂取量の増加を目的に,患者と信頼関係 にある外来で ASD 患者の療育を担当する保育士に協力 を求めた。保育士は患者に水飲みテストのゲームを行 い,次にオペラント行動に基づく手法で患者に水分摂取 を勧めた。 1 週間後,患者の飲水量は 1 日 1 l に増加し た(表 4 , 3 週目参照)。食事の変更は行わなかった。 4 週目 体重は 0.2 kg 増加した。食事は,目標エネルギー量を 1,500 kcal(食事内容に変更なし,野菜ジュースなし)に 変更した。患者は,全量摂取を継続した。 5 週目 体重は 1.2 kg 増加し目標体重を上回った。患者は,他 科受診のための外出中に,外食先で天丼を注文し米飯を 摂取できたことから,病院食の米飯への変更を希望し た。管理栄養士は,外出に同行した母親より「外出先の 食堂で,娘が米飯を食べたので褒めたところ,病院食も 米飯に変えると言っておりました」との報告を受けた。 表 6 バランス食の指導 指導方法 1 .バランス食の指導(栄養指導時) 1 )以下の順番に説明 ・バランス食とは,主食・主菜・副菜の揃う食事のことである ・バランス食は,肌や髪も良くなり綺麗になるのに役立つ ・ 1 日 3 食バランス食を摂取して綺麗を目指す 2 )患者が興味を持つ具体的な言葉がけを繰り返す ・「綺麗になるには 1 日 3 食バランス食を食べる」 ・「綺麗になるためには,嫌なことがあっても拒食はしない」 2 .実物大・そのまんま料理カード31)を活用した指導(栄養指導時) ・献立は,主食 1 品・主菜 1 品・副菜 1 ~ 2 品で作成することを説明 ・「カフェでランチ」等の場面設定をして献立を立ててもらう ・各カードのエネルギー量を合計し 1 食当たりのエネルギー量を確認する 1 食 500 kcal 台が目標 ・患者の立てた献立の良い点を探して褒める 3 .バランス食についての質問の繰り返し(空き時間に病棟を訪問して実施) ・病棟訪問時,患者にバランス食についての質問を行う 例えば,「バランス食とは何ですか」等の簡単な内容にする ・答えられたら褒める ・その場に居合わせた病棟スタッフは,管理栄養士と共に褒める
患者は,主治医や管理栄養士,看護師等,多くの職員に 米飯が摂取できるようになったことを報告し,その都度 称賛を受け笑顔になった(表 4 , 5 週目参照)。食事 は,目標エネルギー量を 1,400 kcal(主食が米飯の常食 1,400 kcal)に変更した。患者は,全量摂取を継続した。 6 週目 体重は 1.0 kg 減少した。食事の変更は行わなかった (以降,退院まで変更無し)。 7 週目 体重は 0.6 kg 減少した。患者は,それまで苦手で残し ていたにんじんを食べ始めたが,同じ病棟の入院患者が 増加すると,食事を残し始めた。管理栄養士が,患者の 残した行動には触れずに摂取できている行動を褒める と,患者は全量摂取を再開した(表 4 , 7 週目参照)。 8 週目 体重は 0.8 kg 減少した。患者は,好きな野球チームの 観戦目的で外泊を希望したが,主治医からの許可が得ら れず,泣いて病室に籠った。主治医は,過去にあった拒 食や自傷行為の再発防止のため,患者の行動観察と病室 訪問の回数の増加を病棟スタッフに指示した。管理栄養 士が,患者の部屋を訪問し検査結果の数値を示して安静 を勧めると,患者は外泊の不許可を納得した(表 4 , 8 週目参照)。その後の試験外泊では,患者がバランスの良 い食事を 3 食摂取していたと母親から報告があった。患 者は予定より早い 9 週目,体重 57.0 kg で退院した。患 者は,体重減少を喜び,退院後は定期的な受診と月 1 回 程度の栄養指導を継続し, 1 年経過した現在,再入院に 至らずフリースクールに通学している。
Ⅳ.考察および今後の課題
単独でも難治性である ED は,ASD との合併例ではさ らに予後が不良であるが,この合併例に対する栄養指導 の具体的方法を示した実践報告は少ない。 本実践活動報告で我々は,ED と ASD の合併症 2 例を 経験し,ASD の特性に着目した 1 )褒めて労う, 2 )視 覚情報の利用, 3 )具体的説明の繰り返しを基本にした 栄養指導を実施することにより,この栄養指導法が有用 である可能性を明らかにした。 ASD の特性に着目した栄養指導の 1 )「褒めて労う」 について,本報告で管理栄養士は,患者の認識や行動の 誤りへの注意や指摘は行わず,患者の良い面を探して褒 めて労う対応を行った。高機能 ASD 者は,それまでの さまざまな傷つきの経験から不適応を起こし,ED に至 る例が多く14),患者の認知や行動の否定および内省を促 す方法はうまくいかないことが多いと報告されてい る15)。また,ASD 者は生育過程で叱責や注意を受けるこ とが多く自己肯定感が育ちにくいため,患者が示す特徴 を肯定的にとらえ達成したことを称賛することの有効性 が報告されている18,19)。本報告の 2 症例は,望まない治 療を受ける原因が,自身の行動にあると理解せず不満を 抱くことがあった。それに対して管理栄養士は,患者の 解釈の誤りへの指摘は行わずに労い,褒められるところ を探して褒め,それが有効であったと考えられ,これま での報告と一致した。 ASD の特性に着目した栄養指導の 2 )「視覚情報の利 用」について,本報告で管理栄養士は,血液検査の結果 の数値,料理カード,成長曲線の図等を活用した。ED と ASD の合併例は,言葉のやりとりだけでは意図が伝 わりにくく9),数値化された検査値等の視覚的説明が効 果的であるとされている21)。本報告でも,血液検査の悪 化した数値を視覚的に示した説明は,患者が望まない行 動制限や食事の増加を受け入れるのに有用であったと考 える。本報告の症例 2 に毎週実施したバランス食の指導 では,患者を褒めて労いながら料理カードを活用して具 体的な説明を行った。患者は,バランス食の知識の習得 が早く,この指導を楽しみにしており得意なこととして 感じていたと推測された。高宮らは,ED と ASD 合併例 に,視覚教材を使用し,褒めて労いながら具体的説明を 繰り返すことの必要性を報告している20)。堀は,ASD 者 の対応で,得意なことで自信をつけていくよう導くこと が重要と述べている32)。料理カードの活用は,視覚情報 としての有用性に加えて,褒めて労い,具体的説明の繰 り返しを行い,患者が自信を得たことも効果の一因に なったと考える。一方,成長曲線を活用した指導では, 質問の多い症例 1 が即座に自身の希望する身長を述べて 質問もなく,前後の文脈が不自然であった。ASD 者は, 全体を把握することが困難であるとの報告があり9),期 間で変化するグラフから長期に渡る障害を読み取ること が必要な成長曲線の活用は,患者には解りにくく,用い 方や説明にさらなる工夫が必要であると考える。 ASD の特性に着目した栄養指導の 3 )「具体的説明の 繰り返し」について,本報告で管理栄養士は,患者の関 心を引く言葉を取り入れた短文での説明を繰り返した。 EDと ASD 合併例への治療では,ていねいで具体的な説 明の繰り返しが必須であると報告されている18)。本報告 でも管理栄養士は,背を伸ばしたい症例 1 には「背を伸 ばすため」という具体的な言葉を,美容に関心がある症 例 2 には「綺麗になるため」という具体的な言葉を繰り 返し使用し,食事量の増加や食事の全量摂取の必要性を伝えた。症例 1 は,主治医が患者の目標を「安静」から 「車いすに座り立たない」という具体的な言葉に変更後, 車いす使用中の運動行為が止まった。堀は,ASD 者には 婉曲な表現は理解されないため明確な表現が必要である と述べている32)。本症例に行った,具体的な言葉による 指導は患者に解りやすく効果的であったと考える。さら に本症例における具体的な言葉の使用は,視覚情報を活 用した指導時に実施されており,視覚と聴覚の両者を併 用した指導がより有用であったと推察する。一方で,「背 を伸ばすため」や「綺麗になるため」という直接的な表 現は,患者に不快感を与える可能性もあり,ED の栄養 指導の基本となる信頼関係の構築は必須であると考える。 ED の治療は,チーム医療が望まれ管理栄養士は重要 な役割を担うが3~5),日本は ED のチーム医療を行える 施設が少ない33)。ED 患者の栄養指導に習熟した管理栄 養士も管理栄養士による実践報告も少なく,さらに ED と ASD の合併例に関しては,我々が調査した限り,管 理栄養士による詳細な報告を見つけることができなかっ た。厚生労働科学研究費補助金で行われた小児領域にお ける調査では, 7 割以上の管理栄養士が,ED について 学ぶ機会が少なく,精神科的合併症の知識が十分でない 等の理由により ED のチーム医療への介入に障壁を感じ ている34)。本報告の施設は,ED に習熟した各専門職が 揃う環境ではない。管理栄養士は,ED の基礎知識を文 献から学び,国立精神・神経医療研究センター精神保健 研究所や日本摂食障害学会,一般社団法人日本摂食障害 協会等が主催する研修を受講することで実践力を養っ た。本報告は,十分なチーム医療が行えない環境下で も,主治医との連携を基本に病棟スタッフの協力を得る ことで,管理栄養士が効果的な ED と ASD 合併例への 栄養指導を実施できる可能性を示した。 本論文の限界として,症例数が少なく一般化はできな いことと,合併症のない AN 患者との比較がないことが あげられる。今後,ED および ED と ASD 合併例への栄 養指導の実践報告を積み重ね,さらなる検討が必要であ ると考える。
ED と ASD 合併例に対する栄養指導では,ED の病態 への習熟と ASD の特性理解が必要となる。ED と ASD の合併例が稀ではない現状から,両者を理解した管理栄 養士の育成は急務であると考える。 最後に,本報告で症例 1 に実施したリフィーディング 症候群予防のための低エネルギー量から開始した栄養療 法について,現在は厳重な監視下で以前よりも高めのエ ネルギー量で開始する方法が推奨されており35),A精神 科病院でもこの新たな方法を採用していることを付け加 えたい。
謝 辞
本論文の発表を快く承諾してくださった患者ご本人と ご家族,並びに治療に関わった全ての病院スタッフの皆 様に心より感謝申し上げます。利益相反
利益相反に相当する事項はない。文 献
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Nutrition Counseling for Two Cases with Eating Disorders
and Autism Spectrum Disorder
Aki Sato
*
1,*
2, Shinya Masaki
*
3, Moeri Umemoto
*
4, Hiroki Yamamoto
*
5and Masahito Oyamada
*
6*1Nutrition Counseling Section, Hokkaido Midorigaoka Hospital
*2QOL Research Center, Fuji Women's University
*3Department of Psychiatry, Hokkaido Midorigaoka Hospital
*4Hokkaido Mental and Welfare Center
*5Department of Psychiatry, Obihiro Kyokai Hospital
*6Department of Food Science and Human Nutrition, Fuji Women's University
ABSTRACT
Objective: Eating disorders (EDs) are intractable diseases that frequently occur in young girls. The priority in their treatment is to improve nutrition. Autism spectrum disorder (ASD) is associated with EDs in 10 to 20% of cases, and their prognosis is often poor. In treatment, it is necessary to focus on the characteristics of ASD. We report on the implementation of nutrition counseling focusing on the characteristics of ASD as part of team medical care for two patients with ASD who were hospitalized for EDs.
Methods: Two 15-year-old girls with ASD were admitted to a psychiatric hospital for treatment of EDs. Case 1 was an aesthetic athlete who was hospitalized due to low body weight caused by excessive exercise and dietary restrictions. Case 2 presented an anorexic reaction to stress, who was hospital-ized for rapid weight loss due to anorexia. The registered dietitian focused on the characteristics of ASD and provided nutritional counseling based on 1) understanding and praise, 2) use of visual information, and 3) repetition of specific explanations.
Results: In Case 1, the patient's goal weight was achieved by decreasing her activity level and consuming all her provided food, which increased every week. In case 2, anorexia subsided, and the target weight was achieved.
Conclusion: In two cases with EDs and ASD, the usefulness of nutritional guidance based on 1) under-standing and praise, 2) use of visual information, and 3) repetition of specific explanations was sug-gested.
Jpn. J. Nutr. Diet., 79 (2) 90~102 (2021) Key words:eating disorders, nutrition counseling, autism spectrum disorder