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カナダの薬局,薬剤師と地域医療との関わり

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Academic year: 2021

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はじめに

 我が国では 2000 年から 2017 年にかけて人口 10 万人 あたりの薬剤師数が倍増し,2018 年時点で 31 万人の薬 剤師がおり,さらに 1 年につき 1 万人ずつ増加を続けて いる1).一方で,薬剤師が対物業務から脱却し対人業務 を担当するよう厚生労働省が薬局再編の全体像を描く 中2),薬剤師が個人,企業や団体の各レベルで対人業務 を自律的,主体的に定義するのは容易ではない.カナダ の薬局では,薬剤師の業務の中で計数調剤が占める割合 が極めて低い3).この例を踏まえて,本稿ではカナダの 薬剤師を取り巻く環境について描き,日本の薬剤師が目 指す一つの方向性を示す.

通常の処方箋調剤における業務と職能の発揮

 まず,カナダの主要な州では,慢性疾患治療薬は 6 カ 月や 1 年分の超長期処方が一般的であるが,これは,か かりつけ医や専門医に 6 カ月に 1 度しか受診しない・で きないのではない.カナダの医師は,これらの薬剤に関 して,交付する数量やタイミングを含めて自らの業務と 考えておらず,薬剤師がこれらを担当している.つま り,一旦診断が確定し,またこれが継続妥当と医師,薬 剤師,患者の間で判断されている限りは,患者は受診し ない.交付する薬剤の数量は保険給付の条件等も考慮し て薬剤師が決定し,このプロセスに医師は関与しない仕 組みとなっている.これがいわゆるリフィル調剤であ る.よって,受診と薬剤交付のタイミングは必ずしも同 じタイミングでは起こらず,処方箋という紙で患者の動 線が医師に管理されている日本とは大きく異なる.実態 としては,患者はかかりつけ医に年に 3,4 回受診する 一方で,薬局にはその 2 ∼ 10 倍の回数で来局する.  例として,3 カ月の処方にリフィルが 1 回分付されて いる場合,次回の受診日は基本的には 6 カ月後であり, 処方箋は 6 カ月分の薬剤に相当する.調剤する薬剤の数 量は薬剤師が決定することができ,必ずしも 3 カ月分を 渡す必要はない.薬剤師の薬学的判断,例えば残薬調整 を目的として 1 カ月分を交付することも可能である.前 回交付された薬剤の数量により,手持ちが少なくなった 段階で患者らは診療所ではなく薬局を訪れ,薬剤をリク エストすることになる.いわゆる「お薬受診」は必要な い.  用法に関しては,1 日 1 回等は医師が指示し,食前後 や服薬のタイミングについては薬剤師が決定する.例え ば,降圧薬が 1 日 1 回と処方箋上に記載されていれば, 朝食後に服用するか夕食前に服用するかは患者から聞き 取った情報,当該薬剤の一般的な用法等を踏まえ,薬剤 師が総合的に判断し決定している.また,副作用防止の ために漸増が望ましい薬剤について医師の指示がない場 合も,疑義照会なしに薬剤師が漸増過程を患者に服薬指 導する.漸増過程で患者の混乱を避けるために 1 週間分 の薬を数回に分けて調剤する場合も,医師の指示は不要 である.  さらに,剤型に関しては,生物学的に同等であれば薬 剤師が自由に決定している.つまり,錠剤か水剤かどち らが最適かは患者と薬剤師の間で話し合って決められ る.また,10 mg の錠剤 2 錠,20 mg の錠剤 1 錠,ある いは 40 mg の錠剤半錠かの選択で医師に疑義照会する 薬剤師はいない.全て薬剤師の判断に任されている.  以上のように,薬物療法に関しては,診断と治療薬決 定は医師,薬学的判断の範疇にある全ての事柄は薬剤師 1 東京薬科大学薬学部 2 Upright *〒 818-0072 福岡県筑紫野市二日市中央 1-6-13 1 階 TEL: 092-403-0444 E-mail: [email protected] 本論文は,クリエイティブ・コモンズ CC-BY-NC-ND(表示-営利利 用不可-改変禁止)の条件下で利用できる.©2021 日本在宅薬学会

カナダの薬局,薬剤師と地域医療との関わり

1, *2

若子直也

海外の薬局・薬学事情

在宅薬学 2021;8:47–49 在宅薬学 J-STAGE 早期公開 2021 年 2 月 19 日 doi: 10.32228/jjcmps.2021.5007

(2)

在宅薬学 2021 Vol. 8 No. 1 48 が決定している.

処方権を持つ医療者としての役割

 一部の州では,薬剤師は糖尿病など慢性疾患に対する 処方を医師の指示なく変更したり,薬局で簡易検査キッ トを使用し検査を行った上で抗生物質を処方する権限を 与えられている.前者は,専門薬剤師の認定を受けた者 がかかりつけ医の処方が適切でないと考えた場合に,新 規に薬剤を追加したり,用量を増減,あるいは服用を中 止させる指示を患者にすることを含んでいる.後者はよ り一般的である.これらの州では,薬剤師が簡易検査 キットで機械的に診断可能な感染症や,簡単な問診で診 断が確定できる minor ailments(軽症,かつ単純な疾患) に対して,抗生物質,抗ウイルス薬やステロイド外用剤 を含む多種多様な薬剤を処方している.  また,生物学的に同等ではない薬剤へ医師の指示なく 変更する際,変更により生じた健康被害など,処方全体 に関して責任は全面的に薬剤師にある.実際にこのよう な変更をする場合は,薬剤師が処方したとして記録を残 し,また調剤報酬請求を行う.例えば,1 日 2 回内服す る血糖降下薬を 1 日 1 回内服する徐放性剤に変更する, 外用剤を軟膏からクリームに変更するケースなどが想定 できる.  日本以外の先進国のいくつかで薬剤師によるワクチン 接種が可能なことは,今日,良く知られた事実であり, カナダもその一つである.ここで,接種する技術に注目 が集まるが,重要なのは接種する権限ではない.誰に, いつ,何を何回接種するかを企画立案し,適切な患者や 顧客をスクリーニングし,接種した後のフォローアップ も含めて責任を果たすことである3).この過程こそが処 方であり,カナダの薬剤師が医療者として社会に信頼さ れる根拠となっている.

処方箋によらない医療サービスの提供

  カ ナ ダ の 薬 局 で は, 医 師, 診 療 看 護 師(Nurse Practitioner: NP)らからの処方箋に基づく調剤以外にも 多くの医療サービスを提供している.代表的なものとし て,メディケーションレビュー(medication review), 禁煙療法,そして既出のワクチン接種が挙げられる.  メディケーションレビューとは,包括的かつ総合的な 服薬指導のことである.5 剤以上服用している,などい くつかの要件を満たした患者に対して行われる.複数診 療科から処方された全ての薬剤,OTC,ビタミン,食 生活について包括的に,改めて服薬指導を行う.また, 患者が抱える健康問題,慢性疾患,ライフスタイルなど 総合的な見地から,アドヒアランス,治療への参加意 識,理解度等を含めて情報を収集し,解決可能な問題点 がないかを確認する作業を含む.このサービスは,基本 的には 1 人の患者につき年に 2 回提供可能で,60 カナ ダドル(約 5000 ∼ 6000 円相当)の報酬を日本でいう国保 に請求する.このプロセスは,患者のポリファーマシー 解消,残薬の消化とアドヒアランス向上,一包化の決 定,剤型変更,検査の再オーダーや受診勧奨まで,薬物 療法に関するあらゆる課題を解決する糸口として機能し ており,実際に医療経済学上のメリットがあるとの研究 報告もある4)  禁煙療法は薬剤師の担当する領域であるとの認識がカ ナダでは一般的である.ニコチン代替療法に関しては, 主要な州では薬剤師による処方箋に基づき調剤される. 喫煙量や合併症等,十分な聞き取りを行い,経皮パッチ とチューインガム,スプレー,吸入器などを組み合わせ て処方を決定し,使用法等について服薬指導を行う.2 ∼ 4 週間ごとに患者を来局させ,アドヒアランスを確認 しながら禁煙療法の過程を伴走する.一部の州では,バ レニクリン酒石酸塩も薬剤師の処方により患者に提供さ れている5)

医療全体の中での薬局と薬剤師の立ち位置

 カナダでは国民皆保険制度であり,留学生等一部の例 外を除き,全国民,移民が加入を義務付けられる.日本 ほど深刻でないにしても緩やかに高齢化が進むカナダ で,医療財政の健全化に薬剤師を活用してきた事実は興 味深い3).余談だが,医療制度の実際の財源は保険では なく,基本的には税方式であるが,本稿では表現の便宜 上,保険として進めている.  この観点では,地域医療で薬剤師は監査機能に徹して いる.即ち,治療学的に最適な処方が行われているか, また,保険者が期待するような費用対効果の高い標準治 療から逸脱しない処方が行われているかを監査するので ある.  調剤への保険給付は様々な形で緩い制限や要件が設け

(3)

カナダの薬局,薬剤師と地域医療との関わり 49 られている.例えば,使用経験が少なく,また後発品の 存在しない新薬は,通常,保険給付の対象外となってお り,医師は自由に処方することができるが,患者の窓口 負担金は,この薬剤に関して調剤報酬も含めて全額自己 負担となる.また,ガイドライン上で位置付けのはっき りしなくなった重要性の低い薬剤についても同様であ る3)  日本でも,導入が数年来議論されては実現に至ってい ない参照価格制やフォーミュラリーなどは上述の保険給 付要件を意味している.ガイドラインに沿った標準治療 から逸脱した処方は保険給付が制限され,窓口負担金が 大きくなる一方,これら保険給付の要件を理解する薬剤 師が適切な処方提案を行い,医師を費用対効果の高い薬 物療法へと誘導したり,自らの権限で処方を修正するこ とも日常茶飯事で,処方修正に関しては調剤報酬による 加算が認められている.これら医療経済学的な視点から の処方設計への能動的かつ積極的な参加が,薬局の業務 で非常に大きなウェイトを占めている3, 5)(Fig. 1).

おわりに

 対物業務が計数調剤を主に意味するのに対し,対人業 務が本質的に意味するものは,我が国では未だ明確に なっていない.これは,対人業務とは現在の業務のあり 方の枠組みの中で探すものではなく,その外へと探求し 開拓すべきものだからである.Fig. 1 で示すように,情 報を提供するのみならず,まして薬を正しく取りそろえ る部分に留まらず,他職種,保険者や行政など各ステー クホルダーが存在価値を認める立ち位置での全ての仕事 が対人業務であろう.  カナダ,アメリカなど北米を中心とする他の欧米先進 国では,薬剤師の業務,職能に関する大量の原著論文や 総 説 論 文 が 発 表 さ れ て き た. こ の 経 過 は, 例 え ば PubMed で”Canada”,”pharmacist”のキーワードで検索 すると概況が確認できる.これらの実証実験,実績,研 究報告は,社会薬学,医療経済学的な視点から薬事行 政,医療政策における薬局の機能と薬剤師の職能を拡大 するための議論に供されてきたと考えるのが自然であ る.  日本で薬剤師が対人業務を拡張することを目指す時, 行政の描く全体像を参考にしつつ,自ら主体的に上記の プロセスを実行するのも一つのアプローチと考える.

利益相反

本論文について開示すべき利益相反はない. 参考文献 1) 厚生労働省,平成 30 年(2018 年)医師・歯科医師・薬剤師統 計の概況,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ ishi/18/index.html(accessed 2021.1.1) 2) 厚生労働省,患者のための薬局ビジョン,https://www. mhlw.go.jp/stf/houdou/0000102179.html(accessed 2021.1.1) 3) 若子直也,薬剤師の未来進行形,薬事日報社,東京都, 2020.

4) Gagnon-Arpin I, Dobrescu A, Sutherland G, Stonebridge C, Dinh T., The value of expanded pharmacy services in Canada, The Conference Board of Canada, Ottawa, 2017. 5) 若子直也,山浦克典,カナダに学ぶ持続可能な国民皆保険

と薬剤師の活用,薬誌,2020, 140, 1365–1372. Fig. 1 日本,カナダ両国における薬剤師業務のあり方

Fig. 1 日本,カナダ両国における薬剤師業務のあり方

参照

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