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はしがき
本書の目的は、エジプトにおけるスィースィー体制の形成過程とその統治の特徴を明ら
かにすることである。
エジプトでは、2013 年 7 月に軍によってムルスィー大統領が排除され(「6 月 30 日革
命」)、2011 年「1 月 25 日革命」以降で 2 度目の政治移行期が始まった。移行プロセスは、
当初の計画より遅れたものの、改正憲法の制定(2014 年 1 月)、大統領選挙(2014 年 5 月)、
議会選挙(2015 年 11~12 月)と進み、2015 年 12 月に完了した。
第2 移行期(2013 年 7 月~2015 年 12 月)の開始から約 1 年間は、当時の軍トップだっ
たアブドゥルファッターフ・スィースィーによって暫定大統領に任命されたアドリー・マン
スール最高憲法裁判所長官(当時)が政権を担った。しかし、その背後で移行プロセスを実
質的に管理していたのは軍だった。その後、2014 年 5 月に実施された大統領選挙では、出
馬のために軍籍を離れたスィースィーが圧勝し、翌 6 月にスィースィー政権が誕生した。
つまり、第 2 移行期は、軍の意向に基づく統治体制が構築された時期と理解することがで
きる。その中心にいたのはスィースィーだった。そこで、本書では第2 移行期全体をスィー
スィー体制の形成期と捉え、その形成過程を多角的な視点から明らかにする。
本書は、アジア経済研究所で2014~2015 年度に実施した研究会の成果の一部である。す
でにアジア経済研究所のウェブサイト(http://www.ide.go.jp/)に掲載されている論考もあ
るが、それら既出の論考も含めて改めて一冊の書籍として編纂したのは、スィースィー体制
の形成過程とその特徴を総合的に提示するためである。
すでに第 2 移行期の完了から 2 年が過ぎた。ましてや 2014 年 6 月に就任したスィース
ィー大統領の任期は残り半年となり、次の大統領選挙が近づいている。現在のエジプトは、
「アラブの春」後の動揺を乗り切り、その統治体制は再び均衡(安定)に達したようにも見
える。
そのような状況のなかで、均衡に向かう過程であるスィースィー体制の形成期について
今更取りまとめたのは、それが現在のエジプトの統治形態を理解するうえで有用な視座を
提供すると考えたからである。本書は、新たな事実や資料を掘り起こしたものではない。し
たがって、新情報という点では、本書が新鮮味に欠けることは否めない。しかし、多角的な
視点からスィースィー体制の形成過程を跡付けることで、「1 月 25 日革命」を経てエジプト
の統治体制はどう変わったのか、また現体制は持続可能なのかを考える手がかりを提示で
きたのではないかと考えている。本書が「アラブの春」後のエジプトを理解するための一助
になれば幸いである。
2017 年 12 月 編者