早期幼児支援教室における障害幼児への発達支援 : 脳性麻痺幼児や表出性言語障害幼児への障害特性に応じた支援事例を通して
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 早期幼児支援教室における障害幼児への発達支援 ― 脳性麻痺幼児や表出性言語障害幼児への障害特性に応じた支援事例を通して ―. 細谷 一博・郡川 孝行* 北海道教育大学函館校 *. 北海道教育大学附属特別支援学校. Developmental Support for Young Children with Disabilities at Early Infantile Support Class HOSOYA Kazuhiro and KOURIKAWA Takayuki* Department of Special Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education *. School for Special Needs Education attached to Hokkaido University of Education. 概 要 幼稚園や保育所,幼保連携認定こども園には,発達やことばの遅れ,集団行動,指示理解な どで気になる幼児や診断を受けている障害幼児が在籍している。このような子どもたちは,在 籍園(所)とは違った他機関とつながって継続した支援を行っていく必要がある。しかしなが ら,全ての気になる子や障害幼児が他機関をつながっているわけではない。そのような子ども たちに対して,早期幼児支援教室の活用を通した支援が考えられる。本稿では,早期幼児支援 教室に参加している言語障害を伴う脳性麻痺幼児と表出性言語障害幼児への支援事例を整理す ることで,障害幼児への早期支援の意義を確認し,今後の早期幼児支援教室における早期支援 の課題について検討した。 Key Words:早期支援 障害幼児 発達支援. 1.はじめに. 澤・藤原・山根(2005)は,保育所・園160か所 の保育者への質問紙調査を実施し,「気になる・. 幼稚園や保育園に在園している幼児の中には,. 困っている行動」を示す子どもの実態を調査した。. 集団活動をすることに困難を示したり,保育者の. その結果,89.4%の保育所・園に在園しており,. 指示を聞いて活動することに困難を示したりする. その出現率は4.5%であることを報告している。ま. 幼児が少なくともいることが指摘されている。平. た,下野・稲富(2007)は82か所の保育所におけ. 129.
(3) 細谷 一博・郡川 孝行. る実態調査をもとに, 「気になる」子どもへの援. ることが考えられる。さらに,そのような子ども. 助や親に対する支援を検討した結果,保育所の. たちに対して,早期からの教育相談や支援の必要. 72%で「気になる子どもがいる」と回答しており,. 性が指摘されている(中央教育審議会初等中等教. その出現率は2.17%であると報告している。さら. 育分科会,2012)。. に玉井・堀江・寺脇・松村(2011)は,保育所の. これまで筆者は,幼稚園に在園している「気に. 年長クラスを担当する保育者を対象に質問紙調査. なる幼児」を対象に早期幼児支援教室(きりのめ. を実施した。その結果,保育士が気になる子ども. キッズくらぶ)を開設し,実践を行ってきた(細. の割合は32.5%であったことを報告している。こ. 谷・永長・鳴海・木原・村田・成田・菊池・根. れらの結果は,各園における気になる子どもの出. 市・大橋・髙橋,2013;細谷,2015)。この早期. 現率に差はみられるものの,少なくとも幼稚園や. 幼児支援教室は,従来,保育者や保護者からみた. 保育園などに「気になる子ども」 「気になる幼児」. 気になる行動を示す子どもや発達が気になる幼児. が在園していることを示している。このような子. を対象に実施してきたが,近年になり表出性言語. どもたち全員に障害があるわけではないが,少な. 障害や弱視,自閉症及び自閉症スペクトラム障害,. くとも何かしらの教育的ニーズがあることが予想. 脳性麻痺など,診断名のある幼児も多く参加して. される。. くるようになってきた。しかしながら,これらの. しかしながら, 「気になる子ども」は障害のあ. 幼児の中には,様々な事情により,療育機関とつ. る子ども(診断を受けている子ども)よりも保育. ながっていないケースもみられる。. 現場での理解や対応に困難が指摘されている。た. そこで本研究では,早期幼児支援教室で実施し. とえば,下野・稲富(2007)は軽度の発達障害の. た脳性麻痺幼児と表出性言語障害幼児への学習支. 子どもたちが抱えている問題は決して軽いもので. 援の中で,個別学習の効果について整理するとと. はなく,逆に「軽度」であるがゆえに「発見され. もに,障害幼児への発達支援の取り組みについて. にくい」や「認められにくい」などの困難さを抱. 紹介することを目的とする。. えていることを指摘している。また,郷間・圓尾・. 本研究で対象とする2事例について,まず脳性. 宮地・池田・郷間(2008)は,保育所や幼稚園の. 麻痺であるが,厚生省(現厚生労働省)脳性麻痺. 保育者を対象にアンケート調査を実施した結果,. 研究班(1968)では,四肢の運動や筋肉の協調性. 「障害児」の指導上の問題は,対応の具体的な方. の障害を呈する疾患の一群を指し,わが国では「受. 法がわからず困難を感じているものが多いことを. 胎から新生児(生後4週間以内)までの間に生じ. 報告している。さらに,吉川・尾崎・細渕(2008). た,脳の非進行性病変にもとづく,永続的なしか. は,幼稚園保育者を対象に意識調査を実施した結. し変化しうる運動及び姿勢の異常である。その症. 果,気になる子どもに対する支援を考える際に,. 状は満2歳までに発現するものであり,進行性疾. 相談するべき状況か悩むことや相談先がわからな. 患や一過性運動障害,または将来正常化するであ. いと回答した保育者が多くいることを明らかにし. ろうと思われる運動発達遅延は除外するとしてい. ている。. る。また,脳障害に起因して,運動機能障害のほ. 以上のように幼稚園や保育所には,障害の有無. かに,その範囲や程度によっては,知能障害,言. にかかわらず多様なニーズのある幼児が在園して. 語障害,感覚障害,てんかん発作,知覚障害,行. おり,保育者は日常の保育活動の中で個々の教育. 動特性などの随伴障害をもつ場合が多い(山口,. 的ニーズに合わせた指導・支援に困難を抱え,相. 2004)。さらに,脳性麻痺児に対する治療として,. 談先にも苦慮していることが伺える。また,近年. 理学療法士(PT)や作業療法士(OT)による機. になりインクルーシブ保育の推進により,これま. 能訓練が第1にあげられるが,単に理学療法や作. で以上に多様なニーズの子どもたちが在園してい. 業療法のみではなく,保育や教育とのつながりの. 130.
(4) 早期幼児支援教室における障害幼児への発達支援. 中で全体発達を促す必要がある(石井,2010)。. 学教室,2007)。田中・渡邊・白邦・Lise(2001). また,脳性麻痺児の行動特性として,必要かつ本. は,表出性言語障害の言語的特徴の発達的変化を. 質的な刺激に注意が集中できず,不必要な刺激に. まとめた結果,就学前の段階で,表出性言語障害. 容易に注意が向く「被転動性」 ,周囲の刺激に対. の言語臨床が変化する可能性を示した。また,宮. して運動や行動を抑制することが困難な「抑制困. 入・大石・佐藤(1992)は,幼児期の表出言語に. 難」 ,状況の変化に速やかに対応することができ. 限られた障害が,実際には言語機能の重要な基礎. ず,ある事項から別の事項への転換,移行が難し. 過程である音韻操作や語音認知の発達を遅らせ,. い「固執性」 ,事物をまとまりのある全体として. そのことがさらに文字言語の発達を遅らせたこと. 構成することが困難な「統合困難」などがあげら. を報告している。さらに,Ito・Fukuda・Fukuda. れ,これらの行動の一部は,幼児にも多く観察さ. (2009)は,特異的言語発達障害児の語彙は著し. れるが,加齢に伴って低減,消失する。しかし,. く伸びるが,時制や受動態はあまり伸びず,指示. 脳性まひの児童生徒の中には,継続する場合があ. 代名詞はその中間的な伸びを示すことを明らかに. る(川間,2014)。また,脳性麻痺児の訓練では,. した。このような臨床像を示す表出性言語障害児. 訓練意欲への配慮と日常的な基本姿勢の管理が重. への指導について,山口・都築(2001)は,言語. 視される。聴覚・視覚機能・言語訓練は障害があ. 表出の遅れは各側面に限局したものではないた. ればすぐに対応するのと同様に,学習能力につい. め,言語機能のある側面に限局した指導を行うの. ても,就学前よりチームで対応していく必要があ. ではなく,より包括的な指導を行うことが望まし. る(君塚,2014)。. いと述べている。. 脳性麻痺児の場合,上記のような臨床像を示す. これらのことから,表出性言語障害の幼児に対. ことから,幼児期から運動面だけでなく,学習面. しては,言語のみに焦点をあてた指導ではなく,. や認知面など,全体的な発達を促すための支援が. 発達的側面も含めた指導の展開が必要である。. 重要であることがわかる。 次に表出性言語障害であるが,ICD-10では「会 話及び言語の特異的発達障害」,DSM-5では「コ. 2.早期支援の意義. ミュニケーション症群/コミュニケーション障害. 1)適正発見・早期支援の必要性. 群の言語症/言語障害に位置付けられている。ま. 障害のある幼児又は,発達障害が疑われる幼児. た,言語理解は正常範囲にも関わらず,表出言語. に対して,早期発見・早期支援の必要性が指摘さ. を使用する能力がその小児の精神年齢に即した水. れている。小枝(2009)は,早期発見が重要な理. 準から明らかに低下しているという症状を示す。. 由は,就学後に学校不適応や心身症などの二次的. 非言語的な手がかり,および想像遊びに反映され. な不適応へと進展していく場合もみられることを. るような「内」の言語使用は比較的保たれ,実演,. 指摘している。また,門脇(2011)は,適切な移. ジャスチャー,身振り,言語でない発声によって. 行支援をとれなかったため,いわゆる「小一プロ. 言葉のなさを補おうとする傾向がある。さらに,. ブレム」のような不適応状況を起こしている場合. 言語発達では,正常でもかなり個人差が認められ. もみられ,幼児期からの一貫した支援の必要性を. るが,3歳以降では,ごく限られた語彙の発達,. 指摘している。さらに,笹森・後上・久保山・小. 一般的な語の簡単な組み合わせの過度の起用,適. 林・廣瀬・澤田・藤井(2010)は,乳幼児期に適. 切な語の選択の障害と語の代用,発語の短縮,未. 切な支援を受けれないと,就学後の学習面や生活. 熟な文章構造,文章構成の誤り,文の流暢さを欠. 面に様々な困難を抱えることが多くなり,また情. く,規則の誤った過度な一般化が生じる障害が含. 緒不安や不適切行動等の二次障害が生じてしまう. まれてくる(大阪大学大学院医学系研究科精神医. こともあることを指摘している。. 131.
(5) 細谷 一博・郡川 孝行. 以上のように,幼児期段階の適切な時期に,適. 合,意図的・計画的に組織された小集団活動で学. 切な支援を受けることができないことで,発達段. 習経験を積ませることや同一人物による支援を行. 階において,様々な面で困難が生じることが考え. うことで,対人関係の拡大への初期段階を形成で. られる。さらに小枝(2009)は,早期発見といっ. きることを報告した。また,学校生活において同. ても早ければいいというのではなく,むしろ問題. 年代の小集団を組むことが難しい幼児に対して. 点が見えてくる時期に適正に発見するという「適. は,このような教室で実施している小集団の場は,. 正発見」 という考え方が望ましいと指摘している。. 貴重な経験の場になることを指摘している。. また田中(2012)は,早い気づきは,その時に必. 本稿で取り上げた早期幼児支援教室では,小集. 要な対応を作り出す。つまり生活の困難さの解決. 団活動の実施後に個別指導を実施している。個別. の糸口となり,早期の気づきが,じっくりとした. 指導では,子どもの個々のニーズに合わせた課題. 対応を作り出すことを指摘している。. を設定し,指導に当たっている。早期幼児支援教. これらのように,幼児期における適正発見は,. 室に参加している子どもの主訴は,言葉の遅れが. 早期支援体制の構築につながり,子どもたちの困. 最も多い。幼児期の場合,明らかな言葉の遅れ(例. 難を改善するための糸口となる。しかしながら,. えば,知的障害や肢体不自由に伴う言語障害等). 日常の保育活動の中で,適正発見から早期支援を. を除いては,発達途中であることから,言語の指. 展開する際に,多くの困難が予想される。発達障. 導を中心とした指導ではなく,成功経験を積ませ. 害者支援法においても,発達障害児が早期の発達. ることを主とした発達支援を行っている。. 支援を受けることができるよう,発達障害児の保 護者に対し,その相談内容に応じてセンター等を. 表1 早期幼児支援教室の活動内容. 紹介又は助言を行い,その他適切な措置を講じる ものとすると早期の発達支援の必要性が明記され ている。このことから,幼稚園や保育所において, 適正発見をした際に,外部の支援機関等と連携を とって指導及び支援にあたる必要がある。 2)早期幼児支援教室の意義 本教室は2010年1月に北海道教育大学函館校の. 3.個別指導場面における支援事例. 細谷研究室と北海道教育大学附属特別支援学校の. 1)事例1:脳性麻痺幼児(A児)への学習支援. 共同事業の一環として開始した。この事業は,大. ⑴ A児の実態. 学においては学生の臨床授業として,附属特別支. 幼稚園年中クラスに在籍している軽度の脳性麻. 援学校においては,センター的機能の一環として. 痺と診断を受けている女児(A児)である。性格. 位置づけたものである。これまで,多くの幼児が. はおっとりしており,動きもゆっくりしているが. 参加してきており,幼稚園の卒園と同時に小学校. 活動に対しては積極的に参加する様子が見られ. の通常学級や特別支援学級などに進学をしてい. た。また,上肢・下肢ともに麻痺が見られるとと. る。実際の本教室の活動内容は表1に示す流れで. もに,歩行時には両下肢の不随意運動も見られる. 実施している。. が,自力歩行することができる。. 細谷・鈴木・関﨑・村田・佐藤・藤嶋(2015). 自由遊びの時には,A児の妹や支援者と遊具で. は,早期幼児支援教室に参加している弱児を伴う. 遊ぶ様子はみられるが,他の子どもと遊びを共有. 自閉症幼児における集団活動の在り方について検. する様子は見られなかった。また,在籍している. 討した。その結果,集団への参加が初期段階の場. 幼稚園を休むことが多く,1か月で数回しか登園. 132.
(6) 早期幼児支援教室における障害幼児への発達支援. しない時もあり,障害による学習上または生活上. 見せに行く様子が見られた。. の困難に伴う経験不足に加えて,幼稚園生活にお. 以上のことから,第1期の机上学習場面におい. ける経験も不足していることが考えられた。. ては,書字動作に困難が見られるものの,見本を. ⑵ 指導のねらい. 見ながら絵カードを選択することができており,. 指導1期(4月~8月)では,目と手の協応動. 絵に描かれた物や色の名称を学習することができ. 作に注目し,課題に対してできるだけ注目するこ. た。しかしながら,長時間の活動になると,姿勢. とを目的とした。. が崩れ始めることや課題に対して顔を近づける様. 指導2期(10月~翌年2月)では,第1に手先. 子が頻繁にみられ,視覚情報のとり方(見え方). をできるだけ使用し,課題に対して注視すること. についても今後の課題となった。. できるようになる,第2に体を動かすことの楽し. 第2期における「ボタンはめ課題」では,絵本. さを経験することを目的とした。. (スイミー)の読み聞かせ後にフェルトで作成し. 設定した課題は,第1期では「点つなぎ課題」. た魚の目をつなぎ合わせる課題を行ったが,徐々. 「迷路課題」 「ブレスレット作り課題」「色塗り課. にボタンをはめるコツをつかみ,集中して取り組. 題」 「絵合わせ課題」など,机上学習を中心とし. むことができたが,左眼で見ながら取り組んでい. た課題を設定した。第2期では, 「ボタンはめ課題」. る様子が見られた。また, 「なぞり書き課題」では,. 「なぞり書き課題」「運動遊び課題」「バランス課. 自分の好きな色を選択して書くことが出きていた. 題」など,指導1期の机上学習に加えて,身体を. が,キャップの開け閉めや長い線のなぞり書きは. 動かす課題を設定した。. 困難が見られた。このように,机上学習において. ⑶ A児の様子と今後の課題. は,顔を右側に動かし,左眼で見ている様子が頻. 第1期の「点つなぎ課題」では,数字の順番が. 繁に見られたことから,課題の置く位置の検討と. わからないため,点同士をつなぐことができない. ともに視覚情報のとり方の把握が課題となった。. 様子が見られた。また,「迷路課題」でも,ルー. 「運動遊び課題やバランス課題」では,幼稚園を. ルがわからず枠を超えて線を引く様子が見られ. 休むことが多いことから,身体を動かす機会が少. た。また,いずれの課題もクレヨンなどの筆記用. ないことが予想されたため,楽しく身体を動かす. 具を持って線を引くことに困難が見られた。線引. ことを目標とした。実際の活動では,両下肢に不. きについては,両上肢に不随意運動が見られるた. 随意運動が見られ,床に置かれた目印で静止する. め,多少のずれは仕方のないこととして捉えるこ. ことや座位姿勢,立位姿勢ともに,静止すること. ととした。 「色塗り課題」では,見本を見ながら. が難しい様子が見られたが,A児本人は楽しく汗. 色を塗ることができており,枠線をはみ出さない. をかきながら活動をする様子が見られた。. ように塗る様子が見られた。 「絵合わせ課題」でも,. 以上のことから,本事例においては,脳性麻痺. 見本を見ながら,同じ絵カードを選択することが. の障害特性からくる目と手の協応動作や学習活動. できるようになっており,絵カードのマッチング. 時の姿勢の保持に注目し,本人が操作しやすい立. 課題から,絵の構成課題へと徐々に難易度を上げ. 体的な教材,本人の興味のある絵や写真を用いた. たことで,本人が考えながら学習に取り組む様子. 教材,幼稚園で経験する他者とのコミュニケー. が見られた。また,使用した教材もA児の好きな. ションなどの支援を実施した。また,他の相談機. キャラクターが書かれている平面のカードから立. 関とつながっていない幼児に対して,幼稚園や他. 体的なカードへと修正し,A児が操作しやすいよ. 機関では個別に支援できない状況を回避し,本人. うに工夫を加えた。さらに,「ブレスレット作り. の発達を支援する役割を果たすことができたと考. 課題」では,ビーズの穴が小さく,紐を通すこと. えることができる。. に困難を示したが,作品が完成すると妹や母親に. 133.
(7) 細谷 一博・郡川 孝行. 2)事例2:表出性言語障害幼児への学習支援. ことができるようになった。また,ピンポン玉と. ⑴ B児の実態. 卵の空きパックを使って,10までの数について具. 幼稚園年長組に在籍する表出性言語障害と診断. 体物の操作を取り入れ,数量の学習に取り組んだ. された男子(B児)である。本児は社交的な性格. が,数の移動については,まだ理解をしていない. であり,知っている人には照れながらも挨拶をす. 様子が見られた。. ることができる。また,学習活動に対しては意欲. また,指導1期,2期を通して,書字の学習と. 的に取り組む様子が見られ,知的や運動における. ともに,単語の発音の練習を取り入れ,息を吐く. 発達に遅れはみられなかった。しかし言語表出に. 練習や,口径をしっかりとする練習,舌の使い方. おいては,不明瞭な場合が多く,周囲の子どもや. の練習,会話(発声)をすることに抵抗を持たな. 支援者が聞き取りにくい場面が見られ,数回聞き. いようにするなどを取り入れて実施した。. 直すと話さなくなってしまう場面もあった。4歳. 以上のように,小学校への移行を含めた学習課. 5か月時に実施した田中ビネー知能検査Ⅴでは,. 題を設定し,平仮名や数字の学習に取り組んだ結. IQ106であるが,4歳3か月時に実施したPVT-R. 果,自分の名前を含めた平仮名の書字を習得する. 絵画語い発達検査では,語い年齢が3歳未満と,. ことができ,書字活動に興味を持つことができる. 語いの発達に遅れが見られた。また,B児は定期. ようになった。また,数量については,数字と数. 的に療育センターでの言語療法士の指導を受けて. 量の関係について興味を持つことができたことか. おり,発音や言語表出の訓練を受けている。. ら,今後も継続して指導を行っていく必要がある。. ⑵ 指導のねらい. また,B児は療育センターの理学療法士の指導. 指導1期,2期ともに,小学校への移行期であ. を受けていることから,B児の指導においては,. ることや発音が不明瞭である事から,書字活動へ. 外部機関との連携を視野に入れた情報の共有を. の影響を考え,平仮名や数字の学習活動を中心に. 図っていく必要がある。. 設定した。 ⑶ B児の様子と今後の課題 指導1期(4月~8月)では,自分の名前や友. 4.おわりに. 達の名前を書く学習課題を設定した。指導開始直. 本稿は早期幼児支援教室で実施した学習支援に. 後は,書き順や枠内のバランスが悪く,歪な平仮. おいて,障害幼児の個別学習の効果について整理. 名を書いていた。また,指導を重ねる中で, 「れ」. するとともに,障害幼児への障害特性に応じた発. 「す」 「ん」などの書き順を忘れてしまい,文字. 達支援の取り組みについて紹介することを目的と. が崩れることもあったが,見本を参考にしながら,. した。. 集中して取り組む様子が見られた。そこで,字形. 瀬下・君塚(2012)は早期療育の重要な課題と. については,枠内の4つのマスを意識して書字で. して,制限があるにしても,自立的な生活を営み,. きるように指導をすることとした。. 彼らなりに将来像をイメージし,自分たちにとっ. 数字については,10までの数唱及び数量は理解. て最善の選択をできるようになることであると指. しており,正しく書くことができていた。. 摘している。しかしながら,現在,多くの幼稚園. 指導2期(10月~翌年2月)では,小学校1年. や保育所に気になる幼児や障害幼児が在籍してい. 生で使用する国語のノートを用いて,書字活動を. ることが報告されているが,このような幼児に対. 行った。平仮名は徐々に習得する文字が増えてお. して早期からの支援や専門的な支援を個別に実施. り, 「の」 「え」 「き」「お」の字形の崩れが見られ. するには,まだまだ課題が多いことが推測される。. たが,見本を見ながら自分で修正することができ. 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2017). てきた。その結果,自分の名前は書き順通り書く. の調査結果によると,コーディネーターの指名,. 134.
(8) 早期幼児支援教室における障害幼児への発達支援. 個別の指導計画,個別の教育支援計画の実施率は,. 子・髙橋彩子(2013)大学と附属特別支援学校におけ. 小学校に比していずれも低い結果であった。この. る「早期幼児支援教室」の取組.上越教育大学特別支. ことからも幼稚園や保育所,幼保連携認定こども 園においては,特別支援教育の体制整備に遅れが. 援教育実践研究センター紀要,18,45-46. 7.Ito, T., Fukuda, S., & Fukuda, S.E. (2009) Differences Between Grammatical and Lexical Development in. 見られ,今後,インクルーシブ保育の実践や早期. Japanese Specific Language Impairment: A Case. 療育が推進される中,幼稚園や保育所,幼保連携. Study. Poznan Studies in Contemporary Linguistics, 45. 認定こども園における障害幼児に対する他機関と 連携した支援体制の構築は急務な課題ということ ができる。. ⑵, 211-221. 8.石井要(2010)脳性麻痺.茂木俊彦(編著) ,特別支 援教育大辞典.旬報社,733-735. 9.門脇ゆかり(2011)特別なニーズを必要とする子ど もの早期発見と早期支援についての考察:幼稚園・保育 所への特別支援学校のサポートの在り方.山形大学大. 付 記. 学院教育実践研究科年報,2,280-283. 10.川間健之介(2014)6肢体不自由児の心理2―障害. 本研究の実施にあたり,対象児及び保護者より. 特性を中心に―.川間健之介・西川公司(編),改訂版. 多大なるご協力をいただきました。記して感謝申. 肢体不自由児の教育.一般社団法人放送大学教育振興. し上げます。 また,支援事例においては,平成27年度北海道. 会,80-90. 11.君塚葵(2014)4肢体不自由児の整理・病理2―脳 性まひ,二分脊椎を中心に―.川間健之介・西川公司. 教育大学函館校の「障害児表現活動指導法」と「障. (編),改訂版肢体不自由児の教育.一般社団法人放送. 害児地域支援臨床」で実施した実践交流会で使用. 大学教育振興会,52-62.. した報告資料,ならびに当時のVTR記録を再整 理したものを執筆したものである。. 12.小枝達也(2009)軽度発達障害児への気づきのシス テム.独立行政法人特別支援教育総合研究所編,発達 障害支援グランドデザインの提案,ジアース教育新社. 243-253.. 文 献 1.中央教育審議会初等中等教育分科会(2012)共生社 会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築の ための特別支援教育の推進(報告). 2.郷間英世・圓尾奈津美・宮地知美・池田友美・郷間 安美子(2008)幼稚園・保育園における「気になる子」 に対する保育上の困難さについての調査研究.京都教 育大学紀要,113,81-89. 3.平澤紀子・藤原義博・山根正夫(2005)保育所・園 における「気になる・困っている行動」を示す子ども に関する調査研究:障害群からみた該当児の実態と保 育者の対応および受けている支援から.発達障害研究, 26⑷,256-267. 4.細谷一博(2015)気になる幼児を対象とした早期幼 児支援教室の実践.第68回日本保育学会ポスター発表 論文集,19011. 5.細谷一博・鈴木洸平・関﨑友里恵・村田花子・佐藤 未緒・藤嶋さと子(2015)盲学校に在籍する弱視を伴 う自閉症幼児における集団活動の検討.北海道教育大 学紀要(教育科学編),66⑴,79-86. 6.細谷一博・永長明之・鳴海さちみ・木原美桜・村田 穂佳・成田実香子・菊池美絵・根市ひかる・大橋桃. 13.宮入八重子・大石敬子・佐藤美子(1992)言語発達 遅滞児の高温と読み書きの発達について,音声言語医 学,33,290-296. 14.文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2017) 平成28年度特別支援教育に関する調査結果. 15.大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室(2007) 絵でみる心の保健室.アルタ出版株式会社. 16.笹森洋樹・後上鐵夫・久保山茂樹・小林倫代・廣瀬 由美子・澤田真弓・藤井茂樹(2010)発達障害のある 子どもへの早期発見・早期支援の現状と課題.国立特 別支援教育総合研究所研究紀要,37,3-15. 17.瀬下崇・君塚葵(2012)肢体不自由の早期療育.発 達障害研究,34⑷,322-327. 18.下野未紗子・稲富眞彦(2007)保育所における「気 になる」子ども―行動特徴,保育者の対応,親子関係 について―.高知大学教育学部研究報告,67,11-20. 19.玉井ふみ・堀江真由美・寺脇希・村松文美(2011) 就学前における「気になる子どもたち」の行動特性に 関する検討.県立広島大学保健福祉学部誌,11⑴, 103-112. 20.田中康雄(2012)発達障害の早期発見・早期療育― 過疎型あるいは小さな地域での経験から―.そだちの 科学.18,9-14.. 135.
(9) 細谷 一博・郡川 孝行. 21.田中裕美子・渡邊純・白邦和子・Lise Menn(2001) 特異的言語障害幼児の言語特徴の解明の試み.聴能言 語学研究,18⑴,2-9. 22.山口洋史(2004)これからの障害児教育 障害児教 育から「特別支援教育」へ.ミネルヴァ書房. 23.山口昌美・都築繁幸(2001)表出性言語障害児の早 期訓練過程における言語症状の変化に関する事例的考 察.治療教育学研究,21,59-66. 24.吉川はる奈・尾崎啓子・細渕富夫(2008)幼稚園教 諭を対象にした保育現場における軽度発達障害の意識 調査に関する研究.埼玉大学紀要教育学部,57⑴, 159-165.. (細谷 一博 函館校准教授) (郡川 孝行 附属特別支援学校教諭) . 136.
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