養護教諭養成課程学生への救急処置事例を用いた教育活動によるフィジカルアセスメントの観察技術と判断に関する自信の変化
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第71巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 71, No.2. 令 和 3 年 2 月 February, 2021. 養護教諭養成課程学生への救急処置事例を用いた教育活動による フィジカルアセスメントの観察技術と判断に関する自信の変化 山田 玲子・葛西 敦子*・佐藤 伸子**・福田 博美***・岡田 忠雄 北海道教育大学札幌校医科学看護学研究室 *. 弘前大学. **. 熊本大学. ***. 愛知教育大学. Changes in Self-Confidence in Observing Techniques and Decision-Making of Physical Assessment by Educational Activities Using First Aid Cases for Yogo Teacher Education Course Students YAMADA Reiko, KASAI Atsuko*, SATO Nobuko**, FUKUDA Hiromi*** and OKADA Tadao Department of Clinical Science and Nursing, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education *. Hirosaki University. **. Kumamoto University. ***. Aichi University of Education. 概 要 学校現場において医学的・看護学的知識を兼ね備えた唯一の存在である養護教諭にとって, 疾病や事故への救急処置は,児童生徒の生命や安全を守るために重要である。養護教諭は,救 急処置の際に子どもの状態を判断するため,フィジカルアセスメントを行っている。しかし, そこで得られたデータや観察内容を的確に判断して対応する際の困難さが指摘されている。そ のため,養護教諭の養成教育において,学校救急処置における判断力を育成することは重要で ある。 今回,養護教諭養成課程の学生を対象に学校救急処置に係る授業の前後でアンケート調査を 行い,バイタルサイン観察を含めたフィジカルアセスメントに関する自信と教育活動による変 化を調査した。その結果,学生はバイタルサイン等の観察はできるが判断に自信がないことが 明らかになった。このことから,フィジカルアセスメントの項目別に判断指標を明確に示すな どの工夫をすることから,観察技術を的確な判断につなげられるような教育方法を確立してい く必要があると考えた。. 309.
(3) 山田 玲子・葛西 敦子・佐藤 伸子・福田 博美・岡田 忠雄. Ⅰ.はじめに. Ⅱ.方 法. 近年,子どもの心身の健康課題の多様化・複雑. 1.調査対象・調査期間. 化に伴う健康状態の急変に加え,予期せぬ状況で. A大学とB大学の養護教諭養成課程の3年次学. 傷病や事故が発生することもあり,学校において. 生計46人(A大学26人,B大学20人)を対象に,. 児童生徒の生命や安全を守るという教職員の責務. 2019年7月に自記式無記名の質問紙調査を実施し. はますます重要になっている。このような状況の. た。. 中,学校現場において医学的・看護学的知識を兼 ね備えた唯一の存在である養護教諭にとって,疾. 2.調査方法・分析方法. 病や事故への救急処置は優先順位の高い役割であ. 1)本調査に係る学習内容 筆者らが担当する科目「学校看護学実習」にお. るといえる。 学校における救急処置とは,児童生徒等の命を. いて,2大学共通で構築した『「食物アレルギー」. 守り健康問題の解決を図るための活動であり,児. のある子どものフィジカルアセスメントとその対. 童生徒等の突発的な発病やけがなど学校管理下で. 応』と題した講義と事例を用いたグループ実習の. 1). 生じた全ての傷病が対象となる 。保健室はその. 前後で調査を行った。. 救急処置を担う場所であり,養護教諭は児童生徒. この授業のねらいは,「食物アレルギーのある. の傷病に対して,フィジカルアセスメント等に基. 子どもの事例を活用し,バイタルサイン観察を含. づいた判断を行い,適切な処置対応につなげてい. むフィジカルアセスメントの知識・技術を習得. 2). る 。フィジカルアセスメントとは「身体にどの. し,養護教諭の判断能力の育成を目指す」であっ. ようなことが生じているのかを,根拠に基づき的. た。. 確に把握しようとするもっとも客観的な情報を得 3). 主な学習内容としては,フィジカルアセスメン. られるアセスメント」 のことである。そのフィ. ト(調査内容に示した11項目の観察方法と正常・. ジカルアセスメントを実践する上で,身体情報を. 異常所見)および食物アレルギーに関する講義の. 収集する技術は重要である。とりわけ,意識,呼. 後,学生へ事例を提示し,グループで養護教諭と. 吸,脈拍,体温,血圧を含むバイタルサインの観. してどのように対応するかを検討させた。次に,. 察は,人間の生命徴候を把握する最も基本的で重. グループ内で患者役,養護教諭役,担任役,管理. 4). 要な技術 であり,異常の早期発見に必須となる。. 職役を決めてロールプレイを行った。. 一方で,学校における救急場面において養護教諭. 2)調査内容と分析方法. は,観察したバイタルサインを含むフィジカルア. 調査内容は,体温・脈拍・血圧・呼吸数・呼吸. セスメントを的確に判断し対応へとつなげる際の. 音・意識レベル・対光反射・顔色・腸音・皮膚・. 困難さが指摘され. 5-6). ,養成課程での教育方法の. 7-10). 触診の11項目についての『観察技術』と『正常・. 。. 異常の判断』に関する細目であった。各細目に対. そこで本研究では,養護教諭養成課程の学生を. する学生の自信を,8点〈自信がある〉から1点. 対象に学校救急処置に係る授業の前後でアンケー. 〈自信がない〉までで自己評価してもらった。そ. ト調査を行い,バイタルサイン観察を含めたフィ. れぞれの細目毎に平均得点を算出し,5点以上を. ジカルアセスメントに関する自信と教育活動によ. 〈どちらかといえば自信がある〉,5点未満を〈ど. る変化を確認し,今後のフィジカルアセスメント. ちらかといえば自信がない〉とした。また,平均. 教育への示唆を得ることを目的とした。. 得点の統計学的分析は,対応のあるt検定を行い,. 検討が行われている. 有意水準は5%未満とした。. 310.
(4) 学生への救急処置事例を用いたフィジカルアセスメント. 3.倫理的配慮. 「 1. 体 温 」6.4(SD1.26) 点,「 2. 脈 拍 」5.8. 対象の学生には,授業開始前に調査目的,方法,. (SD1.26)点「8.顔色」5.0(SD1.26)点の順. プライバーの保護,匿名性の保証,データ使用範. で高得点であった。一方「11.触診」3.5(SD1.15). 囲等について口頭で説明した。回答は自由意思で. 点, 「9.腸音」3.9(SD1.75)点, 「5.呼吸音」. あり,学生が本調査への参加を断っても,不利益. 3.9(SD1.49)点の順で低得点であった。また, 『②. を受けることは一切ないことを伝えた。また,調. 正常・異常の判断』でも,ほぼ同様の結果であっ. 査用紙の回収をもって同意を得たこととした。な. た。. お,本研究は北海道教育大学倫理審査委員会の承 認を得て実施した(北教大研倫18011004)。. 授業後の『①観察技術』の自信の平均得点は, 「 1. 体 温 」7.0(SD0.97) 点,「 2. 脈 拍 」6.4 (SD1.17)点,「3.血圧」5.8(SD1.40)点の順 で高得点であった。一方「9.腸音」4.0(SD1.66). Ⅲ.結 果. 点, 「11.触診」4.2(SD1.29)点, 「7.対光反射」. 1.フィジカルアセスメント授業前後の自信の平. 4.6(SD1.82)点の順で低得点であった。また, 『②. 均得点の変化(表1). 正常・異常の判断』でも,ほぼ同様の結果であっ. 授業前の『①観察技術』の自信の平均得点は,. た。. 表1 フィジカルアセスメント授業前後の『観察技術』と『正常・異常の判断』における自信の平均得点の変化 n=46. 項 目. 細 目. 授業前 平均得点(SD). 授業後 平均得点(SD). p値 ( t 検定). 1.体温. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 6.4 5.6. (1.26) (1.22). 7.0 6.2. (0.97) (0.99). 0.000 0.001. *** **. 2.脈拍. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 5.8 4.6. (1.26) (1.24). 6.4 5.5. (1.17) (1.09). 0.002 0.000. ** ***. 3.血圧. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 4.8 4.3. (1.66) (1.30). 5.8 5.4. (1.40) (1.08). 0.000 0.000. *** ***. 4.呼吸数. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 4.7 4.3. (1.58) (1.30). 5.7 5.3. (1.57) (1.19). 0.000 0.000. *** ***. 5.呼吸音. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 3.9 3.6. (1.49) (1.24). 4.7 4.3. (1.57) (1.45). 0.000 0.002. *** **. 6.意識レベル. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 4.9 4.0. (1.25) (1.37). 5.6 5.3. (1.21) (1.11). 0.000 0.000. *** ***. 7.対光反射. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 4.9 4.1. (1.67) (1.44). 4.6 4.3. (1.82) (1.70). 0.302 0.852. n.s. n.s.. 8.顔色. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 5.0 4.5. (1.26) (1.36). 5.7 5.3. (1.14) (1.20). 0.000 0.002. *** **. 9.腸音. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 3.9 3.3. (1.75) (1.47). 4.0 3.7. (1.66) (1.51). 0.443 0.121. n.s. n.s.. 10.皮膚. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 4.4 4.0. (1.14) (1.23). 5.2 4.7. (1.37) (1.38). 0.000 0.005. *** **. 11.触診. ①観察技術 ②正常・異常の判断. 3.5 3.2. (1.15) (0.99). 4.2 3.9. (1.29) (1.24). 0.000 0.000. *** ***. **. p<0.01, ***p<0.001 n.s.: not significant. 311.
(5) 山田 玲子・葛西 敦子・佐藤 伸子・福田 博美・岡田 忠雄. 表2 授業前と授業後における『観察技術』と『正常・異常の判断』の自信の平均得点の比較 n=46. 授業前 項 目. 1.体温 2.脈拍 3.血圧 4.呼吸数 5.呼吸音 6.意識レベル 7.対光反射 8.顔色 9.腸音 10.皮膚 11.触診. ①観察技術. ②正常・異常 の判断 平均得点(SD) 平均得点(SD) 6.4 5.8 4.8 4.7 3.9 4.9 4.9 5.0 3.9 4.4 3.5. (1.26) (1.26) (1.66) (1.58) (1.49) (1.25) (1.67) (1.26) (1.75) (1.14) (1.15). 5.6 4.6 4.3 4.3 3.6 4.0 4.1 4.5 3.3 4.0 3.2. (1.22) (1.24) (1.30) (1.30) (1.24) (1.37) (1.44) (1.36) (1.47) (1.23) (0.99). 授業後 p値. ①観察技術. ②正常・異常 の判断 平均得点(SD) 平均得点(SD). ( t 検定) 0.000 0.000 0.012 0.012 0.063 0.001 0.000 0.001 0.001 0.003 0.002. *** *** * * n.s. ** *** ** ** ** **. 7.0 6.4 5.8 5.7 4.7 5.6 4.6 5.7 4.0 5.2 4.2. (0.97) (1.17) (1.40) (1.57) (1.57) (1.21) (1.82) (1.14) (1.66) (1.37) (1.29). 6.2 5.5 5.4 5.3 4.3 5.3 4.3 5.3 3.7 4.7 3.9 *. (0.99) (1.09) (1.08) (1.19) (1.45) (1.11) (1.70) (1.20) (1.51) (1.38) (1.24). p<0.05,. p値 ( t 検定) 0.000 0.000 0.002 0.045 0.002 0.022 0.003 0.005 0.000 0.000 0.000. *** *** ** * ** * ** ** *** *** ***. **. p<0.01, ***p<0.001 n.s.: not significant. 『①観察技術』と『②正常・異常の判断』の自. 断するため,フィジカルアセスメントを行ってい. 信の平均得点は,授業前に比べ授業後に全ての項. るが,得られたデータや観察内容を的確に判断す. 目で上昇しており,11項目中9項目では有意な上. る際に困難を感じていることが指摘されている。. 昇があった。. そのため,養護教諭養成教育において,救急処置. また,授業前の平均得点が5点未満であり,授. における判断力を育成していく必要がある。今回,. 業後に5点以上と変化したのは,「2.脈拍 ②. 養護教諭養成課程の学生を対象に学校救急処置に. 正常・異常の判断」 「3.血圧 ①観察技術」 「3.血. 係る授業の前後でアンケート調査を行い,バイタ. 圧 ②正常・異常の判断」「4.呼吸数 ①観察. ルサイン観察を含めたフィジカルアセスメントに. 技術」 「4.呼吸数 ②正常・異常の判断」 「6.意. 関する自信と教育活動による変化を確認した。そ. 識レベル ①観察技術」「6.意識レベル ②正. の結果を検討し,フィジカルアセスメント教育に. 常・異常の判断」 「8.顔色 ②正常・異常の判断」. ついて考察した。. 「10.皮膚 ①観察技術」の9細目だった。 1.授業前後におけるフィジカルアセスメントに 2.授業前と授業後における 『観察技術』 と 『正常・. 関する自信の変化. 異常の判断』の自信の平均得点の比較(表2). 今回の調査で学生の自信の平均得点が最も高. 授業前・授業後ともに『①観察技術』の自信の. かったのは,授業の前後ともに「1.体温」の『①. 平均得点が『②正常・異常の判断』の自信の平均. 観察技術』であった。先行研究の結果5)11)におい. 得点に比べ,有意に高得点であった。その中で,. て養護教諭が最も観察していた「1.体温」に対. 授業前において「5.呼吸音」の自信の平均得点. する自信が最も高い結果となった。一方で低得点. のみが,有意な差はなかった。. であったのは,「9.腸音」「11.触診」に関する 項目であり,特に「9.腸音」に関しては,その. Ⅳ.考 察 養護教諭は,救急処置の際に子どもの状態を判. 312. 『①観察技術』『②正常・異常の判断』ともに, 授業前後の有意差が認められず,授業を受けても なお自信がない状態であった。しかし腸音は,児.
(6) 学生への救急処置事例を用いたフィジカルアセスメント. 童生徒の訴えが多い“腹痛”の際に急性腹症を見. る救急処置の1事例のみの実施であったが,今後. 逃さないための必須観察項目12)13)であるため,. は学校現場において想定される様々な症状や複数. その観察をする際には具体的に何をどのように測. の事例を組み合わせた実習を継続して実施するこ. 定するのか,そして何をどのように観るのかを明. とが重要である。さらには,フィジカルアセスメ. 確にするなどし,学生の自信が高まるような『①. ントから得られたデータの正常と異常の違いが学. 観察技術』の教育方法を考える必要がある。. 生にも理解しやすい音のサンプルや映像などを用. 授業前後の自信の変化について全体的にみる. いて複数回の訓練を行った上で,多角的かつ総合. と,調査した11項目中,「1.体温」「2.脈拍」. 的なフィジカルアセスメントから学生の自信を高. 「3.血圧」 「4.呼吸数」 「5.呼吸音」 「6.意. め,的確な判断につなげていく能力を 養えるよ. 識レベル」 「8.顔色」 「10.皮膚」 「11.触診」. うにする工夫があると考える。. の9項目で授業前より授業後の方が有意に得点の 上昇があったことから,事例をイメージしながら. 2. 『観察技術』と『正常・異常の判断』の自信. 演習や実習をすることは,学生の自信に影響を与. の比較. えることが示唆された。一方で, 「7.対光反射」. 『①観察技術』と『②正常・異常の判断』の平. 「9.腸音」の2項目は,得点に有意な差は認め. 均得点を比較したところ,授業前では調査した11. られなかった。その理由として,今回の授業で用. 項目中「1.体温」 「2.脈拍」 「3.血圧」 「4.呼. いたアレルギー事例では優先的に観察する項目と. 吸数」 「6.意識レベル」 「7.対光反射」 「8.顔. して設定しなかったことが要因だと考える。今後. 色」 「9.腸音」 「10.皮膚」 「11.触診」10項目で,. はアレルギー事例のみならず,様々な症状・疾患. 授業後では「5.呼吸音」を含めた11項目すべて. の模擬事例を用いた実習がフィジカルアセスメン. において『②正常・異常の判断』の方が有意に得. ト教育には必要である。. 点は低かった。この結果から,観察はできるが判. 各細目における授業前後の比較では,授業前の. 断に自信がないことが明らかになった。養護教諭. 平均得点が5点未満の〈どちらかといえば自信が. の頻回観察事項である「1.体温」についても同. ない〉と評価していたものの,授業後には5点以. 様の結果であり,判断には自信が持てない人もい. 上の〈どちらかといえば自信がある〉に変化した. ることが推測された。ただし,授業前後を比較す. のは, 「2.脈拍 ②正常・異常の判断」「3.血. ると,前述したとおり,「7.対光反射」「9.腸. 圧 ①観察技術」 「3.血圧 ②正常・異常の判断」. 音」を除いた9項目では授業後の方が有意に得点. 「4.呼吸数 ①観察技術」 「4.呼吸数 ②正常・. は高くなっており,事例を用いた実践的な授業の. 異常の判断」 「6.意識レベル ①観察技術」 「6.意. 効果は示唆されたものと考える。今後の授業にお. 識レベル ②正常・異常の判断」「8.顔色 ②. いて,事例のバリエーションを増やすとともに,. 正常・異常の判断」「10.皮膚 ①観察技術」の. 子どもが呈する症状から緊急性や重症度を判断す. 9細目だった。これら9細目については,学生が. るためのアセスメント項目を示す15)ことが必要. 今回の講義・授業で用いた事例と関連させながら. である。さらに,その項目の測定・観察で得られ. 理解し,自信を持つことができた内容であると言. たデータを,緊急対応の判断につなげられるよう,. える。葛西らの研究14)においても,フィジカル. フィジカルアセスメントの項目別に判断指標を明. アセスメントの実践力を身に付けさせるために. 確に示す工夫をするなど,観察を的確な判断につ. は,模擬事例を活用した授業は有効であることが. なげられるような教授方法を確立していく必要が. 明らかになっている。さらにこの先行研究では,. あると考える。さらには,養護教諭の「根拠に基. 学生の自信を向上させるために反復実習の必要性. づく養護を展開する実践力」を育成することが必. も示唆されている。今回は食物アレルギーに関す. 須であり,そのため,養護教諭の専門性に特化し. 313.
(7) 山田 玲子・葛西 敦子・佐藤 伸子・福田 博美・岡田 忠雄. たフィジカルアセスメント教育を構築する16)こ. を調査した。その結果,以下の知見を得た。. とが重要である。. 1.授業前の『①観察技術』の自信の平均得点は,. また,今回の結果から示唆された学生の判断に. 「1.体温」「2.脈拍」「8.顔色」の順に高. 関する自信のなさに関しては,観察した内容から. 得点であっり, 「11.触診」「9.腸音」「5.呼. 判断に至るまでの思考プロセスが明確にできてい. 吸音」の順に低得点であった。また, 『②正常・. ない事が影響していると考える。先行研究におい. 異常の判断』でも,ほぼ同様の結果であった。. て,養護教諭の学校救急処置時の判断に関する困. 授業後の『①観察技術』の自信の平均得点は,. 難となる要因の一つとして,情報収集から判断に. 「1.体温」「2.脈拍」「3.血圧」の順に高. 至るまでに「不十分な思考プロセス」が存在する. 得点であり,「9.腸音」「11.触診」「7.対. 17). 。学校救急時の養護教. 光反射」の順に低得点であった。また, 『②正常・. 諭の思考プロセスを顕在化したり,自身の思考プ. 異常の判断」でも,ほぼ同様の結果であった。. ロセスを客観視することの重要性が示されている. 2.授業前の自信と授業後の自信の平均得点の比. ことから,養成教育においても,事例を用いて情. 較では,調査した11項目中「1.体温」「2.脈. 報収集から判断までのプロセスを,自分の考えを. 拍」 「3.血圧」 「4.呼吸数」 「5.呼吸音」 「6.意. 含めて記述し,それを振り返ることで,不十分な. 識レベル」 「8.顔色」 「10.皮膚」 「11.触診」. 思考プロセスを回避し,的確な判断へとつなげる. の9項目で授業前より授業後の方が有意に得点. 力が養われるのではないかと考える。今回の授業. は高かったことから,事例をイメージした実習. に関しても,今後は学生の思考プロセスが明確に. を取り入れた授業を展開することは,学生の自. なるような記録用紙を作成し,授業後にそれを活. 信に影響を与えることが示唆された。. ことが指摘されている. 用したフィードバックができるように工夫する必 要がある。. 3.授業前・授業後ともに『①観察技術』の自信 の平均得点が『②正常・異常の判断』の自信の. さらに,これには教員免許法における養護に関. 平均得点に比べ,有意に高得点であった。その. する科目である「看護学(臨床実習及び救急処置. 中で,授業前において「5.呼吸音」の自信の. を含む) 」10単位内での授業科目すべてにおいて,. 平均得点のみが,有意な差はなかった。. 観察したことが何を示し,どのような意味をもつ. 以上より,今回,調査対象とした養護教諭養成. のかを具体的に示すことが必要になる。そのため. 課程の学生は,観察はできるが判断に自信がない. には,科目間での検討を図るとともに具体的な事. ことが示唆された。しかし,今回,具体的な事例. 例を用いての演習や臨床実習との連携をする中. を用いて自らバイタルサイン観察を含めたフィジ. で,それらすべてがつながるように支援すること. カルアセスメントの授業を行った結果,授業前よ. が重要である。 それぞれの科目の特性を活かして,. りも『②正常・異常の判断』の得点が有意に上昇. “子どもを全人的に観る”ための観察と判断を示. したことから,事例を用いるなどの実践的な教育. し,養護教諭養成においてフィジカルアセスメン. 活動により,的確な判断を行うことへの自信を育. ト教育が発展することが望まれる。. 成できるのではないかと考えた。. Ⅴ.結 語. Ⅵ.研究の限界と課題. 本研究では,養護教諭養成課程の学生を対象に. 本研究では,養護教諭養成課程の学生へのアン. 学校救急処置に係る授業の前後でアンケート調査. ケート調査から,バイタルサイン観察を含めた. を行い,バイタルサイン観察を含めたフィジカル. フィジカルアセスメントに関する自信と教育活動. アセスメントに関する自信と教育活動による変化. による変化を調査した。今回の授業では救急処置. 314.
(8) 学生への救急処置事例を用いたフィジカルアセスメント. として食物アレルギー事例を用いたが,1事例の. 8) 小川真由子,福田博美,佐藤伸子ほか:養護教諭養. みの実施にとどまり,フィジカルアセスメント項. 成課程における臨床判断能力を向上させるためのシ. 目すべてについて,教育効果を見ることは出来な かった。今後は子どもが呈する多様な症状を用い た授業を展開し,そこで実施するフィジカルアセ スメント項目とその観察で得られたデータを,判 断と支援につなげられるようにすることが重要で ある。そのためには,フィジカルアセスメントの. ミュレーション教育の検討―高機能患者シミュレー ターを用いた一次救命処置のプログラムに関して―, 鈴鹿大学・鈴鹿短期大学部紀要(人文科学・社会科学 編) ,第1号,2018 9) 林さえ子,福田博美,小川真由子ほか:養護教諭養 成課程における臨床判断能力を育成するシミュレー ション教育プログラムの提案と評価,愛知教育大学紀 要(教育科学編) ,68,37-44,2019. 項目別に判断指標を明確に示すなどの工夫をする. 10) 岡田加奈子,三村由香里,齊藤理砂子:保健室模擬. など,観察を的確な判断につなげられるような教. 事例から考えるフィジカルアセスメント教育―「小学. 授方法を確立していく必要があると考える。 学校に唯一の存在である養護教諭として勤務を. 校2年生女児の腹痛事例」に対する学生の思考プロセ スと授業評価―,千葉大学教育学部研究紀要,66⑴, 141-148,2017. する前に,正確な測定と観察で得た情報を的確な. 11) 藤井紀子,福田博美,小川真由子ほか:養護教諭に. 判断へと導く力をつける必要がある。今後は,今. おける脈拍のシミュレーション教育プログラムを用い. 回のような実践的かつ具体的な授業を継続して行 うとともに,特に自信が低得点だった項目に関す. た研修の評価, 愛知教育大学紀要(教育科学編) ,67⑴, 145-151,2018 12) 岡田加奈子, 遠藤伸子, 池添志乃編著:改訂養護教諭,. る教授方法を工夫し,判断力に長けた養護教諭の. 看護師,保健師のための学校看護,東山書房,216,. 養成に寄与していきたい。. 2019. 本研究は,JSPS科研費17K04835および17K12564 の助成を受けて実施されたものの一部である。. 13) 永井利三郎監修,荒木田美香子,池添志乃ほか編著: 初心者のためのフィジカルアセスメント―救急保健管 理と保健指導―,東山書房,129,2008 14) 葛西敦子,佐藤伸子,三村由香里ほか:養護教諭養 成課程学生へのフィジカルアセスメント教育プログラ ムの実践と評価―頭痛を訴える子どもの模擬事例の活. 引用文献 1) 日本養護教諭教育学会:養護教諭の専門領域に関す る用語の解説集〈第三版〉,24,2019 2) 葛西敦子,福田博美,山田玲子ほか:養護教諭の臨 床判断に関する測定用具の開発,弘前大学教育学部紀 要,第121号,157-166,2019. 用―,日本養護教諭教育学会誌,19⑵,5-15,2016 15) 三村由香里,松枝睦美,葛西敦子ほか:養護教諭に 必要とされるフィジカルアセスメント―保健室でみら れる原因を根拠とした提案―,岡山大学大学院教育学 研究科研究集録,第161号,25-33,2016 16) 葛西敦子,中下富子,三村由香里ほか:養護教諭養 成大学の教員を対象とした「子どものからだをみる」. 3) 山内豊明監修,三村由香里,岡田加奈子編著:保健. フィジカルアセスメント教育に関する実態調査―養成. 室で役立つフィジカルアセスメント,東山書房,23,. 背景別(教育系・学際系・看護系)の比較―,日本養. 2013. 護教諭教育学会誌,17⑵,27-40,2014. 4) 横山美樹:はじめてのフィジカルアセスメント,メ ヂカルフレンド社,9-10,2010 5) 山田玲子,岡田忠雄:養護実践におけるバイタルサ. 17) 丹佳子,小迫幸恵,田中周平:養護教諭が行う学校 救急処置における臨床推論の実態と特徴―困難事例か らの分析―,学校保健研究,61⑷,202-211,2019. イ ン 観 察 に 関 す る 研 究, 小 児 保 健 研 究,75⑸,602608,2016. . (山田 玲子 札幌校教授) . . (葛西 敦子 弘前大学教育学部教授). . (佐藤 伸子 熊本大学大学院講師) . 7) 佐藤伸子,葛西敦子,福田博美ほか:学生の臨床判. . (福田 博美 愛知教育大学教授) . 断能力育成に向けた体温・脈拍の継続観察の意義,熊. . (岡田 忠雄 札幌校教授) . 6) 丹佳子:重症事例における養護教諭の対応と観察の 実態―非緊急対応群と緊急対応群における観察実施率 の比較―,学校保健研究,58,215-226,2016. 本大学教育学部紀要,第68号,189-197,2019. 315.
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