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へき地教育研究の類型化と教員養成教育の課題

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(1)Title. へき地教育研究の類型化と教員養成教育の課題. Author(s). 川前, あゆみ. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第46号: 53-62. Issue Date. 2014-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7753. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 −北海道教育大学釧路校研究紀要−第46号(平成26年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.46(2014):53-62. へき地教育研究の類型化と教員養成教育の課題 川 前 あゆみ 北海道教育大学釧路校地域学校教育専攻. Review of a Society for the Study of Rural Education and Left Problem Ayumi KAWAMAE Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 要旨  本稿の課題は、少子化による児童生徒数の減少と近年さらに加速化している全国的な学校統廃合が進んでいる中で、改 めて高度経済成長以降の教育の地域格差の研究に着目し、へき地教育研究の動向と研究内容の分類化を課題とした。へ き地教育研究に関して様々な単独論稿はあるが、本稿ではへき地教育研究の大きな変遷と特徴を踏まえた研究動向をとら え、北海道に特に多いへき地小規模校の教員養成教育の課題を整理した。  本稿では、高度経済成長以降のへき地教育研究を大別すると、5つに分類することができた。それは、「1.へき地の 地域問題・教育格差問題と課題克服に関する研究」「2.へき地教育研究連盟等によるへき地教育の実践的指導方法に関 する研究」 「3.へき地校の地域連携に関する研究」 「4.近年の少子化等による人口減少と学校統廃合・存続に関する研究」 「5.へき地教育の教員研修とへき地教育実習に関する研究」である。この5点の類型をもとに、へき地小規模校教育研 究に必要な教員養成のあり方について、今後の継続的な研究の必要性があることを明らかにした。. はじめに−へき地教育研究の全体構造と課題. と、教育の地域格差解消問題がようやく研究としても取り.  本稿の課題は、第一に、へき地教育研究に関する出版さ. 上げられるようになった。1953年にはへき地教育振興法が. れた書籍の動向と研究内容を概観した上でへき地教育研究. 制定され、1954年には北海道学芸大学に、日本で初めて. の動向を大きく分類すること、第二に、分類したへき地教. 「僻地教育研究所」(注1)が創立され、全国へき地教育. 育研究の動向を踏まえた上で、へき地教育研究の大きな流. 研究連盟とともに、へき地教育研究の一つの中心的な役割. れの中で、現代においてへき地教育に関わる教員養成教育. を果たした。これらのへき地教育研究所や全国へき地教育. 研究の必要性をとらえることを課題としている。. 研究連盟に関わる人たちは、へき地教育に関する出版でも.  高度経済成長期以前の農山村社会の教育研究は、へき地. 中心的な役割を果たし、多くの研究成果を残している。こ. 教育の課題以前に、農山漁村の共同体的な地域全体の雰囲. のようなへき地教育がどのような観点で取り上げられるよ. 気が、 子どもや学校教育に与える影響が大きかった。その. うになったか、へき地教育研究の大きな変遷と特徴を踏ま. ため、イエとムラを基盤にした村落社会研究が中心であ. えた出版研究動向をとらえていきたい。へき地教育に関し. り、村落が果たす教育的役割と同時に村落社会の封建的慣. ては、様々な単独論稿はあるが、ここで取り上げる研究動. 習からの脱却や、村落生活の近代化の問題が、地域教育の. 向は、直近の最近の研究を除き、大部分は出版された本を. 大きな課題となっていた。. 中心にして類型化している。まとまった本として刊行され.  教育の地域格差の研究が大きく取り上げられ始めたの. たへき地教育研究およびその時代の中心的な論稿をとらえ. は、1950年代後半からの高度経済成長以降のことである。. ることで、へき地教育研究の大きな動向をとらえることが. 高度経済成長下では、復興を早める都市・市街地とインフ. できるからである。. ラ整備が遅れた農山村との地域格差は拡大していき、取り 残された農山村が、急激な人口減少による過疎化を迎え. 1.へき地教育研究の概観による分類化と特性. た。過疎問題は、自治体財政問題を含めて地域生活破壊・.  刊行されたへき地教育に関する書籍を概観することで、. 財政破綻をもたらしていき、この地域経済格差解消を求め. 最初にへき地の研究を大きく分類することができる。この. る声も次第に大きくなっていった。. 分類は、筆者による分類であるが、ある程度へき地を取り.  このような地域格差は、教育の地域格差をもたらし、教. 巻く時代背景を反映した特徴を中心にして分類したもので. 育界においても、取り残された農山村のへき地教育の課題. ある。時代背景を踏まえてへき地教育研究を仮に大きく分. − 53 −.

(3) 川 前 あ ゆ み けると、次の5つに分けることができる。. る研究は、新しい研究領域である。.  第一次的な5つの研究分類は、 「1.へき地の地域問題・.  以下分類した5つの研究領域の、それぞれの分野ごとの. 教育格差問題と課題克服に関する研究」「2.へき地教育. 研究動向をとらえていきたい。. 研究連盟等によるへき地複式教育の実践的指導方法に関す る研究」「3.へき地校の地域連携に関する研究」 「4.近. 2.へき地の地域問題・教育格差問題と課題克服に関する. 年の少子化等による人口減少と学校統廃合・存続に関する. 研究. 研究」「5.へき地教育の教員研修とへき地教育実習等の.  (1)へき地の教育環境とへき地教育振興法の制定に関. へき地教師教育に関する研究」 に、 分類することができる。. する研究.  「1.へき地の地域問題・教育格差問題と課題克服に関.  第1の分類としてのへき地教育研究の動向は、劣悪なへ. する研究」と「2.へき地教育研究連盟等によるへき地教. き地の環境とその地域格差改善・教育条件整備の課題克服. 育の実践的指導方法に関する研究」 は、 表裏の関係にある。. に関する研究である。. すなわち「1.」のへき地教育の問題点はあるが、 一方で、.  1954年に施行された「へき地教育振興法」は、戦後から. 「2. 」の実践的な解決方法の研究が展開することになる。. ようやく復興され始めた教育条件整備の中で、へき地の学. 「2.へき地教育研究連盟等によるへき地複式教育の実践. 校の条件整備を進める目的で制定されたものである。へき. 的指導方法に関する研究」は、複式授業・生徒指導・地域. 地教育振興法の制定目的は、第1条「この法律は、教育の. 連携・学校経営などの様々な実践的な方法の研究開発が進. 機会均等の趣旨に基き、かつ、へき地における教育の特殊. められている。. 事情にかんがみ、国及び地方公共団体がへき地における教.  「3.へき地校の地域連携に関する研究」は、地域と密. 育を振興するために実施しなければならない諸施策を明ら. 接な関係を持ち、地域に影響されるへき地の学校教育が問. かにし、もつてへき地における教育の水準の向上を図るこ. 題となるが、農山村地域から都市部への激しい人口減少が. とを目的とする」と記されている。また第2条で、へき地. 起きる高度経済成長期には、地域の担い手自体が減少して. 学校とは、「交通条件及び自然的、経済的、文化的諸条件. いく。それに伴い、地域の影響力が急速に低下していき、. に恵まれない山間地、離島その他の地域に所在する公立の. 学校と地域の連携研究も、高度経済成長後に急速に減少し. 小学校及び中学校」と規定された。. ていく。一方で1990年代以降は、地域を生かす学校教育活.  これらの制定過程に関しては、生井武久「『へき地教育. 動が課題となっており、新たな学校と地域の連携研究が起. 振興法』の成立過程」(注2)などが、へき地の予算・物. きている。. 品の不足等の背景からとらえている。関根育恵・新田和幸.  「4.少子化等による人口減少と学校統廃合・存続に関. 「『へき地教育振興法』 の制定過程に関する一考察」 (注3). する研究」は、一つは「昭和の町村大合併」と言われる. も、教育の機会均等の観点から見たへき地教育振興法制定. 1953年の「町村合併促進法」以来の合併の中で、学校統廃. の社会的意義をとらえている。へき地教育振興法は、少し. 合も進められた動向に関する研究である。その時代は過. ずつ改定され、へき地条件の考え方にも変化がある。へき. 疎・過密問題はありながらも、全国的に人口が増加してお. 地教育振興法の変化については、玉井康之氏が「『へき地. り、一定の学校規模を確保することが適切であるという前. 教育振興法施行規則』に見るへき地校のとらえ方の変化と. 提の中で学校統合問題が出されていた。それでも学校統廃. へき地の課題」(注4)の中で、高校・郵便局・病院など. 合が地域社会や子どもの発達にもたらす負の影響も研究さ. の有無が、へき地性の大きな条件として残っていることを. れている。. 指摘している。.  もう一つは、近年の統廃合問題は、1995年の町村合併特.  これらのへき地教育振興法に関わる研究は、教育基本法. 例法による「平成の町村大合併」と連動した学校統廃合の. が目指す教育の機会均等の理念を原則として、へき地の条. 動向に関する研究である。さらに近年は、少子化の中で子. 件整備の均等な発展を目指す観点から、へき地教育の条件. ども自体が減少していき、地方の大部分の学校が小規模校. 整備の必要性をとらえている。. 化するにしたがって、様々な教育問題や経営問題が生じて いることに関わる研究が行われている。.  (2)地域格差と教育条件整備に関する研究.  「5. へき地教育の教員研修とへき地教育実習等のへき.  へき地教育振興法の背後にあるのは、当時の教育格差の. 地教師教育に関する研究」は、へき地小規模校に赴任した. 問題である。へき地が恵まれない地域として位置づけられ. あとでの実践的な研修というだけでなく、新卒・若手教員. るようになった背景を地域環境の変化に起因しているとと. のへき地校赴任が多いことを前提にして、意識的な教員養. らえ、集落の歴史的な変化からへき地性をとらえたのは、. 成教育としてのへき地教育の研修や実習が課題となってい. 榎本守恵著『近代僻地教育の研究』(注5)である。榎本. る。. 守恵は1960年代までの集落構造の変化の中から、へき地性.  このような大きな課題と研究の展開を分類してとらえる. が規定されていることをとらえ、当時の論文を集大成して. ことで、現在のへき地教育研究の到達点と今後の研究課題. 著書を刊行している。. が見えてくる。とりわけ「5.」のへき地教師教育に関す.  教育社会問題としてのへき地教育研究としては、溝口謙. − 54 −.

(4) へき地教育研究の類型化と教員養成教育の課題 三の「日本教育社会学の現状と課題-僻地教育」(注6)が.  へき地校の指導で最も教師が戸惑うのは、複式授業の指. ある。溝口謙三はこの論稿において、「へき地教育の研究. 導である。複式学級では、2学年の子どもが1つの同じク. は、“へき地の教育問題を対象とする教育社会学的研究” 」. ラスにいて、教師は2学年の授業を同時に進めていく。そ. と位置づけ、村落階層問題・僻地の子どもの認識問題・複. のため、教師は同時間で2つの授業の準備をすることにな. 式問題・地域問題などを、研究として取り上げていく必要. るが、子どもにとっては単に自習が半分入って、授業時間. 性を主張している。溝口謙三は、 『へき地の子ども』 (注7). が半分にならないように、わたり・ずらしをうまく行うこ. においても、「激しい労働」 「もの言わぬ子」などのへき地. とが必要になる。. の子どもの問題と、その地域社会環境の改善の必要性を指.  複式学級は複式授業を基盤にしているものであるが、安. 摘している。. 部彦次郎著『複式学級論』(注14)は、複式授業の基礎と.  へき地校の学力が低い要因に関しては、天野牧夫「僻地. なる複式学級運営の「無学年集団」 「学年集団」 「生活集団」. 学校の学力差の要因」(注8)が、家庭の勉強時間・家庭. の3つの特性と複式授業運営の「無学年教育課程」と「学. の雰囲気や教育的関心などの影響が大きいことを指摘して. 年別教育課程」 ・「同単元指導」の3つの特性をとらえてい. いる。これらは、当時のへき地の保護者・地域の生業とも. る。高柳晃著『複式教育の理論と実践』(注15)は、複式. 関係している。. 学級の実態を把握した上で、複式授業の分析観点や単元指.  へき地校の問題として教員配置・給与等の人事問題を歴. 導計画の方法をとらえている。. 史的にとらえたのは、佐野朝男 「へき地教育研究の方向」 (注.  全国へき地教育研究連盟が編集している『へき地・小規. 9)であり、一般教員が敬遠したくなるようなへき地の人. 模・複式学校の特性を生かした学習指導(指導計画) 』(注. 事行政のあり方を指摘している。そのためへき地教育の人. 16)では、複式の「同単元指導計画」 ・ 「学年別指導計画」 ・. 事行政の研究の必要性を指摘している。 また島田雅治も 「へ. 「能力差・個人差を考慮した指導計画」などの複式に顕著. き地教育の重要性と問題点-隠岐島教師の実態を中心にし. に求められる指導計画方法をとらえている。また同様に、. て」(注10)において、へき地校に勤務する教師の年齢の. 全国へき地教育研究連盟編『へき地・小規模・複式学校の. 若さや教員免許外の担当など、職員配置の検討の必要性を. 特性を生かした学習指導(指導方法) 』(注17)も、授業単. 指摘している。米増勲著『増補 僻地教育』 (注11)でも、. 元計画の実践事例を紹介しながら、複式授業の展開方法や. へき地の子どもの知的発達・情緒的発達などの発達上の問. 発問方法などの実践的指導方法をとらえている。有馬毅一. 題や、複式教育・財政問題などの問題点を指摘している。. 郎の『へき地・複式教育の基礎的研究-社会科を中心に』 (注. 一方1970年頃になると、へき地の問題とは逆に都会の過密. 18)は、社会科の授業を事例にして、地域素材を用いる授. 問題も取りあげられるようになり、上滝孝治郎・白井尚・. 業や、複式授業の展開事例をとらえている。. 千野陽一編著『過疎・過密、へき地の教育』 (注12)では、.  これらの研究書は、学校現場教師が複式授業等の授業実. 「過密がもたらす教育破壊・人間破壊」なども指摘される. 践の実践的方法を会得するために刊行されているものであ. ようになった。過疎・へき地の問題は、 一方の都市問題と. る。. 相対的な問題の違いとして、併行して問題点を論じられる ようになった。. (2)複式学級の学級運営の実践的指導方法に関する研究.  全国へき地教育研究連盟編『へき地教育の振興(講座へ.  へき地複式学級の学級運営では、小規模の中での社会性. き地の教育)』(注13)は、これらのへき地教育の問題点を. を育む学級運営も課題となる。少人数の中では子どもと教. 解決するため、財政支援・育英支援・へき地教育団体の設. 師の関係も近いために、教師の指示が入りやすい。逆に教. 立・教職員支援などのへき地教育振興策の必要性をとらえ. 師の指示で動いてしまうと、子どもたちの自主性や社会性. ている。. を削いでしまうことになる。そのため行事・活動や学級運.  以上のように教育条件整備が為されていないへき地の地. 営などで、縦割り班・全校活動を活かして、子どもによる. 域環境・家庭環境・教員配置などの条件整備を進めていく. 主体的な運営を行っている。. ことが、へき地教育の発展条件になる。1970年頃までのへ.  この複式学級運営の行事等の特別活動を中心とした学級. き地教育研究は、へき地教育環境の問題点を抽出し、教育. 経営の実践的指導方法を示したものとしては、全国へき地. 格差等の問題解決のための条件整備をする研究が主流であ. 教育研究連盟が編集した『へき地学校の特別活動と学級経. ると言える。. 営』(注19)がある。本書は、全国の学校の実践事例を集 めたものである。全国へき地教育研究連盟編『へき地・. 3.へき地教育研究連盟等によるへき地複式教育の実践的. 小規模・複式学校の特性を生かした学校・学級経営』(注. 指導方法に関する研究. 20)も、複式の縦割り班や全校集会を活かした学級経営の. (1)複式教育・複式授業の実践的指導方法に関する研究. 実践的方法を集約している。教職研修編集部編『へき地小.  第2の分類としてのへき地教育研究の動向は、複式授業. 規模学校読本(教職研修総合特集No35) 』(注21)も、小. 指導・複式学級経営・地域学習・ふるさと教育等のへき地. 規模校での児童生徒会や行事等での主体性を活かした学校. の実践的指導方法の研究である。. 運営・学級運営を中心に、へき地校独自の学級経営の方法. − 55 −.

(5) 川 前 あ ゆ み を示している。. 的学習活動が含まれた概念ではなかったが、地域の活動を.  このようなへき地小規模校の学級運営は、教師にとって. 通じた生きる力の育成も全国的な子どもの課題となってい. 指導しやすいという反面、子どもたちの自立と社会性を育. た。. てる学級運営にする必要があることを指摘している。これ.  全国へき地教育研究連盟編の『ふるさと発“生きる力”. らの研究書は、学校現場教師がへき地校の学級経営の実践. を育む教育の創造』 (注28)や、同じく全国へき地教育研. 的方法を会得するために刊行されたものである。. 究連盟編『生きる力・確かな学力を育む教育のあり方』 (注 29)、全国へき地教育研究連盟編『ふるさとに立ち、たく. (3)へき地特性を活かした地域活動・学習活動の実践的. ましく生きる力を育む教育のあり方』 (注30)などは、へ. 指導方法に関する研究. き地小規模校に現在も多く残っている体験活動・社会的活.  へき地は、自然や農林漁業が豊かな地域が多いため、そ. 動・公共活動などを積極的な意味で、教育活動として活か. のような地域特性を活かした学習活動を進めることができ. していこうとする実践の方向性を集約している。また全国. る。全国へき地教育研究連盟編の『地域・学校・児童生徒. へき地教育研究連盟編の『へき地・複式・小規模校Q&A-. の特性を生かす教育活動』(注22)は、身近な自然・産業. 新学習指導要領に添う新しい研究推進のために』 (注31). を活かした教科・道徳・特別活動等の学習活動や一人一人. は、生きる力を重視した学習指導要領を、へき地小規模. を生かす学級経営の実践的指導方法等を、Q&A方式で紹. 校において具体的・実践的に展開することを目指して、. 介している。同じく全国へき地教育研究連盟編の『21世紀. Q&A方式で活動の方向性をとらえている。. を拓く生活科と選択教科の創造』 (注23)も、全国の小学.  これらはへき地複式小規模校の環境が、これらの社会的. 校の生活科や中学校の選択教科などの実践事例を紹介しな. 活動を進めやすい条件を有しており、それを活かしてへき. がら、地域素材を抽出し、地域住民の知識・技能を活かし. 地教育を向上させようとする全国へき地教育研究連盟の意. た教育活動を学校に取り入れることの重要性を指摘してい. 欲の現れである。これらの研究書は、学校教師がへき地校. る。. の子どもたちの生きる力を育むための体験的活動等の実践.  複式授業に限らず、へき地小規模校の学習指導は、若い. 的指導力を会得するために、刊行されたものである。. 教師が多いだけに、学習指導・授業研修が大きな課題とな.  以上の刊行書は、へき地複式小規模校において、複式授. る。全国へき地教育研究連盟編が編集したシリーズとし. 業や複式学級経営等の指導方法において、困難を抱える学. て、『みんなでつくるへき地教育-へき地・小規模・複式学. 校教師を支えるために、また学校現場教師の実践的な指導. 級を有する学校の国語、算数・数学、マルチメディア』 (注. 方法の向上を目指して、へき地校の実践的な方法論を開発. 24)、『学習指導方法の工夫・改善』 (注25) 、 『効率的な学. するために刊行された研究書である。すなわちこれらの研. 習指導と学校・学級経営』(注26)は、教科別の学習指導. 究は、へき地の学校現場の教師を直接支援する研究である. 実践やマルチメディアを活用したへき地の学習活動の実践. と言える。. を数多く掲載している。  これらは、指導資料や教具・教材が少ない小規模校であ. 4.へき地校の地域連携と地域学校運営に関する研究. るからこそ、マルチメディアを含めて身近な素材を活用し.  第3の分類としてのへき地教育研究の動向は、へき地小. ながら、多様な刺激と指導方法を展開することの重要性が. 規模校の特性として元々地域との結びつきが強い点が特徴. 指摘されている。これらの研究書は、学校教師が地域学習. であるが、この学校と地域が連携した学校運営のあり方に. 活動・授業等の実践的な指導力を会得するために刊行され. 関する研究である。. たものである。.  一般的にへき地小規模校の特性の一つとして、学校と地 域の関係が密接である。そのため、へき地小規模校の学校. (4)へき地の生活指導と生きる力を育むふるさと教育活. 運営や教育活動でも、地域と連携した運営を行うことが重. 動の実践的指導方法に関する研究. 要となる。地域との連携は、都会でもその重要性が指摘さ.  へき地では、子どもたちの人間関係も相互に信頼感をお. れているが、へき地での学校と地域との関係は、学校行事. いた密接な関係がある。この良い点を活かしながら、人間. が地域行事に位置づけられていたり、学校と地域が共催で. 性を育てるへき地教育を進めていく必要がある。北海道複. 体験活動・公共活動を行うなど、地域の文化センターとし. 式教育研究連盟編の『へき地教育の探究過程-人間性の深. ての学校の役割を果たしている。. 化をめざして』(注27)は、そのコンセプトとして、自主.  このような地域に根ざした学校運営の特徴としては、高. 協同などの人間性を育てるへき地の環境の重要性と、自信. 柳晃の 『地域に根ざすへき地教育』 (注32)がある。高柳は、. を持たせる学級経営の重要性を指摘している。. 早くから自然等のへき地性を生かすこと、また学習指導・.  またへき地では、農漁業体験活動や地域住民とふれ合う. 生活指導・学校行事・学校運営など、あらゆる活動におい. 行事が多く、それらの社会的活動・地域貢献活動・公共活. て、学校と地域が連携することが重要であることを指摘し. 動を通じた生きる力を育成することを目指している。1990. ている。. 年代に指導要領等で提示された生きる力は、必ずしも基礎.  へき地校では、子どもや住民が市街地に転校して行った. − 56 −.

(6) へき地教育研究の類型化と教員養成教育の課題 り、進学してそのまま戻ってこなかったりするため、へき. な要因であることも指摘している。. 地校の子どもたちは何となく、ふるさとのへき地地域の発.  また玉井康之の「へき地小規模校の存続をめぐる相克と. 展的な未来を見いだせなくなる。そのため子どもたちは、. 学校経営の課題-統廃合と存続の葛藤をとらえる分析の視. へき地小規模校にいることに自信をなくしてしまう。この. 座を中心として」 (注40)では、学校統廃合か存続かの判. ような中で、全国へき地教育研究連盟は、『郷土を愛する. 断はいくつかの条件の下で検討されることを指摘してい. 心を育てる教育』 (注33)において、全国のふるさと学習. る。. の実践事例を集約し、郷土を愛し、誇りを高めるような特 色ある教育活動を進める必要性を指摘している。また神田. (2)学校存続の取り組みに関する研究. 嘉延の『へき地教育-むらからの教育考』(注34)は、地域.  北海道をはじめとして全国的にも学校統廃合が進む中. 的な経済問題や社会教育の観点からへき地教育の活性化を. で、小規模校の良さを生かして、学校を存続させようとす. 考える必要性を指摘している。. る取り組みも生じている。中森千佳子・和田乃理子・徳永.  玉井康之の『北海道の学校と地域社会-農村小規模校の. 好治らの「山村留学の効果(第1報) (第2報)」 (注41)は、. 学校開放と地域教育構造』 (注35)では、北海道の開拓時. 山村留学生にとっても、家族環境としても、山村留学に教. 代から学校設立や学校運営において、地域が学校を支えな. 育効果があることを示した。その続編である大森裕介・相. がらへき地の学校教育活動が展開してきたことを明らかに. 原正義・徳永好治・中森千佳子「山村留学の効果(第3報) 」. した。また北海道のアンケート調査・実態調査を元にしな. (注42)も、へき地の地元生にとっても教育効果があるこ. がら、へき地小規模校が地域の文化センター的な役割とし. とを指摘している。. て地域と結びついた運営を行っていることを明らかにして.  拙著『山村留学と学校・地域づくり』 (注43)および『山. いる。. 村留学と子ども・学校・地域』 (注44)は、山村留学生・.  これらの研究は、へき地小規模校の運営は、学習指導・. 地元生・教師・地域住民の意識調査から、 それぞれの立場. 生活指導・行事等の特別活動・学校運営等において、総体. から見ても、山村留学は極めて有効な地域づくり効果と教. としてへき地校と地域の連携が重要であること、またその. 育効果を有していることを明らかにした。北海道だけでな. 地域学校運営のあり方を指南する研究である。. く、全国的にも山村留学の取り組みで学校存続を図り、子 どもへの教育効果を高めようとする取り組みも見られた。. 5.少子化等による人口減少と学校統廃合・存続に関する. 神田嘉延の『むらの教育ロマン-へき地からの教育改革』 (注. 研究. 45)も、山村留学の取り組みで地域と学校が活性化したこ. (1)学校統廃合問題に関する研究. とを指摘している。.  第4の分類としてのへき地教育研究の動向は、少子化・.  山村留学以外でも、特認校として学校を存続させようと. 過疎化の中での学校統廃合や学校存続、および学校の対応. する取り組みも起こっている。城山西小と地域振興を考え. 課題に関する研究である。. る会監修の『小さな学校の大きな挑戦-廃校の危機から脱.  学校統廃合問題は、子どもや学校にとっても、地域に. 出中』 (注46)は、特認校制度を使って学校存続を勧めて. とっても大変大きな影響をもたらす問題である。学校統廃. いる実践研究である。. 合は、学校が小規模校化するにしたがって、財政的な問題 もあって、行政が地域に統合を検討してもらうように投げ. (3)少子化等による人口減少に伴う学校課題に関する研. かける場合が多い。また保護者も子どもの社会性の育成に. 究. 不安を抱いて、統合した後の大規模校に通わせたいと考え.  人口減少は、過疎地だけでなく、大都市以外はほとんど. る場合も少なくない。. の市町村で起こっている。したがって、人口減少による教.  特に北海道は、広大な土地に学校が点在しているために. 育問題も、人口減少による地域社会全体の問題の中に位置. 小規模校が多く、その統廃合が急速に進んできた。北海道. づける必要がある。若林敬子著の『日本の人口問題と社会. の統廃合が急速に進んでいる状況については、 田中実の「全. 的現実(第Ⅰ巻理論編) 』(注47)は、人口減少が、経済問. 道小学校アンケートによる今後5年間の学校統廃合に関す. 題をはじめ、コミュニティに与える影響、高齢者等の福祉. る統計分析」(注36)がある。. 問題、学校統廃合問題、などの生活問題全体の中で教育問.  境野健兒・清水修二著の『地域社会と学校統廃合』(注. 題をとらえる必要性をとらえている。同じく若林敬子著の. 37)は、福島県・長野県の戦前の学校統廃合の歴史的過程. 『日本の人口問題と社会的現実 (第Ⅱ巻モノグラフ編)』 (注. を分析して、国家と地域共同体の葛藤をとらえている。若. 48)は、過疎地の限界集落問題と、人口対策・集落再編問. 林敬子著の『学校統廃合の社会学的研究』 (注38)および. 題をとらえている。. その『増補版』(注39)は、戦前戦後の事例を通じて、学.  濱野功一の「釧路・根室管内へき地小規模校における学. 校統廃合がもたらす通学距離の拡大や学校運営をめぐって. 校経営課題」(注49)は、道東の校長を対象にしたアンケー. 、 様々な地域紛争がおきたことをとらえている。これらの. トで、現代的なへき地校の経営課題をとらえている。すな. 学校統廃合の背後には、少子化問題以上に財政問題が大き. わち、地域と連携した点や人格形成に与える点が大きいと. − 57 −.

(7) 川 前 あ ゆ み いう積極面を活かしながら、同時に「生涯学習機関として. 容」など、小規模であるからこそできる学習指導方法を活. の性格」「家庭教育力の低下」 「子どもの変化」など、新し. かした研修を行っている。それはへき地小規模校の少人数. い全国的な課題に対応していく必要性を指摘している。. 性を積極面として活かした授業展開であり、大規模校でも.  長年学校区のあり方を研究している葉養正明の『人口減. 本来取り入れていかなければならないものである。. 少社会の公立小中学校の設計』 (注50)は、少子化の中で.  田島興久・村上浩一朗らの「少人数指導のあり方に関す. の学校の存続問題や学校経営のあり方をとらえている。葉. る一考察:へき地・小規模学校及び中・大規模学校におけ. 養は、学校統合もある程度を越えると限界があるとしつ. る取り組みの工夫」 (注53)は、へき地小規模校で行って. つ、財政効果があるのかないのかも見極める必要性を提起. いる少人数指導を大規模校でも取り入れていく必要があ. している。また、小規模校間のネットワークや、統合する. り、その方法をとらえている。. 場合も地域連携・学校機能の複合化などの新しい学校運営.  広島大学附属東雲小学校著の『複式教育ハンドブック. のあり方を作っていく必要があるとしている。学校が小規. -異学年が同時に学び合うよさを生かした学習指導』 (注. 模化する中での学校のあり方の課題は、今後の大きな課題. 54) は、 複式指導を異学年指導として積極面としてとらえ、. となっていると言える。. その応用を図ることができるととらえている。.  小規模校化する中で、改めてへき地小規模校の良さを見 直そうとする動きもある。玉井康之編の『子どもと地域の. (2)へき地教育実習等のへき地教師教育の実践的研究. 未来をひらくへき地小規模校教育の可能性』 (注51)は、.  へき地教育の積極面を生かして、教師教育を行う傾向. へき地小規模校のマイナス面である点をプラス面としてと. は、教員養成段階の教育実習においても、その傾向をとら. らえ直すこと、へき地の良さを活かして子どもたちの自信. えることができる。和歌山大学における取り組みもその一. と誇りを高めることの必要性をとらえている。. つである。.  以上の研究は、小規模校にとってはさらに大きな変化と.  和歌山大学の川本治雄・植西祥司らの「地域から学ぶ『へ. なる学校統廃合と存続の問題、および小規模校化に伴う. き地複式教育実習』 」(注55)は、和歌山大学では2003年か. 様々な課題に対する対応方策をとらえた研究である。少子. らへき地に入る1週間実習を試行的に実施し、地域に入る. 化・過疎化の中では、統廃合問題はこれからも大きな課. ことや小規模の学校から学ぶことを取り入れたへき地教育. 題となる研究分野であり、小規模のメリットを活かして教. 実習の重要性を指摘している。へき地教育実習を発展さ. 育効果を高める研究と併せてとらえていくことが重要にな. せて、松浦善満・豊田充崇・植西祥司らは、「教育実習改. る。. 革に関する研究概要と今後の課題-2005年度の取り組みか ら」(注56)において、北海道教育大学のへき地教育実習. 6.へき地教育の教員研修とへき地教育実習等のへき地教. の聞き取り成果を基にしながら、和歌山大学のへき地教育. 師教育に関する研究. 実習の改革の課題を指摘している。その中では、教育実習. (1)へき地教育を積極的にとらえようとする教員研修の. 全体の中でへき地教育実習が、地域活動への関わり・学習. 実践的研究. 指導の直接間接指導・子ども理解などで、へき地教育実習.  第5の分類としてのへき地教育研究の動向は、学校現場. が有効であることを指摘している。豊田充崇の「 『へき地・. を中心としたへき地小規模校の分析や実践的対応方策だけ. 複式教育実習』の成果と今後の展望-2010年教育実習改革. でなく、教員養成大学を対象にした教師教育に関する研究. プロジェクト報告」(注57)では、へき地・複式教育実習. である。この研究は、教員養成のあり方が大きな課題となっ. の中で、教師の総合的な指導力を育成することを期待して. ている中で、さらにへき地小規模校に対応できる教員養成. いる。この中で豊田充崇は、 「『教育実習』から『学校活動. の研究が課題となっていることによるもので、現代の新た. 支援』へのシフト」が総合的な指導力として必要であるこ. な研究課題であると言える。. とを指摘している。.  近年に見られるへき地教育に関する教師教育研究は、へ.  長崎大学においても、へき地教育実習が取り入れられて. き地教育の特殊性を補うために提示された1960年代から. いる。長崎大学の寺嶋浩介・藤本登・藤木卓・林朋美らの. 1970年代のへき地教育実践の指導資料に比べて、市街地に. 「へき地校をフィールドとした教員養成プログラムの実施. も応用できる内容を含んでいる。すなわちより普遍的な指. と評価」 (注58)は、離島でのへき地校実習で、学生が「子. 導方法の一つとしてへき地教育の指導方法をとらえよう. どもを取り巻く環境」や「地域と学校のかかわり」等を学. とする内容を含んでいるものとして位置づけることができ. んでいることをとらえている。また長崎・鹿児島・琉球三. る。. 大学事業としても、複式学級指導の経験が学習指導全般に.  権藤誠剛の「へき地・小規模・複式教育に関する検討-. とって有効であることを指摘している。長崎・鹿児島・琉. 複式教育研修講座での実地研究を通して」 (注52)は、複. 球三大学連携研究「複式学級指導法」編集委員会編『複式. 式教育研修講座を通した研修の発展を記している。この中. 学級指導法-単式学級内の学力差に対応した現場の工夫に. では「劇遊びを取り入れた」授業・「動作化や劇化」・「仮. も役立つ指導法』(注59)では、複式学級の指導法は、単. 想空間で読む誌」 ・ 「ゲーム感覚を多く取り入れた学習内. 式学級の指導法にも応用できることを指摘している。. − 58 −.

(8) へき地教育研究の類型化と教員養成教育の課題  このような和歌山大学と長崎大学のへき地教育実習の取. 問題・教育格差問題と課題克服に関する研究」「2.へき. り組みは、北海道教育大学のへき地教育実習の取り組みと. 地教育研究連盟等によるへき地複式教育の実践的指導方法. 併行して、教育実習全体におけるへき地教育実習の教育効. に関する研究」「3.へき地校の地域連携に関する研究」. 果が検証されつつあると言える。. 「4.近年の少子化等による人口減少と学校統廃合・存続.  北海道教育大学の各キャンパスにおいても、へき地教育. に関する研究」「5.へき地教育の教員研修とへき地教育. 実習が取り組まれており、その成果が検証されている。函. 実習等のへき地教師教育に関する研究」である。これらは. 館キャンパスの山崎正吉の「教育学部学生のへき地教育に. 便宜的な分類であるが、へき地小規模校を取り巻く時代背. 対する情緒的意味の分析:へき地教育体験の及ぼす影響」. 景と課題をとらえたものである。. (注60)は、へき地体験が情緒的意味においても教育効果.  第1に、1954年に制定されたへき地教育振興法に見られ. が高い事を指摘している。岩見沢キャンパスで長年行われ. るように、へき地は高度経済成長期に発展が取り残された. てきたへき地教育実習は、さらに釧路キャンパスにも引き. 地域として位置づけられ、その地域格差・教育格差の課題. 継がれ、その検証が進められている。拙稿「学生から見た. をとらえ、格差を解消することが大きな課題であった。そ. へき地・小規模校理解の方策と若手教師の課題-自由意識. の意味では、現在までもそうであるが、教育の機会均等理. 調査の段階的分類法による傾向分析」 (注61)では、学生. 念を前提にして、格差を解消する様々な条件と方法をとら. の自由記述分類方式で、学生自身が求める研修内容の必要. える研究が一つの研究課題となっていた。. 性をとらえた。また拙稿「プロセスレコード分析による学.  第2に、へき地教育の特性を踏まえて、学校現場におけ. 生のへき地・小規模校教育の特性認識と実習指導課題-へ. る実践的な課題を補うために、全国へき地教育研究連盟な. き地教育実習を通じた気づきの意識化」 (注62)では、へ. どが、複式指導等の実践的な指導方法を提示しつつ、へき. き地教育実習のプロセスレコードから、へき地教育実習過. 地教育の実践的な指導指針を発信していた。これらの実践. 程での気づきと成長をとらえた。廣田健の「へき地・小規. 的な教育指導方法の研究が一つの研究課題となっていた。. 模校の教育実践経験と教師の卵の成長」 (注63)は、へき.  第3に、 へき地教育は、 単に小規模校であるだけでなく、. 地教育実習の意義をとらえている。. 市街地から離れたへき地性・地域性を有した学校でもある.  このようなへき地教育実習を教員養成課程の中に位置づ. ため、学校と地域との連携の中で、学習指導や教育活動が. け、教師の総合的な指導力を養成していく取り組みは、こ. 行われるなど、へき地の地域を生かした学習教育活動が展. れからもその教育実践と検証が必要であり、さらにそれら. 開している。この地域の学習活動などを含めた地域学校経. を4年間の中で体系的に展開していくことが課題となって. 営のあり方の研究が、一つの研究課題となっていた。. いると言えよう。とりわけ、へき地小規模校が多い地域で.  第4に、近年の少子化・過疎化による学校規模の縮小化. は、へき地教育実習を導入しながら、へき地の指導方法の. とそれに伴う学校統廃合・存続の問題は、小規模校を取り. 技能を広げるとともに、へき地地域とへき地教育の担い手. 巻く学校と地域の大きな課題となっている。この少子化・. として育成する教師教育の実践とその検証の研究が求めら. 過疎化は、単にへき地小規模校特有の問題だけではなくな. れると言えよう。. り、全国的な課題となっている。そのため、少子化・過疎.  以上のへき地小規模校に対応した教師教育研究は、よう. 化に対応するために、へき地性・小規模性を積極的に生か. やく近年始まったばかりの研究であった。これまでへき地. した教育活動と小規模学校経営のあり方の研究が求められ. 教育に関する研究が蓄積されてきたが、その研究的な蓄積. ている。すなわちへき地校の統廃合問題は、へき地の積極. も、担い手としての教師が対応できるように、へき地小規. 面を生かした教育活動と一体のものとして検討される必要. 模校に対応できる教師教育を進めなければ、活かされてい. がある。これらの人口減少社会に伴う学校統廃合・存続と. かない。へき地教育研究が進んでも、へき地に定着する教. 小規模経営のあり方が、一つの研究課題となっていた。. 師が育っていないとしたら、へき地教育の成果を活かすへ.  第5に、へき地教育の特性を活かすためにも、へき地教. き地教師教育研究が進んでいないことも一つの要因である. 育の研修や若手教師育成のプログラムが求められる。なぜ. と言える。このへき地の教師教育研究は、ようやくどの大. なら、へき地教育の実践的な研究が進んでも、それを担う. 学においても、始まったばかりで蓄積は浅いが、今後の研. 教師教育が展開していなければ、へき地教育の実践は展開. 究が待たれる分野である。へき地教育の教員研修や教員養. していかないからである。このへき地の教師教育の研究. 成段階におけるへき地教育実習やへき地教育プログラムな. は、近年までほとんど見当たらない。なぜなら免許法で規. どの教師教育の研究が、今後深めるべき研究課題となる。. 定された教員養成のあり方は、全国的に極めて画一的であ り、近年までへき地の教師教育の取組自体が検討されてこ. おわりに. なかったからである。.  以上へき地教育に関する著書を中心とした研究動向を概.  へき地の教師教育の一環として、へき地校体験やへき地. 観しながら、へき地の主要な課題となっている領域を大き. 教育実習が、和歌山大学・長崎大学・北海道教育大学等で. く次の5つに分類しながら、大きなへき地教育研究の動向. 進められていた。これらのへき地教育実習は、和歌山大学. をとらえてきた。その5つの分類は、「1.へき地の地域. のように教育実習の中にへき地教育実習を位置づける取り. − 59 −.

(9) 川 前 あ ゆ み 組みが進められており、総合的な教師の指導力を目指すよ. 社会学会、1959年. うになっている。また北海道教育大学でも、へき地教育実. (注7)溝口謙三著『へき地の子ども』、東洋館出版社、. 習が教育実習と平行して独自に位置づけられている。これ. 1962年. らのへき地教育に関する教師教育の研究は、ようやく緒に. (注8)天野牧夫「僻地学校の学力差の要因」、日本教育. 就いたばかりであり、今後の発展が期待されなければなら. 心理学会編『教育心理学研究5(2) 』 、1958年. ない研究である。これらのへき地教師教育の研究が、一つ. (注9)佐野朝男「へき地教育研究の方向」、立正大学人. の研究課題となっていた。. 文科学研究所『立正大学人文科学研究所年報4』、立正大.  今後の研究課題でもあるへき地教師教育の研究は、へき. 学人文科学研究所、1965年. 地を多く抱える地域において、少しずつ展開している。た. (注10)島田雅治「へき地教育の重要性と問題点-隠岐島. だ必ずしも、4年間を見越した実習と講義を体系的に積み. 教師の実態を中心にして」 、 『島根大学教育学部紀要・教育. 上げながら、へき地教育実習を位置づけるところまでは実. 科学5』 、島根大学教育学部、1971年. 践的に検証されていないと言える。. (注11)米増勲著『増補 僻地教育』 、三和書房、1972年.  へき地小規模校が多い地域では、へき地教育実習は、単. (注12)上滝孝治郎・白井尚・千野陽一編著『過疎・過密、. に市街地でも使える指導方法の応用という位置づけに留ま. へき地の教育』 、民衆社、1975年. らず、へき地小規模校とへき地地域の担い手としての意味. (注13)全国へき地教育研究連盟編『へき地教育の振興(講. を持っている。へき地教師教育の研究は、教師教育一般の. 座へき地の教育)』東洋館出版社、1965年. 研究だけでは、必ずしもへき地小規模校の教師の養成には. (注14)安部彦次郎著『複式学級論』、東洋館出版社、. 繫がっていないという現状を踏まえながら、へき地の教師. 1962年. 教育研究は独自に展開していかなければならない研究領域. (注15)高柳晃著『複式教育の理論と実践』 、北海道教育. である。このへき地教師教育の体系的な発展のためには、. 新報社、1978年. 講義でへき地教育の普遍的特性を学び、へき地教育実習で. (注16)全国へき地教育研究連盟編『へき地・小規模・複. へき地教育の実践的方法を学ぶという、へき地教育の理論. 式学校の特性を生かした学習指導(指導計画) 』、全国僻地. と実践の体系化が不可欠である。このへき地講義とへき地. 教育研究連盟、1988年. 教育実習を含めたへき地教育プログラムの体系化とその検. (注17)全国へき地教育研究連盟編『へき地・小規模・複. 証の研究は、これからのへき地教育のアクションプログラ. 式学校の特性を生かした学習指導(指導方法)』 、全国僻地. ムとしての実践的な研究課題であると言えよう。そのへき. 教育研究連盟、1989年. 地教師教育の研究分野に関しては、今緒に就いたばかりの. (注18)有馬毅一郎著『へき地・複式教育の基礎的研究-. 新しい研究領域と言える。. 社会科を中心に』黒潮社、2002年 (注19)全国へき地教育研究連盟編『へき地学校の特別活. 注記. 動と学級経営』全国へき地教育研究連盟、1977年. (注1)北海道教育大学僻地教育研究施設が掲載した論稿. (注20)全国へき地教育研究連盟編『へき地・小規模・複. 一覧については、田中実「『僻地教育研究』の掲載論文一. 式学校の特性を生かした学校・学級経営』、全国僻地教育. 覧」 、北海道教育大学僻地教育研究施設編『へき地教育研. 研究連盟、1987年. 究』 、僻地教育研究施設、1994年、参照。なお初代へき地. (注21)教職研修編集部編『へき地小規模学校読本(教職. 教育研究施設の施設長は、榎本守恵氏である。. 研修総合特集No35)』、教育開発研究所、1984年. (注2)生井武久「へき地教育の諸問題:『へき地教育振. (注22)全国へき地教育研究連盟編『地域・学校・児童生. 興法』の成立過程」、立正大学文学部編『立正大学文学部. 徒の特性を生かす教育活動』 、北海道広報社、1985年. 論叢33』 、立正大学文学部、1965年. (注23)全国へき地教育研究連盟編『21世紀を拓く生活科. (注3)関根育恵・新田和幸「『へき地教育振興法』の制. と選択教科の創造』 、全国僻地教育研究連盟、1993年. 定過程に関する一考察」、北海道教育大学僻地教育研究施. (注24)全国へき地教育研究連盟編『みんなでつくるへき. 設編『へき地教育研究46号』、北海道教育大学僻地教育研. 地教育-へき地・小規模・複式学級を有する学校の国語、. 究施設、1992年. 算数・数学、マルチメディア』、全国僻地教育研究連盟、. (注4)玉井康之「『へき地教育振興法施行規則』に見る. 1997年. へき地校のとらえ方の変化とへき地の課題」、北海道教育. (注25)全国へき地教育研究連盟編『学習指導方法の工夫・. 大学へき地教育研究センター編『へき地教育研究62』 、北. 改善』 、全国僻地教育研究連盟、1998年. 海道教育大学へき地教育研究センター、2007年. (注26)全国へき地教育研究連盟編『効率的な学習指導と. (注5)榎本守恵著『近代僻地教育の研究』 、同成社、. 学校・学級経営』 、全国僻地教育研究連盟、1999年. 1990年. (注27)北海道複式教育研究連盟編『へき地教育の探究過. (注6)溝口謙三「日本教育社会学の現状と課題-僻地教. 程-人間性の深化をめざして』明治図書出版、1976年. 育」 、日本教育社会学会編『教育社会学研究14』 、日本教育. (注28)全国へき地教育研究連盟編『ふるさと発“生きる. − 60 −.

(10) へき地教育研究の類型化と教員養成教育の課題 力”を育む教育の創造』 、全国僻地教育研究連盟、2001年. 巻理論編) 』、東京農工大学出版会、2009年. (注29)全国へき地教育研究連盟編『生きる力・確かな学. (注48)若林敬子著『日本の人口問題と社会的現実(第Ⅱ. 力を育む教育のあり方』 、全国僻地教育研究連盟、2003年. 巻モノグラフ編) 』、東京農工大学出版会、2009年. (注30)全国へき地教育研究連盟編『ふるさとに立ち、た. (注49)濱野功一「釧路・根室管内へき地小規模校におけ. くましく生きる力を育む教育のあり方』、全国僻地教育研. る学校経営課題」、北海道教育大学へき地教育研究施設編. 究連盟、2004年. 『へき地教育研究』第56号、北海道教育大学へき地教育研. (注31)全国へき地教育研究連盟編『へき地・複式・小. 究施設、2001年. 規模校Q&A-新学習指導要領に添う新しい研究推進のため. (注50)葉養正明著『人口減少社会の公立小中学校の設. に』、全国僻地教育研究連盟、2000年. 計』 、協同出版社、2011年. (注32)高柳晃著『地域に根ざすへき地教育』 、新北海道. (注51)玉井康之編著『子どもと地域の未来をひらくへき. 教育新報社、1980年. 地小規模校教育の可能性』 、教育新聞社、2006年. (注33)全国へき地教育研究連盟編『郷土を愛する心を育. (注52)権藤誠剛「へき地・小規模・複式教育に関する検. てる教育』、全国僻地教育研究連盟、1991年. 討-複式教育研修講座での実地研究を通して」 、島根大学教. (注34)神田嘉延著『へき地教育-むらからの教育考』高. 育学部『島根大学教育臨床総合研究1』 、 島根大学教育学部、. 文堂出版社、1984年. 2002年. (注35)玉井康之著『北海道の学校と地域社会-農村小規. (注53)田島興久・村上浩一朗「少人数指導のあり方に関. 模校の学校開放と地域教育構造』東洋館出版社、1996年. する一考察:へき地・小規模学校及び中・大規模学校にお. (注36)田中実「全道小学校アンケートによる今後5年間. ける取り組みの工夫」 、北海道教育大学学校・地域教育研. の学校統廃合に関する統計分析」、北海道教育大学僻地教. 究支援センター編『へき地教育研究61』、2006年. 育研究施設編『へき地教育研究』、僻地教育研究施設、. (注54)広島大学附属東雲小学校著『複式教育ハンドブッ. 1993年. ク-異学年が同時に学び合うよさを生かした学習指導』 、東. (注37)境野健兒・清水修二著『地域社会と学校統廃合』 、. 洋館出版社、2010年. 八朔社、1994年. (注55)川本治雄・植西祥司「地域から学ぶ『へき地複式. (注38)若林敬子著『学校統廃合の社会学的研究』 、御茶. 教育実習』」 『和歌山大学教育学部教育実践センター紀要』 、. の水書房、1999年. No15、和歌山大学教育学部教育実践センター、2005年. (注39)若林敬子著『増補版、 学校統廃合の社会学的研究』 、. (注56)松浦善満・豊田充崇・植西祥司「教育実習改革に. 御茶の水書房、2012年. 関する研究概要と今後の課題-2005年度の取り組みから」、. (注40)玉井康之「へき地小規模校の存続をめぐる相克と. 『和歌山大学教育学部教育実践センター紀要』No16、和. 学校経営の課題-統廃合と存続の葛藤をとらえる分析の視. 歌山大学教育学部教育実践センター、2006年. 座を中心として」、北海道教育大学へき地教育研究センター. (注57)豊田充崇「『へき地・複式教育実習』の成果と今. 編『へき地教育研究』第65号、北海道教育大学学校・地域. 後の展望-2010年教育実習改革プロジェクト報告」 、 『和歌. 教育研究支援センター、2010年. 山大学教育学部教育実践センター紀要』No21、和歌山大. (注41)中森千佳子・和田乃理子・徳永好治「山村留学の. 学教育学部教育実践センター、2011年. 効果(第1報)(第2報)」 、 北海道教育大学僻地教育研究. (注58)寺嶋浩介・藤本登・藤木卓・林朋美「へき地校を. 施設編『僻地教育研究』第52号、北海道教育大学僻地教育. フィールドとした教員養成プログラムの実施と評価」、日. 研究施設、1998年. 本教育工学会編『日本教育工学会論文誌32』2008年. (注42)大森裕介・相原正義・徳永好治・中森千佳子「山. (注59)長崎・鹿児島・琉球三大学連携研究「複式学級指. 村留学の効果(第3報)」 、 北海道教育大学僻地教育研究施. 導法」編集委員会編『複式学級指導法-単式学級内の学力. 設編『僻地教育研究』第53号、北海道教育大学僻地教育研. 差に対応した現場の工夫にも役立つ指導法』、東京教学社、. 究施設、1999年. 2009年. (注43)川前あゆみ・玉井康之著『山村留学と学校・地域. (注60)山崎正吉「教育学部学生のへき地教育に対する情. づくり』、高文堂出版社、1998年. 緒的意味の分析:へき地教育体験の及ぼす影響」、北海道教. (注44)川前あゆみ・玉井康之著『山村留学と子ども・学. 育大学学校・地域教育研究支援センター編『へき地教育研. 校・地域』、高文堂出版社、2005年. 究63』、2009年. (注45)神田嘉延著『むらの教育ロマン-へき地からの教. (注61)川前あゆみ「学生から見たへき地・小規模校理解. 育改革』、鹿児島学術文化出版局、2000年. の方策と若手教師の課題-自由意識調査の段階的分類法に. (注46)城山西小と地域振興を考える会監修『小さな学. よる傾向分析-」 、 『北海道教育大学釧路校研究紀要 釧路. 校の大きな挑戦-廃校の危機から脱出中』 、小学館スクウェ. 論集第43号』、北海道教育大学釧路校、2011年. ア、2006年. (注62)川前あゆみ「プロセスレコード分析による学生の. (注47)若林敬子著『日本の人口問題と社会的現実(第Ⅰ. へき地・小規模校教育の特性認識と実習指導課題-へき地. − 61 −.

(11) 川 前 あ ゆ み 教育実習を通じた気づきの意識化」 、 『北海道教育大学紀要 (教育科学編)第62巻第2号』 、北海道教育大学、2012年 (注63)廣田健「へき地・小規模校の教育実践経験と教師 の卵の成長」、玉井康之編著『子どもと地域の未来をひら くへき地小規模校教育の可能性』 、教育新聞社、2006年. − 62 −.

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