Kobe Shoin Women’s University Repository
Title 萬葉集羈旅歌考 1
-行幸・従駕の歌と巻七「羈旅作」を中心にして-
Author(s) 吉川 貫一(Yoshikawa, Kanichi)
Citation 文林(BUNRIN),No.2:84-107
Issue Date 1967
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
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萬
葉
集羈
旅
歌
考
1 行 幸 ・ 従 駕 の 歌 と 巻 七 ﹁羈 旅 作 ﹂ を 中 心 に し て-吉
川
貫
一 万 葉 集 に お い て 、 雑 歌 の 中 に 蠣 旅 詠 と し て 独 立 し た 歌 が み え る の は 巻 三 の ﹁ 柿 本 朝 臣 人 麻 呂羈 旅 歌 八 首 ﹂ ( 二 四 九 -二 五 六 ) コ 局 市 連 黒 人羈 旅 歌 八 首 ﹂ ( 二 七 〇 ー 二 七 七 ) ﹁羈 旅 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 三 八 八 -三 八 九 ) 巻 七 の ﹁羈 旅 作 ﹂ ( = 六 一 -一 二 五 〇 ) ﹁羈 旅 歌 ﹂ ( 一 四 一 七 ) 巻 十 二 の ﹁羈 旅 発 思 ﹂ ( ゴ ニ ニ 七 -三 一 七 九 ) な ど で あ る 。 な か で も 巻 七 の ﹁羈 旅 作 ﹂ は 旅 と い う 主 題 の も と に 集 録 さ れ た 九 十 首 に 亘 る 大 歌 群 で あ る 。 勅 撰 的 性 格 を も つ 巻 一 巻 二 に は羈 旅 歌 の 独 立 性 は み ら れ な い 。 す べ て 雑 歌 の 中 に 包 括 さ れ 、 大 部 分 は 行 幸 ・ 従 駕 の 歌 と し て 取 扱 わ れ て い る 。 こ れ は 一 つ は 天 皇 中 心 の 時 代 別 編 集 と 、 雑 歌 、 相 聞 、 挽 歌 と い う 分 類 法 に 起 因 す る も の で あ り 、 二 つ に は 六 朝 、 唐 の 影 響 に よ っ て 懐 風 藻 に 用 い ら れ て い る ﹁ 侍 宴 応 詔 ﹂ ﹁ 従 駕 応 詔 ﹂ と い う 詩 題 の 分 類 法 が 万 葉 集 に も 適 用 さ れ て い る こ と に 因 る も の で あ る 。 こ こ で 巻 一 、 巻 二 に 限 ら ず 他 の 巻 に お け る 行 幸 ・ 従 駕 の 歌 、 お よ び そ れ に 関 連 す る 歌 を 検 討 し 、 巻 七 の ﹁ 羅 旅 作 ﹂ の 発 現 す る 過 程 と そ の 特 質 に つ い て 考 察 を 試 み よ う と 思 う 。 万 葉 時 代 に お い て 既 に 旅 は 身 体 全 体 で 体 験 す る 生 活 の 一 部 で あ っ た と 考 え ら れ る が 、 そ れ は 極 く 限 ら れ た 特 殊 の 階 級 で あ っ た 。 即 ち 廷 臣 た ち の 行 幸 ・ 従 駕 と い う 公 的 の 場 、 ま た は 官 僚 た ち の 任 国 往 還 の 途 次 な ど が 旅 の 主 要 な る 部 分 で あ っ た 。 或 は 遊 覧 と い う 題 を も つ も の が あ る が 、 こ れ も 限 ら れ た 特 殊 の 階 級 し か で き な い こ と で あ っ た 。 今 こ れ ら の 旅 の 場と 、 次 第 に 公 の 場 を 離 れ て 旅 の 個 人 詠 の 発 現 し て ゆ く 状 態 を 、 歌 の 題 詞 の 書 式 型 態 の 分 類 の 上 か ら 明 ら か に し た 注 し11
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A 行 幸 ・ 従 駕 の 場 所 ・ 作 者 名 の 明 記 さ れ て い る も の 。 ㈲ 公 的 詠 歌 度 の 高 い も の . ( ( ) 中 年 号 は 原 文 に は な い が 補 っ た も の 。 以 下 同 じ 。 ) リ コ リ コ コ コ コ コ コ コ ロ ﹁ 天 皇 遊 猟 内 野 之 時 中 皇 命 使 間 人 連 老 献 歌 ﹂ ( 一 ・ 三 ) ﹁ 暮 春 之 月 幸 芳 野 離 宮 時 中 納 言 大 伴 卿 奉 勅 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 三 の り り リ コ コ ・ 三 一 五 ) ﹁ ( 天 平 ) 八 年 丙 子 夏 六 月 幸 干 芳 野 離 宮 時 山 辺 宿 祢 赤 入 応 詔 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 六 . 一 σ 〇 五 ) こ れ ら は 献 歌 、 奉 勅 作 歌 、 応 詔 作 歌 と あ る と こ ろ か ら み て 、 最 も 公 的 度 の 高 い 歌 の 場 を 示 す も の で 、 題 詞 の 書 式 に も 一 定 の 型 が あ っ た も の と 考 え ら れ る 。 ω ﹁ 幸 干 吉 野 宮 之 時 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 作 歌 ﹂ ( 一 ・ 三 六 -三 九 ) ロ コ ② ﹁ 養 老 七 年 癸 亥 夏 五 月 幸 干 芳 野 宮 時 笠 朝 臣 金 村 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 六 . 九 〇 七 -九 一 二 ) コ コ コ コ 個 ﹁ 神 亀 元 年 甲 子 冬 十 月 五 日 幸 干 紀 伊 国 時 山 部 宿 祢 赤 人 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 六 ・ 九 一 七 -九 一 九 ) ω は 持 統 天 皇 、 吉 野 宮 に 行 幸 の 時 、 人 麿 従 駕 の 作 で あ る が 年 号 を 逸 し 記 載 が な い 。 有 名 な 宮 廷 讃 歌 、 帝 徳 礼 讃 の 項 詞 で あ 注 2 り 、 天 子 が 行 宮 に 入 り 給 う 時 、 日 本 固 有 の 信 仰 に 基 い て 行 な わ れ る 室 寿 の 御 儀 に 、 室 寿 詞 と し て 謂 詠 さ れ た も の で 公 的 度 の 非 常 に 高 い も の で あ る 。 ② の 笠 金 村 の 長 歌 は ⋮ ⋮ 国 柄 か 見 が 欲 し か ら む 山 川 を 清 み 清 け み う べ し 神 代 ゆ 定 め け ら し も と 結 び 、 圖 の 山 部 赤 人 の 長 歌 も や す み し し わ ご 大 王 の 常 宮 と 仕 へ ま つ れ る 雑 賀 野 ゆ 背 向 に 見 ゆ る 沖 つ 島 清 き 渚 に 風 吹 け ば 白 波 騒 ぎ潮 干 れ ば 玉 藻 刈 り つ っ 神 代 よ り 然 ぞ 尊 き 玉 津 島 山 と 歌 い 、 ﹁ 国 ぼ め ﹂ ﹁ 土 地 ぽ め ﹂ の 言 寿 に よ っ て 行 宮 の 安 泰 と 聖 寿 の 万 歳 を 祝 福 し た も の で 、 や は り 公 的 の 色 彩 が 強 い 。 コ な お こ の 類 の 中 に は ﹁ 神 亀 二 年 乙 丑 夏 五 月 幸 干 吉 野 離 宮 時 笠 朝 臣 金 村 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 六 ・ 九 二 〇 1 九 二 二 ) の 題 詞 を も つ 歌 の 次 に 、 年 号 、 行 幸 の 地 名 を 省 略 し て ﹁ 山 部 宿 祢 赤 人 作 歌 二 首 井 短 歌 ﹂ ( 六 ・ 九 二 三 -九 二 七 ) と 続 く よ う に 、 同 じ 行 幸 に 際 し て 二 人 お よ び 二 人 以 上 の 作 者 の 長 、 短 歌 を 集 録 し た 形 式 も あ る 。 こ の よ う な 公 的 度 の 高 い 行 幸 ・ 従 駕 の 歌 ロ コ コ ロ コ の 中 に も ﹁ ( 神 亀 二 年 ) 冬 十 月 幸 干 難 波 宮 時 笠 朝 臣 金 村 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 六 ・ 九 二 八 -九 三 〇 ) の 長 歌 に ⋮ ⋮ 真 木 柱 太 高 敷 き て 食 国 を 治 め た ま へ ば 沖 つ 島 味 経 の 原 に も の の ふ の 八 十 伴 の 男 は 盧 し て 都 な し ロ コ コ コ た り 旅 に は あ れ ど と 詠 ん で い る こ と か ら 考 え て 、 従 駕 も 結 局 旅 と い う 観 念 で あ っ た こ と は 確 か で あ る 。 こ の 反 歌 に は 海 少 女 棚 無 し 小 舟 漕 ぎ 出 ら し 旅 の や ど り に 揖 の 音 聞 ゆ ( 九 三 〇 ) と い う 歌 が あ り 、 さ き の ω ② ㈹ の 長 歌 に は そ れ ぞ れ 次 の よ う な 反 歌 が あ る 。 ω 見 れ ど 飽 か ぬ 吉 野 の 河 の 常 滑 の 絶 ゆ る こ と な く ま た 還 り 見 む ( 三 七 ) 働 毎 年 に か く も 見 て し か み 吉 野 の 清 き 河 内 の 激 つ 白 波 ( 九 〇 八 ) 山 高 み 白 木 綿 花 に 落 ち 激 つ 滝 の 河 内 は 見 れ ど 飽 か ぬ か も ( 九 〇 九 ) ㈹ 沖 つ 島 荒 磯 の 玉 藻 潮 干 満 ち て 隠 ろ ひ ゆ か ば 思 ほ え む か も ( 九 一 八 ) 若 の 浦 に 潮 満 ち 来 れ ば 潟 を 無 み 葦 辺 を さ し て 鶴 鳴 き 渡 ろ ( 九 一 九 ) こ れ ら の 例 か ら み て 、 行 幸 ・ 従 駕 の 旅 の 間 に も 自 然 へ の 開 眼 が 行 な わ れ 、 自 然 誠 詠 、 囑 目 調 詠 の 芽 生 え が み ら れ る の で あ
る 。 そ の 他 こ の 項 に 属 す る も の を 纒 め て み る と 次 の 通 り で あ る 。 (ー 印 は 、 前 の 題 詞 と 同 時 作 で あ る こ と を 示 す 。 ) 幸 干 紀 伊 国 時 川 島 皇 子 御 作 歌 ( 一 ・ 三 四 ) 養 老 七 年 癸 亥 夏 五 月 幸 干 芳 野 時 笠 朝 臣 金 村 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 六 . 九 〇 七 -九 = 一) 1 車 持 朝 臣 千 年 作 歌 ︼ 首 井 短 歌 ( 九 = ニ ー 九 一 六 ) ( 神 亀 二 年 ) 冬 十 月 幸 干 難 波 宮 時 笠 朝 臣 金 村 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 六 ・ 九 二 八 -九 三 〇 ) ー 車 持 朝 臣 千 年 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 九 三 一 -九 三 二 ) ー 山 部 宿 祢 赤 人 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 九 三 三 ー 九 三 四 ) ( 神 亀 ) 三 年 丙 寅 秋 九 月 十 五 日 幸 於 印 南 野 時 笠 朝 臣 金 村 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 六 ・ 九 三 五 -九 三 七 ) ー 山 部 宿 祢 赤 人 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 九 三 八 -九 四 一 ) ㈲ 私 的 詠 歌 度 の 高 い も の 。 ロ コ ロ コ る コ 題 詞 は 公 的 な 行 幸 の 書 式 に な っ て い る が 、 歌 は 私 的 個 人 詠 と 考 え ら れ る も の で あ る 。 ﹁ 幸 讃 岐 国 安 益 郡 之 時 軍 王 見 山 作 歌 ﹂ ( 一 ・ 五 -六 ) の 長 、 短 歌 の 内 容 は ⋮ ⋮ 遠 つ 神 吾 が 大 王 の 行 幸 の 山 越 す 風 の 独 居 る 吾 が こ ろ も で に 大 夫 と 思 へ る わ れ も 草 枕 旅 に し あ れ ば 思 ひ 遣 る た づ き も 知 ら に 網 の 浦 の 海 処 女 ら が 焼 く 塩 の 思 ひ そ 焼 く る わ が 下 こ こ ろ ( 一 ・ 五 ) 反 歌 山 越 の 風 を 時 じ み 寝 る 夜 お ち ず 家 な る 妹 を 懸 け て 偲 び っ ( 一 ・ 六 ) の よ う に 家 郷 の 妻 を 偲 ん で 詠 ん だ も の で 、 郷 愁 の 個 人 詠 と か わ り は な い 。 沢 潟 博 士 は こ の 歌 に つ い て 二 つ の 不 審 を 提 示 し 注 3 て お ら れ る 。 一 っ は こ の 作 は 行 幸 供 奉 の 折 の も の で は な く て 、 争 の 昔 の 行 幸 の 遺 跡 に な っ て い る 山 の 麓 に 坐 し て の 作 と さ れ る 。 も 一 つ は ﹁ 見 山 ﹂ と あ る が 内 容 は 山 を 見 る 作 で は な い 。 長 歌 の 中 心 と 反 歌 の 壁 頭 に 山 を 越 す 風 が 詠 ま れ て い る 為 に 山 が 主 題 の 作 の よ う に 思 い あ や ま ら れ た も の で あ る 。 こ の 作 の 資 料 本 に は た だ 讃 岐 安 益 郡 に あ っ て 軍 王 の 作 る 歌 と あ っ た
の が 、 後 に さ か し ら だ て が 加 え ら れ て 、 今 見 る よ う な 題 詞 に 作 り 上 げ ら れ た も の で あ ろ う と 述 べ て お ら れ る 。 ロ コ コ ロ リ リ コ ロ の ﹁ 神 亀 元 年 甲 子 冬 十 月 幸 紀 伊 国 時 為 贈 従 駕 人 所 謎 娘 子 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 四 ・ 五 四 三 -五 四 五 ) こ の 歌 は 笠 金 村 が 娘 子 に 頼 ま れ た 代 作 と も み ら れ 、 代 作 に 託 し た 作 と も 考 え ら れ る が 、 内 容 は 全 く 旅 ゆ く 人 へ の 別 離 の 情 を 詠 ん だ 私 的 、 個 人 詠 で あ ろ 。 長 歌 の 壁 頭 に ﹁ 大 君 の 行 幸 の ま に ま も の の ふ の 八 十 伴 の 男 と 出 で ゆ き し 愛 し 夫 は ⋮ ⋮ ﹂ と 仰 々 し い 詠 み 出 し で あ る た め に 、 い か め し い 題 詞 の も と に 集 録 さ れ た も の で あ ろ う 。 し か も こ の 歌 は 巻 四 の 相 聞 の 部 に 属 す る 。 旅 と コ ロ ロ い う 体 験 が 哀 別 離 苦 の 感 情 を 伴 う た め に 相 聞 的 発 想 の 歌 の で き る の も 当 然 の こ と と い う べ き で あ る 。 ﹁ 幸 干 吉 野 宮 時 弓 削 皇 子 贈 与 額 田 王 歌 一 首 ﹂ ( 二 ・ = 一 ) ﹁ 額 田 王 奉 和 歌 ↓ 首 ﹂ ( 二 ・ = 二 ) の 一 連 も 巻 二 の 相 聞 の 部 に 属 し て お り 、 内 コ コ コ ロ 容 は 公 の 旅 に お い て 、 ひ そ か に 交 わ さ れ た 相 聞 的 贈 答 歌 で あ る 。 ﹁ 太 上 天 皇 幸 干 吉 野 時 高 市 連 黒 人 作 歌 ﹂ 大 和 に は 鳴 き て か 来 ら む 呼 子 鳥 象 の 中 山 呼 び ぞ 越 ゆ な る ( 一 ・ 七 〇 ) り ら コ り ﹁ 幸 伊 勢 国 之 時 安 貴 王 作 歌 一 首 ﹂ 伊 勢 の 海 の 沖 つ 白 浪 花 に も が つ ∼ み て 妹 が 家 苞 に せ む ( 三 ・ 三 〇 六 ) こ れ ら の 歌 に な る と 、 従 駕 の 作 で あ り な が ら 内 容 は 囑 目 調 詠 の 罵 旅 詠 で あ る 。 ﹁ 於 吉 野 ﹂ ﹁ 於 伊 勢 ﹂ と い う 題 詞 で 差 支 え な い と こ ろ で あ る 。 行 幸 の 記 述 は 歌 を 歴 史 的 に 、 宮 廷 中 心 に み よ う と す る 編 集 上 の 意 図 に 外 な ら な い 。 こ こ に 至 る と 従 駕 作 品 と 覇 旅 に お け る 個 人 謁 詠 は 微 妙 な 交 錯 を 示 し て い る 。 巻 六 に お い て 、 大 伴 家 持 自 身 ま た は 大 伴 家 一 族 の 個 人 調 詠 の 従 り コ ロ コ 駕 作 品 は ﹁ 狭 残 行 宮 大 伴 宿 祢 家 持 作 歌 二 首 ﹂ ( 六 ・ 一 〇 三 ニ ー 一 〇 三 三 ) ﹁ 美 濃 国 多 芸 行 宮 大 伴 宿 祢 東 人 作 歌 一 首 ﹂ ( 六 ・ 一 〇 三 四 ) ﹁ 不 破 行 宮 大 伴 宿 祢 家 持 作 歌 一 首 ﹂ ( 六 ・ 一 〇 三 六 ) の よ う な 従 駕 の 場 所 だ け を 示 す 簡 単 な 表 記 を と っ て い る 。 と こ ろ が 同 じ 巻 六 に お い て も 、 赤 人 や 金 村 の 公 的 度 の 高 い 作 品 に な る と 、 さ き に も 引 例 し た よ う に ﹁ 幸 干 紀 伊 国 時 ﹂
( 六 ・ 九 一 七 -九 一 九 ) ﹁ 幸 於 播 磨 国 印 南 野 時 ﹂ ( 六 ・ 九 三 五 -九 三 七 ) と い う 公 式 の 題 詞 の 書 式 が と ら れ て い る 。 こ れ は 巻 六 の 編 者 家 持 が 他 人 の 従 駕 作 品 は 典 拠 原 本 に 忠 実 に 記 録 し 、 自 分 の 作 品 は 覚 書 程 度 に 簡 略 に 記 し た も の で な い か と 推 測 す る 。 従 っ て 内 容 も 私 的 な 感 懐 で あ る 。 同 時 に 巻 六 の 中 で も 内 容 が 献 呈 歌 、 応 詔 歌 の よ う な 公 的 な 作 品 に つ い て は 、 自 己 ロ コ ロ ロ め 場 合 と い え ど も 公 式 の 書 式 を 用 い て い る 。 ﹁ ( 天 平 ) 十 五 年 癸 未 秋 八 月 十 六 日 内 舎 人 大 伴 宿 祢 家 持 讃 久 遽 京 作 歌 一 首 ﹂ コ コ コ コ コ ( 六 ・ 一 〇 三 七 ) な ど そ の 例 で あ る 。 ま た 巻 一 に ﹁ 石 上 大 臣 従 駕 作 歌 ﹂ ( 四 四 ) ﹁ 舎 人 娘 子 従 駕 作 歌 ﹂ ( 六 一 ) の 表 記 が コ コ リ あ る が 、 こ れ は そ れ ぞ れ そ の 前 の ﹁ 幸 干 伊 勢 国 時 留 京 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 作 歌 ﹂ ( 一 ・ 四 〇 1 四 三 ) お よ び ﹁ ( 大 宝 ) 二 年 壬 コ コ コ る 寅 太 上 天 皇 幸 干 参 河 国 時 歌 ﹂ ( 一 ・ 五 七 -六 〇 ) の 行 幸 に 照 応 す る た め に 簡 単 な 表 記 を と っ て い る も の と 考 え る 。 こ こ で と の 他 の 公 的 行 幸 の 場 を 示 し な が ら 内 容 は 個 人 詠 と 考 え ら れ る 題 詞 を 挙 げ て み よ う 。 幸 干 紀 伊 温 泉 時 額 田 王 作 歌 ( 一 ・ 九 ) 天 皇 遊 猟 蒲 生 野 時 額 田 王 作 歌 ( 一 ・ 二 〇 ) 天 皇 幸 干 吉 野 宮 時 御 製 歌 ( 一 . 二 七 ) 幸 干 志 賀 時 石 上 卿 御 作 歌 一 首 ( 三 ・ 二 八 七 ) 幸 干 伊 勢 国 時 当 麻 麻 呂 大 夫 妻 作 歌 ( 四 ・ 五 二 ) 神 亀 二 年 乙 丑 春 三 月 幸 三 香 原 離 宮 之 時 得 娘 子 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 四 ・ 五 四 六 -五 四 八 ) 幸 芳 野 離 宮 時 歌 二 首 ( 九 ・ 一 七 = ニ ー ] 七 一 四 ) 陶 本 宮 御 宇 天 皇 幸 紀 伊 国 時 歌 二 首 ( 九 ・ 一 六 六 五 -一 六 六 六 ) 回 行 幸 ・ 従 駕 の 場 に お け る 集 団 詠 集 団 詠 と い う の は 適 切 な 名 称 で は な い か も し れ な い が 、 同 じ 行 幸 の 場 で 、 二 、 三 名 乃 至 は 数 名 の 従 駕 者 の 作 品 一 首 ず つ ( ロ 時 に 一 人 二 首 ) 集 録 し た 形 式 の も の を 仮 に 称 し た の で あ る 。 例 え ば 巻 六 に ﹁ ( 天 平 六 年 ) 春 三 月 幸 子 難 波 宮 時 歌 六 首 ﹂ と 題 す る 。 住 吉 の 粉 浜 の 蜆 あ け も み ず 隠 り て の み や 恋 ひ 渡 り な む ( 九 九 九 )
右 の 一 首 は 作 者 詳 ら か な ら ず 眉 の 如 雲 居 に 見 ゆ る 阿 波 の 山 か け て 漕 ぐ 舟 泊 知 ら ず も ( 九 九 八 ) 右 の 一 首 は 船 王 の 作 な り 茅 淳 回 よ り 雨 ぞ ふ り 来 る 四 極 の 海 人 網 を 乾 し た り 濡 れ あ へ む か も ( 九 九 九 ) 右 の 一 首 は 住 吉 の 浜 に 遊 覧 し て 宮 に 還 り 給 へ る 時 道 の 上 に て 守 部 王 の 詔 に 応 じ て 作 れ る 歌 児 ら が あ ら ば 二 人 聞 か む を 沖 つ 渚 に 鳴 く な る 鶴 の 暁 の 声 ( 一 〇 〇 〇 ) 右 の 一 首 は 守 部 王 の 作 な り ま す ら を は み 狩 に 立 た し を と め ら は 赤 裳 裾 引 く 清 き 浜 び を ( 一 〇 〇 一 ) 右 の 一 首 は 山 部 宿 祢 赤 人 の 作 な り ・ 馬 の 歩 み お さ へ と ど め よ 住 吉 の 岸 の 黄 土 に に ほ ひ て 行 か む ( 一 〇 〇 二 ) 右 の 一 首 は 安 倍 朝 臣 曲 豆 継 の 作 な り 以 上 の よ う な 作 品 群 が あ る 。 久 米 常 民 氏 は こ の 作 品 群 に つ い て ﹁ 歌 は い ず れ も 個 人 的 な 題 材 を そ れ ぞ れ 自 由 に 選 び 、 そ れ に 対 す る そ れ ぞ れ の 感 懐 を 自 由 に 表 現 し て い る も の で あ っ て 、 そ こ に は 何 ら 儀 礼 的 な 固 苦 し さ は 見 ら れ な い ﹂ と 評 し て お 注 4 ら れ る 。 な お ( 九 九 九 ) の 守 部 王 の 歌 は 応 詔 歌 で あ る が 、 同 氏 は ﹁ 嘱 目 の 景 を み て 、 左 右 を 顧 み て 歌 を 詠 め と い う よ う な 注 5 お 言 葉 が 気 軽 に 発 せ ら れ た も の と 想 像 す る こ と が 出 来 る の で は な い だ ろ う か ﹂ と 述 べ て お ら れ る 。 内 容 も ﹁ 国 ぽ め ﹂ と い づ た ㈲ の 部 類 の 応 詔 歌 と は 全 く 異 っ た 性 格 の も の で あ る 。 第 一 首 が 作 者 未 詳 に な っ て い る こ と に つ い て 久 米 氏 は ﹁ 自 由 な 注 6 場 で 請 詠 さ れ た も の を 、 記 憶 に よ っ て 筆 録 す る こ と か ら 生 ず る 当 然 の 錯 誤 の 一 つ だ と み る こ と が 出 来 る ﹂ と 言 わ れ る が 、
ロ コ ロ ロ そ こ に 自 由 な 集 録 態 度 が う か が わ れ る の で あ る 。 ﹁ 大 宝 元 年 辛 丑 冬 十 月 太 上 天 皇 大 行 天 皇 幸 紀 伊 国 時 歌 十 三 首 ﹂ ( 九 . 一 六 六 七 1 = ハ 七 九 ) も 集 団 詠 で あ る が 、 こ の う ち 二 首 即 ち ( 一 六 七 三 ) の 歌 に は ﹁ 右 一 首 山 上 憶 良 類 聚 歌 林 日 長 忌 寸 意 吉 麻 呂 応 詔 作 此 歌 ﹂ ( 一 六 七 九 ) の 歌 に は ﹁ 右 ] 首 或 云 坂 上 忌 寸 人 長 作 ﹂ と い う 注 で 異 本 に よ り 作 者 名 を 示 し て い る が 、 注 7 他 全 部 は 作 者 名 が 失 わ れ て い る 。 以 上 の 二 例 に み る よ う に 、 或 る 行 幸 の 際 の 集 団 詠 の 中 の 作 者 名 の 失 わ れ た 作 品 が 、 古 集 或 は 他 の 原 本 に 集 録 さ れ 、 そ れ が さ ら に 巻 七 の ﹁ 鵬 旅 作 ﹂ に 集 録 さ れ る 過 程 が 考 え ら れ る の で あ る 。 こ の こ と に つ い て は 後 で 改 め て 触 れ る こ と と す る 。 こ こ で 行 幸 に 際 し て の 集 団 詠 の 中 で 一 首 一 首 或 は 大 部 の 作 者 名 の 明 ら か な も の を ω と し 、 大 部 分 作 者 名 の 未 詳 の も の を 圖 と し て そ の 題 詞 を ま と め て み る 。 (ー 印 は 、 前 の 題 詞 に 含 ま る べ き 作 者 を 示 す 。 ) ω 大 宝 元 年 辛 丑 秋 九 月 太 上 天 皇 幸 干 紀 伊 国 時 歌 ( 一 ・ 五 四 -五 六 ) ( 大 宝 ) 二 年 壬 寅 太 上 天 皇 幸 干 参 河 国 時 歌 ( 一 . 五 七 -五 八 ) 慶 雲 三 年 丙 午 幸 干 難 波 宮 時 ( 一 ・ 六 四 -六 五 ) 太 上 天 皇 幸 干 難 波 宮 時 歌 ( 一 . 六 六 -六 九 ) 大 行 天 皇 幸 干 難 波 宮 時 歌 ( 一 ・ 七 一 -七 二 ) 大 行 天 皇 幸 干 吉 野 宮 時 歌 ( 一 ・ 七 四 -七 五 ) ( 天 平 ) 十 二 年 庚 辰 冬 十 月 依 太 宰 少 弐 藤 原 朝 臣 広 嗣 謀 反 発 軍 幸 子 伊 勢 国 之 時 河 口 行 宮 内 舎 人 大 伴 宿 祢 家 持 作 歌 一 首 ー 天 皇 御 製 ー 丹 比 屋 主 真 人 ( ⊥ハ ・ 一 〇 二 九 i 一 〇 一二 一 ) ② ( 神 亀 ) 五 年 戊 辰 幸 干 難 波 時 作 歌 四 首 ( 六 ・ 九 五 〇 1 九 五 三 ) 幸 子 吉 野 離 宮 時 歌 二 首 ( 九 ・ 一 七 = ニ ー 一 七 一 四 ) B 行 幸 ま た は 従 駕 の 明 記 の な い も の 。 ㈱ 公 的 な 旅 の 場 が 背 景 に 考 え ら れ る も の 。 コ コ ロ ロ コ ﹁ 山 上 憶 良 在 大 唐 憶 本 郷 作 歌 ﹂ ( 一 ・ 六 三 ) ﹁ 長 皇 子 遊 猟 路 池 之 時 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 三 . 二 三 九 1 二 四 コ ロ り コ コ リ コ コ 一 ) ﹁ 長 田 王 被 遣 筑 紫 渡 水 島 之 時 歌 二 首 ﹂ ( 三 ・ 二 四 五 -二 四 六 ) ﹁ 田 口 益 人 大 夫 任 上 野 国 至 駿 河 浄 見 崎 作 歌 二 首 ﹂ ( 三
` 二 九 六 -二 九 七 ) こ れ ら は 題 詞 か ら み て も 公 的 の 旅 の も の で あ る こ と は 明 ら か で あ る 。 二 首 目 の ﹁ 長 皇 子 遊 猟 路 池 之 時 ﹂ の よ う に 皇 族 の 旅 の 従 駕 作 品 も こ の 項 に 入 れ て 考 え る 。 コ コ ロ ロ コ コ コ ロ コ そ の 他 ﹁ 従 近 江 国 上 来 之 時 刑 部 垂 麻 呂 作 歌 一 首 ( 三 ・ 二 六 三 ) ﹁ 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 従 近 江 国 上 来 時 至 宇 治 河 辺 作 歌 ﹂ ( 三 ・ 二 六 四 ) こ れ ら の 歌 に な る と ﹁ 上 来 時 ﹂ だ け で 公 私 の 区 別 は 出 来 な い が 、 刑 部 垂 麻 呂 の 歌 は 馬 な い た く 打 ち て な 行 き そ 日 な ら べ て 見 て も わ が 行 く 志 賀 に あ ら な く に 官 命 に よ る 旅 な の で 勝 手 に 日 程 を お く ら せ る こ と は で き な い が 、 せ め て 馬 の 歩 み を ゆ る く し よ う と い う 意 で 、 四 囲 の 風 景 に 心 ひ か れ る 旅 情 の 歌 で あ り 、 公 の 旅 の 途 次 の も の で あ る こ と は 明 ら か で あ る 。 人 麿 の 歌 は 内 容 的 に 決 め 手 は な い 。 彼 の ロ リ コ コ コ ロ ・歌 に ﹁ 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 従 石 見 国 別 妻 上 来 時 歌 二 首 井 短 歌 ﹂ ( 二 ・ = 二 一 -一 三 七 ) が あ る 。 こ れ に つ い て 、 万 葉 考 に ﹁ こ の 度 は 朝 集 使 に て か り に 上 る な る べ し ﹂ と あ る 通 り 、 公 の 旅 の 色 彩 が あ る 。 こ れ か ら 類 推 す る と ( 二 六 四 ) の 歌 の 場 合 も コ や は り 公 の 旅 が 背 景 に 考 え ら れ る の で は な い か と 思 う 。 ﹁ 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 下 筑 紫 国 時 海 路 作 歌 二 首 ﹂ ( 三 二 二 〇 三 ー 三 〇 四 ) も 形 式 の 上 か ら 同 じ よ う な こ と が 言 え よ う 。 こ の 他 こ の 項 に 属 す る も の を 纒 め ろ と 次 の 通 り で あ る 。 ( こ の 項 に は 留 送 別 の 歌 が 、 か な り 多 く あ る が 、 今 そ れ ら 一 切 は 省 略 す る ) 額 田 王 下 近 江 国 時 作 歌 井 戸 王 即 和 歌 ( 一 ・ 一 七 -一 九 ) 三 野 連 入 唐 時 憶 本 郷 作 歌 ( 一 ・ 六 三 ) 和 銅 三 年 庚 戌 春 二 月 従 藤 原 遷 干 寧 楽 宮 時 御 輿 停 長 屋 原 廻 望 古 郷 作 歌 ( 一 ・ 七 八 ) 和 銅 五 年 壬 子 夏 四 月 遣 長 田 王 干 伊 勢 斎 宮 時 山 辺 御 井 歌 ( 一 ・ 八 一 -八 三 ) 勅 穂 積 皇 子 遣 近 江 志 賀 山 寺 時 但 馬 皇 女 御 作 歌 ( 二 ・ 一 一 五 ) 石 上 大 夫 歌 一 首 ( 三 ・ 三 六 八 ) 丹 比 真 人 笠 麻 呂 下 筑 紫 国 時 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 四 ・ 五 〇 九 ) 土 師 宿 祢 水 道 従 筑 紫 上 京 海 路 作 歌 二 首 ( 四 ・ 五 五 七 -五 五 八 ) ( 天 平 二 年 冬 十 一 月 ) 坂 上 郎 女 向 京 海 路 見 浜 貝 作 歌 一 首 ( 大 ・ 九 六 四 ) 春 三 月 諸 卿 大 夫 等 下 難 波 時 二 首 井 短 歌 ( 九 ・
一 七 四 七 -一 七 五 〇 ) 難 波 経 宿 明 日 還 来 之 時 歌 一 首 井 短 歌 ( 九 ・ 一 七 五 一 -一 七 五 二 ) 耐 個 人 的 鵬 旅 詠 こ の 項 に お い て は 全 く 公 的 の 場 を 離 れ た 私 的 の 旅 の 詠 歌 、 ま た は 公 的 の 旅 の 背 景 は あ っ た か し れ な い が 、 集 録 ・ 編 集 の 時 コ コ ロ コ 点 に お い て 、 私 的 詠 歌 と い う 見 方 で 取 扱 わ れ て い る も の を 一 括 す る 。 ﹁ 過 近 江 荒 都 時 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 作 歌 ﹂ ( 一 . 二 九 1 コ り コ 三 一 ) ﹁ 過 辛 荷 島 時 山 部 宿 祢 赤 人 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 三 ・ 九 四 ニ ー 九 四 五 ) ﹁ 過 敏 馬 浦 時 山 部 宿 祢 赤 人 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 一一 丁 九 四 六 -九 四 七 ) こ れ ら の 歌 の 中 で 赤 人 の 敏 馬 浦 の 歌 は 続 日 本 紀 に 神 亀 二 年 聖 武 天 皇 播 磨 の 印 南 野 邑 美 頓 宮 に 行 幸 注 8 の 記 事 も あ り 、 万 葉 集 に も 巻 ⊥ハ の ( 九 三 八 -九 四 一 ) ︹ A ㈲ 項 に 挙 ぐ ︺ の 歌 も あ り 、 そ の 途 次 の も の と 推 測 さ れ る 。 そ の 他 の 二 首 に つ い て は 、 公 私 の 旅 の 別 は 判 然 と し な い 。 こ こ で ﹁ 過 ﹂ を ﹁ 於 ﹂ に 置 き 換 え て み て も 差 支 え な い 歌 で あ る 。 た だ ﹁ 過 ﹂ と あ る の ば 飽 く ま で も 罵 旅 の 契 機 に 重 点 を お き 、 ﹁ 於 ﹂ と し た 場 合 は 自 然 囑 目 の 契 機 を 重 視 し た こ と に な ろ う 。 人 麿 の ﹁ 過 近 江 荒 都 時 ﹂ と そ の 次 に あ る ﹁ 高 市 古 人 感 傷 近 江 旧 堵 作 歌 或 書 云 高 市 連 黒 人 ﹂ の 題 肩詞 の 相 違 も 同 じ 例 と い え る 。 こ の 場 合 に 限 ら ず 、 鵬 旅 の 契 機 と 自 然 囑 目 の 契 機 と は 交 錯 し て 捕 捉 し が た い も の が あ る 。 伊 藤 博 氏 は ﹁ ﹁ 1 を 過 ぐ る 注 9 歌 ﹂ な る 題 詞 を 持 つ 歌 は 、 ﹁ 1 を 見 る 歌 ﹂ と 、 本 質 的 な 差 は な い ﹂ と い わ れ る 。 過 ぐ と い い 見 る と い い 、 そ れ は 作 者 の 身 を も っ て 体 験 す る も の で あ り 、 そ こ に は 個 人 的 創 作 の 契 機 が 考 え ら れ る 。 公 的 な 旅 の 度 合 よ り も 、 個 人 的 な 旅 の 経 験 が 契 機 と な っ て 創 作 さ れ た も の と 考 え 、 さ き の 三 つ の 歌 の 題 詞 を こ の 項 に 入 れ る こ と と す る 。 次 に 公 的 な 背 景 は あ っ た か も し れ な い が 、 作 者 自 身 は 公 的 な 場 を 離 れ 、 全 く 自 由 な 主 題 の 選 択 と 表 現 に よ っ て 、 自 然 誠 詠 あ る い は 旅 愁 を 詠 ん だ 歌 或 は 編 集 時 に お い て そ の よ う に 扱 わ れ た 歌 が あ る 。 ﹁ 弓 削 皇 子 遊 吉 野 御 歌 一 首 ﹂ ﹁ 春 日 王 奉 和 歌 ﹂ ( 三 ・ 二 四 ニ ー 二 四 三 ) ﹁ 長 忌 寸 奥 麻 呂 歌 一 首 ﹂ ( 三 ・ 二 八 二 ) ﹁ 高 市 黒 人 歌 一 首 ﹂ ( 三 ・ 二 八 三 ) の よ う な 簡 単 な
題 詞 を も っ も の 、 或 は ﹁ 門 部 王 難 波 見 漁 父 燭 作 歌 一 首 ﹂ ( 三 ・ 三 二 六 ) ﹁ 登 筑 波 岳 丹 比 真 人 国 人 作 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 三 ・ 三 八 ニ ー 三 八 三 ) ﹂ な ど 自 然 嚇 目 的 な 題 詞 も 見 ら れ る 。 今 一 つ こ の 項 に お い て 注 目 し た い こ と は 、 ﹁ 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 罵 旅 歌 八 首 ( 三 ・ 二 四 九 ) ﹁ 高 市 連 黒 人 鴇 旅 歌 八 首 ﹂ ( 三 . 二 七 〇 1 二 七 七 ) な ど の 罵 旅 と い う 主 題 に 統 括 集 録 さ れ た 歌 群 で あ る 。 扇 畑 忠 雄 氏 は こ れ ら の 作 を 伊 藤 左 千 夫 の 提 唱 す 注 10 る 連 作 に は い た ら ぬ 群 作 と 称 し て お ら れ る 。 と に か く こ れ ら の 群 作 の 発 現 は 、 羅 旅 と い う 生 活 経 験 の 中 に 、 自 然 美 の 発 見 と 同 時 に 、 旅 愁 、 離 別 、 留 別 と い っ た 人 間 感 情 の 深 奥 に 触 れ る 文 学 的 要 素 を 自 覚 し た こ と に 由 来 す る も の で あ る 。 こ の 他 ﹁ 山 部 宿 祢 赤 人 歌 六 首 ﹂ ( 三 二 二 五 七 -三 六 二 ) は 鵬 旅 と い う 語 は な く 人 麿 、 黒 人 の 前 の 群 作 に 比 し て 、 主 題 の 統 括 性 は 乏 し い が 、 内 容 は や は り 鵜 旅 詠 の 群 作 で あ る 。 人 麿 か ら 黒 人 へ 、 黒 人 か ら 赤 人 へ 結 実 す ろ 自 然 を 凝 視 す る 客 観 描 写 の 新 し い 歌 が 醸 成 さ れ ろ 機 運 、 叙 景 歌 の 胎 動 の 機 運 が 、 こ う し た 罵 旅 詠 の 集 録 と な っ て 現 わ れ た も の と 考 え る 。 か か る 文 学 意 識 の 発 現 が や が て 巻 七 の ﹁ 羅 旅 作 ﹂ の 大 歌 群 へ 発 展 す る も の と 思 考 す る 。 こ の こ と は の ち に 改 め て 触 れ る こ と と し て 、 こ こ で 一 応 こ の 項 に 属 す る 歌 の 題 詞 を 挙 げ て み よ う 。 最 初 の ﹁ 過 口 口 時 ﹂ ﹁ 見 口 口 時 ﹂ ﹁ 越 口 口 時 ﹂ の 型 を 田 と し 、 一 人 一 首 詠 を ② と し 、 二 首 以 上 に 亘 る 群 作 と 称 す べ き も の を 圖 と す る 。 な お ﹁ 山 部 宿 祢 赤 人 望 不 尽 山 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 三 ・ 三 一 七 -三 一 八 ) 高 橋 虫 麻 呂 の ﹁ 詠 不 尽 山 歌 一 首 井 短 歌 ﹂ ( 三 ・ 三 一 九 -三 一 = ) な ど は 、 さ き に も 述 べ た よ う に 、 羅 旅 的 契 機 と 自 然 謁 詠 的 契 機 の 交 錯 し て 、 捕 捉 し 難 き も の と し て こ こ で は 一 応 除 外 す る こ と と し た 。 ω 丹 比 真 人 笠 麻 呂 往 紀 伊 国 超 勢 能 山 時 作 歌 一 首 ( 三 ・ 二 八 五 ) 博 通 法 師 往 紀 伊 国 見 三 穂 石 室 作 歌 三 首 ( 三 ・ 三 〇 七 -三 〇 九 ) 上 宮 聖 徳 皇 子 出 遊 竹 原 井 之 時 見 龍 田 山 死 人 悲 傷 作 歌 一 首 ( 三 ・ 四 一 五 ) 過 足 柄 坂 見 死 人 作 歌 一 首 ( 九 ・ 一 八 〇 〇 ) 過 葦 屋 処 女 墓 時 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 九 ・ 一 八 〇 一 -一 八 〇 三 )
囲 高 市 黒 人 歌 一 首 ( 三 ・ 二 八 四 ) 春 日 蔵 首 老 歌 一 首 ( 三 ・ 二 八 四 ) 穂 積 朝 臣 老 歌 一 首 ( 三 ・ 二 八 八 ) 小 田 事 勢 能 山 歌 一 首 ( 三 ・ 二 九 一 ) 行 基 歌 一 首 ( 三 ・ 二 九 八 ) 角 庇 乗 船 時 笠 朝 臣 金 村 作 歌 一 首 井 短 歌 ( 三 二 二 六 六 -三 六 七 ) 湯 原 王 芳 野 作 歌 一 首 ( 三 ・ 三 七 五 ) 帥 大 伴 卿 宿 次 田 温 泉 聞 鶴 喧 作 歌 一 首 ( 六 ・ 九 六 一 ) 草 香 山 歌 一 首 ( 八 ・ 一 四 二 八 ) 登 筑 波 山 詠 月 歌 一 首 ( 九 ・ 一 七 一 二 ) 圖 高 市 連 黒 人 歌 二 首 ( 三 ・ 二 七 九 -二 八 〇 ) 角 麻 呂 四 首 ( 三 ・ 二 九 ニ ー 二 九 五 ) 長 屋 王 駐 馬 寧 楽 山 作 歌 二 首 ( 三 ・ 三 〇 〇 1 三 〇 一 ) 以 上 万 葉 集 に お い て 宮 廷 の 公 の 場 に 拘 束 さ れ て い た 鵬 旅 歌 の 原 初 的 姿 か ら 、 次 第 に 公 の 場 が 稀 薄 に な り 、 つ い に は 旅 に 於 て 個 人 の 自 由 な 感 情 の 表 出 に 至 る 姿 に つ い て 、 題 詞 の 分 類 の 上 か ら 考 察 を 試 み た の で あ る 。 羅 旅 歌 の こ の よ う な 発 展 過 程 を た ど る な か で 、 巻 七 の ﹁ 罵 旅 作 ﹂ の 性 格 を 考 え て み た い 。 九 十 首 の こ の 大 歌 群 は ﹁ 柿 本 人 麻 呂 歌 集 中 出 ﹂ の 左 注 あ る も の 五 首 。 ﹁ 藤 原 卿 作 ﹂ の 左 注 あ る も の 七 首 、 ﹁ 古 集 中 出 ﹂ と さ れ る も の 三 十 六 首 。 そ の 他 、 不 明 の 原 本 か ら 採 録 さ れ た 四 十 二 首 か ら 構 成 さ れ る 。 森 本 治 吉 博 士 は 巻 七 雑 歌 の 部 は 四 つ の 異 質 的 部 分 か ら 構 成 さ れ 注 11 た も の と さ れ る 。 即 ち 第 一 部 は ﹁ 詠 物 歌 ﹂ 第 二 部 は ﹁ 芳 野 作 ﹂ ﹁ 山 背 作 ﹂ ﹁ 摂 津 作 ﹂ と あ ろ 、 い わ ゆ る 地 理 歌 と も 称 せ ら れ る も の 。 第 三 部 は ﹁ 覇 旅 作 ﹂ 第 四 部 は そ の 後 の ﹁ 問 答 ﹂ ﹁ 臨 時 ﹂ ﹁ 旋 頭 歌 ﹂ と 分 類 さ れ る 。 こ の 第 二 部 は ﹁ 芳 野 作 ﹂ ( 五 首 ) ﹁ 山 背 作 ﹂ ( 五 首 ) ﹁ 摂 津 作 ﹂ ( 二 十 一 首 ) の 三 十 一 首 で 構 成 さ れ る が 宇 治 河 を 船 渡 せ を と 呼 ば へ ど も 聞 え ざ る ら し 揖 の 音 も せ ず ( 一 = 二 八 ・ 山 背 作 ) し な が 鳥 猪 名 野 を 来 れ ば 有 間 山 夕 霧 立 ち ぬ 宿 は な く し て ( = 四 〇 ・ 摂 津 作 )
歌 枕 を 素 材 に し て 、 旅 路 に 行 き 暮 れ る 旅 愁 の 滲 み 出 る 名 作 す ら み ら れ る 。 こ の こ と か ら 考 え て も 地 理 歌 の 三 部 作 と ﹁ 覇 旅 作 ﹂ は 等 質 の 羅 旅 詠 と 見 な け れ ば な ら な い 。
︹纏
鯉
疑
紡
酌鞍
輩
駄
勧縮
駝
蝦
(三
諺
甥雛
︹
妹 が 為 貝 を 拾 ふ と 血 沼 の 海 に ぬ れ に し 袖 は 干 せ ど 乾 か ず ( 一 一 四 五 ・ 摂 津 作 ) あ さ り す る 蛋 少 女 ら が 袖 と ほ り ぬ れ に し 衣 干 せ ど 乾 か ず ( 一 一 八 六 ・ キ リ ヨ 歌 )[
住 吉 に 往 く と ふ 道 に 昨 日 見 し 恋 忘 貝 事 に し あ り け り ( 一 一 四 九 ・ 摂 津 作 ) 手 に と る が か ら に 忘 る と 人 の 言 ひ し 恋 忘 貝 事 に し あ り け り ( 一 一 九 七 ・ キ リ ヨ 作 )︹
奈 呉 の 海 の 朝 明 の な ご り 今 日 も か も 磯 の 浦 回 に 乱 れ て あ ら む ( 一 一 五 五 ・ 摂 津 作 ) 今 日 も か も 沖 っ 玉 藻 は 白 浪 の 八 重 折 る が 上 に 乱 れ て あ ら む ( 一 一 六 八 ・ キ リ ヨ 作 ) 四 群 の 例 を み る と 、 類 歌 の 場 合 、 国 別 に で き な い も の が 覇 旅 歌 に 、 地 名 の あ る も の は 地 理 歌 の 方 に 分 類 さ れ て い る 。 こ の 注 12 事 例 を 以 て 加 藤 順 三 氏 は 地 理 歌 と 羅 旅 作 と 二 様 に 部 分 け し な け れ ぼ な ら な か っ た 理 由 の 一 つ を 見 出 そ う と さ れ た が 、 同 じ ﹁ 罵 旅 作 ﹂ の 中 に お い て︹
藻 刈 舟 沖 こ ぎ 来 ら し 妹 が 島 形 見 の 浦 に 鶴 翔 る 見 ゆ ( 一 一 九 九 ) 磯 に 立 ち 奥 辺 を 見 れ ば 海 藻 刈 舟 海 人 こ ぎ 出 ら し 鴨 翔 る 見 ゆ ( 一 二 二 七 )[
円 方 の 湊 の 渚 鳥 波 立 て や 妻 呼 び 立 て て 辺 に 近 づ く も ( 一 一 六 二 ) 夕 凪 に 漁 す る 鶴 潮 満 て ば 沖 波 高 み 己 が 妻 呼 ぶ ( 一 = ハ 五 ) 求 食 す と 磯 に 住 む 鶴 明 け さ れ ば 浜 風 寒 み 己 妻 呼 ぶ も ( 一 一 九 八 )地 名 の あ る 歌 と 地 名 の な い 歌 と の 類 歌 関 係 は 存 在 す る の で あ る 。 ま た ﹁ 覇 旅 作 ﹂ 九 十 首 中 地 名 を 鍵 ん で い な い も の は 三 十 三 首 。 そ れ に 対 し て 地 名 を 詠 み 入 れ て い る も の は 五 十 七 首 と 遥 に 多 い 。 国 あ る い は 地 域 別 に 分 け て み る と 次 の 通 り で あ る 。 (数 字 は 歌 数 ) 紀 伊 ( 24 ) 大 和 ( 5 ) 近 江 ( 5 ) 播 磨 ( 4 ) 摂 津 ( 3 ) 山 城 ( 2 ) 淡 路 (1 ) 九 州 ( 5 ) 中 国 ( 3 ) 東 海 ( 3 ) 東 国 (3 ) 北 陸 ( 2 ) 山 陰 ( 2 ) ※ 計 六 十 三 首 に な る が 、 こ れ は 例 え ば 信 土 山 を 、 和 歌 山 県 橋 本 市 真 土 、 奈 良 県 五 条 市 待 乳 峠 と す る よ う に 、 両 説 あ る も の は 、 両 方 に 数 え た 結 果 で あ る 。 地 理 歌 三 部 作 を 解 体 し て 罵 旅 作 に 統 合 し よ う と す れ ば で き る 筈 で あ る 。 そ れ が 敢 て 分 け ら れ て い る の は 、 典 拠 原 本 に 既 に 地 理 歌 三 部 作 の よ う に 地 名 別 に 分 類 さ れ て い た も の を 忠 実 に 集 録 し た ま で の も の と 考 え る 。 森 本 治 吉 博 士 は 巻 七 の 詠 物 歌 の 中 の ( 一 〇 九 二 ・ 詠 山 ) ( 一 一 〇 四 ・ 詠 河 ) ( 一 一 〇 五 ・ 詠 河 ) ( 一 一 〇 六 ・ 詠 河 ) ( 一 ] 〇 七 ・ 詠 河 ) の 五 首 は 皆 羅 注 13 旅 部 に 入 る べ き 類 と さ れ る 。 こ れ ら の 歌 は 自 然 観 照 の す ぐ れ た 羅 旅 詠 で ﹁ 羅 旅 作 ﹂ に 統 合 さ れ て も よ い 歌 で あ る 。 そ れ が 詠 物 歌 と し て 記 載 さ れ て い る の は 、 や は り 典 拠 原 本 に あ っ た そ の ま ま を 集 録 し た た め の も の と 考 え た い 。 罵 旅 詠 が い か に 多 岐 多 様 に 分 類 さ れ る か と い う 一 例 を 佐 々 木 信 綱 博 士 ﹁ 分 類 万 葉 集 ﹂ に よ っ て み て み よ う 。 同 書 に お い て 巻 七 ﹁ 鴇 旅 作 ﹂ の 中 で 、 純 粋 の 覇 旅 部 に 入 れ ら れ て い る 歌 は 次 の 四 首 に 過 ぎ な い 。 若 の 浦 に 白 浪 立 ち て 沖 つ 風 寒 き 夕 は 大 和 し 念 ほ ゆ ( 一 二 一 九 ・ 懐 郷 ) 竹 嶋 の 阿 戸 白 波 は さ わ げ ど も 吾 は 家 思 ふ 盧 悲 し み ( 一 二 三 八 ・ や ど り ) ぬ ば た ま の 黒 髪 山 を 朝 越 え て 山 下 露 に 濡 れ に け る か も ( = 一 四 一 ・ 山 越 )
あ し び き の 山 行 き 暮 し 宿 借 ら ば 妹 立 ち 待 ち て 宿 借 さ む か も ( 一 二 四 二 ・ 山 越 ) 他 の 歌 は す べ て 次 の 分 類 に 所 属 せ し め ら れ て い る の で あ る 。 ( 数 字 は 歌 数 ) 天 部 ⋮ ⋮ 雲 ( 1 ) 月 ( 1 ) 漁 火 ( 1 ) 煙 ( 1 ) ー 四 首 地 部 ⋮ ⋮ 動 物 (12 ) 植 物 ( 10 ) 山 野 ( 11 ) 河 海 ( 25 ) 潮 干 ( 1 ) 道 路 (1 ) 1 六 十 首 人 部 ⋮ ⋮ 人 事 ( 4 ) 器 物 ( 14 ) 人 物 ( 2 ) 神 仏 ( 1 ) 服 飾 ( 1 ) 1 二 十 二 首 朝 な ぎ に 真 揖 こ ぎ 出 で 見 つ つ 来 し 三 津 の 松 原 波 越 し に 見 ゆ ( = 八 五 ) さ 夜 更 け て 夜 中 の 潟 に お ほ ほ し く 呼 び し 舟 人 泊 て に け む か も ( = 一 二 五 ) 天 霧 ひ 日 方 吹 く ら し 水 茎 の 岡 の 水 門 に 波 立 ち わ た る ( 一 二 三 一 ) こ れ ら の 叙 景 、 拝 情 の す ぐ れ た 羅 旅 詠 も 、 第 一 首 は 地 部 ﹁ 山 野 ﹂ ー 松 原 。 第 二 首 は 人 部 ﹁ 人 物 ﹂ 1 舟 人 。 第 三 首 は 地 部 ﹁ 河 海 ﹂ ー 浪 と 分 類 さ れ て い る の で あ る 。 佐 た 木 信 綱 博 士 の 分 類 も あ ま り 素 材 に 重 点 を お き 、 即 物 的 な と こ ろ が あ り 全 面 的 に 賛 同 し か ね る が 、 観 点 に よ っ て は 、 複 雑 多 岐 な 分 類 も 行 な わ れ る こ と を 見 て み た の で あ る 。 こ の 例 か ら 推 す と 巻 七 の 典 注 14 拠 本 の 詠 物 歌 の 中 に 羅 旅 詠 が あ り 、 相 聞 歌 が あ っ た と し て も 、 そ れ は や む を 得 ぬ も の と 考 え る 。 た だ 先 覚 に よ っ て も 既 に 注 15 説 か れ て い る よ う に 、 巻 七 の 編 集 は 未 整 理 の も の で あ っ た 。 罵 旅 に 限 っ て み て も 、 ﹁ 行 路 ﹂ と 題 し ﹁ 柿 本 人 麻 呂 歌 集 出 ﹂ の 左 注 の あ る ( = 一 七 一 ) の 歌 、 巻 末 に あ る ﹁ 罵 旅 歌 ﹂ と 題 す る 歌 ( 一 四 一 七 ) が 独 立 し た ま ま に 編 集 さ れ て い る こ と か ら 、 巻 七 全 体 が 未 整 理 の も の で あ る 事 実 は 蔽 い 隠 せ ぬ こ と で あ る 。 こ の よ う な 編 集 状 態 の 中 で ﹁ 罵 旅 作 ﹂ の 歌 群 は ど の よ う に 集 録 さ れ て い る か 。 先 ず 目 に つ く こ と は 、 不 完 全 な が ら に も 類 聚 的 に 纒 め よ う と す る 意 図 で あ る 。 典 拠 と な っ た 不 明 原 本 と 古 集 と を 対 比 し 、 藤 原 卿 作 と 柿 本 人 麻 呂 歌 集 を 併 記 し て み
楽 数 字 は ヨ 糊 旅 作 の 歌 の 号 ㊥ は 両 本 に共 的 類
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。 藤 原 卿 作 ( = コ 八 -] 一 九 四 ) 紀 の 国 の 歌 。 柿 本 人 麻 呂 歌 集 @ 一 二 四 七 妹 山 背 山 @ = 一 四 八 奥 つ 藻三
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三 五 〇 ﹁ 妹 が た め ﹂ \一 一 九 一 -一 一 九 二 馬 つ ま つ く ◎ 一 一 九 三 -一 二 〇 八 1 = = ○ ( 元 暦 校 本 の 順 序 に よ る ) 一 二 一 一 1 = 一 一 七 相 聞 同 じ 素 材 、 の で あ る 。 う な 効 果 を 齎 し て い る 。 鶴 、 舟 行 は 、 馬 な つ む 背 山 妹 山 国 名 ま た は 地 域 、 或 は 歌 の 主 題 な ど に よ っ て 二 首 ま た は 数 首 、 多 い の に な る と 十 五 首 と 、 類 聚 的 に 纒 め て い る 不 明 原 本 に は 同 類 歌 を 持 た な い 独 立 歌 が 所 々 に 散 在 す る が 、 そ れ が 却 っ て 単 調 な リ ズ ム を 破 る ア ク セ ン ト の よ 不 明 原 本 、 古 集 に 共 通 し た 類 聚 で あ る が 、 そ れ が 統 合 さ れ て い な い 。 柿 本 人 麻 呂 歌 集 の 妹 山 背 山 の 歌 は 、 不 明 原 本 の 同 じ 素 材 の 中 に 統 合 さ れ ず に 独 立 し て い る 。 各 原 本 は 互 に 独 立 性 を 保 ち つ つ 各 々 の 原 本 の 中 に お い て 類 聚 的 集 録 が な さ れ て い る の で あ る 。 歌 を 類 聚 的 に 集 録 し よ う と す る 意 図 は 、 従 来 行 な わ れ て き た 歌 の 歴 史 的 排 列 を 克 服 し て 、 歌 を 文 芸 的 に み よ う と す る 交 学 的 自 覚 に 外 な ら な い 。 ① 家 に し て 吾 は 恋 ひ む な 印 南 野 の 浅 茅 が 上 に 照 り し 月 夜 を ( = 七 九 。 キ リ ョ 作 ) ② 印 南 野 の 浅 茅 お し な べ さ ぬ る 夜 の け 長 く あ れ ば 家 し 偲 ば ゆ ( 六 ・ 九 四 〇 ) ② は さ き に も 出 た 聖 武 天 皇 神 亀 三 年 播 磨 印 南 野 に 行 幸 の 際 の 赤 人 の 作 歌 ( 九 三 八 ) の 反 歌 三 首 中 の 一 首 で あ る 。 長 歌 は さ き の 分 類 の A ㈲ に 属 す る 公 的 度 の 高 い 作 品 で あ る 。 ① は ﹁ 罵 旅 作 ﹂ 中 の も の で ② と 想 を 同 じ く す る も の で あ り 、 同 じ 反 歌 中 の 明 石 潟 潮 干 の 道 を 明 日 よ り は 下 笑 し け む 家 近 づ け ば ( 九 四 一 ) こ の 歌 に つ づ く 作 品 と も 見 ら れ る 。 三 首 と も に 共 通 す る も の は 荒 蓼 た る 印 南 野 に お け る 旅 愁 で あ る 。 ① は ② と 単 な る 類 歌
関 係 に あ る と い う よ り は 、 お そ ら く 印 南 野 行 幸 の 折 の 赤 人 作 品 の 拾 遺 的 な も の と 考 え ら れ る 。 そ れ が 不 明 原 本 に 採 録 さ れ さ ら に ﹁ 罵 旅 作 ﹂ に 集 録 さ れ る に 至 っ た も の で あ ろ う 。 藤 原 卿 ( 房 前 ) の 作 品 に も 次 の よ う な 例 が み ら れ る 。 ① 黒 牛 の 紅 に ほ ふ も ・ し き の 大 宮 人 し あ さ り す ら し も ( 一 二 一 八 ・ キ リ ヨ 作 ) 藤 原 卿 ② 黒 牛 潟 潮 干 の 浦 を 紅 の 玉 裳 裾 引 き 行 く は 誰 が 妻 ( 九 ・ 一 六 七 二 ) ② は ﹁ 大 宝 元 年 辛 丑 冬 十 二 月 太 上 天 皇 大 行 天 皇 幸 干 紀 伊 国 時 歌 十 三 首 ﹂ 中 の も の で 作 者 未 詳 の 集 団 詠 の な か の 一 首 で あ る 。 ① は 藤 原 卿 作 で 大 宮 人 が 対 象 と な っ て い る と こ ろ か ら 、 従 駕 の 作 と 推 定 す る こ と が で き る 。 し か し 何 れ の 時 の 行 幸 の も の か は 判 然 と し な い 。 万 葉 集 に お い て 大 宝 元 年 紀 伊 行 幸 の 他 に 、 神 亀 元 年 十 月 紀 伊 行 幸 の 時 の 従 駕 作 品 が ニ カ 所 に 見 え る 。 一 つ は 笠 金 村 の 長 、 短 歌 ( 四 ・ 五 四 三 -五 四 五 ) 一 つ は 赤 人 の 長 、 短 歌 ( 六 ・ 九 一 七 -九 一 九 ) の 作 で あ る 。 い ず れ も A ㈲ に 属 す る 作 品 で 、 金 村 と 赤 人 単 独 の 作 で あ る 。 お そ ら く ① の 歌 は 大 宝 元 年 紀 伊 行 幸 の 際 の 集 団 詠 中 の 拾 遺 と し て 採 録 さ れ て い た も の が 再 び ﹁ 覇 旅 作 ﹂ 中 に 集 録 さ れ た も の で あ ろ う 。 今 一 つ ① 若 の 浦 に 白 浪 立 ち て 沖 つ 風 寒 き 夕 は 大 和 し 思 ほ ゆ ( 一 二 一 九 ・ キ リ ヨ 作 ) 藤 原 卿 作 ② 葦 辺 ゆ く 鴨 の 羽 交 に 霜 零 り て 寒 き 夕 は 大 和 し 思 ほ ゆ ( 一 . 六 四 ) 志 貴 皇 子 ② は ﹁ 慶 雲 三 年 丙 午 幸 干 難 波 宮 時 ﹂ の 集 団 詠 で 、 六 首 と も 作 者 の 明 ら か に さ れ て い る 中 の 一 首 で あ る 。 下 の 句 を 基 調 に し で 、 上 の 句 の 場 と 景 を 替 え て 詠 ん だ も の で あ る 。 志 貴 皇 子 の 御 歌 の 方 が 海 辺 の 寒 夜 に 家 郷 を 思 う 心 が 透 徹 し て い て 鋭 さ が あ る 。 観 照 も 行 き 届 い て い て 、 そ の 具 体 的 描 写 が 極 め て 効 果 的 で あ る 。 志 貴 皇 子 の 御 歌 を 原 歌 と 推 定 す る 。 す る と 藤 原 卿 の 歌 は 大 宝 元 年 紀 伊 行 幸 の 折 の も の と は な ら な い 。 慶 雲 後 、 神 亀 元 年 紀 伊 行 幸 の 際 、 志 貴 皇 子 の 御 歌 に も と つ い て 創 作 さ れ た も の と 考 え ら れ る 。 藤 原 卿 作 の 七 首 一 連 の 歌 は 、 大 宝 元 年 或 は 神 亀 二 年 紀 伊 行 幸 の 折 の 従 駕 作 品 の 拾 遺 と す る 推 測 も
可 能 に な る よ う に 思 う 。 こ の よ う に ﹁ 覇 旅 作 ﹂ の 中 に は 赤 人 の 罵 旅 詠 、 従 駕 の 集 団 詠 の 拾 遣 的 作 品 が 集 録 さ れ て お り 、 ま た 藤 原 房 前 の 作 も 従 駕 作 の 集 録 と 考 え ら れ る の で あ る 。 次 に ﹁ 羅 旅 作 ﹂ の 歌 と 人 麿 ・ 黒 人 の 関 係 を 考 え て み た い 。 ① 何 処 に か 舟 乗 り し け む 高 島 の 香 取 の 浦 ゆ 漕 ぎ で 来 る 船 ( = 七 二 ・ キ リ ヨ 作 ) ② 何 処 に か 船 泊 て す ら む 安 礼 の 埼 漕 ぎ 廻 み 行 き し 棚 無 し 小 舟 ( 一 ・ 五 八 ) ② は ﹁ ( 大 宝 ) 二 年 壬 寅 太 上 天 皇 幸 干 参 河 国 時 歌 ﹂ の 集 団 詠 中 の 一 首 で 高 市 黒 人 の 作 で あ る 。 三 河 と 近 江 の 差 は あ れ 、 二 句 切 、 第 三 句 に 地 名 、 船 と い う 体 言 止 め 、 と 類 似 し た 構 成 で あ る 。 し か も 囑 目 の 実 景 は 単 な る 客 観 描 写 に 終 ら な い で 、 実 景 に よ っ て 醸 し 出 さ れ る し み じ み と し た 旅 愁 が 歌 わ れ て い る 点 -黒 人 の 持 つ 特 質 と 考 え ら れ る ー が 両 首 に 共 通 に 貫 か れ て い る 。 ① は お そ ら く 高 市 黒 人 の 作 で 、 前 と 同 様 に 不 明 原 本 に 拾 遺 と し て 集 録 さ れ た も の と 考 え ら れ る 。 黒 人 の ﹁ 羅 旅 歌 八 首 ﹂ と の 関 係 は 「 ③ コ ー ② 一1「 ① 一 桜 田 へ 鶴 鳴 き わ た る 年 魚 市 潟 潮 干 に け ら し 鶴 鳴 き わ た る ( 三 ・ 二 七 一 ) 黒 人 年 魚 市 潟 潮 干 に け ら し 知 多 の 浦 に 朝 榜 ぐ 舟 も 沖 に よ る 見 ゆ ( 一 一 六 三 ・ キ リ ヨ 作 ) ︿ 不 明 原 本 V 磯 の 埼 こ ぎ 廻 み ゆ け ば 近 江 の 海 八 十 の 湊 に 鵠 さ は に 鳴 く ( 三 ・ 二 七 三 ) 黒 人 近 江 の 海 水 門 は 八 十 い つ く に か 君 が 舟 泊 て 草 結 び け む ( = 六 九 ・ キ リ ヨ 作 ) ︿ 不 明 原 本 V わ が 船 は 比 良 の 水 門 に こ ぎ 泊 て む 沖 へ な さ か り さ 夜 ふ け に け り ( 三 ・ 二 七 四 ) 黒 人 わ が 舟 は 明 石 の 湖 に こ ぎ 泊 て む 沖 へ な さ か り さ 夜 ふ け に け り ( 一 二 二 九 ・ キ リ ヨ 作 ) ︿ 古 集 ﹀ 第 一 群 は 第 一 句 、 三 句 に 地 名 、 年 魚 市 潟 の 潮 干 。 第 二 群 は 近 江 の 海 の 八 十 の 湊 。 第 三 群 は 単 な る 地 名 の 置 き 換 え 。 型 あ る
い は 想 の 点 で 類 似 の 歌 で あ る 。 各 群 の 歌 は 黒 人 の 歌 の 特 質 と も い え る 旅 の 哀 調 の リ ズ ム で 緊 密 に 連 関 し て い る 感 じ で あ る 。 家 離 り 旅 に し あ れ ぼ 秋 風 の 寒 き 夕 に 雁 鳴 き わ た る ( 一 = ハ 一 ) 大 海 に 嵐 な 吹 き そ し な が 鳥 猪 名 の 湊 に 舟 泊 つ る ま で ( = 八 九 ) 浪 高 し い か に 揖 取 水 鳥 の 浮 寝 や す べ き な ほ や こ ぐ べ き ( 一 二 三 五 ) 静 け く も 峯 に は 波 は 寄 せ け る か こ れ の 屋 通 し 聞 き つ ・ を れ ば ( 一 二 三 七 ) 前 の 二 首 は 不 明 原 本 、 後 の 二 首 は 古 集 に 集 録 さ れ た も の で あ る 。 前 の 二 首 は 風 物 に 沁 み 入 っ た 哀 感 が 素 直 に 歌 わ れ て は い る が 、 一 般 旅 人 の 誰 し も が 抱 く 旅 愁 、 い わ ば 観 念 的 詠 出 の 嫌 い が な い で ば な い 。 後 の 二 首 に な る と 前 に も 引 用 し た さ 夜 ふ け て 夜 中 の 潟 に お ほ ほ し く 呼 び し 舟 人 泊 て に け む か も ( 一 二 二 五 ) と と も に 、 個 人 の 経 験 に 沈 潜 し 、 内 面 的 に 透 徹 し た 哀 感 が 表 出 さ れ て い る 。 し か し 四 首 全 体 に わ た っ て 基 調 を な し て い る も の は 黒 人 的 哀 愁 と リ ズ ム で は な い か と 思 う 。 ﹁ 覇 旅 作 ﹂ の 歌 の 中 に は 、 名 の 失 わ れ た 黒 人 の 歌 が 何 首 か 拾 遺 的 に 集 録 さ れ て い る の で は な い だ ろ う か 。 高 崎 正 秀 氏 も 、 全 般 的 に で は あ る が 、 ﹁ 巻 七 の 不 明 原 本 の 中 に は 黒 人 ら の 家 集 な ど が あ っ 注 16 た の か と 疑 わ し く な る ﹂ と 言 わ れ て い る の に 全 く 同 感 で あ る 。 人 麿 と の 関 係 に は い ろ う 。 印 南 野 は 行 き 過 ぎ ぬ ら し 天 伝 ふ 日 笠 の 浦 に 波 立 て り 見 ゆ ( = 七 八 ・ キ リ ヨ 作 ) は 人 麿 の ﹁ 罵 旅 歌 八 首 ﹂ の 中 の 稲 日 野 も 行 き 過 ぎ が て に 思 へ れ ば 心 恋 し き 加 古 の 島 見 ゆ ( 一一 丁 二 五 三 )
と 同 時 的 の 罵 旅 詠 で 、 地 理 的 に も 前 者 は 後 者 の 次 に 続 く も の と 考 え ら れ る 。 こ れ も 八 首 中 の 拾 遺 作 品 と 推 察 さ れ る 。 網 引 す る 海 人 と や 見 ら む 飽 の 浦 の 清 き 荒 磯 を 見 に 来 し 吾 を ( = 八 七 ・ キ リ ヨ 作 ) 浜 清 み 磯 に わ が 居 れ ば 見 る 人 は 海 人 と か 見 ら む 釣 も せ な く に ( 一 二 〇 四 ・ キ リ ヨ 作 ) 潮 早 み 磯 廻 に 居 れ ば あ さ り す る 海 人 と や 見 ら む 旅 ゆ く 吾 を ( 一 二 三 四 ・ キ リ ヨ 作 ) 第 一 首 は 不 明 原 本 に 属 し ﹁ 柿 本 朝 臣 人 麻 呂 之 歌 集 出 ﹂ の 左 注 が あ り 、 第 二 首 、 第 三 首 は 古 集 に 属 す る も の で あ る 。 三 首 と も さ き の ﹁ 鵬 旅 歌 八 首 ﹂ 中 の あ ら た へ の 藤 江 の 浦 に 鮨 釣 る 白 水 郎 と や み ら む 旅 行 く 吾 を ( ゴ 丁 二 五 二 ) と 類 歌 関 係 に あ る 。 四 首 と も に 旅 の 哀 愁 の 中 に 何 か 明 か る い ひ び き を も っ た 歌 風 で あ る 。 い ず れ が 原 歌 で あ る か は 分 ら な い が 、 当 時 既 に 旅 の 歌 と し て 類 型 化 さ れ て い た も の で あ ろ う 。 若 狭 な る 三 方 の 海 の 浜 清 み い 往 き 還 ら ひ 見 れ ど 飽 か ぬ か も ( 一 七 七 七 ・ キ リ ヨ 作 ) ご れ な ど も 、 吉 野 宮 に 行 幸 の 際 の 人 麿 の 歌 ( 一 二 二 六 ) の 長 歌 に ﹁ ⋮ ⋮ 水 激 ぐ 滝 の 都 は 見 れ ど 飽 か ぬ か も ﹂ と あ り 、 ま た 百 伝 ふ 八 十 の 島 廻 を こ ぎ 来 れ ど 粟 の 小 島 は 見 れ ど 飽 か ぬ か も ( 九 ・ 一 七 一 一 ) ︿ 或 云 柿 本 人 麻 呂 作 V 古 の 賢 し き 人 の 遊 び け む 吉 野 の 川 原 見 れ ど 飽 か ぬ か も ( 九 ・ 一 七 二 五 ) ︿ 人 麻 呂 之 歌 集 出 V 人 麿 作 あ る い は 人 麿 歌 集 に お い て 既 に ﹁ 見 れ ど 飽 か ぬ か も ﹂ と い う 句 は 、 叙 景 歌 へ の 発 展 過 程 に お い て 類 型 化 し て い た も の と 考 え ら れ る 。 古 に あ り け む 人 の 求 め つ つ 衣 に 摺 り け む 真 野 の 榛 原 ( = 六 六 ・ キ リ ヨ 作 )
は 黒 人 の 真 野 の 榛 原 の 歌 ( 三 ・ 二 入 ○ ) と 関 連 性 は あ る が 型 の 上 で は 古 に あ り け む 人 も 吾 が 如 か 妹 に 恋 ひ つ つ 寝 ね か て ず け む ( 四 ・ 四 九 七 ) ︿ 人 麻 呂 V 古 に あ り け む 人 も 吾 が 如 か 三 輪 の 檜 原 に 挿 頭 折 り け む ( 七 ・ = 一 八 ・ 詠 葉 ) ︿ 人 麻 呂 歌 集 ﹀ な ど と 旬 の 上 で 類 歌 関 係 に あ る 。 ﹁ 羅 旅 作 ﹂ と 人 麿 と の 連 関 は 、 黒 人 の 場 合 と ち が っ て 、 多 分 に 外 形 的 な 類 型 に あ る と 言 え よ う 。 夏 麻 引 く 海 上 潟 の 沖 つ 洲 に 鳥 は す だ け ど 君 は 音 も せ ず ( 一 一 七 六 ・ キ リ ヨ 作 )
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夏 麻 引 く 海 上 潟 の 沖 つ 渚 に 船 は ど ど め む さ 夜 ふ け に け り ( 一 四 二 三 二 四 八 ) ( 東 歌 ) 風 早 の 三 穂 の 浦 廻 を こ ぐ 船 の 舟 人 さ わ ぐ 浪 立 つ ら し も ( = 一 二 八 ・ キ リ ヨ 作 )︹
葛 飾 の 真 間 の 浦 廻 を こ ぐ 船 の 舟 人 さ わ ぐ 浪 立 つ ら し も ( 一 四 ・ 三 三 四 九 ) ( 東 歌 ) ﹁ 罵 旅 作 ﹂ の 中 に は こ の よ う に 東 歌 と 類 似 す る 歌 も あ る 。 ま た 遠 く あ り て 雲 居 に 見 ゆ る 妹 が 家 に 早 く 至 ら む 歩 め 黒 駒 ( ↓ 二 七 一 ) ﹁ 罵 旅 作 ﹂ か ら 独 立 し て ﹁ 行 路 ﹂ と 題 し 、 人 麻 呂 歌 集 中 の 歌 で あ る が 、 こ れ も 東 歌 の ま 遠 く の 雲 居 に 見 ゆ る 妹 が 家 に い つ か 至 ら む 歩 め 吾 が 駒 ( 一 四 ・ 三 四 四 一 ) と 類 歌 を な し て い て 民 謡 的 色 彩 が あ る 。 な お ﹁ 羅 旅 作 ﹂ の 最 後 に あ る 人 麻 呂 歌 集 四 首 中 の 君 が た め 浮 沼 の 池 の 菱 採 む と わ が 染 め し 袖 濡 れ に け る か も ( = 一 四 九 ) 妹 が た め 菅 の 実 採 み に 行 き し 吾 山 路 ま ど ひ て 此 の 日 暮 し つ ( 一 二 五 〇 ) 二 首 は 対 を な し て い て 、 男 女 の 贈 答 歌 と み る こ と が で き 、 こ れ も 民 謡 性 の あ る も の で あ る 。 ﹁ 罵 旅 作 ﹂ の 中 の 東 歌 と の 関連 、 民 謡 的 要 素 も 見 逃 せ な い も の で あ る 。 人 麿 や 黒 人 、 赤 人 の 歌 と ﹁ 羅 旅 作 ﹂ の 歌 と 、 以 上 の よ う な 交 渉 と 連 関 を も つ こ と は 、 巻 七 の 編 集 当 時 、 こ の 三 人 は 既 に 自 然 歌 人 と し て の 高 い 評 価 が な さ れ て い た の で は な い か と 考 え る 。 羅 旅 詠 が 個 人 の 経 験 を 通 し て 、 自 然 観 照 の 度 を 深 め て ゆ く 傾 向 に あ る 時 、 そ し て そ れ が 文 芸 と し て 意 識 す る 段 階 に 立 っ た 時 、 ﹁ 罵 旅 作 ﹂ 九 十 首 の 集 録 が 行 な わ れ た も の と 考 え る の で あ る 。 桜 花 咲 き か も 散 る と 見 る ま で に 誰 か も こ こ に 見 え て 散 り ゆ く ( 一 二 ・ 三 一 二 九 ) ﹁ 罵 旅 発 思 ﹂ 五 十 三 首 中 の も の で あ る 。 挽 歌 的 発 想 と も 見 ら れ る が 、 旅 先 で 出 逢 う 、 集 散 離 合 の は か な さ を 桜 の 花 に 喩 え 注 17 た も の で あ る 。 旅 に 人 生 の 無 常 を 観 じ て い る と こ ろ に 、 既 に 旅 に 詩 を 発 見 す る 機 運 が ひ そ ん で い る 。 こ の 歌 は 人 麻 呂 歌 集 中 の も の で 、 人 麿 作 か 或 は 同 時 代 の 作 品 と み ら れ る 。 人 麿 の 従 駕 作 品 は さ き の 分 類 の A ㈲ の 項 に お い て 最 右 翼 的 存 在 で あ る 。 と こ ろ が 一 方 に こ の よ う な 観 念 も 並 存 す る 。 こ こ で 考 え ら れ る こ と は 、 万 葉 人 に と っ て 旅 の 体 験 は 最 初 か ら 個 人 的 感 情 の 深 奥 に 触 れ る も の で あ っ た と い う こ と で あ る 。 そ れ が さ き に も 述 べ た よ う に 、 中 国 大 陸 の 詩 の 分 類 法 の 影 響 や ら 、 或 は 我 が 国 自 体 の 国 家 体 制 の も と で 、 歌 が 宮 廷 中 心 に 、 歴 史 的 に 記 録 的 に 取 扱 わ れ た た め に 、 行 幸 ・ 従 駕 と い う 形 で 表 出 さ れ た の で あ る 。 そ れ が 文 学 的 自 覚 に 目 覚 め る と と も に 、 さ き に 試 み た 分 類 の A ㈲ 1 耐 r ㈲ 、 B 團 、 ㈲ と い う 過 程 を た ど り 、 つ い に 鵬 旅 詠 の 独 立 と な っ て あ ら わ れ る 。 一 方 に お い て は 四 季 詠 の 独 立 と も な っ て く る 。 四 季 詠 の そ れ は 巻 八 の 部 分 け と な り 、 羅 旅 詠 の そ れ は 人 麿 、 黒 人 、 赤 人 た ち の 罵 旅 歌 の 群 作 、 さ ら に は 巻 七 の ﹁ 覇 旅 作 ﹂ 巻 十 二 の ﹁ 羅 旅 発 思 ﹂ の 一 群 と な っ て あ ら わ れ る 。 巻 七 の ﹁ 鵬 旅 作 ﹂ の 発 現 は 、 罵 旅 詠 か ら 、 全 く 行 幸 ・ 従 駕 の 観 念 を 払 拭 し て 、 詩 と し て 旅 を 見 直
そ う と す る も の で 、 初 期 万 葉 と 後 期 万 葉 を 分 つ 分 水 嶺 の 一 つ を な す も の と 考 え る の で あ る 。 ( 四 二 ・ 九 ・ = 二 ) 1 注 1 こ の 分 類 の 方 法 ば 、 久 米 常 民 著 ﹁ 万 葉 集 の 訥 詠 歌 ﹂ 中 の 〃 万 葉 の 従 駕 作 品 と そ の 諦 詠 " に 負 う と こ ろ が あ る 。 し か し 基 本 線 は 自 ら 異 る も の で あ る 。 注 2 高 崎 正 秀 ﹁ 高 市 黒 人 ﹂ (万 葉 集 大 成 9 作 家 研 究 編 ) 注 3 万 葉 集 注 釈 巻 第 一 注 4 注 1 と 同 じ 著 書 。 注 5 同 前 注 6 同 前 注 7 古 集 と 古 歌 集 を 同 一 視 す る 説 が あ る が 、 加 藤 順 氏 ﹁ 無 名 作 家 集 の 性 格 ﹂ ( 万 葉 集 大 成 10 作 家 研 究 篇 ) に 従 っ て 、 別 の も の と す る 立 場 を と る 。 注 8 続 日 本 紀 ﹁ 聖 武 天 皇 神 亀 三 年 ﹂ ﹁ 冬 十 月 辛 亥 行 幸 播 磨 国 印 南 野 。 甲 寅 至 印 南 野 邑 美 頓 宮 。 ・⋮ -癸 亥 行 還 至 難 波 宮 ロ 注 9 伊 藤 博 ﹁ 題 詞 の 権 威 i 旅 の 歌 の 一 解 釈 ﹂ ( ﹁ 万 葉 ﹂ 五 十 号 。 ) 注 10 扇 畑 忠 雄 ﹁ 万 葉 の 連 作 ﹂ ( ﹁ 万 葉 ﹂ 六 十 号 ) 注 11 森 本 治 吉 ﹁ 万 葉 集 巻 七 考 ﹂ ( ﹁ 国 語 と 国 文 学 ﹂ 四 巻 八 号 ) 注 12 注 7 と 同 じ 著 書 注 13 注 11 と 同 じ 論 文 注 14 巻 七 詠 物 歌 の 中 で ( 一 〇 七 五 ・ 詠 月 ) ( 一 〇 七 八 ・ 詠 月 ) ( 一 〇 八 五 ・ 詠 月 ) ( 一 〇 九 一 ・ 詠 雨 ) ( 一 = 二 ・ 詠 草 ) ( = 二 九 ・ 詠 倭 琴 ) の 如 き は 相 聞 歌 と み ら れ る 。 注 15 篠 原 一 三 ﹁ 巻 七 論 ﹂ (万 葉 集 講 座 編 纂 研 究 篇 ) 注 16 高 崎 正 秀 ﹁ 高 市 黒 人 ﹂ (万 葉 集 大 成 9 作 家 研 究 篇 ) 注 17 沢 潟 久 孝 博 士 ﹁ 万 葉 集 注 釈 巻 第 十 二 ﹂