テイラー・システムと労務管理
進
藤
勝
美
序 労務管理は経営における労務者を対象として発展してきた経営管理の一分野である。それは﹁物財﹂を対象とする他の 管理諸分野とは異なり、生理的・心理的・社会的存在としての複雑な全体である﹁人聞﹂︵げ餌旨暫昌 ぴ①一.、σQ・︶を対象とするも のであるえめ、経営管理のなかでも最も困難な分野とされており、また最もおくれて発達した分野である。いうまでもな く今日の発達した経営管理は、すべて歴史的な所産に他ならない。而してその一環としての労務管理も勿論その例外たり 得るものではない。従ってわれわれは、労務管理がどのような問題を有し、また何故にその発達が遅れたのであるかとい うことを考究する場合、労務管理の歴史的な発展過程を無視することはできない。 このような見地からわれわれはこの小論において、アメリカの管理運動の創始考として有名なテイラー︵国.薯’円餌覧貴 →c。 W⊥2α.︶の科学的管理法︵ω。δ暮窪。自碧薦Φ目①暮︶を取り上げ、その労務管理論に対する歴史的意義について考えてみた い。 テイラー・システムが労働の能率化において劃期的な意義を有するものであるということは異論のないところであるが テイラー・システムと労務管理 三九テイラー・システムと労務管理 四〇 それが労務管理の生成発展に直接的な関連を有するものといえるかどうかについては、論者によって意見が異っている。 細部に亘る論議は別として、簡単にこれを肯定する見地に立つものと、否定する見地に立つものとの二つとすることがで きよう。而してこのような見解の相違は、一方においては、労務管理をどのように規定するかという労務管理そのものの 本質に関する見解の相違からくる場合と、他方、テイラー・システムをどのように理解するかというテイラー・システム の解釈の相違からくる場合の二つの場合が考えられよう。 以下この点を考慮しつつテイラー・システムの労務管理論的意義について考察しよう。 ①労務管理という用語は、わが国にカいては未だ統 されて用いられていないか、ここでは一般的な用法に従って、労務者を対象と する管理に限定し、職員を対象とする人事管理と区別しで用いることとする。 ② テイラー・システム︵日㊤鴇霞の唄召・三野︶は、 ここではテイラーの創始し提案したる管理制度そのものを指すものと解.し、単に科学 的管理法という場合と区別する。 ︵清水唱著、経営能率の原理、一七五一一七六頁参照︶。 ニ テイラー・システムと経営労務 テイラーが科学的管理法において取り上げた経営労務の問題が、半世紀を継てた今日、企業経営が労務管理の分野で取 り上げている問題と比べて、外見的に著るしい栢違のあることは当然であろう。今日の労務管理は、経営管理組織における スクソフ部門の職能とされており、労務者の具体的な作業活動の管理には直接にはタッチしない。従って逆にいえば、作業 の直接的な管理を除いたその他の労務者の問題が、一般に認められている広い意味の労務管理の分野ということができる であろう。而して機能的には、①雇傭︵。・畠民雲量q号絃馨昌け︶、②教育訓練︵ω貯。器曾胃9熟読巳昌㈹︶、③維持︵・舜罫蟻壁8︶ ④調書菩基・曇ω︶の四つに分つことができよ ・①勿論テイラーの時代では・経営窺模も小さく・経営鐘の組織も
未だ十分に近代化されていなかったのであるから、テイライの科学的管理法では、右に掲げたような体系的な展開がみら れなかったのも当然である。然しわれわれがここで問題としているのは、テイラー・システムと労務管理の組織的近代化 との関連の問題ではない。テイラー・システムの具体的内容が、労務管理論的意義を有するか否かの問題である。 さてテイラー・システムと労務管理の生成発展との関連を明かにするには、まつ労務管理の対象としての経営労務者の 性格を明かにしなければならない。ところで経営における労務者は、一方においては、作.業活動の執行と直接つながる﹁労 働力﹂︵導自。暑。・︶としての側面と、他方においては生活主体としての﹁労働者﹂︵H讐。器媛︶としての側面の二つの側面 を有するものと考えられる。前者が経営労務者の機能的側面を示すものであるのに対し、後者は一の労働者としての幸福 な生活の問題に関連する。勿論両者は一の全体としての労務者のそれぞれの一面にすぎない。﹁労働力﹂は畳叩体的には作 業活動として現われるが、その作業活動を可能にするものは、結局入間それ自体である。従って﹁労働力﹂を単に現象的 な作業活動そのものとして直接に取り上げる丈では、真の意味における﹁労働力﹂の能率的利用は望み得ないものといわ なければならない。﹁労働力﹂の能率的利用の問題は、﹁労働力﹂をそのもととなる人聞そのものとの関連において、す なわち真の人的要素︵げ扇臣即口 閏騨OけO目︶の問題として取り上げるのでなければならない。他方生活主体としての﹁労働者﹂の 問題は、﹁生活﹂の側面からする人間としての労務者の問題である。すなわち﹁生活﹂も入聞それ自体の一表現といえよ う。然し乍らそれは﹁労働力﹂の具体的表現に比べてより全人的な表現として理解することができる。それは一個の人闇 としての幸福な生活そのものを問題とする。而も労務者の職場における生活は、この幸福な生活と切り離し得ない重要な 部分︵H暮①空比良詳︶をなしているのである。かくして﹁労働力﹂も﹁労働者﹂も、結局は一の全体としての経営労務者の 一側面に他ならない。従って両者は有機的な関連において理解さるべきである。労務考の生活主体としての側面を無視 しては、永続性のある﹁労働力﹂の能率的利用は困難であるし、また能率的な﹁労働力﹂の発揮を伴わずしては、経営の テイラー・システムと労務管理 四一
テイラー・システムと労務管理 四二 構成員としての労務者の幸福な生活も期待し得るものではないことを銘記しなければならない。 かくして経営管理の一分野としての労務管理は、具体的作業活動に必要な労働力を調達し、維持し、発展せしめること を目的とする﹁労働力﹂の管理と、作業活動に直接の関連をもたない﹁労働者﹂の生活の維持向上の問題を対象とする ﹁労働者﹂の管理の二つを包摂するものでなければならない。 産業革命を契機として展開された近代資本主義社会においては、資本家は当初労務者の提供する﹁労働力﹂の利用のみ を問題とし、﹁労働者﹂としての生活的側面には何ら顧慮を払わなかったのである。低賃金と長時間労働によって特徴づ けられる当時の労働事情は正しくこれを物語っている。ここに社会問題としての﹁労働者問題﹂の発生した根本理由が存 在していたのである。而してこの低賃金と長時闇労働による﹁労働力﹂利用は、その後の社会政策的諸立法と、これに応 ずる企業の管理方式の進歩によって徐々に改善されたのであるが、それも結局﹁労働力﹂の利用にとっては堂号的な意義 しか有しない労働時聞の短縮や賃金制の改善以上にでるものではなかった。 直接﹁労働力﹂の利用そのものを問題としてその能率化を試みたのは、正しくテイラーを以て薦矢とする。すなわち経 営における﹁労働力﹂の利用の問題は、テイラーの科学的管理法を転機として、賃金制の改善や労働時間の短縮などの間 接的な刺戟による能率化の段階から、直接的な﹁労働力﹂そのものの合理的な利用による能率化の段階へと飛躍的な発展 をみるに至ったのである。 テイラー・システムの本質は﹁課業理念﹂︵a9胆評 一qΦ四︶にある。而して﹁労働力﹂の能率的利用を可能ならしめたのは、 ﹁課業理念﹂の具体的表現である﹁課業管理﹂︵要論巳寒露Φ巨Φ暮︶にあるといえよう。すなわち﹁時闇研究の方法によっ て個々の労務者の行う作業につき標準課業を設定し、これを基礎として経営を管理し統制せんとする考へ方は、彼の管理 制度の特質をなすものであって、他のそれまでの管理制度とまったく相違せるところのものであった﹂
従ってわれわれの当面の問題であるテイラf・システムの労務管理論的意義は、﹁課業理念﹂にもとつく﹁課業管理﹂ を中心として考察せられねばならない。而して﹁課業管理﹂は、時間研究・動作研究にもとつく標準課業の設定の問題 と、それの執行を確保する管理の問題の二つの側面から考察せられねばならない。而してテイラー・システムの労務管理 論的意義に関する考察は、主として後者に関係することは明かである。 課業の執行が﹁労働力﹂の具体的発現にもとつくことはいうまでもない。然し乍らテイラー・システムにおける﹁課業 管理﹂が、客観的な科学的事実としての作業活動のみを対象とするものであるならば、それは所謂作業管理の分野に属 し、人的要素としての労務者を対象とする労務管理との関連は考え得られないものとなろう。勿論テイラー・システムが 経営管理における作業管理の生成発展に、大きな貢献をもたらしたものであることは疑い得ないところである。然し乍ら テイラー・システムの意義は、果してそれだけにとどまるものであろうか。 課業の遂行は具体的な作業活動によって可能である。而してその作業活動を可能とするのは、結局人聞それ自体に他な らない。かくして課業の管理には、具体的な作業の管理だけにとどまらず、人的要素としての﹁労働力﹂の調達、維持、 発展に関する管理も無視し得ないものとなろう。かくしてテイラー・システムにおける経営労務の問題は、単に作.業管理 的側面からのみでなく、労働力管理の面からも考察を加えられなければならない。 次に﹁労働者﹂管理の見地からみたテイラη・システムの意義はどのように解すべきであろうか。テイラーは単に労働 の能率化のみを目的とし、労働者の生活の問題を等閑に附していたというのは当らない。彼は労働者の生活の維持向上を 工努管理に不可欠の要件と考えておったのである。然し乍らテイラーの管理方式においては、﹁高い労働能率に対する高 賃金の保証﹂というにとどまり、労働能率と直接の関連をもたない生活の問題は全く取扱われていないのである。すなわ ちわれわれの考える﹁労働者管理﹂が、テイラー・システムにおいては全然展開されていないといわなければならない。 テイラー・システム叱労務管理 四三
テイラτ・システムと労務管理 四四 従って﹁労働力﹂の管理を労務管理の分野から除いて、純粋に生活主体としての労働者的側面のみを労務管理の対象とす る見地に立つ人にとっては、テイラー・システムの労務管理論的意義ということは、全く問題にならないだろう。 以上によって明かなように、テイラー・システムにおける経営労務の問題は、①作業管理的側面からと、②労働力管理 的側面からとはそ.の意義が認め得られるものと考えるが、③労働者管理的側面からは問題とならないといえよう。かくし てテイラー・システムの労務管理論的意義は、労務管理一般としてではなく、その一分野である労働力管理の側面に限局 して考察せざるを得ないこととなる。従ってテイラー・システムの労務管理論的意義は,これを肯定して、テイラー・シ ステムに労働力管理の先騙としての意義を認めうるとの主張と、これを否定して、作業管理的側面に限局して理解せらる べきものとの・王張の二つが考えられよう。 ①ドオーアーテイは調整を維持の機能に含めているが、ワトキンスらは教育訓練を維持の磯能に含めて調整の機能を別に独立の分野 として設定している。 ︵O■切●U騨燭σ蔓げ巨岩、ご帥ぴ。辱勺さぴざ8営b雨露ぎきH脂漏砂貯図’お至も●紹9や℃﹁①酌G。∼⊂Dω0●Q●oQ.名9巴易琶q 勺・b・U。幽臼噌げ①寓窒躍Φ目①口腔饒ご。げ霞切9象ざ易■おω。。・葛匡翼”嵩︶ここでは調整の機能を、人間関係︵ぽ肖白暫降 同O一騨⇔一〇昌︶、労 使関係︵≦o爵胃1①日三〇網霞器冨叶一〇冨︶を対象とする分野と考える。 ②藻利教授、経営労務管理、一九五一年、第二章、五人事管理の課題参照。 ③テイラー・システムの本質に関する諸家の見解については、清水唱著、﹁経営能率の原理﹂昭和二+四年、第七章参照。 ④清水氏、前掲書、↓九〇頁 ⑤乙二で作業管理というのは、狭義における生産管理、すなわち﹁製造活動ないし、現場の作業四域のみを対象とする管理を意昧す る。﹂笛木教授、 ﹁経営管理論﹂昭和二十九年、一二八頁参照。 三 テイラー・システムに関する二つの見解
テイラー・システムの労務管理論的意義を肯定する見地に立つものは、テイラー・システムにおける﹁課業管理﹂が、 単に作業管理の発展に先駆的な意義を有するというにとどまらず、人的要素としての特質を有する労働力を対象とする労 務管理の発展にも、大きな寄与をなしたものであると主張する。 然し乍らテイラーの後継者達は、これをさらに広く解して、単に労働力の管理の面においてのみでなく、労務管理の全 般にも適用し得る竜のとしている。例えばパースン︵HH■の響 H︾O弓のO降︶編纂の﹁米国産業における科学的管理法﹂では、﹁テイ ラーは産業経営の門戸を科学に対して解放することによって、生産の専門的技術を改革しただけでなく、われわれが現在 労務管理及労使関係︵う。曇嘗9爵量σq。塁曇霞孟ぎ費ω写芭益註。昌ω︶の概念の下に考えている諸問題の全領域へ、科学の方法 (叶 ーO 目PO酔国O創確 Oぬ ωO帥①昌OO︶を適用する途を準備してくれた。﹂と述べて、テイラーの労務管理への貢献を強調している。然し 彼らがテイラーの功績を高く評価して、ややもすれば拡張解釈に陥りがちであったということも忘れてはならない。例えば フアークァー︵閏.国■聞霞書ゴ胃︶は、ハント編⋮纂の﹁テイラー以後の科学的管理法﹂︵の9聲茸陣。冒㊤β凋2きβ♂㌍汐8弓費話自。象零q ξ国﹄.国ζ暮.お撃.︶のなかで、入試要素の管理へのオリヂナルな貢献︵桑箒昌尊8ゴ豊び鼻ざ巨︶として、①冒q賃馨菖筥℃銘8 ②霞σqげ奢轟①■③孚暑霞薯巳含㈹国。霞。・。 ④Q自象試。塁。雨芝旦口耳國。一包巴8霞①国里毎碧創笥①一7σ。言㈹。南夢① 考。隠㊤ ⑤酸①︸①。ぎ戸中震お㊤巳弓邑巳績■⑥写。①望ε諏。二鼠三9餌一門同旨響く舞昌○薯・詳卓巳身協。﹃b穿導8昏曇. ⑦國①天象8。b子器。尾口⇔寡。<舞⑧0・営彗鑑08需曇ざβ餌弓師○。象量琴①曽鼠ぎ象b鵬。馬の。8葺ざの八つを羅列的にあ げているが、これらのすべてがテイラー・システムの本質と、必然的な関連を有するものであるかどうかは疑問である。 殊に調整機能に属する①⑥⑧の項目については、問題である。われわれは拡張解釈に陥ることなく、あくまでも、テイラ ー・システムの中心をなす課業管理をもとにして、次の二つの見解をとりあげその意義を明かにしたい。 e 肯定的見解 ここでは次の二つの立場から、それぞれテイラー・システムの労務管理論的意義を肯定する見解につ テイラー・システムと労務管理 四五
テイラー・システムと労務管理 四六 いて一瞥しよう。 励 人聞工学的労働力管理の見地からその意義を認め得るとする見解。 労働力管理は生理的、心理的特性を有する入的要素としての﹁労働力﹂を対象とするものである。而してそれは労働 科学の発展をもととする﹁人間工学﹂︵ぎ日置窪聡器㊦匡巨σq︶として特徴づけられる。すなわち﹁労働ヵ﹂の効果的な利用 は、﹁労働力﹂の入的要素としての特質を前提としてのみ可能となるからである。、テイラー・システムの意義を、人聞 工学的見地から肯定しうるとするものは、テイラー・システムが人間工学的労働力管理の先駆として、大きな意味を有 するものであるというにある。 テイラー・システムでは﹁人聞性﹂への配慮を欠いていると、罰点而も極めて概念的にいわれている。然し乍らいう ところの﹁人間性﹂が、人的要素としての﹁労働力﹂を意味するものとすれば、﹁テイラーは、労働力の根本に横たわ ③ る人間性を等閑に附したのではなく、熟心に研究しようとしたのである。﹂と暉峻博士は主張される。勿論テイラーに、 今日の進んだ労働科学にみられる﹁人陽性﹂の認識を求めるのは無理なことである。従ってこの意味において﹁人間性﹂ が欠けているという批判が生ずるのは当然である。然し乍ら問題は、テイラー・システムに進んだ人間工学的な管理方 式そのものを求めることよりも、寧ろそれが人間工学的労働力管理の生成発展に、どのような関連を有するかというに ある。暉峻博士はテイラー・システムが、 ﹁産業界に対して入間労働に深甚な注意を払うべきことの必要を確認させ、 労働の合理化並に労働の合理的組織について積極的関心を誘起せしめ、同時に﹃労働科学﹄の発達、すなわち一層に科 学的な基礎に立つ満塁の労働力の培育、選択、その最良の発揚のための諸原則の樹立、労働者の疲労の本性とその防止 についての科学的研究の進歩を促がす動因をなしたという功績ぱ、これを認めねばならない。﹂と述べておられる。 すなわちテイラー・システムにおける課業の管理は、決して本質的に人的要因の介入を拒否しようとするものではな
く、却って人的要素の特質に関する知識を導入することによって、より精練化せられるものといえる。すなわち課業管 理の基礎をなしている標準概念は、単に﹁労働力﹂の具体的発現である作業遂行の分野にのみ限局せらる、、へきものでは なく、﹁労働力﹂の人間的側面へも拡充適用せらるうるものである。而もテイラー・システムには、すでに疲労研究 (扇Qσq.き。。ε身︶や適性検査などの、人聞工学的管理方式がとりあげられ.ていることを忘れてはならない。 ㈲ 課業管理そのものに、労働力管理的側面が存在するとの見解 この見解をとるものとして、われわれはウイスラー︵名﹁ 名一〇慶。ロ一①胃︶をあげることができよう。ウイスラーは、テイラー ・システムにおける﹁唯一最善の作業方法﹂︵芸。8。び①。・⇔三塁︶と﹁一流の労務者﹂︵さ・守こ・けみ奮。・旨き︶の概念を非常に 重視する。前者は﹁生産機構のゆるす範園内で、最大の生産量を確保する方法を意味し﹂、後者は﹁これらの目標を 達成するに最も適している作業者をいうのである。﹂而してこれら両者の統合によって、﹁使用者は奴隷的酷使︵巳器霞 爵く巨σq︶に頼ることなしに、雇い入れた個々の労務者から、最大の生産量を得ることができる﹂と。かくしてウイスラ ーは、テイラー・システムが労務者の管理に科学の方法を導入する機縁となったのは、後者すなわち﹁一流の労務者﹂ の概念に他ならないと考える。ウイスラーは、﹁ここにこそ︵一流労務者の問題をさす︶広範な、労務管理に随伴するあら ゆる事項︵窟守袋①導餌ぎ︶一職務分析、雇用明細書、採用テスト及び合理的且公正なものとして設定され生産基準に到 達するための、刺戟的賃金制、罰、訓練、友好関係促進計画などの複雑な一体1の発生した源泉︵hO訂昌叶9一β冒O窪幽︶が存 在する。﹂と述べている。 かくしてテイラー・システムにおける管理者︵具体的には主として職長︶は、﹁最善の作.業方法﹂と﹁一流労務者﹂とを 統合する中心的地位を与えられることとなる。すなわち管理者は、作業活動そのものの管理と、入的要素としての労務 者の管理の二つの側面を担当する。而してこれら両者は、経営規模の拡大と、組織の近代化に伴って、機能的に分化し、 テイラー・システムと労務管理 . 四七
第一図
テイラー・システムと労務管理 労働力管理←一一→作業管理 〈/’撃撃沿鼈黷? 作 業労働力
一流の労務者←一一一→最善の作業方法 ,四入 前者は作業管理へと発展し、後者は労務管理へと発展すると考える︵第一図︶。 周知の如くテイラー・システムにおいては、職長の業務は八つに分割されて、 各汝専門の業務を担当する。ウイスラーはそのなかで、﹁訓練係﹂︵ωぎ。身。r 要ロ豊導︶の任務を重視し、それと﹁一流の労務者﹂と結びついて近代労務管 理へと発展したものと理解す.る。ウイスラーはこの関係を作業管理的側面と区 ゆ 別して第二図のように表示している。 ウイスラーがテイラー・システムの作業管理的側面と労務管理的側面を区別 して、その歴史的意義を明かにしている点は注目さるべきである。然し乍らウ イスラーのいう労務管理は、われわれが労働力管理とよぶものに他ならないこ とは注意しなければならない。 ファークァーも、テイラー・システムにおける﹁訓練係﹂の意義をウイスラーの如く解して次のように述、、へている。 ﹁..∪ぎぎぎ胃冨暁、という適切を欠いた名称を与えられた当初の教育訓練係職長︵民笹轟=霧電da8節=。洋琴睾︶から出発 して、それは今日、近代的な機能的労務部門︵日&①暮費白蓮謬言・。山国暑ξ婁uε霧ぎΦ畔︶r−人事部門、勤労部門、雇 傭部門など色女の名称で知られている一へと発展している。﹂と。 以上はテイラー・システムの労務管理論的意義を肯定する見解である。われわれは次にこれを否定する見解について 述べよう。 目 否定的見解 この見地に立つ論者は、テイラー・システムが﹁労働の機械化﹂を志向し、 ﹁労働力﹂の目的要素と しての特質を無視するものであると主張する。このような見解を有する学者として、ワトキンスら︵ρω.薯山江易睾創勺.第 二 “the one “tl皿e and !1十 motion stud: ” best way l i I Iabor budgeting (作業管理) 図 “the first Taylor shop l,十 “diseiDL linarianrate man l l i Personnel rnanagernent (労務管理) ﹁労働者﹂の生活の問題と並んで、 も、その人的側面の無視し得ないことはいうまでもない。 適用し得るものでないことは注意しなければならない。 一般性を有するものではないのである。 面についてのみあてはまることであり、 テイラー・システムと労務管理 映u。建︶やグオーアーテイ︵○.國■u雪讐霞身︶をあげることができる。 ワトキンスらによれば、 ﹁テイラリズムは人事科学︵辻占。・。蒙㊤。・。δ琴①︶の見地からすれば、入的要素 の固有の管理よりも寧ろ物財の管理︵窮摩自餐鼠巨異①風巴ω︶にカをおいているので適切なものではなかっ た。﹂﹁専門的労務管理は、産業経営におけるこれらの無視せられた人力︵夢①山鳥器。ひ巴げ臼舜昌ま・。①の︶ の管理を第一の目標として発展して来たものである。すなわちそれは、単に所期の程度の能率をあげる 丈でなく、雇傭関係の全計画において均衡がとれていること︵窪。鷲Φ<箪き8。馬①ρ三叶嘱︶をも保証する程 度の、機械的要素と入間的要素との問の調整︵OOO弓動ごP卯叶一〇口 ぴΦけ嵩O①昌 ]βOO財即日一〇即一 四昌創 げ目目㊤目 ΦH①匿O弓けω︶をつね に目標とするものである。﹂従って﹁専門的な労務関係の管理が、テイラーの科学的管理法の諸原理にそ の起源︵o犀㎎5︶を有するということは認め得ない。﹂というのである。かくしてワトキンスらは、テイラ ー・システムに求め得ない入的要素の固有の管理の起源を各種の﹁福祉計画﹂︵︼PqbPΦ居O目。ロ 碕①一団9同① ωOげ㊦琶Φ卯︶ に求める。 いうまでもなく﹁福祉計画﹂は、コスト︵OO馨︶の問題や生産高の問題とは直接の関連を有しない﹁労 働者﹂の生活の問題それ自体を対象とする管理の分野に属する。然し乍ら既に述べた如く、労務管理は ﹁労働力﹂の能率的利用を問題とするものである。而して﹁労働力﹂の利用において 而し前者における管理の原理や方法が、そのまま直ちに後者に すなわち﹁福祉計画﹂の原理や方法が、労務管理の全般に通ずる ﹁福祉計画﹂が労務管理の起源であるということは、労務管理の労働者管理的側 従ってこのことを以て直ちに、テイラー・システムの労務管理論的意義を全面的 − 四九
テイラー。システムと労務管理 五〇 に否定する根拠となり得るものでないことは明かである。勿論ワトキンスらも、 ﹁福祉活動﹂を以て労務管理のすべてと しているのではない。労務管理は経営における人的要素を対象として、それと技術的要素との調整を要するすべての問題 を処理する﹁入闇工学﹂の科学として確立せるべきであるとしている。然し乍ら、 ﹁福祉活動﹂が彼らの主張する﹁人間 工学﹂の科学とどのような関連を有すべきものであるかについては明かにされていない。われわれはテイラー・システム が、 ﹁労働者﹂の生活を直接の対象とする福祉管理の分野において欠けるものであることを否定することはできない。然 し乍らテイラー・システムは﹁人聞工学﹂の科学に対しては、正に先騙的な意義を有するものであると考える。ワトキン スらはこの点についても否定的ではあるが、そこには入罷工学的見地からのテイラー・システムに対する明確な批判は看 取せられない。この点に関しては、ダオーアーテイの見解がより明確である。 の ダオーアーテイは、テイラー.システムと労務管理とのアプローチ︵9鷲鶏魯︶の相遠を指摘し、両者が本質的に異なれ る方向を志向するものであると主張している。ダオーアーテイは次のように述べている。 ﹁科学的管理法は生産に関連する。⋮⋮⋮生産は綜合的な過程であるけれども、技術的側面と人間的側面︵爵。け。魯巨。鎮 鶏。きq爵Φ穿白目邑。︶とを有するものであることが理解されよう。而して科学的管理法のアプローチは、技術的もしく は工学的な見地からのアプローチ︵日直8島馬唇舅爵Φ§巨一語霞㊦白雲Φ①爵σ・.旦暮亀誌雪︶である。⋮⋮労務管理は主とし て人的要素を取扱うものである。両者は生産過程における能率︵。霞9箋団営爵①隠。含。ぎ昌鷲。。①ω。・︶という同一の問題、す なわち最少の努力を以て最大の生産量をあげるという問題に対する異なれるアプローチであるというにすぎない。﹂従っ て﹁労務管理は科学的管理法にとって替る︵活葛留Φ︶ものではなく、それにある物︵の。8Φけ三献︶を附加するものである。﹂ と述べている。 すなわちダオーアーテイの見解は、テイラー・システムのアプローチが、物技術的アプローチであって、人的要素を対
象とする労働力管理のアプローチとは、 立って次のように述べておられる。 明確に区別せらるべきものであるというのである。藻利教授もこれと同じ見地に ﹁科学的管理は、それが固有の意味において、⋮⋮⋮テイラ1のいわゆる﹁時間研究﹂の方法においてのみ労働力を取りあげるので あるが、それは正に、物的生産力に対処するのと同一の方法を、意味するのであり、したがってそれは、人間労働力に関して物理的方 法を適用し、そこに物理的原理の妥当領域を求めようとするものだと言うのほかないことが注意されなければならない⋮⋮⋮ところ が、入事管理は、このような物理的方法によって労働力を処理することの非を強調する。﹂ かくして人事管理は、人ヵの特質を前提として、その最高能率の発揮をもとめる﹁人閤工学﹂として特質づけることが 出来ると主張しておられる。 h , 最後にわれわれは、テイラー・システムに対する労働組合側の反対について簡単に考察しよう。周知の如く彼らの反対 は、テイラー.システムについての誤解や偏見にもとつく面が少なくなかったのであるが、然しそのなかで、テイラー・ システムが組合否定主義︵置け学§ざ巳。。日︶であるという非難は、テイラー・システムの労務管理論的意義を考察するのに、 無視し得ない意義を有するものと考える。すなわち労務管理の生成発展には、労働組合の発展が重要な関連を有しており、 殊に労使関係の管理は、労働組合の存在を前提とせずには、考え得ない分野である。而るにテイラー・システムにおいて は、自から労働者を保護するものであるから、労務者保護のための労働組合の存在の必要はないとしているのである。勿 論このような態度は、経営民主化という経営管理の本来の方向に逆行するものであり、ここにテイラー・システムの限界 があるといえよう。 以上われわれは、テイラー・システムの労務管理論的意義について、労働力管理の側面からこれを肯定する見解と、否 定する見解についての大体を述べた。われわれはテイラー・システムが単に物技術的な管理に限局せらるべきものではな テイラ下・システムと労務管理 五一
テイラー・システムと労務管理 五二 く、 ﹁人間工学﹂の科学として発展すべき繭芽を有するものと考える。従って近代労務管理の先駆を﹁課業管理﹂のなか に求めるウイスラーの見解は当を得たものといえよう。然し乍らテイラー・システムにおいては、労務者を一の生活主体 として、直接彼らの幸福な生活そのものを目的とする管理の分.野が考慮せられていないことは既に述、、へた如くである。従 ってこの領域に関する限り、近代労務管理の起源をテイラー・システムに求めることが出来ないのは当然である。組合否 定主義と並んでこの点に近代労務管理の先駆としてのテイラー・システムの限界が存在すると考える。次にテイラー.シ ステムの具体的内容について、労務管理論的見地から検討を加え、その意義と限界を明かにしたい。 ① 日餌覧自ω。臥9ざ。Ω92同け聾。巨塑β印毬日。暮ぼト白二一魯βHβ側目貯ざ 一鴇q⊃・ワ轟Nプ ② 国●国.自口導、の9Φ暮匡⇔冨餌昌潔の日㊦暮ωぎ8日一二。づ 一跨轟・℃も・⊆。⑩∼鳶. ③④ 労働科学研究所編、労働科学辞典、昭和二十五年、三二二頁。 ⑤⑥⑦ 名●嗣奮霞やヒd諺融①ω卜臼βぎ蓉轟ぎp6ωごマω一。。・ ⑧この図はウイラーが.竜駕巨ぐ書。。..計器①。日毎昌。隔ω。δ昌試hぎ旨黒蝿。旨Φ暮窪創密亀hω葛ぎ㎝身として掲げてあるものの一部であ る。 ︵名置。。ざぴOb.O銃やωGo一︶ . ⑨ 口q暮、暑.島叶・b・至・ ⑩⑪ 司箕旺易き幽∪。監噛ε.臥け.b・轟。。’ ⑫司㊤騒塁餌監︼︶。象、。や。一け.O鍔窟霞H● ⑬U砦讐霞多8●舞.弓も■㎝①の∼野9 ⑭∪磐σqげ霞§・や葺●や切の#. ⑮藻利教授、経営労務管理、一九五一年、一一六i一一七頁、ここに﹁人事管理﹂というのは、人力ないし労働力、したがって作業 機能担当者ないし作業者の取得、改善および保全を中心課題とする管理の分野を意味しておられる。 ︵全書一二八頁参照︶。 ⑯国松豊氏、科学的管理法綱要、大正一五年、四三七頁。
四テイラー・システムの労務管理論的考察 テイラー・システムにおける管理制度の基本原理は、有名な﹁管理の四大原理﹂に要約せられる。すなわち次の通りで ある。 一、労務者の仕事の各要素について科学を発展せしめ、古い伝習的方法︵同謡一①一Oh一け財q目Pび 巳P①けげO魁︶と置きかえる。 二、労務者を科学的に選択し訓練し教育し発展せしめる。 三、発展せしめた科、学の諸原理に応じて総ての仕事がなされるように管理者と労務者が心から協働する。 四、仕事と責任が管理者と労務との問で殆んど均等に分割せられる。 而してこれらの諸原理は、テイラー・システムの基本をなしている課業理念の具体的実施原理をなすものである。すな わち課業理念の具体的表現としての課業管理の実施原理として理解されよう。 課業は﹁適当な一日の仕事量﹂ ︵岱 b目Ob①国.q暫関.6慶 名O房冒︶を意味する。而して課業の決定は正しく管理の第]歩であり、且 課業はまた管理の最終目標でもある。而して課業は、時間研究にもとつく作業の科学によって直接的には決定せられるの であるが、然しそのためには、それに関連するす、、へての物的、人的諸要素の標準化をも前提としなければならない。すな わちテイラー・システムにおける課業管理は、また勲臣−化の原理を以て貫かれているものともいえる。 ところでこのような標準化を指導原理とするテイラーの課業管理は、労務管理的観点からすれば、どのように理解さる べきであろうか。前述の如く、労務管理の任務は機能的に区分すると、①雇傭、②訓練、③維持、④調整の四つに分つこ とができる。而してテイラーの管理方式を、これら四つの分野との関連において形式的に列挙するならば、凡そ次のよう になろう。 テイラー・システムと労務管理 五三
テイラー・システムと労務管理 五四
①雇傭i科学的な労務者の選択。
② 訓練一科学的な労務者の訓練と教育。 ③維持i高賃金、適当な労働時聞。 ④ 調整i管理者と労務者との心からの協働。 勿論、このような分類は極めて便宜的なものであり、真の両者の関連は具体的内容の検討を侯ってはじめて明かとなろ う。すなわちテイラー・システムにみられるこれらの命題は、形式的には一応労務管理の領域に属するものである。これ らは、作業活動そのものを対象とする管理の分野ではなく、作業活動に必要な労働力の調達維持発展に関係する分野であ る。然し乍らこのような問題は、何もテイラー・システムに始まったものではなくテイラー以前にも存在し処理せられて 来たものである。而して特にこれらの問題がテイラー・システムとの関連において取り上げられる所以は、テイラ・シス テムが、これらの聞題に科学の方法を導入した最初のものであったからである。この意味においてテイラーは、科学的な 労働力管理の創始者であるといえよう。従ってテイラー・システムの労務管理論的考察は、結局テイラー・システムが近 代的な科学的労働力管理に対して、どれ程の先駆的な意義を有するものであるかを明かにすることでなければならない。 テイラー・システムにおける標準化の原理が、今日の労務管理に与えた影響の大なる分野として、われわれは何よりも まつ職務分析︵軸。びき巴蕩陣ω︶に関連するいくつかの分野を挙げることができよう。 職務分析の労務管理における重要性については、特に贅言を要しないだろう。小高教授は、 ﹁科学的な人事管理は、職 務分析を根拠とするか否かにかかる。﹂と極言しておられる。而してテイラーの時間研究やギルブレスの動作研究が、今日 の職務分析の発達の基礎となっていることもまた殆んど異論のない所である。勿論テイラーの時間研究は、主として賃率 の決定を目標とした作業活動の時間形態の分析を主とし、今日のような広範な領域に百⋮る職務分析とは非常な距離のあることはいうまでもない。すなわち職務分析は、職務に関連するあらゆる人的、物的要件の分析を前提とするものであり、 結局職務の量的、質的な標準化を目的とする。然し乍らテイラー・システムにおいては、時間研究にもとつく仕事の量的 標準化にすぎずそこにテイラー・システムの限界がある。 テイラーの時間研究が、賃率の決定と密接に関連するように、今日の労務管理における職務分析は、賃金制の最も進ん だ形態とされている職階給制の基礎をなしている。職階給制がテイラーの唱えた科学的管理法に端を発しているといわれ る所以はここにある。賃金管理は、﹁労働力﹂の能率的利用と、﹁労働者﹂の生活の維持向上に関連する労務管理固有の 領域に属する。而してテイラーの差別導出来高給制︵融雨雲Φ畔邑窟Φ。雫轟酔Φ。・甥言日︶が、合理的な賃金管理の発展に劃期的な 意義を有するものであることを忘れてはならない。すなわち従来の労務者個汝人の努力と工夫のみに頼っていた能率奨励 的賃金管理に対して、テイラー・システムにおいては、科学的に決定された課業の管理の一環として賃金の問題が取りあ げられているのである。 今日の職階給制は、簡単にいえばテイラーの課業に比すべき職階付けされた職務が、賃金給与と結びついた形態という ことができよう。すなわち職階給制は、科学的管理法における能率給の発展的形態として生れたものである。然し乍ら両 者は標準化原理の適用領域において著るしい差異を有する。テイラー・システムにおいては時聞研究による課業の量的標 ⋮準化にとどまるのであるが、職務分析においては、職務の質的標準化にも及ぶのである。従ってテイラー.システムにお いては、賃金が﹁入に支払わるべきで、地位に対して支払わるべきでない。﹂とされているのに対し、職階給制において は人と職務を切り離して、職務に応じた合理的な報酬を決定することを目標としているのである。ここに賃金管理からみ たテイラー・システムの]つの限界が存在する。 科学的な労務者の選択もまたテイラーの標準化原理の現れの一つである。テイラーは時聞研究による作業能力の測定に テイラ可・システムと労務管理 五五
テイラー・システムと労務管理 五六 よって、一流の労務者を選択しようと意図している。然し乍ら具体的な作業の観察にもとつく労務者の選択は、今日の進 歩した採用管理に比べて、極めて幼稚であり、その適用領域も限局されているといわなければならない。真に科学的な労 務者の選択においては、現実の作業能力に加えて潜在的な、より根源的な能力をも明かにすることが必要である。今日一 般に行われている科学的な適性検査、就中職業適性検査は、その主要なる手段である。然しその初歩的なものが、テイラ 1の自転車の軸承用ボールの検査女工の選択において採用せられていることは注目せられる。それは﹁個人係数法﹂︵も甲 舅色冨巴8−Φ窪霧暮︶と称せられるもので、刺戟に対する反応時間の遅速を測定し、それによって女工の知覚の遅鈍なものと 迅速なものを判別しようとしたのである。すなわち具体的な作業活動において示された能力の測定にとどまらず、それを 可能とした根源的な能力をも明かにしようとした所にその意義が認められよう。然し乍らテイラーの科学的な選択の雇用 管理的意義は、何よりも従来の管理が、賃金刺戟のみに頼る間接的な能ヵの管理たるにとどまっていたのに対して、採用 そのものが、科学的な能力の測定に基づいて行われるべきであるとした点にみられると考える。 雇い入れた労務者の教育訓練は、労務管理の重要な分野である。テイラーは労務者を科学的に訓練し、教育し、発展さ せることを提唱している。それは科学的に設定された課業を、個汝の労務者が達成しうるように、管理者が具体的な作業 活動において指導し忠告し教育することを意味する。テイラーの主張する教育訓練が、管理者から労務者への﹁熟練の移 転﹂︵9き繰霞亀。。匠5として特徴づけられる所以である。従ってテイラー・システムにおいては、管理者︵職長︶の選任 養成が極めて重要な意義を有することとなる。かくしてテイラー・システムにおける教育訓練の問題は、①職長の養成、 ②労務者の教育訓練の二つの分野を有するものといえよう。①はすなわち今日の監督者訓練にも比すべき分野であり、純 粋に労務管理の領域に[属する問題といえよう。而して、②の問題は、所謂﹁訓練係﹂職長によって担当される一般的な意 ⑪ ⑫ 味での労務者の訓育と、現場の四職長によって担当される﹁熟練の移転﹂という意味での教育訓練活動の二つの領域が老
O えられる。テイラーの意図した科学的な教育訓練が、主として後者の問題を志向することは明かである。然し乍らわれわ れは今日の労務管理における監督者訓練の問題が、技術的側面よりも寧ろ人間処理の知識技能を重視していることを理解 するならば、﹁訓練係﹂職長の任務のいかに重要であるかが自から明かとなろう。 企業経営は労務者を雇入れ訓練するにとどまらず、さらに彼らを適切に維持してゆかなければならない。労務管理職能 のなかで﹁維持﹂に関する分野は極めて広範多岐に亘っているが、テイラー・システムにおいては、この分野に関連する 問題として﹁適切な労働時間﹂と賃金制の二つの問題がみられるに過ぎない。テイラーはいくつかの実験において、作業 時間の長さとその配置の問題、特に疲労と休息時間の挿入との関連を明かにしている。勿論今日の労働時間は、単に疲労 と能率の関係といったような単純な問題ではなく、量的質的な多くの問題を含むものであるが、唯、テイラーの時代にお いてはそれが主として社会問題としての労働時間の問題であったことを理解するならば、テイラーが疲労と能率との関連 において、すなわち労働力維持と能率との関連において、この問題をとりあげていることは注目すべきことであるといわ ねぽならない。 以上テイラー・システムにおける労働力の管理を、近代労務管理との関連において一瞥した。テイラー・システムの労 務管理論的意義は、何よりも標準化の原理を労働力の管理の分野にも導入し、労働ヵの調達、維持、発展に科学の方法を 導入し、科学的な労働力管理への途を開いた点にある。而してテイラーにおける﹁一流の労務者﹂は、その具体的な表現 に他ならない。 一流の労務者を選択すること、 一流の労務者へと訓育すること、 一流の労務者を基準として賃金を定める こと、これがテイラー・システムにおける労働力管理の要点であった。それは正しく人間工学への第一歩と称し得るもの である。唯テイラー・システムにおいては、時闇研究にもとつく人間能力の量的測定にとどまり、より広範な労働力の科 学的研究にもとつく、質的な測定が展開されていない。ここにテイラー・システムの基本的な限界が存在するといわなけ
テイラー・システムと労務管理 五七
テイラー・システムと労務管理 五八 ればならない。 最後にテイラー・システムの協働原理について簡単に触れておこう。テイラーの協働原理も、精神革命︵暮募普器邑〒 ぎ閏︶の主張も、結局は課業理念によって貫かれているものと考える。すはわち科学への協働、課業遂行への労使の協働 を意図するものに他ならない。勿論今日の経営管理においても、テイラーの主張する科学への協働がなお極めて重要な問 題であることを否定することは出来ない。然し乍らそれを可能とするには、単に賃金制の改善のみを以て足るものではな く、より民主的な労使関係の確立を基本的な前提としなければならない。 ①国.奢●日麟胤貫国ぽ。邑Φ。・。隔。。塞洋匡。冒諺薦Φ目。β﹃6ご嘲亨8. ② 日帥覧。き書・9け.℃・σω・課業は﹁一流の労務者﹂を標準として決定されるQすなわち、 守自留摂.。・葛。涛㎞。周塑睦鵠79器ω目餌量 爵①び①馨一網.。。名。穿窪箕遠目9口8巳q鷺。唱繋ぐqρヤ。胃言餌属創翼Φ鴛。露一−と述べているQ ︵。や9営b・♂︶ ③ 労務管理の具体的業務とこれらの諸機能との関係は簡単には決定し得ない。ワトキンスらは教育訓練を維持機能の中に含めている し、ドオーアーテイは蛍使関係の調整を維持の機能と考えている。 ︵O・國・∪髄昌σq懸鯛ざ。b・臥げ・bも・爲。。∼①ωP零鉾鉱霧餌醒創Uoq9 暑■・罫騒暮署︶ ④小高泰雄教授稿冒§︵人間︶i経営学における人の閥題、=九頁、︵平井泰太郎氏編、経営七M所収︶ ⑤藤田忠稿q魯の鐙身の現状、エコノミアW・2参照 ⑥ 中川俊一郎、労務管理の基礎知識、昭和二六年 二六九頁以下、林泰、経営と人事、昭和二九年 六i七頁、参照 ⑦日鍔回80Ω。。§ざ8●。諜.や。。. ⑨具体的な例としては、銑鉄運搬作業︵官爵け。§冨⇔臼融σq︶の実験や、ショベル作業︵誓。奉罠謁︶の実験の記述に見られる。︵弓午 覧。き箕ぽ鼠覧①ω鴇覧も■轟P∼ミ.サ㎝①︶ ⑨冨胤。ぴ。や鼻曾bら’紹∼⑩弁 ⑩ρ撃Φ峯自璽日ぎ℃臣。塗。づ身。由宕窪謬馨Φ暮℃6撃■やあ9 ⑪ 訓練係は、労務者が年令に従わぬ場合、不謹愼、遅刻、無断欠勤などの際、それらのものに適当な指導を加え、また賃金の問題に 0
も関係する。 ⑫σ身9夷び。舞。。隠巴げ自幹一昌・・葛簿○び話葛甘ぎ。・ψの四人の職長を指す、シェルトンは彼らを古い意味での職長というよりも寧ろ教 師であると述べているQ ︵oα冨︸餌。崇。や9け■b■一。。一・︶ ⑬ 維持職能に属するものとして、作業条件の管理、厚生福祉管理、賃金管理が考えられる。 五 結 び 以上われわれはテイラー・システムと近代労務管理との関連について考えてみた。近代労務管理の成立の時期は、テイ ラーが﹁科学的管理法の諸原理﹂を発表した一九一一年から十一〇年を経過した一九二〇年頃とされている。それは第一 時大戦時における急迫せる労働事情や、軍の人事業務の発展などに刺戟されて、急速に展開されたものである。然しわれ われは、近代労務管理の繭芽は別に存在しており、それが右のような特殊事情を契機として急速に統合発展せしめられた ものであることを見逃してはならないと考える。 われわれは近代労務管理の起源を、①ロバート、オーエン︵國。び㊦鼻○白窪︶らの博愛的な資本家によって実施せられた諸 種の﹁福祉計画﹂と、②テイラーによって展開せられた科学的な管理制度に求めることが出来よう。而して前者は、﹁労 働者﹂の生活を対象とする厚生福祉管理へと発展し、後者は、﹁労働力﹂の能率的利用を志向する科学的な労働力管理へ と発展したものといえよう。 福祉計画が近代労務管理に導入され、それが一般的に採用されるようになった所以は、主として当時の激化せる労働攻 勢を緩和して、利潤の低下を防止し、資本の擁護を図ろうとするにあった。他方テイラー・システムの普及は、労働能率 の増大によるコストの引下げが可能であるという一般の認識にもとつくものであった。かくして福祉計画を起源とする労 働者管理と、テイラー・システムを起源とする科学的労働力管理を統合して、近代労務管理へと発展せしめたのは、正し テイラー・ジステムと労務管理 五九
テイラー・システムと労務管理 六〇 く企業の営利原⋮則に他ならないのである。 近代労務管理における労働力管理は、人間工学的労働力管理として特徴づけられよう。それは労働科学の発達を侯って 発展したものである。而して人間工学的労働力管理は、労働力の能率的利用を志向するものであるが、それは決して人間 努力の増大を前提とするものではなく、却って人間努力の一定に対する能率の増大、もしくは、能率の一定に対する人聞 努力の減少をもたらすべきものなのである。そのためにこそ物的諸条件の科学的合理化と並んで、人的要素としての労働 力の科学的な管理が必要とせられるのである。而してテイラー・システムにおける労働力の管理も、根本においては決し て入間努力の増大のみを前提とするものではないことを注意しなければならない。然し乍らテイラー・システムと近代的 な労働力管理との間に非常な距離があることもまた否めない事実である。テイラー・システムを先駆とする近代的な科学 的労働ヵ管理が、どのような性格を有し、どのような内容のものであるかについては、さらに改めて考察を加えたい。 鴨