白鴎大学発達科学部論集第3巻第1号
研究ノート
ブルグミュラー
「25の練習曲op.100」について一
今田政成
AStudyonMusicplayedwithBurgmUller
IMADAMasanari
はじめに
ブルグミュラーのこの作品は、彼が45歳の年1851年に作曲されたもので す。ピアノの導入教材(バイエル・バーナム等)を終了した人達が勉強す るのが、この作品です。本学でも音楽実技1のピアノ基礎授業でもグルー プ教材の一つとして、とりあげています。一曲ごとにタイトルが付いてい て、言葉がもたらすイメージは、演奏する人にとって大きな助けとなり、 音楽をどのようにして豊かなものに色づけるか、その訓練をさせてくれる からです。 r25の練習曲」は、形式が美しく、とても構成力があり、自然な和声で、 標題に合う伴奏形もあります。形式が古典的なのでドイツ音楽のいいとこ ろがあり、またフランス音楽のおしゃれなところもあります。作曲家ブルグミュラーについて
ドイツのレーゲンスブルグで生まれ、26歳のときにパリに渡り、マロー ル・ザン・ウルポア村のボーリューで亡ぐなりました。本格的な作品とし てはバレエ音楽「ペリ」があるが、ピアノ教育用の小品op.100,105,109 で知られています。パリではサロン音楽家、教育者として活躍しました。 ヨーロッパではブルグミュラーといえば父のヨハン・アウグスト・フラン ッ、もしくは弟のノルベルトを指します。日本では、ピアノ学習者のバイ ブル的存在r25の練習曲op.100」の作曲家としてあまりに有名です。長 年にわたるその人気が示すとおり、op。100は丹精で無駄のないテクニッ クと情感豊かな表現力を要求し、ピアノ教育史において重要な功績をはた しています。RichardBimbach版タイトルー覧
ドイツでも最も古くからある出版社のタイトルはすべてドイツ語です。 その下に英語とフランス語タイトルがあるのですが、なんとそのフランス 語はブルグミュラー自身が付けたフランス語タイトルと異なっています。 原語タイトノレ (フランス語)RB版
フランス言吾 ドイツ語RB版 RB版英言吾 全音版1.LaCandeur Prelude Einleitung Introduction すなおな心 2.Arabesque Arabesque Arabeske Arabesque アラベスク
3.Pastorale Pastorale Hirtenlied Pastoral ノ宝ストラル(牧歌) 4.PetiteReunion Jeujoyeux HeiteresSpie1 Merryplay 小さなつどい 5.Innocence Gaiete Frohsinn Joyfulness 無邪気 6.Progres Progres Fortschritt ProgreSS 進歩
ブルグミュラー 7.CourantlimpedeAuruisseau murmurant Amrieselnde Bach BythedpPling brook 清らかな小川
8.LaGracieuse Grace Anmut Charm 優しく美しく
9.LaChasse Lachasse DieJagd Thechase 狩(かり)
10.TendreFleur Tendrefleur ZarteBlume Tendernower やさしい花
11.LaBergeromette bergeronnetteLa DieBachstelze Thewag−tai1 せきれい
12.Adieu Adieu Abschied Farewe11 別れ
13.Consolation Consolation Trost Consolation コンソレーション
(なぐさめ)
14.LaStyrienne LaStyrienne Steirisch Styrian シュタイヤー舞曲
(アルプス地方の踊り〉
15.Ballde Ballade Ballade Ballde ノ将ラード
16.DoucePlainte Meditation Emste
Gedanken Meditation ちょっとした悲しみ
17.Babillarde Babillage PlapPemlaulchen Chatter−box おしゃべりさん
18.Inquietude Inquietude Unruhe Discomfort 気がかり
1日.AveMaria AveMaria AveMaria AveMaria アヴェマリア
20.Tarentelle Tarentelle Tarantelle Tarentelle タランテラ
21.Hamoniedes
Anges
Voixangeliques Engelstimmen Angelvoices 天使の合口昌 22.Barcarolle Barcarolle Gondellied Barcarole ノ鴬レカローフレ(舟歌)
23.Retour Retour Heimke㎞・ Retuminghome 再会
24.L,Hirondelle L,hirondelle DieSchwalbe Theswallow つばめ
25.LaChevaleresque PromenadeaChevalde
damenoble Des Edelfrauleins Ritt Thenobel damse1,s ride 乗馬
いろいろな日本語訳について
タイトルの原語はフランス語ですが、日本で出版されている楽譜は15種 類以上あります。フランス語から日本語への訳がついていますが、驚くこ とにこの日本語訳のタイトルは、実に様々なバリエーションをもっていま す。 たくさんの出版社が「25の練習曲」を出版していて、それぞれが別個の 邦題を付けています。rやさしい花」やrせきれい」など、ほとんどどの 版も変わらない曲もありますが、なかには一見しただけでは同じ曲とは思 えないほどの違った日本語があてられた作品もあります。日本で出版され ている楽譜のタイトルの違いを調べてみました。LLLL生乳LLL臥L41111
L島3生臥硫乳亀甑n且皿
すなおな心2.素直な心3。あどけなさ4.素直
アラベスク2.からくさもよう牧歌2.パストラール3.パストラル4.牧場のうた
こどもの集会2.こどものパーティー3.こども会
子供たちのつどい5.子供のパーティー6.小さなつどい
子供の集会8.小さな集会無邪気2.むじゃき
進歩2.前進
清い流れ2.静かな小川の流れ3.小川4.清らかな小川
清いながれ6.澄みきった流れ7.きれいな流れ
優美2.うつくしく3.きれいなやさしさ
優しく美しく5.優雅な人狩猟2.狩り3.狩4.狩りのうた
やさしい花2.かわいい花 せきれいさようなら2.別れ3.お別れ
ブルグミュラー
13.1.なぐさめ2.コンソレーション 14.1.スティリアの女2.スティリアンヌ 3.シュタイヤ地方のおどり(アルプスのおどり)4.スチリヤのおどり5.シシリアのワルツ
6.シュタイヤー舞曲(アルプス地方の踊り)7.スチリヤ舞曲
15.1.バラード2.ふしぎなおはなし16.1.小さな嘆き2.かわいい嘆き3.小さな悲しみ
4.ちょっとした悲しみ5.甘えた嘆き6.ちょっぴり不満
7.あまいなげき
17.1.おしゃべり2.おしゃべりな人3.おしゃべりさん4.おしゃべり好き5.小鳥のおしゃべり6.おしゃべり娘
18.工.心配2.不安3.しんぱい4.気がかり
19.1.アベマリア2.アベ・マリア3.アヴェ・マリア
20.1.タランテラ2.タランテラ舞曲
21.1.天使の声2.天使たちの歌声3.天使の合唱
4.天使のしらべ5.天使たちの合唱
22.1.舟歌2.バルかローレ
23.1.帰途2.帰り道3.家に帰って4.かえりみち5.家路
6.再会7。帰郷
24.1.つばめ2.つばめのちゅうがえり25.1.貴婦人の乗馬2.お嬢様の乗馬3.お姫さまの馬乗り
4.お姫さまの乗馬5.乗馬6.きどった乗馬7.乗馬ごっこ
8.令嬢の乗馬
上記のように1つのタイトルに統一されているのは、11番のせきれいのみ であった。タイトルの違いの多いのは7番・14番・25番であった。曲の解説と分析
2番アラベスク
「アラベスク」は唐草模様。「アラベスク」とは、建築様式や装飾に見 られるアラビア風デザインのことです。華麗で繊細な曲線を組み合わせた 唐草模様を思い浮かべます。 音楽では、細かい音型がちりばめられた、技巧的でありながらも幻想的 な作品に、このタイトルが使われています。ヨーロッパの人々にとってア ラビア風というエキゾチックな言葉は、とても魅力的であったに違いあり ません。このアラベスクという模様の感じを音楽に初めて取り込んだのが シューマンです。ブルグミュラー
L’a,rabesque
アラベスク
__曲(脚擦榊!
』ρ柔工看1&班く0姻ひヂ加くa:エエ破す勧薩ぐ
∼
・▽工
ノh一「r
番2(
72
>o
︵. 5. 戸 > プ1篇ワし /で7〉, /て⊇’ 835
韓 飢 §誘f
■● 一葦C1鳩帯ヱー嚇
譲工
1323
125
零G
>診終(ひ
ノで;ト, d肱2poω rα鳳い雫墾
3
●●の23ユi
一堰
Y ・特32
巧 工四、婦イ、〆i嘱,.互レク、
彗 刃. .c㍑εc・ μ・塵ε>
融解、いり∫
幽一ざ … ↑Φ一杉
工礁んど可
26rr一/イ
響
お
ゾ巧
濫・乱撤軸
ダeεα凋 ㍗撫隻勧に
∫る殊
工 工剛癌工
卵鰹誘t鰍
3番牧歌
r牧歌」とは、牧場で働く人たち(牧童)が歌う歌、あるいはその人た ちや農場で働く人たち(農夫)の生活を歌った歌や詩のことを言います。 全体を通して角笛のメロディーでできていることがわかります。牧場の感 じを描くためにブルグミュラーは角笛のメロディを使っています。左手の 伴奏のリズムは「ゆっくりではあるが確実に進む、時の流れ」を描いてい ます。マーチのように弾かないほうがよい。15∼16小節のdim7は、緊張 感のあるコードで厳しい感じを表現するのにようく使われます。24小節目 には、IV度の和音が使われています。IV度の和音は、曲の終わりのほうで 使われるときには、r充実感」とかr満足感」を表現するときに使われま す。ブルグミュラー
Lapastorale
顛臆甑)パストラル(牧歌〉魏勲・
6:起一緯お麹一
/急が争
き
き
王とGl疏一紅一鋤一一
152τ蜘1く毒
A’3’4’.’42・38
き
一一一一一一一葡功1(御㎞
じ
砺一謡卿飾75‘塵ゴ▽エー一
き
き
r一争」鴫工一予工一
5縫 /喬刃竹尋28
22バ
…㈱α蘇スノ
一J
一
一
乖
工Lrピ.
り規㌔
iD;び巧
1θ菟. 5. 生4 4 8 昼蝋礁ウtく錐1釦腔
彰、 ・農↓7』!
7、π!
丁一
,ハー2 巷τ 2篇 3τV7i尺うψσ/1
20 4.、多髭
{工
㈱i徹
乞霧≦
…一
w一一
晦8
ユし
㌃ブ,
3
婁つ紳卿離
25523i
ン;芸壁
糠,
‘8書
,㌧
6POCO繍
迎 帰fゴでガ
6番進歩
最初のところは、右手と左手のメロディーが3度の幅で同じ方向に動い ています。1回目は意志を持って、2回目はさらに気持ちを入れて表現し ます。8小節目では、2つの立場が協力しながら進歩に向かっていく姿を 描いていて達成感が表現されています。9小節目からは、右手は手をはっ きり上げて、きつめの音で弾き、左手は鍵盤に近い位置からやわらかい音 で弾いてみるのがよい。ブルグミュラー
︶ザ
i甥㌃プ,エ$証’、
丁←ヨごらごひ
輪,獅藷川掴議婁.デ
羅魅,囲“鱒η痴
∼譲,エ、髄,.酬、垂㍉サ,.箋工
融な熟麟iρ51−エ2:サ
♂払て33−3●を
㎜5レ士に員伽2岳>13
妃実畑拶・自鼠助,群
側意、勿弓−.塔聲・ー粥
曲ρ⋮、σ喜.∵き鐘巧≧,口,緬
き8,へ2エ縛篭菟5μを可3P・巧
ぢ ∪1乙u 畿な, i 夢 重i52−2
烹 ρ 意実 もクてそ1て 一さら1嶺施 息 翻 良 鵡 … i8士324
5 5 巧 5一
婦宛宛
契ウ弧む・初ウ’( ・o_多 ダ「ゲ・2響皇
属2・>るこ
〆「・/「’
>
㌃、蘇、翻、(需勢璽蝦
篭 5㎡
童52
君15
2ユ往一 2{28
ノ辮
毬σ騰e
7番清らかな小川
最初の右手の形は、指の先で無理に鍵盤を拾いにいかず、手の重さの移 動だけで音を拾っていくとよい。曲は、1度とV度の和音だけでIV度の和 音がありません。海に向かって流れ続けていく小川の「ひたすらな気持ち」 を表現しています。右手の和音が変化しているのに対して、左手は同じ音 になっているのは、r大自然の悠久性」を表現しています。左手の弾き方 は、静かななかに「あたたかい力強さ」を表現するとよいのでは。 「現実」「想像」「現実」という3部構成になっています。弾き方の中に、 r音色の変化」やrテンポの変化」等を表現するとよいのでは。ブノレグミュラー
}
き
き
7
6 1 i 2 一i 2「一乱 2憂巫甲
驚 ま筋8 《 塑融。rmσrεπd。釈の州 crεsα (.①工
Lecourantlimpi(ie
清らカ・な4、ノ旺
Allegrovivace(」椰132∼138) 4 5 ま 玉 t 2 i52琶42 生 重 4伽肋. 即 creεc. 工 一2 な9 5 4 2 2 7 全2
5蕉 3 F翫εP
Ore8c.又
嬬 で丁イ
T 証}
き
編
引
工紳編
以 η 8 8 4 8 3 4 3 d伽. ρ 鳥工▽
£ 5 工誘一嗣
}一璃
一
ひ淑選∫喰琿< D畜σ,α∫Fi舵まとめ
音の出し方、身体の使い方などは、作品の曲の形をきちんと把握できる と自然と身につくものです。自分が音楽をかみくだき、『こう弾きたい』 という感覚を自覚する前に、難しい曲ばかり練習して技術だけを追ってい ると機械的演奏することだけになってしまいます。ブルグミュラーの曲な どで楽しく美しく弾くことに立ち戻させ、自分なりの表現をすることがで きるのは易しい曲だからできることです。ピアノを始めた頃、どうやら弾 けたという程度だったブルグミュラーも数年経ったらいろいろなことを読 み取って充分に美しく弾くことが出来、小さな達成感も持てます。しかし ブルグミュラーがきれいに弾けない人にショパンのノクターンを美しく弾 くことは容易ではないし、ツェルニー30番を完壁にこなせたら、ショパン のエチュードは絶対に弾けます。初歩からきちんと本当の譜読みのノウハ ウ、音楽する心を積み重ねていけば、難解に思える曲も必ず作品の全体像 が見えてくるようになると思います。それが、単に音を並べる演奏のレベ ルから、本当のr作品の素晴らしさを知る』レベルになることの違いでは ないでしょうか。あれもこれもと大曲に手を出すことで、くずれてしまっ たバランス、音楽を丁寧にとらえ表現することのバランスを取り戻すこと ができます。rこう弾きたい』という感覚、なぜその感覚が湧き上がるの かを考えて、次にその感覚を認識へとつなげていきます。感覚から認識へ、 そこには譜読みという作業が浮かび上がります。楽譜を開いた時に見える そうした絵柄を丹念に追っていくことで、静かな曲なのか、元気な曲なの か、楽曲のイメージがわきます。それが「どう弾きたいか」の出発点とも なります。人間の持っている自然な感性に目を向け、細やかに観察し、さ らにそれを楽譜と照らし合わせます。ブルグミュラーの場合、そこに標題 も加わり、「悲しみ」「慈しむような優しい気持ち」といったようなイメー ジも付加することができます。平面である楽譜をどこまで立体に、生きた 音の世界に高めて行かれるかは、演奏家、音楽家に任されているのだと思ブルグミュラー います。そして単なる譜読みに留まらず、ひたすら自分の全身を耳にして、 心に訴えかけてくる様々な暗示を受け止めます。それを聞き手に届けるた めに全身全霊で作品を表現し演奏します。それらをしっかり勉強できるの がブルグミュラーの作品です。今回4曲の解説及び分析ができなかったの で残りの曲を今後の課題として研究していきたい。