ミツバチ科学17(1):14-18 HoneybeeScience(1996)
巣 内換 気 にお け る ニ ホ ン ミツバ チ とセ イ ヨ ウ ミツバ チ
の扇風行動 の比較
ニホ ンミツパテとセイ ヨウ ミツパテは,巣門 付近 での扇風蜂 の定位方 向が逆 といわれて い る.つまりニホ ンミツバチは頭部 を巣の外 に, セイヨウ ミツバチは頭部を巣の中に向けて扇風 す る(Tokuda.1924;岡田,1958;Sakagami, 1960). これ らの扇風蜂 の定位方向の違 いが巣 内気流 の違 いを もた らし, また経験的にいわれ て きたニホ ンミツバチ巣内の湿気 といった巣内 微気象の違 いに も影響 していると した ら興味深 い.残念 なが ら今回 は両者 の関連を明 らかにす ることは出来 なか った ものの,扇風蜂の行動反 応でい くつか興味深 い点 を兄 い出 したので ここ に報告 したい.方法
実験 は1995年 8月∼ 11月 に東京都町田市 玉川学園内の 4か所の蜂場 と,実験室内の観察 巣箱で行 った.観察巣箱 (透明アク リル板製, 図 1) は,通常の ラングス トス型巣板1
枚が丁 度入 る260×480×37cm の気密 な ものを作製 して用 い, 巣箱 下 方 に は屋外 へ通 じる幅37 mm,高 さ 10mm の通路 を設 けた.実験,観察 図1 観察巣箱 の全景生田 文 ・佐々木 正己
は観察巣箱 のあ る実験室 内の温度 を35-40℃ に上 げて行 った. (1)扇風蜂の定位方向および気流の可視化 扇風蜂が巣内で作 り出す気流を扇風蜂の定位 方向により推測 した.観察巣箱表面 にはった透 明 シー トに扇風蜂 の体軸 の向 きを矢 印で記録 し,向 きを角度 と して分類 ・集計 した. また気 流 自体を可視化す るため,舞台や流体力学研究 用の煙霧 を作 るスモーカー (ロスコ社製,図2) による白色気体を用 いた. いったんポ リ袋に貯 めたこの白色煙霧を観察巣箱のアク リル板 に設 けた穴か ら巣坂上 に流 して巣板面の気流を観察 した り (図 3),通路床面 に穴をあけて流 し (図 4),通路内の気流 を観察 した (図5).なお,こ の煙霧 は ミツバチには知覚 されないようで,.扇 風行動への影響 は見 られず,それ以外 の ミツバ チの行動への影響 もない もの と考え られた. (2)光が扇風蜂の定位方向におよぽす影響 夜間,野外 の巣門付近で扇風が盛んに行われ ている状態で,扇風蜂 にペ ンライ トの光 (照射 図 2 ロスコ社製の煙霧発生装置.この煙霧をいった んポリ袋に貯めて実験に用いた3 ら煙霧を注入 して観察 した.この写真で左方向 への気流が見られる (上) 図4 通路を下から見たところ.煙霧はこの7本のチ ューブを通 じて通路内に流される (右上) 図5 通路内に流れ出た煙霧は,気流に乗って,この 写真では左方向に流れている (右下) (中央の3つの穴から煙霧が流れている) 直径約5mmの白色光) をあて,体軸の向 きを 変 えた ものの数 を数 えた. また観察巣箱 において も,赤色光下で通路や 巣板上の扇風蜂 に同様 に細 いペ ンライ トの光を あて,定位方向への影響 を観察 した.照射光へ の定位反応 は
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度間隔 に区切 ってある透明 なプラスチ ック円盤 を巣箱表面 にあてて記録 し た.被検蜂 は典型的な定位方向を示 している扇 風蜂 とし, 体軸 に対 し90度 の角度か ら光 をあ てるように した. (3)まわ りの気流 に対す る扇風蜂の定位反応 セイヨウ ミツバチの観察巣箱 に,床 の一部が 自由に回転で きる通路を接続 した (図 6).そ し て通路で複数の蜂が頭部 を巣内へ向けて扇風 し ている典型的な条件下 で,回転床上 にいる扇風 蜂 を,他 の扇風蜂 た ち とは違 う方 向 に変化 さ せ, その後 の行動 を観察 した.床 の回転 はなる べ く早 く静かに行 うよ うに した. また,巣門付 近 に光 よけを設置 して外界か らの光 を遮 り,通 路での実験 は赤色光下で行 った. (4)二ホ ンミツパテ扇風蜂の行動の追跡 巣門付近 の扇風蜂が巣内部 の状況をどのよ う に確認 しているのか調べ るため,観察巣箱 にお いて扇風蜂 の追跡 を行 った.巣内か ら通路 に扇 風蜂が現れた ら,通路の天井 の一部 を開 け,戻 風蜂の背中に水性 アク リルペイ ントでマークを した. マークした時点でス トップウォッチをス ター トさせ, その後のマーク蜂の行動を時間 と ともに,観察巣箱表面 にはった透明 シー トへ記 録 した.結果および考察
巣門付近 において, ニホ ンミツバチは新鮮 な 空気 を取 り入れる方向で (図7),セイヨウ ミツ バチは逆 に巣箱内の空気 を排出す る方向で換気 を行 っていた (図8).高温 ス トレスをかけたと I'■γ■ I ,>/-. 1 防 紅 イ / ヂ ち D ・・・rI J, a + II
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図6 通常の通路 (左)と回転板がついた通路 (右) 長い棒を回すと回り舞台のように通路の一部が B]転する16 蓑 1 扇風蜂の光への反応性 通路で扇風中の蜂 反応の内容 反応 した数 * 平均移動 平均移動 角度 時間(秒) 単板上で扇風中の蜂 反応 した数 * 平均移動 平均移動 角度 時間(秒) ニホンミツノヾチ 反応な し 11
(
6
1
)
Oo 光に頭部を向ける 7(
3
9
)
300 光に尾部を向ける 0(0) 扇風をやめた 0 (0) セイヨウ ミツバチ 反応な し 0(0) Oo 光に頭部を向ける 2(13) 450 光に尾部を向ける 13(87) 320 扇風をやめた 0(0) 14(±4-30) 6 25(±4-36) 9(75) 002
(
1
7
)
750 1(8) 150 0(0) 20
(74) 001
(4) 3004
(15) 2002
(7) *ペンライ トの光 (照対直径 5mm)を体軸に対して 90度の角度 か ら,扇風中の蜂に照射 した場合 に反応を 示した蜂の数を示す .なお60秒光を照射しても定 位方向の変わらなかった個体を,反応な しとした . ()内は%を示す きの巣箱 の気流 は速 く,特 に通路で は流 した煙 が読 み取 れない こともあ ったが, 白煙 の流れか らも気流 の違 いは確認 された (図 9).ニホ ン ミ ツパテで は巣板上部 を上 に向けて いる扇風蜂 の 割合が比較的高 く, またセイ ヨウ ミツバチで は 巣坂下 の床 で尾部 を通路へ向 けて いる扇風蜂が 多 く見 られた.巣 の中の気流 は,巣門での気流 の向 きのちがいを反映 して両種 でやや異 な って いた (図 10). 換気 をす る上 で巣 の 「内外」 の認識 は重要 で あ る. 外 界 を示 す指標 の一 つ に光 が考 え られ る.夜間野外 の巣門付近 に出て いる扇風蜂 につ いて, セイ ヨウ ミツバ チは光 をあて るとす ぐ反 応 し,多 くの扇風蜂が光 の方向 に尾部 を向 けた のに対 し(68%,∩-133), ニホ ン ミツバ チで は光 への反応 はまった く見 られなか った (0%, 図7 通路で扇風するニホンミツバチ 左側が巣門方向.頭が巣門の方向に向いており, 外の空気が取 り込まれて蜂の後ろ側に流れる n-118).観察巣箱 の通路 では,両種 とも方向 性 は異 なるものの光への反応 を示 し, ニホ ン ミ ツバチは18匹中 7匹が光 へ頭部 を向 けた. し か し通路 で全ての蜂が反応 したセイ ヨウチッパ テに比べて, ニホ ン ミツパ テでは反応 しない も のの方 が多か った (表 1).今回 の実験 か ら巣門 付近 の扇風蜂 につ いて, ニホ ンミツパ テよ りも セイ ヨウチ ッバチの方 が,光 に対す る感受性 が 高 い, あるいは扇風 の定位方 向決定 に光 を利用 している度合 が大 きい ことがわか った. これ は 巣門付近 での扇風 の定位方 向が両種問で逆であ ることに起因す ると思われ る.常 に巣 内か ら排 出 され る空気 をあびてい るセイ ヨウチッバチに もって は,巣外 の指標 を昼 間であれば光 に依存 してお り,逆 に常 に外気 を浴 びている形 のニホ ン ミツバ チにとって は,光 とい う要EElに頼 らな 図8 通路で扇風するセイヨウミツバチ 左側が巣門方向.頭が巣門とは逆 (巣箱)の方 向に向いており,巣箱の中の空気が排出される図9 通路上での扇風蜂が起 こす気流.扇風蜂のすぐ 後ろでは乱流が起きて煙霧の流れが乱れている (図4を対照).なお,写真の上部の穴では逆向 きの気流が生 じているが,気密な巣箱を用いる と,蜂による空気の排出に伴って,新 しい空気 が入り込むため,通路内には2方向の気流が見 られる (セイヨウミツバチ) くとも巣外の認識 は容易であると思われ る. ニ ホ ンミツパテにおいて,通路で外か らの空気 の 流れを遮断 して しまい,外 とは反対側の,つま り,巣の奥の方か らペ ンライ トで光をあてたと ころ,通路で外 を向いて扇風 していた7匹の う ち
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匹が光の方を向いて直ちに扇風 をは じめ た.また他 の3匹は扇風をやめた.扇風蜂 の定 位方向決定の際,光 にあま り依存 していないと 思われたニホ ンミツバチに もこのよ うな反応が み られたのは興味深 い. このように定位方向を 決定す る要寓 はい くつかあ り,様 々な状況でそ れ らの要因を総合 して判断 しているものと思わ れ る.実際,通路で扇風蜂 に光 をあてて も,光 に対 して直ちに反応 したという個体 は少なか っ た. 巣板上 の扇風蜂の光への反応 は両種 とも低か った (表 1).い くつかの要因で定位方向が決 ま るとき,巣坂上では気流の全体的な流れや上部 の熱 い空気が光 よりも優先 されているのではな いだろうか, しか し光 に体軸 の動 きとして反応 しな くて も,光 をあてた側 のア ンテナを光 の方 に向けた り,光 をあてた側 の麺 をやや高 めに上 げるなどの反応がみ られ,光 をかな り意識 して いるように感 じられた. さらに通路内で扇風蜂を回転 させた実験で, ほとん どの蜂が他の扇風蜂 と同 じ方向に定位 し 直 したことか ら (表2),個 々の蜂 は光を指標 と す るそれぞれの判断だけではな く,仲間の作 っ た気流の中で影響 されなが ら定位方向を決定 し ていることがわか る.床 を回転 させ る際, ゆっ くり回転 させ ると扇風蜂 自身がその回転 にあわ せて床 とは逆 の方向に動 き,定位方向が保 たれ るとい うこともあ り,扇風蜂 にとって仲間がす でに作 っている気流 という要因は,定位方向決 定 の上 で大 きさな役割 を果 た しているものと思 われる. また巣門付近の扇風蜂 において,常 に巣内か ら排出され る空気 を浴 びて いるセイヨウ ミツバ チにとっては,巣内の温度,二酸化炭素濃度の 平均的な情報 は常 にモニター可能 である. これ に対 し常 に巣外か らの新鮮 な空気 を浴 び,巣内 の状況 の変化 を感ず ることが困難 と思われるニ ホ ン ミツバチは,巣内の状況の改善 または悪化 といった情報 をどのよ うに確認 しているのであ ろうか?巣板で換気 の必要性 を感 じた蜂がそれ を記憶 して通路で扇風 を行 っているのであろう か? それ とも巣内の情報がなん らかの形で他の 蜂か ら届 られ るのだろうか? 二ホンミツパテ セイヨウミツパテ 図10 ニホンミソバチとセイヨウミツバチの巣箱内 の気流.ニホンミソバチでは新 しい空気が巣 の奥へと送り込まれ,一方のセイヨウミツバ チでは奥から空気を排出しようとする.巣板 面での下降気流は,温度の垂直分布 (上の方 はど暖かくなる)を平均化 して,蜂児圏全体 が適当な温度になるように調節される18 蓑 2 巣門への通路上で頭部 を巣内側に向けて扇風中の蜂 の床を,局所的に蜂 ごと回転 させたときの扇風蜂の 再定位反応 (セイヨウ ミツバチについて) 体軸を90度回転 体軸を180度El転 反応の内容 反応 した数 平均所要秒数 反応 した数 平均所要秒数 再び頭部を巣内へ向けた 16(76) 25(±8-40) 13(87) 48(±23-59) 扇風をやめた 5(24) 12(±8-18) 2(13) 7 (±4-10) 反応な し 0 (0) 0 (0) *実験 は通路での他の扇風蜂 も同様に頭部を巣内へ向けている典型的な条件下で行 った.なお巣門付近には光 よけを設置 し赤色光下で行 った.( )内は%を示す そ こで通 路 での扇風 蜂 の行動 を経 時 的 に追跡 した と ころ, 同 じ蜂 が通 路 と巣板 を 「往復」 し て い る ことがわか った.扇 風 の継続 時間 は長 い もので10分以上 の もの もあ り, また通 路 か ら 巣坂上 に移動 して扇 風 を続 けた個体 もあ った. 巣 内 に戻 ってか らの行動 は,巣板 の両面 を広 く 歩 いた個 体 もあ った し,通 路 との接続 口付近 で あ ま り動 きまわ らず に ア ンテナだ けを動 か して いた個 体 もあ った. 今 回 の実験 は11月 に行 っ たため,通路 で冷 た い外気 を浴 びて いた扇風蜂 が,巣 内部 へ温 ま りに戻 った とい う可能性 も考 え られ ないで はな い. しか しこの よ うな通 路 と 巣板 の 「往復」 は,扇風 蜂 が巣 内 の状況 を時折 確 か め に戻 って い る ことを暗示 して お りきわ め て興 味深 い. ニ ホ ン ミツパ テの扇風 行 動 も, それが分蜂群 が巣 に入 る と きな どで は, 仲 間 を呼 ぶ にあ た っ て,頭部 を巣 内 に向 け,巣 内 の匂 いを外 に出す よ うに行 われ る. この よ うにセ イ ヨウ ミツバ チ と同 じ気 流 を作 れ な い こ とは な い に も関 わ ら ず,通常 の巣 内微 気 象調節 のため に は, あえて 巣 内状 況 の記憶 を要 す るよ うな,高 度 な扇風 行 動 を行 うの はなぜ で あ ろ うか.考 え られ る可 能 性 の ひ とっ と して, スズ メバ チな どの天敵 に対 す る対応 が挙 げ られ る.扇 風 蜂 が巣 門 で頭部 を 巣 へ向 けて い る ことは,敵 を発 見 しやす く し, かつ巣 内 の匂 いを外 部 へ も ら しに くくす る, と い う効果 が あ るので はなか ろ うか. (〒194 町田市玉川学園 6-1-1 玉川大学) 参 考 文 献 生田 文.1995. セイヨウ ミツバチとこホンミツバ チにおける扇風行動 と巣内微気象の比較.玉川大 学農学部卒論. 岡田一次.1958.遺伝 12(7):1477-1481. SakagamiS.F.1960.ActaHymenopteroL 1:
171-198.
Tokuda,Y.1924.Tr.SapporoNat.Hist.Soc.9
(1):1-27.
IKUTA,Ay九 and MASAMISASAKI. Ventilative
fanning ofJapaneseand European honeybees,
APisceranajaponicaRad.and A.miLlifera L. HoneybeeScience(1996)17(1):1411a Laborat o-ry of Entomology, Tamagawa University,
Machida,194Japan.
Differenceinthedirectionofventilativefann
-ing inAPisceranajaponica andA.mellifera.
whichwasfirstpointedoutbyTokuda(1924). wasconfirmedbyvisualizationofairstream in theentrance way oftheair-tightobservation hives,Thin,beam-likesmokemadebyafog/ smoke machine (Rosco 1500)was introduced into beespacesin variouspartsofthehives also,andairstreamsinthehiveswerefoundto be essentially same in the two species. A. melliferlaatthehiveentranceusedtheoutside lightasacuetomakeorientationatleastin daytime,butA.ceranajaponicaseemedt omon-itorfreshair.
IncontrasttothecaseofA.meLlifera,f ann-ingA.cerlanajaponicaathiveentranceisc on-tinuously exposed to outsideairand can not detectstheaircondition (carbonedioxidecon° centration and / orhigh temperature)in the hive. Somefannerswereobserved to return into the comb area during fanning,which seemsto beamonitoring behaviorformicr o-Climaticconditionwithinthehive.